こんにちは。咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。
コピー商品や模倣商品についてお悩みではありませんか?
模倣品対策に活用できる知的財産権として「意匠権」がありますが、この権利は模倣品対策において絶大な効果がある一方で、事前に登録して権利化することが必要です。
これに対し、不正競争防止法2条1項3号では、他人が作成した商品の形態を模倣し、その商品を譲渡したり貸し渡したり行為を不正競争行為として規制しており、これは意匠権の登録が無くても保護を受けることができます。
特にアパレル業界などのライフサイクルの短い分野における模倣品対策については、登録が必要な意匠権による対応がしづらいことがあり、不正競争防止法2条1項3号が果たす役割は重要なものとなっています。
この記事では、形態模倣について、該当するための要件や過去の判例についてご説明します。この記事を最後まで読めば、形態模倣行為に関する制度や事例、自社商品の模倣品対策について詳しく知ることができるはずです。
それでは見ていきましょう。
形態模倣についての不正競争防止法2条1項3号における保護期間は、国内での販売開始から3年間と限られているため、すぐに適切な対応を取らなければ保護期間を過ぎてしまう恐れがあります。
形態模倣の被害に遭った際は、できる限り早く弁護士にご相談いただき、速やかに販売の差止請求や損害賠償請求などの対応を取ることが重要です。
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今回の記事で書かれている要点(目次)
1,形態模倣とは?
形態模倣行為とは、他人が作成した商品の形態を模倣し、その商品を譲渡したり貸し渡したりする行為を言います。この形態模倣行為は不正競争防止法2条1項3号により、不正競争行為の一つとして定められており、要件を満たせば、損害賠償請求や販売差し止め請求、あるいは刑事罰の対象となります。
商品のデザインについては、通常は意匠権によって保護されますが、日用品雑貨やファッション等のライフサイクルが短く、新製品が短期間に次々に作られる分野の商品においては、意匠権取得のために出願料等のコストや手間をかけることが難しいという問題がありました。
▶参考情報:意匠権については、以下の記事で詳しく解説していますのであわせてご参照ください。
このような問題の解決策の1つとして、意匠登録がされていない商品の模倣行為については、不正競争防止法の形態模倣行為として差し止めや損害賠償請求をすることが可能です。
▶参考:不正競争防止法2条1項3号
第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
三 他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する行為
・参照元:「不正競争防止法」の条文
2,不正競争防止法の形態模倣に該当するための要件
次に、形態模倣に該当するための要件について解説します。
不正競争防止法で規制される形態模倣に該当するための要件としては、大きく分けて「模倣の対象が商品の形態であること」、「模倣すること」、「譲渡や貸し渡し等の行為であること」の3点があります。
以下で詳しく説明します。
(1)模倣の対象が商品の形態であること
まず一つ目の要件は、模倣の対象が商品の形態であることです。
この「商品の形態」については、不正競争防止法2条4項により、「需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様、色彩、光沢及び質感」であると定義されています。
▶参考:不正競争防止法2条4項
4 この法律において「商品の形態」とは、需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様、色彩、光沢及び質感をいう。
・参照元:「不正競争防止法」の条文
また、商品全体としての形態が、他の同種の商品と比べて特徴のない、いわゆる「ありふれた形態」については、「商品の形態」に該当しないと判断した裁判例があります(東京地裁平成24年12月25日判決)。
▶参考:東京地方裁判所判決平成24年12月25日
「……このような不競法2条1項3号の規定の趣旨に照らすならば,同号によって保護される「商品の形態」とは,商品全体の形態をいい,その形態は必ずしも独創的なものであることを要しないが,他方で,商品全体の形態が同種の商品と比べて何の特徴もないありふれた形態である場合には,特段の資金や労力をかけることなく作り出すことができるものであるから,このようなありふれた形態は,同号により保護される「商品の形態」に該当しないと解すべきである。」
(2)模倣
次に、二つ目の要件は、「模倣すること」です。
「模倣」については、不正競争防止法2条5項により、「他人の商品の形態に依拠して、これと実質的に同一の形態の商品を作り出すこと」と定義されています。ここでいう「模倣」に該当するためには、「依拠性」と「実質的同一性」の2つの要件を満たす必要があります。
1,依拠性
模倣に該当するための要件の一つが、作り出された商品が他人の商品の形態に依拠していることです。
この「依拠」について、裁判例では、「他人の商品形態を知り、これを形態が同一であるか実質的に同一といえる程に酷似した形態の商品と客観的に評価される形態の商品を作り出すことを認識していること」を指すと判示されています(ドラゴンソードキーホルダー不正競争事件、東京高等裁判所判決平成10年2月26日)。
つまり、他人の商品を知らないまま自社商品をデザインしたら、たまたま似た形態になってしまったというのは、依拠性がないため、形態模倣にあたりません。
2,実質的同一性
もう一つの要件が、他人の商品と比較した際、形態に実質的な同一性があることです。
この「実質的同一性」については、「作り出された商品の形態が既に存在する他人の商品の形態と相違するところがあっても、その相違がわずかな改変に基づくものであって、酷似しているものと評価できるような場合には、実質的に同一の形態であるというべきであるが、当該改変の着想の難易、改変の内容・程度、改変による形態的効果等を総合的に判断して、当該改変によって相応の形態上の特徴がもたらされ、既に存在する他人の商品の形態と酷似しているものと評価できないような場合には、実質的に同一の形態とはいえない」と判示した裁判例があります(・参照元:ドラゴンソードキーホルダー不正競争事件、東京高等裁判所判決平成10年2月26日)。
(3)譲渡や貸し渡し等の行為
三つ目の要件が、模倣した商品の譲渡や貸し渡し等の行為を行うことです。
不正競争防止法2条1項3号では、「模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する行為」を規制の対象としています。
このように、他社の商品を模倣する行為そのものは、不正競争防止法による規制の対象には含まれていません。
経済産業省は、商品の模倣行為自体を規制しない理由について、模倣行為自体を対象とすると、試験研究のための模倣行為まで対象とされる等、規制が過度になり妥当ではないためであると説明しています。(▶参照元:経済産業省 知的財産政策室編「逐条解説 不正競争防止法」令和元年7月1日施行版(84頁)(pdf))
3,形態模倣の規制の適用を除外される場合
上記の要件を満たしている場合であっても、以下の条件に該当する場合は規制の適用が除外されます。
(1)対象が商品の機能を確保するために不可欠な形態である場合
商品の形態であっても、それが「商品の機能を確保するために不可欠な形態」であるものについては、規制の対象にはなりません(不正競争防止法2条1項3号括弧書き)。
具体例としては、コンセントのプラグや換気口用のフィルター、ピアス孔用の保護具等があげられます。
商品の機能を確保するために不可欠な形態については、その形態を利用することができなければ市場への参入すらできなくなってしまうことから、特定の事業者だけに独占的利用を認めるのは競争上適切ではないとして、このように規制から除外されています。
(2)日本国内で最初に販売された日から起算して3年を経過した商品
「日本国内において最初に販売された日から起算して三年を経過した商品について、その商品の形態を模倣した商品」を譲渡する等の行為については、規制の対象外とされています(不正競争防止法19条1項5号イ)。
他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡等する行為が「不正競争」として規制されているのは、先行者が多大な資金や労力を投下して商品化した成果にただ乗りすることが競争上不正であることが理由です。
このような趣旨から、先行者が投資を回収し終わった後に不公正は生じないと考えられるため、保護期間は先行者の投資回収期間としての3年に限定されています。
なお、「最初に販売された日」の「販売」については、商品の売買契約だけでなく、その商品のサンプル品の出荷等も含まれるとされています。(▶参照元:経済産業省 知的財産政策室編「逐条解説不正競争防止法」令和元年7月1日施行版(235、236頁)(pdf))
▶参考:不正競争防止法19条1項5号イ
(適用除外等)
第十九条 第三条から第十五条まで、第二十一条(第二項第七号に係る部分を除く。)及び第二十二条の規定は、次の各号に掲げる不正競争の区分に応じて当該各号に定める行為については、適用しない。
五 第二条第一項第三号に掲げる不正競争 次のいずれかに掲げる行為
イ 日本国内において最初に販売された日から起算して三年を経過した商品について、その商品の形態を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する行為
・参照元:「不正競争防止法」の条文
(3)模倣商品の譲受人が模倣についての事実を知らなかった場合
模倣商品の譲受人が、商品の譲り受け時にその模倣についての事実を知らず、また知らなかったことについて重大な過失がなかった場合には、取引安全の保護のため、規制の適用は除外されます(不正競争防止法19条1項5号ロ)。なお、商品を譲り受けた後に模倣に関する事実を知った場合でも、この適用除外は維持されます。
▶参考:不正競争防止法19条1項5号ロ
(適用除外等)
第十九条 第三条から第十五条まで、第二十一条(第二項第七号に係る部分を除く。)及び第二十二条の規定は、次の各号に掲げる不正競争の区分に応じて当該各号に定める行為については、適用しない。
五 第二条第一項第三号に掲げる不正競争 次のいずれかに掲げる行為
ロ 他人の商品の形態を模倣した商品を譲り受けた者(その譲り受けた時にその商品が他人の商品の形態を模倣した商品であることを知らず、かつ、知らないことにつき重大な過失がない者に限る。)がその商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し、又は輸入する行為
・参照元:「不正競争防止法」の条文
このように、ある事実について知らないことを「善意」と言い、少し注意すれば簡単にある事実について知り得たにもかかわらず、これを見過ごすことを「重過失」と言います。知らなかったこと(善意)について重大な過失(重過失)が無いことは「善意無重過失」と呼ばれます。
(4)参考:「重過失」の有無の判断について
このように模倣商品を知らずに購入した事業者がさらに転売するといった事案の場合に、その事業者に不正競争防止法による差し止め請求等ができるかどうかは、その事業者に「重過失」がなかったかどうかに左右されることになります。
そして、ここでいう「重過失」の有無については、商品について取引をする際、一般的に要求される程度の注意義務を尽くした場合に、模倣についての事実を容易に知ることができたか否かを判断されます。判断にあたっては、商品の周知性や商品形態の特殊性、輸入者の業態等の事情が考慮されます。
以下で善意無重過失にあたると判断した事例と、重過失を認めた事例を一つずつご紹介します。
1,善意無重過失に当たると判断した事例
プチホルダー事件(東京地方裁判所判決平成20年7月4日)
●事案の概要
A社が製造し、B社が販売する商品(小物入れにプードルのぬいぐるみを組み合わせたもの)の形態を模倣した商品をC社が販売したとして、A、B社からC社に対し損害賠償請求と謝罪広告の請求がなされた事案です。
当該商品は直接C社で作られたものではなく、D社が企画・生産した商品をE社が仕入れ、それをC社がE社から購入し、自社の店舗で販売していました。
●裁判所の判断
裁判所は、以下の事情から「取引上要求される通常の注意を払ったとしても,原告商品の存在を知り,被告商品が原告商品の形態を模倣した事実を認識することはできなかったものというべきである」として、C社が善意無重過失であったと判断しました。
- C社の仕入れ担当部門が1年間で取り扱う商品数は12万点以上と多数に及ぶことから、商品の仕入れを行うに当たり企画や生産の過程に関与することはなく、商品の選定や販売数量、価格の決定のみを行っていたと認められること
- 膨大な数量の商品すべてについて、その開発過程を確認するとともに、形態が実質的に同一である同種商品がないかどうかを調査することは著しく困難であること
- A、B社の販売数量や販売金額は少数にとどまり、広告についてもウェブページや商品カタログに写真が記載されている程度であることから、一般的に広く認知された商品とは認められないこと
2,重過失を認めた事例
ファッション腕時計事件(東京地方裁判所判決平成11年6月29日)
●事案の概要
A社の腕時計の形態を模倣した商品を輸入し、販売していたB社に、差止め及び損害賠償請求がなされた事案です。B社は模倣商品の輸入にあたり、香港の業者のオリジナルデザインだと思っていたため、不正に輸入したという認識はなかったと主張しました。
●裁判所の判断
裁判所は以下の事情を考慮した結果、B社に重過失があったと判断しました。
- B社が時計の輸入販売を業とする有限会社であること
- A社が時計の分野において代表的な製造販売会社であり、A社の商品については、広く宣伝広告活動がされ、少なからぬ数量の商品が販売されていたこと
- A社の商品が従来の商品に見られない形態上の特徴を有するところ、B社の商品がいずれも対応するA社の商品の特徴を有し、その形態が極めて類似していること
- B社の商品について、その輸入に関する送り状は提出されているものの、輸入取引の際の状況を具体的に明らかにする証拠が何ら提出されていないこと
このように模倣商品であったことを知らなかったという主張が模倣商品の販売者からされた場合の「重過失」の有無の判断については、様々な事実が考慮されますが、その中でも、模倣された商品がどの程度認知されていたかという点が重要になることが多いです。
販売数量が多かったり、広告宣伝が広範にされていたりする場合、重過失が肯定されやすくなります。
4,保護期間はなぜ3年なのか?
上記の「3,形態模倣の規制の適用を除外される場合」でもご説明した通り、形態模倣における保護期間は3年に限定されています。
このように保護期間を3年と定めた理由について、経済産業省は、「国際的なハーモナイゼーションの観点から」であると説明しています。つまり、国際的制度との調和の観点から保護期間が3年とされています。
実際に、諸外国での事例として、欧州委員会における「共同体意匠に関するEC規則」では、模倣禁止権を付与する非登録デザイン権の導入につき、その権利期間をデザインの公表時から3年としているほか、韓国の「不正競争防止及び営業秘密保護に関する法律」第2条においては、「商品の試製品製作など商品の形態が備えられた日から3年が経過した商品の形態を模倣した商品を譲渡・貸与又はこのための展示をしたり輸入・輸出する行為」については不正競争行為には該当しないと定められています。(▶参照元:経済産業省 知的財産政策室編「逐条解説不正競争防止法」令和元年7月1日施行版(235頁)(pdf))
5,形態模倣に関する裁判例
次に、形態模倣に関する裁判例について、形態模倣に該当すると判断された事例と該当しないと判断された事例について、それぞれご紹介します。
(1)形態模倣に該当すると判断された事例
まず、形態模倣に該当すると判断された事例をご紹介します。
1.サックス用のストラップについて形態模倣に該当すると判断された事例(知的財産高等裁判所判決平成31年1月24日)
●事案の概要
B社の販売するサックス用のストラップが、A社の商品の形態模倣に該当するかどうかが争われた事案です。A社は、B社に対し商品の販売等の差止め及び廃棄と、880万円の損害賠償を請求しました。
●裁判所の判断
裁判所は、B社の商品とA社の商品の相違点については些細な相違にとどまることから、実質的同一性を認めたほか、B社はA社との取引を通じて簡単にA社の商品形態へアクセスする状態にあったことから、依拠性についても肯定されるとしてB社の商品を形態模倣に該当すると判断し、商品の差止め及び廃棄と、損害賠償請求のうち21万6981円を認めました。
以下はA社とB社それぞれのサックス用ストラップの写真です。
【A社のサックス用ストラップ画像】
【B社のサックス用ストラップ画像】
模倣された商品の形態が「商品の機能を確保するために不可欠な形態」や「ありふれた形態」である場合は、不正競争防止法の形態模倣にはあたらないとされています。この裁判例では、B社は、A社商品が「商品の機能を確保するために不可欠な形態」や「ありふれた形態」であると主張しましたが、裁判所はこの主張を認めず、B社に対して商品の差止め・廃棄と損害賠償を命じています。
2,婦人用コートについて形態模倣に該当すると判断された事例(東京地方裁判所判決平成30年8月30日)
●事案の概要
アパレル製品を取り扱うA社が、有名ファッションブランドを扱うB社に対し、A社の商品の形態を模倣した婦人用コートの譲渡等を行ったとして、損害賠償として6897万6004円の支払いを求めた事案です。
●裁判所の判断
裁判所は、A社商品とB社商品には多数共通点があり、フードの立体感や生地の質感等に若干の相違はあれどその違いは大きいものではなく、一般的な消費者が違いを直ちに認識できるとまではいえないとして、B社の商品は形態模倣に該当すると判断し、損害賠償請求のうち1041万7282円を認容しました。
以下はA社とB社それぞれの婦人用コートの写真です。
【A社の婦人用コート画像】
【B社の婦人用コート画像】
形態模倣といえるためには、模倣商品がオリジナルの商品に依拠して作成されたものであることが必要です。上記裁判例では、この点についても争われましたが、裁判所は、「ミリタリーパーカに属するコートであっても、フード、襟部、袖部といった相当数の個別の部分があり、全体的形態においても各個別的形態においても、それぞれ相当数の選択肢が存在するのであるから、これらが偶然に一致することは考えがたい。」として依拠性を認めています。
3,言葉を再生する機能を持つぬいぐるみについて形態模倣に該当すると判断された事例(大阪地方裁判所平成26年8月21日)
●事案の概要
日用品雑貨等の販売会社であるA社が、A社商品の形態を模倣した商品の販売等を行ったとして、B社に対し販売等差止め及び廃棄と3740万円の損害賠償を請求した事案です。
●裁判所の判断
裁判所は、A社商品とB社商品の形態は全体や顔のつくりが酷似しており、相違点については微々たるものであることから、実質的同一性を認めました。
また、依拠性についても、B社は以前A社の当該商品を仕入れ、小売店等に卸して販売しており、その後A社からの購入を中止し、B社でA社の商品の形態を模倣したとされる商品を販売していることや、取引先に対してA社商品の代替品であるが格安である等として購入を勧めていたことから、B社商品はA社商品に依拠して制作されたものと認められるとして、形態模倣に該当すると判断し、商品の差止め及び廃棄と、損害賠償請求のうち2653万8170円を認めました。
【A社のぬいぐるみ画像】
【B社のぬいぐるみ画像】
この裁判例の事案で、B社はA社のぬいぐるみとは異なる色のぬいぐるみも製造しており、B社はこの点を相違点として主張しました。しかし、裁判所は、「同じ商品であってもバリエーションとして異なる色‥があることは一般的に認められることであり、各商品の需要者たる消費者が異なる商品として覚知する要素ではない。」としています。このように商品の色が違うだけでは、形態模倣にあたらないとする根拠としては不十分であることに注意が必要です。
(2) 形態模倣に該当しないと判断された事例
次に、形態模倣に該当しないと判断された事例をご紹介します。
1,婦人用ブラウスについて実質的同一性が認められないことから形態模倣には該当しないと判断された事例(東京地方裁判所判決平成30年7月30日)
●事案の概要
婦人服の販売会社であるA社が、A社の商品である婦人用ブラウスの色以外の形態を模倣した商品の譲渡等を行ったとしてB社に対し、譲渡等の禁止と廃棄、3298万6800円の損害賠償を求めた事案です。
●裁判所の判断
裁判所は、商品のうち、特徴的であり購入者の目を引く部分は、フリル袖であるといえるところ、フリル袖の部分に相違があることから、商品全体の形態として対比した場合に、A社の商品とB社の商品が全体として酷似しているということはできず、B社の商品の形態は、A社の商品の形態と実質的に同一であると認めることはできないとして、請求を棄却しました。
以下はA社とB社それぞれの婦人用ブラウスの写真です。
【A社の婦人用ブラウス画像】
【B社の婦人用ブラウス画像】
2,婦人用コートの形態模倣について、請求権者ではないとして差止め及び損害賠償請求が棄却された事例(大阪地方裁判所令和2年12月3日)
●事案の概要
婦人服の製造販売を行うA社が、B社の販売する商品がA社の商品形態を模倣したものであるとして、B社の商品の販売等の差止めと2000万円の損害賠償を求めた事案です。
●裁判所の判断
裁判所は、不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争につき差止めないし損害賠償を請求することができる者は、模倣されたとされる形態に係る商品を先行的に自ら開発・商品化して市場に置いた者に限られるというべきであるところ、A社の商品特徴の全てを備えるものである本件商品は、A社が販売するより前に、中国メーカーであるC社により市場に置かれたものといえるから、A社は、模倣されたとされる形態に係る商品を先行的に自ら開発・商品化して市場に置いた者ということはできないとして請求を棄却しました。
3,教育用教材に関するソフトウェアについて実質的同一性が認められないことから形態模倣には該当しないと判断された事例(東京地方裁判所判決平成30年8月17日)
●事案の概要
A社が、B社の販売する教育用教材のソフトウェアはA社の商品の形態を模倣したものであるとして、逸失利益1600万円と遅延損害金の支払いを求めた事案です。
●裁判所の判断
裁判所は、A社が主張する画面表示やカメラ機能等の一致点は、いずれもアイデア、抽象的な特徴又は機能面での一致にすぎず、具体的な画面表示においても、A社ソフトウェアとB社ソフトウェアは異なるか又はありふれた表現において一致するにすぎないことから、A社ソフトウェアとB社ソフトウェアの形態が実質的に同一であるということはできないとして請求を棄却しました。
6,形態模倣行為に対する罰則
不正競争防止法における形態模倣行為のうち、「不正の利益を得る目的」をもって行為を行った者には、不正競争防止法21条2項3号により、5年以下の懲役または500万円以下の罰金、もしくはその両方が科せられます。
また、代表者や従業員等が業務に関して上記の行為を行った場合は、法人に対する処罰として3億円以下の罰金が科されます(不正競争防止法22条1項3号)。
▶参考:不正競争防止法21条2項3号
(罰則)
第二十一条
2 次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
三 不正の利益を得る目的で第二条第一項第三号に掲げる不正競争を行った者
不正競争防止法22条1項3号
第二十二条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人に対して当該各号に定める罰金刑を、その人に対して各本条の罰金刑を科する。
三 前条第二項 三億円以下の罰金刑
・参照元:「不正競争防止法」の条文
7,他者に商品形態を模倣された場合の対応
他者の形態模倣行為に対して取ることのできる対応としては、主に以下のものがあります。
(1)差止請求
形態模倣行為によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある場合には、形態模倣行為を行った者に対し、その侵害の予防または停止(販売の停止等)を求めることができます(不正競争防止法3条)。
また、形態模倣の再発を防ぐため、あわせて形態模倣行為に関して生じた物品の廃棄や、模倣商品製造のために使用された金型や機械等設備の除却を求めることができます(不正競争防止法3条2項)。
これに基づき、裁判例の中にも、模倣商品の販売の停止、模倣品の廃棄、模倣品製造のための金型の除却等を、模倣者に命じた例が多数存在します。
▶参考:不正競争防止法3条
(差止請求権)
第三条 不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、その営業上の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
2 不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物(侵害の行為により生じた物を含む。第五条第一項において同じ。)の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の停止又は予防に必要な行為を請求することができる。
・参照元:「不正競争防止法」の条文
(2)損害賠償請求
形態模倣行為によって損害を受けた場合、形態模倣行為をした者に対し、損害賠償を請求することができます。
▶参考:民法709条
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
・参照元:「民法」の条文はこちら
▶参考:不正競争防止法4条
(損害賠償)
第四条 故意又は過失により不正競争を行って他人の営業上の利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、第十五条の規定により同条に規定する権利が消滅した後にその営業秘密又は限定提供データを使用する行為によって生じた損害については、この限りでない。
・参照元:「不正競争防止法」の条文
(3)不正競争防止法違反を理由とする刑事告訴
形態模倣行為の被害を受けた場合、不正競争防止法に基づく刑事告訴をすることが可能です。ただし、前述の通り、加害者に不正の利益を得る目的があることが必要です。
形態模倣に関して過去に刑事告訴がされた件数は多くありませんが、実際に刑事告訴が行われた例としては、2015年6月に有名ファッションブランド「snidel」を取り扱う株式会社マッシュスタイルラボが、同一デザインの模倣商品を継続的に販売していたとして同業他社を刑事告訴した事例があります。
刑事告訴された会社の代表取締役は、不正競争防止法の疑いで大阪府警により逮捕されました。
罰則については、「6,形態模倣行為に対する罰則」でもご説明した通り、個人に対しては5年以下の懲役または500万円以下の罰金、もしくはその両方(不正競争防止法21条2項3号)、法人に対しては3億円以下の罰金が科せられます(不正競争防止法22条1項3号)。
また、公訴時効期間(起訴できる期間)については、不正競争防止法22条3項により、個人の違反行為に対する法定刑の上限によって定められているため、形態模倣行為についての公訴時効期間は5年となっています。
▶参考:不正競争防止法21条2項3号
(罰則)
第二十一条
2 次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
三 不正の利益を得る目的で第二条第一項第三号に掲げる不正競争を行った者
第二十二条
3 第一項の規定により前条第一項第一号、第二号、第七号、第八号若しくは第九号(特定違法使用行為をした者が該当する場合を除く。)、第二項、第三項第一号(同条第一項第一号に係る部分に限る。)、第二号(同条第一項第二号、第七号及び第八号に係る部分に限る。)若しくは第三号(同条第一項第二号、第七号及び第八号に係る部分に限る。)又は第四項(同条第一項第一号、第二号、第七号、第八号及び第九号(特定違法使用行為をした者が該当する場合を除く。)並びに同条第三項第一号(同条第一項第一号に係る部分に限る。)、第二号(同条第一項第二号、第七号及び第八号に係る部分に限る。)及び第三号(同条第一項第二号、第七号及び第八号に係る部分に限る。)に係る部分に限る。)の違反行為につき法人又は人に罰金刑を科する場合における時効の期間は、これらの規定の罪についての時効の期間による。
・参照元:「不正競争防止法」の条文
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9,まとめ
今回は、形態模倣に関して不正競争防止法が定める要件や判例について解説しました。
他人が作成した①商品の形態を、②模倣し、③その商品を譲渡したり貸し渡す行為は、不正競争防止法2条1項3号における形態模倣行為に該当します。ただし、形態模倣行為に該当していても、以下の条件に当てはまる場合は、規制の適用が除外されます。
- 日本国内で最初に販売された日から起算して3年を経過した商品
- 対象が商品の機能を確保するために不可欠な形態である場合
- 模倣商品の譲受人が模倣についての事実を知らなかった場合
不正競争防止法における形態模倣に関する保護期間は3年と限られているため、形態模倣の被害に遭った際はできる限り早く弁護士にご相談いただき、早急に適切な対応を取ることが重要です。
記事作成弁護士:西川 暢春
記事作成日:2023年12月5日
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