逆に企業側が支払うリスクも有り!?従業員による横領が発覚した時の懲戒解雇に関する4つの注意点【支払誓約書の雛形アリ】

従業員横領による懲戒解雇の注意点

従業員による横領が発覚した場合、会社としては従業員を懲戒解雇しなければならないこともあります。しかし、十分な手順を踏まずに懲戒解雇をしたため、逆に従業員から訴えられ、多額の支払いを命じられるケースが少なくありません。
たとえば、以下のようなケースがあります。

裁判例1:
バス会社に対して約474万円の支払いを命じたケース
(平成10年12月2日那覇地方裁判所判決)

この事件はバス会社がバスの運転手が運賃を横領したとして懲戒解雇した事例です。裁判所は、横領の事実についての証拠が不十分として、解雇を無効と判断し、会社に対し、解雇後の賃金など約474万円の支払いを命じました。

裁判例2:
介護事業者に対して約1198万円の支払いを命じたケース
(平成22年9月7日東京地方裁判所判決)

この事件は、介護事業者において、事務長が会社の預金を横領したとして懲戒解雇した事例です。裁判所は、横領の事実についての証拠が不十分として、解雇を無効と判断し、会社に対し、解雇後の賃金など約1198万円の支払いを命じました。

裁判例3:
洋酒の販売会社に対して約280万円の支払いを命じたケース
(平成11年3月31日大阪地方裁判所判決)

この事件は、洋酒の輸入販売を事業とする会社で、従業員2名が商品を横領したとして懲戒解雇した事例です。裁判所は、横領の事実についての証拠が不十分として、解雇を無効と判断し、会社に対し、解雇後の賃金など合計約280万円の支払いを命じました。

このように、横領を理由とする解雇の場面で十分な手順を踏まずに懲戒解雇をすると、逆に従業員から裁判を起こされるケースがあります。そして、裁判所において、横領の証拠が不十分と判断されると解雇が無効とされ、従業員に対する多額の支払いを命じられます。

そこで、今回は、従業員による横領が発覚し、会社として従業員を懲戒解雇する場合の注意点についてご説明したいと思います。

 

今回の記事で書かれている要点(目次)

●従業員による横領が発覚した時の懲戒解雇に関する4つの注意点とは?
●ポイント1:本人からの事情聴取の前に、横領の証拠を十分収集する。
●ポイント2:就業規則の懲戒解雇に関する規定を確認する。
●ポイント3:本人からの事情聴取を行い、支払誓約書を提出させる。
●ポイント4:懲戒解雇通知書を作成して、本人に交付する。

 

従業員による横領が発覚した時の懲戒解雇に関する4つの注意点とは?

最初に結論として、「従業員による横領が発覚した時の懲戒解雇に関する4つの注意点」について以下の通りになります。

従業員による横領が発覚した時の懲戒解雇に関する4つの注意点

ポイント1:
本人からの事情聴取の前に、横領の証拠を十分収集する。

ポイント2:
就業規則で懲戒解雇に関する規定を確認する。

ポイント3:
本人からの事情聴取を行い、支払誓約書を提出させる。

ポイント4:
懲戒解雇通知書を作成して、本人に交付する。

従業員による横領が発覚する場面では、いままで信頼してきた従業員に裏切られた気持ちになり、感情的な対応になりがちです。しかし、冒頭の裁判例からもわかるように、ポイントを踏まえた対応ができなければ、従業員の不正を明らかにするどころか、逆に企業側が敗訴してしまうリスクさえあります。

ポイントを踏まえた冷静な対応をすることが必要です。
以下で、ポイント1からポイント4を順番にご説明します。

 

ポイント1:
本人からの事情聴取の前に、横領の証拠を十分収集する。

従業員による横領が発覚した時の懲戒解雇に関する注意点の1つ目は、「本人からの事情聴取の前に、横領の証拠を十分収集すること」です。

本人からの事情聴取を行う前に、横領に関する証拠を集め、事実関係を把握してから、事情聴取に臨むことが必要です。どのような証拠を集めればよいかは、横領の手口や本人の立場により異なりますが、共通して確認するべき点は以下の7点です。

本人に事情を聴く前に集めておくべき横領の証拠の内容7点

1,横領した金額と日時の特定

本人が「いつ」、「いくら」とったのかを確認することが必要です。

2,横領に使われた書類の収集

本人が不正な出金のために、会社に提出した資料があれば、その資料を確認しましょう。たとえば、本人が会社から金銭を引き出すために、架空の発注書や契約書、領収書などを会社に提出しているケースでは、その原本を確認することが必要です。

3,銀行からの伝票の入手

本人が不正な出金のために、自ら銀行で不正な出金をしている場合は、銀行に保管されている送金伝票の写しを確認しましょう。預金通帳と銀行印等を持参の上、銀行に行けば、送金伝票等の写しを入手できるのが通常です。

4,筆跡、捺印の確認

横領に使われた架空の発注書や契約書、領収書などの資料や、銀行に保管されている送金伝票を入手したときは、筆跡や印鑑が本人のものかを確認しましょう。

5,印鑑の偽造、持ち出しの有無の確認

資料に本人以外の印鑑が捺印されている場合は、印鑑の偽造や不正な持ち出しがなかったかを確認しましょう。

6,本人の行動の確認

本人の営業日報や出勤簿、交通費の請求書等で、横領を行った日の本人の行動を確認しましょう。

7,本人が犯人かどうかの確認

資料から推測できる横領の手口を特定し、本人以外の他の人間が行った可能性がないといえるかどうか、検討しましょう。

上記の7点について証拠を収集したうえで本人からの事情聴取に臨むことで、事情聴取の際に「会社は細かい点まで既に調査していて嘘をついても言い逃れは出来ない。」と思わせることが、重要なポイントになりますので、おさえておきましょう。

 

ポイント2:
就業規則の懲戒解雇に関する規定を確認する。

従業員による横領が発覚した時の懲戒解雇に関する注意点の2つ目は、「就業規則の懲戒解雇に関する規定を確認すること」です。
具体的には、以下の2点を確認しましょう。

懲戒解雇に関する就業規則の規定の確認のポイント

ポイント1:「就業規則の懲戒解雇事由のどれにあたるか」の確認
ポイント2:「懲戒解雇に関する手続がどのように規定されているか」の確認

以下で順番にご説明します。

ポイント1:
「就業規則の懲戒解雇事由のどれにあたるか」の確認

就業規則には、「どのような場合に懲戒解雇ができるか」が懲戒解雇事由として記載されています。そして、どの懲戒解雇事由にも該当しない場合は、懲戒解雇できないことが原則になります。そのため、就業規則の懲戒解雇事由を確認し、今回のケースが懲戒解雇事由のどれにあたるかを確認しておきましょう。

たとえば、「会社内において刑法その他刑罰法規の各規定に違反する行為を行い、その犯罪事実が明らかとなったとき」などの項目が懲戒解雇事由として規定されていれば、横領、着服についてはこの懲戒解雇事由で解雇することになります。

ポイント2:
「懲戒解雇に関する手続がどのように規定されているか」の確認

就業規則によっては、懲戒解雇の前に「懲罰委員会の開催」が必要とされていたり、「弁明の機会を与えること」が必要とされているケースもあります。このように懲戒解雇のために特別な手続が定められている場合は、規定されている手続きを踏まないと、懲戒解雇が無効になるリスクがあります。そのため、懲戒解雇に関する手続が就業規則でどのように規定されているかを確認することが必要です。

特に「ポイント2」の「懲戒解雇に関する手続がどのように規定されているか」の確認については、その内容によって、その後の進め方の流れが変わってきますので、本人からの事情聴取の前の段階で確認しておくことをおすすめします。

 

ポイント3:
本人からの事情聴取を行い、支払誓約書を提出させる。

従業員による横領が発覚した時の懲戒解雇に関する注意点の3つ目は、「本人からの事情聴取行い、支払誓約書を提出させること」です。

本人からの事情聴取は、「本人が逃げてしまって連絡がとれない」などの事情がない限り、必ず行いましょう。本人からの事情聴取により、会社側の思い違いが発覚したり、予想しなかったような事実が判明することがあります。
本人からの事情聴取は、以下の手順で行いましょう。

従業員による横領発覚時の本人からの事情聴取の手順

手順1:事情聴取は2名で行う。

事情聴取では、「本人の説明をよく聴くこと」と、「本人の説明を正確に記録すること」が重要です。本人に質問をする人と、本人の回答を記録する人の2名で対応しましょう。

手順2:最初は、犯人とは決めずに質問する。

まずは、「会社で〇月〇日の出金について会社で調べているのですが、この出金について社内の手続は踏まれていますか?」などと、本人を横領の犯人と決め付けずに、質問してみましょう。そのうえで、本人の回答をよく聴いて事前に集めた資料に照らして本人の回答に嘘や矛盾がないかを確認します。

手順3:資料との整合性を判断したうえで詳細な事情聴取

本人の回答が事前に集めた資料と矛盾していたり、詳細な説明をせずにごまかす態度が見られるときは、その部分について、さらに突っ込んで話を聴いていきましょう。

手順4:本人の弁明の聴取

本人の回答を聴いても、合理的な説明がないときは、会社としては、横領と考えている旨を伝え、本人の弁明(言い分)を聴きましょう。

手順5:日時、金額、手口の確認

本人が横領を認めたときは、日時、金額、手口を確認しましょう。このときに、会社が把握している以外の横領がないかも確認しておく必要があります。

手順6:支払誓約書の取得

本人が横領を認めたときは、横領金について、「支払誓約書」を提出させましょう。
支払誓約書の書式はたとえば以下のようなものです。

●支払誓約書の参考●

支払誓約書の雛形はこちらからダウンロード(.doc)

この支払誓約書の取得は、横領の事実についての重要な証拠となります。この時点では、「横領した金銭をいつ返すか」ということにはこだわらず、「横領の事実と金額を認めさせ、証拠として取得する」という意味で、支払誓約書を提出させることをこころがけましょう。

手順7:本人が横領を認めないときの対応

本人が横領を認めないときは、本人から会社に、本人の言い分を記載した「弁明書」を提出させましょう。また、事情聴取における本人の回答内容を会社で記録した「議事録」を作成し、本人に確認させ、署名捺印させましょう。これらの書面を取得しておくことで、本人が横領の事実を裁判で争ってきたときに、裁判になる前の本人の言い分と、裁判になってからの本人の言い分に矛盾がないかを確認することができます。

このように、本人が横領を認めた場合は、「支払誓約書」を取得し、本人が横領を認めない場合は、「弁明書」や「議事録」で本人の言い分を明確に記録しておくことが、事情聴取のポイントとなります。

 

ポイント4:
懲戒解雇通知書を作成し、本人に交付する。

従業員による横領が発覚した時の懲戒解雇に関する4つ目の注意点は、「懲戒解雇通知書を作成し、本人に交付すること」です。

懲戒解雇通知書を作成して、本人に交付することは、雇用関係の終了の事実やその日付を明確にするために重要な手続です。懲戒解雇通知書は必ず作成しましょう。

懲戒解雇通知書の作成・交付の注意点

注意点1:懲戒解雇通知書の作成の注意点

懲戒解雇通知書には、懲戒解雇の理由として横領の事実を記載します。「いつ」、「いくらを」、「どのような手口で」横領をしたかまで記載することがベストです。ただし、懲戒解雇の理由については、「懲戒解雇後に別の横領事実等が見つかったとしても、それを新たに懲戒解雇の理由として追加することはできない。」というルールがあります。そのため、会社が確認した本人の問題点の中から懲戒解雇事由に該当するものをすべて記載しておかなければ、あとで理由を追加することはできませんので注意しましょう。

注意点2:懲戒解雇通知書の交付の注意点

懲戒解雇通知書を作成した後は、本人に交付しなければなりません。
交付については、以下の方法が考えられます。

(ア)本人に手渡しして受領印をもらう。
(イ)本人に内容証明郵便で郵送する。
(ウ)本人が行方不明の場合は、裁判所で「公示送達」の手続をとる。

なお、(イ)の内容証明郵便による郵送の方法をとるときは、本人が受け取りを拒否することがありますので、必ず普通郵便でも郵送しましょう。(ウ)の「公示送達」は、通知書の相手が行方不明の場合、裁判所に通知書を預けて、裁判所の掲示板にいつでも書類を交付する旨を掲示してもらい、掲示から2週間経った時点で、法律上、本人に通知書が届いたとみなす制度です。以上を踏まえて、懲戒解雇通知書を正しく作成して、確実に本人に交付することが重要なポイントとなります。

 

まとめ

今回は、従業員による横領が発覚した時の懲戒解雇に関する注意点について以下の4つのポイントをご説明しました。

●ポイント1:本人からの事情聴取の前に、横領の証拠を十分収集する。
●ポイント2:就業規則で懲戒解雇に関する規定を確認する。
●ポイント3:本人からの事情聴取を行い、支払誓約書を提出させる。
●ポイント4:懲戒解雇通知書を作成して、本人に交付する。

懲戒解雇の手順を間違えてしまうと、逆に企業側が訴えられて多額の支払いを命じられるという、重大なリスクがありますので、きちんとおさえておきましょう。

従業員による横領問題は、最近ニュースでも話題になっておりますが、実際に咲くやこの花法律事務所の企業法務トラブルのご相談の中でも多いケースの1つです。中小企業では、1人の担当者に業務を全て任せることが多いため、このようなリスクも高くなります。実際に従業員による横領が発覚した時に、対応方法に不安がある際は、経験豊富な咲くやこの花法律事務所にお気軽にご相談下さい。

なお、懲戒解雇とは別に、本人に対する「横領金の返還請求」や「刑事告訴」等の対応が必要となることもあります。これらの点についてもまた別の機会にご説明したいと思います。

 

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