こんにちは。咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。
自社の事業を譲渡したり、あるいは他社の事業を譲り受ける際に作成が必要になるのが「事業譲渡契約書」です。
事業を丸ごと全部譲渡するという内容になることが多いため、重要性が高く、契約後のトラブルも多くなっています。
例:譲り受けた側のトラブル
- 譲受前に譲渡人がした取引について取引先から未払い債務の支払いを請求されるケース
- 事業譲渡により譲り受けたウェブサイト等について、譲り渡した会社から権利主張され、修正等ができなくなるケース
例:譲り渡した側のトラブル
- 譲り渡した事業財産の瑕疵を譲受人から後日指摘され損害賠償請求を受けるケース
- 会社法の競業避止義務により、譲渡後に思わぬ事業上の制約を負うことになるケース
このようなトラブルを防ぐためには、事業譲渡の場面ごとに、個別の内容に適合した事業譲渡契約書を作成しておくことが必要です。また、事業譲渡については会社法にも一定のルールが定められており、その内容を確認しておくことも重要です。
今回は、事業譲渡契約書作成の重要な注意点について、弁護士がわかりやすくご説明します。
▼【関連情報】事業譲渡契約書に関連する情報として、以下も参考にご確認ください。
・契約書作成で必ずおさえておくべき6つのポイント【ひな形集付き】
▼事業譲渡契約書について、弁護士の相談を予約したい方は、以下よりお気軽にお問い合わせ下さい。
【お問い合わせについて】
※個人の方からの問い合わせは受付しておりませんので、ご了承下さい。
今回の記事で書かれている要点(目次)
1,譲渡対象財産の範囲に関する契約条項の注意点
事業譲渡契約書の作成において、まず重要になるのが、「どこまでの範囲の財産を譲渡するのかを明記すること」です。
この点の記載が不適切、不明確だと、事業譲渡後に、ある財産が事業譲渡の範囲に含まれているのかいないのかをめぐってトラブルになってしまいます。
事業譲渡の対象となる財産としては、通常は「資産」、「債権」、「債務」などがあげられます。事業譲渡契約書では、譲受人に承継される「資産」、「債権」、「債務」を特定するために目録を作って契約書に添付することが一般的です。
以下でポイントとなる点をご説明したいと思います。
(1)「資産」の承継について
事業譲渡により譲受人に承継される資産を目録にリストアップして事業譲渡契約書に添付します。
例えば以下のような資産があります。
- 不動産
- 店舗の什器、備品
- 事業に使用する機械や車両類
契約条項の作成にあたり、特に注意しなければならない点は以下の通りです。
1,譲受人の立場から特に注意を要する点
- 対象事業に関する著作権その他の知的財産権も譲渡対象として明記する。
- 目録でのリストアップで完全に網羅が難しい場合は、「譲渡人が対象事業に現に使用している一切の動産類」も譲渡の対象として明記する。
2,譲渡人の立場から特に注意を要する点
- 事業譲渡の対象に含めない財産がある場合は、明記する。
- 店舗の小口現金等について譲渡の対象外とする場合は、明記する。
- 譲渡財産について瑕疵があったとしても譲渡人は責任を負わないことを明記する。
- 対象事業に使用していた商標やソフトウェアなどを、事業譲渡後も使用したい場合は、商標権や著作権を事業譲渡の対象から除外することを明記する。
3,著作物の譲渡については著作者人格権に注意
事業譲渡の対象に、譲渡会社が作成したプログラムやウェブサイトなどの著作物が含まれる場合は、「著作者人格権」という権利にも注意が必要です。
著作権については事業譲渡契約書で譲渡が可能ですが、著作物には著作権とは別に著作者人格権という権利があり、これについては譲渡が不可能な権利とされています。
そのため、事業譲渡後も著作者人格権は譲渡会社に残ります。そして、事業譲渡後に譲渡会社から著作者人格権を主張されると、譲受会社は著作物の自由な利用ができなくなります。
そこで、譲受会社の立場からは、事業譲渡の際に、著作物について著作者人格権を行使しないことを譲渡会社に誓約させることが必要です。
▶参考情報:著作者人格権を行使しないことを誓約させる契約条項の意味については、詳しくは以下の記事をご覧ください。
(2)「債権」の承継について
事業譲渡に当たってその事業に関する未収債権を譲受人に承継させる場合は、承継させる債権の目録にリストアップして事業譲渡契約書に添付します。
債権を譲り受ける際には以下の点に注意しましょう。
- 譲渡対象となる債権について債務者との契約書の中で債権譲渡が禁じられていないかどうかの確認が必要。
- 債権を譲り受ける場合、事業譲渡契約書での記載とは別に、債務者に債権譲渡を通知したり、あるいは債権譲渡について債務者から承認をもらう手続きが必要。
(3)「債務」の承継について
事業譲渡にあたっては、未払い債務を譲受人に承継させる場合は、目録にリストアップして事業譲渡契約書に添付します。
契約条項の作成にあたり、特に注意しなければならない点は以下の通りです。
1,譲渡人の立場から特に注意を要する点
- 譲渡人の代表者が連帯保証人となっている債務を譲受人に承継させる場合、連帯保証人から外してもらうための手続きを明記する。
- 債務の承継については原則として事業譲渡後も、譲渡会社は債権者から支払いを求められれば支払う必要がある。そのため、譲渡会社が事業譲渡後に債務の支払いをした場合に、譲受会社に請求できる内容の契約条項を入れておく必要がある。
2,譲受人の立場から特に注意を要する点
譲受人の立場からは、事業譲渡後に、思いもよらぬ未払債務が発覚し、請求を受けるリスクがあることに注意が必要です。
対策として、事業譲渡契約書の中に、目録にリストアップされた債務以外にその事業に関する債務が存在しないことを、譲渡人に保証させる内容の契約条項を盛り込んでおきましょう。
(4)取引先との契約は原則として引き継がれない。
譲渡する事業に関する取引先との契約は、その取引先の同意がない限り引き継がれません。
例えば、譲渡の対象となる事業についての、顧客との契約を、事業を譲り受ける会社が引き継ぐためには、顧客の同意が必要になります。
そしてこのことは、仕入れ先との契約、代理店との契約、運送会社との契約、テナントに入っている場合の家主との契約、ソフトウェアのライセンス契約、リース会社とのリース契約などすべての契約にあてはまります。
事業の承継を成功させるために不可欠な契約については、契約先が契約の承継に同意してくれるかどうかについて事前に打診して確認することが必要です。
以上、この段落で説明した譲渡対象財産の範囲に関する契約条項について、不安や不明点がありましたら、どれも見落とすことができない内容なので、事業譲渡契約に強い弁護士まで必ずご相談ください。
2,従業員の転籍に関する契約条項の注意点
従業員の雇用についてどのように扱うかも、事業譲渡契約書の作成において重要になるポイントの1つです。
譲渡する事業に従事している従業員との雇用契約については、従業員の同意がない限り、譲受会社に引き継がれません。
そのため、事業譲渡にあたっては、譲渡対象事業に従事している従業員についてどのような処遇をするかを検討し、契約条項に盛り込んでおく必要があります。
大まかに分けると、従業員の処遇については以下の2つのパターンがあります。
- パターン1:できるだけ従業員の同意を得て譲渡先に転籍させる方針
- パターン2:従業員については転籍させずに譲渡する側で継続して雇用する方針
また、従業員を転籍させないパターン2の場合、譲受会社の立場からすると、事業譲渡されてもノウハウがなく事業の運営に不安が生じるケースもあります。
そのような場合には、例えば、事業譲渡後の一定期間、譲渡会社から譲受会社に従業員を出向させることなどを事業譲渡契約書に盛り込んでおくと、事業の運営をスムーズに引き継ぐことが可能になります。
3,競業避止義務に関する契約条項の注意点
競業避止義務とは、事業譲渡における譲渡会社に課される、譲渡した事業と同じ事業を行ってはならないという義務をいいます。
事業譲渡においては、法律上、事業を譲り渡した側は、事業譲渡の後、同じ市町村内及び隣接市町村内で同じ事業をすることが20年間禁止されます(会社法第21条)。
このように法律でも競業避止義務が定められていることから事業譲渡契約書にも競業避止義務に関する契約条項を設けることが一般的になっています。
(1)譲渡人の立場からの契約条項作成のポイント
譲渡する側の立場からは、できるだけ、事業譲渡後に競業避止義務を負う範囲を限定しておくことが有利です。
競業避止義務の範囲が広いと、事業譲渡後の自社事業に制約が生じるためです。
法律では20年が禁止期間ですが、これを契約書で5年にしたり、あるいは、競業避止義務を負わないと契約書に記載することも有効ですので検討しましょう。
契約書に何も書かなければ、法律の原則通り、20年間同じ市町村内及び隣接市町村内で同じ事業はできなくなりますので注意してください。
(2)譲受人の立場からの契約条項作成のポイント
譲り受ける側の立場からは、できるだけ、譲渡人が事業譲渡後に競業避止義務を負う範囲を広げておくことが有利です。
事業の譲渡を受けたのに、その後、譲渡人がこれまでのノウハウを使って同じ事業をするのでは、譲渡を受けた後の事業運営に支障が生じるからです。
そのため、契約条項の作成にあたっては以下の点を検討しましょう。
- 譲渡人が同じ事業を行うことだけでなく競合事業を行うことも禁止する条項にする
- 譲渡人の競業を禁止する範囲を隣接都府県までとするか、あるいは場所の限定をせずに禁止する条項にする
- 競業避止義務の期間について20年より長い期間を設定する(ただし、会社法第21条2項により30年が限度になります)
競業避止義務について契約書に何も書かなければ、法律の原則通り、競業避止義務の範囲は、20年間同じ市町村内及び隣接市町村内で同じ事業はできないという内容になります。
しかし、これでは、全く同じ事業ではないが競合する事業を譲渡人が始めることや、隣接都府県で競合事業を譲渡人が始めることについては禁止できなくなりますので注意してください。
以上、この段落で説明した競業避止義務に関する契約条項について、不安や不明点がありましたら、重要なポイントの1つになりますので、事業渡契約に強い弁護士まで必ずご相談ください。
4,商号続用時の免責登記に関する契約条項の注意点
「商号続用時の免責登記」とは、事業を譲り受けた側が、事業譲渡前からの商号や屋号をそのまま引き継いで使用する場合に、「事業譲渡前の債務については責任を負いません」ということを、登記簿上登記する方法です。
(1)商号続用時の免責登記が必要になる理由
「商号続用時の免責登記」が必要になるのは、会社法上、事業を譲り受けた側が、事業譲渡前からの商号や屋号をそのまま引き継いで使用する場合に、原則として譲受会社は事業譲渡前の未払い債務についても責任を負うとされているためです。
譲受人がこの責任を免除してもらうためには、「商号続用時の免責登記」が必要になります。
以下でこの点を詳しくご説明します。
商号や屋号を事業を譲り受けた側が引き継いで使用する場合、外部から見れば事業譲渡により経営主体が変わったことがわかりにくいという特徴があります。
そのため、事業譲渡によりこれまでの取引先が不利益をこうむらないようにするために、事業を譲り受けた会社は原則として事業譲渡の前に発生した債務についても弁済する責任を負うことが定められています(会社法第22条)。
ただし、「商号続用時の免責登記」をすれば、事業を譲り受けた会社は事業譲渡前に発生した債務について弁済の責任を負わないことになっています。
事業譲渡前の債務について責任を負わないための方法には、「商号続用時の免責登記」のほかに、個別に債権者に対して「事業譲渡前の債務については責任を負いません」という通知書を送る方法があります。
しかし、債権者が多くて通知が難しい場合は、「商号続用時の免責登記」を検討することになります。
(2)事業譲渡契約書における注意点
譲受人が免責登記を行うことを検討している場合、譲受人は譲渡人から免責登記に必要な書類を交付してもらうことが必要です。
そのため、事業譲渡後に免責登記を行う場合は、事業譲渡契約書に、譲渡人が免責登記に協力することを義務付ける内容の契約条項を必ず入れておきましょう。
5,安易な雛形利用は危険
以上、事業譲渡契約書作成時に特に注意していただく必要がある点をピックアップしてご説明しました。
今回は、事業譲渡契約書一般において、共通して注意が必要な点をご説明しましたが、実際の契約書作成にあたっては、ひな形なども参考にしながら、個別の契約内容にマッチした事業譲渡契約書を仕上げていくことが重要です。
安易にインターネット上のひな形を使用することは、そのひな形が、実際の事業譲渡の内容にあっていなかったり、自社が実際にはできないことを契約条項に入れてしまって契約違反になってしまうなどのリスクがあります。また、ひな形は個別具体的な事情を踏まえた事業譲渡のリスクに対応しておらず、そのまま安易に使用することは非常に危険です。
ひとくちに事業譲渡契約書といっても、実店舗の事業を譲渡するケースや、ウェブサイトを譲渡するケース、大きなひとかたまりの事業を譲渡するケースなど、様々なバリエーションがあります。
そして、事業譲渡契約書の内容は、事業譲渡の対象となる財産の種類や、予想されるリスクの種類に応じて、大きく変わってきます。
必ず、個別の事情を反映した契約書の作成を弁護士に依頼するか、弁護士による「契約書のリーガルチェック」を受けておきましょう。
▶参考情報:事業譲渡契約書に強い弁護士による契約書の作成やリーガルチェックについて詳しくは以下をご覧ください。
6,事業譲渡契約書の印紙税について
事業譲渡契約書の印紙税についてもご説明しておきたいと思います。
事業譲渡契約書には印紙を貼る必要があり、印紙額は以下の通りです。
契約書に記載された事業譲渡の代金額 | 印紙代 |
記載なし | 200円 |
1万円未満 | なし |
1万円以上10万円以下 | 200円 |
10万円を超え50万円以下 | 400円 |
50万円を超え100万円以下 | 1000円 |
100万円を超え500万円以下 | 2000円 |
500万円を超え1千万円以下 | 1万円 |
1千万円を超え5千万円以下 | 2万円 |
5千万円を超え1億円以下 | 6万円 |
7,事業譲渡契約書に関して弁護士に相談したい方はこちら
最後に咲くやこの花法律事務所における事業譲渡契約書についてのサポート内容をご説明したいと思います。
(1)譲渡する側からの事業譲渡契約書作成・リーガルチェックのご相談
この記事でもご説明したとおり、譲渡する側では、譲渡財産の範囲を明確にする、譲渡財産に瑕疵があった場合の責任や競業避止義務を限定するといったことは、事業を譲渡する際に共通して注意しなければならない点です。
しかし、事業譲渡は個別の事情に応じて発生するリスクも異なりますので、個別的なリスク対処が必要になります。そのためには、個別の事業譲渡の事情を反映した事業譲渡契約書を適切に作成するのが効果的です。
事業譲渡契約書は法的文書ですから、専門家である弁護士に作成を依頼するか、リーガルチェックを受けることをおすすめします。咲くやこの花法律事務所では、事業譲渡契約に詳しい弁護士が、事業譲渡契約書の作成・リーガルチェックのご依頼を随時承っております。
まずはお気軽にご相談いただくのが重要です。事業譲渡をご検討中の企業の方のご相談をお待ちしております。
咲くやこの花法律事務所における事業譲渡契約書に関する弁護士費用例
- 初回相談料:30分あたり5000円
- 契約書作成費用:6万円~10万円程度
- 契約書リーガルチェック費用:3万円程度~
(2)譲り受ける側からの事業譲渡契約書作成・リーガルチェックのご相談
事業を譲り受ける側からすると、今回ご紹介したように譲り受ける事業の範囲や、知的財産権の権利処理、債権債務の承継など多方面に気を配らなければ、思わぬトラブルに巻き込まれる可能性があります。
トラブルをあらかじめ防止し、トラブルが生じた場合に十分に対応できるような契約書を作成するためには、自社作成の契約書を弁護士にリーガルチェックしてもらい、あるいは弁護士に要望を伝えて契約書を個別に作成することが必要です。
咲くやこの花法律事務所では、事業譲渡契約書の作成及びリーガルチェックのご相談を随時承っております。企業法務に精通した弁護士が、事業を譲り受ける側の立場から、最適な契約書をご提案いたします。
事業譲渡契約に不安のある企業の方はぜひご相談ください。
咲くやこの花法律事務所における事業譲渡契約書に関する弁護士費用例
- 初回相談料:30分あたり5000円
- 契約書作成費用:6万円~10万円程度
- 契約書リーガルチェック費用:3万円程度~
(3)「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法
咲くやこの花法律事務所の事業譲渡契約書に強い弁護士によるサポート内容については「契約書の作成代行やリーガルチェックについて」をご覧下さい。また、弁護士の相談を予約したい方は、以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
【お問い合わせについて】
※個人の方からの問い合わせは受付しておりませんので、ご了承下さい。
8,【関連情報】事業譲渡契約書に関するその他のお役立ち情報
今回の記事では、「事業譲渡契約書作成の重要な注意点」をご説明しました。今回ご紹介した記事のように事業譲渡契約をする際、事業譲渡契約書を締結しますが、その際、「譲受人」や「譲渡人」のそれぞれの立場でおさえておくべき重要なポイントがあります。
以下では、「事業譲渡契約」の際に関連するその他のお役立ち情報をまとめておきますので、合わせてご覧下さい。
・著作権譲渡契約書の作成を弁護士が解説!安易な雛形利用は危険!
・契約書の合意管轄条項(専属的合意管轄)の記載方法、交渉方法
記事作成弁護士:西川 暢春
記事更新日:2024年11月15日
「企業法務に関するお役立ち情報も配信中(メルマガ&YouTube)」事業譲渡契約に関するお役立ち情報については、「咲くや企業法務.NET通信」のメルマガ配信や、咲くやこの花法律事務所の「YouTube公式チャンネル」の方でも配信しておりますので、以下より登録してください。
(1)無料メルマガ登録について
上記のバナーをクリックすると、メルマガ登録ページをご覧いただけます。
(2)YouTubeチャンネル登録について
上記のバナーをクリックすると、YouTubeチャンネルをご覧いただけます。