2020年4月1日から新しい民法が施行されました。民法改正による連帯保証人制度についての重要な変更点をご存知でしょうか?
変更点は多岐にわたりますが、一般企業としては3つのポイントをおさえておけば対応が可能です。一方で、この3つのポイントをおさえて契約書のひな形の変更をしておかなければ、以下のようなリスクがあります。
- 契約書の連帯保証に関する契約条項が無効になる
- 代金未払いの場面で連帯保証人への請求ができずに債権回収に重大な支障が生じる
この記事では、「民法改正による連帯保証人制度の変更点を一般企業において本当に知っておくべきポイントのみ」に絞ってわかりやすく解説します。
この記事を読んで、企業として必要になる対応の内容を把握しておきましょう。
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今回の記事で書かれている要点(目次)
1,そもそも「連帯保証人」とは?
民法改正で予定されている連帯保証人制度の変更内容をご説明する前に、まずは、「連帯保証人とは何か」について、基本的なところを確認しておきましょう。
▶「連帯保証人」とは?
「連帯保証人」とは、本来の債務者(主債務者)と同等の責任を負うことを契約により約束した人のことをいいます。
例えば、自社が新しい取引先に継続的に商品を販売することになった場合には、その取引先と取引基本契約書を締結することが多いと思います。
そして、取引基本契約書には連帯保証に関する契約条項を入れることも多いでしょう。
これは、自社が、商品を新しい取引先に納品したときに、取引先が万が一代金を支払わないような場面に備えて、取引先と同等に代金支払いの責任を負う人(連帯保証人)を確保しておくという意味があります。
この場合、本来代金を支払うべき立場にある取引先自身は、連帯保証人との関係で「主債務者」と呼ばれます。通常の企業間取引では取引先の社長が連帯保証人になるケースがほとんどだと思います。
企業が締結する契約書のうち、取引基本契約書や売買契約書、リース契約書、賃貸借契約書などについては、このような連帯保証人についての契約条項が入っているケースが多くなっています。
今回の民法改正ではこの連帯保証人制度に大きな変更がありましたので以下で解説していきたいと思います。
なお、企業が金融機関からの借り入れを行う際にも、社長が連帯保証を求められることが多いと思いますが、この点に関する改正については、金融機関において対応があると思われますので、今回の記事の対象とはしていません。
一般の企業間取引における連帯保証人制度に絞ってご説明していきたいと思います。
2,企業がおさえておくべき民法改正による連帯保証人制度の変更点
今回の民法改正による連帯保証人制度について、企業としておさえておくべき重要な変更点は以下の通りです。
民法改正による連帯保証人制度の重要な変更点
- 改正のポイント1:個人根保証契約の極度額ルールについて
- 改正のポイント2:主債務者から連帯保証人への情報提供義務について
- 改正のポイント3:債権者から連帯保証人への情報提供義務について
以下で順番に見ていきましょう。
3,契約書雛形の変更が必要!個人根保証契約の極度額ルールについて
まず、最初の重要なポイントが「個人根保証契約の極度額ルール」についての変更です。
結論から言えば、継続的な売買や賃貸借の契約、フランチャイズ契約などについて、契約相手企業の社長などの個人を連帯保証人にする場合は、契約書で極度額(連帯保証人の責任限度額)を定めることが義務付けられました。(改正民法465条の2)
以下で内容を説明していきたいと思います。
(1)個人根保証契約の極度額ルールについての変更の内容について
現行民法のもとでは、例えば継続的な売買に関して作成される取引基本契約書においては、連帯保証人に関する契約条項として、以下のように記載されることが多くなっていました。
現行民法のもとでの連帯保証条項の例
「丙(連帯保証人)は、甲(売主)に対し、乙(買主)が本契約上負担する一切の債務を連帯して保証する。」
しかし、このような継続的な売買に関する契約では、1回きりの売買の連帯保証人となる場合とは異なり、代金がいくらになるかが連帯保証人になる時点ではわからず、連帯保証人として実際に最大でいくらまで責任を負う可能性があるのかもわかりません。
このように継続的な取引から将来発生する不特定の債務をまとめて連帯保証するケースを「根保証契約」といい、根保証契約で連帯保証人が個人であるケースを「個人根保証契約」といいます。
この個人根保証契約については、連帯保証人が、契約の時点で最大でいくらまで責任を負担するかがわからず、場合によっては予想外の責任を負うことになる可能性もあり、連帯保証人の保護の観点から法改正が必要であると議論されてきました。
今回の民法改正により、個人根保証契約のケースについては、必ず、契約締結時に極度額(連帯保証人の責任限度額)を定めなければならず、極度額を定めていない連帯保証条項は無効とされることになりました。
(2)個人根保証契約の極度額ルールの変更について必要な企業の対応
継続的な売買や賃貸借の契約、フランチャイズ契約書、代理店契約書などにおいて、取引先の社長など個人を連帯保証人につける場合は、通常はこの「個人根保証契約」にあたります。
また、従業員の雇用にあたり身元保証書を提出させるケースでは、身元保証人と企業の契約は「個人根保証契約」にあたります。
▶参考情報:「身元保証書」について詳しくは以下の記事をご覧下さい。
そのため、これらの契約書や身元保証書について、自社でひな形を用意して対応している場合は、民法改正により連帯保証条項の条文を変更し、連帯保証に極度額を設定する対応が必要となります。
具体的な契約条項の書き方は、次の項目で紹介する「5,民法改正に対応した契約書の連帯保証条項の例」を参照してください。
このように、取引基本契約書や賃貸借契約書、フランチャイズ契約書、代理店契約書などの連帯保証条項は、民法改正により、極度額を設定するひな形の変更が必要になったことをおさえておきましょう。
4,契約時に注意が必要!主債務者から連帯保証人への情報提供義務について
次に、重要なポイントが「主債務者から連帯保証人への情報提供義務のルール」の新設です。
具体的には、連帯保証人をつける契約の際には、主債務者から連帯保証人に主債務者の財産状況等を情報提供することが義務付けられました。(改正民法465条の10)
以下で詳細を見ていきましょう。
(1)主債務者から連帯保証人への情報提供義務の内容について
まず、今回新設された情報提供義務の内容について、自社(売主)が自社商品を継続的に購入してくれる取引先(買主)との間で取引基本契約書を締結し、その際に買主に連帯保証人をつけることを求めたケースで考えてみましょう。
上記の事例で、「主債務者である買主は連帯保証人に買主の財産状況等について情報提供しなければならない」というのが、民法改正で新設された主債務者から連帯保証人への情報提供義務の内容です。
そして、主債務者(買主)がこの情報提供義務を怠り、連帯保証人に情報提供をしなかったことにより、連帯保証人が主債務者の財産状況等を誤解して連帯保証人になることを承諾した場合で、かつ売主が主債務者が情報提供義務を果たしていないことについて知っていたりあるいは知らないことに過失があった場合は、連帯保証人は後日、連帯保証契約を取り消すことができるとされています。
このように、主債務者から連帯保証人への情報提供義務が果たされていない場合、「連帯保証契約が取り消されることもある」という形で、自社(売主)にも影響が及びますので注意が必要です。
(2)主債務者から連帯保証人への情報提供義務の新設について必要な企業の対応
通常の企業間取引では、連帯保証人になるのは、取引先企業の社長であることがほとんどです。
その場合は、改正民法のルール通り対応すると、取引先は取引先の社長に会社の財産状況を情報提供しなければならないことになりますが、社長であれば自分が社長をつとめる取引先の財産状況を把握していますので、このルールが問題になることは少ないと思われます。
一方、例外的に、取引先企業について社長以外が連帯保証するケースでは、取引先から連帯保証人に取引先の財産状況の情報提供をしておかなければ、連帯保証人としての契約が取り消されることにもなりかねませんので、注意が必要です。
このような場合は、売主としても主債務者(取引先)から連帯保証人に、主債務者の財産状況等について正しい情報提供を行ったことを書面上明確にして、自社でも確認しておくことが必要になります。
この情報提供義務により提供しなければならない情報の項目は以下の通りです。
主債務者から連帯保証人に情報提供が義務付けられた情報の項目
- 1,主債務者の財産及び収支の状況
- 2,主債務者が主債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況
- 3,主債務者が主債務について債権者に担保を提供するときはその事実および担保提供の内容
このように、民法改正による新しいルールとして、主債務者から連帯保証人への情報提供義務が新設されたことをおさえておきましょう。
この情報提供義務の点も踏まえると、民法改正後の連帯保証に関する契約書の条項の書き方としては以下のような内容とし、前述の3項目を別紙に記載して契約書に添付することが考えられます。
▶参考:民法改正に対応した契約書の連帯保証条項の例
1 丙(連帯保証人)は、甲(売主)に対し、乙(買主)が本契約上負担する一切の債務を極度額●●●万円の範囲内で連帯して保証する。
2 乙は、丙に対して、本契約に先立ち、下記の項目について別紙のとおり、情報の提供を行い、丙は情報の提供を受けたことを確認する。
(1)乙の財産及び収支の状況
(2)乙が主債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況
(3)乙が主債務について甲に担保を提供していない事実
上記記載例も参考に、契約書のひな形の修正を行っておきましょう。
なお、この「主債務者から連帯保証人への情報提供義務」は、継続的な取引から将来発生する不特定の債務をまとめて連帯保証する「根保証契約」についてのみ適用されます。
そのため、取引基本契約書や賃貸借契約書、フランチャイズ契約書、代理店契約書などの連帯保証条項についてはひな形の修正が必要ですが、単発の売買契約など根保証契約でない契約書の連帯保証条項については従来通りのひな形で問題ありません。
5,契約後に注意が必要!債権者から連帯保証人への情報提供義務について
次に、重要なポイントが「債権者から連帯保証人への情報提供義務のルール」の新設です。
具体的には、以下の2点が義務付けられました。
- (1)連帯保証人からの債権者への問い合わせがあった場合の回答の義務
- (2)主債務者が期限の利益を喪失したときの、債権者から連帯保証人への通知の義務
自社が取引相手との契約書で連帯保証条項をいれたにもかかわらず、上記の2つの義務を怠ったときは、いざ連帯保証人に請求をしようとするときに、連帯保証人に対する請求が制限される結果となることがありますので注意が必要です。
以下で順番に見ていきましょう。
(1)連帯保証人からの債権者への問い合わせがあった場合の回答の義務
債権者は主債務者の履行状況について保証人から問い合わせを受けたときは、回答することが義務付けられました。(改正民法458 条の2)
例えば、自社(売主)が自社商品を継続的に購入してくれる取引先(買主)との間で取引基本契約書を締結し、そこで取引先の社長を連帯保証人につけたが、その後、連帯保証人が取引先の社長を退任したケースを想定してみましょう。
この場合、連帯保証人は、社長退任後も、引き続き、連帯保証人としての義務を負担しますので、買主である取引先が商品の購入代金を適切に支払っているのか、滞納はないのかなどが当然気になります。
しかし、連帯保証人はすでに社長を退任しているため、買主による代金の支払状況等を把握することができない場合があります。
そこで、連帯保証人から債権者(売主)に対して、買主が代金を適切に支払っているか、滞納はないかなどを問い合わせることを認め、債権者(売主)はその場合に、連帯保証人に適切に情報提供しなければならないとしたのが、今回の改正です。
主債務者は契約後も連帯保証人からの問い合わせがあった場合は適切に対応しなければならなくなったことをおさえておきましょう。
(2)主債務者が期限の利益を喪失したときの、債権者から連帯保証人への通知の義務
次に、債権者は主債務者が期限の利益の喪失を知ったときは2か月以内に連帯保証人に通知することが義務付けられました。(改正民法458条の3)
これは取引先による代金不払い等があった場面で問題になる規定です。
以下では、自社(売主)が自社商品を継続的に購入してくれる取引先(買主)との間で取引基本契約書を締結し、そこで取引先の社長を連帯保証人につけたケースを例に考えてみましょう。
このような取引基本契約書では、例えば、「買主が契約上の債務の履行を遅滞したとき」は、「その全ての債務について期限の利益を当然に喪失し、直ちにその債務を履行しなければならない」などという「期限の利益喪失条項」が入っていることが通常です。
この「期限の利益喪失条項」は、例えば、2月末支払い分、3月末支払い分、4月末支払分の購入代金があったとして、買主が2月末支払分の購入代金の支払を遅らせた場合、買主は3月末支払い分、4月末支払分も含めてすぐに払わなければならないという意味の契約条項です。
本来は、3月末あるいは4月末に支払えばよかったものについてもすぐに支払わなければならなくなるという意味で「期限の利益喪失」と呼ばれます。
今回の民法改正では、このように主債務者が期限の利益を喪失したときは2か月以内に連帯保証人に通知することが義務付けられました。
そのため、取引先による支払遅れ等があった場合に、民法改正後は以下の対応が必要になります。
取引先による支払遅れ等があった場合に必要な対応
1,まず、支払遅れがあった取引先との契約書を確認し、連帯保証人の有無、期限の利益喪失条項の有無を確認することが必要です。
2,次に、支払遅れが期限の利益喪失条項に該当する場合は、取引先が期限の利益を喪失した事実を連帯保証人に対して2か月以内に通知することが必要です。
このように、取引先による支払遅れがあったときにとるべき行動として、連帯保証人への通知が必要になったことに注意し、自社の入金管理の担当者や請求担当者にも共有しておきましょう。
6,民法改正による対応について弁護士に相談したい方はこちら
咲くやこの花法律事務所では、民法改正への対応について、以下のご相談をお受けしています。
- (1)企業の個別の事業内容を踏まえた民法改正対応に関するご相談
- (2)民法改正を踏まえた契約書の作成
以下で順番に見ていきましょう。
(1)企業の個別の事業内容を踏まえた民法改正対応に関するご相談
今回の民法改正は、「製造業、流通業、不動産賃貸業、不動産売買」など多様な分野で、契約書の修正や企業実務の変更が必要になる重要な改正です。
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(2)民法改正を踏まえた契約書の作成
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民法改正に伴い、「取引基本契約書や不動産賃貸借契約書、インターネット上の利用規約や契約約款」など多岐にわたる契約書を変更する必要が出てきます。
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10,まとめ
今回は、民法改正による連帯保証人制度の変更点について解説しました。
民法改正により、これまで使用してきた契約書のフォーマットを修正したり、取引先による支払い遅延の場合の対応を変更することなどが必要になることをご理解いただけたのではないかと思います。
早めに民法改正への対応を検討しておきましょう。
なお、不動産賃貸分野における連帯保証制度についての民法改正対応については次回の記事で詳しく解説しますので、あわせて確認してください。
11,民法改正に関連する他のお役立ち記事一覧
2020年4月1日から施行される民法改正は一般企業にとって大きな影響を与えることになりそうです。そのため、実際に民法改正が施行されるまでに、自社にとって必要な対応内容を正しく把握し、事前準備と対策を正確に行っておく必要があります。
咲くやこの花法律事務所が運営する「咲くや企業法務.NET」でも今回の民法改正について企業法務において重要な情報は「お役立ち情報」の記事として今後も配信していきますので、必ずチェックしておいて下さい。
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記事作成弁護士:西川 暢春
記事更新日:2023年1月3日