「退職者が顧客名簿を持ち出して、以前の担当先に営業をかけている!」
このような顧客情報・顧客名簿の持ち出し、不正使用に関するトラブルでご相談いただくことが増えています。
どこの会社でも顧客名簿は通常は営業秘密として、持ち出しが禁止されています。
しかし、実は、いざ裁判となると、この後記事の中でもご紹介している事例のように「顧客名簿を持ち出された会社側の管理のずさんさ」が問題とされて、会社から持ち出した側に対する損害賠償請求を認めなかった裁判例も多いのです。
これは、「正しい管理をしていなければ営業秘密は保護されない」というルールがあるためです。
今回は、情報持ち出しから会社を守る顧客情報・顧客名簿の正しい管理方法について、ご説明したいと思います。
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今回の記事で書かれている要点(目次)
1,顧客情報・顧客名簿の正しい管理のための基本的な考え方
冒頭で触れたとおり、顧客情報・顧客名簿などの営業秘密については「正しい管理をしていなければ保護されない」というルールが存在します。
そして、実際の裁判例でも、「正しい管理」をしていなかったために、自社の顧客情報・顧客名簿を持ち出されて被害を受けたのに損害賠償請求を認めてもらえなかった事例が多数存在します。
では、「顧客情報・顧客名簿の正しい管理方法」とはどのようなものでしょうか?
その具体的な内容をご説明する前に、まず、その前提となる顧客情報・顧客名簿の正しい管理のための基本的な考え方をご説明しておきたいと思います。
「顧客情報・顧客名簿の正しい管理のための基本的な考え方」は以下の通りです。
『営業秘密として保護されるためには、その情報について秘密にしなければならないことが、従業員や委託先に明確に示されていることが必要である。』
顧客情報・顧客名簿については、会社としては「秘密であり、外部に持ち出しが許されないことは当然」と考えてしまいがちです。
しかし、いざ情報の持ち出しや不正利用のトラブルの際に営業秘密であったことを主張して損害賠償請求等の法的措置をとるためには、「その情報を秘密にしなければならないことが、従業員や委託先に明確に示されていたこと」が必要です。
不正に情報を持ち出した従業員や委託先に対して損害賠償を求めるためには、「持ち出しが禁止される営業秘密であることが明確に示され、持ち出しを禁止されていることを明確に理解していたのに、あえて情報を持ち出したり、不正に利用した」という事情が必要なのです。
この点が顧客情報・顧客名簿の正しい管理のための基本的な考え方になりますので、覚えておきましょう。
2,情報持ち出しから会社を守る顧客情報・顧客名簿の正しい管理方法とは?
では、「顧客情報・顧客名簿の正しい管理のための基本的な考え方」を踏まえたうえで、「情報持ち出しから会社を守る顧客情報・顧客名簿の正しい管理方法」についてご説明したいと思います。
顧客情報・顧客名簿については、主に「紙媒体で保管されている場合」、「データで保管されている場合」、「従業員が記憶している場合」の3つのケースがありますので、これらのケースごとにご説明します。
ケース1:
紙媒体で保管されている顧客情報・顧客名簿の正しい管理方法
紙媒体で保管されている場合も、「基本的な考え方」でご説明した通り、紙媒体で保管されている顧客情報を秘密にしなければならないことが、従業員や委託先に明確に示されていることが必要です。
具体的には以下のいずれかの方法により、秘密にしなければならないことを明確に示すことができます。
1,紙媒体の場合の顧客情報を秘密にしなければならないことを明確に示す方法
- 方法1:個別の文書に「マル秘」などの表示を入れる。
- 方法2:秘密として扱うべき紙媒体をファイルして、ファイルに「マル秘」などの表示を入れる。
- 方法3:顧客情報・顧客名簿を施錠可能なキャビネットや金庫に保管し、閲覧できる人を限定する。
このように、紙媒体で保管されている顧客情報・顧客名簿については、その紙媒体に接する人に対して秘密として保管されていることが明確にわかるような管理をしておかなければ、持ち出しや不正利用があっても法的措置をとることができません。
では、次に顧客情報・顧客名簿がデータで保管されている場合を見ていきましょう。
ケース2:
データで保管されている顧客情報・顧客名簿の正しい管理方法
顧客情報・顧客名簿がデータで保管されている場合も、「基本的な考え方」でご説明した通り、そのデータに接する人に対して、保管された顧客情報を秘密にしなければならないことが明確に示されていることが必要です。
具体的には以下のいずれかの方法により、秘密にしなければならないことを明確に示すことができます。
1,データの場合の顧客情報を秘密にしなければならないことを明確に示す方法
- 方法1:電子ファイル名に秘密である旨を付記する
- 方法2:記録媒体に保管する場合は、記録媒体にマル秘表示を貼り付ける
- 方法3:電子ファイルやフォルダにパスワードを設定する
- 方法4:ドキュメントのヘッダーにマル秘表示を付記する
このように、データで保管されている情報についても、それに接する人に対して秘密にすべき情報かどうかが明確にわかるような方法で管理することが重要です。
では、次に従業員が記憶している顧客情報について見ていきましょう。
ケース3:
従業員が記憶している顧客情報について
従業員が記憶している顧客情報についても、在職中あるいは退職後に不正に利用されたり、無関係の第三者に開示されないように管理しておく必要があります。
そのためには、従業員から「秘密保持誓約書」を取得しておくことが効果的です。
ただし、秘密保持誓約書を作る際は、どの範囲の情報を営業秘密として扱うかを具体的に特定しなければならない点に注意しましょう。
秘密保持誓約書を取得していても、その記載で、どの範囲の情報を営業秘密として扱うかを具体的に特定していなければ、いざ情報の不正な利用や持ち出しがあっても、その情報について秘密にしなければならないことが従業員に明確に示されていたとはいえず、法的な措置をとることが困難になってしまいます。
秘密保持誓約書の記載について、良い例と悪い例をあげると以下の通りです。
1,従業員の秘密保持誓約書の記載例
まず、良い例を見てみましょう。
1.良い例
「次に示される貴社の顧客情報について、貴社の重要な営業秘密であることを認識し、在職中はもちろん、貴社を退職した後においても5年間は、私自身のため、あるいは、他の事業者その他の第三者のために、開示、漏洩、もしくは使用しないことを誓約します。
① 顧客の住所、氏名、連絡先に関する情報
② 貴社と顧客との取引内容、取引価格、取引履歴に関する情報
③ 顧客が貴社との取引のために、貴社に提供した当該顧客に関する一切の情報
④ 以上のほか、貴社が特に秘密保持対象として指定した情報」
このように、具体的にどの範囲の情報を秘密にしなければならない対象とするのかが、従業員からみて明確にわかるように記載しなければなりません。
さらに、顧客だけではなく、見込み顧客のリストもある場合は、見込み顧客に関する情報も、誓約書の対象に含めておくことを検討しましょう。
次に、悪い例を見てみましょう。
2.悪い例
「私は貴社の顧客に関する情報が貴社の重要な営業秘密であることを認識し、在職中はもちろん、貴社を退職した後においても5年間は、私自身のため、あるいは、他の事業者その他の第三者のために、開示、漏洩、もしくは使用しないことを誓約します。」
この例のように、単に「顧客に関する情報が営業秘密である」と記載しているだけでは、具体的にどの範囲の情報を秘密にしなければならないかが、従業員からみて明確にわかる記載となっているとはいえません。
自社の秘密保持誓約書をみて、このような記載になっている場合は、より具体的にどの範囲の情報を秘密にしなければならない対象とするのかが明確になるような内容に修正しておくことが必要です。
秘密保持誓約書について詳しい解説は以下の動画や記事をご覧ください。
▼【動画で解説】西川弁護士が「従業員の秘密保持誓約書について!安易な雛形利用は危険」を詳しく解説中!
3,顧客情報・顧客名簿の管理について就業規則で定めておくべきポイントとは?
さらに、顧客情報・顧客名簿の管理については、就業規則でも以下のような点を定めておくことをお薦めします。
- ポイント1:顧客情報・顧客名簿を会社の許可なく、コピー、スキャン、撮影することを禁止すること
- ポイント2:顧客情報・顧客名簿を会社の許可なく、社外に持ち出すことを禁止すること
- ポイント3:顧客情報・顧客名簿をコピーをした場合は、使用が終わり次第、各従業員の責任でシュレッダーにかけ廃棄すること
- ポイント4:顧客情報・顧客名簿を私用のデバイスに保存することを禁止すること
このように、就業規則で顧客情報・顧客名簿の管理について定めておくことにより、従業員に対して情報の不正使用、持ち出しが許されないことを明確にすることができ、さらに、万が一不正利用、持ち出しがあった場合にも、法的措置をとりやすくなります。
自社の就業規則の規定をチェックし、足りない部分があれば補充しておきましょう。
4,「正しい管理」をしていなかったために顧客情報の保護が認められなかった裁判例
最後に、顧客情報・顧客名簿について、「正しい管理」をしていなかったために、企業の顧客情報の保護が認められなかった裁判例として、2つの事例をご紹介しておきたいと思います。
裁判事例1:
退職者による顧客名簿持ち出しの事例(平成16年4月13日東京地方裁判所判決)
事件の概要
この事件は、派遣会社の従業員が、派遣先をリストアップした顧客名簿を自社から持ち出し、不正利用したケースです。
この従業員は、他の従業員らと一緒に派遣会社を退職して、新しい派遣会社を設立し、持ち出した顧客名簿にリストアップされている派遣先に営業をかけて、顧客を引き抜こうとしました。
そこで、会社は、この従業員らが顧客名簿を不正に持ち出し、会社に損害を与えたとして、従業員らに対して損害賠償等を請求しました。
裁判所の判断
裁判所は、以下の点を指摘して、「顧客名簿が秘密として管理されていたとはいえない」と判断し、会社の請求を認めませんでした。
- ポイント1:顧客名簿の電子データがパスワードなしに保管されていたこと
- ポイント2:携帯電話に顧客情報を入力することも許されていたこと
- ポイント3:顧客情報をプリントした紙媒体についても第三者への開示を禁止する措置はとられていなかったこと
裁判事例2:
委託先による顧客名簿の不正使用の事例(大阪地方裁判所平成16年5月20日判決)
事件の概要
この事件は、エレベーターの設置、保守などを行う会社が、業務を委託先に外注していたところ、委託先が契約終了後に、この会社から提供を受けていた顧客名簿を利用して名簿に掲載されている顧客に営業をかけて、顧客を引き抜いたという事案です。
会社は、委託先が会社から交付された顧客名簿を利用して顧客の引き抜き、勧誘を行ったことは、顧客名簿の不正な利用であるとして、委託先に対して損害賠償を請求しました。
裁判所の判断
この事件でも、裁判所は、以下の点を指摘して、「顧客名簿が秘密として管理されていたとはいえない」と判断し、委託先が顧客名簿を利用して顧客を引き抜いた件についての損害賠償請求を認めませんでした。
ポイント1:
顧客名簿を施錠できる保管場所に置いていたとか、顧客名簿が秘密である旨明示されていたという事実をうかがわせる証拠がないこと
ポイント2:
委託先との契約が終了した後、委託先に対し、顧客名簿が営業秘密に該当する旨述べたり、顧客名簿の廃棄を求めたことをうかがわせる証拠がないこと
これらの2つの裁判事例で、会社が顧客情報・顧客名簿を持ち出されて被害を受けたのに損害賠償請求が認められなかったのは、「顧客情報について正しい管理をしていなかった」ことが原因です。
顧客情報・顧客名簿についてパスワードで閲覧できる人を制限して保管したり、第三者への開示を禁止する措置をとったり、契約が終了したときは廃棄を求めるなど「正しい管理」をしていなければ、裁判所では営業秘密と扱われません。そのため、顧客情報・顧客名簿を不当に持ち出されても、損害賠償請求等を認めてもらうことができないのです。
この点を肝に銘じて、顧客情報・顧客名簿の管理を徹底しましょう。
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7,まとめ
今回は、まず、顧客情報・顧客名簿の正しい管理のための基本的な考え方として、「営業秘密として保護されるためには、その情報について秘密にしなければならないことが、従業員や委託先に明確に示されていることが必要である。」ということをご説明しました。
この基本的な考え方は大変重要なものですので、必ずおさえておきましょう。
そして、「紙媒体で保管されている場合」、「データで保管されている場合」、「従業員が記憶している場合」の3つのケースにわけて、顧客情報・顧客名簿の正しい管理方法をご説明し、また、就業規則の規定のしかたについてもご説明しました。
最後に、顧客情報・顧客名簿について、「正しい管理」をしていなかったために、企業の顧客情報の保護が認められなかった裁判例として、2つの事例をご紹介しました。
顧客情報は企業の重要な「財産」です。
顧客情報が不正に持ち出されたり、不正に使用されたりすると、顧客を引き抜かれたり、顧客の信頼を失ったりして、一気に企業が窮地に陥ることも少なくありません。
ぜひ、この機会に自社の情報管理体制を再点検しておいてください。
また、万が一、従業員や退職者などに顧客情報・顧客名簿などの機密情報が持ち出された場合は、正しい対策ができるように、以下の情報もチェックしておくことをオススメします。
8【関連情報】顧客情報、顧客名簿の持ち出しに関する他のお役立ち記事一覧
この記事では、「顧客情報・顧客名簿の情報持ち出しから会社を守る管理方法」について解説しました。
社内における顧客名簿などの顧客情報の持ち出しトラブルを防ぐための方法は、この記事を最後まで読んでいただければご理解していただけたのではないのでしょうか。一方で、万が一顧客情報・顧客名簿の情報の持ち出しトラブルがが発生した際は、初動からの正しい対応方法を全般的に理解しておくことも重要です。
そのため、この段落では、顧客情報・顧客名簿の情報持ち出しに関連するその他にも知っておくべきお役立ち情報についてご紹介しますので、こちらもご参照ください。
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記事作成弁護士:西川 暢春
記事更新日:2022年7月22日