ECサイト・WEBメディア・ブログの運営者から、「他社の著作権を侵害してしまい、損害賠償請求を求める書面が届いた」という弁護士へのご相談が急増しています。この中には、法律上賠償しなければならない金額を超えて多額の賠償請求を求めているケースも多くあります。
実際の裁判例でも、たとえば、「ヨミウリ・オンライン事件」は、読売新聞社が自社が運営するWEBサイトの著作権が侵害されたとして他社に対して「6825万円」の損害賠償をしたケースですが、裁判所が認めた賠償額は「23万7741円」に過ぎませんでした。
裁判例:
ヨミウリ・オンライン事件(東京地方裁判所平成16年3月24日判決・知的財産高等裁判所平成17年10月6日判決)
- 請求額:6825万円
- 裁判所の賠償命令:23万7741円
このように請求額と裁判所が認める金額に大きな開きが出るケースがあります。そのため、著作権を侵害してしまって自社に落ち度がある場合でも、相手からの損害賠償請求額をうのみにせず、交渉することが非常に重要です。
今回は、記事原稿や画像の無断転載をしてしまった場合の、著作権侵害の損害賠償額の目安と交渉のポイントをご説明したいと思います。
▶参考情報:なお、著作権侵害とは?基本的な知識から知りたい方については、以下の記事で詳しく解説していますのでこちらを事前にご覧ください。
▶参考情報:著作権分野に関する咲くやこの花法律事務所の解決実績は、こちらをご覧ください。
▼【関連動画】西川弁護士が「どこまで似てると著作権侵害?」イラストや画像など事例をもとに弁護士が詳しく解説中!
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今回の記事で書かれている要点(目次)
1,記事原稿や画像の無断転載をしてしまった場合の著作権侵害の損害賠償額の目安
まずは、過去の裁判例から、記事原稿や画像の無断転載でどのくらいの損害賠償が命じられているのか、損害賠償額の目安を見ていきましょう。
(1)過去の裁判例と損害賠償額の目安について
裁判例1:資産運用ブログ転載事件(東京地方裁判所平成27年4月24日判決)
- 請求額:297万円
- 裁判所の賠償命令額:100万円
この事件は、投資に関する情報提供サービスなどを行う会社が、他社の資産運用に関するブログを無断転載したというケースです。裁判所はブログ転載による著作権侵害について、100万円の損害賠償の支払いを命じました。
裁判例2:ハワイアン・アート・ネットワーク事件(東京地方裁判所平成24年12月21日判決)
- 請求額:約74万円
- 裁判所の賠償命令額:約15万円
この事件は、旅行業者が自社のブログに職業写真家が撮影したハワイの写真を無断転載したというケースです。裁判所は写真の無断転載による著作権侵害について、約15万円の損害賠償の支払いを命じました。
裁判例3:ヨミウリ・オンライン事件(東京地方裁判所平成16年3月24日判決・知的財産高等裁判所平成17年10月6日判決)
- 請求額:6825万円
- 裁判所の賠償命令額:23万7741円
この事件は、デジタルコンテンツの企画・制作などを事業とする会社が、読売新聞社の開設するニュースサイトのニュースの見出しを無断転載したというケースです。裁判所は、ニュース見出しの無断転載について、23万7741円の損害賠償の支払いを命じました。
これらの事例から、裁判所では請求額よりかなり減額された額の賠償命令となっているケースも多いことがわかります。ブログや画像の無断転載の事例では、およその目安として、損害賠償額は「100万円」程度までにおさまるケースが多いということが言えるでしょう。
2,著作権侵害の損害賠償額の減額交渉の3つのポイント
では、次に、原稿記事や画像の無断転載をしてしまい、他社から著作権侵害による損害賠償請求を受けた場合の、損害賠償額の減額交渉のポイントをご説明します。交渉のポイントは、ケースによりさまざまあるのですが、ここでは、以下の3つのポイントをご紹介したいと思います。
- ポイント1:著作物性に関する交渉のポイント
- ポイント2:損害の発生の有無に関する交渉のポイント
- ポイント3:過失の有無に関する交渉のポイント
以下で順番に見ていきましょう。
ポイント1:
著作物性に関する交渉のポイント
著作権侵害の損害賠償額の減額交渉の3つのポイントのうち1つ目のポイントは、「著作物性に関する交渉のポイント」です。
「著作物性に関する交渉のポイント」としておさえておきたいのは、「無断転載した原稿記事や画像に著作物性が認められなければ、著作権侵害は成立しない」という点です。
まずは、「著作物性」とは何かというところから見ていきましょう。
解説1:「著作物性」とは何か?
「著作物性」とは、表現物に著作権が認められるためには、「思想又は感情を創作的に表現したもの」であることが必要であるというルールです。
「創作的に表現した」といえるためには、画期的なものである必要はないが、作者の個性があらわれていることが必要とされています。つまり、個性のないありふれた表現には、著作物性が認められません。そして、著作物性がないテキストや画像は誰でも自由に使用できるのが原則です。
無断転載した原稿記事や画像に「著作物性」が認められない場合は、著作権侵害は成立しません。
では、裁判所では、「著作物性についてどのような判断がされているのでしょうか?」という点の事例をみていきましょう。
解説2:著作物性が問題となった事例
「事例3」の「ヨミウリ・オンライン事件」は、著作物性が問題になった事例の1つです。
この事件では、「無断転載されたニュース見出しに著作物性があるかどうか」が問題になりました。たとえば、無断転載されたニュース見出しの1つとして以下のようなニュース見出しがありました。
これは交通事故に関するニュースの見出しです。読売新聞社は、このようなニュース見出しにも著作物性があると主張しました。しかし、裁判所は、「特段の創作性が認められず、著作物性は認められない」と判断して著作権侵害にはあたらないと判断しています。
このように、転載した部分について、ありふれた表現にすぎず、特段の個性がないときは、著作物性が認められない結果、著作権侵害が否定されることがあります。そのため、転載した部分について、オリジナリティが低いというときは、「著作物性が認められないから、著作権侵害は成立しない」と主張して、賠償額の支払いを拒否したり、減額の交渉をすることができます。
まずは、この「著作物性に関する交渉のポイント」をおさえておきましょう。
ポイント2:
損害の発生の有無に関する交渉のポイント
著作権侵害の損害賠償額の減額交渉の3つのポイントのうち2つ目のポイントは、「損害の発生の有無に関する交渉のポイント」です。
「損害の発生の有無に関する交渉のポイント」としておさえておきたいのは、「著作権を侵害したとしても、損害が発生していなければ損害賠償請求はできない」という点です。
これについても、「事例3」の「ヨミウリ・オンライン事件」が参考になります。
この事件で読売新聞社が控訴審(第2審)で請求した損害賠償額のうち1000万円は、「報道機関としての社会的信用が害されたことによる損害」として請求されたものでした。しかし、裁判所は、読売新聞社が主張するような「報道機関としての社会的信用が害されたことによる損害」が実際に発生したとは認められないとして、この損害賠償を認めませんでした。
この事件で、読売新聞社は、ニュースサイトの見出しの使用を有料で認めるサービスを他社に提供していました。そこで、この判決は、無断転載した会社が読売新聞社に本来支払うべきだった使用許諾料を参考に損害賠償額を計算し、「23万7741円」のみを賠償額として認めました。
この事例からもわかるように、「損害が発生していなければ損害賠償請求はできない」というルールがあります。他社の著作権を侵害してしまい、多額の請求を受けたときは、まず、「そのような金額の損害が実際に発生したのか」を考えてみることが必要です。そして、請求額が実際に発生した損害よりも多額のときは、賠償額を実際に発生した損害まで減額するように交渉することを検討しましょう。
ポイント3:
過失の有無に関する交渉のポイント
著作権侵害の損害賠償額の減額交渉の3つのポイントのうち3つ目のポイントは、「過失の有無に関する交渉のポイント」です。
「過失の有無に関する交渉のポイント」としておさえておきたいのは、「著作権を侵害したとしても、侵害したことについて故意も過失もない場合は、損害賠償請求はできない」という点です。
たとえば、他社に著作権がある原稿記事や画像を無断転載してしまった場合でも、その無断転載が自社ではなく、自社がWebサイトやコンテンツ制作を委託したWeb制作会社が行ったものであるケースがあります。このように、Web制作会社が無断転載したというケースで、自社は無断転載を知らなかったという場合は、「自社は無断転載について過失がないため損害賠償義務を負わない」という主張を検討することが可能です。
この点について、参考になる判例が、「セキスイハイム事件」という裁判例です。これは、ネット上の無断転載の事例ではありませんが、「著作権を侵害したとしても、侵害したことについて故意も過失もない場合は、損害賠償請求はできない」ことを判断した事例として参考になるものですので簡単にご紹介します。
1,セキスイハイム事件(大阪地方裁判所平成7年1月7日判決)
●事件の概要:
この事件は、ハウスメーカーのセキスイハイムの新聞広告が問題となった事件です。
この事件で、セキスイハイムは広告制作会社から広告用写真のフィルムを借り受けて新聞広告に使用しましたが、この広告制作会社は写真を撮影した写真家から写真の使用の許諾を受けていませんでした。
そのため、写真家がセキスイハイムに対し、著作権侵害について1000万円の損害賠償を求めました。
●裁判所の判断:
裁判所は、セキスイハイムの新聞広告は写真家の著作権を侵害しているが、セキスイハイムは著作権侵害について過失がなかったとして、セキスイハイムに損害賠償の義務はないと判断しました。
裁判所は、判断の理由として、「セキスイハイムは広告を制作することを事業とする会社ではなく、このような会社が広告制作会社から写真を借り受けたときは、逐一、広告制作会社に対して、写真の使用のために別途第三者に許諾が必要か否かを調査確認するまでの注意義務はない」と述べています。
このセキスイハイム事件の理論は、原稿記事や画像の無断転載のケースにもあてはまります。ブログや画像の無断転載が自社ではなく、制作会社によって行われたケースで、自社は無断転載を知らなかったという場合は、自社には過失がないことを主張して損害賠償の義務を負わない旨の交渉を行うことを検討しましょう。
ただし、過失がなかったとしても、著作権侵害の指摘を受けた時点で、無断転載した原稿記事や画像は直ちに削除することが必要ですので、この点はすみやかに対応しましょう。
3,咲くやこの花法律事務所の著作権分野の解決実績
咲くやこの花法律事務所では、著作権、著作者人格権の分野について、企業のご相談者から多くのご依頼をいただき、解決を実現してきました。
以下で、咲くやこの花法律事務所の実績の1つをご紹介していますのでご参照ください。
4,無断転載などの著作権侵害に関して弁護士に相談したい方はこちら
咲くやこの花法律事務所でも、他人の記事原稿や画像の転載での著作権トラブルの弁護士への相談が急増しており、早めの対策が重要となります。
著作権侵害トラブルについての咲くやこの花法律事務所のサポート内容は以下の通りです。
(1)著作権侵害トラブルについての咲くやこの花法律事務所のサポート内容
1,相談
咲くやこの花法律事務所では、著作権侵害に関する削除請求や損害賠償請求を受けた企業からのご相談を常時承っています。まずは、著作権トラブルに精通した弁護士に相談することにより、解決までの道筋を確認することができます。
2,交渉
咲くやこの花法律事務所では、著作権トラブルについて、相手方との交渉のご依頼も多数いただいています。弁護士が相手方と交渉することにより、著作権トラブルを早期に、かつ自社に有利に解決することができます。
3,裁判
万が一、著作権トラブルが裁判に発展した場合も、咲くやこの花法律事務所の著作権に強い弁護士が、全力で、依頼者の利益を守り、依頼者に有利な解決を実現します。
少しでも不安や対策にお困りの事がありましたら早めに「咲くやこの花法律事務所」の弁護士までご相談下さい。
また、著作権に関連することについては、著作権侵害のトラブルが発生しがちです。これらトラブルを事前に防ぐための対策はもちろんですが、トラブルが発生した際にも問題をこじらせずに早期に解決し、安定した業務進行のためには、顧問弁護士制度を活用することも有効です。
咲くやこの花法律事務所には、著作権侵害トラブルの相談実績が豊富な弁護士による顧問弁護士サービスもございます。以下も参考にご覧下さい。
▶【全国対応可】顧問弁護士サービス内容・顧問料・実績について詳しくはこちら
▶大阪で実績豊富な顧問弁護士サービス(法律顧問の顧問契約)をお探しの企業様はこちら
また顧問弁護士に関する必要性や役割、顧問料の相場などについて知りたい方は以下の記事を参考にご覧ください。
(2)「咲くやこの花法律事務所」の弁護士へのお問い合わせ方法
咲くやこの花法律事務所の著作権に強い弁護士による著作権譲渡契約書に関するサポート内容は、「著作権侵害に強い弁護士への相談サービス」のページをご覧下さい。
また、今すぐのお問い合わせは以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
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6,まとめ
今回は、「記事原稿や画像の無断転載、著作権侵害の損害賠償額の目安と交渉のポイント」として、まず原稿記事や画像の無断転載のケースの損害賠償額の目安について、3つの裁判例をご紹介してご説明しました。
そのうえで、損害賠償額の減額交渉のポイントとして、以下の3つのポイントをご説明しました。
- ポイント1:著作物性に関する交渉のポイント
- ポイント2:損害の発生の有無に関する交渉のポイント
- ポイント3:過失の有無に関する交渉のポイント
冒頭でもご紹介したように、著作権侵害の事例では多額の損害賠償の請求を受けるケースがありますが、必ずしも法的に妥当な額とはいえず、著作権に精通した弁護士が交渉すれば相当程度減額できるものが多くあります。
もちろん、他人の記事原稿や画像を無断転載することは許されません。しかし、だからといって、法外な損害賠償を支払う必要はありません。万が一、他人の記事原稿や画像の転載で損害賠償の請求を受けたときは、請求額をうのみにせず、必ず著作権に強い弁護士に相談するようにしましょう。
また合わせて参考として、「ネット上の素材サイトにある画像のダウンロード」なども著作権の注意も必要ですので、予め「ホームページ制作で素材サイトのフリー素材を使う際の著作権上の注意点」を読んでおきましょう。
なお、今回の記事は「2016年3月現在の法律、判例の状況」をもとに記載しました。損害賠償額の算定については法改正が議論されている分野でもあり、今後の法改正の動向にも注意が必要です。
7,【関連情報】著作権侵害に関するその他のお役立ち記事一覧
今回の記事では、「記事原稿や画像の無断転載など著作権侵害の損害賠償額」についてご説明しました。
著作権に関しては、今回ご紹介したように正しい知識を理解しておかなければならず、判断を誤ると重大な著作権侵害トラブルに発展したりなど、大きなトラブルにつながる可能性もあります。
著作権に関しては、以下にお役立ち情報をまとめておきますので、合わせてご覧下さい。
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記事作成弁護士:西川 暢春
記事更新日:2023年10月17日