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内定取り消したいけど違法?法律上のルールや認められる場合の理由を解説

内定取り消したいけど違法?法律上のルールや認められる場合の理由を解説
  • 西川 暢春(にしかわ のぶはる)
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    西川 暢春(にしかわ のぶはる)

    咲くやこの花法律事務所 代表弁護士
  • 出身地:奈良県。出身大学:東京大学法学部。主な取扱い分野は、「問題社員対応、労務・労働事件(企業側)、クレーム対応、債権回収、契約書関連、その他企業法務全般」です。事務所全体で400社以上の企業との顧問契約があり、企業向け顧問弁護士サービスを提供。

こんにちは。弁護士法人咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。

いったん採用を決めた内定者に対して、企業側から内定を取り消すことはできるのでしょうか?

内定者に落ち度がないのに、内定を取り消すということは、通常は許されることではありません。

しかし、会社の業績が低迷し、内定者に入社してもらっても活躍の場を与えることができない場合、あるいは極端にいえば内定者に入社してもらった後に会社が破産するような事態が予想されるというようなケースもあります。そのような場合には、内定者に早く事情を伝えて、謝罪して内定を取り消させてもらうことが、内定者にとっても、会社にとっても望ましいということもあるでしょう。

今回は、内定の取り消しが認められるケースと認めらないケースについて解説します。また、内定の取り消しの際に企業側から行うべき補償や損害賠償についても解説します。

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

違法な内定取り消しを行った場合、内定者から訴訟を起こされ、損害賠償を命じられるケースも目立っています。また、内定取り消しは企業の評判にも大きく影響します。内定取り消しを検討せざるを得ない場合は、必ず弁護士に事前にご相談ください。

 

例1:令和元年9月17日札幌地方裁判所判決

病院による内定取り消しについて約165万円の賠償を命じた事例

 

例2:平成26年5月2日福井地方裁判所判決

紡績糸等の製造会社による内定取り消しについて約253万円の賠償を命じた事例

 

▶参考情報:労務分野に関する「咲くやこの花法律事務所の解決実績」は、こちらをご覧ください。

 

▼【関連動画】西川弁護士が「内定取り消し!裁判でも適法と認められた事例を解説【前編】」と「内定取消は認められる?経営難や内定者の病気を理由とする場合【後編】」を詳しく解説中!

 

 

▼企業側の内定取り消しに関して今スグ弁護士に相談したい方は、以下よりお気軽にお問い合わせ下さい。

【お問い合わせについて】

※個人の方からの問い合わせは受付しておりませんので、ご了承下さい。

「咲くやこの花法律事務所」のお問い合わせページへ。

 

 

1,内定取り消しとは?

内定取り消しとは?

内定取り消しとは、企業が内定者に出した内定を取り消すことをいいます。これに対し、内定者側が内定を受けたにもかからず、入社の意思を取り消すことは、内定辞退と呼ばれます。

この記事では、内定取り消しについて解説します。

 

2,内定取り消しは違法か?法律上のルールについて

過去の判例上、企業が内定を出した時点で、内定者との間で雇用契約が成立したと扱われることが通常です。そのため、特別な事情がない限り、企業による内定の取り消しは許されません。

 

▶参考情報:大日本印刷事件判決(最高裁判所昭和54年7月20日判決)

例えば、大日本印刷事件判決(最高裁判所昭和54年7月20日判決)は、大学卒業予定者の内定を企業が取り消し、内定者から訴訟を起こされた事案です。この事件で、裁判所は、「採用内定により解約権留保付労働契約が成立した」と判断しています。

「解約留保権付労働契約」というのは、「一定の場合に企業側から解約することができる労働契約」という意味です。

そのうえで、裁判所は、「採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また、知ることが期待できないような事実であつて、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができるものに限られる。」としています。

・判決全文:「大日本印刷事件判決(最高裁判所昭和54年7月20日判決)」の判決文はこちら

 

つまり、「内定を出した場合は、雇用契約は既に成立しており、合理的な理由がない限り、内定を取り消すことはできない」ということになります。

ただし、取り消しが一切認められないわけではありません。以下では取り消しが認められるケースについても見ていきたいと思います。

 

3,内定取り消しが認められる理由

内定取り消しが認められる理由

企業側からの内定取り消しが認められるケースとしては以下のものがあります。

 

(1)内定を出した学生が大学等を卒業できなかった場合

内定を出した学生が、単位を落として大学を卒業できなかった場合など、予定していた入社日に入社できない場合は、企業側から内定を取り消すことも適法です。

 

(2)健康診断で病気が見つかるなど健康上の問題が分かった場合

業務に重大な支障が生じるような病気が見つかったときも、企業側から内定を取り消すことは可能です。ただし、就業に差支えのないような病気を理由に内定を取り消すことはできません。

 

▶参考情報:令和元年9月17日 札幌地方裁判所判決

令和元年9月17日札幌地方裁判所判決は、病院が内定を出した後に、内定者のHIV感染を知り、内定を取り消したという事案で、就業に支障はなく、内定取り消しは違法と判断しています。

・判決全文:「令和元年9月17日 札幌地方裁判所判決」の判決文はこちら

 

(3)履歴書の内容等に嘘があったことが判明した場合

履歴書の内容等に嘘があったことが判明した場合も、内定の取り消しが認められています。

 

(4)内定通知書や誓約書に記載した内定取り消し理由に該当した場合

企業が内定を通知する場合は、内定通知書を内定者に交付し、内定者からは企業に対し入社承諾書や誓約書を提出することが一般的です。

これらの書類に、内定取消理由があらかじめ記載されていた場合、それに該当したことを理由として内定を取り消すことは原則として適法です。

 

(5)内定後に刑事事件を起こした場合

内定後に内定者が刑事事件を起こしたケースでは、判例上、内定取り消しが認められています。

 

▶参考情報:昭和55年5月30日 最高裁判所判決

例えば、昭和55年5月30日最高裁判所判決は、内定後に、内定者が大阪市公安条例等違反の現行犯として逮捕され、起訴猶予処分を受けるなどしたことが判明した場合に、会社が内定を取り消したことは適法であるとしています。

・判決全文:「昭和55年5月30日 最高裁判所判決」の判決文はこちら

 

(6)経営難で整理解雇の要件を満たした場合

整理解雇とは、経営難を理由に企業が従業員を解雇することをいいます。日本でも以下の整理解雇の四要件を満たす場合は、整理解雇は合法とされています。

 

1,整理解雇の四要件

  • 人員削減が必要であること(経営上の必要性)
  • 解雇以外の経費削減手段をすでに講じたこと(解雇回避努力)
  • 解雇の対象者が合理的基準で選ばれていること(被解雇者選定の合理性)
  • 対象者や組合に十分説明し、協議したこと(手続きの相当性)

 

経営難による内定の取り消しも、整理解雇の1つです。

そのため、経営悪化により人員整理がやむを得ない場合に、社内でも経費削減の施策を行い、それと並行して内定者には相応の補償を提示して話し合いをするなど、一方的な内定取り消しを回避する努力をしたうえで、それでも合意に至らない場合に内定を取り消すことは認められます。

なお、四要件のうち「被解雇者選定の合理性」については、すでに就業している従業員を解雇するのではなく、内定者の内定を取り消すことの合理性が問題になります。

この点、インフォミックス事件(東京地方裁判所平成9年10月31日決定)は、「既に就労している従業員を整理解雇するのではなく、採用内定者である債権者を選定して本件内定取消に及んだとしても、格別不合理なことではない。」としています。

つまり、すでに就業している従業員を解雇するのではなく、内定者の内定を取り消すことは不合理なことではないとしています。

整理解雇については以下の記事で詳しく解説していますのであわせてご参照ください。

 

 

(7)まだ内定に至っていない場合

内定が成立しているというためには、入社日や給与等を企業が提示し、求職者との間で合意が成立していることが必要です。

まだ内定が成立したとはいえない状態であれば、不採用を決定することは違法ではありません。

判例上、まだ内定に至っていないとして、不採用は違法ではないと判断したものとして以下の事例があります。

 

▶参考情報:平成23年11月16日 東京地方裁判所判決(ケン・コーポレーション事件)

最終面接において人事部長が「入社日は平成22年8月23日に決定しよう。」と述べただけでは、内定には至っていないとして、その後、不採用にしたことは違法ではないとした事例

 

▶参考情報:平成19年4月24日 東京地方裁判所判決

最終面接の後、面接担当者が求職者に電話をして、「採用したいので翌日から出社するように」と言ったところ、求職者から「翌日からは出社できないので出社できる日を確認して連絡する」と回答されたが、そのまま連絡がなかった場合に、採用内定が成立したと認めることはできないとした事例

 

このような判例もあることから、すでに内定に至っているのかどうかも検討することが必要です。

 

4,内定を取り消す際の補償や損害賠償、対応方法について

では、経営難など企業側の事情で内定を取り消さざるを得ない場合、どのように対応すればよいのでしょうか?

 

(1)内定が成立しているのかどうかを検討する

まずは、内定が成立しているのかどうかを検討することが必要です。

いったん採用の意思を求職者に伝えていても、まだ入社日や給与等について合意に至っていない場合は、内定は成立しておらず、不採用としても違法ではないケースが多いでしょう。

 

(2)補償や損害賠償の提示をする

次に、内定が成立しているのに取り消す場合は、内定者に対して事情を説明したうえで謝罪し、企業側から一定の補償や損害賠償の提示をして話し合いを行うことが必要です。

内定者に対して支給することを予定していた給与の6ヶ月分~12ヶ月分程度が大まかな目安といえるでしょう。

上記のような補償や損害賠償について誠実に話し合いをしても合意に至らない場合は、整理解雇の四要件を検討し、四要件に該当すると判断できる場合には、内定者に内定取り消し通知を送って、内定を一方的に取り消すということも検討しなければなりません。

ただし、内定を一方的に取り消した場合、 あとで内定者から不当な内定取り消しであるとして訴訟を起こされる可能性は否定できません。

そのため、できる限り、一方的な内定取り消しは避け、補償や賠償について話し合いで合意することができるように交渉することが重要です。

 

5,内定取り消し企業の公表制度

内定取り消し企業に対するペナルティとして、厚生労働省による企業名公表制度が設けられています。

具体的には以下の場合には、厚生労働省のウェブサイトで企業名が公表されます(職業安定法施行規則第17条の4)。

 

1,企業名公表の対象となる場合

  • 2年連続の内定取り消し
  • 同一年度内10名以上の内定取り消し
  • 事業活動の縮小を余儀なくされていないのに内定を取り消した場合
  • 内定取り消しの理由について内定者に十分な説明を行わなかった場合
  • 内定取り消しの対象となった内定者の就職先確保に向けた支援を行わなかった場合

 

また、新卒者の内定取り消しについては、ハローワークに事前に通知することが義務付けられています(職業安定法施行規則第35条2項)。

 

 

6,企業側の内定取り消し対応について弁護士に相談したい方はこちら

咲くやこの花法律事務の弁護士によるサポート内容

最後に、内定をめぐるトラブルに関する咲くやこの花法律事務所のサポート内容をご紹介します。

 

(1)内定トラブルに関するご相談

咲くやこの花法律事務所では、内定トラブルに関する企業からのご相談をお受けしています。

内定については、内定の取り消しによるトラブル以外にも、企業としては内定を出した認識はないのに求職者側から内定していたと主張されるトラブルも多数見受けられます。

いずれも、裁判になる前に解決することが適切ですので、トラブルでお困りの際は早めに、裁判前の段階でご相談いただくことをおすすめします。

 

咲くやこの花法律事務所の損害賠償請求訴訟に関するご相談費用

●初回相談料:30分5000円+税(顧問契約の場合は無料)

 

(2)内定トラブルに関する交渉、裁判等の代理

咲くやこの花法律事務所では、内定トラブルについて交渉の代理によるサポートも行っております。

弁護士が企業側の代理人として、相手方に直接対応し、交渉を行うことにより、トラブルをできる限り裁判になる前に解決することが可能です。また、裁判になってしまった場合の、対応についても咲くやこの花法律事務所でご依頼をお受けしております。

お困りの方は早めにご相談いただきますようにお願いいたします。

 

咲くやこの花法律事務所の損害賠償請求訴訟に関するご相談費用

●初回相談料:30分5000円+税(顧問契約の場合は無料)

 

7,「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法

咲くやこの花法律事務所の企業側の内定取り消しに関するお問い合わせは以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。

【お問い合わせについて】

※個人の方からの問い合わせは受付しておりませんので、ご了承下さい。

「咲くやこの花法律事務所」のお問い合わせページへ。

 

注)咲くやこの花法律事務所のウェブ記事が他にコピーして転載されるケースが散見され、定期的にチェックを行っております。咲くやこの花法律事務所に著作権がありますので、コピーは控えていただきますようにお願い致します。

 

記事作成弁護士:西川 暢春
記事更新日:2023年8月10日

 

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    西川 暢春(にしかわ のぶはる)
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