平成27年2月、大日本除蟲菊株式会社の「虫コナーズ玄関用」やアース製薬株式会社の「パボナ虫よけネットW」が商品パッケージ上の広告表現について景品表示法に基づく措置命令を受けました。
最初に、「景品表示法とは何か?」についての基礎知識を知りたい方は、以下の記事を参考にご覧ください。
これは、商品パッケージ上で表示した虫よけ効果について、消費者庁が両社に根拠資料の提出を求めたのに対し、両社が提出した資料が十分に虫よけ効果を根拠づけるものではなかったと判断されたことが原因です。
景品表示法の不実証広告規制では、広告で宣伝された商品の効果や性能について、事業者が消費者庁から根拠資料の提出を求められた後15日以内に根拠資料を提出できない場合は、違法な広告であるとして措置命令の対象になることになっています。
消費者庁はインターネット上で通報窓口を設けるなどして、一般消費者から問題のある広告に関する情報を広く募っており、BtoCビジネスをされている事業者にとっては要注意事項になっています。
今回は、この「不実証広告規制」と「15日ルール」について、ご説明したいと思います。
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今回の記事で書かれている要点(目次)
1,景品表示法の不実証広告規制と15日ルールの内容とは?
冒頭でご紹介した通り、景品表示法の不実証広告規制とは、「広告で宣伝された商品の効果や性能について、事業者が消費者庁から根拠資料の提出を求められた後15日以内に根拠資料を提出できない場合は、違法な広告であると判断される」制度のことです。
以下では4つのポイントに分けて順番にその内容を見ていきたいと思います。
(1)景品表示法の不実証広告規制についての4つのポイント解説
ポイント1:
不実証広告規制を定める景品表示法とは?
不実証広告規制を定めている法律が「景品表示法」と呼ばれる法律です。
この景品表示法は、消費者向けの広告に関するルールを定める法律で、不当な広告や根拠のない広告を禁止し、違反にペナルティを課す内容になっています。
不実証広告規制はこの景品表示法の「7条2項」に定められている法律上のルールです。
ポイント2:
景品表示法で禁止される優良誤認表示とは?
景品表示法で禁止されている広告の1つが「優良誤認表示」と呼ばれる広告表示です。
「優良誤認表示」とは、消費者に商品やサービスの品質や内容を実際のものよりも著しく有利であると誤認させるような広告表現のことを指しています。
このような広告は消費者に不利益になることから、景品表示法で禁止されており、違反は措置命令等のペナルティの対象となります。
優良誤認表示について詳しくは以下の記事で解説していますので、参考にご覧ください。
ポイント3:
優良誤認表示の判断基準としての不実証広告規制
今回、ご説明する「不実証広告規制」は「ポイント2:景品表示法で禁止される優良誤認表示とは?」でご説明した「優良誤認表示」かどうかを判断するための判断基準の制度です。
例えば、冒頭で「虫コナーズ玄関用」や「パボナ虫よけネットW」の事例では、「商品をベランダや玄関に吊り下げるなどするだけで蚊やハエを寄せ付けない効果がある」とパッケージに表示していました。
このような事例において、パッケージに表示された「吊り下げるなどするだけで、蚊やハエを寄せ付けない効果がある」ことを裏付ける根拠資料を消費者庁から求められた際に原則として15日以内に提出できなければ、景品表示法で禁止される優良誤認表示であるとみなすというルールが、不実証広告規制です。
このように、不実証広告規制は優良誤認表示にあたるかどうかの判断基準として定められているものであり、たとえ、広告されている効果が事実であったとしても、「15日以内に根拠資料を提出できなければ違法な広告と判断される」という判断基準になっている点に注意が必要です。
ポイント4:
不実証広告規制の15日ルールとは?
不実証広告規制では、根拠資料の提出期限は、消費者庁から根拠資料の提出を求められてから原則として15日以内と定められています。
正当な理由があれば、15日の期限を延長してもらうことができることが一応定められていますが、延長が認められることはほとんどありません。
消費者庁からの調査が入ってから、根拠資料を作成するのでは15日以内に提出することはできませんので、不実証広告規制に対応するためには、商品やサービスの広告宣伝を開始する前に根拠資料を事前に準備しておくことが必要です。
以上、「不実証広告規制」と「15日ルール」の内容についてご説明しました。
景品表示法の不実証広告規制によって、たとえ真実の広告であったとしても、商品やサービスの広告宣伝を開始する前に、広告でうたう効果や性能について根拠資料を事前に準備しておかなければ、消費者庁から根拠資料を求められたときに対応ができず、法律上のペナルティの対象となり得ます。
この点が最も重要なポイントとなりますので、おさえておきましょう。
2,過去に不実証広告規制により措置命令を受けた広告の具体例
では、景品表示法の不実証広告規制と15日ルールの内容を踏まえたうえで、次に、不実証広告規制で違法な広告であると判断されて、措置命令の処分を受けた具体例としてどのようなものがあるかを見ていきましょう。
(1)不実証広告規制で違法な広告であると判断された事例
事例1:
窓用フィルム施工サービスの事例
概要:
株式会社ダスキンが窓用フィルムの施工サービスに関して、ダイレクトメールやチラシで、「室温の上昇を抑える!最大-5.4℃ 空調効率アップ!」などと広告したことについて、違法な広告であると判断されました。
経緯:
消費者庁は不実証広告規制に基づき、株式会社ダスキンに根拠資料の提出を求め、株式会社ダスキンは根拠資料を提出しましたが、十分な資料ではないと判断されました。
結果:
消費者庁から株式会社ダスキンに対して、一般消費者に対して違法な広告であったことの周知を義務付け、再発防止の徹底を命じる内容の措置命令が出されました。
株式会社ダスキンは、違法と判断された広告により窓用フィルム施工サービスを申し込んだ顧客について、施工の取り外しと返金などの対応を行っています。
事例2:
虫よけ商品の事例
概要:
大日本除蟲菊株式会社が虫よけ商品「虫コナーズ玄関用」などのパッケージで、「吊り下げるだけで、蚊やハエを寄せ付けない効果がある」などと表示したことについて、違法な広告であると判断されました。
経緯:
消費者庁は不実証広告規制に基づき、大日本除蟲菊株式会社に根拠資料の提出を求め、大日本除蟲菊株式会社は根拠資料を提出しましたが、十分な資料ではないと判断されました。
結果:
消費者庁から大日本除蟲菊株式会社に対して、一般消費者に対して違法な広告であったことの周知を義務付け、再発防止の徹底を命じる内容の措置命令が出されました。
大日本除蟲菊株式会社は、違法と判断されたパッケージの表示について、新しいパッケージに変更するなどの対応を行っています。
事例3:
サプリメントの通信販売の事例
概要:
株式会社全日本通販のサプリメント「すこやか酵母」の新聞折込広告で、「ムリな食事制限なしで12㎏体重減!」などと広告したことについて、違法な広告であると判断されました。
経緯:
消費者庁は不実証広告規制に基づき、株式会社全日本通販に根拠資料の提出を求め、株式会社全日本通販は痩せる効果の根拠として個人的な体験談等を提出しましたが、十分な資料ではないと判断されました。
結果:
消費者庁から株式会社全日本通販に対して、一般消費者に対して違法な広告であったことの周知を義務付け、再発防止の徹底を命じる内容の措置命令が出されました。
このように、「施工サービス」、「生活用品」、「サプリメント」など業種を問わず、消費者向けのサービスや商品について、不実証広告規制の適用により、違法と判断される事例が出ています。
3,景品表示法の不実証広告規制で提出を求められる「根拠資料」とは?
上記で解説しました事例の「1」から「3」はいずれも、根拠資料を提出したが十分な資料ではないと判断されたケースでした。
では、どのような資料を提出すれば、景品表示法上問題がないと認められるのでしょうか?
結論からいうと、根拠資料として認められるためには、以下の3つのどれかの資料を提出する必要があります。
(1)不実証広告規制で根拠資料と認められる3つの資料
- 1,「試験結果」
- 2,「専門家・専門機関の見解」
- 3,「専門家の学術文献」
ただし、形式的に(1)から(3)のどれかにあてはまればよいのではなく、信頼に足りるものである必要があります。
具体的には、以下の4つのポイントをおさえておきましょう。
(2)不実証広告規制で根拠資料についておさえておくべき4つのポイント
ポイント1:
「試験結果」を根拠とする場合は、第三者機関が一般的に認められた方法によって試験したことが必要。
ポイント2:
特定の専門家による特異な見解の場合や、新しい分野で専門家が存在しないようなケースについては、「専門家・専門機関の見解」、「専門家の学術文献」を根拠とすることはできない。
ポイント3:
消費者の体験談やモニターの意見は根拠として認められにくい。
ポイント4:
広告表示が、試験結果や専門家の見解で根拠づけられた内容に適切に対応したものであることが必要。
以下で順番に説明していきます。
ポイント1:
「試験結果」を根拠とする場合は、第三者機関が一般的に認められた方法によって試験したことが必要。
たとえば、自社内で試験した結果を消費者庁に提出しても、「試験結果」として認められません。
「試験結果」として認められるためには、第三者機関(国公立の試験研究機関等や中立的な立場で研究を行う民間機関等)により、その分野において一般的に認められた方法によって試験したことが必要です。
ポイント2:
特定の専門家による特異な見解の場合や、新しい分野で専門家が存在しないようなケースについては、「専門家・専門機関の見解」、「専門家の学術文献」を根拠とすることはできない。
特定の専門家による特異な見解をとりあげて、「専門家・専門機関の見解」、「専門家の学術文献」として根拠資料とすることはできません。
また、新しい分野で専門家が存在しないようなケースについては、「専門家・専門機関の見解」、「専門家の学術文献」を根拠とすることはできません。
新しい分野で専門家が存在しないようなケースでは、試験(実験)を行い、その試験結果を根拠資料とする必要があります。
ポイント3:
消費者の体験談やモニターの意見は根拠として認められにくい。
消費者の体験談やモニターの意見を根拠資料とするためには、統計的に客観性が十分に確保されていることが条件になります。
少なくとも自社で消費者の体験談やモニターを集めるのではなく、専門の第三者的な機関に調査を依頼して、客観性を確保することが必要です。
ポイント4:
広告表示が、試験結果や専門家の見解で根拠づけられた内容に適切に対応したものであることが必要。
広告表示が、根拠資料によって裏付けられる効果を超えたものである場合は、その根拠資料だけでは十分な根拠資料とはいえません。
たとえば、自動車用のエンジンオイル添加剤について、試験の結果特定のエンジンオイルについて燃費向上効果を確認したとしても、それを根拠資料として「あらゆる種類のエンジンオイルについて10パーセントの燃費向上が期待できる」と広告することはできません。
根拠資料をあらかじめ準備していたとしても、それが消費者庁に十分な根拠資料であると認められるためには、上記の4つのポイントを満たしていることが必要ですので、おさえておきましょう。
4,違法な広告と判断された場合の罰則について
最後に、消費者庁に違法な広告と判断された場合のペナルティについてみていきましょう。
(1)違法な広告と判断された場合の罰則について
ペナルティ1:
消費者庁や都道府県からの措置命令
「優良誤認表示」にあたると判断された場合、消費者庁や都道府県からの措置命令の対象になります。
具体的には、以下の3点が命じられることが通常です。
措置命令で命じられる3つの命令
命令1:
一般消費者に違法な広告であったことを周知徹底すること
命令2:
再発防止策を自社の役員や従業員に周知徹底すること
命令3:
違法な広告を中止すること
特に「命令1」の一般消費者への周知徹底は企業としての消費者からの信頼を失いかねず、ダメージが大きいです。
また、一般消費者への周知の過程で返金等の問題に発展することがあり、その対応も必要になります。
ペナルティ2:
課徴金制度
平成28年4月から、課徴金制度が新たなペナルティとして導入されました。
これにより、違反企業は課徴金の支払いを命じられることがあります。
この課徴金は、売上額の「3%」とされており、違反企業は最長で3年分の売上額の3パーセントにあたる額の課徴金の納付を命じられます。
ペナルティ3:
措置命令に従わない場合の懲役・罰金刑
措置命令に従わない場合は、2年以下の懲役又は300万円以下の罰金あるいはその両方が科されることがあります。さらに、法人には、3億円以下の罰金が科されることがあります。
その他、重要な点として、景品表示法違反がニュースとして報道されることで企業イメージが大きく損なわれるおそれがあります。
このように、違法な広告と判断された場合のペナルティは軽視できない重大なものになっています。
広告での表示について、根拠資料を準備していない場合は、すぐに準備をするか、準備できない場合は広告の表示を変更するなどの対応が必要です。
景品表示法違反については、以下の記事で詳しく解説していますので参考にご覧ください。
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7,まとめ
今回は、景品表示法の不実証広告規制と15日ルールについてご説明しました。
重要なポイントをまとめると以下の通りです。
ポイント1:
広告で宣伝された商品の効果や性能について、消費者庁から根拠資料の提出を求められた後15日以内に根拠資料を提出できない場合は、たとえ広告が事実であっても違法な広告と判断される。
ポイント2:
根拠資料として認められるためには、第三者機関による試験結果や専門家の文献が必要であり、15日では準備できないため、広告を開始する前に事前に準備しておく必要がある。
ポイント3:
違法な広告と判断された場合は一般消費者への周知徹底や課徴金の納付などを命じられ、さらに報道もされることが通常のため、企業にとって重大な結果となる。
冒頭でもご説明したように、消費者庁はインターネット上で通報窓口を設けるなどして、一般消費者から問題のある広告に関する情報を広く募っています。
万が一、自社とトラブルがあった顧客や同業他社から通報された場合でも、きちんと対応できるように、広告で宣伝された商品の効果や性能について事前に根拠資料を準備するか、あるいは、広告を商品の効果や性能をうたわない内容に変更するなどの対応をしておきましょう。
記事作成弁護士:西川 暢春
記事更新日:2021年09月07日