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持株会社方式、ホールディングス化による事業承継について解説

持株会社方式、ホールディングス化による事業承継について解説
  • 西川 暢春(にしかわ のぶはる)
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    西川 暢春(にしかわ のぶはる)

    咲くやこの花法律事務所 代表弁護士
  • 出身地:奈良県。出身大学:東京大学法学部。主な取扱い分野は、「問題社員対応、労務・労働事件(企業側)、クレーム対応、債権回収、契約書関連、その他企業法務全般」です。事務所全体で400社以上の企業との顧問契約があり、企業向け顧問弁護士サービスを提供。

こんにちは、咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。

 

 

会社の事業承継で持株会社を活用するケースが増えています。

持株会社を活用したスキームは政府の事業承継ガイドラインでもとりあげられています。

 

 

持株会社方式についてはメリットもあるものの、デメリットについてもよく理解したうえで、進めていく必要があります。

今回の記事では持株会社を利用した事業承継についてメリットとデメリットなどをメインにご説明したいと思います。

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」
持株会社、ホールディングスの活用についても、法的な手続きを正しく行うことが重要です。

正しい手続きが行われていなければ後でスキームが無効になり重大なトラブルに発展しますので、必ず弁護士にご相談いただくことをおすすめします。

咲くやこの花法律事務所でもご相談を承っていますので気軽にお問い合わせください。

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▼【関連情報】会社の事業承継に関連する情報は以下の情報も重要です。

事業承継における弁護士の役割について

 

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1,持株会社(ホールディングス)とは?

この記事をご説明していくにあたり最初に「持株会社(ホールディングス)とは?」について解説しておきます。

持株会社とは、他の株式会社の株式を保有することを目的とする会社をいいます。ホールディングスとも呼ばれます。

自ら事業活動を行わず、他の株式会社の株式を保有するだけの「純粋持株会社」と、自らも事業活動を行いつつ、他社の株式も保有する「事業持株会社」があります。

 

2,持株会社、ホールディングスを利用した事業承継のスキームとは?

持株会社(ホールディングス)を利用した事業承継の典型的な例は、後継者が持株会社を設立したうえで、既存の事業会社の株式を持株会社で買い取ってしまうことにより、既存の事業会社の経営権を後継者に移す方法です。

具体的には以下のスキームです。

 

(1)流れと図でスキームを詳しく解説

1,後継者が出資して新会社を設立する
2,新会社が金融機関から融資を受けて既存の事業会社についての先代経営者の株式を買い取る
3,新会社は既存会社の株式からの配当を原資に融資を返済する

 

▶参考:スキームの図解

持株会社、ホールディングスを利用した事業承継のスキームの図解

 

このようなスキームを組むことで、後継者は自分が100%の株式をもつ新会社(持株会社)を通じて既存の事業会社の経営について議決権を行使し、経営を掌握することができます。

 

3,持株会社(ホールディングス)を利用した事業承継のメリット

持株会社(ホールディングス)を利用した事業承継のメリットとしては以下の点があります。

 

(1)株式について相続や遺留分の問題を回避できる

事業承継では後継者に株式を集中させないと後継者が承継後の会社経営を掌握できず、事業が不安定になります。

そのため、先代経営者の持株を他に分散させずに後継者にすべて引き継ぐことが重要です。

持株会社方式による事業承継は、既存の事業会社の株式を後継者自身ではなく、後継者が設立した新会社(持株会社)が引き継ぐことにより、先代経営者の持株(既存の事業会社の株式)について相続が発生しない点が大きなメリットです。

なぜ、相続が発生しないことがメリットになるかとういうと、相続が発生すると、先代経営者に後継者以外の相続人がいる場合は、その遺留分の問題が生じるためです。

 

▶参考情報:遺留分とは? 

遺留分とは、生前贈与や遺言により後継者に全ての株式を移転させようとする場合でも、他の相続人にも最低限相続する権利が認められる遺産の取り分のことです。

複数の相続人がいる先代経営者が生前贈与や遺言により、持株を後継者に承継させようとする場合、遺留分の問題に注意する必要があります。遺留分は民法第1028条に定められています。

・参照1:Wikipediaの参考情報はこちら

・参照2:民法の条文はこちら

 

▶参考例:

例えば、先代経営者の相続人が2人の子(後継者Aと非後継者B)である場合、後継者Aに2分の1、非後継者Bに2分の1の法定相続分があります。

しかし、先代経営者は生前贈与や遺言をすることによりこの相続分を超えて後継者Aに財産を取得させること自体は法律上可能です。

しかし、非後継者Bには法定相続分のさらに2分の1にあたる全体の4分の1の財産が遺留分として認められているため、4分の3以上の財産を後継者Aに取得させると遺留分の侵害になってしまいます。

 

このように、先代経営者が持株のすべてを生前贈与や遺言により、後継者に取得させようとすると、他の相続人の遺留分を侵害してしまい、先代経営者が亡くなった後にトラブルになることが予想されます。

持株会社(ホールディングス)を新設して持株会社が株式の譲渡を受ける形をとれば、先代経営者の持株について相続が発生せず、遺留分の問題を回避することができます。

 

(2)先代経営者は現金を取得できる

先代経営者が持株会社に株式を譲渡して、譲渡代金の支払いを受けることで、現金を取得できることも、持株会社を利用した事業承継のメリットです。

事業会社の価値が高い場合は、譲渡代金も高くなり、それを受け取ることにより、先代経営者の老後の資金にあてることも可能です。

 

4,持株会社(ホールディングス)を利用した事業承継のデメリット

一方、デメリットとしては以下の点があげられます。

 

(1)譲渡所得税がかかる

株式を譲渡することにより、先代経営者に譲渡所得税が課税されることがあります。

譲渡所得税とは、株式を当初の取得代金より高い金額で譲渡したことにより譲渡益が出た場合に、これに課税される税金です。

譲渡益は、事業承継時の譲渡代金から、先代経営者が株式を取得した際の取得代金を控除した金額になります。

この譲渡益に対して約20%の譲渡所得税が課税されます。

 

 

(2)相続税がかかる

先代経営者に譲渡代金が支払われますが、それを使わないまま先代経営者が亡くなったときは相続税が課税されます。

 

 

(3)金融機関への返済が必要になる

持株会社方式による事業承継では、持株会社が融資を受け、融資を返済していく必要があります。

事業会社が持株会社に対して配当をして、持株会社は配当を原資に融資を返済することが可能ですが、持株会社は、事業会社で法人税を支払った後の利益から配当を受け、これを融資の返済に充てていくことになります。

そのため、事業会社が継続的に持株会社に配当するだけの利益をあげることができることが必要です。

 

▼会社の事業承継に関して今スグ弁護士に相談したい方は、以下よりお気軽にお問い合わせ下さい。

「咲くやこの花法律事務所」のお問い合わせページへ。

 

5,持株会社方式による事業承継の手順

次に、持株会社方式による事業承継の手順を見ていきましょう。

 

(1)後継者が出資して新会社を設立する

まず、後継者が出資して持株会社を設立します。

この際に後継者が持株会社の株式を100%持つことにより、先代経営者の議決権のすべてを持株会社を通じて後継者に帰属させることができます。

(2)金融機関からの融資を受ける

持株会社ができたら銀行に融資を申し込み、先代経営者の株式を持株会社で買い取る準備をします。

会社法上、「多額の借財」については取締役会の承認が必要とされているため、この融資についても、持株会社が取締役会設置会社のときは取締役会の承認決議が必要になることが通常です(会社法第362条4項2号)。

また、持株会社が取締役会のない会社であっても取締役が複数のときは、融資を受けることについて取締役の過半数の同意が必要です(会社法第348条2項)。

 

 

(3)先代経営者の株式を持株会社に譲渡する

先代経営者の株式を持株会社に譲渡します。

株式譲渡については、株式譲渡契約書を正しく作ることが必要です。

株式譲渡契約書の作成時の注意点については以下の記事で解説していますのでご参照ください。

株式譲渡契約書を解説!作成時の注意点やひな形利用の危険性について

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」
株式譲渡契約書の作成にあたっては注意しなければならない点が複数存在するため、必ず弁護士にご相談ください。

特に、株券発行会社については、会社法第128条1項により、株式の譲渡の時に必ず株券を売主から買主に渡さなければならず、これをしなければ株式の譲渡が無効になるという重要な注意点があります。

2006年5月1日より前に設立された会社は、定款で株券不発行を定めていなければ、実際に株券を発行したどうかにかかわらず、法律上、株券発行会社に該当します。

▶参考情報:株券発行会社に関してはWikipediaの参考情報もご覧下さい。 

 

(4)譲渡承認手続きをする

既存の事業会社が株式の譲渡に承認を要する会社である場合は、株式譲渡の承認手続が必要になります。

 

▶参考情報:株式の譲渡に承認を要する会社とは?

登記簿を見て、「当会社の株式を譲渡するには、取締役会の承認を受けなければならない」と書かれている会社は株式の譲渡に承認を要する会社です。

取締役会のない会社では「当会社の株式を譲渡するには、株主総会の承認を受けなければならない」と書かれています。

日本の非上場の会社はほとんどが株式の譲渡に承認を要する会社です。このような会社の株式を譲渡する場合は、承認手続きを経ることが必要になります。

 

承認の手続きは、以下の2つがあります。

 

  • 「譲渡人である先代経営者の側から譲渡承認を求める手続き」
  • 「譲受人である持株会社の側から譲渡承認を求める場合の手続き」

 

いずれの方法でも、会社法で手続きが定められていますので、正しい手続きを行わなければなりません。

以下で順番に見ていきましょう。

 

1,先代経営者の側から譲渡承認を求める場合の手続の流れ

Step1:
譲渡人である先代経営者から承認の請求を行う。

株式数と譲受人を明示して承認請求をすることが必要です(会社法第138条1号)。

 

Step2:
取締役会または株主総会で承認決議をする。

既存の事業会社において、承認の手続きをします。

会社の定款に特に定めがない限り、取締役会がある会社は取締役会で、取締役会がない会社は株主総会で承認決議をすることになります。

 

▶参考情報:定款とは?

定款とは会社の基本規則のことで、全ての法人で設立時に定款が作成されています。

・参照:Wikipediaの参考情報もご覧下さい。

 

Step3:
会社から譲渡を承認したことを先代経営者に通知する(会社法第139条2項)。

会社から譲渡を承認したことを通知することにより譲渡承認手続きが終了します。

 

2,持株会社の側から譲渡承認を求める場合の手続の流れ

Step1:
先代経営者と持株会社が共同で承認の請求を行う。

譲受人である持株会社が譲渡の承認申請をするときは、原則として譲渡人である先代経営者と共同で行うことが必要です(会社法第137条2項)。

株式数と譲受人を明示して承認請求をします(会社法第138条1号)。

 

Step2:
取締役会または株主総会で承認決議をする。

既存の事業会社において、承認の手続きをします。

定款に特に定めがない限り、取締役会がある会社は取締役会で、取締役会がない会社は株主総会で承認決議をすることになります。

 

Step3:
譲渡を承認したことを通知する(会社法第139条2項)。

会社から、先代経営者と持株会社の双方に譲渡を承認したことを通知することにより譲渡承認手続きが終了します。

 

(5)持株会社の取締役会における承認手続

会社法上、「重要な財産の譲受け」については取締役会の承認が必要とされているため、この株式の譲受けについても、持株会社が取締役会がある会社のときは、取締役会で承認決議を得る必要があります(会社法第362条4項1号)。

また、持株会社が取締役会のない会社であっても取締役が複数のときは、事業会社の株式の譲り受けについて取締役の過半数の同意が必要です(会社法第348条2項)。

 

以上が持株会社方式による事業承継の手順です。

 

6,咲くやこの花法律事務所なら「持株会社化についてこんなサポートができます!」

咲くやこの花法律事務の弁護士によるサポート内容

最後に事業承継についての咲くやこの花法律事務所のサポート内容をご説明します。

 

(1)持株会社設立、ホールディングス設立のご相談

咲くやこの花法律事務所では、持株会社、ホールディングスを利用した事業承継のご相談や、手続のサポートのご依頼を承っています。

持株会社方式を採用することのメリット、デメリットや、他の方法との比較、手続の進め方等で迷われている方は、ご相談ください。

また、手続きに不備があると、株式譲渡が無効になることもあるため、注意が必要です。法律上の手続を弁護士が代行することにより、確実な事業承継が可能です。

咲くやこの花法律事務所では事業承継に精通した弁護士がご相談をお受けしておりますのでご相談ください。

 

持株会社設立、ホールディングス設立等に関するご相談費用

●初回相談料:30分あたり5000円(顧問契約の場合は無料)

 

(2)事業承継全般のご相談

咲くやこの花法律事務所では、持株会社方式の利用だけでなく、事業承継全般のご相談もお受けしています。

株式の承継方法、金融機関や取引先との関係の調整、株式を分散させないための対策、遺留分対策など、事業承継の各種課題についてのご相談が可能です。

咲くやこの花法律事務所では事業承継に精通した弁護士がご相談をお受けします。

事業承継の成功のためには早めに正しいスタートを切ることがまず重要ですので、早めにご相談いただくことをおすすめいたします。

 

事業承継に関する相談費用

●初回相談料:30分あたり5000円(顧問契約の場合は無料)

 

なお、事業承継における弁護士の役割については以下の記事で詳しく解説していますので併せてご参照ください。

事業承継における弁護士の役割

 

7,事業承継について「咲くやこの花法律事務所」の弁護士へ問い合わせする方法

咲くやこの花法律事務所へのお問い合わせは、以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。

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記事作成弁護士:西川 暢春
記事作成日:2019年12月04日

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    西川 暢春 代表弁護士
    西川 暢春(にしかわ のぶはる)
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