借地の立ち退き交渉のことでお困りではないでしょうか?
借地の立ち退きは、借地人側に大きな決断を強いる交渉です。立ち退きの時期や立退料の算定をめぐって交渉がうまく進まず、長期化するケースが見られます。
短期決着のためには裁判手続きを利用せずに交渉で解決することが重要ですが、一方で、長期化が避けられない見込みとなったときは、早く裁判手続きに切り替えたほうがむしろ早期解決が可能になることもあります。
今回の記事では、借地の立ち退き交渉について、解説します。
この記事を最後まで読んでいただくことで、借地の立ち退きについての基本的なルールや立退料の相場、税務上の処理、合意に至った場合の書面の作り方等について理解することができます。
それでは見ていきましょう。
借地の立ち退きの交渉を当事者間でやろうとすると、双方に適切な妥協点がわからないうえ、交渉が感情的になり、こじれることになりがちです。借地の立ち退きの交渉については、交渉の早い段階で弁護士にご依頼いただくことをおすすめします。
咲くやこの花法律事務所では、立ち退きに関してご相談を受け、サポートを行ってきました。咲くやこの花法律事務所の実績の一部を以下でご紹介していますのでご参照ください。
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・立ち退き料の相場はどのくらい?4つのケースに分けて詳しく解説
・店舗の立退料。賃料10万円前後なら1000~1500万円が目安
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今回の記事で書かれている要点(目次)
1,地主都合の立ち退き要求には正当事由が必要
借地の立ち退きとは、「借地を地主自身が利用したいため」、「隣地と一体で借地を再開発したいため」あるいは「再開発してより高額な賃料を得たいため」などといった、地主側の事情で、借地人を立ち退かせることをいいます。
建物を建てることを目的とした借地には、借地借家法が適用されます(ただし、平成4年7月までに契約された借地については借地法が適用されます)。
借地借家法でも借地法でも、借地について地主の側から、契約の更新を拒否する場合は、正当事由が必要であるとしています。
つまり、地主は、土地賃貸借契約の契約期間が満了した場合でも「正当な理由」がなければ契約の更新を拒否して、立ち退きを求めることができません。
(1)正当事由には原則として立退料の支払が必要
前述の「正当な理由」は、地主自身が土地を使用したいということだけでは通常は認められません。
立ち退きを余儀なくされる借地人に対して一定の金銭的補償をしなければ、「正当な理由」を認めないとするのが多くの判例です。
このようなルールがあるため、地主側から、「正当な理由」があるとして立退きを求めるためには、借地人に対する金銭的補償(立退料)の支払が必要になってくるのです。
借地の立退料とは、地主都合で借地からの立ち退きを求める場合に、地主から借地人に支払う金銭です。この立退料を支払った場合は、地主が立ち退きを求めるために借地借家法上必要な「正当な理由」が認められやすくなります。その意味で、「立退料」は地主が立ち退きを求めるにあたって「正当な理由」を獲得するために支払をするという側面があります。
(2)借地からの立ち退きに立退料が不要な3つのケース
一方で、以下のケースでは立退料は不要です。
1,借地人側に地代の滞納などの契約違反があり、賃貸借契約を解除できる場合
地代の滞納や無断転貸などの契約違反がある場合は、地主は土地賃貸借契約を解除することにより、借地人に土地の明け渡しを求めることができます。この場合、立退料は必要ありません。
2,定期借地契約・一時使用目的の借地権・建物譲渡特約付借地契約の場合
「定期借地契約」や「一時使用目的の借地契約」、あるいは「建物譲渡特約付借地契約」の場合、土地賃貸借契約の更新がありません。
そのため、賃貸人は、契約期間が満了すれば、「正当な理由」があるかどうかにかかわらず、借地人に明渡しを求めることが可能であり、立退料は必要ありません。
3,建物を建てることを目的としない借地契約の場合
駐車場としての利用や、太陽光発電のための利用など、建物を建てることを目的としない借地については、借地借家法は適用されません。
そのため、更新を拒否する場合も、「正当な理由」は必要なく、立退料も必要ありません。
2,借地の立退料の決まり方
以下では、借地借家法に基づき、借地からの立ち退きを求めることについて正当な理由が必要になる場面における、立退料の決め方について、最近の裁判例をもとにご説明したいと思います。
結論から申し上げると、立退料を判断した裁判例では、まず「借地権価格」を算定した後で、借地権価格のうち何割かを「立退料」とするケースが多いです。
(1)借地権価格とは?
借地権価格とは、借地権者としての地位自体に認められる財産的価値です。
前述の通り、借地人の地位は、借地借家法という法律で保護されており、財産的価値があります。
立退きにより、借地人は借地人の地位を失うため、その補償としての立退料を決める際に、借地権価格を参考にする裁判例が多くなっています。
借地権価格の算定方法は裁判例によって様々ですが、最もオーソドックスな方法は、更地価格に借地権割合をかけて計算する方法です。
●参考計算式:更地価格 × 借地権割合 = 借地権価格
▶参考情報:借地権割合とは?
このうち、借地権割合は、土地の権利のうち、借地権者にどのくらいの権利があるかを示す割合のことです。
国税庁ホームページ「路線価・評価倍率表」で調べることができます。
都心の住宅地では借地権割合が60~70%程度になることが多く、商業地では80~90%程度になることが多いです。たとえば、更地価格が2億円で、借地権割合が70%の土地なら、借地権価格は2億円×70%=1億4000万円となります。
(2)借地権価格の何割を立退料とするか?
借地権価格が必ずしもそのまま立退料となるわけではありません。
借地権価格の何割程度を立退料と認めるかについては、以下の双方を考慮して、決められています。
- 「地主に借地利用を認める必要性がどの程度高いか」
- 「立ち退きを命じたときの借地人の負担の大きさ、困窮の程度」
最近の判例でも、「地主に借地利用を認める必要性が高い」として立退料を借地権価格の2割程度としたものから、「立ち退きを命じたときの借地人の負担が大きい」ことを考慮して立退料を借地権価格と同額程度としたものまで様々です。
このように借地権の立退料は一律の相場があるわけではありません。
(3)立退料を決めるにあたっての考慮要素
前述の通り、「地主に借地利用を認める必要性の程度」と「立ち退きを命じたときの借地人の負担の大きさ」のどちらが大きいかによって、立退料の金額が大きく変わってきます。
具体的な考慮要素としては以下のようなもがあります。
1,地主側の事情について
例えば、再開発のために借地を利用する必要があることを理由に立ち退きを求める場合、以下のように判断される傾向にあります。
1−1,再開発計画が具体的に進んでいたり、他の借地人はすでに退去済みであるケース
→「地主に借地利用を認める必要性がある」と判断されやすくなります。
1−2,再開発の計画が具体的でなかったり、実現性が低い場合
→「地主に借地利用を認める必要性は低い」とされる傾向にあります。
また、地主が自分で借地を利用する必要があることを理由に立ち退きを求める場合は、以下のように判断される傾向にあります。
1−3,地主による具体的な予定があり、地主が他の不動産を所有していないケース
→「地主に借地利用を認める必要性がある」と判断されやすくなります。
1−4,地主が他に不動産を持っていて、借地以外の不動産を利用できる場合
→「地主に借地利用を認める必要性は低い」とされる傾向にあります。
2,借地人側の事情について
例えば、借地人が事業に借地を利用している場合、その事業が小さかったり、経営がうまく行っていないケースで、借地から立ち退いて移転すれば賃料負担が増えることが予想されるケースでは、借地人側の不利益が大きいと判断される傾向にあります。
また、借地人が借地を自宅用地として利用している場合、借地人に収入がなかったり、借地人が病気や障害があったりすると、立ち退きを強制することによる借地人側の不利益が大きいと判断される傾向にあります。
これらの場合には、立ち退きが認められなかったり、立退料が高額化する傾向にあります。
一方で、借地人が借地をあまり利用していない場合や、借地を利用していても他に移転することに大きな支障がない場合は、より低額の立退料でも立ち退きを認める傾向にあります。
3,実際立退料はいくらくらい必要か?
ここまでご説明してきた通り、借地の立退料には相場があるとはいえない状況です。
ただし、どのような事情の場合に、借地権価格の何割程度を立退料にするのかについて、過去の判例を参考にすることは有益です。
そこで、以下では、「借地上建物を借地人が利用中の場合」と「借地上建物を収益物件として利用中の場合」、「借地上の建物の利用があまりされていない場合」の3つにわけて、過去の判例における立退料の算定事例をご説明したいと思います。
(1)借地上建物を借地人が利用中の場合
借地上に借地人が建物を建てて利用中の場合、建物を建てた借地人に投下資本回収の機会を与えることを考慮する必要があり、特に賃貸期間がまだ短い場合は、立退料が高額になる傾向にあります。
1,借地を事業用地として利用中の事例
参考判例:
東京地方裁判所平成30年6月27日判決
全国規模のドラッグストアチェーン、ココカラファインの店舗用地として利用されている借地(更地価格3億1600万円相当)の立退料を1億3000万円と判断した事例です。
●地主側の事情
東京都の整備事業により、隣接地の大部分が用地買収されて、その残部を借地と一体利用するための再開発をしなければ、土地を有効利用できない。
●借地人側の事情
借地上に建設した店舗で営業中であるが、全国規模のドラッグチェーンであることを考慮すると、他への移転ができないわけではない。
店舗は築20年がたって改築が必要になり現状のまま維持できる状態ではない。
●立退料の算定
裁判所は借地権価格を約2億5200万円と評価したうえで、立退料を借地権価格の5割強にあたる1億3000万円と算定しました。
2,借地を自宅用地として使用中の事例
参考判例:
東京地方裁判所平成25年3月14日判決
住宅用地として利用されている借地(更地価格約8000万円)の立退料を5000万円と判断した事例です。
●地主側の事情
借地人から支払われている地代が月3万3000円と低額である一方で、大手スーパーマーケットが借地の利用を希望しており、このスーパーマーケットのために借地上に店舗を建築した場合は月額850万円の賃料が得られる見込みである。
●借地人側の事情
家族とともに借地上に自宅を所有して居住しており、他に不動産を所有しておらず、借地の利用を継続する必要性は高いが、移転先を見つけること自体は十分可能である。
●立退料の算定
裁判所は借地権価格を約5500万円と評価したうえで、立退料を5000万円と判断しました。
(2)借地上建物を収益物件として利用中の場合
借地人が借地上建物を収益物件として利用している場合で、賃貸開始後相当年数経過している場合は、すでに借地人として建物建設費用などの投下資本の回収が済んでいると判断され、立退料が低額化する傾向があります。
参考判例:
東京地方裁判所平成27年1月27日判決
収益物件用地として利用されている借地(借地権価格約2億9000万円)の立退料を5000万円と判断した事例です。
●地主側の事情
地主である建築資材販売会社が本社や倉庫の移転が必要になり、借地をその敷地として使用する必要性がある
●借地人側の事情
借地人は借地を自ら使用しておらず、借地上建物を借家と賃貸しており、借地人の借地利用の必要性は高くない。
借地契約締結から40年が経過し、借地人の投下資本回収に十分な期間が経過している。
●立退料の判断
裁判所は借地権価格を約2億8877万円と評価したうえで、立退料を5000万円と判断しました。
(3)借地上建物の利用があまりされていない場合
借地上建物の利用があまりされていない場合は、以下の2つの判例のように、立退料はさらに低額化する傾向にあります。
参考判例:
東京地方裁判所令和元年6月10日判決
借地上建物に誰も居住せず借地を利用していないことを理由に、立退料を借地権価格の2割相当の110万円と算定しました。
参考判例:
東京地方裁判所平成30年3月5日判決
借地上建物が一応倉庫として利用されているが、借地人には他にも倉庫があり、必ずしも借地を利用する必要性がないことなどが考慮され、立退料の支払を要しないと判断されました。
4,借地人が立ち退きを拒否できるケースもある
地主側が借地を利用する必要性が低い一方で、借地人側が借地を利用しなければ困窮が予想されるようなケースでは、地主は立退料を提供しても立ち退きを強制することができません。判例上も、このようなケースでは、借地人の立ち退き拒否を正当と認めています。
参考判例:
平成27年9月10日東京地方裁判所判決
地主側が相続税対策のマンション建設のために借地からの立ち退きを求めた事例について、借地上建物の借家人が家族ら7人で居住中であり、他に転居が困難であるとして、立退料にかかわらず立ち退きを強制できないとしたケース
参考判例:
平成23年5月25日東京地方裁判所判決
地主が他の土地とあわせた再開発のためとして立ち退きを求めた事例について、再開発計画の実現性が低い一方、借地人は借地上に建物を建築して長年、眼鏡店を営んでおり、借地利用を継続する必要性が高いとして、立退料にかかわらず立ち退きを強制できないとしたケース
参考判例:
平成23年3月11日東京地方裁判所判決
地主が自宅建築のために借地からの立ち退きを求めた事例について、地主は他にも不動産を持つ一方で、借地上建物に居住している借地人は無職で統合失調を患っており、立ち退きを強制されると困窮するとして、立退料にかかわらず立ち退きを強制できないとしたケース
5,立ち退きについて合意した場合は契約内容を書面化する
借地についての立ち退き交渉が合意に至ったときは、必ずその合意の内容を合意書面として書面化しておくことが必要です。
書面に記載すべき内容としては以下の点があります。
(1)合意書面の記載事項について
- 立ち退き日
- 立ち退きの方法(現状のまま立ち退くのか、更地にして立ち退くのか)
- 立退料の支払時期(立ち退き日に支払うのか、立ち退き後に支払うのか)
- 借地契約で敷金、保証金等を預け入れている場合はその返還額、返還方法
- 地主が借地上建物を買い取らないことで合意した場合はそのことを明記
- 地主が借地上建物を買い取ることで合意した場合はその金額や建物の瑕疵等についての借地人の責任の内容
- 地代が前払いされている場合は立ち退き日以降の期間に対応する地代の返還方法
6,地主から見た借地の立ち退き交渉のポイント
以下では、地主、借地人の双方の立場からの立ち退きに関する交渉のポイントについてご説明します。
まず、地主から見た重要ポイントについてご説明します。
(1)借地の立ち退きは借地契約の期間の確認が重要
借地契約の期間中であっても、立退料や立ち退き時期について、借地人と合意できれば、途中で立ち退きを実現することは可能です。
ただし、立ち退きについて借地人と合意ができず、裁判で立ち退きを求めることも視野に入れる場合は、借地契約の期間終了の更新のタイミングでなければそもそも立ち退きは認められません。
そのため、借地の立ち退き交渉では、借地契約の終了のタイミングを正しく把握しておくことが非常に重要です。
1,平成4年8月以降に契約された借地契約について
借地の更新のタイミングについてのルールはやや複雑です。
平成4年8月以降に契約された借地契約については、借地借家法が適用され、基本的には以下の通りです。
●1回目の更新のタイミング
1回目の更新は原則として賃貸開始から30年後です。
ただし、土地賃貸借契約書に30年よりも長い契約期間が記載されている場合はその期間が終わったタイミングが1回目の更新のタイミングになります。
必ず契約書を確認する必要があります。
●2回目の更新のタイミング
2回目の更新は、1回目の更新から20年後です。
ただし、土地賃貸借契約書で20年よりも長い更新期間が記載されている場合はその期間が終わったタイミングが2回目の更新のタイミングになります。
●3回目以降の更新のタイミング
3回目以降の更新のタイミングは、前回の更新から10年後です。
ただし、土地賃貸借契約書で10年よりも長い更新期間が記載されている場合はその期間が終わったタイミングが次の更新のタイミングになります。
2,平成4年7月までに契約された借地契約についての契約期間
平成4年8月以降に契約された借地契約については、借地法が適用され、前述のルールとは異なります。
借地法では、借地上の建物が鉄筋コンクリート造などの場合を堅固建物、木造建物などの場合を非堅固建物と呼び、そのどちらにあたるかでルールが異なります。
●借地上の建物が鉄筋コンクリート造などの堅固建物の場合
1回目の更新は原則として賃貸開始から60年後です。
ただし、土地賃貸借契約書に30年よりも長い契約期間が記載されている場合はその期間が終わったタイミングが1回目の更新のタイミングになります。
2回目以降の更新は、前回の更新から30年後です。
ただし、土地賃貸借契約書で30年よりも長い更新期間が記載されている場合はその期間が終わったタイミングが次の更新のタイミングになります。
●借地上の建物が木造建物などの非堅固建物の場合
1回目の更新は原則として賃貸開始から30年後です。
ただし、土地賃貸借契約書に20年よりも長い契約期間が記載されている場合はその期間が終わったタイミングが1回目の更新のタイミングになります。
2回目以降の更新は、前回の更新から20年後です。
ただし、土地賃貸借契約書で20年よりも長い更新期間が記載されている場合はその期間が終わったタイミングが次の更新のタイミングになります。
ここまでご説明したように、借地契約では更新のタイミングのスパンが非常に長いです。
そして、立ち退き交渉では更新のタイミングでなければそもそも裁判所で立ち退きを求めることができません。
一度更新のタイミングを逃してしまうと、次の更新のタイミングはかなり先になってしまいますので、注意してください。
(2)立退料を提示する
立退料を提示する場合は、まず、借地権価格がいくらぐらいになるのかを確認する必要があります。
そのうえで、地主側の借地が必要となる理由を整理したうえで、この記事でもご紹介した裁判例と比較しながら、自身のケースでは、借地権価格の何割程度が立退料となる見込みかを検討しておきましょう。
交渉での解決の場面では、必ずしも裁判と同じように考えて立退料を決める必要はありませんが、裁判をしたときにどのくらいの金額が立退料となりそうかを事前に検討しておくことは、交渉の場面でも非常に有用です。
(3)建物買取請求権にも注意が必要
借地の立ち退きでは、建物買取請求権にも注意が必要です。
借地人は、契約更新のタイミングで地主から土地賃貸借契約を終了されたときは、地主に対し、借地上の建物を時価で買い取ることを求める権利があります。
これが建物買取請求権であり、借地借家法第13条1項で定められています。
地主としては、立退料で合意しても、それとは別に、建物の買い取りを強制され、建物代金の支払義務を負うリスクがありますので、この点を踏まえて交渉することが必要になります。
(4)更新期限が近づいたら更新しない旨を通知する
立ち退き交渉の途中で、借地権の更新のタイミングが近づいた場合、地主から異議を述べなければ、法律上、自動的に更新されてしまいます。
そのため、更新期限が近づいたら、地主から更新しない旨を通知し、自動的に更新されることがないようにしておくことが必要です。
7,借地人から見た借地の立ち退き交渉のポイント
次に借地人から見た立ち退き交渉のポイントは以下の通りです。
(1)立ち退くかどうかの判断をする
借地人の立場からは、立退料をもらって立ち退くのか、それとも、立ち退きを拒否するかを決める必要があります。
立ち退きを拒否する場合は、地主が裁判を起こして立ち退きを求めてくる可能性があります。その場合、裁判所が立退料の支払と引き換えに借地人に立ち退きを命じる判決を出すことが想定されます。
ただし、地主が裁判で立ち退きを求めることができるのはあくまで契約更新のタイミングが来た場合に限られ、期間の途中で立ち退きを強制することはできません。
その意味で、次回の契約更新がいつなのかを確認しておくことは、借地人の立場からも重要です。
(2)借地利用の必要性についての説明をする
立ち退くことも視野にいれてその条件の交渉をする場合は、借地人としては借地利用の必要性があるということをしっかり説明することが必要です。
裁判例でも、立退料の決定にあたっては、借地人が借地から立ち退くことの困難さや立ち退くことによる不利益の大きさが、重要な判断要素とされています。
特に、借地を事業に利用している場合は、立ち退きになれば、営業上の利益が失われることを具体的な数字で示して交渉しなければなりません。
また、正当な立退料を獲得するためには、地主からの提示を受けて増額交渉するというスタイルではなく、借地人側から積極的に請求額を明確にして文書で請求を行い、交渉の主導権を握ることが必要です。
8,借地からの立退料に関する税務処理
立退料の税務については以下の通りです。
(1)立退料を受け取った借地人の税務処理
立ち退き料を受け取った借地人には譲渡所得税が課税されます。
ただし、譲渡所得税の計算において以下のような特例を適用することが可能です。
1,3,000万円控除
譲渡所得から、3,000万円の特別控除を受けることができます。
2,居住用財産の買換え特例
借地を立ち退き、あらたに住宅を購入したときは、譲渡所得税の課税を将来に繰り延べることができることがあります。
3,軽減税率の特例
借地の立ち退きにより、10年以上所有していた住宅を手放したときは、譲渡所得について通常よりも低い税率を適用できることがあります。
4,事業用財産の買換え特例
借地を立退き、あらたに事業用不動産を購入したときは、譲渡所得税の課税を将来に繰り延べることができることがあります。
(2)立ち退き料なしの場合の税務処理
立ち退き料なしで、借地から立ち退いた場合、借地人が地主に借地権を贈与したという扱いになり、以下の通り税務処理が必要になるケースがあります。
1,借地人が個人で地主も個人の場合
地主に贈与税が課税されます。
ただし、相当の地代が支払われていた場合や、借地上建物が著しく老朽化し借地権の価値がなかったといえるようなケースは課税がされません。
2,借地人が個人で地主が法人の場合
借地人に譲渡所得税の課税が、地主には受贈益課税が生じます。
ただし、相当の地代が支払われていた場合や、借地上建物が著しく老朽化し借地権の価値がなかったといえるようなケースは課税がされません。
9,咲くやこの花法律事務所なら「こんなサポート内容ができます。」
最後に咲くやこの花法律事務所の、借地の立ち退きトラブルに関するサポート内容をご案内します。
(1)地主側からの借地立ち退き交渉に関するご相談
咲くやこの花法律事務所では、借地の立ち退き交渉について、ご相談を承っています。
地主が立ち退き交渉をする場合、契約更新のタイミングを見極めること、借地人の利用状況を見極めること、裁判になった場合の立ち退き料の額について見込みをたてること、地主が借地を利用する必要性について資料を示して交渉すること、などさまざまな交渉のポイントがあります。
また、遅くとも立退きの3年前には交渉をスタートすることにより、期限ぎりぎりの交渉にならないようにすることも重要なポイントです。
立退料については、その金額の相場感に大きな幅があり、交渉の方法によって、結果も大きく変わってきます。
咲くやこの花法律事務所では、不動産トラブルに強い弁護士がご相談を承りますので、お困りの際はご相談ください。
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(2)借地人側からの借地立ち退き交渉に関するご相談
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特に長期間営業した店舗や事業用地を立ち退く場合、その経済的なデメリットは大きく、それに見合う補償を立退料として受領する必要があります。
ところが、地主側から提示される立退料は、裁判例などの基準と比較すると大幅に低い水準になっていることがほとんどです。
また、立退料について地主からの提示をベースに増額交渉を行うのではなく、賃借人側から自身の計算に基づく立退料を請求して交渉しなければ、正当な立退料を得ることができません。
咲くやこの花法律事務所では、「不動産トラブルに強い弁護士」がご相談を承りますので、お困りの際はご相談ください。
※咲くやこの花法律事務所は企業法務を扱う事務所であり、事業者からのご相談のみをお受けしています。個人の借地人からのご相談は承っておりません。ご了承いただきますようにお願いいたします。
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記事作成弁護士:西川 暢春
記事作成日:2023年1月26日