こんにちは。咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。
順調に伸びている会社にとって、屋台骨を揺るがすことになりかねないのが、経理担当の従業員による横領・不正のトラブルです。最近、ニュースで話題になり報道された事例としては以下のようなものがあります。
事例1:岸運輸事件
兵庫県伊丹市の運送会社の20年以上経理を担当していた女性経理社員が横領し、約3億円が使途不明となったケース。
事例2:ネッツエスアイ東洋株式会社事件
神奈川県川崎市所在の、自動券売機の開発などの事業を行っていた会社で、経理部のマネージャー職にあった従業員が約15億円を横領したケース。
事例3:愛知高速交通事件
鉄道を運営する第三セクターで出納責任者の地位にあった従業員が約9000万円を横領したケース。
実際には、報道されないケースがほとんどであり、報道される事例は氷山の一角です。
今回は、経理従業員の横領・不正を未然に防止するために、会社として最低限行っていただきたい5つのポイントについてわかりやすくご説明します。
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今回の記事で書かれている要点(目次)
- 1,経理従業員の横領・不正防止対策の基本的な考え方
- 2,経理従業員の横領・不正防止対策の5つのポイントとは?
- 2−1,ポイント1: 出金伝票とその承認制度を作る。
- 2−2,ポイント2: 経理担当者が一人で預金を引き出せない仕組みを作る。
- 2−3,ポイント3: 小口現金は、毎日、帳簿の残高と現金の額の一致を確認する。
- 2−4,ポイント4: 通帳の出金履歴は定期的に確認する。
- 2−5,ポイント5: 小売店舗の現金は当日の預金口座への入金を徹底する。
- 3,咲くやこの花法律事務所の業務上横領に関する解決実績
- 4,「咲くやこの花法律事務所」の弁護士へのお問い合わせ方法
- 5,業務上横領についてのお役立ち情報も配信中(メルマガ&YouTube)
- 6,まとめ
- 7,【関連情報】業務上横領トラブルに関する他のお役立ち記事一覧
1,経理従業員の横領・不正防止対策の基本的な考え方
経理従業員の横領・不正の防止対策のための5つのポイントについてご説明する前に、その前提としておさえておいていただきたい「基本的な考え方」をご説明したいと思います。
それは、「従業員の横領・不正が起こりにくい仕組み作りは経営者の責任である」という考え方です。
従業員の横領・不正が起きた場合、横領額を従業員に請求することになりますが、横領が長期あるいは多額にわたることも多く、確実に全額を回収できるとは限りません。また、場合によっては、納税にも影響がおよび、加算税などのペナルティーを受けることもあります。さらに、不正を起こした従業員は解雇することになりますが、会社としては、また、新しい従業員の採用をしなければなりません。
このように考えると、横領・不正を起こさない仕組みを作ることは、会社の順調な経営のためには非常に重要であることがわかります。
不正を行う従業員が悪いのはもちろんのことですが、従業員が魔がさして横領や不正会計に手を染めてしまわない環境づくりは経営者の責任であると考えなければ、横領、不正のない会社を作り、安定した経営をすることはできません。
まずは、「従業員の横領・不正が起こりにくい仕組み作りは経営者の責任である」という基本的な考え方を確認しておきましょう。
具体的に、経理従業員の横領・不正が起こる場合の主なパターンには、以下の3通りがあります。
(1)経理従業員の横領・不正の主なパターン
パターン1:現金の抜き取り
小口現金やレジ現金を抜き取るケースです。
パターン2:預金を引き出し、着服するケース
切手や印紙の購入あるいは小口現金の補充などを口実に、出金の承認を受けたうえで、銀行で会社の預金を引き出し、着服するケースです。
パターン3:仕入先と共謀して、仕入先から仕入代金の水増し請求を受け、水増し分を仕入先と山分けするケース
通常よりも高い請求書を仕入れ先から出させて、水増し分の一部を仕入れ先から経理担当者の個人口座にキックバックさせるケースです。
これらの3つのパターンを想定したうえで、横領、不正を防ぐために必要な仕組みづくりをしていく必要があることを確認しておきましょう。
2,経理従業員の横領・不正防止対策の5つのポイントとは?
経理従業員の横領・不正防止対策の手段は、会社の実情に応じてさまざまではありますが、どの会社にも共通してあてはまる基本的なポイントが存在します。
その具体的なポイントは、以下の通りです。
(1)どの会社にも共通する「経理従業員の横領・不正防止対策の5つのポイント!」
- ポイント1:出金伝票とその承認制度を作る。
- ポイント2:経理担当者が一人で預金を引き出せない仕組みを作る。
- ポイント3:小口現金は、毎日、帳簿の残高と現金の額の一致を確認する。
- ポイント4:通帳の出金履歴は定期的に確認する。
- ポイント5:小売店舗の現金は当日の預金口座への入金を徹底する。
これら5つのポイントを、以下で順に説明していきたいと思います。
2−1,ポイント1:
出金伝票とその承認制度を作る。
経理従業員の横領・不正防止対策の1つ目のポイントは、「出金伝票とその承認制度を作る」ことです。
まず、簡単なものでかまいませんので、出金伝票のひな形を用意しましょう。
例えば以下のようなものになりますので、参考にして作ってみてください。
▶参考:出金伝票のひな形サンプル
そのうえで、以下のように、出金伝票による支払制度と承認の仕組みを会社として作ることが必要です。
(1)出金伝票による支払制度と承認の仕組み
仕組み1:
支払が必要になったときは、担当者は、出金伝票に「支払先・支払金額・支払内容」を記載して、「担当者印」を捺印して、請求書などの資料と一緒に上司に提出する。
仕組み2:
上司は請求書の内容と出金伝票の「支払先・支払金額・支払内容」を確認して、支払いを承認する場合は、出金伝票に承認印を押す。
仕組み3:
担当者は承認印のある出金伝票を経理担当者に提出し、支払いを依頼する。
仕組み4:
経理担当者は、上司の承認印が捺印されていることを確認したうえで、支払いをする。
会社では、備品の購入、仕入れ、給与、外注費などさまざまな支払いが発生しますが、これらの支払いにあたって、上記の仕組みにより「支払先、支払金額、支払内容の記載があり、かつ上司の承認印がある出金伝票が提出されない限りは支払わない」というルールを徹底することが重要です。
業務の効率を優先して、出金伝票を作らずに、請求書を経理の従業員に手渡しして支払を依頼するという会社もあると思います。
しかし、そのような経理の方法では、経理の従業員が、架空の請求書を作って銀行預金を出金し、着服してしまうというケースを防ぐことができませんので、改善が必要です。
冒頭の事例1の「岸運輸事件」では、経理の担当者が、給与の支給などの際に余分に現金を引き出して横領し、帳簿上は、架空外注費を計上するなどしてつじつまをあわせ、発覚を免れていた事件です。
このような事件を防ぐためには、出金伝票とその承認制度を作ることがまず第一歩の対策になります。
自社でこのような運用ができているかどうか、確認しておきましょう。
2−2,ポイント2:
経理担当者が一人で預金を引き出せない仕組みを作る。
経理従業員の横領・不正防止対策の2つ目のポイントは、「担当者が一人で預金を引き出せない仕組みを作る」ことです。
具体的には以下のような仕組みが必要です。
(1)担当者が一人で預金を引き出せない仕組みの作り方の具体例
仕組み1:
預金通帳を管理する担当者と、銀行印を管理する担当者をわける。
仕組み2:
ネットバンキングを利用している会社では、送金処理をする担当者と、送金処理に必要なカードを管理する担当者をわける。
仕組み3:
ネットバンキングでワンタイムパスワードを利用している会社は、送金処理をする担当者と、ワンタイムパスワードが閲覧できる端末を管理する担当者をわける。
冒頭の事例3の「愛知交通高速事件」では、同じ経理の担当者に預金通帳と銀行印を預けていたため、担当者が独断で預金を引き出すことができる状態にありました。
その結果、担当者が55回にもわたり、「約9000万円」を引き出し、横領しています。
このように経理担当者の横領・不正を防止するためには、預金の引き出しの作業を一人で完結することができない仕組みを作ることが必要ですので、おさえておきましょう。
2−3,ポイント3:
小口現金は、毎日、帳簿の残高と現金の額の一致を確認する。
経理従業員の横領・不正防止対策の3つ目のポイントは、「小口現金は、毎日、帳簿の残高と現金の額の一致を確認する」という点です。
具体的には、以下の3点がポイントです。
(1)小口現金の管理の3つのポイント
ポイント1:
小口現金を管理する経理の従業員にも、「出金伝票がない限り支払いをしない」というルールを徹底させる。
ポイント2:
小口現金を管理する従業員とは別の従業員が、毎日、業務終了後に、小口現金からの出金に対応する出金伝票があるかを確認する。
ポイント3:
小口現金を管理する従業員とは別の従業員が、毎日、業務終了後に、小口現金の帳簿上の残高と、現金の額が一致するかを確認する。
冒頭の事例3の「ネッツエスアイ東洋株式会社事件」では、帳簿の残高と現金の額の一致を確認する作業が正しく行われていなかったために、小口現金の着服が発生しています。
小口現金については、小口現金の管理をする経理担当者とは別の従業員がチェックを行うことが、不正防止の基本であることをおさえておきましょう。
2−4,ポイント4:
通帳の出金履歴は定期的に確認する。
経理従業員の横領・不正防止対策の4つ目のポイントは、「通帳の出金履歴を定期的に確認する」という点です。
会社の預金の不正な引き出しや不正な送金を防ぐためには、経理の従業員とは別の従業員が、通帳の履歴を確認し、すべての支払いについて、対応する出金伝票があることを確認することが必要です。
これを定期的に、たとえば毎月1回などの頻度で実施しておくことで、不正な出金に対する抑制機能が働きます。
冒頭の事例3の「ネッツエスアイ東洋株式会社事件」は、通帳と銀行印を一人で管理していた出納責任者が会社の預金を55回にわたり合計「約9000万円」を不正に引き出して、競馬などに使ったという事件です。
この出納責任者は、競馬で利益をあげて1年後の定期監査までに帳尻を合わそうと考えていていたようですが、定期監査までに横領額を補充することができず、定期監査で不正が発覚しました。
このケースは、通帳の確認が1年に1回しかされなかったことに着目して、預金を引き出していたケースであり、出金履歴を毎月定期的に確認していれば防げた事件です。
通帳に出金の履歴が残るため、いつかはばれることが確実な安易な着服ですが、このような短絡的な着服も実際には数多くあることを踏まえて、対策を立てる必要があります。
社内で通帳の出金履歴の確認をする担当者を決め、定期的に履歴を確認をさせることを徹底しましょう。
2−5,ポイント5:
小売店舗の現金は当日の預金口座への入金を徹底する。
経理従業員の横領・不正防止対策の5つ目のポイントは、「小売店舗の現金は当日の預金口座への入金を徹底する」という点です。
お客様から現金での支払いを受ける小売店舗を多店舗経営するような業種は、特に、横領のリスクが高いケースの1つです。
このような業種では、横領・不正の防止のために以下の点を徹底しましょう。
(1)小売店舗の現金管理3つのポイント
ポイント1:
小売店舗の現金は当日の預金口座への入金をルールとして徹底する。
ポイント2:
入金を担当する従業員とは別の従業員から、毎日の売上額の報告をさせる。
ポイント3:
本社の経理担当者が、報告を受けた売上額と預金口座への入金が一致するかを定期的に確認する。
当日の銀行口座への入金を行わず、入金のタイミングが不定期になると、売上額と入金額が不一致になっているときでも、不正に気づくことができません。
また、店舗から本社宛に現金を書留郵便で送る方法を採用されている会社もありますが、現金が足りない場合に、店舗側か本社側のどちらで不正があったのかがわからなくなり、適切でありません。
そのため、前記のとおり、小売店舗の現金は当日に預金口座に入金することを徹底しましょう。
そのうえで、「入金業務を行う従業員とは別の従業員に売上の報告業務を担当させること」、「報告された売上額と預金口座への入金額が一致するかを定期的に確認すること」の2点が、横領・不正を防止するためのポイントとなりますので、おさえておきましょう。
3,咲くやこの花法律事務所の業務上横領に関する解決実績
咲くやこの花法律事務所では、企業の発生した横領事件について、企業のご相談者から多くのご依頼をいただき、横領された金銭の回収を実現してきました。
以下で、咲くやこの花法律事務所の実績の一部をご紹介していますのでご参照ください。
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6,まとめ
今回は、まず、「経理従業員の横領、不正防止対策の基本的な考え方」についてご説明したうえで、経理従業員による横領、不正防止対策の以下の5つのポイントを解説しました。
- ポイント1:出金伝票とその承認制度を作る。
- ポイント2:預金通帳と銀行印を同じ担当者に管理させない。
- ポイント3:小口現金は、毎日、帳簿の残高と現金の額の一致を確認する。
- ポイント4:通帳の出金履歴は定期的に確認する。
- ポイント5:小売店舗の現金は当日の預金口座への入金を徹底する。
これらの5つのポイントは、横領や不正を予防して、会社を順調に発展させるうえで、極めて重要で基本的な事項です。自社の経理業務において、これらのポイントが実行できているかを確認し、実行できていない場合は早めに改善に取り組みましょう。
7,【関連情報】業務上横領トラブルに関する他のお役立ち記事一覧
今回の記事では、「【未然に防ぐ対策方法】経理従業員の横領・不正防止のためにやっておくべきポイント」についてご説明しました。
従業員の業務上横領に関しては、今回ご紹介したように正しい知識を理解した上で対策を進めなければならず、方法を誤るといざというときに重大なトラブルに発展したりなど、大きなトラブルにつながる可能性もあります。
業務上横領に関しては、以下にお役立ち情報をまとめておきますので、合わせてご覧下さい。
・業務上横領が起きたときの会社の対応は?発覚時の適切な対処が重要
・従業員による業務上横領や着服の刑事告訴・刑事告発のポイント
・従業員による業務上横領が発覚した時の懲戒解雇に関する注意点
・従業員に着服、横領された金銭の返還請求の重要ポイント!※合意書の雛形有り
・業務上横領の時効は何年?民事・刑事での違いや起算点についても解説
また、従業員による業務上横領などの防止対策は、労働問題に強い弁護士による顧問弁護士サービスもございます。以下も参考にご覧下さい。
・【全国対応可】顧問弁護士サービス内容・顧問料・実績について詳しくはこちら
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また、顧問弁護士の具体的な役割や必要性、費用の相場感などについて知りたい方は、以下の記事を参考にご覧ください。
記事作成弁護士:西川 暢春
記事更新日:2024年10月3日