こんにちは。咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。
家賃を滞納しているのに退去しない入居者への対応にお困りではないでしょうか?
強制執行の手続きは、費用もかかり、家主の負担は大きいですが、滞納者を強制的に退去させることが可能な手続です。
話し合いで退去を実現させることが難しい場合は、早期のタイミングで強制執行を決断することが重要です。
そうでなければ、家賃の未納額がどんどん増えていきます。
今回は、家賃滞納者に対する明け渡しの強制執行の進め方についてご説明します。
家賃滞納者が夜逃げなどで行方不明のケースでも、滞納者に無断で鍵を取り替えてしまうことは、違法行為になります。
「賃借人が賃借料を7日以上怠っ たときは、賃貸人は、直ちに賃貸物件の施錠 をすることができる。」などと賃貸借契約書に記載していても無効であると判断されています(札幌地方裁判所平成11年12月24日判決)。
行方不明などのケースでも法律上正しい手続きで強制執行を行わなければ、入居者に対して損害賠償の責任を負うことになりますので注意してください。
▶参考情報:不動産の明渡しの強制執行に関する咲くやこの花法律事務所の解決実績は、以下をご覧ください。
・賃料滞納を続けた飲食店のテナントについて強制執行により明け渡しを実現した解決事例
▼【関連情報】賃料滞納トラブルに関連する参考情報は、以下もご覧下さい。
・賃貸不動産の家賃滞納トラブルで最速に強制退去させる方法を弁護士が解説
・家賃滞納時の賃料回収方法を解説!賃貸物件所有者、管理会社は必読!
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今回の記事で書かれている要点(目次)
1,家賃滞納による明渡しの強制執行とは?
家賃滞納による明渡しの強制執行とは、法律上の手続きにより家賃滞納者を強制的に退去させる手続きです。民事執行法第168条で定められている「不動産の引渡し等の強制執行」に該当します。
▶参考情報:民事執行法条文
第百六十八条 不動産等(不動産又は人の居住する船舶等をいう。以下この条及び次条において同じ。)の引渡し又は明渡しの強制執行は、執行官が債務者の不動産等に対する占有を解いて債権者にその占有を取得させる方法により行う。
(以下、略)
・参照:「民事執行法」の条文はこちら
2,強制執行をするためには明け渡しを命じた判決が必要
明け渡しの強制執行をするためには、滞納者に内容証明郵便を送って賃貸者契約を解除したうえで、明け渡しを求める訴訟を起こし、明け渡しを命じる判決をもらうことが必要です。
判決をもらった後に明け渡しの強制執行を行うことになります。
つまり、以下の流れになります。
(1)強制執行を行うための流れ
- 1,内容証明郵便で賃貸借契約を解除
- 2,訴訟で明渡しを請求
- 3,判決
- 4,強制執行
この記事では上記の流れのうち、強制執行の部分について解説します。
内容証明郵便から判決までの流れは、以下で解説していますので参照してください。
明渡しを求める訴訟を起こすにあたっては、強制執行を見据えて、誰を訴えるのかをよく検討する必要があります。
例えば、賃貸借契約は妻名義で契約しているが住民票上の世帯主は夫であるというケースでは、妻だけでなく、夫に対しても訴訟を起こしておかなければ、夫の家財道具があった場合に強制執行できなくなるおそれがあります。
このように訴訟の訴えの段階で訴える相手に間違いがあると、強制執行に支障が生じますので、注意が必要です。
3,明渡しの強制執行の登場人物
明渡しの強制執行は、「裁判所の執行官」、「執行業者」、「弁護士」が協力して行うことになります。
それぞれの役割は以下の通りです。
(1)裁判所の執行官
裁判所の命令を受けて明渡しを実行する裁判所職員です。
(2)執行業者
トラックや作業者を手配して入居者が残した家財道具を運び出し、保管する業者です。
強制執行で部屋に入室する際には、原則として部屋の合鍵は使わず、開錠業者に開錠してもらう方法で入室します。また、マンションの中に家具類が残っているときは、部屋の外に運びださなければなりません。そして、強制執行が終わった後は鍵の交換が必要になります。
これらの仕事については専門の執行業者に依頼するのがスムーズです。事前に、執行業者を手配しておきましょう。
(3)弁護士
強制執行の申立書を提出し、執行官、執行業者と協力して明渡しを実現します。
4,明渡しの強制執行の手続の詳細
明渡しの強制執行の流れは以下の通りです。
強制執行の手続のフロー
- 1,強制執行の申し立てをする
- 2,明渡しの催告をする
- 3,明渡しを断行する
- 4,残置物を保管し、処分する
以下で順に見ていきましょう。
(1)強制執行の申し立てをする
裁判所に予納金を納付したうえで裁判所に強制執行の申立書を提出します。
申立書を提出すると、裁判所の執行官から、以下の点を聴かれますので、事前に確認しておきましょう。
- ひとり暮らしかあるいは家族がいるのか
- 入居者の健康状態、高齢者がいるかどうか
- 入居者が粗暴であるなど執行に対して抵抗が予想されるかどうか
強制執行は、裁判所の執行官に家賃を滞納している部屋に行ってもらい、家賃滞納者を追い出して鍵を取り換えてしまう手続きです。
強制執行の当日の流れをスムーズにするために、裁判所の執行官との連携が必要です。予想される家具類の量なども事前に執行官に報告しておきましょう。
入居者については必ず住民票で家族構成を確認しておきましょう。また、入居者が危険な人物である場合は、警察への援助要請が必要になりますので、執行官に伝える必要があります。
(2)明渡しの催告をする
強制執行を申し立てると、裁判所から明渡しの催告の日が指定されます。
「明渡しの催告」とは、裁判所の執行官が、実際に明渡し現場に行って、入居者に対して明渡期限について説明する手続です。
通常は、10分から20分程度で終了します。
執行官は建物が強制執行の対象となっていることを記載した「公示書」を建物内に貼り付けて、入居者には強制執行の日時を記載した「催告書」を交付します。
部屋の中に入りますので、入居者が不在の場合や協力しない場合に備えて、鍵屋を同行させることが必要です。
このときに入居者がいる場合は、裁判所の執行官から入居者に対して、家財道具を撤去して明渡しの断行期日までに退去するように伝えます。
この明渡しの催告の際に、部屋の中にどのくらい家財道具があるかどうかを確認することが重要です。
家財道具の分量によって、入居者が家財道具を放置した場合に、その撤去を行うために必要なトラックの台数や作業者数を見積もることになります。
(3)明渡しを断行する
「明渡しの断行」とは、強制的に明渡しを実現する手続です。
明渡しの催告から約3週間後に明渡し断行を行います。
明渡しの断行には、建物内に残された家財道具類を運び出ための、トラック、段ボール、作業人員の手配が必要です。通常は執行業者と呼ばれる専門の業者を手配します。
平均的には約1時間から2時間程度で、建物内に残された家財道具を保管場所まで運び出します。保管場所を家主側で用意できない場合は、執行業者が依頼する倉庫に保管を依頼することになります。
部屋がゴミ屋敷になっている場合は、高価品が中に入っていないかどうかを1つずつ執行業者が確認する必要があります。そのため、通常の執行よりも作業人員数が増え、費用がかさみます。
(4)残置物の保管と処分
建物内の残置物は入居者が取りに来る場合に備えて1か月間、倉庫に保管することが原則です。
1か月間たっても取りに来ないときは、売却または廃棄することができます。
ただし、例えば入居者が長期間行方不明の場合や明らかにゴミしかおいていない場合など、入居者が取りに来ることが想定されないようなケースは、「即時売却」という手続をとることがあります。
この場合、明渡しの断行の場で残置物を売却できるので、保管をしなくてすみ、倉庫の費用を節約できるというメリットがあります。
執行にあたっては、保管場所を事前に確保しておくことも必要です。強制執行をしたマンションの部屋で家具類を保管することもできますが、そうなると保管中は、その部屋を賃貸に出せなくなり、リフォームなどもできません。そのため、執行業者に依頼するなどして別の保管場所を準備するのがベストです。
5,明渡しの強制執行に必要な期間は約5週間
強制執行の申し立てから明渡しの催告までが約2週間、明渡しの催告から明渡しの断行までが約3週間、合計で約5週間というのが一般的に必要な期間です。
その後、残置物の保管を1か月間することになりますので、最終的に執行が終わるまで2か月半くらいかかることになります。
入居者の健康状態が悪いなどの理由で人権上の配慮が必要なときは、入居者の保護を福祉事務所などに依頼し、生活保護を受けさせるなどして入居者が転居してから、明渡しの断行をすることになります。そのため、明渡しまでに通常よりも期間を要します。
6,明渡しの強制執行に必要な費用
明渡しの強制執行にかかる費用は、裁判所に支払う費用(予納金等)、執行業者に支払う費用、弁護士に支払う費用が主なものです。
このうち、執行業者に支払う費用は、執行業者の主な業務が入居者が残した家財道具の運び出しと保管になることから、入居者が残した家財道具の量によって費用が大きく変わってきます。
そのため、明渡し催告で部屋の中を見るまでは見積りをとることができませんが、一般的なケースでは50万円くらいになることが多いです。
その他、弁護士に支払う費用、裁判所に支払う費用などをあわせると、明渡しの強制執行におおむね100万円程度かかってしまうことが現実です。
7,明渡し断行後の事後処理
明渡し断行後の注意点についてもご説明します。
(1)鍵の交換
明渡しの断行後はすみやかに鍵を交換することが必要です。
鍵の交換を怠ると、一度強制退去させた滞納者が、再度、合鍵を使って部屋に入ることがあります。そうなると、再度、訴訟からやりなおすことが必要になってしまいます。
(2)家賃や執行費用の請求
強制執行にかかった費用の一部は、強制退去させた入居者に対して請求することが可能です。また、滞納している家賃の請求も可能です。
強制退去後に請求を予定している場合は、強制執行の手続きの中で、入居者に転居先を聴きだしておくことが必要です。
ただし、強制退去させた滞納者に家賃や執行費用を請求しても現実に回収することは簡単ではありませんので、費用対効果を考えて、請求するかどうかを検討する必要があります。
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主なサポート内容
- 家賃の督促、回収のご依頼
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記事作成弁護士:西川 暢春
記事作成日:2020年06月05日