こんにちは。咲くやこの花法律事務所の弁護士の西川暢春です。
今回は、「社内でセクハラの被害の申告があった」という場面で、企業が必ずとるべき対応についてご説明します。
セクハラの被害申告があった場面で、何もせずに放置することは、企業にとって重大なリスクです。
過去には、以下のような判例も出ています。
事例1:
平成21年10月16日大阪地裁判決
申告されたセクハラについて十分調査せずにあいまいなまま放置したとして会社にセクハラの賠償とは別に、30万円の支払いを命じた事例
事例2:
平成16年7月8日横浜地裁判決
申告されたセクハラについて必要な証拠を集めるなどの調査しなかったことについてセクハラの賠償とは別に、88万円の支払いを命じた事例
被害申告への対応が遅れたり、誤ったりすると、「会社がセクハラを放置した」という印象を与え、企業としても損害賠償のリスクを負うことになります。
では、社内でセクハラが発生した場合に企業が法律上とらなければならない対応はどのようなものでしょうか?
以下では5つのポイントにわけてわかりやすく解説します。
セクハラの被害申告があった場面では、後日、裁判などに発展する可能性が高いことを意識して行動する必要があります。被害者はセクハラ加害者だけでなく、「使用者責任」というロジックで企業に対しても裁判を起こすケースが多いです。
この記事を読んでいただいても判断に迷う部分については、早急に咲くやこの花法律事務所にご相談ください。
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今回の記事で書かれている要点(目次)
1,被害者と加害者を隔離する
セクハラの被害申告があったときにまず、検討しなければならないのは、被害者と加害者を隔離することです。
過去の判例でも、セクハラの被害申告があり、その内容が重大なものであるときは、直ちに被害者と加害者を隔離して、顔を合わせなくてもすむようにしなければならないとされています(平成22年7月29日札幌地方裁判所判決)。
上記の判例は性的な暴力の事例ですが、性的な冗談や嫌がらせといった比較的軽微なケースであっても、被害者と加害者の間にトラブルが発生して職場環境が悪化している以上、被害者と加害者を隔離することがベストです。
また、隔離の方法は、可能であれば、被害者と加害者を、別の事業所、別の店舗に配属することが最も望ましいです。そのような隔離が難しければ、例えば、調査が済むまで被害者、加害者双方の出勤を免除して自宅に待機させるなどの方法を検討することが必要です。
裁判所は企業はセクハラの事後対応として以下の点を行う義務があるとしています(平成22年7月29日札幌地方裁判所判決)。
- 事実関係の調査を行う義務
- 被害者が心身の被害を回復できるよう配慮する義務
- セクハラによって悪化した被害者の勤務環境を改善する義務
- 被害者がやっかいもの扱いされ、不利益を受けることがないように配慮する義務
2,セクハラ(セクシャルハラスメント)について調査を行う
次に、企業は被害申告されたセクハラについて適切な調査を行わなければなりません。
調査をすることは義務であり、調査しなければ、被害申告を放置したとして、企業に慰謝料の支払いが命じられます。
また、形式的な事情聴取だけして加害者に簡単な注意ですませて丸くおさめようとすることも不適切です。
例えば、平成21年10月16日大阪地裁判決は、清掃などを事業とする会社で女性社員からおしりを触られたなどのセクハラ申告があった事案です。
裁判所は、会社がセクハラについて、簡単な事情聴取をして、加害者に対して「誤解をうけるような行為はやめるように」と注意しただけにとどめたことは違法な対応であるとして会社に被害者に対する損害賠償を命じています。
では、会社はどのような調査を行えばよいのでしょうか。
正しい調査手順は以下の通りです。
(1)被害者から話を聴いて記録をとる
セクハラの被害の申告を受けた場合は、すぐに被害者からの事情聴取を行います。
事情聴取が遅れると、企業が誠実な対応をしていないという印象を与え、被害者の両親や外部の第三者が介入してきて、トラブルが拡大しますので注意が必要です。
事情聴取のポイントは以下の通りです。
- 事情聴取の結果は、詳細に記録をとります。場合によってはつじつまが合わない内容が話されることもありますが、否定することなくそのまま記録に残します。
- 本人の同意を得て録音することも有効です。
- 聴取内容の記録は被害者本人に確認してもらった上で、被害者の署名、捺印をもらいます。
- 被害者と加害者のメールやLINEのやりとりがあればすべてコピーをとります。
性暴力を伴うような重大なセクハラである場合は、事情聴取を女性従業員が担当する、あるいは女性従業員を事情聴取に同席させるなどの配慮が必要です。また、被害者の心身のダメージが大きいときは、カウンセリングを受けさせるとかしばらく休職することを認めるなどの配慮が必要になります。
(2)加害者からの事情聴取を行う
次に、加害者側からの事情聴取を行います。加害者からの事情聴取は被害者に同意を得たうえで行いましょう。
事情聴取のポイントは被害者からの事情聴取と同様です。
詳細に記録をとり、また、被害者とのメールやLINEのやりとりの提出を求めてすべてコピーをとります。
3,セクハラ(セクシャルハラスメント)の有無を判断する
事情聴取が終わったら、会社として、セクハラの有無について判断し、加害者と被害者に会社としての判断を伝えることが必要です。
もし、加害者と被害者の言い分が食い違う場合は、以下の3つのポイントに注意して、どちらが真実かを慎重に検討する必要があります。
ポイント1:
メールやLINEの記録との矛盾がないか
被害者と加害者のメールやLINEのやりとりが残っている場合は、それは重要な証拠になります。
被害者の言い分が、残っているメールやLINEのやりとりから見て不自然なものでないか検討することが必要です。同様に加害者の言い分についても、残っているメールやLINEのやりとりから見て不自然なものでないか検討することが必要です。
メールの履歴は、過去の裁判例でも、重要視されており、以下のような判例が出ています。
●セクハラがあったとされる飲酒の後で、被害者が加害者にお礼のメールを送り加害者を気遣う内容になっていたことを根拠にセクハラを否定したケース(大阪地方裁判所平成23年9月16日判決)
●ドライブの際に無理やりキスをする、胸を触るなどしたと被害報告があったケースについて、被害者は加害者に対して事件後も好意をよせていたことが、メールの履歴からうかがえるとしてセクハラを否定したケース(大阪地方裁判所平成25年11月 8日判決)
調査段階でも、被害者、加害者双方の供述内容が、両者間のメールやLINEの履歴と照合して不自然ではないかを検討しておくことは非常に重要です。
ポイント2:
再聴取時に以前の供述内容からの不自然な変化がないか
被害者と加害者の言い分が食い違う部分については、再度、被害者、加害者の双方から事情聴取を行う必要があります。
例えば、被害者に対して「加害者はこのように言っているが、あなたの認識はどうか?」と尋ね、一方で加害者に対しても「被害者はこのように言っているが、あなたの認識はどうか?」と尋ねる必要があります。
このような質問をした結果、被害者あるいは加害者のどちらかが、以前の自分の供述内容を不自然に変更するような場合は、その供述は信用しがたいと判断する重要な根拠となります。
ポイント3:
関係者、目撃者からの事情聴取を行う
セクハラは、誰も見ていない場で行われるケースも多く、そのような場合、セクハラ自体については目撃者がいることはほとんどありません。
しかし、セクハラ前後の被害者と加害者の様子については同僚その他関係者に事情聴取をすれば、事実関係の把握に役立つことがあります。
プライバシーにも配慮したうえで、関係者、目撃者からも事情聴取を行いましょう。
この聴取の結果も、詳細に記録をとり、本人に確認してもらったうえで、署名、捺印をもらっておきましょう。
このように、メールやLINEの記録、関係者からの事情聴取結果、そして、被害者・加害者からの再聴取結果を踏まえて、会社としてセクハラの有無を判断することが必要です。
4,加害者の処分を検討する
調査の結果、セクハラがあったと判断した場合は、加害者の処分を検討する必要があります。
仮に加害者が、企業にとって重要な人物であったり、成績がよい人物であっても、処分をしないことは許されません。
処分はセクハラの程度に応じて適切な内容であることが必要です。軽微なセクハラなのに思い処分をすることは、違法な処分になります。
どのような場合にどのような処分にするべきかの目安や処分の手順は、以下の記事や動画で詳しくご説明していますのでご参照ください。
▶参考情報:西川弁護士が「セクハラ(セクシャルハラスメント)加害者に対する懲戒処分について」を詳しく解説中!
5,セクハラ(セクシャルハラスメント)の再発を防止する
セクハラの調査を終えた後は、セクハラの再発防止のための措置をとらなければなりません。
具体的には、以下のようなものです。
- 社長が、朝礼や社員研修の場で、セクハラを二度と起こしてはならないことを訓示する。
- セクハラ防止のための研修を行う(▶参考情報:現場で役に立つコンプライアンス研修の実施方法について)
- 加害者に懲戒処分をした場合は、懲戒処分を行ったことを社内で公表する。
以上のような再発防止措置を講じておくことが必要です。
セクハラ対策については、以下の記事でも詳しい解説をしていますのであわせてご覧下さい。
6,セクハラ発生時の対応に関して弁護士に相談したい方はこちら
最後に、セクハラトラブルについての咲くやこの花法律事務所における企業向けサポート内容をご紹介します。
(1)セクハラトラブルについてのご相談
社内でセクハラトラブルが生じたときに会社が事後対応を誤ると、加害者とも被害者とも重大なトラブルに発展するおそれがあります。
会社の対応が不十分だった場合は被害者やその家族との間でトラブルになり、法的な責任を問われる危険があります。
一方で、セクハラを理由に加害者を誤って解雇すれば解雇トラブルになります。
大きなトラブルに発展した場合は他の従業員にも情報が広まってしまい、就業環境が悪化し、離職者が続出する危険すら存在します。
このような事態を防ぐには、セクハラトラブルが生じた時点で早期に弁護士に相談して対応していくことが重要です。
咲くやこの花法律事務所にご相談いただければ、セクハラを含む労働トラブルに精通した弁護士が、会社の取るべき行動を具体的に提示、説明させていただくことができます。
セクハラトラブルが生じてお困りの企業の方はぜひご相談ください。
セクハラトラブルに強い弁護士への相談料の例
●初回相談料:30分5000円+税(顧問契約締結の場合は無料)
(2)セクハラについての調査
セクハラトラブルに対して適切に対処するには、迅速かつ適切な調査が欠かせません。
セクハラについての調査が不十分だと、被害者から法的な責任を問われるおそれがあります。
また、セクハラについての調査は、裁判になったときに備えての証拠確保という面もあります。そのため、自社だけで対応せず、弁護士に依頼して事実関係の調査を進めていくのが安全です。
咲くやこの花法律事務所では、セクハラの事実関係に関する調査について随時ご依頼を承っております。
セクハラに関する労働トラブルに強く、労働事件の裁判にも精通した弁護士が、裁判になった場合も想定して、会社と連携を取りながらセクハラの事実関係を調査いたします。
お困りの企業の方はぜひご依頼ください。
セクハラトラブルに強い弁護士への相談や調査依頼の弁護士費用例
●初回相談料:30分5000円+税(顧問契約締結の場合は無料)
●弁護士によるセクハラの事実関係に関する調査:30万円+税
(3)加害者に対する懲戒処分手続き
会社はセクハラの事実関係の調査に基づき、「妥当な処分」をする必要があります。しかし、自社だけで妥当かどうかの判断を行うのは難しいのが現実です。
咲くやこの花法律事務所では、セクハラ加害者に対する懲戒処分手続について弁護士が相談をうけ、場合によっては弁護士が懲戒処分を代行して行います。
懲戒処分に精通した弁護士が、過去の事例を十分に調査検討し、適切な懲戒処分を行うことで、懲戒処分手続上のリスクを最小限にすることが可能です。
セクハラトラブルに強い弁護士による懲戒処分等の対応の弁護士費用例
●初回相談料:30分5000円+税(顧問契約締結の場合は無料)
●弁護士による懲戒処分手続きの代行:15万円程度~
(4)セクハラ被害者との示談交渉、裁判等
セクハラが行われた場合には、企業もセクハラ被害者に対して損害賠償責任を負う可能性があります。
セクハラ被害者から損害賠償請求をされた場合、そもそも会社が損害賠償責任を負うか否か、金額はどれくらいが妥当なのか、どのように示談交渉していけばよいかについては弁護士による専門的な判断が必要です。
咲くやこの花法律事務所では、セクハラ被害者から慰謝料等の金銭請求があった場合の示談交渉や、裁判等への対応についても常時ご依頼を承っております。
セクハラ問題について実績豊富な弁護士が、迅速にトラブルの解決を実現しますので、ぜひご相談ください。
セクハラトラブルに強い弁護士による示談交渉や裁判対応の弁護士費用例
●初回相談料:30分5000円+税(顧問契約締結の場合は無料)
●セクハラ被害者との示談交渉:15万円程度~
●セクハラ被害者との裁判:30万円程度~
7,「咲くやこの花法律事務所」の弁護士へ問い合わせる方法
咲くやこの花法律事務所の労働問題に強い弁護士によるセクハラ対応のサポート内容については「労働問題に強い弁護士への相談サービス」をご覧下さい。
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9,まとめ
今回はセクハラが社内で起こった場合に企業がとるべき対応についてご説明しました。
セクハラのトラブルは、企業がその後どのような対応をとるかによって、収束に向かうこともあれば、さらにトラブルが拡大することもあります。
セクハラ問題を早期に解決するためには、この記事でご説明したような正しい対応をすることが必要です。
10,【関連情報】セクハラ対応に関するその他のお役立ち記事一覧
今回の記事では、「セクハラ発生時に必要な企業側の対応とは?5つのポイントを解説」についてご説明しました。
このような従業員によるセクハラトラブルに関しては、今回ご紹介した「セクハラ発生時の企業側の対応」以外にも確認しておくべきお役立ち情報があります。
以下でまとめておきますので、合わせてご覧下さい。
・セクハラ(セクシャルハラスメント)をした社員の解雇の手順と注意点
実際に従業員を雇用されている会社では、「セクハラトラブル」に対応をしなければならないケースがあるかもしれません。そのため、社内で「セクハラトラブル」が発生した際は、スピード相談が早期解決の重要なポイントです。
セクハラに関する対応については、「労働問題に強い弁護士」に相談するのはもちろん、普段から就業規則など自社の労務環境の整備を行っておくために「労働問題に強い顧問弁護士」にすぐに相談できる体制にもしておきましょう。
労働問題に強い咲くやこの花法律事務所の顧問弁護士サービスについては、以下を参考にご覧ください。
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記事作成弁護士:西川 暢春
記事更新日:2022年7月29日