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消費者契約法で無効にならないキャンセル料条項の作り方【高額キャンセル料トラブルに注意】

消費者契約法で無効にならないキャンセル料条項の作り方
  • 西川 暢春(にしかわ のぶはる)
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    西川 暢春(にしかわ のぶはる)

    咲くやこの花法律事務所 代表弁護士
  • 出身地:奈良県。出身大学:東京大学法学部。主な取扱い分野は、「問題社員対応、労務・労働事件(企業側)、クレーム対応、債権回収、契約書関連、その他企業法務全般」です。事務所全体で400社以上の企業との顧問契約があり、企業向け顧問弁護士サービスを提供。

「高額キャンセル料に関するトラブル」。

国民生活センターの統計によると、全国の消費生活センターによせられる消費者からの相談のうち、キャンセル料に関するトラブルの相談が年々増加傾向にあります。

2014年の相談件数は「35,889件」にも上っています。

また、企業法務の現場でも、消費者保護を定めた消費者契約法に関する知識が一般消費者に浸透し、消費者が消費者契約法を根拠にキャンセル料の支払いを拒むトラブルが増えています。

そして、裁判所でも以下のように、キャンセル料に関する契約条項を無効と判断する判決が複数出ています。

 

事例1:
東京地方裁判所平成17年9月9日判決

結婚式場利用契約のキャンセル料条項を無効と判断したケース

 

事例2:
大阪高等裁判所平成25年1月25日判決

冠婚葬祭業者の互助契約のキャンセル料条項を無効と判断したケース

 

事例3:
大分地方裁判所平成26年4月14日判決

受験予備校の受講契約のキャンセル料条項を無効と判断したケース

 

今回は、このように、キャンセル料に関するトラブルが増える中で、消費者契約法で無効にならないキャンセル料条項の作り方のポイントについて、ご説明したいと思います。

 

▶【関連記事】キャンセル条項の作り方など契約書に関する、以下の関連記事もあわせてご覧下さい。

契約書作成で必ずおさえておくべき6つのポイント【ひな形集付き】

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1,キャンセル料条項に関する消費者契約法の基本ルール

消費者契約法で無効にならないキャンセル料条項の作り方のご説明の前に、まずは、「キャンセル料条項に関する消費者契約法の基本ルール」についておさえておきましょう。

「キャンセル料条項に関する消費者契約法の基本ルール」は以下の通りです。

 

「契約の解除に伴い事業者に生じる平均的な損害の額を超える金額を徴収する内容のキャンセル料条項は、その超える部分について無効である。」

 

「消費者契約法」は、消費者保護の観点から、消費者に一方的に不利な契約条項を無効にすることなどを定めた法律です。そして、この中の「消費者契約法9条1号」で、上記の基本ルールが定められています。

消費者契約法については消費者庁のホームページを、消費者契約法9条1号の条文については以下を参考にご覧ください。

 

 

これは消費者保護の観点から、「事業者に生じる損害の額を超える高額なキャンセル料の請求は認めるべきではない」という考えから設けられたルールです。

高額すぎるキャンセル料は、消費者や消費者団体から消費者契約法による無効の主張を招き、トラブルのもとです。

ここでは、「契約の解除に伴い事業者に生じる平均的な損害の額を超える金額を徴収する内容のキャンセル料条項は無効とされる」という、「キャンセル料条項に関する消費者契約法の基本ルール」をおさえておきましょう。

 

2,消費者契約法で無効にならないキャンセル料条項の作り方2つのポイント

では、「キャンセル料条項に関する消費者契約法の基本ルール」を踏まえたうえで、キャンセル料条項の作り方についてみていきましょう。

最初に「キャンセル料条項の作り方」の重要なポイントを2つまとめておきます。

 

  • 作り方のポイント1:キャンセル料の金額の決め方について
  • 作り方のポイント2:金額以外のポイントについて

 

上記の2つのポイントがおさえておきたい重要なポイントです。

以下では、キャンセル料条項の作り方2つのポイントの具体的な解説をしていきます。

 

2−1,作り方1:
キャンセル料の金額の決め方についての解説

では、消費者契約法で無効にならないキャンセル料条項の作り方の1つ目のポイントとして、「キャンセル料の金額の決め方」について解説していきましょう。

ここでの重要なポイントは、「キャンセル料の金額の決め方」です。

消費者契約法により無効とならないためには、「キャンセルに伴い生じる平均的な損害の額」を超えない範囲でキャンセル料を定めることが重要です。

契約の種類ごとに以下の4つのパターンにわけて、具体的なキャンセル料の金額の決め方をご説明したいと思います。

 

  • パターン1:売買型契約の場合
  • パターン2:各種スクール、式場、ホテルなどスペース利用型サービスの場合
  • パターン3:継続的なエステ、語学教室、家庭教師、学習塾、パソコン教室、結婚紹介サービスの場合
  • パターン4:クラウド型サービスやITサービスなどの場合

 

以下では、具体的にご説明していきます。

 

パターン1:
売買型契約の場合

商品の売買契約において、一般消費者が商品の購入を申し込んだ後に申込みをキャンセルする場合のキャンセル料を定める場面です。

このような売買型契約では、「キャンセルに伴い生じる損害」を想定することが難しいケースが多いです。

なぜなら、事業者としては、商品の購入をキャンセルされた場合、別の購入者にその商品を販売すれば通常は損害が生じないためです。

このため、売買型契約についてはキャンセル料を定めても「消費者契約法9条1号」で無効になるケースが多く、キャンセル料条項を設けることは適切ではない場合が多いといえるでしょう。

キャンセルされると他の顧客に転売できないオーダーメイド型商品の場合や、キャンセルの時期によっては転売困難となる季節性商品の場合に限って、キャンセル料条項を入れることが合理的です。

 

参考判例:
大阪地方裁判所平成14年7月19日判決

裁判所も、自動車の売買契約のキャンセルについて自動車販売会社が消費者にキャンセル料の請求した事例で、キャンセル料を定めた契約条項は、「消費者契約法9条1号」により無効であると判断しています。

 

パターン2:
各種スクール、式場、ホテルなどスペース利用型サービスの場合

例えば、ホテルの予約では、宿泊直前にキャンセルされると、別の申込者による予約を獲得する時間的余裕がなく、本来、ホテルが得ることができた宿泊料を得ることができなくなるという損害が発生します。

このような直前のキャンセルについては、「契約の解除に伴い事業者に生じる損害」を想定することができますので、それにあわせてキャンセル料条項を作れば、消費者契約法による無効リスクを避けることができます。

一方で、キャンセルが宿泊日のかなり前にされた場合であれば、別の申込者による予約を獲得することが可能と考えられますので、ホテルに損害が発生しないケースがほとんどでしょう。

そこで、スペース提供型サービスでは、キャンセルの時期に応じて、キャンセル料の金額を決めることが適切です。

そして、キャンセルの時期に応じたキャンセル料の金額を決めるにあたっては、その時期にキャンセルされた場合、予約されていた日に別の申込者が出ずに損害が発生することがどのくらいの確率で起こるのかを検討しなければなりません。

そこで、基本的な考え方としては、「予約がキャンセルされていなければ事業者が得られた粗利益額」に、「予約されていた日に別の申込者が出ずに売上が得られない確率」を乗じて計算することにより、キャンセルの時期ごとに「契約の解除に伴い事業者に生じる平均的な損害の額」を計算することができます。

計算式にまとめると以下の通りです。

 

●スペース利用型サービスの場合のキャンセル料の上限に関する計算式の参考例

「予約がキャンセルされていなければ事業者が得られた粗利益額」×「予約されていた日に別の申込者が出ずに売上が得られない確率」=「契約の解除に伴い事業者に生じる平均的な損害の額」

 

裁判例の中にも、上記の計算式で計算しているものが見られます。(京都地方裁判所平成26年8月7日判決など)

 

パターン3:
継続的なエステ、語学教室、家庭教師、学習塾、パソコン教室、結婚紹介サービスの場合

上記の5つのサービスは、消費者契約法とは別に、特定商取引法でキャンセル料の上限が決められていますので、それに従う必要があります。

ただし、エステについては1か月を超える期間継続するもの、語学教室、家庭教師、学習塾、パソコン教室、結婚紹介サービスについては2か月を超える期間継続するもので、かつ総額「5万円」を超えるもののみが特定商取引法の規制対象です。

これらのケースでは、サービス提供開始前のキャンセルの場合、キャンセル料の上限は下記の通り、法律で定められています。

 

●特定商取引法で決められているサービス提供開始前のキャンセル料の上限
  • エステ:2万円
  • 語学教室:1万5千円
  • 家庭教師:2万円
  • 学習塾:1万1千円
  • パソコン教室:1万5千円
  • 結婚紹介サービス:3万円

 

これら5つのサービスでは、特定商取引法の規定に従う必要がありますので、確認しておきましょう。

上記については、以下で詳しく解説していますので合わせて確認しておきましょう。

 

 

パターン4:
クラウド型サービスやITサービスなどの場合

クラウド型サービスやITサービスについて、1年や2年といった契約期間を決めて利用者と契約するケースでは、契約期間途中で解約される場合のキャンセル料を定めることが考えられます。

そして、このようなサービスは、スペース利用型の契約とは異なり、定員がないため、他の申込者から申し込みがあったから、キャンセルによる損害が発生しなくなるということが想定されません。

そのため、契約期間途中でキャンセルされた場合は、残りの期間に本来得られていたはずの粗利益額が、そのまま、損害となることが多いでしょう。

そこで、基本的な考え方としては、残りの期間に本来得られていたはずの粗利益額を基準にキャンセル料を決めるのがよいです。

例えば、毎月課金型のサービスであれば、以下のような計算式になるでしょう。

 

●毎月課金型のサービスの場合のキャンセル料の上限に関する計算式の参考例

「キャンセルした顧客の契約残存期間」×「1か月のサービス提供により得られる粗利益の額」=「契約の解除に伴い事業者に生じる平均的な損害の額」

 

このように、毎月の粗利益額を計算したうえで、それに「キャンセルした顧客の契約残存期間」を乗じた金額をキャンセル料として定めるのが、消費者契約法上も問題が起こりにくいと考えられます。

 

以上、契約の種類ごとのキャンセル料の金額の決め方をご説明しました。

消費者契約法のルールに配慮して、「キャンセルに伴い生じる平均的な損害の額」を基準にキャンセル料を決めるという考え方をおさえておきましょう。

 

2−2,作り方2:
金額以外のポイントについての解説

次に、消費者契約法で無効にならないキャンセル料条項の作り方の2つ目のポイントとして、「キャンセル料の金額以外のポイント」についての解説をみていきましょう。

ポイントとしておさえておいていただきたいのは以下の2点です。

 

  • ポイント1:キャンセル料を超える損害が発生する場合は、別途損害賠償の請求をすることを契約約款、利用規約に明記する。
  • ポイント2:売買型の契約の場合は、キャンセル料条項を設けず、「キャンセルできない」と規定することを検討する。

 

以下で順番に見ていきましょう。

 

ポイント1:
キャンセル料を超える損害が発生する場合は、別途損害賠償の請求をすることを契約約款、利用規約に明記する。

これまでご説明した通り、キャンセル料の金額には「契約の解除に伴い事業者に生じる平均的な損害の額以上の金額を定めても無効になる」という上限があります。

しかし、キャンセルの時期やキャンセル前の申込み内容によっては、個別の事例で、平均的な損害の額を超えて、キャンセル料以上の損害が発生することもあります。

このようなキャンセル料を超える額の予想外の損害発生に備えるためには、「キャンセル料を超える損害が発生した場合にはその損害についてはキャンセル料と別に損害賠償の請求をする」ことを契約約款、利用規約に明記しておくのがよいでしょう。

利用規約については、以下で詳しく解説していますのであわせて確認しておきましょう。

 

 

ポイント2:
売買型の契約の場合は、キャンセル料条項を設けず、「キャンセルできない」と規定することを検討する。

「キャンセル料の金額の決め方について」の項目で「パターン1」としてご説明した通り、売買型の契約ではキャンセル料を定めても、消費者契約法により無効になることが多いと考えられます。

このような場合は、キャンセル料条項を設けずに、むしろ「キャンセルできない」と規定しておくほうが良い場合が多いので検討してみましょう。

 

以上が、キャンセル料条項の作り方の金額以外のポイントになりますので、確認しておきましょう。

 

3,キャンセル料に関する実際の裁判トラブル事例

最後に、キャンセル料に関し、トラブルになり、裁判でキャンセル料条項が無効と判断された事例をご紹介しておきたいと思います。

 

事例1:
結婚式場利用契約のキャンセル料条項を無効と判断したケース(東京地方裁判所平成17年9月9日判決)

 

事案の概要:

本件は、結婚式場の運営会社が挙式予定日の1年以上前に挙式をキャンセルした申込者について、キャンセル料として「申込金10万円」を没収したことがトラブルになった事例です。

この会社では、挙式申込者に申込金10万円を支払わせたうえで、「申し込みを取り消した場合に申込金10万円を没収する」内容のキャンセル料条項を定めていました。

この申込者は上記キャンセル料条項は「消費者契約法9条1号」により無効であるとして、没収されたキャンセル料の返還を求めて式場運営会社に裁判を起こしました。

 

裁判所の判断:

裁判所は式場運営会社を敗訴させ、申込者へのキャンセル料の返還を命じました。

 

裁判所の判断の理由:

裁判所は、本件のように挙式予定日の1年以上前に申し込みを取り消した場合、キャンセル料10万円は式場運営会社に生じる平均的な損害の額を超えており、本件との関係においては「消費者契約法9条1号」により無効であると判断しました。

裁判所は、挙式予定日の1年以上前のキャンセルの場合、キャンセルされた挙式予定日に別の申込者の予約が入ることも十分期待できる時期であるから、10万円もの損害は平均的な損害とはいえないと判断しています。

 

事例2:
冠婚葬祭業者の互助契約のキャンセル料条項を無効と判断したケース/株式会社セレマ
(大阪高等裁判所平成25年1月25日判決)

 

事案の概要:

冠婚葬祭業を営む株式会社セレマは、一般消費者向けに、葬儀費用の事前積立に関する契約(互助契約)を募集していました。

本件はこの互助契約をキャンセルする際のキャンセル料条項が問題になった事例です。

互助契約による事前積立には何種類かのコースがありましたが、いずれも積立をキャンセル際のキャンセル料条項が設けられていました。

たとえば、「毎月2500円を200回、合計50万円を積み立てて葬儀の際の費用に充てるコース」について、「払込9回目までのキャンセルの場合は払込済みの金銭は全額返還しない」、などとするキャンセル料条項を定めていました。

 

裁判所の判断:

裁判所は株式会社セレマを敗訴させ、キャンセル料条項を無効と判断しました。

 

裁判所の判断の理由:

裁判所は、株式会社セレマが定めるキャンセル料は、事業者に生じる平均的な損害の額を超える金額を超えており、「消費者契約法9条1号」により無効であると判断しました。

裁判所は、キャンセルにより株式会社セレマに生じる損害は、積立金を毎月銀行振替するために株式会社セレマが負担した振替費用や、株式会社セレマが積立会員向けに送付していた各種郵送物の作成・送付費用程度であると判断しています。

 

事例3:
受験予備校の受講契約のキャンセル料条項を無効と判断したケース/学校法人金澤学園事件
(大分地方裁判所平成26年4月14日判決)

 

事案の概要:

本件は、大学予備校が、「入学前に1年分の授業料を納めさせ、入学後に途中退学しても、1年分の授業料は全額返済しない」ことを定めたキャンセル料条項が問題となった事例です。

 

裁判所の結論:

裁判所は学校法人を敗訴させ、キャンセル料条項を無効と判断しました。

 

裁判所の判断の理由:

裁判所は、大学と異なり、大学予備校では、中途入学者の可能性もあり、キャンセルにより、大学予備校がキャンセル後の期間に対応する授業料の全額に相当する損害を被るとはいえないとして、キャンセル料条項は「消費者契約法9条1項」により無効であると判断しました。

 

このように、キャンセル料条項が「消費者契約法9条1号」により無効であるとして、裁判トラブルになるケースが増えています。

特に、消費者契約法では、一般消費者以外に、消費者団体が消費者に不利な契約条項の無効を主張して裁判を起こすことを認めており、「事例2」、「事例3」は消費者団体が裁判を起こした事例です。

高額すぎるキャンセル料条項については、このような消費者団体による提訴制度もあるため、トラブルになる可能性が高く、注意が必要です。

自社のサービスの約款や利用規約でキャンセル料条項を設けるときは、消費者契約法を意識して「キャンセルにより生じる平均的な損害の額の範囲内である」と説明できるかどうか、必ずチェックしておきましょう。

 

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6,まとめ

今回は、最近特に増加傾向にあるキャンセル料をめぐるトラブルに関し、まず、「キャンセル料条項に関する消費者契約法の基本ルール」をご説明しました。

そのうえで、「キャンセル料条項の作り方」について、「金額の決め方」と「金額以外のポイント」をご説明しました。そして、最後に実際にキャンセル料に関しトラブルになり企業側が敗訴した裁判例をご紹介しました。

キャンセル料に関する規定の方法に不安がある企業様や実際にトラブルを抱えている企業様は、不安やトラブルが深刻化しないように、「消費者契約法」や「特定商取引法」に関するトラブルに強い「咲くやこの花法律事務所」に、早めにご相談ください。

 

注)咲くやこの花法律事務所のウェブ記事が他にコピーして転載されるケースが散見され、定期的にチェックを行っております。咲くやこの花法律事務所に著作権がありますので、コピーは控えていただきますようにお願い致します。

 

記事作成弁護士:西川 暢春
記事更新日:2022年9月9日

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    西川 暢春 代表弁護士
    西川 暢春(にしかわ のぶはる)
    大阪弁護士会/東京大学法学部卒
    小田 学洋 弁護士
    小田 学洋(おだ たかひろ)
    大阪弁護士会/広島大学工学部工学研究科
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