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特別背任罪とは?成立要件や事例、背任との違いをわかりやすく解説

特別背任罪とは?成立要件や事例、背任との違いをわかりやすく解説
  • 西川 暢春(にしかわ のぶはる)
  • この記事を書いた弁護士

    西川 暢春(にしかわ のぶはる)

    咲くやこの花法律事務所 代表弁護士
  • 出身地:奈良県。出身大学:東京大学法学部。主な取扱い分野は、「問題社員対応、労務・労働事件(企業側)、クレーム対応、債権回収、契約書関連、その他企業法務全般」です。事務所全体で400社以上の企業との顧問契約があり、企業向け顧問弁護士サービスを提供。

こんにちは。咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。
社内で不正行為があり、特別背任について調べていませんか?

取締役や会社において重要な地位にある人物による背任行為には、特別背任罪が成立することがあります。

特別背任とは、取締役など社内で一定の地位にある人物が、自己若しくは第三者の利益を図りまたは会社に損害を加える目的で、その任務に背く行為を言います。そのような行為により会社に損害を与えた場合に、特別背任罪が成立します。以下のような行為が背任行為の典型例と言えるでしょう。

 

  • 売上の横流し(自社の売上を自分の経営する他社に付け替えるなど)
  • 会社資金の流用(会社資金を個人的な借金等の返済に流用するなど)
  • 返済見込みのない他社への会社資金の貸付(親族が経営する破綻状態の会社に担保も取らずに会社資金を貸し付けるなど)

 

このような社内の背任行為を放置すると、規律がルーズになり同様の行為が社内ではびこるようになる危険があります。また、会社が適切な対応をしないでいると、そのような会社の態度に嫌気がさした誠実な従業員が離職したり、会社が取引先からの信頼を失う危険があります。背任行為やその疑いが発覚したときは、早急に適切な対処をすることが重要です。

この記事では、特別背任罪について、構成要件や罰則などを説明した後、実際の裁判例や業務上横領との違いについてもご説明します。また、社内で取締役等による背任行為が発覚した場合の対処方法もご紹介します。この記事を最後まで読めば、特別背任についての基本的な内容が理解いただけるはずです。

それでは見ていきましょう。

 

【弁護士西川暢春のワンポイント解説】

社内において特別背任などの不正が起こった場合、その後に会社が適切に対応できたかどうかによって解決結果が大きく異なります。

会社としては、証拠の収集や行為者の処罰、行為者に対する損害賠償請求、新しい事業体制の構築、社外への説明など、対応すべきことが多くあります。

これらの点を円滑にトラブルなく進めるためには、社内の不正が発覚した早い段階で弁護士に相談して対応することが必要です。企業法務に強く、社内の不正行為への対応の経験が豊富な弁護士に任せることで、正しい手順と方法で対応することができ、迅速に社内を正常化することができます。

咲くやこの花法律事務所では、取締役や従業員の背任行為が発覚した際の会社としての対応について、専門的かつ具体的なサポートを提供しています。お困りの際は早めにご相談ください。

 

▼特別背任について、弁護士の相談を予約したい方は、以下よりお気軽にお問い合わせ下さい。

【お問い合わせについて】

※個人の方からの問い合わせは受付しておりませんので、ご了承下さい。

「咲くやこの花法律事務所」のお問い合わせページへ。

 

 

1,特別背任罪とは?意味をわかりやすく解説

特別背任罪とは?意味をわかりやすく解説

特別背任罪とは、株式会社の取締役や監査役、支配人などが、自己若しくは第三者の利益を図り又は株式会社に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、それによって株式会社に財産上の損害を加えた場合に成立する犯罪です。背任罪は刑法に定められていますが、特別背任罪は会社法960条、961条に定められています。

このように、特別背任とは、取締役や支配人など、会社において重要な地位にある人物による背任のことを指します。なお、特別背任罪は親告罪ではないため、被害者による告訴がなくても検察官は起訴することができます。

 

▶参考情報:会社法960条、961条

第九百六十条 次に掲げる者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は株式会社に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、当該株式会社に財産上の損害を加えたときは、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 発起人
二 設立時取締役又は設立時監査役
三 取締役、会計参与、監査役又は執行役
四 民事保全法第五十六条に規定する仮処分命令により選任された取締役、監査役又は執行役の職務を代行する者
五 第三百四十六条第二項、第三百五十一条第二項又は第四百一条第三項(第四百三条第三項及び第四百二十条第三項において準用する場合を含む。)の規定により選任された一時取締役(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役又はそれ以外の取締役)、会計参与、監査役、代表取締役、委員(指名委員会、監査委員会又は報酬委員会の委員をいう。)、執行役又は代表執行役の職務を行うべき者
六 支配人
七 事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人
八 検査役
2 次に掲げる者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は清算株式会社に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、当該清算株式会社に財産上の損害を加えたときも、前項と同様とする。
一 清算株式会社の清算人
二 民事保全法第五十六条に規定する仮処分命令により選任された清算株式会社の清算人の職務を代行する者
三 第四百七十九条第四項において準用する第三百四十六条第二項又は第四百八十三条第六項において準用する第三百五十一条第二項の規定により選任された一時清算人又は代表清算人の職務を行うべき者
四 清算人代理
五 監督委員
六 調査委員

第九百六十一条 代表社債権者又は決議執行者(第七百三十七条第二項に規定する決議執行者をいう。以下同じ。)が、自己若しくは第三者の利益を図り又は社債権者に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、社債権者に財産上の損害を加えたときは、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

・参照元:「会社法」の条文はこちら

 

また、よくある質問として、背任罪や業務上横領罪と特別背任罪はどう違うのか、についても解説します。

 

(1)特別背任罪と背任罪のちがい

特別背任罪と背任罪の違い

特別背任罪と背任罪の違いは以下の通りです。

 

  • 1,規定されている法律
  • 2,行為者(主体)
  • 3,法定刑

 

1,規定されている法律

前述のとおり、特別背任罪は会社法960条、961条に定められています。

一方で、背任罪は刑法247条に定められています。

 

▶参考情報:刑法第247条

第二百四十七条 他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

・参照元:「刑法」の条文はこちら

 

2,行為者

特別背任罪と背任罪の最も大きな違いは、行為者にあります。前述の通り、特別背任罪が適用される行為者は、会社法960条や961条によって規定された、会社において一定の地位にある人物に限定されています。一方で、背任罪においては、行為者は「他人のためにその事務を処理する者」とのみ定められており、特別背任罪より広い範囲の人物に適用されます。

 

3,法定刑

会社法960条に定められている取締役などによる特別背任罪の場合、法定刑は10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金またはその両方と定められています。一方で、背任罪については、法定刑は5年以下の懲役又は50万円以下の罰金となります。

このように、特別背任は、取締役などの会社において一定の地位にある人物による背任行為であり、通常の背任行為よりも刑事責任が重いと考えられるため、重い法定刑が定められています。

 

▶参考情報:背任罪については以下の記事で詳しく解説していますのであわせてご参照ください。

背任とは?背任罪の成立要件や横領との違い、どんな行為かをわかりやすく解説

 

(2)業務上横領罪と特別背任罪の違い

次に、特別背任罪と業務上横領罪との違いについてご説明します。

 

1,業務上横領罪とは?

業務上横領罪とは、「業務上自己の占有する他人の物を横領すること」により成立する犯罪です。刑法253条に定められています。

 

▶参考情報:刑法253条

第二百五十三条業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の懲役に処する。

・参照元:「刑法」の条文はこちら

 

業務上横領罪の法定刑は、10年以下の懲役とされています。例えば、顧客から集金した現金を横領したり、会社の経理担当者として管理している銀行預金を横領するといったケースが、業務上横領罪に該当します。

 

2,特別背任と業務上横領の違いとは?

特別背任と業務上横領の違い

特別背任罪と業務上横領罪は、以下の点で異なります。

 

  • 1.規定されている法律
  • 2.行為者
  • 3.行為の内容
  • 4.目的
  • 5.法定刑

 

1.規定されている法律

特別背任罪は、前述のとおり会社法に定められていますが、業務上横領罪は刑法253条に定められています。

 

2.行為者

特別背任罪の行為者は、取締役など会社において一定の地位にある者に限定されています。これに対し、業務上横領罪は「業務として他人の物を預かる者」が行為者です。

 

3.行為の内容

特別背任罪にあたる行為は、任務に背く行為とされており、売上の横流し(自社の売上を自分の経営する他社に付け替えるなど)、会社資金の流用(会社資金を個人的な借金等の返済に流用する)、返済見込みのない他社への会社資金の貸付といった行為が典型例です。

一方で、業務上横領罪における行為の内容は「業務上自己の占有する他人の物を横領すること」です。

 

4.目的のちがい

特別背任罪では、自己若しくは第三者の利益を図り、または会社に損害を加える目的があった場合にのみ成立します。一方で、業務上横領罪では目的の有無は構成要件とされていません。

 

5.法定刑の違い

特別背任罪の法定刑は、以下の通りとなります。

 

●取締役等による特別背任罪(会社法960条)

→10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金、あるいはその両方

 

●代表社債権者等による特別背任罪の場合(会社法961条)

→5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金、あるいはその両方

 

一方で、業務上横領罪の法定刑は10年以下の懲役と定められています(刑法253条)。

 

▶参考情報:業務上横領については、以下の記事で詳しく解説していますので、ご参照ください。

業務上横領とは?わかりやすく徹底解説

 

2,特別背任罪の成立要件

特別背任罪の成立要件は、背任罪と類似していますが、行為者が取締役などに限定されている点で背任罪と異なります。

 

特別背任罪の成立要件

 

以下で4つの構成要件(成立要件)を順番に見ていきましょう。

 

(1)行為者が会社法960条および961条で定められている特別背任罪の対象となる地位についていること

特別背任罪では、対象となる行為者が以下の地位にある人物に限定されています。

 

  • 取締役、監査役
  • 支配人
  • 事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人
  • 発起人
  • 設立時取締役、設立時監査役
  • 会計参与、執行役
  • 検査役
  • 清算株式会社の清算人
  • 代表社債権者

 

このうち、「事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人」は、要するに会社から重要な権限の委任を受けた高い地位にある従業員を指しますが、その具体的な範囲が問題になり得ます。

この点は個別事案ごとの判断になりますが、イトマン事件という有名な事件が参考になります。この事件で、最高裁は、「理事兼企画監理本部長」の地位にあったが、会社との雇用関係はなく、給与等の支払いも受けていなかった人物について、「事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人」にあたると判断し、特別背任罪の成立を肯定しました(最高裁判所決定平成17年10月7日)。

 

 

このように、特別背任罪は、社長や取締役などといった、株式会社において一定の地位にある人物について成立します。

 

(2)自己若しくは第三者の利益を図り又は株式会社に損害を加える目的があったこと

目的が、自己若しくは第三者の利益を得たり、会社に損害を与えることにあることも、特別背任罪の構成要件となります。これを「図利加害目的」といいます。

背任行為をすることについて行為者自身に利益がなくても、他人に利益を与えたり、会社に損害を与えることが目的である場合は、特別背任罪に該当する可能性があります。

 

(3)任務に背く行為をしたこと

任務に背く行為をしたことは、特別背任罪の主要な構成要件です。任務に背く行為のことを「任務違背行為」と言います。

例えば、株式会社の取締役が、自社で受領するべき売上金を自分が経営する別会社に横流しして別会社の売上としたり、自宅の改修費用に会社の資金を流用したりすることなどが、任務違背行為になりうる例として挙げられます。

 

(4)任務に背く行為によって株式会社に財産上の損害を加えたこと

任務違背行為によって実際に会社に損害が発生したことも、特別背任罪の構成要件のひとつです。ただし、財産上の損害がなかった場合であっても、特別背任未遂罪として処罰を受ける可能性があります(会社法962条)。

 

▶参考情報:会社法962条

第九百六十二条 前二条の罪の未遂は、罰する。

・参照元:「会社法」の条文はこちら

 

3,特別背任罪の罰則について

次に、特別背任罪の罰則についてご説明します。

まず、取締役等による特別背任罪の罰則は、10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金、あるいはその両方です(会社法960条)。また、代表社債権者等による特別背任罪の罰則は、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金あるいはその両方となります(会社法961条)。

特別背任罪は、取締役等の一定の地位にある者による任務違背行為であることから、通常の背任罪よりも重い法定刑が定められています。一方で、特別背任罪であっても、必ず実刑判決が下されるというわけではなく、執行猶予がつくケースもあります。

特別背任罪において、実際にどのような刑を科すかは、会社に与えた損害の額やその弁償の有無、犯行の動機や悪質性、任務違背の程度、社会的影響の大きさなどを考慮して判断されます。

 

4,特別背任罪に時効はあるのか?

では、特別背任罪に時効はあるのでしょうか。

時効については、刑事訴訟法によって規定されており、法定刑の重さによって時効の期間が異なります。前述のとおり、取締役による特別背任罪の場合は、法定刑が10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金、あるいはその両方であるため、時効は7年となります。これに対し、代表社債権者等による特別背任罪の場合は、法定刑は5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金、あるいはその両方となるので、時効は5年となります。

 

▶参考情報:刑事訴訟法第250条2項

・・・
②時効は、人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの以外の罪については、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。
一死刑に当たる罪については二十五年
二無期の懲役又は禁錮に当たる罪については十五年
三長期十五年以上の懲役又は禁錮に当たる罪については十年
四長期十五年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については七年
五長期十年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については五年
六長期五年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金に当たる罪については三年
七拘留又は科料に当たる罪については一年・・・

※下線部は筆者による

・参照元:「刑事訴訟法」の条文はこちら

 

5,中小企業の社長や取締役の特別背任の事例とは?判例を解説

次に、中小企業における社長の特別背任の事例や、取締役による特別背任の事例について、裁判例をご紹介します。

 

(1)「自社の売上の付け替え・横流し」の事例

アミューズメント施設の運営をする会社の代表者が、会社において受領すべき施設利用料の一部を自分が経営する別の会社の売上に付け替えて支払いを受けていた事例

 

岐阜地方裁判所判決令和元年5月31日

●事件の概要

アミューズメント施設の運営などを行う会社の代表者が、アミューズメント施設の施設利用料について、自身と共犯者が代表を務める別会社の売上に付け替えて、支払いを受けていた事例です。犯行は3年という長期に渡っており、被害金額は800万円にも上っていました。

 

●裁判所の判断

裁判所は、この代表者に対して、懲役1年6か月、執行猶予3年を言い渡しました。

 

●判決の理由

裁判所は、被害金額は800万円と比較的高額であり、3年余りという長期間に渡り犯行がおこなわれていたものの、すでに被害額が弁償され財産的被害が回復されていること、この代表者も事実を認めていることなどを理由に、執行猶予をつける判断をしています。

 

(2)「会社資金の流用」の事例

産廃業者の取締役が自社の代表取締役と共謀して、会社資金1億9000万円を代表取締役個人の借金返済に充てていた事例です。

 

福島地方裁判所判決平成29年1月31日

●裁判所の判断

裁判所は、この取締役に対して、懲役2年6か月、執行猶予4年を言い渡しました。

 

●判決の理由

会社の被害金額は大きいものの、背任行為によって利益を得たのは代表取締役であり、取締役は直接の利益を得ていないことなどを理由に、執行猶予をつける判断がされました。

 

(3)「返済見込みのない融資先への貸付」の事例

次に、銀行の事案ですが、特別背任についての有名な裁判例をご紹介しておきたいと思います。

銀行の代表取締役頭取等が、実質破綻状態の企業に対して、実質無担保で多額の融資をした事例です。

 

最高裁判所決定平成21年11月9日(拓銀特別背任事件)

●事件の概要

銀行の代表取締役頭取等の3名が、実質破綻状態にある複数の企業に対し、赤字補てん資金などとして実質無担保で融資を行った事件です。

本来銀行は、融資先の返済能力などを調査したうえで融資の判断をする必要があるところ、本件では客観性を持った再建計画もなく、銀行の経営上合理的な理由のない無担保の融資を継続していました。

 

●裁判所の判断

裁判所は、3名に対して懲役2年6か月の実刑判決を下しました。

 

●判決の理由

裁判所は、以下の点を考慮すると、融資の経緯に酌むべき事情はなく、任務違背の程度は大きいと言えるため、刑事責任は重いと判断しました。

 

  • 貸付金の回収に万全の措置を講ずるという、銀行の頭取として最も基本的な義務をないがしろにしたこと
  • ずさんな融資等の発覚などによる経営責任の追及を回避するという自己保身のために、事務方からの当然とも考えられる提案を拒否して、実質無担保の融資を続けたこと
  • 損害額が高額であること

 

一方で、以下の点を酌むことのできる事情と認めました。

 

  • 行為者3名のうち2名については、自身の利益を図ったわけではないこと
  • これまで銀行員及び役員として職務に精励し、銀行および社会に貢献し、熱心に仕事に取り組んできたこと
  • 地域経済にマイナスの結果をもたらしたことについて謝罪していること
  • 前科前歴がないこと
  • 退職金は得ていない事
  • 3名全員が66歳を超えており高齢であること

 

 

6,社内で取締役の背任行為が発覚した場合の対処方法

社内で取締役の背任行為が発覚した場合に企業として必要になる対応は以下の通りです。

 

(1)事実関係の調査と証拠の保全

まずは、行為者に知られない形で、十分な調査を行い、証拠の確保を進めることが大切です。

 

1,特別背任を立証するにはどのような証拠が必要?

もし、社内で取締役による特別背任があった疑いがでてきた場合は、まずは調査を行い、客観的な証拠を確保する必要があります。客観的な証拠を収集する前に、行為者に問いただすなどの先走った対応をしてしまうと、行為者が証拠を隠したり、削除してしまい、背任行為の立証が難しくなってしまう場合もあります。そのような事態を避けるためには、特別背任の疑いが出た際は、早い段階で今後の対応について、専門の弁護士に相談することが大切です。

特別背任の立証にあたって、必要な証拠はケースバイケースですが、まず検討すべき客観的な証拠としては以下のものが考えられます。

 

  • 不正な取引があったことを示す契約書
  • 行為者によるメールやチャットの履歴
  • 行為者のPCの履歴
  • 不正に用いられた領収書や請求書

 

例えば、取締役が取引先から自社に対して水増し請求をさせて、水増し分を自身にキックバックさせているいうような疑惑がある場合は、まずは、取引先との契約書や取引先からの請求書、取引先担当者とのメールのやり取りなどを確認する必要があるでしょう。

 

(2)行為者に対する事情聴取

十分な調査を行い、証拠の確保を終えたら、行為者からの事情聴取を行います。この場面で、行為者である取締役等に背任行為を認めさせて、被害弁償を約束させる書面を取り付けることが重要です。

 

(3)被害回復のための措置

行為者に対する事情聴取を終えた後は、被害弁償の方法について行為者と交渉します。行為者が誠実に被害弁償に応じない場合は、必要に応じて行為者に対して損害賠償請求訴訟を起こすなどの法的措置をとります。

 

(4)取締役の解任

取締役を任期中に解任する場合、その取締役は、解任に正当な理由がある場合を除き、会社に対して損害賠償の請求ができます(会社法339条2項)。背任行為による解任は正当な理由があるといえるでしょう。そのため、取締役自身が、特別背任にあたる行為を認めている場合は、損害賠償の問題は生じないことが通常です。

一方で、取締役が背任行為を認めておらず、背任行為の有無について会社と取締役の主張が食い違っている場合は、解任をすると、解任された取締役から正当な理由のない解任であるとして損害賠償を請求されるリスクを伴います。そのため、そのような場面では解任するのではなく、本人の意思で辞任させることが安全です。

ただし、外部の第三者や株主への説明、あるいは社内への説明のために、辞任ではなく、解任という手段をとることが必要な場合もあります。その場合は、解任について損害賠償を請求されるリスクがあることを踏まえて、解任の理由となる背任行為について十分な証拠を確保しておくことが適切です。

 

▶参考情報:取締役の解任については以下で解説していますので、あわせてご参照ください。

取締役(役員)解任の方法は?具体的な手続きと損害賠償リスクなどを解説

 

(5)行為者の刑事告訴、取引先への対応等

さらに、必要に応じて、行為者について、刑事告訴等を行います。また、背任行為に加担した取引先がある場合は、その取引先との契約の解除や取引先に対する損害賠償請求を検討します。

 

(6)社内・社外への説明と再発防止

背任行為について、社内での説明や株主への説明が必要になることがあります。また、必要に応じて外部への情報開示、プレスリリース、監督官庁への報告を行います。そのうえで、再発防止策を検討し、実施することが必要になります。

 

▶参考情報:社内で取締役や役員による背任行為が発覚した場合の具体的な対応方法については、以下の記事で詳しく解説していますので、こちらをご覧ください

取締役や役員による背任行為が発覚した場合の対応手順と注意点

 

7,取締役などの特別背任行為に関して弁護士に相談したい方はこちら

取締役などの特別背任行為に関して弁護士に相談したい方はこちら

取締役や重要な地位にある従業員の背任行為は、企業経営にかかわる重大な問題です。咲くやこの花法律事務所では、取締役等の背任行為により被害を受けた場合の損害賠償請求、解雇や解任、刑事告訴等について企業からのご相談をお受けしています。以下で、背任行為の被害回復等に関する咲くやこの花法律事務所のサポート内容をご紹介いたします。

 

(1)特別背任に関するご相談

特別背任は、企業内においても影響力の大きい人物による背任行為であり、慎重に調査を進める必要があります。十分な調査を経ずに焦って本人に問いただしたり、間違った方法で調査をすすめてしまったりすると、最悪の場合本人に証拠を隠滅されて、背任行為の真相把握や責任追及ができなくなるおそれがあります。

咲くやこの花法律事務所では、取締役や従業員の背任行為があった場合に必要となる企業側の対応について、専門的かつ具体的なサポートを提供しています。これまでの事務所の経験をふまえて、特別背任行為による被害の回復に精通した弁護士がご相談をお受けし、早期の被害回復、社内の正常化を実現します。「特別背任の確証はないが疑いがある」といった場合や、「特別背任にあたるのか分からない」といった場合でも、気軽にご相談ください。

 

●咲くやこの花法律事務所の弁護士へのご相談料

初回相談料:30分5000円+税(顧問契約締結の場合は無料)

 

(2)特別背任の告訴に関するご相談

咲くやこの花法律事務所では、特別背任についての告訴のご依頼もお受けしております。

告訴のためには、十分な証拠を集めたうえで、経緯などについて詳しく記載した告訴状を提出する必要があります。また、提出後も、警察が動いてくれない場合は、対応を督促したり、進捗状況を確認したりする必要が生じます。専門家である弁護士に任せることで、しっかりと告訴の手続きを進めることができます。

 

●咲くやこの花法律事務所の弁護士へのご相談料

初回相談料:30分5000円+税(顧問契約締結の場合は無料)

 

(3)顧問弁護士によるサポート

日頃から顧問弁護士によるサポートを受けることで、以下のメリットがあります。

 

  • 特別背任などの、社内における不正行為が起こりにくい体制づくりを進めることができる
  • 不正行為の確証がない段階でも、ためらうことなく相談できる
  • 特別背任などの、社内における不正行為が起こった場合も、自社の内情に詳しい顧問弁護士に予約なしですぐに相談できる

 

咲くやこの花法律事務所では、月額3万円のプランから月額15万円のプランまで様々な顧問契約のプランをご用意しており、ご相談の会社に一番合ったプランをご提案させていただきます。顧問契約をご検討中の方には、弁護士による面談を無料で実施しています。対面、電話、zoom等、ご希望の方法で弁護士が面談を行い、顧問契約によるサポート内容を具体的にご説明します。気軽にお問い合わせください。

咲くやこの花法律事務所の顧問弁護士サービスについて、詳しくは以下をご参照ください。

 

 

(4)「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法

弁護士の相談を予約したい方は、以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。

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8,まとめ

この記事では、特別背任について詳しくご説明しました。

特別背任罪は、株式会社の取締役や監査役などが、自己若しくは第三者の利益を図り又は会社に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、それによって会社に財産上の損害を加えた場合に成立する犯罪です。

会社法に定めがあり、その構成要件は以下の通りです。

 

  • (1)行為者が、株式会社の取締役、監査役など、会社法960条および961条で定められている特別背任罪の対象となる地位についていること
  • (2)自己若しくは第三者の利益を図り又は株式会社に損害を加える目的があったこと
  • (3)任務に背く行為をしたこと
  • (4)任務に背く行為によって株式会社に財産上の損害を加えたこと

 

取締役等による特別背任罪の法定刑は、10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金、あるいはその両方です。一方、代表社債権者等による特別背任罪の場合は、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金あるいはその両方が法定刑となります(会社法961条)。

社内で特別背任が疑われるような場合は、証拠の収集や関係者への聞き取りなどから、迅速かつ慎重に、正しい方法で対応していく必要があります。社内で特別背任の疑いが生じた場合の対応については、咲くやこの花法律事務所でも専門的かつ具体的なサポートを提供していますので、お困りの際は早めにご相談ください。

 

記事作成弁護士:西川 暢春
記事更新日:2024年12月3日

 

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    小田 学洋 弁護士
    小田 学洋(おだ たかひろ)
    大阪弁護士会/広島大学工学部工学研究科
    池内 康裕 弁護士
    池内 康裕(いけうち やすひろ)
    大阪弁護士会/大阪府立大学総合科学部
    片山 琢也 弁護士
    片山 琢也(かたやま たくや)
    大阪弁護士会/京都大学法学部
    堀野 健一 弁護士
    堀野 健一(ほりの けんいち)
    大阪弁護士会/大阪大学
    所属弁護士のご紹介

    書籍出版情報


    労使トラブル円満解決のための就業規則・関連書式 作成ハンドブック

    著者:弁護士 西川 暢春
    発売日:2023年11月19日
    出版社:株式会社日本法令
    ページ数:1280ページ
    価格:9,680円


    「問題社員トラブル円満解決の実践的手法」〜訴訟発展リスクを9割減らせる退職勧奨の進め方

    著者:弁護士 西川 暢春
    発売日:2021年10月19日
    出版社:株式会社日本法令
    ページ数:416ページ
    価格:3,080円


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