従業員がライバル会社に就職することを防止したい、あるいは、せめて退職した従業員が就職したときは退職金を支払いたくないと考える経営者の方は多いと思います。
では、実際に、従業員がライバル会社に就職した場合に、退職金を支払わないことはできるのでしょうか。
この点が問題になった事件として、東京地方裁判所平成24年1月13日判決をご紹介します。
この事件は外資系保険会社が退職して競合他社に転職した執行役員への退職金を支払わなかったことに対してこの元執行役員が会社に退職金の支払を求めた事件です。
この会社では、従業員との個別の合意書で退職金の支払いや金額をさだめていましたが、その中で、退職後2年間の間に競合他社に転職した時は退職金全額を不支給とすることが定められていました。
会社はこの規定に基づき、この元執行役員の退職金を全額不支給としました。
しかし、裁判所は、この規定について、「労働者の職業選択の自由を不当に害する」として、無効と判断し、この会社に対して退職金全額約3000万円の支払を命じました。
今回は、この判決を踏まえて、退職金の規定や競合会社への転職に対する制限について考えていきたいと思います。
競合他社に転職した従業員について退職金を減額する規定については一律無効となるわけではありません。
個別の事情により有効と判断した裁判例もあり、必ずしも減額あるいは不支給とすることが許されないわけではありません。
しかし、実際の経営にあたっては、裁判所での判決を待たないと、退職金の支払いについて結論が出ないということでは困ります。
会社経営にあたってはどのように対応すればよいでしょうか。
① まず、退職金規定を設けるかどうかについては慎重に検討するべきです。
退職金の不支給といって裁判を起こされるのは退職金規定があるからです。
もちろん、退職金規定があると、従業員が老後の心配をせずに働けるとか、長期的に働くインセンティブになりやすいなどのメリットもあります。
しかし、一方で、退職金規定を一度作ってしまうと、個々の従業員について、会社からみてこの人には支払うのが適切でないと考える場合も、原則として支払をしなければならなくなります。
このことを肝に銘じておくべきです。
退職金規定を作らず、退職にあたっては、会社がそれまでの働きぶりや会社への貢献を評価して退職金の額を決めるという方法もあります。
どちらの方法が貴社にふさわしいかを考えなければなりません。
② 次に、競合他社への転職を制限することについては、その目的がどこにあるかをまず考えなければなりません。
もし、競合が増えるのは困るとか、職場で得た業界についての知識や業務についての経験、つちかった人脈を競合他社で利用されるのは困るということが目的であれば、裁判所ではなかなか正当と認めてもらうことができません。
一方、会社の顧客情報を持ち出されて競合他社の営業に利用されては困るということでしたら、それは正当なことです。
ただ、その場合は、競合他社への転職を制限するのではなく、顧客情報の持ち出しや担当していた顧客に対する契約切り替えの勧誘を制限することにとどめておきましょう。
そうすれば、裁判所でも、従業員の職業選択の自由に対する制限の程度は少なく、制限は有効であると判断してもらいやすくなります。
退職金の問題や競合会社への転職のトラブルでお困りの方はぜひ咲くやこの花法律事務所にご相談ください。一緒にトラブルを解決して、より良い会社を作っていきましょう。
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著者:弁護士 西川 暢春
発売日:2021年10月19日
出版社:株式会社日本法令
ページ数:416ページ
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