国際標準化機構(ISO)が、「ISO45001」と呼ばれる新しい国際規格を新設しました。
「ISO45001」とは、職場の労働環境において、仕事による「けが」や「病気」を防止し、従業員の安全を確保するための体制がとられていることを第三者機関が認証するものです。
企業の「人手不足」の問題がクローズアップされる一方で、求職者側には「ブラック企業問題」の不安があり、企業が自社の職場環境について第三者機関の認証を受けることは、求職者の不安を解消する切り札として役立つと思われます。
また、労働者の安全確保の問題に敏感な海外企業を中心に、取引先に対して「ISO45001」の認証を受けることを求める動きも想定されると、報道されています。
今回は、「ISO45001」について、その概要と企業が認証をうけるメリットについてをご説明します。
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今回の記事で書かれている要点(目次)
1,「ISO45001」とは?
「ISO45001」とは、職場の労働環境について、仕事によるけがや病気を防止し、従業員の安全を確保するための体制が整っていることを第三者機関が認証するために設けられた国際規格です。
ISOは、これまで品質管理や環境対応の分野が中心でしたが、今回の「ISO45001」は職場環境に関するものです。
企業の中には、従業員の労働災害や過重労働を防止するために、安全衛生管理規定などのルールを整備しておられる企業も多いと思います。
しかし、実際に、仕事によるけがや病気を防止するためには、規定が設けられていることだけでは足りず、その規定が守られるように運営されていることが必要です。
また、規定が設けられた後も、現場の状況は絶えず変化しますので、現場の状況の変化に応じて、従業員の安全を確保するための体制も、適宜、改善、バージョンアップしていくことも必要です。
「ISO45001」は、職場の労働環境について、単に規定が整備されているというだけでなく、実際にも規定通り運用され、従業員の安全を確保する体制がとられていることを認証するものです。
また、安全確保の体制を継続的に改善していく取り組みが企業内で行われていることを認証するものです。
そのため、「ISO45001」は、いったん認証を取得すれば終わりではなく、本当に、規定通りに会社が運営されているかを確認するための、認証維持検査が定期的に行われます。
「ISO45001」は、仕事によるけがや病気を防ぐ体制がその企業で実際に機能していること、さらにその体制を継続的に改善していく取り組みがされていることを、第三者機関が認証する仕組みであることを理解しておきましょう。
2,「ISO45001」の対象者について
「ISO45001は、どのような企業を認証対象として想定しているのでしょうか?」
結論から申し上げますと、「ISO45001」はすべての組織を対象として想定しています。
そのため、大企業だけでなく、中小企業や非営利組織も「ISO45001」の認証を取得することができます。
また、従来型の労災事故が想定される建設業や製造業などの業種だけでなく、ホワイトカラーの事務職が中心となるような企業も「ISO45001」の認証対象とされています。
「ISO45001」の具体的な認証基準は未定ですが、以下のような内容が含まれる予定です。
(1)「ISO45001」の具体的な認証基準について
- 1,経営者が職場の安全環境を維持、改善するためにどのようにリーダーシップを発揮するか。
- 2,組織が従業員の健康・安全を維持するための適切な計画を作成しているか。
- 3,労働災害の発生などの緊急事態のために、企業がどのような準備をしているか。
このように、「ISO45001」は、あらゆる業種、あらゆる規模の企業に適合する内容とすることが予定されています。
3,企業が「ISO45001」の認証を取得するメリット
では、「企業がISO45001の認証を受けることで何かメリットはあるのでしょうか?」
企業が「ISO45001」の認証を受けることによるメリットは、大きく分けて以下の2つあります。
企業が「ISO45001」の認証を受けることによる2つのメリット
メリット1:
仕事を原因とする怪我や病気が起きない職場環境づくりに継続的に取り組むことができる。
メリット2:
自社が従業員の安全と健康に配慮した企業であること、ブラック企業ではないことを、求職者にアピールすることができる。
以下で、順番に見ていきましょう。
メリット1:
仕事を原因とする怪我や病気が起きない職場環境づくりに継続的に取り組むことができる。
仕事を原因とする怪我や病気は、一般に「労働災害」あるいは「労災」と呼ばれます。
日本では、労働災害の認定件数は、現在も緩やかに増加傾向にあり、平成26年度は1年間に約12万件の労働災害が認定されています。
建設現場での墜落や、製造業での「はさまれ・まきこまれ」といった典型的な労災事案だけでなく、長時間労働を原因とする精神疾患の発症・過労死について労災認定され、社会問題としてクローズアップされています。
精神疾患の発症や過労死による労災認定件数に限ってみると、平成22年度の認定件数は308件でしたが、その後増え続け、平成26年度は497件で過去最多の件数となっています。
このように、労働災害は過去の問題ではなく、現在も増え続けている問題であり、企業が積極的に取り組まなければならない課題です。
「ISO45001」の認証は、企業が、労働災害をなくすための取り組みを継続的に行うにあたり、第三者機関のチェックを受けるシステムであり、職場の安全確保のために有益なものです。
▶参考情報:労災に関する情報は以下も参考にご覧下さい。
メリット2:
自社が従業員の安全と健康に配慮した企業であること、ブラック企業ではないことを、求職者にアピールすることができる。
帝国データバンクの発表によると、仕事はあるのに人手不足のために倒産せざるを得ない「人手不足倒産」が中小企業の間で増加していることが指摘されています。
今後、日本で高齢化が進むにつれ、人手不足がさらに深刻化し、企業間で優秀な人材を採用できるかどうかの競争が激化することが予想されます。
いったん求人がうまくいかなくなり「人手不足」の状況になると、在職中の従業員が長時間労働して対応することになりやすく、さらに職場環境を悪化させたり、あるいは離職者が出てしまう流れが加速することにもなりかねません。
すでに、建設業や運送業、飲食業などでは、給料を上げても人が集まらず、人手不足により、事業を縮小しなければならなくなる企業が出てきています。
そのような中で、自社が、従業員の安全と健康に配慮した企業であり、いわゆるブラック企業の心配はないことをアピールして、求職者から選ばれる存在になっていくことは、中小企業の経営にとって大きなメリットになります。
このように安全な職場環境づくりは今後企業にとってこれまで以上に重要な経営課題になることが予想され、この点について第三者の認証を受けて継続的に改善に取り組める点が「ISO45001」の大きなメリットといえます。
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6,まとめ
今回は、職場の安全確保体制を認証する新しい国際規格「ISO45001」について、その概要と企業が認証を受けることのメリットをご説明しました。
職場において、従業員の安全と健康を害さない環境を整えることは、企業発展のための必須条件ですので、チェックシておいて下さい。
記事作成弁護士:西川 暢春
記事更新日:2020年12月18日