ここ数年で認知度もあがってきた「産休・育休」制度。
従業員が産休・育休を取得する際は、「社会保険の免除」や「給付金の支給」など、さまざまな国の特例制度が設けられているのをご存知でしょうか?
これらはいずれも会社や産休・育休をとる従業員のメリットになるものですが、申請しなければ恩恵を受けることはできません。
「気づいたら申請期限が過ぎていた」
ということになってしまうと、会社が本来免除される社会保険料を免除してもらえなかったり、従業員が本来もらえる給付金を受給できないなどの不利益が生じてしまいます。
そこで、今回は、「女性従業員の産休・育休の際に会社が行わなければならない手続」をまとめましたので、申請漏れがないようにするためにも、ぜひチェックしておきましょう。
なお、令和4年4月の育児介護休業法改正で育児休業をさらに利用しやすくするための改正が行われました。
この法改正については以下で解説していますのでご参照ください。
▼【動画で解説】西川弁護士が「令和4年4月育児介護休業法改正『男性版産休』について」を詳しく解説中!
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今回の記事で書かれている要点(目次)
1,女性従業員の産休から仕事復帰までの流れ
産休・育休の際に会社が行わなければならない手続についてご説明する前に、まずは、「産休に入ってから仕事に復帰するまでの流れ」を確認しておきましょう。
基本的には、以下の流れになります。
産休に入ってから仕事に復帰するまでの流れ
- 1,産前休暇
- 2,産後休暇
- 3,育児休暇
- 4,復帰
それぞれの期間は原則として次の通りです。
1,産前休暇
出産予定日の6週間前(双子以上の場合は14週間前)から出産当日まで
2,産後休暇
出産の翌日から8週間
3,育児休暇
産後休暇終了日の翌日から子供の1歳の誕生日まで
このうち、「産前休暇」と「産後休暇」をあわせて通常「産休」と呼ばれます。
ただし、以下の点をおさえておきましょう。
ポイント1:
産前休暇と育児休暇は希望者のみです。
産前休暇と育児休暇は希望者のみが取得することになります。
法律上必ず休まなければならないのは、産後休暇のみです。また、産後休暇中でも、産後6週間を経過後に医師が就労可能と認めた場合は、本人の希望により就業することができます。
ポイント2:
希望があれば会社は産休・育休を認めなければならない。
産前休暇、産後休暇、育児休暇のいずれも、従業員が希望すれば会社は断ることができません。
ポイント3:
育児休暇は2歳まで認めなければならないケースがある。
育児休暇は原則として子供の「1歳」の誕生日までですが、子供が「1歳」の時点で保育所に入所を希望しているが入所できない場合などの事情がある場合には、「1歳」の誕生日を超えた後も「1歳6か月」になる日まで会社は育児休暇を認める義務があります。
これに加えて、平成29年10月の「育児介護休業法の改正」によって、さらに育児休暇の延長が認められることになりました。
平成29年10月の育児介護休業法の改正による延長内容
子供が「1歳6か月」になる日まで育児休暇を取得している従業員について、子供が「1歳6か月」の時点で保育所に入所を希望しているが入所できない場合などの事情がある場合には、「2歳」の誕生日まで会社は育児休暇を認める義務があることが定められました。
この「2歳」までの育児休暇は、子供が「1歳6か月」になった時点で、さらに育児休暇延長を認めなければならない事情があるかどうかを基準に判断することになります。
これらの点を踏まえ、女性従業員から妊娠の報告を受けたときは、まずは、「産前休暇や育児休暇の取得の希望の有無」、「取得を希望する場合は希望する期間」を確認しておきましょう。
なお、男性の従業員も育児休暇を取得することができますが、男性には産休はないなど、女性従業員との違いがあります。
今回の記事では女性従業員の産休・育休についてご説明します。
2,従業員の産休育休の際に会社が行う手続のまとめ
それでは、最初に、会社の労務担当者が知っておかなければならない「従業員の産休育休の取得の際に会社が行う手続」についてまとめておきます。
女性従業員が産休育休の取得時に会社が行う手続は以下の通りです。
女性従業員が産休育休の取得時に会社が行う手続
1,産休に入ったら会社が行う手続
手続1:
産休中の社会保険料の免除手続
手続2:
出産手当金の申請手続
2,出産したら行う手続
育児休暇の取得の希望がある場合はその期間をいつまでにするかを確認する手続
3,育児休暇を開始したら会社が行う手続
手続1:
育児休暇中の社会保険料の免除手続
手続2:
育児手当金の受給資格の確認手続
手続3:
育児休業手当金の申請手続
4,育児休暇が終わったら会社が行う手続
手続1:
育児休暇の終了届
手続2:
社会保険料の報酬月額変更届
手続3:
厚生年金保険養育期間標準報酬月額特例申し出
このように、産休育休の取得の際に会社が行う手続は、「産休に入ってから行う手続」、「出産後に行う手続」、「育児休暇がスタートした時と終わった時にそれぞれ行う手続」があるので、会社の労務担当者は必ずチェックしておきましょう。
それでは、以下でそれぞれの手続について詳しく解説していきたいと思います。
3,女性従業員が産休に入ったら会社が行う手続について
それでは、「女性従業員が産休に入った時に会社が行う手続」からご紹介します。
産休に入った時に会社が行う手続は次の2つです。
産休に入った時に会社が行う手続
手続1:
産休中の社会保険料の免除手続
手続2:
出産手当金の申請手続
順番にその内容を見ていきましょう。
手続1:
産休中の社会保険料の免除手続
産休中の社会保険料を免除してもらうために行う手続です。
概要は以下の通りです。
手続の時期:
産休に入ったときに行いましょう。
遅くとも産休の期間内に行う必要があります。
手続の方法:
会社が管轄の年金事務所に必要書類を提出します。
手続のメリット:
産前休暇・産後休暇中の社会保険料が免除されます。社会保険料の従業員負担分、会社負担分の両方が免除されます。
手続2:
出産手当金の申請手続
産休中に給与をもらえない従業員が手当金の支給を受けるための手続です。
概要は以下の通りです。
手続の時期:
産休に入れば申請できます。
産休に入って1か月たったら初回の申請を行うことをおすすめします。
手続の方法:
会社が加入する健康保険に必要書類を提出します。
手続のメリット:
出産のために休み、無給となっていた期間について従業員に出産手当金が支給されます。
金額はその従業員の給与のおおむね「3分の2」に相当する金額が基準となります。
このように社会保険料の免除手続を行い、出産手当金の申請手続を行うことにより、従業員としても安心して産休をとることができます。
また、会社としても、産休期間中に社会保険料を負担したり、従業員の生活を心配することが必要なくなるというメリットがあります。忘れずに手続しておきましょう。
4,女性従業員が出産したら行う手続について
出産したら、子供が満1歳になる日が正確にわかりますので、従業員が育児休暇をとることができる期間が決まります。
そこで、女性従業員が出産したら、その従業員に、育児休暇の内容や手続、育児休暇中の待遇といった育児休暇制度についての説明をしたうえで、「育児休暇を取得するか、育児休暇を取得の希望がある場合はその期間をいつまでにするかを確認する手続」をしましょう。
法律上、従業員は育児休暇を取得するときは、育児休暇の「開始予定日」と「終了予定日」を明らかにして、会社に申し出をする必要があります。
通常は、育児休暇の開始予定日は産後休暇が終わる日の翌日、育児休暇の終了予定日は子供が「1歳」になる日となりますが、従業員が早期の復職を希望する場合は、これよりも短い期間でも問題ありません。
育児休暇の予定期間を明確にした育児休業申出書を提出させましょう。
なお、出産すると健康保険から従業員に、原則42万円の出産一時金が支給されますが、これは従業員自身に手続をしてもらうのがよいです。
5,女性従業員が育児休業を開始したら会社が行う手続について
続けて、「育児休暇が始まったら会社が行う手続」についてご紹介します。
育児休暇が始まったら会社が行う手続は、次の3つです。
育児休暇が始まったら会社が行う手続
手続1:
育児休暇中の社会保険料の免除手続
手続2:
育児手当金の受給資格の確認手続
手続3:
育児休業手当金の申請手続
順番にその内容を見ていきましょう。
手続1:
育児休暇中の社会保険料の免除手続
育児休暇中の社会保険料を免除してもらうために行う手続です。
概要は以下の通りです。
手続の時期:
従業員が育児休暇に入ったら行いましょう。
手続の方法:
会社が管轄の年金事務所に必要書類を提出します。
手続のメリット:
育児休暇期間中の社会保険料が免除されます。
従業員負担分、会社負担分が両方免除されます。
手続2:
育児休業給付金の受給資格の確認手続
育児休暇期間中の従業員が育児休業給付金の支給を受ける資格を確認するための手続です。
概要は以下の通りです。
手続の時期:
育児休暇を開始した日の翌日から受給資格の確認手続が可能です。
手続の方法:
会社が管轄のハローワークに必要書類を提出します。
手続のメリット:
「手続3」でご説明する育児休業給付金の受給資格があることを確認する手続になります。
手続3:
育児休業給付金の申請手続
育児休暇期間中の従業員が給付金の支給を受けるための手続です。
概要は以下の通りです。
手続の時期:
育児休暇開始後1か月たったときに初回の申請をすることをおすすめします。
その後1か月ごとの申請をおすすめします。
手続の方法:
会社が管轄のハローワークに必要書類を提出します。
手続のメリット:
育児休暇期間中、育児休業給付金が従業員に支給されます。
受給金額は、育児休暇開始後「6か月間」はその従業員の給与のおおむね「67%」に相当する金額、その後は「50%」に相当する額が基準となります。
このように社会保険料の免除手続を行い、育児休業給付金の申請手続を行うことにより、育児休暇期間中に社会保険料を負担したり、従業員の生活を心配する必要がなくなるというメリットがありますので、おさえておきましょう。
6,育児休暇が終わったら会社が行う手続について
最後に、「育児休暇が終わったら会社が行う手続」についてご説明いたします。
育児休暇が終わったら会社が行う手続は、次の3つです。
育児休暇が終わったら会社が行う手続
手続1:
育児休暇の終了届
手続2:
社会保険料の報酬月額変更届
手続3:
厚生年金保険養育期間標準報酬月額特例申し出
順番に内容を見ていきましょう。
手続1:
育児休暇の終了届
育児休暇中に社会保険料の免除を受けていた従業員が、育児休暇終了予定日前に育児休暇を終了した場合には、会社が日本年金機構へ育児休暇の終了を届け出る必要があります。
概要は以下の通りです。
手続の時期:
育児休暇が終了したとき
手続の方法:
会社が管轄の年金事務所に必要書類を提出します。
手続の効果:
育児休暇中の社会保険料の免除が終了します。
手続2:
社会保険料の報酬月額変更届
育児休暇終了後の社会保険料を、育児休暇終了後の給与にあわせた金額に変更する手続です。
概要は以下の通りです。
手続の時期:
育児休暇から復帰後3か月が経過したとき
手続の方法:
会社が管轄の年金事務所に必要書類を提出します。
手続の効果:
育児休暇終了日の翌日が属する月以後「3か月間」の給与の平均額に基づき、「4か月目」以降の従業員の社会保険料を改定することができます。
特に、育児休暇後に短時間勤務で復帰したことにより給与が以前より下がっている場合に、その下がった額に応じた社会保険料にすることで、社会保険料を減額することができます。
手続3:
厚生年金保険養育期間標準報酬月額特例の申し出
短時間勤務により社会保険料の納付額が減る場合でも、将来その従業員が受け取る年金額が減らないようにするための手続です。
概要は以下の通りです。
手続の時期:
通常、「手続2」の社会保険料の報酬月額変更届と同時に行います。
手続の方法:
会社が管轄の年金事務所に必要書類を提出します。
手続の効果:
短時間勤務により年金保険料の納付額が減る場合でも、将来その従業員が受け取る年金額が減らないようにすることができます。
なお、「手続2」の「社会保険料の報酬月額変更届」の手続によって、復帰後「4か月目」の社会保険料から、育児休暇終了後の給与にあわせた金額に変更することができますが、それまでの「3か月間」は社会保険料は育児休暇前の報酬月額に基づいて計算されてしまいます。
そのため、短時間勤務での復帰の場合は、「短時間勤務により給与は減るが、社会保険料は3か月間は以前のまま」ということになってしまいます。
この点については制度上やむを得ないことなので、従業員に説明をしておくことが必要です。
以上、育児休暇が終わったら会社が行う手続についてもおさえておきましょう。
7,まとめ
今回は、女性従業員の産休から仕事復帰までの流れについてご説明したうえで、産休から育児休暇を終えて仕事復帰までの間に会社で必要になる手続についてご説明しました。
社会保険料の免除や支給金の申請は、会社にとっても、従業員にとってもメリットがありますので、忘れず行いましょう。
なお、今回の記事は、2017年10月までの法改正による制度を前提にしたものです。
産休・育休関係については制度変更、法改正が多い分野の1つですので、今後の変更にも注意しておきましょう。
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記事作成弁護士:西川 暢春
記事更新日:2021年03月19日