忙しい職種でバリバリ働いていた従業員が、病気や育児、介護などがきかっけで、いままでの職種では働けなくなることがあります。
このような場合に、会社が従業員を別の職種に配置転換し、給与も新しい職種に応じた給与に引き下げることはできるのでしょうか?
この点について、参考になるのが東京高等裁判所平成23年12月27日判決(コナミデジタルエンタテイメント事件)です。
この事件で原告となったのはソフトウェア制作会社の女性従業員です。
この従業員は出産後育児休業を経て復職しましたが、その際に、会社はこの従業員が従来の忙しい職種では働けなくなったとして、より負荷の小さい職種に配置転換しました。
具体的には、この従業員は出産以前はマネジメントを担当する職種についていましたが、会社は育児休業後の復職の際に、マネジメントにかかわらないスタッフ職にこの従業員を配置転換しました。
そして、会社はこの従業員の配置転換後の給与について、その年棒額をスタッフ職の給与体系に基づき、前の職種より50万円減額しました。
これに対して、この従業員は給与の減額が不当であるとして会社を訴えて裁判となりました。
この事件で、裁判所は、従業員の請求を認め、会社に対して減額した分の給与の支払を命じました。
その理由について、裁判所は、「報酬の引下げは,労働者にとって最も重要な労働条件の一つである賃金額を不利益に変更するものであるから,就業規則や年俸規程に明示的な根拠もなく,労働者の個別の同意もないまま,使用者の一方的な行為によって行うことは許されない」などとしています。
この会社ではマネジメント職と専門職、どちらかに分化する前のスタッフ職の3つの職種を設け、それぞれの職種で別々の給与体系を採用していました。
同様の職種制度を採用している企業も多いと思います。
このような制度を採用した場合に、育児や病気などの事情により、いったんはマネジメントを担当する職種に就いたが、あとで別の職種に移らなければならなくなるということもあり得ます。
このような場合、まずは、職種転換の対象となる従業員に、会社がなぜ別の職種に配置転換をするのかを十分に説明し、理解を求めることが必要になります。
ただし、従業員が納得しないからといって、必ずしも職種転換を撤回する必要はありません。その場合は、会社の業務命令として新しい職種に就くことを命じることになります。
会社が職種の転換を従業員に命じる場合、特に、配置転換後の職種が配置転換前の職種よりも給与が低いと、給与を引き下げることになり、給与の減額をめぐってトラブルが発生しがちです。
この点のトラブルを回避するためには、日ごろから、従業員に対して、職種ごとに給与体系が異なることや、職種が変わると新しい職種の給与体系を適用することになることをよく話し、理解しておいてもらわなければなりません。
その上で、就業規則でも職種ごとの賃金規定を定めて、職種によって給与体系が違うこと、配置転換によって職種が変わると新しい職種の給与体系が適用されることになりその結果として給与が減額になることがあることなどを明記しておかなければなりません。
人事考課制度を作っても、それが就業規則に反映されていなかったり、従業員に対する説明が不十分であったりすると、せっかく作った人事考課制度が裁判所では認められないという思わぬ結果を招いてしまいますので、注意が必要です。
また、配置転換の結果、給与が大幅に減額になる場合は、裁判所でも、会社が従来の職種でやっていけないと判断したことが正しかったのかについて、十分な説明が求められますので、この点も注意が必要です。
従業員の配置転換や職種の変更の問題でお困りの企業様はぜひご相談ください。弁護士が企業側の立場に立ってご相談をお受けします。
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