こんにちは。咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。
企業から、取締役や従業員の背任行為に対する対応をご相談いただくことがあります。
取締役や従業員の背任行為を放置すると、社内の規律がルーズになり同様の行為が社内ではびこるようになる危険があります。また、会社が適切な対応をとらないでいると、そのような会社の態度に嫌気がさした誠実な従業員が離職したり、会社が取引先からの信頼を失うことになる危険があります。背任行為が発覚したときは早急に必要な対処をすることが重要です。
背任行為が重大なものである場合は、刑事告訴も検討することになります。では、そもそも 「背任罪」という犯罪はどのような場合に成立するのでしょうか?また、横領罪や特別背任罪との違いはなんでしょうか?
この記事では、背任罪と他の犯罪との違い、背任罪の成立要件、時効や裁判例など、背任罪について網羅的に解説します。
それでは見ていきましょう。
従業員や取締役の背任行為は、企業にとって経営にもかかわる重大な問題であり、背任行為の発覚後は、損害賠償請求や解雇、刑事告訴等、企業として迅速かつ適切に対応する必要があります。
咲くやこの花法律事務所でも、従業員や取締役の背任行為により被害を受けた場合の損害賠償請求、解雇、刑事告訴等について企業からのご相談をお受けしています。背任行為による被害にお困りの場合は、咲くやこの花法律事務所の企業法務に強い弁護士にご相談ください。
▼背任について、弁護士の相談を予約したい方は、以下よりお気軽にお問い合わせ下さい。
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今回の記事で書かれている要点(目次)
1,背任罪とは?背任の意味をわかりやすく解説
背任罪とは、他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背き、本人に財産上の損害を被らせたときに成立する犯罪です。背任罪は、刑法第247条に定められており、その法定刑は5年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
▶参考情報:刑法第247条
第二百四十七条 他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
・参照元:「刑法」の条文はこちら
(1)背任罪の成立要件
背任罪の成立要件は以下の通りです。
- 1.行為者が他人のためにその事務を処理する者であること
- 2.自己若しくは第三者の利益を得ること、又は本人に損害を加えることが目的であること
- 3.事務を任された者として、任務に背く行為をしたこと
- 4.行為の結果、本人に財産上の損害を与えたこと
この4つの構成要件をすべて満たす場合に、背任罪が成立します。詳しくは、「2,背任罪の成立要件について」でご説明します。
(2)背任罪の時効は?
背任罪の時効は5年です。ここまで これに対して特別背任罪の時効は、背任罪より長い7年とされています。
時効については、「4,背任行為に時効はあるのか?」で詳しく解説します。
(3)特別背任罪との違い
特別背任罪との違いは、大きく分けて3つあります。
- 1.規定されている法律
- 2.行為者(主体)
- 3.法定刑
このうち、背任罪と特別背任罪との最も大きな違いは、行為者(主体)の違いです。
背任罪では、単に「他人のために事務を処理する者」とされていますが、特別背任罪の場合は、会社の代表者や取締役などの、会社に影響力のある人物に、主体が限定されています。また、会社の利益にとって重要な人物による背任行為は、通常の背任行為よりも強い非難に値するため、法定刑も背任罪より重いものとなっています。
詳しくは、「5,特別背任罪との違いについて」でご説明します。
▶参考動画:この記事の著者 弁護士 西川 暢春が「背任罪になる場合とは?社内で発覚した背任行為の対処法を弁護士が解説」を動画で解説しています!
2,背任罪の成立要件について
背任罪の成立要件は以下の通りです。
- 1.行為者が他人のためにその事務を処理する者であること
- 2.自己若しくは第三者の利益を得ること、又は本人に損害を加えることが目的であること
- 3.事務を任された者として、任務に背く行為をしたこと
- 4.行為の結果、本人に財産上の損害を与えたこと
(1)行為者が他人のためにその事務を処理する者であること
他人のためにその事務を処理する者とは、他人のために財産上の事務処理を行うことを委託されている者を言います。金銭や商品、あるいは企業秘密の管理や、登記手続きなどの、財産の手続き等に関する業務を委託された者などがこれに含まれます。
(2)自己若しくは第三者の利益を得ること、又は本人に損害を加えることが目的であること
目的が、自己若しくは第三者の利益を得ること、又は本人に損害を加えることであることも背任罪の構成要件のひとつです。この要件は「図利加害目的」と呼ばれます。
背任罪は、行為者自身の利益を目的としない場合であっても、第三者に利益を得させたり、会社に損害をあたえることを目的とした場合についても成立します。一方で、任務に違反する行為であっても、自己若しくは第三者の利益を得る目的がなく、「本人の利益を図る目的」があるときは、図利加害目的がなく、背任罪は成立しません。
(3)事務を任された者として、任務に背く行為(任務違背行為)をしたこと
この任務に背く行為(任務違背行為)とは、事務処理を委託された目的として、なすべきものと法的に期待される行為に反する行為のことです。
例えば、「企業秘密を管理する社員は企業秘密の守秘が当然期待されるところ、競合他社に漏洩する」行為や、「仕入や下請への発注を担当する社員は、会社の利益のために仕入先や下請業者との交渉を行うことが当然期待されるところ、仕入先や下請業者からリベートを受領する」行為などが挙げられます。
(4)行為の結果、本人に財産上の損害を与えたこと
背任罪が成立するためには、行為の結果本人に財産上の損害を与えたという事実が必要です。この財産上の損害は、被害者が既にもっていた財産を不正に減らした場合のほかに、将来的に得られていたであろう利益を失った場合もこれに該当します。
ただし、財産上の損害がなければ背任行為についておとがめなし、というわけではなく、背任未遂罪が適用される可能性があります。
詳しくは、「9,背任罪の未遂について」でご説明します。
3,業務上横領罪や横領罪との違いについて
背任行為をした取締役や従業員の刑事告訴を行う場面では、どの犯罪が成立するのかを慎重に検討する必要があります。背任罪が成立するのか、それとも他の犯罪が成立するのかも検討しなければなりません。
この点、背任罪と似た犯罪として、業務上横領罪や横領罪が挙げられます。では、具体的に背任行為と横領行為とはどのように異なるのでしょうか。
(1)横領とは?
横領罪は、自己の占有する他人の物を横領した場合に成立する犯罪です(刑法第252条1項)。例えば、友人から借りていたゲームソフトを無断で他人に売ってしまったり、図書館で借りた本を返さずに自分のものにしてしまうなどの行為が挙げられます。
そして、業務上横領罪とは、業務として占有していた他人の物を横領した場合に成立する犯罪です(刑法第253条)。スーパーマーケットの従業員がレジのお金を自分のものにするなどの小規模のものから、会社の預金に手をつけて数十億円を横領するなどの大規模なものもあります。
▶参考情報:業務上横領罪については、以下の記事で詳しく解説していますので、ご参照ください。
▶参考情報:刑法第252条、刑法第253条
(横領)
第二百五十二条 自己の占有する他人の物を横領した者は、五年以下の懲役に処する。
2自己の物であっても、公務所から保管を命ぜられた場合において、これを横領した者も、前項と同様とする。
(業務上横領)
第二百五十三条 業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の懲役に処する。
・参照:「刑法」の条文はこちら
(2)背任罪との違い
では、背任と横領はどのように区別されるのでしょうか?
最初に表にまとめると以下の通りです。
▶参考:背任と横領と業務上横領の違い
背任罪 | 横領罪 | 業務上横領罪 | |
意味 | 他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えること | 自己の占有する他人の物を不法に自分のものとすること | 業務上自己の占有する他人の物を不法に自分のものとすること |
行為 | 任務に背いて損害を与える行為 | 他人の物を不法に自分のものとする行為 | 業務上預かっている他人の物を不法に自分のものとする行為 |
法定刑 | 5年以下の懲役又は50万円以下の罰金 | 5年以下の懲役 | 10年以下の懲役 |
© 弁護士法人咲くやこの花法律事務所
1,行為のちがい
背任行為とは、任された任務に背いて損害を与える行為のことで、例えば企業秘密を漏洩して会社に損害を与えた場合などについても、背任行為に該当する可能性があります。
一方で、横領や業務上横領は、(業務上)他人から預かっている物を不法に自分のものとする行為に限定されています。
そして、他人から預かっている物を不法に自分のものにすることは、任された任務に背く行為にも該当する場合があるため、横領罪に該当する行為が、背任罪にも該当することがあります。
このように、横領罪と背任罪の両方に該当する場合、より重い横領罪だけが成立します(大審院判決昭和10年7月3日)。つまり、他人の物を不法に自分のものとした場合は横領罪または業務上横領罪のみが成立し、機密情報を競業会社に漏洩したり、従業員が仕入先や下請業者からリベートを受領する行為など、横領に該当する行為以外の、任務に背いて損害を与える行為が背任罪に該当します。
2,目的のちがい
背任罪は「目的犯」と呼ばれ、自己若しくは第三者の利益を図る目的、又は本人に損害を加える目的がある場合にのみ成立する犯罪です。これに対し、横領罪は特定の目的がなくても成立する犯罪です。
3,法定刑のちがい
背任罪の法定刑は、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金です。一方で横領罪は5年以下の懲役、業務上横領罪については、10年以下の懲役と定められています。
4,背任罪に時効はあるの?
背任罪の時効は5年です(刑事訴訟法第250条2項4号)。また、背任罪よりも罪が重いとされる特別背任罪の時効については、背任罪より長い7年とされています(刑事訴訟法第250条2項5号)。
この時効期間が経過した後は、処罰がされません。そのため、企業が背任行為の被害にあって刑事告訴等の対応をする場合も、時効が経過するまでに行う必要があります。
▶参考情報:刑事訴訟法第250条2項4号、5号
時効は、人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの以外の罪については、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。
・・・
四 長期十五年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については七年
五 長期十年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については五年
・・・
※一部省略
・参照元:「刑事訴訟法」の条文はこちら
5,特別背任罪との違いについて
特別背任罪と背任罪は、以下の点で異なります。
- 1.規定されている法律
- 2.行為者(主体)
- 3.法定刑
以下でそれぞれご説明いたします。
(1)規定されている法律
まず、背任罪と特別背任罪は、規定されている法律が異なります。
背任罪は刑法によって定められていますが、特別背任罪は、会社法によって定められています(会社法第960条1項、961条)。
▶参考情報:会社法第960条1項
第九百六十条 次に掲げる者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は株式会社に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、当該株式会社に財産上の損害を加えたときは、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 発起人
二 設立時取締役又は設立時監査役
三 取締役、会計参与、監査役又は執行役
四 民事保全法第五十六条に規定する仮処分命令により選任された取締役、監査役又は執行役の職務を代行する者
五 第三百四十六条第二項、第三百五十一条第二項又は第四百一条第三項(第四百三条第三項及び第四百二十条第三項において準用する場合を含む。)の規定により選任された一時取締役(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役又はそれ以外の取締役)、会計参与、監査役、代表取締役、委員(指名委員会、監査委員会又は報酬委員会の委員をいう。)、執行役又は代表執行役の職務を行うべき者
六 支配人
七 事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人
八 検査役
第九百六十一条 代表社債権者又は決議執行者(第七百三十七条第二項に規定する決議執行者をいう。以下同じ。)が、自己若しくは第三者の利益を図り又は社債権者に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、社債権者に財産上の損害を加えたときは、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
・参考:「会社法」の条文はこちら
(2)行為者(主体)
背任罪と特別背任罪の最も大きな違いは、行為者(主体)にあります。
背任罪の行為者(主体)は、「他人のためにその事務を処理する者」ですが、特別背任罪の行為者(主体)は以下の人物に限定されています。
- ① 発起人
- ② 設立時取締役または設立時監査役
- ③ 取締役、会計参与、監査役、執行役
- ④ 民事保全法第516条に規定する仮処分命令により選任された取締役、監査役又は執行役の職務を代行する者
- ⑤ 一時取締役、会計参与、監査役、代表取締役、委員執行役または代表執行役の職務を行うべき者
- ⑥ 支配人
- ⑦ 事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人
- ⑧ 検査役
- ⑨ 代表社債権者又は決議執行者
このように、特別背任罪は、背任罪よりも行為者(主体)の範囲が狭く、会社代表者や取締役などのある一定の地位にいる人物に限定して適用されます。
(3)法定刑
背任罪の法定刑は、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金とされています。
一方で、取締役などによる特別背任罪の法定刑は、10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金と、背任罪よりも重くなっています。そして、10年以下の懲役と1000万円以下の罰金がどちらも科される(併科される)こともあります。ただし、行為者が代表社債権者や決議執行者の場合は、5年以下の懲役または500万円以下の罰金とされており、こちらについてもどちらも科される(併科される)ことがあります。
特別背任罪の法定刑が背任罪よりも重いのは、会社の利益について重要な役割を担う人物による背任行為は、通常の背任よりも強い非難に価するという考え方によるものです。
▶参考情報:特別背任罪について詳しくは、以下の記事で解説していますのでご参照ください。
6,社員や役員の背任行為についての裁判例
次に、実際に起こった社員や役員による背任行為についての裁判例をご紹介します。
(1)キャバクラでの接待の見返りに取引先を優遇した事案
集配郵便局郵便部長が、取引業者から多数回に渡る接待を受けた見返りに、取引業者から差し出された郵便物について過少な料金を徴収して背任罪等で起訴された事例です(横浜地方裁判所判決平成30年9月6日)。
事件の概要
2か所の集配郵便局郵便部長を歴任してきた社員が、取引業者からの多数回の接待を通して飲食代金等合計61万円余りに相当する利益を受け、その見返りとして、この取引業者から差し出された郵便物等について適正な引受検査を実施せず、過少な料金を徴収していた事件です。本件では、取引業者から約212万円を徴収しなければならないところ、約22万円のみ請求し、約190万円の損害を会社に負わせました。
裁判所の判断
裁判所は、以下の点が悪質であるとしつつ、懲役3年、執行猶予4年の判決を言い渡しました。
- 約7か月間にわたって26回もの接待を受け、70回を超える不正な引受を行っており、郵便事業という公共性の高い職務の公正を大きく害するものとして、相当強い非難に値すること
- 不正が発覚しづらい手立てを取引業者に講じさせていたり、その立場を利用し、部下職員に対して不正引受が発覚しないように適切な検査がなされているように装うよう指示するなどしており、大胆かつ悪質といえること
- 会社側に約190万円という少なくない損害を生じさせていること
- 犯行に及んだ動機が、自身の小遣いではかなわない飲食店やキャバクラでの接待を受け続けたかったという、専ら私利私欲に基づくものであること
(2)業務委託先からリベートを受領した事案
技術開発部門の担当課長が業務委託先に無関係な物品購入代金や架空の代金を上乗せした金額で請求させ、背任罪で起訴された事例です(大阪地方裁判所判決令和3年8月4日)。
事件の概要
企業の技術開発部の担当課長が、約1年8か月の間に9回にわたり、委託業務の遂行に無関係な物品の購入代金や、架空の発注業務の契約代金を上乗せした金額で業務委託契約を締結させ、会社に合計約2億1500万円の損害を負わせた事件です。
裁判所の判断
裁判所は、課長と会社の間で損害賠償の支払の合意が交わされており、課長から会社に対して約1億円の賠償がされていることを踏まえても、「刑責はなお相当に重い」として、懲役3年の実刑を言い渡しました。裁判所は判断の理由として以下の点を判示しています。
- 被害額は合計2億1500万円余りと極めて高額であり結果は誠に重大であること
- 契約金額のうち不正に上乗せされた金額が半分以上に及ぶものが複数あるなど、契約金額の相当部分を上乗せ額が占めていること
- 大企業の課長という立場を利用して、発注先業者に対して不正な金額の見積書を作成させたこと
- 上乗せした金額でipad等の換金が容易な物品を購入させて自身の関係先に送付させた上で売却し、売却によって得た資金を外部から発覚しにくい外貨に換えたうえで自身の口座で秘密裏に保管していたこと
この事案からもわかるように被害が多額に上る場合、刑事告訴をすると実刑になります。実刑になった場合は、行為者は他社で働いたうえでそこで得た給与から被害を弁償するということができなくなります。そのため、背任行為による被害を受けた会社の立場からすると、刑事告訴をして罪を償わせることを優先するのか、それともあえて刑事告訴はせず被害を弁償させることを優先するのかを検討することも必要になります。
7,社内で社員の背任行為が発覚した場合の対処方法
社員の背任行為が発覚した場合に企業として必要になる対応は以下の通りです。
(1)事実関係の調査と証拠の保全
まずは、行為者に知られない形で、十分な調査と証拠の確保を進めます。
(2)行為者に対する事情聴取
十分な調査を行い、証拠の確保を終えたら、行為者からの事情聴取を行います。この場面で、行為者に背任行為を認めさせて、被害弁償を約束させることが重要です。
(3)被害回復のための措置や関係者の処分
行為者の事情聴取を終えた後は、被害弁償の方法について行為者と交渉し、必要に応じて行為者に対する法的措置をとります。また、行為者・関係者の解雇・懲戒処分、刑事告訴等を行います。さらに、背任行為に加担した取引先がある場合は、その取引先との関係解消や取引先に対する損害賠償請求を検討します。
(4)社内・社外への説明と再発防止
背任行為について、社内での説明や株主への説明が必要になることがあります。また、必要に応じて外部への情報開示、プレスリリース、監督官庁への報告を行います。そのうえで、再発防止策を検討し、実施することが必要になります。
8,背任罪は親告罪か?
親告罪とは、被害者などによる告訴(処罰を求める意思表示)がないと、検察官による起訴ができない犯罪のことを言います。では、背任罪は親告罪となるのでしょうか。
背任罪は相対的親告罪と呼ばれ、犯人と被害者の間に一定の身分関係がある場合にのみ、告訴がなければ起訴できない犯罪として扱われます。
具体的には以下の通りです。
1.被害者と行為者が配偶者、直系血族又は同居の親族の関係にある場合
→ 刑が免除されます。
2.被害者と行為者が上記以外の親族の関係にある場合
→ 被害者による告訴がなければ検察官は起訴できません。
3.被害者と行為者に親族関係がない場合
→ 被害者による告訴がなくても検察官は起訴できます。
▶参考情報:刑法第244条
第二百四十四条 配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第二百三十五条の罪、第二百三十五条の二の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する。
2前項に規定する親族以外の親族との間で犯した同項に規定する罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
3前二項の規定は、親族でない共犯については、適用しない。
▶参考情報:刑法第251条
第二百五十一条 第二百四十二条、第二百四十四条及び第二百四十五条の規定は、この章(背任罪が定められている37章)の罪について準用する。
※下線部は筆者による追記
・参照元:「刑法」の条文はこちら
このように親族関係がない場合は、刑事告訴が法的に必須というわけではありません。しかし、会社が役員や従業員による背任行為の被害に遭った場合、犯人に処罰を受けさせたいのであれば、被害届を提出するだけでなく、刑事告訴まで行うことが適切です。
被害届の提出だけでは起訴してもらえないことが多いです。刑事告訴にあたっては、弁護士に依頼して、告訴状を作成し、また証拠を収集して警察に提供することが通常です。
9,背任罪の未遂について
未遂とは、犯罪を実行しようとしたものの、遂げることができず、結果として被害が生じなかった場合のことです。前述のとおり、背任罪が成立するためには、本人に財産上の損害を与えたという事実が必要です。
一方で、背任行為はあったものの、結果として損害がなかったような場合は、背任罪とはなりませんが、背任未遂罪が適用される可能性があります。また、役員などによる特別背任罪についても同様に特別背任未遂が処罰対象となります。
▶参考情報:刑法第250条
第二百五十条 この章(背任罪が定められている第37章)の罪の未遂は、罰する。
※下線部は筆者による追記
・参照元:「刑法」の条文はこちら
▶参考情報:会社法第962条
第九百六十二条 前二条(特別背任罪)の罪の未遂は、罰する。
※下線部は筆者による追記
・参照元:「会社法」の条文はこちら
10,背任に関して弁護士に相談したい方はこちら
従業員や取締役の背任行為は、企業経営にかかわる重大な問題です。咲くやこの花法律事務所では、従業員や取締役の背任行為により被害を受けた場合の損害賠償請求、解雇や解任、刑事告訴等について企業からのご相談をお受けしています。以下で、従業員や取締役による背任行為の被害に関する咲くやこの花法律事務所のサポート内容をご紹介いたします。
(1)背任に関するご相談
社内で背任行為が発覚した場合、会社としては、行為者に対する損害賠償や刑事告訴、取締役解任や解雇など、様々な対応に追われることになります。
また、背任行為の証拠を確保することも重要です。証拠を十分に確保できていない状況で、行為者に問いただす、などの対応をしてしまった場合、うまく証拠を隠されたり、虚偽の弁解を準備されてしまうことがあります。
こういったことにならないように、背任の疑いが生じた場合は、自社で行動する前に、速やかに専門家である弁護士に相談することが大切です。咲くやこの花法律事務所では、背任行為が発覚した際の企業側の対応について、企業法務に精通した弁護士がご相談をお受けし、問題解決・被害回復に向けた道筋を示します。また、企業からのご要望により、弁護士が代理人となって、背任行為についての証拠収集、行為者からの事情聴取、損害賠償請求、刑事告訴等を行います。
背任に関する相談の弁護士費用例
●初回相談料:30分5000円+税(顧問契約の場合は無料)
(2)顧問弁護士サービスによる日頃からのトラブル予防
背任行為によって多額の損害が出てしまうと、最悪の場合、重大な経営難に陥ってしまったり、被害回復のために多額の費用と時間を要してしまう可能性があります。こういったことにならないように、普段から背任行為について予防策を講じることが大切です。
咲くやこの花法律事務所では、顧問弁護士として、今までに取り扱った横領や背任の事例における経験をもとに、横領や背任が起こりにくい体制づくりのサポートを提供します。顧問弁護士サービスにより、日頃から弁護士にご相談いただきながら、日々改善を重ねることで、横領や背任が起こりにくい企業体制作りを進めることができます。
咲くやこの花法律事務所の顧問弁護士サービスの内容は以下でご紹介していますのでご参照ください。
(3)「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法
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11,まとめ
この記事では、背任罪についてご説明しました。
背任罪とは、他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背き、本人に財産上の損害を被らせたときに成立する犯罪です。
背任罪の構成要件は以下の通りです。
- 1.行為者が他人のためにその事務を処理する者であること
- 2.自己若しくは第三者の利益を得ること、又は本人に損害を加えることが目的であること
- 3.事務を任された者として、任務に背く行為をしたこと
- 4.行為の結果、本人に財産上の損害を与えたこと
また、背任行為の結果、財産上の損害が無かった場合は、背任罪にはあたりませんが、背任未遂罪となる可能性があります。背任罪は相対的親告罪であり、親族間でおこった場合については、被害者からの告訴がないと、検察官は起訴することができません。
背任行為は、社内トラブルの中でも、すぐに対応する必要がある重大な問題です。社内で取締役や従業員の背任行為が発覚した場合は、企業法務に詳しい弁護士にできる限り早く相談することをおすすめします。咲くやこの花法律事務所でも、背任行為の被害に遭った事業者の方向けに被害回復・問題解決のための専門的なサポートを提供していますので、ぜひご利用ください。
▶参考情報:企業法務に強い弁護士への相談サービスはこちら
記事作成弁護士:西川 暢春
記事更新日:2024年11月15日
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