近年、コンビニエンスストアやファストフード店、その他さまざまな分野において、フランチャイズ事業が盛んにおこなわれています。
フランチャイズ事業は、店舗網を急拡大することができる可能性が魅力ですが、一方で、法的なトラブルになりやすい事業の1つでもあります。
フランチャイズビジネスを始める場合は、注意しなければならない法的なリスクがたくさんありますので、経験のある弁護士に継続的に相談することが必要不可欠です。
今回はフランチャイズビジネスを始めるにあたって注意しなければならない「名板貸責任」についてお話します。
「名板貸責任」とは、簡単に言うと、「商号」、つまり会社であれば会社の名前をつかって取引することを、他人に認めた事業者は、その他人がした取引について責任をもたなければならないということです。
商法の14条にその規定があります。
商号、すなわち会社の名前を信用して取引をおこなった取引相手を保護するための条文です。
フランチャイズ事業の場合にも、この「名板貸責任」に注意しなければなりません。
つまり、フランチャイズ事業で使う店名を本部事業者の会社の名前としてしまうと、本部事業者は加盟店の行った取引について責任をもたなければならない場合が出てきます。
「チェロキー中古車売買契約事件」と呼ばれる、神戸地方裁判所の尼崎支部で平成13年11月30日に下された判決の事件でも、本部事業者の会社名をフランチャイズチェーンの名前とした事例です。
本部事業者は、自社の社名を、加盟店が経営する店舗の店名として使うことを認めていたことから、加盟店が行った取引について本部事業者が責任を負うことになってしまいました。
この事件では、本部事業者の商号、すなわち会社名は「ユーポス株式会社」でした。これに対して、加盟店の名前は、「ユーポス尼崎店」でした。
加盟店であるユーポス尼崎店は、顧客から自動車を買い取って、その自動車の代金を顧客の代わりにクレジット会社に返済する義務を負っていたのですが、資金が行き詰まり、自動車の代金をクレジット会社に返済できなくなりました。
このことから、顧客が、加盟店であるユーポス尼崎店だけでなく、本部事業者であるユーポス株式会社に対しても、支払った手数料と自動車の代金の返済を求めて裁判を起こました。
そして、本部事業者であるユーポス株式会社は取引にまったくかかわっていないにもかかわらず、ユーポス株式会社も顧客に対してユーポス尼崎店が受け取った手数料と自動車の代金を支払わなければならないという判決が下されました。
この事件で、フランチャイズの本部事業者であるユーポス株式会社が、自分がまったくかかわっていない取引の責任を負うこととなったのは、ユーポス株式会社が、フランチャイズの加盟店に対して、「ユーポス」という会社の名前を使うことを許していたからです。
フランチャイズチェーンの加盟店の使用する名前が、「ユーポス」という会社の名前ではなく、別の名前であったならば、本部事業者であるユーポス株式会社は商法14条の名板貸責任を負いませんでした。
すなわち、加盟店であるユーポス尼崎店のおこなった取引について責任を負うことはなかったのです。
このように、本部事業者としてフランチャイズ事業を営む場合には、会社の名前をフランチャイズの加盟店の使う名前としてしまいますと、加盟店の行った取引について責任を負わされることになりかねません。
フランチャイズの加盟店には、本部事業者である会社の名前とは別の名前を使ってもらうべきです。
たとえば、株式会社すかいらーくは、以前は「すかいらーく」というレストランチェーンを展開していましたが、いまは「ガスト」という店名を使い、「すかいらーく」という店舗はなくなりました。このように、会社名をフランチャイズチェーンにしないことは法的にもメリットがあることです。
ただ、そうは言っても、本部事業者の会社名の知名度が高いなどの事情で、どうしても本部事業者の社名をフランチャイズチェーンの名称にしたいという場合もあると思います。
そのような場合には、加盟店と取引をする顧客が、
「加盟店は、本部事業者と同じ名前を使ってはいるが、本部事業者とは別の、独立した事業者なのだな」
ということがわかるような工夫をしておくことをお勧めします。
この点で参考になるのが、「赤帽事件」と呼ばれている、東京地方裁判所で平成2年3月28日に下された判決です。
「赤帽」は軽貨物運送事業のフランチャイズチェーンです。
この「赤帽」で、加盟店が運送中に顧客の荷物をこわしてしまいました。
本部事業者の名前もやはり「赤帽」(正確には「全国赤帽軽自動車運送協同組合連合会」)でした。
そのため、荷物をこわされた顧客は、本部事業者に対して、商法14条の名板貸責任に基づいて、荷物がこわしたことの損害賠償を求める裁判を起こしました。
ところが、この事件では、先の「ユーポス」事件とは異なり、本部事業者は加盟店が顧客の荷物をこわしたことについては責任を負わないという判決が下されました。
その理由は、次のようなものです。
① フランチャイズの加盟店の商号が、「赤帽○○運輸」、「赤帽○○運送」というように、加盟店の固有名詞がつけられたものになっていたこと
② 加盟店が使用する運送車両には、両側の扉に加盟店の個人商号および電話番号が記載されていたこと
③ 加盟店が発行する運賃請求書と領収書にも、加盟店の個人商号や住所等が記載されていたこと
④ 職業別電話帳でも、本部事業者の広告とは別に、加盟店の個人商号での広告が多数存在していたこと
⑤ 新聞広告や利用者向けのパンフレットにも、赤帽車による営業が加盟店の個人の営業である旨の記載があったこと
判決はこのような理由を挙げて、本部事業者の名称と同じ名前のフランチャイズチェーンでも、本部事業者は名板貸責任を負わないと判断しました。
なぜ、このような判断になったのでしょうか?
先にお話したように、商法14条の名板貸責任の条文は、そもそも名前を信用して取引を行った取引相手を保護するために設けられたものです。
ですので、「赤帽事件」のように、「加盟店は本部事業者からは独立した別事業者なのだな」ということが顧客からみてわかるようになっていれば、本部事業者は名板貸責任を負わないのです。
すなわち、加盟店が行った取引についての責任を負わないのです。
このように、会社の名前をフランチャイズの加盟店に使用してもらってフランチャイズ事業を行う場合には、顧客からみて、加盟店が本部事業者とは別の事業者であることがわかるような工夫をしておくことが必要です。
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