意匠権侵害のトラブルで悩んでいませんか?
実際のトラブルの場面で「意匠権の侵害にあたるか」や、「侵害に当たった場合にどうなるか」についてはなかなか判断がつきにくいのではないかと思います。
しかし、意匠権の侵害にあたるかどうかの判断があいまいなまま、新商品、新製品を発売してしまうと、後日、他社に意匠権侵害を指摘され、自社商品の製造中止、販売中止を余儀なくされたり、意匠権侵害について多額の賠償をしなければならなくなる危険があります。
今回は、意匠権侵害トラブルについて、侵害したらどうなるかや、侵害に当たるかどうかの判断基準を具体的な事例をもとに解説します。また、意匠権侵害トラブルに関する交渉や訴訟でのポイントもご説明しています。
それではさっそく見ていきましょう。
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▼意匠権侵害について今スグ相談したい方は、以下よりお気軽にお問い合わせ下さい。
今回の記事で書かれている要点(目次)
1,意匠権侵害とは?
意匠権とは、デザインの使用についての独占権です。意匠権は「特許庁」への出願手続をして登録された場合に発生します。
意匠権侵害とは、この独占権を無視して、意匠権者に無断で、意匠登録されたデザインと同じデザインあるいは類似のデザインの商品を販売したり、輸出したり、レンタルする行為をいいます。意匠権侵害行為は「意匠法」という法律で禁止されており、損害賠償請求や差し止め請求の対象となります。
意匠権は例えば以下のようなありとあらゆる商品のデザインについて取得されています。
(1)意匠権が取得されている商品、製品の例
●日用品:
文房具類、枕、物干しざお、体重計、おもちゃ、調理用品、はぶらし
●住宅関連:
テーブル、机、椅子、照明器具、システムキッチン、浴槽、棚
●衣服類:
衣服、かばん、靴、マフラー、ペット用衣服、アクセサリー、メガネ、布地
●部品関係:
機械部品、ねじ、バルブ類
●機械関係:
携帯電話、デジタル家電、農機具、工作機械、車両、自転車、時計
●容器類:
ペットボトル、包装用容器、スマートフォン用ケース、シャンプー容器、化粧品容器
そのため、新商品、新製品を販売する場合は、同業他社の意匠権を侵害しないかどうかに注意する必要があります。
2,意匠権を侵害したらどうなるか?
では、「意匠権を侵害したらどうなるか?」について説明します。
意匠権を侵害した場合、意匠権者は侵害者に対して、差止請求や損害賠償請求をすることができます。
具体的な内容は以下の通りです。
(1)差し止め請求
意匠権侵害があった場合、意匠権者は侵害者に対して、意匠権侵害行為をやめるように請求することができます。具体的には、意匠権を侵害している製品の製造・販売を禁止し、すでにある在庫を廃棄することを請求することができます。
(2)損害賠償請求
意匠権侵害があった場合、意匠権者は、侵害者に対して損害賠償の請求をすることができます。具体的には、意匠権を侵害して製造された侵害者の競合製品により市場シェアを奪われたことにより、本来得られたはずの利益を得られなかった場合、それによる損害を賠償請求することが可能です。
(3)意匠権侵害の場合の刑罰
意匠権侵害は犯罪にも該当し、10年以下の懲役または1000万円以下の罰金、あるいはその両方が科されます。
3,事例で解説!意匠権侵害にあたるかどうかの判断基準
次に「意匠権侵害にあたるかどうかの判断基準」について事例をもとに解説します。
意匠登録されたデザインと同じデザインだけではなく、類似のデザインを使用する場合も意匠権侵害に当たります。
では、どの程度似ていれば意匠権侵害にあたるのでしょうか?
以下では、裁判で意匠権侵害にあたるとされた事例と、あたらないとされた事例をご紹介します。
(1)意匠権侵害にあたるとされた訴訟事例
裁判所が意匠権侵害にあたると判断した事例としてご紹介したいのが、 「オムロンヘルスケア」と「タニタの体重計」のデザインをめぐる訴訟事例(平成27年2月26日 東京地方裁判所判決)です。
1,「オムロンヘルスケア」と「タニタの体重計」のデザインをめぐる訴訟事例(平成27年2月26日 東京地方裁判所判決)
この事例では、自社の体重計のデザインについて意匠登録していたオムロンヘルスケアが、タニタによる類似品の販売が意匠権侵害にあたるとして損害賠償などを請求したケースです。
オムロンヘルスケア(原告側)が意匠権を登録していたデザインがこちらです。
●オムロンヘルスケアの体重計
それに対して、タニタが販売していた競合製品がこちらです。
●タニタの体重計
この事例で裁判所は意匠権侵害を認めて、タニタに対して、「約1億3000万円」という巨額の損害賠償を命じました。
裁判所は、意匠権を侵害しているとする理由として以下の点を指摘しています。
理由1:
商品の縦横比の違いについて
商品の縦横比が異なっている(オムロンヘルスケアの意匠が「約1:1.4」であるのに対し、タニタの商品のデザインが「約1:1.43」)ものの、その差異は極めて小さく、いずれも見る人に横長長方形であるという印象を与えるデザインであること。
理由2:
液晶表示窓の周りの縁取りの有無について
被告側のタニタのデザインは液晶部分の周囲にある縁取模様があり、この点でオムロンヘルスケアの意匠と違いがあるが、液晶表示窓の大きさと比較してさほど大きいものではなく、目立つ色彩でもないこと。
理由3:
電極部分の形状やスイッチの個数について
電極部分の幅と長さの比やスイッチの個数にも違いがあるが、いずれも商品全体の透明ガラス板の形状がほぼ同じであることから両製品を見たときに感じる共通点と比較すると、重要な違いとは言えないこと。
以上の点を指摘して裁判所は、被告のデザインは意匠登録されたデザインと類似しており、意匠権侵害にあたると判断しました。
(2)意匠権侵害にあたらないとされた訴訟事例
一方、裁判所が意匠権侵害にあたらないと判断した事例が、「 美容用シートマスク」に関する意匠権侵害の訴訟事例(平成29年2月7日大阪地方裁判所判決)です。
1,「 美容用シートマスク」に関する意匠権侵害の訴訟事例(平成29年2月7日大阪地方裁判所判決)
この事例は、美容用シートマスクについて意匠権を登録して販売している会社が、競合他社の製品を類似品であるとして意匠権侵害で訴えたケースです。
意匠権を登録して販売している会社(原告側)が意匠登録していたデザインはこちらです。
●意匠権が登録されていたデザイン
それに対して、競合他社(被告側)が販売していた製品がこちらです。
●競合他社が販売していた製品のデザイン
裁判所は、この事例で、競合他社として訴えられた被告側のデザインは、原告側が登録した意匠に類似しておらず、意匠権侵害にはあたらないと判断しました。
裁判所が意匠権侵害にあたらないと判断した理由は以下の通りです。
理由1:
鼻筋の形状の違い
被告側は鼻筋に折込線があり明瞭なのに対し、登録された意匠は鼻筋が不明瞭という違いがある。
理由2:
目や口の形状の違い
被告側は両目の両端や口の下側がとがっているのに対し、原告側は両目や口は単純な楕円形であるという違いがある。
理由3:
全体的な印象の違い
全体的な印象としても、被告側は鼻筋の通った引き締まった顔立ちの印象であるのに対し、原告側はのっぺりとした印象を与える。
以上の点を指摘して裁判所は、被告のデザインは意匠登録されたデザインと類似しておらず、意匠権侵害にあたらないと判断しました。
4,意匠権侵害トラブルに関する交渉や訴訟でのポイント
次に、「意匠権侵害トラブルに関する交渉や訴訟で、判断をわけるのはどんな所がポイントになるのか」についてご説明します。
意匠権侵害に関する交渉や訴訟では、「デザインの主要部分が共通しているかどうか」が判断の分かれ目になります。この「デザインの主要部分」とは、消費者の最も注意をひく部分です。
参考情報1:
体重計の事例
体重計の事例では、隅が丸くなった横長四角形の透明ガラス板に4つの縦長の電極を配置したデザインや、液晶表示窓の位置や形状、スイッチの位置などが、消費者の最も注意をひくデザインの主要部分であると判断されました。
そのうえで、このデザインの主要部分が被告側デザインにおいても共通していたことから、他の部分のデザインの差があるとしても、意匠権侵害にあたると判断されました。
参考情報2:
美容用シートマスクの事例
これに対して、美容用シートマスクの事例では、製品の性質上、目や口、耳の部分に穴が開いているのは当然のことであることから、この点はデザインの主要部分とはいえないと判断されました。
そのうえで、マスクにおいて消費者の最も注意をひく部分は、マスクをつけたときの使い勝手に影響する目,鼻及び口の部分の形などであり、この点がデザインの主要部分であると判断されました。
その結果、目や鼻、口の部分の形が違っていることを理由に意匠権侵害にあたらないと判断されています。
このような裁判事例の傾向を踏まえると、意匠権侵害に関する交渉や訴訟にあたっては、以下の点がポイントになります。
(1)自社が訴える側の場合のポイント
自社が、他社による意匠権侵害を主張して損害賠償請求するような場面では、他社の模倣品と自社が登録した意匠の共通点に当たる部分が「デザインの主要部分」であり、消費者の最も目を引く部分であることを主張していく必要があります。
(2)自社が訴えられた側の場合のポイント
自社が他社から意匠権侵害であると主張され反論する場面では、自社製品のデザインと意匠権者が意匠登録したデザインの共通部分は、製品の性質上当然共通になる部分であり、「デザインの主要部分にはあたらない」と主張していくことがポイントになります。
そのうえで、消費者の最も目を引く部分のデザインには違いがあることを主張していく必要があります。
5,咲くやこの花法律事務所なら「こんなサポートが可能です!」
ここまで意匠権侵害の内容や判断基準、交渉や訴訟でのポイントについてご説明してきました。
体重計の事例と、美容用シートマスクの事例をとりあげましたが、そのほかにも、特に製造業やアパレル関連、日用品関連などの業種では意匠権トラブルが発生しやすいので要注意です。
最後に咲くやこの花法律事務所における意匠権侵害トラブルに関するサポート内容をご紹介したいと思います。
咲くやこの花法律事務所におけるサポート内容は以下の通りです。
(1)意匠権を他社に侵害された場合の損害賠償等の請求
自社が登録されている意匠権を侵害された場合、相手方に対して類似品の販売や差止の請求をすることができます。
ただし、意匠権を侵害しているかどうかの判断は、今回の記事からもわかるように、微妙な難しい判断になることも多くあります。
咲くやこの花法律事務所では、意匠権侵害の有無を弁護士が判断し、それをもとに依頼者にとってベストな主張内容を構成して相手方に対する請求や裁判にあたり、依頼者に最大限有利な内容での解決を実現します。
(2)他社から意匠権侵害であると主張され反論する場合の対応
咲くやこの花法律事務所では、他社から意匠権侵害であると主張されて、内容証明などで警告された時の対応についてもご相談をお受けしています。
体重計の事例で「約1億3000万円」の賠償が命じられていることからもわかるとおり、意匠権の事件で裁判になり敗訴すると多額の賠償責任を負うケースがあります。
訴訟前の段階でご相談いただき、咲くやこの花法律事務所の弁護士が意匠権侵害に該当するかどうかを客観的に判断したうえで相手方との交渉を行うことによって、依頼者にとってベストな解決が可能です。
意匠権侵害トラブルでお困りの際は、気軽に咲くやこの花法律事務所にご相談ください。
6,「咲くやこの花法律事務所」の弁護士へのお問い合わせ方法
お問い合わせは以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
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8,【関連情報】意匠権侵害に関する知的財産関連のお役立ち情報
今回の記事では、「意匠権侵害したらどうなる?交渉や裁判のポイントを弁護士が解説」というテーマについて、交渉や訴訟でのポイントを事例を用いてご説明しました。
このような意匠権のトラブルが発生するビジネスに関しては、その他の知的財産権に関連するトラブルとも隣り合わせになっていることが多いです。
そのため、以下では意匠権のその他のお役立ち情報と、また著作権や商標権など合わせて確認しておくべき知的財産権に関するお役立ち情報もまとめておきますので、合わせてご覧下さい。
(1)商標権について
(2)著作権について
▶著作権侵害とは?事例や罰則、成立要件などをわかりやすく解説
▶記事原稿や画像の無断転載、著作権侵害の損害賠償額の目安と交渉ポイント
▶システム開発やWebサイト(ホームページ)制作を外注する際の著作権の重要ポイント
▶ネットの画像や原稿を引用する場合の方法とルール!著作権に注意
記事作成弁護士:西川 暢春
記事更新日:2023年12月8日