こんにちは。咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。
昨今、飲食店における客の迷惑行為が多発し、社会問題となっています。
迷惑行為により飲食店が受ける被害も大きく、令和5年に被害に遭った回転寿司チェーンの「スシロー」では客の不衛生な迷惑行為による衛生面の不安から、運営元の「FOOD&LIFECOMPANIES」の時価総額が一時約168億円下落する事態になりました。
客による迷惑行為に対して、タイミングを逃さずに、毅然とした対応と適切な対策をとらなければ、一般消費者からの信頼を失い、大きな損害が発生しかねません。
この記事では、迷惑行為による飲食店への影響や迷惑行為が起きた場合に飲食店がとるべき対応、迷惑行為を防ぐための対策などについて詳しく解説します。
それでは見ていきましょう。
迷惑行為がネット上で拡散された場合、飲食店に与える影響は大きく、被害に遭った際に適切な対応が取れないと客足の低迷や売上の減少など、深刻な損害を被ってしまう恐れがあります。
迷惑行為の被害に遭ってしまった場合は、被害を最小限に抑えるためにも直ちに弁護士にご相談いただき、加害客に対する刑事告訴、損害賠償請求等の対応をとることをおすすめします。筆者が代表を務める咲くやこの花法律事務所でもご相談を承っておりますのでご利用ください。
▼飲食店の迷惑行為に関して今スグ弁護士に相談したい方は、以下よりお気軽にお問い合わせ下さい。
【お問い合わせについて】
※個人の方からの問い合わせは受付しておりませんので、ご了承下さい。
今回の記事で書かれている要点(目次)
- 1,飲食店で実際にあった迷惑行為の事例一覧
- 2,なぜ飲食店での迷惑行為が増えているのか?
- 3,迷惑行為による飲食店への影響
- 4,迷惑行為があった場合に損害賠償請求は可能?
- 5,飲食店における迷惑行為についての裁判例
- 6,飲食店での迷惑行為に関連する法律
- 7,悪質な迷惑行為は警察への通報も有効
- 8,迷惑行為の動画が投稿された場合の対応
- 9,迷惑客に対する入店拒否はできるか?
- 10,迷惑行為から店を守るための対策
- 11,飲食店の迷惑行為への対応や防止対策に関して弁護士に相談したい方はこちら
- 12,まとめ
- 13,「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法
- 14,飲食店に関する法務のお役立ち情報も配信中(メルマガ&YouTube)
1,飲食店で実際にあった迷惑行為の事例一覧
まず、令和元年から令和5年にかけて飲食店で実際にあった迷惑行為の事例を一覧でご紹介します。
(1)牛丼店
- 丼に大量の紅生姜をのせた後、箸でテーブル上にまき散らす
- 卓上の共用の紅ショウガを直箸で食べ、口を付けた箸で何度も紅ショウガに触れる
(2)回転寿司店
- 他人が注文した寿司に無断でわさびをのせる
- 醤油ボトルに直接口をつける
- 湯呑を舐めてから元あった場所に戻す
- 唾液を付けた指で回っている寿司を触る
- レーン上を流れる寿司に消毒用アルコールスプレーを吹きかける
- 卓上の甘だれの容器に別の容器に入れてある醤油を注ぐ
- 卓上のガリの容器にタバコの吸い殻を入れる
- 卓上のガリを専用のトングを使わず直箸で食べる
(3)その他の飲食店
- 卓上にある天かすを共用スプーンで直接食べる(うどん店)
- 卓上の共用のソースの容器に直接口をつけてソースを吸う(ステーキ店)
- 飛沫防止用に設置されたアクリル板を舐める(ハンバーガー店)
- 卓上のにんにくを共用のスプーンで直接食べる(ラーメン店)
これらの迷惑行為はいずれもインスタグラムやTwitter、TikTok等のSNS上に迷惑行為を撮影した動画が投稿されたことにより発覚し、それが炎上する形で一気に拡散されています。
被害を受けた店側の多くは、加害者からの謝罪を拒否する、警察へ被害届を提出する等、厳しい姿勢を見せています。
2,なぜ飲食店での迷惑行為が増えているのか?
ではなぜ飲食店での迷惑行為が増えているのでしょうか。理由としては以下のようなものが考えられます。
(1)機械化・省人化
まず考えられる原因として、飲食店において機械化・省人化が進み、その結果、店員の目が届きにくくなったことがあげられます。
近年、人材不足への対策として機械化を進める飲食店が増えており、例えば回転寿司チェーンでは、受付から座席案内、会計に至るまで全て機械化されていて、従業員数が少なくても問題なく運営できる仕組みになっていることがあります。
しかし、こういった機械化・省人化は便利である反面、利用客の迷惑行為を発見しづらいという問題点があります。
(2)SNS(Twitter・Instagram等)の普及
次に原因として考えられるのは、TwitterやInstagramなどのSNSの普及です。
Twitter(ツイッター)やInstagram(インスタグラム)などのSNSについて、若年層世代における利用率は非常に高くなっています。総務省情報通信政策研究所の調査「【令和3年度】主なソーシャルメディア系サービス/アプリ等の利用率(全年代・年代別)」によると、令和3年度の20代のSNSの利用率はTwitter(ツイッター)、Instagram(インスタグラム)ともに78.6%と非常に高いことがわかります。
▶参考:【令和3年度】主なソーシャルメディア系サービス/アプリ等の利用率(全年代・年代別)
・出典元:総務省「令和3年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」(pdf)
そして、ユーザーの中には、これらのSNSを知り合いや友人とのコミュニケーションツールとして利用し、仲間内以外の人からも見られる可能性があることを意識しないで使用している人もいます。
そのため、ちょっとしたウケ狙いのつもりで迷惑動画を撮影し、それを仲間内だけで共有するつもりで投稿したところ、それが仲間内以外の人にも拡散されてしまい、炎上してしまうといったパターンが多く見られます。
(3)犯罪であるという意識が薄い
さらに、迷惑行為が犯罪であるという意識が薄いということも原因としてあげられます。
昨今ほど大きな話題にはなっていませんでしたが、飲食店での迷惑行為自体は昔からありました。しかし、今までに迷惑行為が原因で客が逮捕され、刑事事件として捜査された事例はほとんど無く、また、店側も加害者に損害賠償請求等の対応をしないことがほとんどでした。
そのため、迷惑行為をしたら刑事事件として捜査されたり、損害賠償請求されたりするかもしれないというイメージができず、ちょっとしたいたずらのつもりでやってしまう人が後を絶たないと考えられます。
ただ、昨今ではネットやテレビで飲食店における客の迷惑行為の問題が大きく取り上げられおり、被害に遭った飲食店が警察と連携することで逮捕者も出るなど、飲食店での迷惑行為は犯罪であるということが広く認知され始めています。
迷惑行為の被害を受けた場合は泣き寝入りするのではなく、適切な法的措置をとることで迷惑行為を許容しないという姿勢を世間に示すことが、飲食業界全体の被害を減らすためにも重要です。
3,迷惑行為による飲食店への影響
次に、迷惑行為があった場合、被害に遭った飲食店はどのような影響を受ける恐れがあるのかを見ていきましょう。
(1)経済的な損害
飲食店が受ける一番大きな影響の1つは経済的な損害です。
令和5年2月に高校生が湯呑を舐める動画が拡散され、大きな騒動となった回転寿司チェーンの「スシロー」では、動画の影響により客入りが大きく減少し売り上げが下がったほか、運営元の「FOOD&LIFECOMPANIES」の株価が急落し、時価総額が一時約168億円下落するなど、経済面で大きな影響がありました。
また、被害に遭った飲食店では迷惑行為を防止するための設備を新たに導入したところも多く、設備の導入のために少なくない費用がかかっています。
(2)顧客からの信用が失われる
客による不衛生な迷惑行為があったことが広く知れ渡ったことで、被害に遭った飲食店の衛生面に対して多くの人が不信感を抱くようになりました。
特に回転寿司店が受けた影響は甚大なもので、ネット上では衛生面への不安から回転寿司店の利用を控えるとの声が多く、「客が全然いない」「お昼時なのにガラガラ」といった報告が続出しました。
(3)本来であれば必要のない業務が増える
加害客による不衛生な迷惑行為があった場合、店側は臨時で備品の交換や店内の清掃をしなければなりません。また、特にチェーン店では顧客からの信用回復のため、他の店舗でも備品の交換や店内の清掃を行うことがあります。
その他に、迷惑行為についての利用客からのクレームや問い合わせにも対応しなければならないため、従業員に多大な負担がかかり、通常業務にも影響が出るおそれがあります。
4,迷惑行為があった場合に損害賠償請求は可能?
では、店側は、迷惑行為があった場合に加害客に損害賠償を請求することは可能なのでしょうか?
以下で見ていきたいと思います。
(1)損害賠償請求の根拠
例えば、回転寿司店で客が醤油ボトルに直接口をつける、湯呑を舐めてから元あった場所に戻す、唾液を付けた指で回っている寿司を触るなどの行為は、飲食店の衛生面に問題を生じさせる行為であり、民法上の不法行為に該当します。そして、民法上の不法行為に該当する場合、以下の条文を根拠に、店は迷惑行為を行った客に対して、損害賠償を請求することが可能です。
(2)損害賠償請求ができる範囲
ただし、損害賠償を請求できるのは、民法上の相当因果関係がある損害に限られます(以下の民法416条が類推適用されます)。
▶参考:民法416条
債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
2 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる。
・参照元:「民法」の条文はこちら
裁判例:東京地方裁判所判決 令和元年12月2日
過去の裁判例で参考になるものとして、飲食店の従業員による問題行動の事案ではあるものの、「東京地方裁判所判決 令和元年12月2日」があります。
この裁判例は、居酒屋の従業員が衛生管理されていない私物のリュックサックを店舗の冷凍庫に入れた行為について、居酒屋の運営会社が従業員に対して損害の賠償を求めた事案です。
裁判所は、衛生管理されていない私物のリュックサックを店舗の冷凍庫に入れた行為は不法行為にあたると判断しました。そのうえで、冷凍庫内の消毒費用だけでなく、店が冷凍庫内に保管されていた食材を廃棄したことによる損害についても、衛生面に配慮して食材等一式を廃棄することが必要性を欠くとはいえないとして、従業員に賠償を命じています。
飲食店において衛生の確保は食品衛生法上の義務でもあることから、衛生面への配慮を理由として行った行為による損害についての賠償請求は比較的広く認められると考えられます。
客の迷惑行為の事案においても、被害に遭った店舗における備品の交換や店舗内の清掃作業にかかる費用等の損害については比較的広く損害賠償が認められると考えてよいでしょう。
一方、迷惑行為による売上の減少による損害については、売上の減少が他の原因によるものでないことの立証が必要になります。売上の減少が迷惑行為やそれについての投稿・報道がなされた直後から発生し、その程度が顕著な場合には、損害賠償が認められると考えられます。
(3)迷惑客が中学生や高校生の場合の親の責任
民法上の不法行為を行った場合、加害者は損害賠償責任を負うことになりますが、そのためには加害者に責任能力があることが必要です。
民法上の責任能力が認められる年齢については、一律の規定があるわけではありませんが、12歳以上であれば責任能力があると判断される場合が多くなっています。
そのため、迷惑行為を行った人物が中学生や高校生の場合は、原則として加害者本人が賠償義務を負うことになるため、親に対して損害賠償請求をすることはできません。
ただ、例外として、未成年者が責任能力を有する場合であっても、その監督義務者に監督義務違反があり、これと未成年者の不法行為によって生じた損害との間に相当因果関係を認め得る場合は、監督義務者が民法709条に基づき損害賠償を負うとされます(最高裁判所第二小法廷判決昭和49年3月22日)。
そのため、中学生や高校生による迷惑行為について監督義務違反を理由に親に対して損害賠償を請求することも考えられますが、その場合は、監督義務違反を裏付ける具体的な根拠と、監督義務違反と店側の被害との間の因果関係の立証が必要になります。
5,飲食店における迷惑行為についての裁判例
(1)民事の損害賠償請求に関する裁判例
飲食店における迷惑行為について損害賠償等の民事の面での裁判例はほぼ見当たりません。
客に対して損害賠償請求をすることについての世間からの批判への懸念から、これまで損害賠償請求にまで至った飲食店が多くないことが原因であると思われます。
しかし、令和5年以降、客の迷惑行為による被害を受けた飲食店の多くが民事の面においても厳正に対処する方針を表明しており、これに対して一般消費者からもそのような店側の対応に理解を示す反応が広がっています。今後は、民事の損害賠償についても、裁判例の数が増える可能性があります。
(2)刑事事件に関する裁判例
飲食店における迷惑行為についての刑事事件に関する裁判例としては以下のものがあります。
あたかも新型コロナウイルスの感染者が店で飲食をしているような虚偽の事実をTwitterに投稿し、店の正常な業務を妨害したとして偽計業務妨害罪が成立した事例(東京地方裁判所判決令和3年2月26日)
事案の概要
被告人がTwitter上で、令和2年3月、「私はコロナだ」と投稿し、その投稿の約1時間後に、飲食店の店内での飲食の様子や店のロゴが貼られたビールグラスを撮影した写真を「濃厚接触の会」というコメントと共に投稿しました。
この事実を知った店舗を運営する会社は、店の入念な消毒等の指示といった業務をすることを余儀なくされ、正常な業務に支障が生じる事態となりました。
裁判所の判断
裁判所は、被告人が店に迷惑がかかり、業務が妨害される可能性があることを認識していたにも関わらず上記のような投稿を行ったことから、刑法第233条の偽計業務妨害罪が成立するとして被告人を罰金30万円に処しました。
6,飲食店での迷惑行為に関連する法律
飲食店で上記のような迷惑行為があった場合、加害者は刑事上どのような責任を問われることになるのでしょうか。適用される可能性のある法律を見ていきましょう。
(1)業務妨害罪(刑法第233、234条)
偽計や威力を用いて業務を妨害した場合、偽計業務妨害罪(刑法第233条)や威力業務妨害罪(刑法第234条)が成立します。
ここでいう「偽計」とは、人を騙したり、虚偽の事実をあたかも真実であると誤認させる行為を指します。また、「威力」とは、店内で長時間大声で騒ぎ立てる行為や、店員に対し「俺はコロナだ」と叫ぶ等の、相手の自由意思を抑圧する行為を指します。
例えば店の食器を舐め、その様子を撮影した動画がTwitter(ツイッター)やInstagram(インスタグラム)等のSNS上に投稿され拡散された場合、その迷惑動画を見た人は店の衛生面に不信感を抱いてしまいます。
その結果、店側は食器を全て洗浄したり、場合によっては新しく交換するという本来であれば必要の無い業務を強いられることになり、正常な業務が妨害されるため、偽計業務妨害罪が成立する可能性があります。
実際に、令和5年3月8日、回転寿司チェーン「くら寿司」で、卓上の醤油差しを舐める様子を撮影した男性ら3人が、迷惑行為を撮影した動画を不特定多数が閲覧できる状態にしたことで店側にクレーム対応や臨時の特殊清掃等の対応を余儀なくさせたとして、威力業務妨害罪の疑いで逮捕されています。
▶参考:刑法第233条(信用毀損及び業務妨害)
虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
▶参考:刑法第234条(威力業務妨害)
威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による。
・参照元:「刑法」の条文はこちら
(2)窃盗罪(刑法第235条)
窃盗罪の典型的な例としては、他人のカバンや財布などの財物を盗む、万引き行為が挙げられますが、他人が注文した飲食物を勝手に食べる行為も、窃盗罪に該当する可能性があります。
(3)詐欺罪
回転寿司店で会計のため店員が卓上の皿の枚数を数える際に、カバンに皿を隠して精算するといった迷惑行為は、本来支払うべき代金を故意に隠したまま精算するという詐欺行為に当たるため、詐欺罪が成立する可能性があります。
▶参考:刑法第246条
人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
・参照元:「刑法」の条文はこちら
(4)器物損壊罪
器物損壊罪は直接物を壊した場合だけでなく、物を本来の用途で使用できない状態にした場合にも成立します。
そのため、わさびを他人のすしに勝手に乗せる、レーン上の寿司に唾液を付ける、調味料の容器を舐めるといった迷惑行為は、いずれも器物破損罪に該当する可能性があります。
7,悪質な迷惑行為は警察への通報も有効
悪質な迷惑行為への対処について、場合によっては警察への通報も有効な手段の一つとなります。
「1,飲食店で実際にあった迷惑行為の事例一覧」で紹介したような迷惑行為は、どれも刑事上の責任を問われかねない違法な行為です。加えて、こういった迷惑行為を見過ごしたまま放置しておくと、模倣犯が出現する恐れもあります。
醤油差しを舐める等の被害に遭った回転寿司チェーンの「くら寿司」では、客の迷惑行為の事実が発覚した後、直ちに警察に被害届を提出のうえ、積極的な情報提供を行い、容疑者3人の逮捕に至りました。
また、卓上の容器内の紅しょうがを箸で直接食べるという迷惑行為の被害に遭った牛丼チェーン「吉野家」でも、容疑者2名が器物損壊、威力業務妨害容疑で逮捕されたことが報道されています。
さらに、つまようじを口に入れた後で容器に戻すという迷惑動画を投稿される被害にあった栃木県の焼肉店でも、容疑者2名が業務妨害容疑で逮捕されたことが報道されています。
迷惑行為が起きた場合は警察と連携し、加害者に対して厳正な対処を行うとともに、迷惑行為は単なるいたずらでは済まされない、深刻かつ重大な問題であるということを周知させることが迷惑行為の模倣犯の発生抑止のみならず、利用客の信頼を得るためにも重要です。
8,迷惑行為の動画が投稿された場合の対応
次に、実際に迷惑行為が発生した場合、店側としてどのような対応を取るべきかについて説明します。
(1)被害を受けた備品の交換や店内の清掃
まず行わなければならないのは、被害を受けた備品の交換や店内の清掃です。
これはそのような被害の発生が世間に知れ渡ったかどうかにかかわらず当然に行うべきことですが、特に動画がSNS上に投稿されるなどして、食器に唾液をつける等の迷惑行為の発生事実が世間に知れ渡った場合、利用客のほとんどは店の衛生面に対して不信感を抱きます。このような場合、速やかに清掃、消毒、備品の交換等の対応を行い、その事実を利用客に周知することで一刻も早く利用客の信用を取り戻すことが大切です。
なお、全国に多数店舗があるチェーン店の場合は、被害に遭った店舗だけではなく、他の店舗についても清掃等の対応を行うことが、信用回復に効果的です。
(2)迷惑行為を防ぐための対策
迷惑行為の被害を受けてしまった場合、また同じような被害に遭うことを防ぐために対策をとることも必要です。
何も対策をせずにいると、「また同じようなことが起きるのではないか」といった不安から客足が遠のいてしまう恐れがあります。速やかに対策をし、利用客が安心してお店を利用できる環境を整えることが重要です。
具体的な対策については、「10,迷惑行為から店を守るための対策」で詳しく説明していますのでご覧ください。
(3)加害者に対する適切な法的措置
迷惑行為の被害を受けた場合は、加害客に対して適切な法的措置を取ることも必要です。
実際にTwitter(ツイッター)等で迷惑行為動画を投稿されるなどした飲食店の多くは、民事と刑事両方の面から厳正な措置を取ることを公表しています。加害客からの謝罪を受け入れて済ませるのではなく、適切な法的措置を取ることは、利用客の信用回復や模倣犯の出現防止のためにも重要です。
9,迷惑客に対する入店拒否はできるか?
迷惑行為を行う客に対し、店側から入店拒否の対応をすることも可能です。
不当な差別等でない限り、誰を立ち入らせるかを決める権限は店側にあり、裁判例においても認められています。
▶参考:静岡地方裁判所沼津支部判決 平成29年1月12日
「公共の建物ではない建物については,その所有者ないし管理者は,法令等に反しない限り,その所有ないし管理する建物内に,誰を立ち入らせて誰を立ち入らせないかを自由に決定することができるのが原則である。」
▶参考情報:迷惑客に対する入店拒否については、以下の参考記事で詳しく解説していますのでご覧ください。
10,迷惑行為から店を守るための対策
では、これまで紹介したような悪質な迷惑行為から店を守るためにはどのような対策が効果的なのでしょうか。
以下で詳しく見ていきましょう。
(1)迷惑行為が容易にできないような設備や仕組みを導入する
まず、対策の一つとして考えられるのが、あらかじめ迷惑行為が容易にできなくなるような設備や仕組みを店舗に導入することです。
迷惑行為の実例を見てみると、特に卓上の調味料や食器などの備品に対する迷惑行為が多く、これらの迷惑行為を未然に防ぐためには、以下のような対策が考えられます。
- 卓上調味料を撤廃し、調味料を個包装にする
- コップや箸は店員から利用客に直接渡す
他にも、迷惑行為の被害を受け、多くの飲食店が迷惑行為を予防するための設備を新たに導入しています。下記で実例をご紹介します。
参考例1:すし銚子丸の対策
回転寿司チェーンのすし銚子丸では、利用客による迷惑行為とフードロス対策のため、回転寿司スタイルを終了し、全店舗でタッチパネルを使用した注文方式への変更を予定していることを公表しました。
参考例2:資さんうどんの対策
うどんチェーンの資さんうどんでは迷惑行為を受け、希望する利用客については天かすやとろろ昆布等を個包装で提供することを公表しました。
(2)監視設備を導入する
店内への監視カメラの設置など、迷惑行為を即座に発見できるような設備を導入するのも有効な対策の一つです。
店内に監視カメラ等を設置し、店内の監視体制が整っていることを周知することで、迷惑行為を未然に防ぐ効果が期待できます。下記で実例をご紹介します。
参考例1:くら寿司の対策
回転寿司チェーンのくら寿司は、迷惑行為への対策として迷惑行為を察知できるAIカメラを導入しています。食べ終わった皿をレーンに戻すといった迷惑行為が起きた際、AIカメラがその動きを察知し、即座に本社へ通報が行われます。その後、通報を確認した本社の担当部署が店舗に連絡し、客への注意や警察への通報が行われる仕組みです。
(3)利用客向けに店内での動画撮影についての規則を定めて掲示する
迷惑行為の多くが、その動画を撮影して、他人に閲覧させることを目的として行われています。そして、迷惑行為を撮影した動画がネット上に出回ることで、大きな騒動になってしまい、信用毀損や売上の減少等、店側が被る被害は甚大なものになります。
また、一度ネット上にあげられた迷惑動画を全て消し去ることは不可能なため、加害者にとってのデジタルタトゥーとなるのはもちろんですが、店側にとってもずっと残る傷になってしまいます。既に解決したことであっても、ネット上に動画が残っている限り、再び発掘され再度拡散される恐れがあります。
このような事態を防ぐために、あらかじめ店内での撮影についてルールを定め、掲示するのも効果的な手段の一つです。
参考例1:ラーメンチェーン「一蘭」の対策
実際にラーメンチェーンの「一蘭」では、店内での動画撮影について、従業員への事前の声かけやLIVE配信の禁止などのルールを定め、公式ホームページで周知しています。
利用客による良い動画の投稿が店のPRになることもあることも踏まえると、全ての撮影を禁止することは難しいこともあります。その場合も、撮影について一定のルールを定めることが有効な対策になり得ます。
(4)利用客向けに迷惑行為をした場合のペナルティ等を記載した告知を掲示する
迷惑行為をした場合のペナルティについて、店内の入り口付近等に掲示することも、迷惑行為を抑制することも効果的です。
迷惑行為を発見した場合に損害賠償の請求等の法的措置や警察への通報、来店のお断りといったペナルティを行う旨の文書を店内に掲示することで、利用客に迷惑行為の代償の大きさについて意識づけをすることができ、迷惑行為の事前防止が期待できます。
11,飲食店の迷惑行為への対応や防止対策に関して弁護士に相談したい方はこちら
筆者が代表を務める咲くやこの花法律事務所では多くの飲食店経営事業主と顧問契約を結び、サポートを行ってきました。最後に、咲くやこの花法律事務所における飲食店向けのサポート内容をご紹介したいと思います。
(1)利用客の迷惑行為に関する相談
咲くやこの花法律事務所では、飲食店での迷惑行為について、下記のようなご相談に対応することが可能です。
- 迷惑行為の加害者に対する損害賠償請求に関するご相談
- 迷惑行為の加害者に対する刑事告訴に関するご相談
- 迷惑行為を行う利用客とのトラブルへの対応に関するご相談
- 迷惑行為防止のための利用客向けの告知書の作成に関するご相談
被害に遭った際は早めにご相談いただくことで、お店が受ける被害を最小限に抑えることができます。利用客の迷惑行為にお悩みの飲食店経営者、管理者の方はご相談ください。
弁護士費用
●初回相談料:30分5000円+税(顧問契約締結の場合は無料)
(2)顧問弁護士サービス
飲食店経営においては、今回記事でご紹介したような迷惑行為だけでなく、利用客からの理不尽なクレームや従業員とのトラブルなど、様々な問題が発生しがちです。
咲くやこの花法律事務所の顧問弁護士サービスでは、予約なしにいつでも顧問弁護士に相談いただくことができ、このようなトラブルにも即座に対応することが可能です。また、顧問弁護士に相談することで、トラブルの予防に向けて、予防法務の観点からの整備を日頃から進めていくことが可能になります。
咲くやこの花法律事務所の顧問弁護士サービスのご案内は以下をご参照ください。
また、飲食店における顧問弁護士の役割については、以下の記事でも解説していますのでご参照ください。
12,まとめ
この記事では飲食店における迷惑行為について、迷惑行為が起きた際に取るべき対応や、迷惑行為から店を守るための対策などをご説明しました。
迷惑行為が起きた際に取るべき対応としては、被害を受けた備品の交換や店内の清掃、二次被害を防ぐための対策、加害者に対する適切な法的措置等が挙げられます。
利用客の信用を取り戻すためにも、速やかな対応を行うことが重要です。
また、迷惑行為から店を守るための対策としては、
- 迷惑行為が容易にできないような設備や仕組みを導入する
- 監視設備を導入する
- 利用客向けに店内での動画撮影についての規則を定めて掲示する
- 迷惑行為をした場合のペナルティ等を記載した告知を掲示する
等が挙げられます。
迷惑行為による飲食店への影響は大きく、いざ被害が起きたときに対応を誤ってしまうと、店側は深刻な損害を被ってしまう恐れがあります。迷惑行為でお悩みの飲食店経営者、管理者の方は早めに弁護士にご相談ください。
13,「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法
今すぐお問い合わせは以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
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14,飲食店に関する法務のお役立ち情報も配信中(メルマガ&YouTube)
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記事作成日:2023年4月18日
記事作成弁護士:西川暢春