請負契約の解除のトラブルで悩んでいませんか?
請負契約の解除は、裁判などのトラブルに発展しやすく、裁判になった場合も長期化しやすい傾向があります。
また、解除には法律で定められた手続きがあり、正しい手続で解除しなければ以下のような問題が起こります。
●契約上の責任の負担
解除の手続きが正しく行われていないと、請負契約の効力が消滅せず、請負代金の支払義務など契約上の責任を負担することになってしまうケースがあります。
●損害賠償の負担
相手の契約違反で解除したかったのに、手続が正しく行われていないために、自己都合での解除と扱われ、損害賠償責任を負ってしまうケースがあります。
●解除の通知の立証ができない
解除の際に内容証明郵便を利用しなかったために、解除の通知を送ったことが証明できなくなってしまうケースがあります。
今回は、請負契約の解除に関するルールについて、「注文者側からの解除」と、「請負人側からの解除」にわけて、解除の場合の手続きや損害賠償など、法律上のルールをご説明します。
なお、この記事では、建築工事を想定してご説明しますが、システムの開発など他の請負契約についても同じルールがあてはまります。
※この記事は2020年4月の民法改正に対応しています。
請負契約がうまくいかなくなった場面で、どのように行動するかは非常に重要です。
日々のご相談の中でも、請負契約のトラブルについて自己流で対応してしまった結果、自社に不利な状況を自ら作ってしまっているケースを非常に多くみかけます。
自社の損害を最小限にするためには、トラブルになったらできる限り早く弁護士にご相談いただくことが重要です。
咲くやこの花法律事務所の請負契約に関するトラブルについての解決実績は以下をご参照ください。
▶参考情報:施主と連絡がとれず未払いになっていた内装工事費について工事業者の依頼を受けて全額回収した事例
▶参考情報:リフォーム会社の顧客がクレームをつけてリフォーム工事代金の減額を要求したケースで、リフォーム代金の全額回収に成功した解決事例
▼【関連動画】西川弁護士が「請負契約の解除のルールと手続きについて【民法改正にも対応】(前編)」と「請負契約の解除の場面の注意点について【民法改正にも対応】(後編)」を詳しく解説中!
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・工事請負契約書の作成ポイント!標準約款や雛形の安易な利用は危険!
・Webサイト制作(ホームページ制作)の請負契約書の重要ポイント【制作費未払いトラブル対策】
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今回の記事で書かれている要点(目次)
1,注文者からの解除は2つのパターンの区別が重要
まず、注文者側からの解除について解説します。
注文者側からの解除には、以下の2つがあります。
- 「請負人の契約違反を理由とする解除」(改正民法第541条)
- 「請負人に契約違反がない場合の注文者の都合による解除」(改正民法第641条)
「請負人の契約違反を理由とする解除」は、「請負人に契約違反がない場合の注文者の都合による解除」に比べて、注文者にとって有利なルールが定められています。
どちらにあたるかにより、適用されるルールが大きく変わってきますので、2つのうちどちらの解除かを明確に意識して行動することが必要です。
2,請負人の契約違反を理由に注文者から契約を解除する場合のルール
工期が過ぎても完成しない、着工期限までに着工しない、施工内容が指示通りではないなどの理由により解除するケースです。
この場合、以下のルールが適用されます。
- 契約違反によって注文者に損害が発生しているときは請負人に対する損害賠償請求が可能です(改正民法第415条)
- 引き渡し後に施工の不具合を理由に解除する場合は期間制限の適用があります(改正民法第637条)
- 請負人の責任による解除であっても、原則として完成部分の割合に応じた請負代金の支払いが必要です(改正民法第634条2号)
(1)注文者に損害が発生している場合は請負人に対する損害賠償請求が可能
契約違反について請負人に責任がある場合は、注文者がうけた損害について損害賠償の請求が可能です(改正民法第415条)。
例えば、請負人が引き渡した建物に不具合があり、注文者が他の施工会社に不具合を修補させた場合は、その費用分の損害賠償の請求が可能です。
請負人の契約違反を理由とする損害賠償請求は、債務不履行に基づく損害賠償請求の一場面です。損害賠償の範囲や要件については、以下で解説していますのでご参照ください。
(2)引き渡し後の不具合を理由とする解除については期間制限に注意
引き渡し後に施工の不具合を理由に請負契約を解除する場合は、注文者が不具合を知ったときから1年間に不具合を注文者に通知することが必要です(改正民法第637条)。
ただし、この期間制限については契約書で変更することが可能であり、契約書に上記の内容とは別の記載がある場合は、契約書に従うことになります。
期間を過ぎて解除できなくなるといったことがないように、請負契約書の記載を必ず確認する必要があります。
引き渡し後の不具合については、「契約不適合責任」(民法改正前の「瑕疵担保責任」)の問題です。
これについては、以下の動画や記事で詳しく解説していますのでご参照ください。
▼【動画で解説】西川弁護士が「契約不適合責任とは?契約書での注意点」について詳しく解説中!
住宅の新築については品確法という法律にも注意が必要です。品確法第94条は住宅新築請負契約に関して、住宅のうち構造耐力上主要な部分等の不具合については請負人が引渡しから10年間、責任を負うことを定めています。
この期間を契約書で短縮することはできません。
▶参考情報:「品確法 第94条」はこちら
(3)完成部分の割合に応じた請負代金の支払いが必要
請負人の責任による解除であっても完成部分の割合に応じた請負代金の支払いが必要です(改正民法第634条)。
例えば、工事の契約を請負人の責任による工期遅れを理由に解除した場合、通常は解除までの工事で完成した割合に応じた工事代金を支払う必要ががあります。
この点は、以前から判例でそのように判断されていましたが、2020年4月の民法改正で新しい条文が定められて、条文上も明確にされています(改正民法第634条)。
(4)解除前の仕事のみでは意味がないときは遡及効がある
前述の通り解除前の完成割合に応じた請負代金の支払が必要になることが原則ですが、下記の条文の定め方からもわかるように、請負人が解除前にした仕事によって注文者がうける利益がないときは、注文者は解除前の仕事について請負代金の支払の義務を負いません。
例えば、請負人の施工に重大な問題があり最初から施工をやりなおさなければならないような場面などがこのケースに当たります。
▶参照:改正民法第634条
次に掲げる場合において、請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなす。この場合において、請負人は、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができる。
一 注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき。
二 請負が仕事の完成前に解除されたとき。
請負人が解除前にした仕事によって注文者がうける利益がないときは、注文者は請負人に対して、すでに支払った代金の返還も求めることができます。これを解除の「遡及効」に基づく原状回復といいます。
解除の遡及効というのは、解除により請負契約が最初からなかったのと同じ扱いになるという効力をいい、このような解除の効力に基づき、請負人は注文者に対して、受領済みの代金を返すという原状回復の義務を負うことになります。
(5)民法改正による変更点
請負人の契約違反を理由に注文者から契約を解除する場合について、2020年4月の民法改正で変更になった点は以下の通りです。
1,建物の不具合による契約解除を禁止する規定が削除された
民法改正前は、建物の不具合による契約解除は禁止されていました。
これは、建物というのは社会的に価値があるものであり、施主から見て不具合があるとしても契約解除を認めることは社会的な損失になるという考え方によるものでした。
しかし、重大な不具合がある建物についてまで契約解除を禁止するべきではなく、2020年4月の民法改正で、この建物の不具合による契約解除禁止の規定は削除されています。
2,不具合による契約解除の期間制限が変更された
民法改正前は、建物建設工事の施工の不具合による契約解除は、引渡後5年間(コンクリート造等の場合は10年間)という期間内に行う必要がありました。
2020年4月の民法改正により、この期間の制限が、「注文者が工事の不具合を知ったときから1年間」に変更されています。
(6)解除の手続きを正しく行うことが重要
契約違反を理由とする解除については、解除の前に催告することが原則として必要です(改正民法第541条)。
▶参照:改正民法第541条
当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。
つまり、「催告」したうえで「解除」する、という2段階のステップを踏む必要があります。
1,催告とは?
「催告」とは、例えば、1週間などといった期間を定めたうえで、契約違反の状態を解消するように相手方に求める手続きです。
▶参考例:工期が過ぎているのに完成しないことを理由とする解除
→請負人に対して、期間を定めて完成させるように求めたうえで、期間内に完成されなければ解除する
▶参考例:施工の不具合を理由とする解除
→請負人に対して、期間を定めて補修するように求めたうえで、期間内に補修されなければ解除する
「催告」や「解除」の通知は、後日、通知を送ったことが証明できるように、内容証明郵便で送る必要があります。
(7)請負人の契約違反を理由とする注文者による解除の場面のリスク
ここまで、工期が過ぎても完成しない、施工内容が指示通りではないなど請負人側の契約違反を理由とする解除のルールについてご説明しました。
請負人に問題がある場合も、契約の解除の手続きを正しく行わなければ、請負契約が続いていることになり、後日、請負代金全額を請求されることになりかねませんので注意してください。
また、トラブルが長引いた場合、請負人に契約違反があったかどうかが後日争いになることも予想されます。
請負人の契約違反の証拠をしっかり確保しておくことが必要です。
契約違反の証拠の確保が不十分な場合、後述する「請負人に契約違反がない場合の注文者の都合による解除」として扱われてしまい、注文者側が請負人に対する損害賠償責任を負担することになるリスクがあります。
3,請負人に契約違反がない場合の注文者の都合による解除のルール
請負人に契約違反がない場合も、仕事が完成する前までは、注文者の都合により解除することが認められています。
注文者の都合による解除の場合は、注文者は、完成部分の割合に応じた請負代金の支払いの義務を負います(改正民法第634条2号)。
これに加えて、注文者は請負人に対して、契約解除により請負人に発生する損害を賠償する義務を負います(改正民法第641条)。
▶参照:改正民法第641条
(注文者による契約の解除)
第六百四十一条 請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる。
(1)逸失利益も損害賠償の対象になる
注文者の都合により解除する場合に注文者が賠償しなければならない損害の範囲には、契約を解除されなければ請負人が得られたはずの利益部分(逸失利益)も含むとされています。
例えば、工事の契約を注文者の都合で完成前に解除する場合、注文者は以下の支払義務を負います。
- 完成部分の割合に応じた請負代金の支払いの義務
- 解除されずに未完成部分を仕上げていれば請負人が得られたであろう利益部分の損害賠償
- 未完成部分について請負人がすでに支出した実費部分の損害賠償
(2)建物着工前の解除と違約金
着工前の解除についても、民法のルール上は、前述の損害賠償が必要となります。
ただし、着工前の解除については、契約書で民法のルールとは異なる定めをしているケースも多く、契約書に着工前の解除について注文者から違約金を支払わなければならない旨を定めていることもあります。
その場合は、契約書の記載に従うことになります。
4,請負人からの契約解除のルール
次に、請負人側から請負契約を解除する場合のルールについてご説明します。
まず、請負人からの解除は、注文者に契約違反がある場合や、注文者が破産した場合、注文者との間で解除に合意に至った場合に限られます。
このうち、注文者の契約違反のケースとしては以下のものがあげられます。
- 注文者が支払期日が過ぎても代金を支払わない場合
- 注文者自身による工事の妨害
- 注文者が必要な資料等を請負人に提供しない場合
この場合のルールは以下の通りです。
1,注文者が破産した場合などを除き、解除の前に催告をすることが必要です(改正民法第541条)。
例えば、支払期日が過ぎても代金を支払わないことを理由に解除する場合、まず、期間を定めて代金を支払うように求め(これを「催告」といいます)、それでも支払わない場合に初めて解除が可能です。
2,請負人は完成部分の割合に応じた請負代金の支払を求めることができます(改正民法第634条2号)。
さらに請負人に生じた損害があれば注文者に対する損害賠償請求が可能です(改正民法第415条)。
損害賠償の範囲には、契約解除がなければ請負人が得られたはずの利益部分(逸失利益)も含みます。
(1)民法改正による変更点
注文者が破産した場合は請負人からの契約解除が認められています。この点は、民法改正の前後を通じて変わりません。
ただし、2020年4月の民法改正により、仕事の完成後は注文者の破産を理由に請負人が請負契約を解除することはできない旨が定められました。
(2)請負人からの解除の場面のリスク
注文者による契約違反等、注文者側に問題がある場合も、契約の解除の手続きを正しく行わなければ、請負契約が続いていることになります。
契約解除の手続きを正しく行わないまま、工事を中止してしまうと、後日、工事の遅延として、注文者から損害賠償を請求されることになりかねませんので注意してください。
また、トラブルが長引いた場合、注文者に契約違反があったかどうかが後日争いになることも予想されます。
そのため、注文者の契約違反の証拠をしっかり確保しておくことが必要です。
5,請負契約に関して弁護士に相談したい方はこちら
最後に咲くやこの花法律事務所におけるサポート内容についてもご紹介します。
(1)請負契約の解除に関するご相談
工事やシステム開発などの請負契約が途中からうまくいかなくなるトラブルが起きた場合、法律や判例のルールを踏まえて、正しく行動することが重要です。
弁護士に相談せずに自己流で対応したことが、あとになって自社にとって不利に作用することもよくあります。
請負契約のトラブルはルールも複雑であるうえ、問題がこじれやすいため、早期に弁護士にご相談いただくことをおすすめします。
咲くやこの花法律事務所の企業法務に強い弁護士へのご相談費用
初回相談料 30分5000円(税別)~
※顧問契約の場合は相談料はかかりません。
(2)契約解除トラブルに関する交渉の代理(注文者側からの依頼)
注文者側からの契約解除を検討する場合、以下の点が重要です。
- 正しい手続きで解除すること
- 請負人の契約違反がある場合はその点を指摘し、かつ証拠を確保すること
また、請負人側からは、契約解除に至った責任は注文者側にあるという反論が予想されます。
そういった反論を想定して、反論に対する再反論の証拠を確保しておくことも重要です。
咲くやこの花法律事務所では、注文者側からのご依頼受けて、契約の解除の手続きや、請負人に対する損害賠償の請求、今後必要になると思われる証拠の確保などを行います。
そのうえで、請負人と交渉のうえ、トラブルの早期解決を実現します。
咲くやこの花法律事務所の企業法務に強い弁護士へのご相談費用
初回相談料 30分5000円(税別)~
※顧問契約の場合は相談料はかかりません
(3)契約解除トラブルに関する交渉の代理(請負人側からの依頼)
請負契約が途中でうまく行かなくなった場合、請負代金の支払いの確保が重要な問題になります。
また、注文者側から、不合理な補修の要求やクレームが繰り返されることも少なくありません。
工事遅延等を理由とする注文者側からの損害賠償請求にも備える必要があります。
咲くやこの花法律事務所では、請負人側からのご依頼受けて、請負代金の回収、契約解除の手続きの代理、今後必要になると思われる証拠の確保、注文者側からの主張に対する反論などを行います。
そのうえで、注文者と交渉のうえ、トラブルの早期解決を実現します。
咲くやこの花法律事務所の企業法務に強い弁護士へのご相談費用
初回相談料 30分5000円(税別)~
※顧問契約の場合は相談料はかかりません
なお、住宅業界におけるクレームの解決方法については以下の記事で解説していますのであわせてご参照ください。
6,「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせする方法
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記事作成弁護士:西川 暢春
記事更新日:2022年11月22日