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障害者雇用納付金制度とは?従業員100人超の企業は申告が必要

  • 西川 暢春(にしかわ のぶはる)
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    西川 暢春(にしかわ のぶはる)

    咲くやこの花法律事務所 代表弁護士
  • 出身地:奈良県。出身大学:東京大学法学部。主な取扱い分野は、「問題社員対応、労務・労働事件(企業側)、クレーム対応、債権回収、契約書関連、その他企業法務全般」です。事務所全体で400社以上の企業との顧問契約があり、企業向け顧問弁護士サービスを提供。

「障害者雇用納付金」制度をご存知でしょうか?

従業員数が100人を超えるすべての企業は、平成28年4月1日から平成28年5月16日までの間に「障害者雇用納付金」の申告を行うことが義務付けられています。

「障害者雇用納付金」は企業にとって負担となるものですが、申告、納付しなかった場合は以下のような2つのペナルティも定められています。

 

罰則1:

申告義務があるのに申告しない事業者に対しては、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が納付金の額を決定し、10%の追徴金が加算されます。

 

罰則2:

納付期限を過ぎても納付しない場合、企業の財産の差押え等により強制的に納付させる手続きがとられることがあります。

 

この制度は、以前は従業員数が200人を超える企業が対象でしたが、障害者雇用促進法の改正で、従業員数が100人を超える企業に、対象が拡大されました。

今回は、この「障害者雇用納付金」制度について説明していきたいと思います。

 

▶【参考情報】労務分野に関する「咲くやこの花法律事務所の解決実績」は、こちらをご覧ください。

 

▶【関連情報】障害者雇用給付金にも関わる障害者解雇についての関連記事

障害者の解雇について判断基準や注意点を事例付きで解説

 

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1,「障害者雇用納付金」制度とは?

まずは、「障害者雇用納付金」制度の概要からご説明したいと思います。

国は障害者の雇用を促進するために、企業に対して、従業員数の2パーセント以上の数の障害者を雇用することを義務付けています。

この2パーセントという数字は、「法定雇用率」と呼ばれます。

そして、雇用する障害者の数が従業員数の2パーセント未満の企業に対しては、納付金の支払いを義務付けており、これが「障害者雇用納付金」制度です。

この「障害者雇用納付金」は、2パーセントを超えて障害者を雇用している企業に対して支給される「障害者雇用調整金」などに充てられます。

 

 

(1)「障害者雇用納付金」制度についての法律改正

冒頭で記載した通り、この「障害者雇用納付金制度」は、以前は従業員数が200人を超える企業が対象でした。しかし、障害者雇用促進法が改正され、平成27年4月から「従業員数が100人を超える企業」に対象が拡大されました。

その結果、従業員数が100人を超える企業は、平成28年4月1日から平成28年5月16日までの間に障害者雇用納付金の申告をし、納付しなければなりません。

具体的には、雇用する障害者の数が従業員数の2%に満たない場合、足りない人数について、1人あたり月額「4万円」または「5万円」の納付金を支払うことが義務付けられています。

では、この「障害者雇用納付金」はどのくらいの金額になるのでしょうか?

 

(2)「障害者雇用納付金」の金額の目安

「障害者雇用納付金」について、従業員150人の会社が、障害者を1人も雇用していないケースを想定して、その金額の目安を考えてみましょう。

この場合、従業員数150人の2%は「3人」です。

障害者を1人も雇用していないため、この会社は雇用する障害者の数が従業員数の2パーセントに3人足りません。そして、従業員150人の会社では、足りない人数1人分について支払わなければならない納付金の額は月額「4万円」と定められています。

そのため、3人分で月額で「12万円」、年額で「144万円」の納付金の支払いが必要になります。

 

以上は、大雑把な計算であり、正確な計算はもう少し複雑ですが、まずは金額の目安として上記の点を理解しておきましょう。

このように納付金の金額は、企業経営にとって軽視できない金額になっています。

 

2,「障害者雇用納付金」の申告が必要かどうかの判断基準

では、どのような企業が、「障害者雇用納付金」の対象となるのでしょうか?

「障害者雇用納付金」の申告が必要かどうかの判断基準を見ていきましょう。

「障害者雇用納付金」の申告が必要かどうかは、基本的には、「前年度の従業員数が100人を超えているかどうか」によって決まります。

具体的には、前年度(前年4月から今年3月までの期間)に、従業員数が100人を超えた月が5ヶ月以上ある全ての会社は、申告が必要です。そして、各月の従業員数が100人を超えたかどうかの判断のポイントは以下の通りです。

 

(1)各月の従業員数が100人を超えたかどうかの判断のポイント

ポイント1:
原則として各月の初日に在籍していた従業員数をカウントします。但し、各月の初日ではなく、各月の賃金締切日を基準に従業員数をカウントすることも可能です。

ポイント2:
週の所定労働時間が20時間未満の従業員はカウントに入れる必要はありません。

ポイント3:
週の所定労働時間が20時間以上、30時間未満のパート社員は1人を0.5人として数えます。

 

上記の3つのポイントを踏まえて、前年度に従業員数が100人を超えた月が何ヶ月あるかを数えてみましょう。

平成27年4月から平成28年3月までの間に従業員数が100人を超えた月が5ヶ月以上ある場合は、平成28年度の「障害者雇用納付金」の申告義務の対象です。

この場合は、平成28年4月1日から平成28年5月16日までの間に、「障害者雇用納付金」を申告して納付する必要があります。

 

3,「障害者雇用納付金」の申告が必要な場合の申告手順

「障害者雇用納付金」の申告が必要な場合の申告手順は以下のとおりです。

 

  • 申告手順1:各月ごとの雇用障害者数を数える。
  • 申告手順2:自社が除外率設定業種に該当するかどうかを確認する。
  • 申告手順3:申告書を作成・提出し、納付金を納付する。

 

以下で、「障害者雇用納付金」の3つの申告手順を見ていきましょう。

 

申告手順1:
各月ごとの雇用障害者数を数える。

まず、「障害者雇用納付金」申告のための最初の手順として、「各月ごとの雇用障害者数を数える」ことが必要です。

この手順は、雇用する障害者の数が従業員数の2パーセントに満たないかどうか、満たない場合に足りない人数が何人かを確認するためのものです。

以下の3つのポイントに注意して数えましょう。

 

1,雇用障害者数を数える時の3つのポイント

ポイント1

原則として各月の初日に在籍していた雇用障害者数を数えます。但し、従業員数について賃金締切日をカウントの基準としたときは、雇用障害者数についても各月の賃金締切日がカウントの基準となります。

 

ポイント2

雇用障害者数にカウントされるのは、身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳のいずれかの手帳をお持ちの障害者です。

 

ポイント3

障害の程度や種類、雇用時間数によって、障害者1人を2人と数えることができる場合や、0.5人と数えなければならない場合が定められています。

 

具体的には、以下の表のとおりです。

 

▶参考:雇用障害者数の数え方

雇用障害者の週所定労働時間 30時間以上 20時間以上
30時間未満
20時間未満
身体障害者・知的障害者 1人 0.5人 カウント対象外
同上(重度の方) 2人 1人
精神障害者 1人 0.5人

 

このように、自社の雇用障害者数を各月ごとに数えることが申告のためにまず必要な手順となります。

 

申告手順2:
自社が除外率設定業種に該当するかどうかを確認する。

次に、「障害者雇用納付金」申告のための2つ目の手順として、「自社が除外率設定業種に該当するかどうか」を確認することが必要です。

「除外率設定業種」の制度は、障害者の就業が一般的に困難と思われる業種について、障害者雇用義務を法定雇用率(現在は2パーセント)よりも軽減する制度です。

たとえば、建設業、運送業、倉庫業などの業種が、障害者の就業が一般的に困難と思われる業種であるとして、「除外率設定業種」として指定されています。

そして、下記の厚生労働省のWebサイトに「除外率設定業種の一覧」が掲載されています。

 

▶参考情報:除外率設定業種の一覧はこちらをご覧下さい。

厚生労働省ホームページ「除外率制度について」(PDF)

 

自社が「除外率設定業種」に該当する場合は、「障害者雇用納付金」が通常の計算方法よりも減額されます。そのため、「障害者雇用納付金」の申告にあたり、自社が「除外率設定業種に該当するかどうかを確認しておきましょう。

 

申告手順3:
「障害者雇用納付金」申告書を作成・提出し、納付金を納付する。

最後に、「障害者雇用納付金」申告のための3つ目の手順として、「雇用障害者数の確認と、除外率設定業種に該当するかどうかの確認ができたら、申告書を作成し、提出する」ことになります。

 

1,「障害者雇用納付金」申告書の作成について

「障害者雇用納付金」申告書は、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構のWebサイトからダウンロードできる「平成28年度版申告申請書作成支援シート(マクロ機能付き)」で作成することができます。

 

▶参考情報:平成28年度版申告申請書作成支援シート(マクロ機能付き)

独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構「申告申請書作成支援シート(マクロ機能付き)」こちら

 

「障害者雇用納付金」申告書の作成ができたら、窓口持参、郵送、Eメールのいずれかの方法で申告書を独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構に提出し、納付書で納付金を支払います。

 

4,「咲くやこの花法律事務所」の弁護士への問い合わせ方法

障害者雇用納付金制度に関する相談は、下記から気軽にお問い合わせください。また、今すぐのお問い合わせは以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。

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6,まとめ

今回は、「障害者雇用納付金」について、最初に「障害者雇用納付金」制度の解説をしました。その後、「申告が必要かどうかの判断基準」、「申告が必要な場合の障害者雇用納付金の申告手順」についてもご説明しました。

「障害者雇用納付金」は企業にとって負担となるものですが、申告、納付しなかった場合は、以下の通りペナルティが定められていることも忘れてはいけない重要な注意点です。

 

「障害者雇用納付金」を申告、納付しない場合の罰則

罰則1:

申告義務があるのに申告しない事業者に対しては、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が納付金の額を決定し、10%の追徴金が加算されます。

 

罰則2:

納付期限を過ぎても納付しない場合、企業の財産の差押え等により強制的に納付させる手続きがとられることがあります。

 

また、障害者雇用促進法の改正により、平成30年以降は徐々に法定雇用率が引き上げられることが決まっています。そのため、障害者を雇用していない企業の障害者雇用納付金は、現時点では法定雇用率2%を前提とした計算ですが、法定雇用率が引き上げられることにより、納付金額は、徐々に増えていきます。

今、障害者雇用をしていない企業も、できるところから、障害者の雇用に取り組んでいきましょう。

 

記事作成弁護士:西川 暢春
記事更新日:2023年1月24日

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