こんにちは、咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。
ストックオプションの導入について悩んでいませんか?
IPOを目指す企業においてはストックオプションを導入することが一般的です。例えば、2017年新規上場の27社はすべてストックオプションを発行していました。
一方で、ストックオプションの導入は、以下のような重要な注意点があります。
- 手続きに不備があると権利が行使できなくなり、権利の付与を受けた従業員らからの損害賠償請求を受けるリスクがある
- 思わぬ高額の税金がかかることがある
- IPOを実現できない場合に従業員の士気が下がってしまケースがある
今回は、非上場のベンチャー企業におけるストックオプション導入について、メリット、デメリット、注意点、導入手続きなどをご説明したいと思います。
ストックオプションの導入のためには、以下の点が必要です。
- 株主総会を適法に招集して、株主総会決議を行うこと
- 株主総会議事録を正しく作成すること
- 付与を受ける従業員や取締役との契約書を正しく作成すること
正しい手続きをしておかないと後でトラブルになります。株主総会議事録や契約書は弁護士に作成を依頼するか、あるいは弁護士のチェックをうけておきましょう。
咲くやこの花法律事務所において上場を目指す企業のストックオプション発行をサポートした事案について以下でご紹介していますので、あわせてご参照ください。
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今回の記事で書かれている要点(目次)
1,ストックオプションとは?
ストックオプションとは、会社の役員・従業員等に対して、あらかじめ決めた価格で、将来、会社から自社株を取得する権利を与える制度です。役員や従業員に対して企業の業績向上、企業価値向上、あるいはIPOに向けたモチベーションアップのための制度としてストックオプションが利用されることが多くなっています。この「あらかじめ決めた価格」(付与を受けた役員・従業員らが、ストックオプションの権利を行使して株式を取得する際に会社に払い込む価格)を「権利行使価格」と言います。
ストックオプションの権利を行使する段階で、会社がIPOを果たしており、株価が権利行使価格よりも高ければ、従業員は株価より安い価格で株式を取得できることになります。その結果、株式を売却すれば大きな利益を得ることができるケースが多いです。
このように「上場すれば株価より安く自社の株式を取得できる」という点がストックオプションの付与を受ける側の基本的なメリットになります。
では、企業側のメリットとしてはどのような点があるのでしょうか?
次の項目でみていきたいと思います。
2,非上場ベンチャーにおけるストックオプション導入のメリット
非上場ベンチャー企業において、ストックオプションを導入するメリットとしては、以下の点が挙げられます。
「現時点で財務に余裕がなく高い給与が払えない場合でも、IPOの場面で大きな利益を期待できるストックオプションを付与することで、IPOに向けた従業員・役員の士気向上を図ることができる」
IPOの場面で大きな利益を期待できるストックオプションを付与することで、今いる従業員や役員の離職を防ぐ効果も期待できます。また、外部の優秀な人材を採用する際にも、ストックオプションの付与を約束することで、上場を果たせば大きな金銭的利益が得られる会社であることをアピールすることができます。
その結果、現時点で高い給与を支給できず、給与面での魅力が出しにくい場合でも、外部人材の採用がしやすくなることが期待できるといえるでしょう。
3,導入のデメリット
一方で導入のデメリットとしては以下の点があげられます。
- 会社にIPOの見込みがなくなった場合にはストックオプションは意味がなくなり、従業員らの士気が下がる恐れがある
- 会社がIPOを果たした場合に、ストックオプションを行使して多額の金銭的利益を得た従業員らが退職してしまう恐れがある
また、IPO後は、誰に何個のストックオプションを割り当てたかが公開されます。そのため、社員が、公開された割り当ての内容を見て不公平感、不満をもつということがないように、なぜそのような割り当て方をしたかについて、将来説明できるような決め方をしておくことが必要です。
例えば、「発行時の役職」や「発行時点での在籍年数」などを基準に割当数を決めると、IPO後に付与対象者や割当数が公開されたときも社内での説明がしやすいと思います。
4,ストックオプションの種類
ストックオプションの種類には大きく分けて、「無償ストックオプション」と「有償ストックオプション」の2種類があります。
非上場ベンチャー企業では、従業員には無償ストックオプション、取締役には有償ストックオプションを付与することが多くなっています。
以下でそれぞれについてみていきたいと思います。
(1)無償ストックオプションとは?
無償ストックオプションとは、ストックオプションを無償で発行するケースを言います。無償ストックオプションの典型例は、権利行使価格をストックオプション付与時の株式の時価に設定するケースです。
付与される従業員の立場からは、将来、IPOを果たし株価が高騰しても、現在の時価を基準に設定された権利行使価格で株式を取得できるため、その差額分がメリットになります。
1,税制適格要件を満たすように設計することがポイント
無償ストックオプションは、以下でご説明する「税制適格要件」を満たすように設計することが通常です。
これは、税制適格要件を満たさなければ、ストックオプションの権利行使をした段階で、権利行使時の株価と権利行使価格の差額分について利益を得たとして課税され、それが極めて高額になってしまうケースがあるためです。
税制適格要件を満たすように設計すれば、権利行使をした段階での課税がありません。
税制適格要件は以下の9つをすべて満たすことが必要です。
- (1)無償で発行されるストックオプションであること
- (2)付与の対象者が発行会社またはその子会社の取締役、執行役あるいは従業員であること
- (3)付与対象者が3分の1以上の株式を保有する大口株主あるいはその親族等でないこと
- (4)付与の決議をした後2年を経過する日から10年を経過する日までの間にストックオプションが行使されること
- (5)1年間の権利行使価格が1200万円を超えないこと
- (6)権利行使価格をストックオプション付与時の株式時価以上に設定していること
- (7)ストックオプションを第三者に譲渡しないこと
- (8)会社法の規定にのっとって適法に付与されたストックオプションであること
- (9)権利行使後に付与対象者が取得する株式について証券会社等に管理を委託すること
無償ストックオプションにおいては、高額の課税を回避するために、上記の税制適格要件にあてはまるように、ストックオプションの内容を設計することが重要です。
2,取締役は税制適格要件を満たすことが難しい
無償ストックオプションを取締役に発行することも理論上は可能ですが、税制適格要件を満たすことが難しいことが多いです。
例えば、オーナー社長については、前述(3)の「3分の1以上の株式を保有しないこと」という条件をクリアすることが難しいことが多いです。また、取締役については付与の数が多く、その結果、前述(5)の「1年間の権利行使価格が1200万円を超えないこと」という条件をクリアすることも難しいことが多いです。
そのため、取締役については、次の有償ストックオプションの導入を検討することが通常です。
(2)有償ストックオプションとは?
有償ストックオプションとは、付与を受ける取締役らがストックオプションの現在の価値にあたる金額を払い込むことを条件に、ストックオプションを発行するケースです。
その特徴は以下の通りです。
1,付与時に支払いが必要
有償ストックオプションは付与を受ける取締役が付与時のストックオプションの評価額を会社に支払います。これに対し、前述の無償ストックオプションは付与時に付与対象となる従業員とのお金のやり取りは発生しません。
2,業績達成条件を設定
有償ストックオプションは、取締役として達成すべき業績目標を設定し、この目標をクリアすることをストックオプション行使の条件とすることが通常です。これを業績達成条件といいます。
例えば、数年後の特定の決算期の営業利益が一定額以上になることなどを業績達成条件とするケースなど、業績達成条件の設定にはさまざまなバリエーションがあります。
3,公認会計士による評価が必要
有償ストックオプションでは、付与対象者が支払いをする額を決めるために、ストックオプションの価値の評価が必要になります。この評価は通常は公認会計士に依頼します。
その際、現在の会社の株式の価値だけでなく、業績達成条件をクリアしなければ行使できない権利であることも考慮して、価値を評価することになります。
業績達成条件が難しいものであればあるほど、行使することが難しい権利になりますので、価値の評価が低くなり、その結果、付与時に取締役らが支払う金額が少なくて済むことになります。
4,権利行使時の課税がない
有償ストックオプションは付与時にその公正な評価額を支払って付与を受けるため、これを権利行使して株式の発行を受けても、経済的な利益を得たという扱いになりません。
そのため、ストックオプション行使時の課税が生じないことが原則です。また、ストックオプションを行使して取得した株式を売却する際は、株式の譲渡益に対して課税がされますが、これも給与所得に対する税率と違い、約20パーセントの税率で済みます。
以上の点を有償ストックオプションの特徴としておさえておきましょう。有償ストックオプションは、業績達成条件を設定することで、取締役の業績達成意欲を高め、IPOを実現するためのインセンティブとするために利用されます。
5, ストックオプションの導入手順
ストックオプションを導入する場合、無償ストックオプション、有償ストックオプションともに、以下の手続きが必要です。
なお、以下では、株式譲渡制限会社を念頭にご説明しています。
「株式譲渡制限会社」とは、株主が、誰かに株式を譲渡する場合に、取締役会、あるいは株主総会の許可を得なければならないことが定款で定められている会社をいいます。
非上場企業のほとんどが株式譲渡制限会社です。自社が株式譲渡制限会社かどうかは、自社の定款あるいは登記簿謄本で確認することが可能です。
株式譲渡制限会社でストック・オプションを発行するための基本的な流れは以下の通りです。
(1)株主総会決議で募集事項を決定する
ストックオプションを発行するためには、まず発行するストックオプションの内容や数、割当日などの項目(募集事項といいます)を株主総会で決める必要があります(会社法238条2項 ※1)。定款や法律に定められた正しい方法で株主総会を招集し決議をすることが必要です。
もし、取締役にも無償ストックオプションを付与する場合は、上記の募集事項決定の株主総会決議とは別に、報酬決定の株主総会決議が必要になります。
取締役の報酬は会社法上、株主総会の決議で定めなければならず、無償ストックオプションは取締役への報酬にあたるためです(会社法361条1項 ※1)。
(2)従業員や取締役に通知して申込書面を提出してもらう
株主総会決議で募集事項が決まれば、それを新株予約権を付与する予定の従業員や取締役に通知して、従業員や取締役から申込書面を提出してもらうことが必要です(会社法242条1項、2項 ※1)。
(3)取締役会で付与決議を行う
次に、取締役会でストックオプションを誰に何個割り当てるかを決める決議を行います(会社法243条2項 ※1)。これを付与決議といいます。取締役会がない会社では株主総会での付与決議が必要になります。
(4)引受契約書を作成する
付与決議が終われば、ストックオプションの付与を受ける従業員、取締役と会社の間で「引受契約書」を作成します。
(5)新株予約権の払い込み
有償ストックオプションについては、会社が付与対象者から、払い込みを受けます(会社法246条1項 ※1)。
(6)新株予約権原簿の作成
会社はストックオプションの付与を受けた従業員や取締役の氏名や住所、新株予約権の内容や数などを記載した新株予約権原簿を作成することが義務付けられています(会社法249条 ※1)。
(7)新株予約権登記
最後に、ストックオプションの発行内容についての登記を行います(会社法911条3項12号 ※1)。
以上がストックオプションの導入手順になりますのでおさえておきましょう。
「株主総会招集通知」、「株主総会議事録」、「引受契約書」、「申込書面」などの書類については不備がないように弁護士のチェックを受けておいてください。
▶参考情報 ※1:「会社法238条2項」「会社法361条1項」「会社法242条1項、2項」「会社法243条2項」「会社法246条1項」「会社法249条」「会社法911条3項12号」の会社法の条文は以下をご参照ください。
6,ストックオプション導入に関する弁護士への相談とサポート内容
最後に、ストックオプションの導入についての、咲くやこの花法律事務所の企業向けサポート内容についてご紹介しておきたいと思います。
咲くやこの花法律事務所では、多くのベンチャー企業との間で顧問契約をご依頼いただいています。
ベンチャー企業のストックオプションについては、まずその内容を正しく設計したうえで、正しい手続きで株主総会を開き、導入手順を進めていくことが必要です。株主総会の招集手続きや、株主総会議事録あるいは引受契約書の内容などに不備があると、ストックオプションの効力が認められず、後日大きなトラブルに発展する危険があります。咲くやこの花法律事務所では、ベンチャー企業法務に強い弁護士がご相談をお受けし、ストックオプション導入に必要な各種書類のリーガルチェックや書類の作成、その他のご相談をご依頼いただくことが可能です。
ストックオプションの導入についてお困りの場合はぜひ咲くやこの花法律事務所にご相談ください。
弁護士費用例
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なお、ベンチャー企業向けの弁護士の選び方などは、以下の記事も参考にご覧ください。
7,「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法
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8,まとめ
今回は、非上場ベンチャー企業におけるストックオプションの導入について、導入のメリット、デメリット、ストックオプションの種類、ストックオプションの導入手順などをご説明しました。無償ストックオプション、有償ストックオプションの違いをよく理解し、正しい設計をすることが重要です。
記事作成弁護士:西川 暢春
記事更新日:2023年9月27日
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