実は怖い解雇トラブル!能力不足の従業員を解雇する前に必ず確認しておきたい5つのポイント

能力不足の従業員を解雇する前、不当解雇のリスク対策として、最低限確認しておきたい5つのポイント

従業員を雇用している会社では、どの会社でも発生する可能性がある「解雇トラブル」。

独立行政法人労働政策研究・研修機構が平成24年10月に行ったアンケート調査では、従業員に対する普通解雇を実施した企業のうち28パーセントが、「仕事に必要な能力の欠如」を解雇の理由にあげています。

しかし、能力不足を理由とする解雇は、従業員との裁判トラブルに発展するリスクがあり、しかも、裁判所が不当解雇と判断すれば、企業は多額の支払い命令を受けるリスクがあります。
たとえば、以下のような事例があります。

不当解雇と判断された判例

事例1:
松筒自動車学校事件判決 

自動車教習所の運営会社による事務員の解雇を不当解雇と判断し、「332万円」の支払いを命令

事例2:
ミリオン運輸事件判決

運送会社によるトラックドライバーの解雇を不当解雇と判断し、「約1180万円」の支払いを命令

事例3:
森下仁丹事件

医療品等の製造販売会社による販売職従業員の解雇を不当解雇と判断し、「約600万円」の支払いを命令

この3つは能力不足を理由とする従業員解雇の事例ですが、いずれも企業に多額の支払いが命じられています。高額の支払いを命じる判決が出るのは、裁判所が不当解雇と判断すると、企業が従業員を解雇した時点にさかのぼってその従業員の給与の支払いを命じるためです。

しかし、このようなリスクを踏まえても、会社経営者として従業員を解雇しなければならない場面もあるでしょう。そこで、今回は、企業が能力不足の従業員を解雇する前にリスク対策として、最低限、確認しておきたい5つのポイントについてご説明したいと思います。

 

今回の記事で書かれている要点(目次)

●必ずチェック!能力不足の従業員を解雇する前に確認しておきたい5つのポイントとは?
●ポイント1:解雇の理由とした従業員のミスが本人のものであることを立証できるか
●ポイント2:「従業員の能力不足は会社の教育不足が原因である」と判断されるリスクはないか
●ポイント3:「待遇改善の要望や労働組合への加入を理由に解雇した」と判断されるリスクはないか
●ポイント4:「解雇が性急すぎる」と判断されるリスクがないか
●ポイント5:「解雇の前に配置転換すべきだった」と判断されるリスクがないか

 

必ずチェック!
能力不足の従業員を解雇する前に確認しておきたい5つのポイントとは?

冒頭で述べたとおり、企業が解雇トラブルで敗訴した場合は、「不当解雇」と判断され多額の支払いを命じられる危険があります。

そのため、能力不足の従業員を解雇しなければならない場合は、不当解雇と判断されて敗訴するリスクがないかを事前に十分検討することがとても重要なポイントです。
最低限、以下の5つのポイントを必ずチェックしておきましょう。

能力不足の従業員を解雇する前に確認しておきたい5つのポイント

ポイント1:
解雇の理由とした従業員のミスが本人のものであることを立証できるか

ポイント2:
「従業員の能力不足は会社の教育不足が原因である」と判断されるリスクはないか

ポイント3:
「待遇改善の要望や労働組合への加入を理由に解雇した」と判断されるリスクはないか

ポイント4:
「解雇が性急すぎる」と判断されるリスクがないか

ポイント5:
「解雇の前に配置転換すべきだった」と判断されるリスクがないか

それぞれのポイントについて順番に解説していきたいと思います。

 

ポイント1:
解雇の理由とした従業員のミスが本人のものであることを立証できるか

企業が能力不足の従業員を解雇する前に最低限、確認しておきたい5つのポイントの1つ目は、「解雇の理由とした従業員のミスが本人のものであることを立証できるか」という点です。

たとえば、従業員が重大な業務上のミスを繰り返すために能力不足を理由に解雇する場合、裁判で企業側がそのミスが本人のものであることを立証できなければ、裁判所に不当解雇と判断されます。そして、敗訴したときは、従業員を復職させることに加え、冒頭でご説明したように解雇の時点にさかのぼって賃金の支払いを命じられることが通常です。

このケースの典型例ともいえる裁判例が、冒頭で「事例1」としてご紹介した「松筒自動車学校事件」です。
以下で、その内容を見てみましょう。

解雇理由としたミスが本人のものであることの立証に失敗し、不当解雇として企業が敗訴した事例

松筒自動車学校事件判決
(平成7年4月28日大阪地方裁判所判決)

事案の概要:

この事件は、自動車教習所を運営する株式会社が、教習所の受付・レジを担当していた女性事務員を解雇したところ、この女性事務員から不当解雇であるとして訴訟を起こされたケースです。

裁判の結論:

不当解雇と判断され、会社敗訴

判断の理由:

会社は、女性事務員の能力不足の主張の1つとして、「レジの記録と現金の実際の額について食い違いが約6か月の間に53回も発生していた」という点を主張しました。

しかし、裁判所は、「レジを担当していた事務員は複数名おり、証拠によりこの女性事務員のミスであると認定できるのは、会社が主張する53回の食い違いのうち6回にすぎない」と判断しました。そして、6回のミスは軽微で解雇しなければならないほどの事情はなく、不当解雇であると判断しました。

この事例のように、企業側が解雇の理由として、従業員に頻繁なミスがあったことを裁判所で主張するケースの中には、そのミスが本人のものであることを企業が立証できずに、敗訴するパターンが多く見られます。
従業員のミスが気になる時は、少なくとも、以下の点をチェックしましょう。

従業員のミスが気になるときのチェックポイント

ポイント1:
その従業員以外の従業員がミスに関与している可能性がないか

ポイント2:
上司からの指示の方法に問題があって、ミスが発生した可能性がないか

ポイント3:
ミスについての本人の言い分を聴いたか

そして、解雇まで考えなければならないケースでは、必ず、解雇の前に弁護士に相談して、ミスが本人のものであることについて十分な証拠があるかどうかをチェックしておくことが必要です。

 

ポイント2:
「従業員の能力不足は会社の教育不足が原因である」と判断されるリスクはないか

企業が能力不足の従業員を解雇する前に最低限、確認しておきたい5つのポイントの2つ目は、「従業員の能力不足が会社の教育不足が原因であると判断されるリスクはないか」です。

企業が従業員の能力不足を理由として行う解雇のケースでは、「能力不足は会社の教育不足が原因である」として、裁判所に不当解雇と判断されることが少なくありません。

このケースの典型例ともいえる裁判例として、「セガ・エンタープライゼス事件」という事例を見てみましょう。

能力不足は会社の教育不足が原因であると判断されて、企業が敗訴した事例

セガ・エンタープライゼス事件判決
(平成11年10月15日東京地方裁判所決定)

事案の概要:

この事件は、ゲーム機メーカーが、従業員のうち考課順位の下位10%の従業員に退職勧奨を行ったところ、1名のみ応じなかったために、この1名を解雇した事件です。解雇された従業員が「不当解雇である」として会社に仮処分の手続をとりました。

裁判の結論:

不当解雇と判断され、会社敗訴。

判断の理由:

会社は、「従業員には業務を担当するために必要な英語力が不足していた」、「取引先からも苦情が多かった」などの点を解雇の理由として主張しました。

しかし、裁判所は、「従業員に対して教育、指導が行われた形跡がなく、適切な教育、指導を行えば、能力向上の余地があった」と判断し、不当解雇であると判断しました。

この事例で解雇された従業員は新卒採用されて約10年が経過した正社員でした。特に、新卒採用の従業員については、「能力不足は会社の教育不足が原因である」として不当解雇と判断した裁判例が多く見られます。「新卒採用した従業員の能力が不足しているのであれば、解雇するのではなく、まずは十分な指導、教育を行うことが会社の責任である」と裁判所は考えています。

解雇まで考えなければならないケースでは、自社の指導、教育が足りなかったと判断される危険がないか、事前にチェックしておくことが必要です。

 

ポイント3:
「待遇改善の要望や労働組合への加入を理由に解雇した」と判断されるリスクはないか

企業が能力不足の従業員を解雇する前に最低限、確認しておきたい5つのポイントの3つ目は、「待遇改善の要望や労働組合への加入を理由に解雇したと判断されるリスクはないか」です。

企業が能力不足を理由に従業員を解雇したときも、「能力不足という理由は表向きのもので、解雇の真の理由は従業員からの待遇改善の要望や労働組合への加入である」と裁判所に判断されると、不当解雇として敗訴します。このケースの典型例ともいえる裁判例が、冒頭で「事例2」としてご紹介した「ミリオン運輸事件」です。
以下でその内容を見てみましょう。

従業員の待遇改善の要望や組合加入が解雇の真の理由であるとして、不当解雇と判断され、企業が敗訴した事例

ミリオン運輸事件
(大阪地方裁判所平成8年7月31日判決)

事案の概要:

運送会社が、寝過ごしによる延着事故を起こしたドライバーを解雇したところ、ドライバーから不当解雇であるとして訴訟を起こされたケースです。

裁判の結論:

不当解雇と判断され、会社敗訴。

判断の理由:

裁判所は、他の従業員が同様の延着事故を起こした際は会社は処分を行わなかったことなどを指摘し、この従業員が組合に加入して賃金引き上げの要望をするなどの積極的な組合活動をしていたことが解雇に至る理由になっているとして、不当解雇と判断しました。

この事例のように、能力不足を理由とする解雇のケースであっても、「従業員による待遇改善の要望や労働組合への加入が解雇の真の理由である」と裁判所に判断されてしまうと、企業側が敗訴します。
そのほかにも、「残業代の要求」や「労働基準監督署への相談」などを理由に解雇したと判断されて、会社側が敗訴した事例もみられます。

待遇面についてトラブルがあった従業員を解雇する際には、「待遇改善の要望をされたことが解雇の理由である」と裁判所に誤解される危険がないかを、事前に十分検討しておく必要があります。

 

ポイント4:
「解雇が性急すぎる」と判断されるリスクがないか

企業が能力不足の従業員を解雇する前に最低限、確認しておきたい5つのポイントの4つ目は、「解雇が性急すぎると判断されるリスクがないか」という点です。

この点は「ポイント2」にも関連しますが、解雇はほかの手段がないときの最後の手段であり、十分な成長の機会を与えないまま解雇すると、「解雇が性急すぎる」として不当解雇と判断されます。
この点については、以下の京新学園事件を見ていきましょう。

従業員に対する解雇が性急すぎると判断され、不当解雇として企業が敗訴した事例

京新学園事件
(大阪地方裁判所昭和60年12月25日決定)

事案の概要:

この事件は、幼稚園を経営する学校法人が、プール主任として採用した従業員を解雇したところ、この従業員から不当解雇であるとして仮処分を起こされたケースです。

裁判の結論:

不当解雇と判断され、学校法人側敗訴。

判断の理由:

学校法人側は従業員によるプール指導には問題があり、能力を欠いていると主張しましたが、裁判所は、従業員は就労していまだ一か月に満たず、解雇が性急にすぎることを理由に、不当解雇と判断しました。

この事例のように、採用後間もなく解雇するケースでは、十分な指導や教育をしておらず成長の機会も与えていないと判断されて、不当解雇とされる可能性が高いです。特に試用期間を設けている場合は、その期間は適性を判断するための期間であり、試用期間が経過しないうちに解雇することは、解雇が性急すぎると判断される可能性が高いです。

特別な事情がない限り、試用期間中の解雇は避けたほうがよいでしょう。

 

ポイント5:
「解雇の前に配置転換すべきだった」と判断されるリスクがないか

企業が能力不足の従業員を解雇する前に最低限、確認しておきたい5つのポイントの5つ目は、「解雇の前に配置転換すべきだったと判断されるリスクがないか」という点です。

従業員の能力不足を理由とする解雇では、「解雇の前に配置転換をして、他の職種での就業の機会を与えていないこと」を理由に不当解雇と判断されるケースがあります。
これについては、最近話題になった、日本IBMの敗訴事例を見ていきましょう。

解雇の前に配置転換すべきだったとして、不当解雇と判断され、企業が敗訴した事例

日本IBMロックアウト解雇事件
(東京地方裁判所平成28年3月28日判決)

事案の概要:

この事件は、日本IBMが、営業やシステム運用を担当していた従業員5名を能力不足を理由に解雇したところ、この従業員らから不当解雇であるとして訴訟を起こされたケースです。

裁判の結論:

不当解雇と判断され、会社敗訴。

判断の理由:

裁判所は、日本IBMが「従業員を適性のある業種に配転したり、解雇の可能性を伝えて業績改善の機会を与えたりせずに解雇した」ことを理由に不当解雇であると判断しました。

この事例からもわかるように、従業員が現在配属されている業種について適性がなくても、配転等により他の業種にチャレンジさせ、従業員の適性に応じた仕事の場を与えることが必要です。配転等により従業員の適性にあう仕事を探す努力をしないまま解雇したと判断されると、不当解雇として敗訴することになります。

従業員の解雇を検討する際は、他の業種でその従業員の適性を試す余地がなかったか、十分に検討が必要です。

 

まとめ

今回は、企業が能力不足の従業員を解雇する前、不当解雇のリスク対策として、最低限確認しておきたい5つのポイントについてご説明しました。

従業員を解雇しなければならないときは、事前に以下の5つのポイントを必ずチェックしておきましょう。

ポイント1:
解雇の理由とした従業員のミスが本人のものであることを立証できるか

ポイント2:
「従業員の能力不足は会社の教育不足が原因である」と判断されるリスクはないか

ポイント3:
「待遇改善の要望や労働組合への加入を理由に解雇した」と判断されるリスクはないか

ポイント4:
「解雇が性急すぎる」と判断されるリスクがないか

ポイント5:
「解雇の前に配置転換すべきだった」と判断されるリスクがないか

冒頭でも記載したように、解雇トラブルは、多額の支払い命令などにつながるケースも多く、企業の重大なリスク要因になります。なお、万が一、不当解雇で訴えられてしまった場合は、「不当解雇で訴えられた際の対策」をご参照ください。

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