こんにちは。咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。
所在不明株主の存在が事業承継、M&Aあるいは会社運営の妨げとなっていませんか?
以下のようなご相談をよくいただきます。
- 「会社を後継者に引き継ぎたいと思っているが、所在不明株主の株式を引き継ぐことができず、このままでは株式がどんどん分散されてしまう。自分の代でなんとかしたい。」
- 「所在不明株主がいるため、M&Aがうまく進まない。」
- 「所在不明株主がいるために、株主総会の運営に支障をきたしている。」
所在不明株主の問題を解決するためには、所在不明株主の株式を買い取ってしまうことが必要です。
ただ、株主と連絡もつかないのですから、通常の方法で買い取ることはできません。
この点について、所在不明株主の株式売却制度の利用など、大きく分けて3つの解決方法がありますので以下で順番にご説明していきます。
なお、この記事では、非上場の会社を想定してご説明します。
所在不明株主の問題解決のためには、株主総会の招集や文書の作成、官報での公告などの手続が必要になってきます。
これらの手続が全て正しくできていないと、結局、所在不明株主問題が解決したかどうかよくわらかないことになってしまい、その後に会社で行う取締役の選任など重要な決定事項について無効や取消のリスクが出てくるなど、重大なリスク要因になります。
正しく手続きを行うことが非常に重要ですので、法務部門のない会社は必ず弁護士に手続をご依頼ください。咲くやこの花法律事務所でもご相談を承っていますのでご相談ください。
▼所在不明株主の対応について今スグ弁護士に相談したい方は、以下よりお気軽にお問い合わせ下さい。
【お問い合わせについて】
また所在不明株主の対応など会社経営に強い顧問弁護士をお探しの方は、以下を参考にご覧下さい。
・【全国対応可】顧問弁護士サービス内容・顧問料・実績について詳しくはこちら
・大阪で実績豊富な顧問弁護士サービス(法律顧問の顧問契約)をお探しの企業様はこちら
今回の記事で書かれている要点(目次)
1,所在不明株主とは?
所在不明株主とは、5年以上の間、会社から送る株主総会の招集通知などが届かず、会社からの配当の受領もない株主を言います。会社法第197条により、所在不明株主の株式を会社が強制的に買い取る手段として、「所在不明株主の株式売却制度」が定められています。
2,解決方法1:
所在不明株主の株式売却制度の利用
まず、解決方法の1つ目として、会社法に定められている「所在不明株主の株式売却制度」の利用があげられます。
(1)所在不明株主の要件
所在不明株主の株式売却制度を利用して株式を強制的に買い取るためには、以下の2つの要件を満たすことが必要です。
要件1:
その株主に対し5年以上会社からの通知・催告が不到達であること
5年以上継続して、株主総会の招集通知や、会社から株主に送付したその他の書面(例えば株主総会後の決議通知等)が一度も受け取られていないことが必要です。
要件2:
その株主が継続して5年間、配当を受領していないこと
その株主が継続して5年間、会社からの配当を受領していないことが必要です。会社からの配当が5年間なかった場合もこれに含まれます。
要件1、要件2の通り、原則として5年の期間が必要ですが、令和3年の「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」の改正により、代表者の高齢や健康不安等により事業活動に支障が生じており、かつ、一部の株主の所在不明により事業承継にも支障が生じている場合は、国の認定を受けることにより、上記の「5年」の期間を「1年」に短縮できるようになっています。
1,株主総会を開いてこなかった会社は利用できない
前述の要件1に関連して、これまで株主総会招集通知を所在不明株主に送付していなかったり、あるいはそもそも株主総会をやっていなかった会社は、「要件1」を満たさず、すぐにこの制度を利用することができません。
株主総会は年1回以上の開催が義務付けられていますので、今後株主総会の招集通知を毎年所在不明株主に送付し、5年間継続して受け取りがないことを確認するまではこの制度を利用することはできません。
対応を急ぐ場合は、この記事で後述する他の2つの解決方法を検討することが必要です。
(2)所在不明株主の株式売却制度の利用のメリット
この制度を利用することにより、会社は裁判所の許可を得て所在不明株主の株式を鑑定価格等で強制的に買い取ることが可能です。
これによって、所在不明株主は株主ではなくなります。
(3)所在不明株主の株式売却制度の手続の流れ
所在不明株主の株式売却制度の手続の流れは以下の通りです。
手続き1:
公告と催告の手続を行う。
法律上、所在不明株主に株式売却についての異議を述べる機会を与えるために「公告」を行うことが義務付けられています。
▶参考情報:「公告」とは?
公告とは官報への掲載や新聞への掲載、あるいはインターネットへの掲載などの方法により、世の中一般に知らせることを言います。
また、公告のほかに、所在不明株主への個別の通知を行うことも義務付けられています。
これを「催告」といいます。
この通知は株主名簿に記載された所在不明株主の住所に宛てて通知すれば足り、実際には届かなくても通常届くべき時期に届いたものとみなされます(会社法第126条)。
手続き2:
取締役全員の同意により裁判所に対して売却許可の申立てをする。
公告や催告の結果、異議がでなければ、裁判所に売却許可の申し立てをします。
裁判所への申し立ての際には株価鑑定書の提出が必要になります。
裁判所での手続(所在不明株主の株式売却許可申立)については以下のページでも詳しく解説されていますので併せてご参照ください。
手続き3:
裁判所から売却許可決定が出れば会社が株式を買い取る。
裁判所は前述の所在株主の2つの要件を満たすかどうかを判断して売却許可決定をします。
許可決定がでれば会社は所在不明株主の株式を買い取ることができます。
手続き4:
買取代金を法務局に供託する。
買取代金は本来、所在不明株主に支払うべきものですが、支払先がわからないため、法務局に代金を預けること(供託)が認められています。
供託については以下のページに詳細が解説されていますのでご参照ください。
以上が所在不明株主の株式売却制度の手続の流れです。
2,解決方法2:
特別支配株主の株式等売渡請求制度の利用
所在不明株主の問題の解決方法の2つ目として、「特別支配株主による株式等売渡請求制度」の利用があります。
これは、これまで株主総会招集通知などを送っていなかった場合でもすぐに利用できる制度であり、かつ、状況によっては1か月程度で株式の買取を完了できるというメリットがある制度です。
ただし、9割以上の議決権をもつ大株主(「特別支配株主」といいます)がいる場合にのみ利用できる方法になります。
9割以上の大株主がいない場合は、最後にご説明する3つ目の解決方法を利用する必要があります。
(1)特別支配株主とは?
特別支配株主とは、会社の議決権の9割以上をもつ株主をいいます。
特別支配株主は会社法第179条の株式等売渡請求制度を利用することにより、少数株主の株式を強制的に買い取ることができます。
(2)特別支配株主による株式等売渡請求制度の流れ
特別支配株主が少数株主の株式を買い取る場合の手続きの流れは以下の通りです。
手続き1:
特別支配株主が株式の取得日や買取代金額等を決めて株式売渡請求をすることを会社に通知する。
手続き2:
株式売渡請求について、会社の承認を得る。
手続き3:
会社が少数株主に対して、株式の取得日の20日前までに、特別支配株主から売渡請求がされ、会社が承認したことを通知する。
この通知は株主名簿に記載された少数株主の住所に宛てて通知すれば足り、通知が届かないときでも通常届くべき時期に届いたものとみなされます(会社法第126条)。
手続き4:
「手続き1」で会社に通知した「取得日」に、株式が特別支配株主から多数株主に移転する。
手続き5:
株式買取代金を法務局に供託する。
買取代金は本来、所在不明株主に支払うべきものですが、支払先がわからないため、法務局に代金を預けること(供託)が認められています。
より具体的な手続の流れは以下で詳しく解説していますのでご参照ください。
また、特別支配株主の株式等売渡請求制度に関する咲くやこの花法律事務所の解決実績については以下をご参照ください。
3,解決方法3:
株式併合を利用したスクイーズ・アウト
最後に、所在不明株主の問題の解決方法の3つ目として、「株式併合を利用したスクイーズ・アウト」により、少数株主の株式を強制的に買い上げる方法をご説明します。
最初にスクイーズアウトについて基本的な知識を知りたい方は、以下で詳しく解説していますのでご参照ください。
この方法は株主総会が必要になるため、前述の「特別支配株主による株式等売渡請求制度」よりも手間がかかりますが、9割以上の議決権をもつ株主がいなくても進めることができる方法です。
(1)株式併合を利用したスクイーズ・アウトの具体的なイメージ
例えば、100株の株式を発行している株式会社で、以下の株主構成の場合を想定します。
●株式併合前
- A 80株
- B 8株
- C 7株
- D 5株
このような場合に、例えば、10株を1つの株式にまとめることを株式併合と言います。
株式併合の結果、B、C、Dは以下のように1株未満の株主になります。
このような1株未満の株主のことを「端株主」と言います。
●株式併合後
- A 8株
- B 0.8株
- C 0.7株
- D 0.5株
株式併合の図解
会社法上、上記のような端株(1株未満の株式)については強制的に会社が買い取ることが可能です。
この仕組みを利用して、所在不明株主の株式を強制的に買い取ってしまうのが、株式併合を利用したスクイーズ・アウトです。
(2)株式併合を利用したスクイーズ・アウトの手続の流れ
株式併合を利用したスクイーズ・アウトの手続きの流れは以下の通りです。
手続き1:
株主総会で株式併合の決議をする
まず、株主総会を正しく招集して特別決議により株式併合を決定することが必要です。「特別決議」とは、議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権数の2/3以上の賛成で可決する決議方法です。
手続き2:
株主に対する個別の通知発送
株式の併合の効力発生日の20日前までに、全株主に対して、個別に、併合の割合等を通知する必要があります。(会社法181条1項、182条の4第3項)。
連絡がとれない株主については株主名簿に記載された住所に宛てて通知すれば足り、通知が届かないときでも通常届くべき時期に届いたものとみなされます。
手続き3:
裁判所に売却許可の申立てをする。
株式併合により生じた端株(1株未満の株式)について、裁判所に売却許可の申し立てをすることができます(端株相当株式任意売却許可申立事件)。
手続4:
裁判所から売却許可決定が出れば、会社は自ら買い取る。
裁判所から売却を許可されれば、会社は端株を自ら買い取ることが可能です。
手続5:
買取代金を法務局に供託する。
買取代金は本来、所在不明株主に支払うべきものですが、支払先がわからない場合は、法務局に代金を預けること(供託)が認められています。
以上が株式併合を利用したスクイーズ・アウトの手続の流れです。
4,所在不明株主に関して弁護士に相談したい方はこちら
最後に、咲くやこの花法律事務所における企業向けのサポート内容についてご説明したいと思います。
(1)所在不明株主問題に対する対応のご相談
咲くやこの花法律事務所では、会社法務に精通した弁護士が、所在不明株主問題についてご相談をお受けしています。
ご相談者の状況に照らしてベストな手段を助言します。
また、所在不明株主の問題については、株主総会の招集通知や官報での公告などの手続を正しく行うことが非常に重要であり、弁護士にご依頼いただくことをおすすめします。
手続に不備があると、その後に会社で行う株主総会の決議の効力がくつがえされる可能性があり、会社にとって重大なリスクになります。
咲くやこの花法律事務所では、必要な法的な手続きを代行して行うことで、所在不明株主の株式買い取りの手続をまでの流れを確実にサポートします。
会社法務に精通した弁護士へのご相談費用
●初回相談料:30分5000円+税(顧問契約の場合は無料)
(2)M&Aや事業承継についてのご相談
咲くやこの花法律事務所では、企業のM&Aや事業承継についてもご相談をお受けしています。
契約書の作成やリーガルチェック、事業承継のスキーム作りやその実行を弁護士がサポートします。
会社法務に精通した弁護士へのご相談費用
●初回相談料:30分5000円+税(顧問契約の場合は無料)
なお、事業承継に関する弁護士の役割については以下で詳しく解説していますのであわせてご参照ください。
5,「咲くやこの花法律事務所」の弁護士へ問い合わせる方法
咲くやこの花法律事務所へのお問い合わせは、以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
6,所在不明株主の対応に関連するお役立ち情報も配信中!無料メルマガ登録について
所在不明株主の対応に関するお役立ち情報について、「咲くや企業法務.NET通信」のメルマガ配信や「咲くや企業法務.TV」のYouTubeチャンネルの方でも配信しております。
(1)無料メルマガ登録について
上記のバナーをクリックすると、メルマガ登録ページをご覧いただけます。
(2)YouTubeチャンネル登録について
上記のバナーをクリックすると、YouTubeチャンネルをご覧いただけます。
7,まとめ
ここまで、所在不明株主問題の解決方法として3つの方法をご説明しました。
最後に、各方法を比較してまとめると以下の通りです。
方法 | 手間の程度 | 備考 |
所在不明株主の株式売却制度 | 中 (裁判所出の手続きが必要) |
株主総会を法定通り行ってこなかった会社はすぐには利用できない。 |
特別支配株主による株式等売渡請求制度 | 小 (株主総会も裁判所の手続きも不要) |
9割以上の議決権をもつ大株主がいる場合にのみ利用が可能。 |
株式併合を利用したスクイーズ・アウト | 大 (株主総会も裁判所の手続きも必要) |
利用できる場面が広い。過去の株主総会の開催の有無にかかわりなく利用が可能。
また、大株主がいなくても利用可能。 |
これらのメリット、デメリットをよく理解したうえで自社に最も適切な方法で対応を早期に進めていくことが重要です。
注)咲くやこの花法律事務所のウェブ記事が他にコピーして転載されるケースが散見され、定期的にチェックを行っております。咲くやこの花法律事務所に著作権がありますので、コピーは控えていただきますようにお願い致します。
記事更新日:2022年8月29日
記事作成弁護士:西川 暢春