今、トラブルが急増している「スモークハラスメント」。
スモハラと呼ばれることが多いですが、職場の受動喫煙に関する裁判トラブルが増えています。
最近、報道されたニュースの中にも以下のようなケースがあります。
▶参考:スモハラ(スモークハラスメント)の裁判事例
事例1:平成28年5月
自動車教習所の運営会社が受動喫煙による健康被害についての従業員との訴訟で「100万円」の和解金支払い。
事例2:平成28年6月
積水ハウスが受動喫煙による健康被害についての従業員との訴訟で「350万円」の和解金支払い。
このようにスモハラに関するトラブルが今急増しています。
「受動喫煙をめぐるトラブルを避けるための対策は十分でしょうか?」
今回は、スモハラのトラブルを防ぐため企業がとっておくべき受動喫煙対策の具体的内容についてご説明したいと思います。
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今回の記事で書かれている要点(目次)
1,スモハラ(スモークハラスメント)とは?
スモハラ(スモークハラスメント)とは、職場内の受動喫煙によって喫煙者が非喫煙者に対して、健康被害や健康不安をあたえることをいいます。
また、職場内で喫煙を望まない人に喫煙を強制することも、スモークハラスメント(スモハラ)に含まれます。
2,職場の受動喫煙対策が必要な理由
スモハラトラブルを防ぐため、企業が義務付けられる受動喫煙対策の具体的な内容のご説明の前に、まずは、職場の受動喫煙対策が必要な理由として、以下の4つのポイントを確認しておきましょう。
職場の受動喫煙対策が必要な理由としておさえておきたい4つのポイント
- ポイント1:副流煙は主流煙よりも有害物質を多く含む。
- ポイント2:副流煙を吸い続けることにより、肺がんや心疾患、脳卒中のリスクが増加する。
- ポイント3:妊娠中の女性従業員や呼吸器・循環器疾患のある従業員および未成年の従業員については、受動喫煙によるリスクが特に高い。
- ポイント4:平成27年6月に受動喫煙対策についての企業の努力義務が法律上、明記された。
以下で順番に見ていきましょう。
ポイント1:
副流煙は主流煙よりも有害物質を多く含む。
煙草のけむりには、喫煙者が吸う「主流煙」と、火のついた煙草の先端から立ち上る「副流煙」があります。
副流煙はフィルターを通らないため、主流煙の約2倍から4倍の有害物質が含まれています。
受動喫煙で問題になるのは、主にこの副流煙による健康被害です。
職場で従業員の意に反して受動喫煙にさらされることは、「スモークハラスメント」あるいは「スモハラ」とも呼ばれ、新たな労務問題として近年クローズアップされています。
ポイント2:
副流煙を吸い続けることにより、肺がんや心疾患、脳卒中のリスクが増加する。
副流煙を吸い続けることにより、肺がんや心疾患、脳卒中のリスクが増加することが統計上明らかになっています。
平成28年に発表された厚生労働省の推計では、受動喫煙が原因となった死者の数は、日本全国で年間「約1万5000人」に上ると推計されています。
ポイント3:
妊娠中の女性従業員や呼吸器・循環器疾患のある従業員および未成年の従業員については、受動喫煙によるリスクが特に高い。
妊娠している女性が副流煙を吸うことにより、低体重児の出産の発生率が上昇することがわかっています。
また、呼吸器・循環器疾患のある従業員や未成年の従業員についても、受動喫煙による影響を受けやすいため、特に配慮が必要です。
ポイント4:
平成27年6月に受動喫煙対策についての企業の努力義務が法律上、明記された。
平成27年6月に労働安全衛生法が改正され、同法68条の2として、以下の通り定められました。
▶参考情報:労働安全衛生法68条の2の内容
「事業者は、労働者の受動喫煙を防止するため、当該事業者及び事業場の実情に応じ適切な措置を講ずるよう努めるものとする。」
この労働安全衛生法の受動喫煙対策についての企業の努力義務は、大小を問わずすべての企業に適用されます。
そして、この法改正を受けて、企業が行うべき受動喫煙対策の具体的な内容が厚生労働省のガイドラインで定められています。
このように、平成27年6月以降、受動喫煙対策についての企業努力が、すべての企業に義務付けられたことをおさえておきましょう。
企業が職場の受動喫煙対策を進めるためには、経営者あるいは幹部が、これらの受動喫煙対策が必要な理由を、健康面、法律面の両面から把握した上で、喫煙者の協力を得るための説得・説明を行うことが不可欠です。
上記4つのポイントを「職場の受動喫煙対策が必要な理由」として把握しておきましょう。
3,スモハラを防ぐために企業が義務付けられる受動喫煙対策の具体的な内容
次に、スモハラトラブルを防ぐ、企業が行うべき受動喫煙対策の具体的な内容をご説明していきます。
おさえておく必要があるのは、以下の4つのポイントです。
企業が行うべき受動喫煙対策の具体的な4つの内容
- ポイント1:特に配慮すべき従業員の有無など、自社の現状を把握する。
- ポイント2:ハード面では、屋内全面禁煙、空間分煙、適切な換気措置等により、受動喫煙を防止する。
- ポイント3:職場の空気環境の測定を行い、浮遊粉じん濃度や一酸化炭素濃度が基準内であるかを確認する。
- ポイント4:管理職、従業員に受動喫煙に関する教育を行い、受動喫煙対策に協力を求める。
以下で順番に見ていきましょう。
ポイント1:
特に配慮すべき従業員の有無など、自社の現状を把握する。
受動喫煙対策をすすめるにあたっては、まず、自社の「現状把握」が必要です。
特に把握しておきたいのは以下の4点です。
1,受動喫煙対策にあたって把握しておくべき4つの項目
- 項目1:妊娠している従業員、呼吸器・循環器疾患のある従業員、未成年者の従業員など、受動喫煙について特に配慮が必要な従業員の有無。
- 項目2:「項目1」に該当する従業員の受動喫煙の状況。
- 項目3:現在の社内での従業員の喫煙状況や来訪した顧客の喫煙状況。
- 項目4:一般の従業員の受動喫煙の状況。
ポイント2:
ハード面では、屋内全面禁煙、空間分煙、適切な換気措置により、受動喫煙を防止する。
ガイドラインでは、受動喫煙対策として企業が講じることが望ましい措置として、以下の3つの対策をあげています。
1,受動喫煙対策として企業が講じることが望ましい3つの措置
対策1:屋内全面禁煙
屋外喫煙所を設置して屋内は全面禁煙とする。
対策2:喫煙室設置による空間分煙
屋内に喫煙室を設置して、その他の場所では禁煙とする。
対策3:適切な換気措置
喫煙可能区域を設定して、その区域の適切な換気を実施し、その他の場所では禁煙とする。
これらの措置により、受動喫煙の防止する対策をとりましょう。
ポイント3:
職場の空気環境の測定を行い、浮遊粉じん濃度や一酸化炭素濃度が基準内であるかを確認する。
職場の空気環境については厚生労働省が一定の基準を示しています。
自社の空気環境が厚生労働省の基準内かどうかを確認しましょう。
厚生労働省が定める職場の空気環境の基準の概要は以下の通りです。
1,厚生労働省が定める職場の空気環境の基準の概要
以下、3つの基準をご覧下さい。
1.屋外喫煙所設置の場合の空気環境の基準
屋外喫煙所を設ける場合は、屋外喫煙所から建物に粉じんが流れ込まないかを確認する必要があります。
具体的には、建物出入り口から屋内に1メートル入った地点で、「屋外喫煙所を使用していない状態での浮遊粉じんの濃度」と、「屋外喫煙所に喫煙者が最も多い状態での浮遊粉じんの濃度」を測定し、喫煙所の使用の有無により濃度に差がないことを確認します。
2.喫煙室設置による空間分煙の場合の空気環境の基準
喫煙室設置による空間分煙の場合、喫煙室内に向かう気流の速さと、喫煙室及び非喫煙区域における空気環境を確認する必要があります。
具体的には以下の基準をみたすかどうかを確認しましょう。
- 基準1:喫煙室と非喫煙区域の境界において、喫煙室内に向かう気流が秒速0.2m以上であること。
- 基準2:喫煙室及び非喫煙区域における空気環境の平均が、浮遊粉じん濃度0.15㎎/㎥以下であること。
- 基準3:喫煙室及び非喫煙区域における空気環境の平均が、一酸化炭素濃度が10PPM以下であること。
3.換気措置よる受動喫煙防止の場合の基準
喫煙室及び非喫煙区域における空気環境を確認する必要があります。
具体的には以下の基準をみたすかどうかを確認しましょう。
- 基準1:喫煙室及び非喫煙区域における空気環境の平均が、浮遊粉じん濃度0.15㎎/㎥以下であること。
- 基準2:喫煙室及び非喫煙区域における空気環境の平均が、一酸化炭素濃度が10PPM以下であること。
ポイント4:
管理職、従業員に受動喫煙に関する教育を行い、受動喫煙対策に協力を求める。
従業員や管理職に対して、受動喫煙による健康被害の内容、受動喫煙防止のために会社が行った措置の内容、妊娠中の従業員や呼吸器疾患をもった従業員への配慮の必要性などについて教育を行うことが望ましいとされています。
以上、4つのポイントを企業が行うべき受動喫煙対策の具体的な内容としておさえておきましょう。
4,職場の受動喫煙トラブル、スモハラトラブルに関する裁判事例
では、最後に、職場の受動喫煙に関する裁判事例として、冒頭でご紹介した2つの裁判例の内容を見ていきたいと思います。
職場の受動喫煙に関する裁判事例
裁判事例1:
受動喫煙による健康被害についての従業員との訴訟で100万円の和解金支払いの事例(東京高等裁判所)
事案の概要
この事件は、自動車教習所の運営会社に勤務していた元従業員が、職場での受動喫煙によって持病の心臓疾患が再発したとして会社に損害賠償を求めた事件です。
一審判決の内容:
一審の横浜地方裁判所は、受動喫煙と心臓疾患再発の因果関係を認めることはできないとして、元従業員の請求を認めませんでした。
二審での和解内容
二審の東京高等裁判所では、「100万円」を会社が元従業員に支払う内容の和解が成立しました。
裁判事例2:
受動喫煙による健康被害についての従業員との訴訟で350万円の和解金支払いの事例(大阪高等裁判所)
事案の概要
この事件は、大手ハウスメーカー積水ハウス株式会社に勤務していた元従業員が、職場での受動喫煙のために受動喫煙症ないし化学物質過敏症を発症したとして、会社に慰謝料や治療費等合計約300万円を請求した事件です。
一審判決の内容
一審の大阪地方裁判所は、積水ハウス株式会社は十分な受動喫煙対策を行っていたとして、元従業員の請求を認めませんでした。
二審での和解内容
二審の大阪高等裁判所では、一審での請求額を上回る「350万円」を積水ハウスが元従業員に支払う内容の和解が成立しました。
以上はいずれも和解で終了した事件であり、裁判所の明確な判断は示されていません。
しかし、一審判決ではいずれも従業員側が敗訴しており、その後二審の裁判所で、「会社に損害賠償義務がある」という判断が裁判所から心証として示された結果、会社が和解金を支払う内容の和解に至ったと考えられます。
過去にさかのぼると、この2つの事例以前にも、受動喫煙による健康被害について従業員から企業に対する損害賠償請求訴訟が起こされることは珍しくありませんでしたが、従業員側の請求を認めて企業に損害賠償を命じた事例はほとんどありませんでした。
ところが、平成27年6月に「労働安全衛生法」が改正されて、受動喫煙対策の努力義務が規定されて以降、上記の通り、企業が、従業員からの請求に関し、高額の和解金を支払う事例が出てきています。
このことから、受動喫煙あるいはスモハラに対する裁判所の考え方は、労働安全衛生法が改正された平成27年ごろから、厳格化しているといえるでしょう。
このような裁判例の傾向から、少なくとも、従業員の受動喫煙対策の要望を理由なく放置したり、あるいは、妊娠中の女性従業員や呼吸器・循環器疾患のある従業員について受動喫煙防止の措置を取らなかった場合、企業が損害賠償責任を負担する可能性は以前よりも格段に高まっていると思われますので、十分注意が必要です。
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7,まとめ
今回は、最近、話題になることの多い、受動喫煙トラブルあるいはスモハラトラブルについて、まず、職場の受動喫煙対策が必要な理由をご説明しました。
その上で、企業が義務付けられる受動喫煙対策の具体的な内容として、以下の4点をご説明しました。
- ポイント1:特に配慮すべき従業員の有無など、自社の現状を把握する。
- ポイント2:ハード面では、屋内全面禁煙、空間分煙、適切な換気措置等により、受動喫煙を防止する。
- ポイント3:職場の空気環境の測定を行い、浮遊粉じん濃度や一酸化炭素濃度が基準内であるかを確認する。
- ポイント4:管理職、従業員に受動喫煙に関する教育を行い、受動喫煙対策に協力を求める。
さらに、職場の受動喫煙に関する裁判では、以前は従業員側の損害賠償請求は認められないことが多かったが、最近、その流れが変わりつつあることをご説明しました。
欧米では日本よりも厳格な受動喫煙対策が企業に義務付けられていることが多く、日本も今後、受動喫煙対策に関する企業の義務が厳格化される方向に進む可能性が強いと思われます。
受動喫煙被害やスモハラを訴えるトラブルも更に増えてくると思われますので、十分な受動喫煙対策を進めていくことが必要です。
8,【関連情報】スモハラに関連する他のお役立ち記事一覧
今回は、「スモハラのトラブル急増中!企業が義務付けられる受動喫煙対策とは?」についてなどを詳しく弁護士が解説しました。
スモハラについては、労務管理の整備、労務管理の見直しが必要なケースも多いです。そのため、今回のテーマに関連したおさえておくべき以下の情報も合わせて確認しておきましょう。
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記事作成弁護士:西川暢春
記事更新日:2021年9月16日