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会社の賞与査定が不当にならないために確認すべき法律上のルールとは?

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  • 会社の賞与査定が不当にならないために確認すべき法律上のルールとは?
    • 西川 暢春(にしかわ のぶはる)
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      西川 暢春(にしかわ のぶはる)

      咲くやこの花法律事務所 代表弁護士
    • 出身地:奈良県。出身大学:東京大学法学部。主な取扱い分野は、「問題社員対応、労務・労働事件(企業側)、クレーム対応、債権回収、契約書関連、その他企業法務全般」です。事務所全体で400社以上の企業との顧問契約があり、企業向け顧問弁護士サービスを提供。

    経営者にとっては悩みがひとつ増える、夏の賞与の査定時期が近づいてきました。

    賞与の額の決定方法については、「基本給の数ヶ月分というように、基本給に連動する形で計算式が定型化されているケース」、「各従業員ごとに査定を行って賞与額を決めるケース」、「営業成績などと連動して賞与額が決まるケース」など、企業によりさまざまな方法があります。

    そして、一般に「賞与の額については、企業の裁量によって決めることができる」といわれることが多いです。

    しかし、このような考え方には注意が必要です。

    実際には、企業が賞与を減額したり、不支給としたことに対して、企業に損害賠償を命じた判例も多数出ています。

    そこで、今回は、賞与シーズンにあわせてトラブルを回避するために、会社の賞与査定が不当にならないために確認しておきたい法律上のルールについてご説明します。

     

    ▶【参考情報】労務分野に関する「咲くやこの花法律事務所の解決実績」は、こちらをご覧ください。

     

    ▼【動画で解説】西川弁護士が「不当査定は賠償対象に!賞与査定のルール」を詳しく解説中!

     

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    1,賞与についての基本的な考え方について

    賞与査定についての法律上のルールについてご説明する前に、最初に、法律面からみた「賞与についての基本的な考え方」をご説明したいと思います。

     

    (1)裁判所の賞与に関する考え方

    裁判所は、賞与について『企業の営業実績や労働者の能率等諸般の事情により支給の有無及びその額が変動する性質のものである』としています。(東京地方裁判所平成6年11月15日判決)

     

    この判例を踏まえると、「賞与についての基本的な考え方」として、以下のことが言えます。

     

    (2)賞与についての基本的な考え方

    • 1,賞与は、会社の業績によって、不支給とすること、あるいは支給額を減らすことが可能である。
    • 2,賞与は、各従業員の勤務実績に応じて、不支給とすること、あるいは支給額を減らすことが可能である。

     

    このように、賞与の増額・減額、あるいは支給の有無について、企業に裁量が認められています。

    これは、「法律上、基本給や手当については、一度決めたら原則として減額できない」とされていることと比べて大きな違いがあります。

    ただし、上記の「基本的な考え方」は、賞与は「基本給の数ヶ月分」とか、「従業員の売り上げの数パーセント」などというように、賞与の計算方法を従業員に約束している企業にはあてはまりません。

    賞与の計算方法を従業員に約束している企業は、最低限その約束した金額は支給する必要があります。

    企業経営の立場からは、賞与については、人件費の調整弁としての要素をもたせるために、計算方法を固定化せずに、企業業績や従業員の勤務実績に応じて柔軟に決めることができるようにしておくことが合理的です。

    また、従業員ごとの賞与の査定についても原則として企業の裁量が認められます。

    そのため、査定は、従業員の勤務態度や勤務実績、能力、企業への貢献などをよく観察して行うべきですが、仮に低い査定をした従業員が異議を唱えることがあったとしても、会社の立場から低い査定とした理由を説明し、一度決めた査定は原則として翻すべきではありません。

    このように、「賞与については、支給の有無及び金額について企業に裁量が認められている」という基本的な考え方をおさえておきましょう。

     

    2,「不当査定」とならないために確認しておきたい法律上のルールとは?

    企業に裁量が認められている賞与の査定ですが、企業が完全に自由に賞与を決めることができるわけではありません。

    企業が査定して決めた賞与について、裁判所で「不当査定」と判断されて損害賠償命令を受けるケースも増えています。

    「不当査定」とならないためには、以下のルールを理解しておく必要があります。

     

    「不当査定」とならないための法律上のルール

    『特定の従業員について、他の従業員よりも特に低い査定をするときは、査定の理由を合理的に説明できるようにしておかなければならない。』

     

    このルールに反した場合は、以下のように、企業に損害賠償が命じられています。

     

    裁判例1:
    デザインの企画・制作会社の従業員に対する賞与減額について、裁判所が47万円の損害賠償を命じた事例

    (東京地方裁判所平成24年12月27日判決)

     

    事案の内容:

    この事件は、従業員がパンフレット等の誤植ミスを4回発生させて、会社に損害を与えたとして、会社が従業員の賞与を減額したケースです。

     

    裁判所の判断:

    裁判所は、賞与を減額された従業員が具体的にどのように誤植ミスに関与したのかについての説明が会社としてできていないとして、賞与減額は不当と判断し、平均賞与額と支給賞与額の差額の支払いを命じました。

     

    裁判例2:
    商社の営業社員に対する賞与減額について、裁判所が73万円の損害賠償を命じた事例

    (大阪高等裁判所平成25年4月25日判決)

     

    事案の内容:

    この事件は、営業社員が、当時所属していた大阪営業部の中で営業成績が最低であったことなどを理由に、会社が賞与を減額したケースです。

     

    裁判所の判断:

    裁判所は、賞与を減額された従業員は主に新規営業を担当しており、既存顧客に対する営業を担当していた従業員よりも粗利達成額が少なかったとしても必ずしも従業員の能力の問題ではないとして、不当な賞与減額と判断しました。

     

    裁判例3:
    製造業の営業統括部長に対する賞与減額について、裁判所が100万円の損害賠償を命じた事例

    (大阪地方裁判所平成9年1月24日判決)

     

    事案の内容:

    この事件は、営業統括部長が社内の機密情報を競合会社に持ち出したなどとして、会社が賞与を減額したケースです。

     

    裁判所の判断:

    裁判所は、機密情報持ち出しの事実は証拠上認められず、不当な賞与減額であると判断しました。

     

    これらの裁判例からもわかるように、特定の従業員にだけ特に低い査定をした場合に訴訟トラブルになるリスクがあり、しかも裁判所で査定の理由を合理的に説明できなければ損害賠償を命じられます。

    賞与査定のトラブルを防ぐために、以下の点について注意するようにしましょう。

     

    賞与査定のトラブルを防ぐために注意しておく4つのポイント

    ポイント1:
    従業員の問題行動を理由に賞与を減額するときは、本人や関係者に事情を尋ねるなどして、事実関係をよく把握したうえで、賞与の査定についても弁護士に相談して客観的な意見を確認しておく。

    ポイント2:
    従業員本人に対する「好き嫌い」など、感情的な理由で賞与を減額したと誤解されないように、言動に注意する。

    ポイント3:
    組合加入者について賞与を減額する際は、組合に加入したことが理由であると誤解されないように、適切な説明をする。

    ポイント4:
    賞与の査定内容については、従業員と個別に面談を行い、査定結果についての理由を説明する。

     

    裁判所で不当な査定と判断されてしまうと、単に金銭的な負担の問題だけでなく、会社の人事考課に対する社内の信頼が揺らぐ事態ともなりかねません。

    そのため、「不当査定」とならないための法律上のルールをおさえておきましょう。

     

    3,産休・育休取得者の賞与査定についての法律上のルール。

    先ほど、「不当査定」として損害賠償の対象となるケースについて説明しましたが、「産前産後休暇・育児休暇取得者」についての賞与査定についても注意すべきポイントがあります。

    産休・育休取得者の賞与査定についての法律上のルールとして以下の2つをおさえておきましょう。

     

    (1)産休・育休取得者の賞与査定についての法律上の2つのルール。

    • 1,賞与の対象期間中に産休・育休取得期間があったとしても、出勤していた期間がある限り、賞与を不支給としてはならない。
    • 2,産休・育休取得期間を考慮して、賞与を実際に出勤していなかった期間の割合に応じて、減額することは適法である。

     

    会社によっては、出勤率が一定以上の従業員にのみ賞与を支給することを就業規則で規定しているケースがあります。

    たとえば、「出勤率90パーセント以上の従業員にだけ賞与を支給する」というルールを就業規則で決めているようなケースです。

    この場合、ルール自体は合法ですが、「産休・育休」を欠勤扱いとして出勤率を算定して、産休・育休取得者に賞与の支払いをしないことは違法です。

    産休・育休取得を欠勤として扱って、出勤率が足りないことを理由に賞与を不支給としたケースでは、会社に損害賠償を命じた判決も出ていますので、注意が必要です。

    ただし、産休・育休取得期間を考慮して、賞与を、実際に出勤していなかった期間の割合に応じて減額することは問題ありませんので、この点も覚えておきましょう。

     

    4,就業規則や賃金規定で「賞与」に関する規定をおく場合におさえておくべき重要ポイント!

    最後に、就業規則や賃金規定で「賞与」に関する規定をおく場合におさえておくべきポイントをご説明します。

    具体的には、以下の2点になります。

     

    就業規則や賃金規定で「賞与」に関する規定をおく場合におさえておくべき2つのポイント。

    • 1,賞与の計算式を就業規則や賃金規定に書くべきではない。
    • 2,賞与支給日在籍要件を定めておく。

     

    以下、順番にご説明します。

     

    (1)賞与の計算式を就業規則や賃金規定に書くべきではない。

    賞与について就業規則や賃金規定で「基本給の数ヶ月分」と定めたり、「基本給の数ヶ月分に0.8から1.2までの査定係数を掛けて計算する」などと、賞与額の計算式を定めているケースがあります。

    しかし、これでは、企業の業績が悪化しても、就業規則や賃金規定で定めたとおりの賞与を支給する必要があり、賞与が本来持っている、人件費の調整弁としての役割が失われてしまいます。

    業績の良しあしにかかわらず、一定額以上の賞与を約束するような内容の規定は設けるべきではありません。

    過去の裁判例でも、賃金規定に支給額表を設けて賞与の支給額の計算式を規定していたケースでは、企業がその後経営難に陥った場合でも、賃金規定通りの賞与を支払う義務があると判断されています。

    このようなことから、就業規則や賃金規定の賞与についての規定は、以下のような内容にとどめておくことをお勧めします。

     

    ▶参考情報:賞与に関する規定例

    『賞与は、年2回、会社の業績及び当該従業員の勤務成績等を勘案して支給する。ただし、会社の業績あるいは当該従業員の勤務成績等により賞与を支給しないことがある。』

     

    また、採用面接などで、「賞与については◯か月分です」などと説明する場合も、たとえば「初年度の賞与については◯か月分を予定しています。」というように、説明の仕方を工夫し、次年度以降の将来にわたって一定額以上の賞与を約束したと受け取られないような説明をする必要があります。

     

    (2)賞与支給日在籍要件を定めておく。

    賞与支給日在籍要件とは、「賞与は、賞与支給日に在籍する従業員にのみ支給する。」という内容の規定です。

    このような規定は、裁判所でも有効とされています。

    「賞与支給日前に退職した従業員から賞与の支給を求められる」などのトラブルが起こらないようにするために、賞与支給日在籍要件を就業規則や賃金規定に定めておくことをお勧めします。

     

    この機会に、自社の就業規則や賃金規定を確認し、賞与に関する規定が適切かチェックしてみてください。

     

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    7,まとめ

    今回は、賞与査定の時期が近づいてきたことから、賞与についての基本的な考え方をご説明したうえで、賞与査定のルールについてご説明しました。

    賞与査定のルールについてのポイントを最後にまとめますと、以下のとおりになります。

     

    • (1)他の従業員よりも特に低い査定をするときは、合理的な理由付けがない限り不当査定として損害賠償を命じられるリスクがあること。
    • (2)産休・育休取得者について、産休・育休の取得を理由に賞与を不支給することはできないこと。
    • (3)就業規則や賃金規定に賞与に関する規定を設ける場合の注意点。

     

    賞与査定は賃金の中でも唯一、会社の裁量が認められる部分です。どのような点を評価して、どのような点を評価しないのかは、会社の重要な経営判断でもあり、各従業員と面接をして査定の内容を説明することは、従業員に会社の考え方を伝える良い機会になります。

    法律上のルールをおさえたうえで、賞与査定を企業経営に生かしていきましょう。

     

     

    記事作成弁護士:西川 暢春
    記事更新日:2021年06月02日

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