高齢者雇用では、高齢者の体力や能力が落ちてきた場合の対応を常に考えておく必要があります。
体力、能力が衰えてしまった後も同じ給料を払わなければならないとすれば、企業の収益悪化は避けられません。
一方、無理に高齢者を解雇あるいは雇止めしようとすると、以下のように裁判トラブルに発展するケースも増えています。
事例1:
バス会社の68歳の運転手を体力面の問題などを理由に雇止めしたところ、約320万円の支払いを命じられた事例(大阪地裁平成25年 1月18日判決)
事例2:
定年となった60歳の従業員の再雇用を拒否したことについて会社が550万円の損害賠償を命じた事例(札幌地裁平成22年3月30日判決)
事例3:
60代前半の定年後再雇用社員を解雇したタクシー会社が約800万円の支払いと雇用の継続を命じられた事例(東京地裁平成26年 3月25日判決)
今回は、このようなトラブルを避けるために必ず理解しておく必要がある高齢者雇用に関する法律の基本的なルールをご説明します。そのうえで、高齢者雇用における就業規則の注意点、高齢者雇用を支援する助成金制度などについてもご紹介します。
なお、「高齢者」とは一般に65歳以上を指しますが、この記事では、60歳以上65歳未満の従業員の雇用も含めて解説しています。
高齢者雇用については、無期転換ルールへの対応や、正社員との待遇格差の問題、雇用後に雇止めする場合のトラブルへの対応など、最近の法改正や最新判例を踏まえた対応が緊急の課題になっています。
この記事ではその重要なポイントについてご説明します。すでに高齢者雇用についての就業規則を定めている会社でも、記事を踏まえて最近の法改正や最新判例に対応した規則改定を必ず行い、弁護士のチェックをうけておいてください。
▶【参考情報】労務分野に関する「咲くやこの花法律事務所の解決実績」は、こちらをご覧ください。
▼【関連情報】高齢者雇用については、こちらも合わせて確認してください。
・定年した従業員の再雇用を拒否することは可能?重要な注意点を解説
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今回の記事で書かれている要点(目次)
1,高齢者雇用の基本的な法律のルール
高齢者雇用の基本的な法律のルールとしては以下の2点をおさえておきましょう。
(1)会社は従業員を65歳まで雇用しなければならない
まず、高年齢者雇用安定法により、企業は、希望する正社員全員に65歳までの雇用を確保する措置(「高年齢者雇用確保措置」といいます)をとることを義務付けられています。
具体的には、以下の措置のいずれかをとらなければなりません。
- (1)定年後も引き続いて65歳以上まで雇用する継続雇用制度の導入
- (2)定年を65歳以上まで引き上げる
- (3)定年を廃止する
上記の(2)あるいは(3)を採用する場合、60歳を超えても正社員ということになるため、人件費負担が大きくなってしまいます。
そのため、多くの企業では、(3)の選択肢を採用し、60歳で定年としたうえで、65歳までは1年間の有期雇用契約を更新する再雇用制度や嘱託社員制度を設けています。
この場合、60歳で定年になったあとは、有期雇用の社員となり、嘱託社員などと呼ばれるケースが多くなっています。
(2)無期転換権は第2種計画で排除できる
上記の(1)の選択肢を採用し、60歳定年後65歳まで有期雇用契約により雇用を確保する場合、労働契約法の「無期転換ルール」との関係に注意する必要があります。
▶参考情報:「労働契約法の無期転換ルール」とは?
雇用期間が5年を超える有期雇用社員について希望があれば、期間の限定がない雇用契約への転換を強制されるというルールです。労働契約法第18条で定められています。このルールについて、詳しくは以下の記事で解説していますので合わせてご確認ください。
60歳定年後に有期雇用で継続雇用し65歳まで雇用する場合、通算の雇用期間が5年を超えることになった時点で、無期転換ルールが適用され、従業員から希望があれば期間の限定のない雇用契約に転換されてしまいます。
この問題を解決する方法として、法律上設けられているのが「第2種計画」という制度です。この制度は有期雇用特別措置法という法律で定められています。
具体的には、企業が労務管理に関する計画(第2種計画)を都道府県労働局に提出して認定を受ければ、定年後の再雇用者について無期転換ルールの適用から除外することができることになっています。
定年後に再雇用した従業員が、再雇用後に無期転換権を行使すると、定年もない終身雇用になってしまいます。これを防ぐためには、第2種計画の制度を活用するなどして、無期転換ルールが適用されないように工夫しておく必要があります。
この第2種計画については、以下の記事などで、無期転換ルールの特例制度の申請手続きとしてご紹介していますので詳しくは以下をご覧ください。
2,高齢者雇用に関する助成金
高齢者雇用についての法律上のルールは上記の通りですが、高齢者雇用に積極的に取り組む企業については、以下の助成金による国の補助が用意されています。
(1)特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)
60歳以上65歳未満の高年齢者をハローワークなどの紹介により雇い入れた場合、中小企業に対して、助成金が支給される制度です。
フルタイムで雇用した場合は60万円、パートタイムで雇用した場合は40万円が支給されます(平成30年4月現在)。
詳しくは以下をご参照ください。
(2)特定求職者雇用開発助成金(生涯現役コース)
65歳以上の高齢者をハローワークなどの紹介により雇い入れた場合、中小企業に対して、助成金が支給される制度です。
フルタイムで雇用した場合は70万円、パートタイムで雇用した場合は50万円が支給されます(平成30年4月現在)。
詳しくは以下をご参照ください。
(3)65歳超雇用推進助成金
65歳以上への定年引上げや定年の撤廃、あるいは66歳以上までの希望者全員の継続雇用制度の導入などを導入した場合に、中小企業に対して最大で160万円が支給されます。(平成30年4月現在)
詳しくは以下をご参照ください。
3,高年齢雇用継続給付金
さらに、高年齢者個人に支給される「高年齢雇用継続給付金」という制度もあります。
これは、60歳を超えて働く高年齢者が、60歳の時と比べて賃金が75%未満に低下した場合、国がこの賃金低下部分について、給付金を支給する制度です。
詳しくは以下をご参照ください。
4,高齢者雇用と就業規則
では、具体的に60歳以上の従業員の雇用について就業規則を作成する場合、どのような制度設計をすればよいのでしょうか?
以下では、「自社の正社員を定年後に再雇用する場合」と「60歳を超えた人を外部から雇用する場合」に分けてご説明します。
(1)自社の正社員を定年後に再雇用する場合の注意点
正社員を定年後に嘱託社員などとして有期契約で再雇用する場合、嘱託社員就業規則を作成し、その中で、例えば、1年ごとの有期雇用となること、更新は65歳までとなることなどを定める必要があります。
そして、嘱託社員の「給与」や「仕事内容」については、定年前の正社員時の「給与」や「仕事内容」と一定程度の連続性を求められることに注意が必要です。
以下で順番にご説明します。
1,正社員時と比べて不合理に低い給与設定は違法
パートタイム有期雇用労働法第8条で、有期雇用社員について正社員と比較して不合理な待遇差をつけることは禁止されており、このルールは嘱託社員についても適用されます。
ただし、嘱託社員について、仕事の内容などが正社員と同じ場合でも、老齢厚生年金が支給されることなどを考慮して、正社員よりも一定程度年収を下げることは裁判例でも合法とされています。
▶参考情報:
例えば、平成30年6月1日長澤運輸事件最高裁判決は、嘱託社員の年収について正社員時の79パーセント程度に設定することも合法としています。
このようにある程度の待遇差は許容されていますが、嘱託社員の労働条件に正社員と比較して不合理な待遇差があると、パートタイム有期雇用労働法第8条に違反し、損害賠償請求の対象となりますので注意が必要です。
なお、定年後再雇用社員の仕事の内容や責任の程度が定年前の正社員と異なる事例では、正社員時と比べて3割程度の年収であっても違法とは言えないと判断した判例があります(平成30年1月29日東京地方裁判所立川支部判決)。
このように、定年後再雇用社員の仕事の内容や責任の程度が正社員と異なる場合は、それに応じた給与を設定することは問題ありません。
再雇用の際の給与設定や手当について、正社員との格差が不当であるとして、嘱託社員から損害賠償の請求がされたり、裁判が起こされるケースが増えています。
就業規則や賃金規程において万全の整備をしておくことが必須になります。少しでも不安がある方は早めにご相談ください。
2,業務内容にも注意が必要
定年後の再雇用の場面で、定年前の業務内容と異なる業務内容に従事させること自体は問題ありません。
ただし、全く別個の職種とすることは原則として許されませんので注意が必要です。
この点に関しては、デスクワークの事務職として勤務していた従業員を、企業が定年後の再雇用にあたり清掃業務に従事するように求めたことについて、違法と判断し、企業に賠償を命じた裁判例があります(平成28年9月28日名古屋高等裁判所判決)。
正社員を定年後再雇用する場合の労働条件については最近になって労働者とのトラブルが増え、裁判に発展するケースも増加しています。
定年後再雇用時の労働条件に関する注意点は以下の記事でさらに詳しく解説していますので、ご参照ください。
(2)60歳を超えた人を外部から雇用する場合
最近では、企業内部で正社員から嘱託社員になるというパターンだけでなく、60歳を超えた人を外部から採用するというケースも増えてきました。
この場合は、通常は正社員雇用ではなく、有期雇用になると思いますので、契約社員就業規則などを適用して対応することが基本になります。
1,60歳を超えた人を有期雇用する場合の注意点
注意しなければならないのは、60歳を超えた人を有期雇用する場合、第2種計画による無期転換ルールの適用除外が利用できないという点です。
第2種計画による無期転換ルールの適用除外は、企業に正社員として雇用されて定年に達した後引き続き有期雇用で雇用される従業員に限って適用されることになっています。
そのため、60歳を超えた人を有期雇用した場合、無期転換ルールの適用を除外するためには、制度設計の工夫が必要です。
これについては、やや複雑ですので、以下では、63歳の人を有期雇用する場面を例にアウトラインだけご紹介したいと思います。
▶参考例:63歳の人を有期雇用する際の制度設計の例
- 正社員の就業規則に「60歳を超えて正社員になった人は67歳で定年になる」と定め、かつ第2種計画の認定を受けておく。
- 63歳で1年契約で有期雇用した人に対して、雇用契約書で有期雇用契約の更新は1回限りと記載しておく。
- 65歳の時に更新後の有期雇用契約が終了した時点でその社員を正社員登用する。
- 67歳で正社員として定年を迎えた後は1年ごとの有期雇用により雇用を継続する。
このようにすれば、67歳以上の有期雇用の期間についても正社員から有期雇用された人という扱いになるため、第2種計画の適用により、無期転換ルールの適用を除外することができます。
このように、60歳を超えた人を有期雇用する場合は、無期転換ルールの適用を排除できるような就業規則の設計をしておきましょう。
有期雇用の際の給与設定や手当について、正社員との格差が不当であるとして、有期雇用社員から損害賠償の請求がされたり、裁判が起こされるケースが増えています。
そのため、給与の設定や手当の面でも就業規則や賃金規程において万全の整備をしておくことが必須になります。少しでも不安がある方は早めにご相談ください。
5,咲くやこの花法律事務所なら「こんなサポートができます!」
最後に、高齢者雇用についての咲くやこの花法律事務所における企業向けサポート内容をご紹介します。
(1)高齢者雇用に関するトラブルのご相談
咲くやこの花法律事務所では、高齢の従業員に対する指導や労務管理のご相談、雇止めや解雇のご相談、定年後の再雇用に関するトラブルのご相談を数多く承っています。
これらの分野については、2013年4月の高年法改正以降トラブルが増えている分野であり、まだ判例等も未確定の部分が多くなっています。
そのため、対応には最新の判例の動向も踏まえた専門的なノウハウが必要です。
咲くやこの花法律事務所では、高齢者雇用のトラブルについて、ノウハウと経験がある弁護士がそろっており、ご相談者の状況に応じてベストな解決が可能です。
冒頭でご紹介したように、トラブルの結果企業側が敗訴して数百万円もの支払いを命じられているケースも増えています。必ず弁護士にご相談いただくことをおすすめします。
咲くやこの花法律事務所の労務問題に強い弁護士の対応料金
●初回相談料:30分5000円+税(顧問契約締結の場合は無料)
●解雇トラブルの際の従業員との交渉:着手金20万円程度+税~
●解雇トラブルの際の裁判対応:着手金40万円程度+税~
(2)高齢者雇用に関する就業規則整備のご相談
咲くやこの花法律事務所では、高齢の従業員に適用する就業規則の整備についてもご相談を承っています。
就業規則に不備があると、雇用についてトラブルに発生した時に企業にとって大きな弱点となってしまいます。
高齢者雇用においては、特に、無期転換権の処理や、雇止めの場面を想定した就業規則の整備が重要になります。
咲くやこの花法律事務所では、高齢者雇用に関する就業規則の整備について多くの実績があり、ご相談者の状況に応じてベストなご提案が可能です。
咲くやこの花法律事務所の労務問題に強い弁護士の対応料金
●初回相談料:30分5000円+税(顧問契約締結の場合は無料)
●就業規則作成:20万円程度+税
●就業規則変更:10万円程度+税~(顧問契約締結の場合は無料)
6,「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法
高齢者雇用に関する相談は、下記から気軽にお問い合わせください。咲くやこの花法律事務所の労働問題に強い弁護士によるサポート内容については「労働問題に強い弁護士のサポート内容」のページをご覧下さい。
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8,まとめ
今回は、高齢者雇用の基本的な法律上のルールをご説明したうえで、国からの援助として助成金、給付金をご紹介しました。
そのうえで、高齢者雇用に関する就業規則について注意するべき点を最新の判例も踏まえてご説明しました。
高齢化にともなって高齢者雇用に関するご相談やトラブル、裁判が急増していますので、労務管理の面でも万全の対策をしておいてください。
記事作成弁護士:西川 暢春
記事更新日:2024年1月5日