土地の売買をスムーズに進めるために、隣地との境界の特定がポイントとなることがあります。
隣地との境界について隣地所有者と同意ができなければ、買い手がつかず、土地の売却が難しくなるためです。
そして、土地の境界の特定については、平成18年に「筆界特定制度」が設けられ、従来よりも格段に早く手続きが進むようになりました。
この筆界特定制度は制度開始後、全国で毎年「約2,500件」の申し立てがされています。
今回は、土地の境界トラブルを迅速に解決してスムーズに土地を売却するために役に立つ、筆界特定制度のポイントについてご説明します。
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今回の記事で書かれている要点(目次)
1,境界トラブルを迅速に解決できる「筆界特定制度」とは?
「筆界特定制度」は、土地の境界について争いがある場合に、土地の所有者の申請により、法務局が境界を特定する手続です。
具体的には、法務局の登記官が、土地所有者、隣地所有者の意見を聴き、また現地調査の結果を踏まえて、土地の境界を特定します。
この筆界特定制度は平成18年に新設された制度です。
平成17年以前は、境界トラブルの解決は、裁判所の裁判手続(境界確定訴訟)で行われており、結論が出るまでに平均で「約16ヶ月」の期間がかかっていました。
平成18年に筆界特定制度が新設されたことにより、境界の特定に要する期間は平均で「約8.6ヶ月」となりました。
実際には、手続をスムーズに進めることにより「6ヶ月」以内に終わるケースも増えています。
このように「筆界特定制度」は、以前の裁判手続きによる方法に比べるとはるかに迅速に境界トラブルを解決できるということが大きなポイントになります。
2,不動産売買の観点から見た筆界特定制度のメリットと注意点
では、「筆界特定制度」は不動産売買にどのように生かすことができるのでしょうか?
そのメリットと注意点についてご説明いたします。
(1)「筆界特定制度」のメリット
不動産売買の観点から見た筆界特定制度のメリットは、「隣地所有者の同意がなくても土地の境界を特定することができる」という点にあります。
土地売買のときに、土地の境界について隣地所有者の同意が得られず、境界を特定することができずに苦労することがあります。
また、隣地所有者と連絡がつかなかったり、隣地所有者に相続が発生しているなどの事情で、境界が特定できないケースも少なくありません。
しかし、土地の境界を特定させないままでは、買主が限られてしまい、売却代金も下がってしまいます。
このような場合に筆界特定制度を利用すれば、隣地所有者の同意がなくても、早期に境界を特定することが可能です。
筆界特定制度により境界を特定したときは、土地の境界を特定したことが登記記録にも記載されますので、境界が定まった土地として売買することが可能になります。
また、筆界特定制度の申立人には、土地の境界を特定したことについて、結論と理由を記載して法務局の印を捺印した「筆界特定書」が交付されます。
(2)「筆界特定制度」の注意点(デメリット)
このように不動産売買をスムーズに進めるために役立つ筆界特定制度ですが、注意点もあります。
それは、法律上、筆界特定制度で特定した境界が最終的な確定になるとは限らないという点です。
筆界特定制度で筆界が特定された後でも、隣地所有者は、その結果に納得しなければ裁判所の手続を別途行うことができます。
そして、裁判所が筆界特定制度と異なる結論を出せば、裁判所の結論が優先されます。
しかし、実際には、裁判が起こされるケース自体ごく稀です。
また、裁判が起こされても、裁判所が筆界特定制度の結論を尊重して同じ結論とするケースが大多数で、裁判所で筆界特定制度の結論がくつがえることはほとんどありません。
そのため、筆界特定制度で土地の境界を特定すれば、事実上境界のトラブルは解決したと扱うことができ、境界が定まった土地としての売買が可能になります。
3,筆界特定制度の手続の流れ
それでは、筆界特定制度のメリットと注意点(デメリット)を踏まえたうえで、筆界特定制度の手続の流れについて確認していきましょう。
(1)筆界特定制度の手続の流れについて
筆界特定制度の手続は、以下の5つのステップになります。
1,筆界特定手続きの5つのステップ
(1)筆界特定の申立てをする。
(2)法務局から隣地所有者らに筆界特定制度が行われることが通知される。
(3)調査委員が選ばれ、現地調査が行われる。
(4)法務局での意見聴取手続きが行われる。
(5)法務局の登記官が筆界を特定する。
以下で順番に概要をご説明したいと思います。
(1)筆界特定の申立てをする。
筆界特定制度は、境界が問題となっている土地を管轄する法務局に筆界特定の申し立てをすることから始まります。
筆界特定の申し立てができるのは、境界が問題となっている土地の所有者として登記されている人、またはその相続人などです。
申立ての際に、地積測量図を添付したうえで、自社が主張する境界とその根拠について、説得的な記載をしておきましょう。
そのほか、申立書には以下の書類を添付することが必要です。
- 固定資産評価証明書
- 申立人が不動産の登記名義人でないときは、申立人に所有権があることを示す書類
(2)法務局から隣地所有者らに筆界特定制度が行われることが通知される。
筆界特定の申し立てをすると、隣地所有者らに筆界特定制度が行われることを通知する手続きが行われます。
隣地について相続が発生している場合は、相続人全員に通知することになります。ただし、仮に、隣地所有者や相続人が行方不明であったり、郵便が届かなかったりしても、法務局の掲示場に掲示する方法で通知の手続きを完了させることが可能です。
この場合、掲示場で掲示を始めてから2週間がたてば、通知の手続きが完了したものとみなされます。
このルールにより、隣地所有者が行方不明の場合でも、手続きを問題なく進めることができます。
(3)調査委員が選ばれ、現地調査が行われる。
筆界特定手続きでは、土地家屋調査士や弁護士などの資格を持つ民間の調査委員が選ばれ、現地調査を行います。
この現地調査は、「事前調査」、「実地調査」、「特定調査」という3つの手続きに分かれています。
1,事前調査:
境界を特定するために、事前に提出された測量図とは別に、追加で測量を実施する必要があるかどうかを確認する調査です。
2,実地調査:
測量の結果をもとに、測量図の基準点の確認、測量内容の確認などを行う調査です。
3,特定調査:
現地で、申立人や隣地所有者らから意見を聴く手続きです。
これらの現地調査の期日は、あらかじめ、隣地所有者らにも通知されますが、隣地所有者らが立ち会わなくても、現地調査を行い、終了させることが可能です。
(4)法務局での意見聴取手続きが行われる。
法務局で、申立人や隣地所有者から、境界についての意見を聴く手続が行われます。
(5)法務局の登記官が、筆界を特定する。
現地調査の結果や意見聴取手続きの結果を踏まえ、法務局の登記官が、筆界を特定します。
登記官は「筆界特定書」を作成し、申立人に写しが交付されます。また、登記記録にも、筆界特定手続きにより筆界を特定したことが表示され、手続きの結果が登記所で保管されます。
筆界特定制度の手続きの流れは上記のとおりですが、手続きにより自社に有利な結論を得るためには、弁護士への依頼をお薦めします。
以下では、筆界特定制度で有利な結論を得るためのポイントについてもあわせて説明していきます。
4,筆界特定制度で有利な結論を得るための6つのポイント
筆界特定制度で有利な結論を得るためには、以下の6点に留意して手続きを進めることが必要です。
(1)筆界特定制度の手続きを有利に進める6つのポイント
1,公図の取り寄せ
境界が問題となっている土地について、法務局にどのような公図があるか、確認が必要です。
公図は筆界特定において重要な資料となりますので、公図の内容を踏まえたうえで、自社の主張を組み立てましょう。
2,申し立て前の担当弁護士による現地確認
申し立ての前に担当弁護士を同行して現地を訪問し、自社が主張する境界を弁護士に説明し、弁護士にも自社の主張の根拠を確認してもらうことが必要です。
3,申立書の作成
筆界特定の申立書の作成の段階では、事前の現地訪問の結果や公図の内容を踏まえて、自社が主張する境界の根拠について説得的な記載をすることが必要です。
4,現地調査への弁護士の立ち会い
調査委員による現地調査の際も、弁護士が立ち会うことにより、自社の主張を現地で十分に調査委員に説明することが可能になります。
5,隣地所有者の主張の確認
隣地所有者からも主張や資料が提出されることがあります。
その場合、法務局で提出された内容を閲覧し、必要に応じて迅速に反論をすることが必要です。
6,法務局での意見聴取手続きへの出席
法務局での意見聴取手続きにおいても、弁護士が出席することにより、自社の主張をわかりやすく主張し、また隣地所有者から対立する主張が出たときは的確に反論することが可能になります。
この中でも、「申し立て前の担当弁護士による現地確認」と、「現地調査への弁護士の立ち会い」、「法務局での意見聴取手続きへの出席」が重要なポイントになりますので、おさえておきましょう。
5,「咲くやこの花法律事務所」の弁護士へのお問い合わせ方法
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7,まとめ
今回は、筆界特定制度について、制度の内容、制度利用のメリットと注意点、手続きの流れをご説明しました。また、筆界特定制度で、自社に有利な結論を得るためのポイントについてもご説明しました。
不動産売買をスムーズに進めるための一つの手段として、筆界特定制度の利用をぜひ選択肢に入れておいてください。
記事作成弁護士:西川 暢春
記事更新日:2020年11月06日