マタハラに関する法律、指針、裁判事例を解説!マタニティハラスメント防止のために必ずおさえておくべき注意点とは?

マタハラトラブル対策!妊娠従業員の労務管理
平成26年にマタハラ(マタニティハラスメント)に関し、女性従業員の使用者に賠償を命じた最高裁判所判決が話題になりましたが、その後「マタハラ(マタニティハラスメント)」に関する意識が急激に高まっています。

例えば、全国の労働局に寄せられるマタハラ(マタニティハラスメント)に関する相談件数はこの最高裁判所判決以降に急増し、平成27年には「4762件」となっています。

さらに、平成29年1月には、「男女雇用機会均等法」が改正され、法律上、企業に、「マタニティハラスメント防止のために必要な措置」をとることが義務付けられました。

このような動きの中で、マタハラ(マタニティハラスメント)を防止するための対応が遅れている企業については、今後、マタハラ(マタニティハラスメント)について企業の責任を問われるトラブルや裁判が増えてくることが予想されます。

そこで、今回は、急増するマタハラのトラブルについて、「基本的な法律の内容や厚生労働省の指針、裁判事例を解説し、マタハラ防止のために企業として必ずおさえておくべき注意点」についてご説明したいと思います。

 

今回の記事で書かれている要点(目次)

●マタハラ(マタニティハラスメント)に関する法律、厚生労働省指針とは?
●マタハラ(マタニティハラスメント)に関する法律、厚生労働省指針の基本的なルール
●【重要!】マタハラ防止のために企業が必ずおさえておくべき注意点とは?
-注意点1:妊娠中あるいは育児中の従業員の降格に関する注意点
-注意点2:妊娠中あるいは育児中の従業員の昇給抑制に関する注意点
-注意点3:妊娠中あるいは育児中の従業員の賞与支給に関する注意点
-注意点4:育児中の従業員の転勤に関する注意点
●【PICK UP!】特に注意!妊娠から出産までの労務管理の注意点
-妊娠から出産までの期間に関する労務管理の6つのルール
-妊娠から出産までの期間の労務管理をスムーズにすすめるためのポイント

 

マタハラ(マタニティハラスメント)に関する法律、厚生労働省指針とは?

マタハラ防止のために必ずおさえておくべき注意点のご説明に入る前に、まず、マタハラ(マタニティハラスメント)に関する法律、厚生労働省指針にどのようなものがあるかをご説明しておきたいと思います。

まず、「マタハラ」とは、以下のように定義されます。

マタハラ(マタニティ・ハラスメント)の定義

職場において女性労働者に対して行われる、「妊娠・出産、あるいは育児休業制度」等の利用を理由とする「不利益な取り扱い」や「上司・同僚からのいやがらせ」

 

そして、このマタハラ(マタニティ・ハラスメント)に関する法律は、主に以下の2つがあります。

●男女雇用機会均等法
●育児介護休業法

 

この2つの法律の概要はそれぞれ以下の通りです。

男女雇用機会均等法

職場における性別を理由とする差別の禁止などを定める法律です。

女性労働者の妊娠や出産を理由とする不利益な取り扱いの禁止等を定めており、この部分がマタハラ(マタニティ・ハラスメント)に関連する内容になります。

育児介護休業法

育児休業、介護休業などの制度を企業に義務付ける法律です。

育児休業制度の利用を理由とする不利益な取り扱いの禁止等を定めており、この部分がマタハラ(マタニティ・ハラスメント)に関連する内容になります。

 

さらに、マタハラ(マタニティ・ハラスメント)関係についての厚生労働省の指針、通達として、以下のものがでており、こちらもあわせておさえておく必要があります。

マタハラ(マタニティ・ハラスメント)関係についての厚生労働省の指針、通達

●事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針

●子の養育又は家族介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針

 

この2つの指針については、厚生労働省のホームページでその内容を確認することができます。

▶参考:厚生労働省のホームページに掲載されている2つの指針についてはこちら

以下では重要なポイントをご説明していきたいと思います。

 

マタハラ(マタニティハラスメント)に関する法律、厚生労働省指針の基本的なルール

それでは、前述したマタハラ(マタニティハラスメント)に関する法律や厚生労働省指針が定める基本的なルールの内容をご説明しておきたいと思います。

マタハラ(マタニティハラスメント)に関する法律、厚生労働省指針の基本的なルールとしておさえておきたいのは、以下の4点です。

マタハラ(マタニティハラスメント)防止に関する法律、厚生労働省指針の基本的な4つのルール

ルール1:
妊娠や産休取得、育休取得を理由とする不利益な取り扱いは法律で禁止されている。

ルール2:
育児休業からの復帰は、原職又は原職相当職への復帰が原則である。

ルール3:
転勤により育児が困難になる従業員については、転勤にあたり配慮が求められている。

ルール4:
企業にはマタハラ防止のために必要な措置をとることが義務付けられた。

 

以下で、順番に4つのルールの内容を見ていきましょう。

ルール1:
妊娠や産休取得、育児休業取得を理由とする不利益な取り扱いは法律で禁止されている。

女性従業員の妊娠や産休取得、育児休業取得を理由とする不利益な取り扱いは法律上禁止されています。
(男女雇用機会均等法第9条、育児介護休業法第10条)

「不利益な取り扱い」とは具体的には、以下のようなものが該当します。

「不利益な取り扱い」としてマタハラ(マタニティハラスメント)に該当するケースの例

・解雇、雇止め
・退職の強要
・正社員から非正規社員とするような契約内容変更の強要
・降格
・減給
・賞与における不利益な査定
・不利益な配置変更

 

妊娠や産休取得、育児休業取得を理由とする不利益な取り扱いは、マタハラ(マタニティハラスメント)の典型事例にあたりますので、確認しておきましょう。

ルール2:
育児休業からの復帰は、原職又は原職相当職への復帰が原則である

育児休業から従業員が復帰するときは、「原職」または「原職相当職」への復帰が原則とされています。
(育児介護休業法第22条とそれに関する厚生労働省の指針)

ここでいう、「原職」とは、育児休業前のもとの職のことを指します。
また、「原職相当職」とは、厚生労働省の通達において、以下の3つの条件のいずれをも満たす職とされています。

「原職相当職」に関する厚生労働省の通達における3つの条件

条件1:
休業後の職制上の地位が休業前より下回っていないこと。

条件2:
休業前と休業後とで職務内容が異なっていないこと。

条件3:
休業前と休業後とで勤務する事業所が同一であること。

 

原則として育児休業取得者を「原職」または「原職相当職」に復帰させることを企業に義務付けるこのルールは、育児休業からの復帰時に、下位の役職に降格させたり、職務内容や勤務場所を変更することを原則として認めないことを意味しています。

ルール3:
転勤により育児が困難になる従業員については、転勤にあたり配慮が求められている。

就業規則で従業員に転勤に応じる義務があることが定められている会社においても、転勤により育児と仕事の両立が困難になる状況にある従業員については、転勤命令を控えるなどの配慮をするべきことが企業に義務付けられています。
(育児・介護休業法第26条)

ルール4:
企業にはマタハラ防止のために必要な措置をとることが義務付けられた。

平成29年1月の男女雇用機会均等法改正で、企業にはマタハラ防止のために必要な措置をとることが義務付けられました。
(男女雇用機会均等法第11条の2)

具体的には、企業がとるべき措置として、以下の措置が、義務付けられています。

平成29年1月の男女雇用機会均等法改正により企業に義務付けられた「マタハラ防止措置」の内容

1,マタハラを許さないという企業方針の明確化及びその周知・啓発
2,マタハラが起こった場合に 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
3,マタハラの申告があった場合の迅速かつ適切な事後対応
4,マタハラの原因や背景要因を解消するための措置

 

このうち、特に「1」の「マタハラを許さないという企業方針の明確化及びその周知・啓発」に関連して、就業規則においてもマタハラを懲戒事由に入れるなどの就業規則変更が必要になります。この点については、「育児介護休業法、雇用機会均等法改正に伴う就業規則改訂の重要ポイント!」の「ポイント6」で詳しくご説明していますので、確認してください。

以上、マタハラ(マタニティハラスメント)に関する法律や厚生労働省指針が定める基本的なルールとして、4つのルールをおさえておきましょう。

 

【重要!】マタハラ防止のために企業が必ずおさえておくべき注意点とは?

それでは、マタハラ(マタニティハラスメント)に関する法律、厚生労働省指針の基本的なルールを踏まえたうえで、企業がマタハラ防止のために必ずおさえておくべき注意点を見ていきましょう。

注意点として、以下の4つをおさえておきましょう。

企業がマタハラ防止のために必ずおさえておくべき4つの注意点

注意点1:
妊娠中あるいは育児中の従業員の降格に関する注意点

注意点2:
妊娠中あるいは育児中の従業員の昇給抑制に関する注意点

注意点3:
妊娠中あるいは育児中の業員の賞与支給に関する注意点

注意点4:
育児中の従業員の転勤に関する注意点

 

以下で順番に見ていきましょう。

 

注意点1:
妊娠中あるいは育児中の従業員の降格に関する注意点

まず、「妊娠中あるいは育児中の従業員の降格に関する注意点」として、以下の点をおさえておきましょう。

妊娠、出産、育児休業を契機とする降格はたとえ本人の同意があっても違法となる場合がある。

妊娠、出産、育児休業を契機とする降格は、前述した「ルール1」の「妊娠や産休取得、育児休業取得を理由とする不利益な取り扱いは法律で禁止されている。」に反しています。また、「ルール2」としてご説明した「育児休業からの復帰は、原職又は原職相当職への復帰が原則である。」ことにも反します。

そのため、妊娠、出産、育児休業を契機とする降格は、原則として「違法」です。

例外的に合法となるのは、以下のいずれかの場合です。

妊娠、出産、育児休業を契機とする降格で例外的に合法となるケース

ケース1:

業務上の必要性から降格をせざるを得ない状況であり、かつその業務上の必要性が、従業員を降格させることによる不利益を上回ると判断されるケース

ケース2:

従業員が降格に同意しており、かつ、一般的にも誰しもが同意するのが通常であるといえる客観的状況にあると判断されるケース

 

このルールからもわかるように、従業員本人が降格に同意していたとしても、一般的にみて誰しもが同意するのが通常であると言えるような客観的状況にあるとまではいえない場合には、降格は違法となります。

例えば、降格により給与が下がる場合で、かつ降格が一時的なものではなく元の地位への復帰が未定であるというようなケースでは、仮に従業員本人が降格に同意していたとしても、「一般的にみて誰しもが同意するのが通常であると言えるような客観的状況にあった」とは言えませんので、降格は違法となります。

この点については平成26年に最高裁判所で重要な裁判例が出ていますので、裁判事例もご紹介したいと思います。

最高裁判所の判例紹介

裁判事例
広島中央保健生活協同組合事件判決
(最高裁判所平成26年10月23日判決)

事案の概要:

この裁判事例は、病院に勤務していた女性従業員が、妊娠を機に、身体的負担の軽い業務への配置換えを希望し、病院側もこれを聴きいれて配置換えをしたが、その際に病院がこの女性従業員を降格させたことが問題になったケースです。

配置換えをした後の部署について、配置換えの前にこの女性従業員が就いていた「副主任」の役職と同じポストがなく、この女性従業員を配置換え前と同じポストにつけることができなかったということが、降格の主な理由でした。

なお、この女性従業員は配置換えの希望を申し出た際には、配置換え後の降格についての説明を病院から受けておらず、後日、配置換えが決まってから降格についての説明を病院から受け、しぶしぶではあるが降格を承諾していました。

ところが、この女性従業員が育児休業から復帰した後も、病院がこの女性従業員を元の副主任の地位に戻さなかったことから、女性従業員が病院に対して損害賠償を求めたのがこの事件です。

裁判所の判断:

裁判所は、この女性従業員は降格についてしぶしぶ承諾したものにすぎず真の意味での承諾があったとはいえないとして、降格を違法と判断し、女性従業員に対して賠償することを病院に命じました。

この裁判例は、「判例ニュース」でもご紹介していますので、あわせてご確認ください。

会社には、女性従業員が妊娠を機に、より負担の軽い業務への配置換えを希望したときには、これに応じる義務があることが労働基準法に定められています。(労働基準法第65条3項)

会社としては、女性従業員から配置換えの希望があったときに、女性従業員の負担軽減の必要や、配置転換先の部署の状況なども考慮して、女性従業員の降格を検討するということもあると思います。

そして、このような場合に、配置換えは女性従業員の希望によるものであることもあり、女性従業員が降格に同意していれば、降格させることも特段の問題はないのではないかと考えがちです。

しかし、この裁判事例でも明らかなように、「妊娠、出産、育児休業を契機とする降格はたとえ本人の同意があっても、マタハラに該当し、違法となる場合があること」に注意が必要です。

マタハラ・トラブルを回避するためには、妊娠、出産、育児休業を契機とする降格はたとえ本人の同意があっても避けることが最も望ましいです。業務の必要上どうしても降格させる必要がある場合は、「降格の理由、降格後の仕事の内容や給与面の待遇、降格後元の地位に戻るまでの期間について」、従業員に詳細な説明をしたうえで、降格について従業員の同意を得ることが必要になります。

まずは、妊娠中あるいは育児中の従業員の降格に関する注意点として、この点をおさえておきましょう。

 

注意点2:
妊娠中あるいは育児中の従業員の昇給抑制に関する注意点

次に、「妊娠中あるいは育児中の従業員の昇給抑制に関する注意点」として、以下の点をおさえておきましょう。

育児休業や育児短時間制度利用を理由に昇給をさせなかったり、昇給を抑制することは違法となる。

この点に関する実際の裁判事例としては次のようなものがあります。

判例紹介

育児短時間制度利用を理由に昇給を抑制したことが違法とされた裁判事例
(東京地方裁判所平成27年10月2日判決)

事案の概要:

この裁判事例は育児短時間勤務制度を利用して所定労働時間を8時間から6時間に減らして勤務していた従業員について、会社が、勤務成績に対する評価に応じた通常の昇給幅の4分の3しか昇給させなかったことが問題になったケースです。

裁判所の判断:

裁判所は、このような昇給抑制は、育児短時間勤務制度を利用した従業員に対する不利益な取り扱いにあたるとして、違法と判断し、会社に従業員に対する賠償を命じました。

 

さらに、この判決と類似した裁判事例として、「医療法人稲門会事件」(大阪高等裁判所平成26年7月18日判決)も、育児休業利用者に対する昇給抑制を定めた就業規則を違法と判断しています。こちらについては、「育休取得に関する判例ニュース」で詳しく解説していますのであわせてご参照ください。

会社が、育児短時間勤務制度を利用するなどして通常の従業員よりも仕事の時間が短かった従業員について、昇給を見送ったり、あるいは昇給幅を抑制するケースの背景には、昇給は1年間の職務経験を積みスキルアップしたことに対して行われるものであるという考え方があると思われます。

つまり、通常の従業員よりも仕事に従事する時間が短かった従業員については、その年度の職務経験の蓄積やスキルアップの機会が他の従業員よりも少なかったことを考慮して、昇給させるべきではない、あるいは昇給幅を抑制するべきであるという考え方です。

しかし、このような考えに基づき、会社が育児休業や育児短時間制度を利用した従業員について、昇給を行わず、または昇給を抑制することは、前述した「ルール1」の「妊娠や産休取得、育児休業取得を理由とする不利益な取り扱いは法律で禁止されている。」に反して、育児休業取得者や育児短時間勤務制度利用者に対して、昇給停止あるいは昇給抑制という不利益な取り扱いをしたことになってしまいます。

その結果、いわゆるマタハラ(従業員が男性の場合は、パタハラ)に該当し、違法であると判断されてしまうことに注意が必要です。

育児休業や育児短時間制度利用を理由に昇給をさせなかったり、昇給を抑制することは違法となることをおさえておきましょう。

 

注意点3:
妊娠中あるいは育児中の従業員の賞与支給に関する注意点

次に、「妊娠中あるいは育児中の従業員の賞与支給に関する注意点」として、以下の点をおさえておきましょう。

産休取得や育児休業取得を理由とする賞与の不支給は違法となる。

この点についても、実際の裁判事例を見ていきましょう。

産休取得を理由に賞与を支給しなかったことが違法とされた裁判事例

裁判事例
東朋学園事件
(最高裁判所平成15年12月4日判決)

事案の概要:

この裁判事例は、産休期間等を欠勤日数に含めたうえで算出した出勤率が90パーセント未満の従業員に対して一切賞与を支給しないこととする就業規則の規定の合法性が問題になったケースです。

裁判所の判断:

裁判所は、この就業規則の規定は、従業員に産休取得をためらわせる方向に強く働くものであり、産休制度を定めた労働基準法の趣旨に反するとして、違法と判断しました。そして、この最高裁判所の判断をうけて、東京高等裁判所は、会社に従業員に対する損害賠償を命じました。

 

この裁判事例からもわかるように、欠勤率が一定以上の従業員には賞与を支給しないことを就業規則で定めている場合に、産休取得や育児休業取得を欠勤期間として扱って、賞与を不支給とすることは違法と判断されています。

これは、前述の「ルール1」の「妊娠や産休取得、育児休業取得を理由とする不利益な取り扱いは法律で禁止されている。」ことに反して、産休取得者や育児休業取得者に対して、「賞与不支給」という不利益な取り扱いをしたことになってしまうためです。

一方、産休取得や育児休業取得により他の従業員よりも就業日数が少ない場合に、賞与を全部不支給とするのではなく、産休取得や育児休業取得の日数分の賞与を減額することは適法と判断されています。

産休取得や育児休業取得を理由とする賞与の不支給はマタハラ(マタニティハラスメント)に該当し、違法となることをおさえておきましょう。

 

注意点4:
育児中の従業員の転勤に関する注意点

次に、「育児中の従業員の転勤に関する注意点」として、以下の点をおさえておきましょう。

就業規則等で転勤に応じる義務があることが定められている場合であっても、病気の子の育児中であるなどのケースでは、転勤を命じることが違法とされることがある。

これは、前述の「ルール3」の「転勤により育児が困難になる従業員については、転勤にあたり配慮が求められている。」ことから導き出される結論です。

この点に関する実際の裁判事例として以下のものがあります。

育児中の従業員の転勤に関する判例紹介

育児中の従業員に転勤を命じたことを違法と判断した裁判事例
(東京地方裁判所平成14年12月27日判決)

事案の概要:

この裁判事例は、会社が、重症のアトピー性皮膚炎の2人の子を育児中の従業員に対して、東京から大阪への転勤を命じたケースです。この会社の就業規則には「従業員は正当の理由なくして、異動を拒んではならない。」と規定されていました。

裁判所の判断:

裁判所は、会社が転勤命令を出したのは大阪支社で退職者が出てその補充の必要があったためであり、転勤を命じなければならない業務上の必要性はあったと判断しました。しかし、従業員が共働きの妻とともに2人の重症アトピー性皮膚炎の子を育児中であり、一般の共働きの夫婦よりもはるかに育児負担が重く、それにもかかわらず、会社が転勤を命じたことは違法であると判断しました。

 

就業規則等で転勤に応じる義務があることを定めているケースでは、従業員は転勤に応じる義務があり、このことは育児中の従業員であっても基本的には変わりません。しかし、重度の病気の子を育児中であるなど、特に育児負担が重く、転勤を命じられると仕事と育児の両立が困難になるような従業員に対しては、就業規則に上記のような定めがあっても、転勤を命じることは違法と判断されています。

前述の「ルール3」としてご説明した通り、育児中の従業員については転勤についての配慮が法律上求められていますので、転勤を命じる前に育児の状況をよく確認することが必要です。

また、転勤については、「従業員の転勤に関するトラブルについて」で詳しく解説していますのであわせてご参照ください。

 

【PICK UP!】
特に注意!妊娠から出産までの労務管理の注意点

ここまでは、妊娠中、育児中の時期を通して、マタハラ防止のために企業が必ずおさえておくべき注意点についてご説明しました。

以下では、これらの時期の中でも特にマタハラ(マタニティハラスメント)のトラブルが起こりやすい場面である、「妊娠から出産までの労務管理」についてピックアップしてみていきたいと思います。

妊娠から出産までの労務管理に関する基本的な考え方としては、以下の点をおさえておく必要があります。

妊娠から出産までの労務管理に関する基本的な考え方

『従業員の妊娠により業務に支障が生じたとしても、解雇、降格、減給などをしてはならず、従業員の妊娠に伴う業務への支障は、会社で負担しなければならない』

この考え方は、最初に「ルール1」としてご説明した通り、男女雇用機会均等法で定められている法律上のルールでもあります。

女性従業員の妊娠は、会社にとって、さまざまな負担になります。たとえば、妊娠により体調の変化で業務効率がおちたり、身体を使う作業ができなくなることもあります。また、産婦人科の定期健診のために、欠勤しなければならないことも増えます。場合によっては、妊娠した従業員が残業ができなくなり、仕事の一部をほかの従業員に頼まなければならないこともあります。

しかし、このように妊娠のために従来と同様の仕事ができず、会社にさまざまな負担がかかるとしても、それを理由に妊娠した従業員を解雇したり、退職勧奨したり、あるいは降格、減給することは、マタハラ(マタニティハラスメント)に該当し、法律上禁止されています。

マタハラ(マタニティハラスメント)の典型例とされる、以下のようなケースは、すべてこの「基本的な考え方」に反しています。

マタハラ(マタニティハラスメント)の典型例

マタハラの典型例1:
妊娠したことにより、身体を使う仕事をいままでどおりに行うことができなくなったため、給与を減額するケース。

マタハラの典型例2:
妊娠後に育児休業を1年間とりたいと言われたが、「1年間も待てない」として解雇するケース。

マタハラの典型例3:
契約社員が妊娠し、つわりなどで体調が悪く業務に支障が生じたため、契約更新を断るケース。

 

このように、従業員の妊娠により業務に支障が生じたとしても、解雇したり、降格、減給することはしてはならないということを、妊娠から出産までの労務管理に関する基本的な考え方としておさえておきましょう。

 

妊娠から出産までの期間に関する労務管理の6つのルール

では、妊娠から出産までの期間において、(マタニティハラスメント)のトラブルを防ぐために、具体的にどのような点に注意すればよいのでしょうか?

マタハラ(マタニティハラスメント)のトラブルを防ぐための妊娠から出産までの労務管理のルールとして、以下の6つのポイントをおさえておきましょう。

女性従業員の妊娠から出産までの労務管理のルール6つのポイント

ポイント1:
身体的負担の軽い業務への配置換えについて

妊娠を機に、身体的な負担を減らすために、女性従業員が負担の軽い業務への配置換えを希望する場合は、会社はこれに応じなければなりません。(労働基準法65条3項)

たとえば、営業などの外回りの仕事から、身体的負担の軽い内勤業務への配置換えの希望があったときは、これに応じる必要があります。

妊娠した女性従業員から身体的負担の軽い業務への配置換えの希望があったにもかかわらず会社がこれに応じないことは、違法であり、損害賠償請求の対象となります。

これについては、日本航空の客室乗務員が妊娠を機に、身体的な負担の少ない地上勤務への配置転換を希望したのに認めらなかったことが「マタハラ(マタニティハラスメント)」にあたるとして、日本航空に対して訴訟を起こした事件が起こっており、平成29年1月現在も裁判係属中です。

ポイント2:
残業、深夜労働の免除について

妊娠中の女性従業員から残業等の免除の希望があったときは、残業や深夜労働をさせることはできません。(労働基準法66条2項、3項)

ポイント3:
定期健診への協力について

妊娠中の女性従業員が定期健診等を受診するために必要な場合は、出勤を免除するなどして時間を確保することができるようにしなければなりません。(男女雇用機会均等法12条)

ポイント4:
医師の指導による勤務時間の変更や勤務の軽減について

妊娠中の女性従業員が医師等から指導を受けた場合は、勤務時間の変更、勤務の軽減等の措置を講じなければなりません。(男女雇用機会均等法13条)

たとえば、「ラッシュアワーを避けて通勤したほうがよい」、「勤務時間を短縮したほうがよい」、「休憩の回数を増やしたほうが良い」などの医師の指導があれば、会社はこれに応じた対応をしなければなりません。

ポイント5:
産休の取得について

出産予定日から6週間以内の女性従業員が産前休暇を申請したときは、断ることができません。(労働基準法65条1項)

ポイント6:
妊娠を契機とする不利益処分の禁止について

妊娠を契機として、会社が従業員に対して、解雇・退職強要・雇止め・降格・減給などの不利益な取り扱いをすることはできません。(男女雇用機会均等法9条3項)

 

この「ポイント6」については以下の裁判事例が参考になります。

妊娠を契機とする不利益処分について損害賠償を命じた裁判例

裁判事例
私立幼稚園教諭解雇事件
(大阪地方裁判所堺支部平成14年3月13日判決)

事案の概要:

この裁判事例は、私立幼稚園の園長が、女性教諭から妊娠を伝えられ、「2学期及び3学期の業務もあるのに、妊娠という私事によって仕事が全くできない状態を作ったのは、社会人としても無責任だ」などと非難し、「育児休業中の代替教員をすぐに採用することは難しい」などと告げて、女性教諭を退職させたことが問題になったケースです。

裁判所の判断:

裁判所は、妊娠を理由とする退職の強要は、男女雇用機会均等法に反する違法な行為(マタハラ)であるとして、事業主に対し慰謝料等「280万円」の賠償を命じたうえで、教諭を幼稚園に復職させるように命じました。

 

この裁判事例のような妊娠を理由とする退職の強要や解雇のケースは、マタハラ(マタニティハラスメント)の典型例であり、裁判所で退職や解雇が無効と判断されて、企業が多額の金銭の支払いを命じられることが多いことをおさえておきましょう。

以上、「女性従業員の妊娠から出産までの労務管理のルール」に関する6つのポイントをご説明しました。

これらのルールは、いずれも法律上のルールであり、妊娠中の女性従業員に対しての配慮を義務付けるものです。そして、他の従業員にとっては、仕事の分担が増え、負担が増えるという側面があります。場合によっては、従業員の間で不公平感が生まれ、妊娠中の女性従業員に対しての嫌がらせやいじめにつながりかねません。

経営者が率先して、妊娠、出産を通じて働き続けることができる企業作りに取り組む姿勢を示し、他の従業員を説得して協力してもらうことが「マタハラ(マタニティハラスメントのトラブル)」を防ぐための重要なポイントとなります。

 

従業員の妊娠から出産までの労務管理をスムーズにすすめるポイント

それでは、以上述べた労務管理のルールについてのポイントを踏まえたうえで、さらに、妊娠から出産までの労務管理をスムーズにすすめるポイントも整理しておきましょう。

重要なポイントは以下の5つになります。

妊娠から出産までの労務管理をスムーズにすすめる5つのポイント

ポイント1:
女性従業員が妊娠した時は、早めに報告してもらえるような職場環境を作っておく。

できるだけ早く従業員の妊娠を把握し、妊娠中の業務の分担や産休・育休期間中の対応について検討することが、スムーズな労務管理のポイントです。

職場全体への報告は安定期に入ってから行うことが一般的ですが、少なくとも上司には妊娠がわかったらすぐに報告してもらえる環境を作っておくことが必要です。
日ごろから女性従業員とコミュニケーションの機会を作る工夫をしておきましょう。

ポイント2:
妊娠の報告を受けたら産休に入る時期や育児休業の予定について検討する。

妊娠の報告を受けたら、産休に入る時期について検討しましょう。
出産予定日の6週間前が法律上産休に入る時期になります。
また、出産後の育児休業の予定についても、本人の希望を確認しておきましょう。

ポイント3:
女性従業員が産休・育休期間中の代替人員確保の必要について検討する。

女性従業員が産休に続けて育休をとる場合は、1年以上の休業になります。また、産休だけで復帰する場合でも、3か月以上の休業になります。このように長期間休業することが一般的ですので、女性従業員の休業中に代替人員の確保が必要かどうかを検討しなければなりません。

新しい従業員を正社員採用することも1つの方法ですが、正社員採用すると、女性従業員の復帰後も雇用を継続することになり、人件費負担が増えることになります。

人件費の負担増を避ける必要がある場合は、派遣社員の受け入れや、業務のアウトソーシング、あるいは有期の契約社員の採用などを検討しましょう。

ポイント4:
女性従業員が産休に入るまでに、後任者への引継ぎを完了できるように、引継ぎの計画を作る。

産休に入る時期や産休中の業務の体制が決まったら、担当の業務を後任者に引継ぎできるように、引継ぎの計画を作り、実行に移していきましょう。

ポイント5:
産休に入ったら、社会保険の手続きをする。

産休中は、無給とするのが通常です。

産休中の社会保険料は、日本年金機構に「産前産後休業取得者申出書」を出せば免除されますので、忘れずに手続きを行いましょう。また、健康保険から賃金の3分の2相当額が出産手当金として支給されますので、手続きを行いましょう。

別の記事で「従業員の産休育休の際に会社が行う手続の方法について」は、詳しく解説していますのであわせてご確認ください。

 

以上、妊娠から出産までの労務管理をスムーズにすすめる5つのポイントについてご説明しました。

女性従業員の産休・育休期間中の業務の進め方について早めに検討し、代替人員が必要であれば早めに準備することが重要なポイントになりますのでおさえておきましょう。

 

まとめ

今回の記事では、マタハラ(マタニティハラスメント)に関する法律、厚生労働省指針を解説したうえで、マタハラ防止のために必ずおさえておくべき注意点として4つのポイントを裁判事例も紹介しながらご説明しました。

最後に結論をまとめておきたいと思います。

まず、マタハラ防止に関する法律、厚生労働省指針が定める基本的なルールとして、以下の点をおさえておきましょう。

●マタハラ防止に関する法律、厚生労働省指針が定める基本的なルール

ルール1:
妊娠や産休取得、育児休業取得を理由とする不利益な取り扱いは法律で禁止されている。

ルール2:
育児休業からの復帰は、原職又は原職相当職への復帰が原則である。

ルール3:
転勤により育児が困難になる従業員については、転勤にあたり配慮が求められている。

ルール4:
企業にはマタハラ防止のために必要な措置をとることが義務付けられた。

この4つのルールを踏まえたうえで、「企業がマタハラ防止のために必ずおさえておくべき4つの注意点」として以下の点をおさえておいてください。

●企業がマタハラ防止のために必ずおさえておくべき4つの注意点

注意点1:
妊娠中あるいは育児中の従業員の降格に関する注意点

「妊娠、出産、育児休業を契機とする降格はたとえ本人の同意があっても違法となる場合がある。」

注意点2:
妊娠中あるいは育児中の従業員の昇給抑制に関する注意点

「育児休業や育児短時間制度利用を理由に昇給をさせなかったり、昇給を抑制することは違法となる。」

注意点3:
妊娠中あるいは育児中の従業員の賞与支給に関する注意点

「産休取得や育児休業取得を理由とする賞与の不支給は違法となる。」

注意点4:
育児中の従業員の転勤に関する注意点

「就業規則等で転勤に応じる義務があることが定められている場合であっても、病気の子の育児中であるなどのケースでは、転勤を命じることが違法とされることがある。」

 

さらに、この記事では、特にマタハラ(マタニティハラスメント)のトラブルに注意を要する「妊娠から出産までの労務管理」について、とりあげてご説明しました。

以下の6つがポイントとなりますのでおさえておきましょう。

●女性従業員の妊娠から出産までの労務管理のルール6つのポイント

ポイント1:
身体的負担の軽い業務への配置換えについて

妊娠を機に、身体的な負担を減らすために、女性従業員が負担の軽い業務への配置換えを希望する場合は、会社はこれに応じなければならない。

ポイント2:
残業、深夜労働の免除について

妊娠中の女性従業員から残業等の免除の希望があったときは、残業や深夜労働をさせることはできない。

ポイント3:
定期健診への協力について

妊娠中の女性従業員が定期健診等を受診するために必要な場合は、出勤を免除するなどして時間を確保することができるようにしなければならない。

ポイント4:
医師の指導による勤務時間の変更や勤務の軽減について

妊娠中の女性従業員が医師等から指導を受けた場合は、勤務時間の変更、勤務の軽減等の措置を講じなければならない。

ポイント5:
産休の取得について

出産予定日から6週間以内の女性従業員が産前休暇を申請したときは、断ることができない。

ポイント6:
妊娠を契機とする不利益処分の禁止について

妊娠を契機として、会社が従業員に対して、解雇・退職強要・雇止め・降格・減給などの不利益な取り扱いをすることは禁止されている。

 

マタハラ(マタニティハラスメント)については、平成26年以降から大きな話題になり、トラブルも急増しており、まだ、就業規則の整備や、人事制度や給与制度などの社内体制の整備が法律に追い付いていないケースが多く見られます。妊娠中の従業員や産休中あるいは育児休業中の従業員、育児短時間勤務制度利用中の従業員に関する労務管理や就業規則の整備にお困りの際は、労務問題に強い弁護士が揃う「咲くやこの花法律事務所」までご相談ください。

 

マタハラに関して労務に強い「咲くやこの花法律事務所」の弁護士へのご相談

企業法務におけるお悩みは、企業法務に強い弁護士へ。「咲くやこの花法律事務所」へご相談下さい。

 

記事作成弁護士:西川 暢春
記事作成日:2017年1月30日

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