
こんにちは。咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。
契約相手による債務不履行についてお悩みではありませんか?
債務不履行とは、わかりやすくいえば契約違反のことです。契約に基づく義務を果たさないことをいい、大きく分けて①履行遅滞、②履行不能、③不完全履行の3つの種類があります。
取引先の債務不履行を放置すると自社の資金繰りに影響が出たり、場合によっては他の取引先との関係に悪影響が及ぶおそれがあるため、早い段階で適切な対応をすることが大切です。債務者の経済状況が悪化する危険もあり、迅速な対応が必要です。
この記事では、債務不履行があった場合についての民法のルールや債務者に発生する責任の内容、不法行為との違いなどについて詳しく解説します。この記事を最後まで読んでいただくことで、取引先が債務を履行しない場合にどのような選択肢を取ることができるかを知ることができ、責任の追求のための行動を起こすことがでできるようになります。
それでは見ていきましょう。

取引先からの支払遅延や納期遅れが続いているのに適切な対応を取らなければ、損害が拡大したり、契約の解除が遅れてさらなる損害が発生するおそれがあります。しかし、取引先に債務不履行があった場合の対応には法的な知識と交渉のノウハウ等も求められ、自社のみで適切な対応をすることはなかなか難しいのが実情です。
咲くやこの花法律事務所では、取引先による債務不履行でお悩みの事業者様からご相談いただき、トラブルを解決してきました。取引先等の債務不履行でお悩みの際は、ぜひ咲くやこの花法律事務所の弁護士にご相談ください。弁護士が親身になってご相談をお聞きし、解決策を示します。
▼債務不履行の対応について、弁護士の相談を予約したい方は、以下よりお気軽にお問い合わせ下さい。
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今回の記事で書かれている要点(目次)
1,債務不履行とは?
債務不履行とは、契約に基づく義務(債務)を果たさないことをいいます。債務不履行には①履行遅滞、②履行不能、③不完全履行の3つの種類があります。具体例をあげると、①約束した期限を過ぎても代金を支払わないようなケース(履行遅滞)、②一点物のオーダーメイド品を壊して引き渡しできなくなったケース(履行不能)、③商品を100個納品する契約であったにもかかわらず50個しか納品されなかったケース(不完全履行)などが債務不履行に該当します。
(1)「債務」と「債権」の意味
1,債務とは?
「債務」とは、法律や事実関係に基づき、特定の相手に対して何らかの行為をする義務のことをいいます。例えばある商品についての売買契約を締結した場合、買主には代金を支払う債務が、売主には商品を引き渡す債務が生じます。代表的な債務としては金銭の支払いや商品の引き渡し、サービスの提供などがあります。
2,債権とは?
一方で「債権」とは、法律や事実関係に基づき、特定の相手に対して何らかの行為をすることを求めることのできる権利を指します。上記の商品についての売買契約を締結した場合を例にすると、買主側には商品の引き渡しを請求することのできる債権が、売主側には代金の支払いを請求できる債権が生じます。
(2)債務不履行とデフォルトとの違いは?
債務不履行とデフォルトとの違いは、債務不履行が債務全般における不履行を指すのに対し、「デフォルト(default)」とは、主に借入金や利息の返済が期限までにできない状態のことをいいます。
「債務不履行」が法律用語であり、契約上のあらゆる債務を果たさないことを指すのとは異なり、「デフォルト」は主に金銭債務の不履行のみを指し、金融分野における企業や国が発行する債券・国債に関する債務不履行のことを指して使われることが多いです。
(3)債務不履行と不法行為の違いは?
債務不履行と不法行為の違いは、債務不履行が契約関係にあることを前提とした契約違反であるのに対し、不法行為は第三者が他人の権利を侵害して損害を与える行為であり、契約関係がなくても成立するという点になります。
債務不履行による損害賠償と不法行為による損害賠償の違いをまとめると、以下の通りです。
債務不履行 | 不法行為 | |
根拠条文 | 民法第415条 | 民法第709条 |
要件事実 | ①当事者間で契約を締結したこと
②相手方が債務を履行しないこと ③損害の発生及びその金額 ④損害の発生と相手方の債務不履行に因果関係があること |
①故意または過失があること
②権利または利益が侵害されたこと ③損害が発生したこと ④加害行為と損害の発生の間に因果関係があること |
当事者の関係 | 契約関係にあることが前提 | 契約関係になくても成立 |
性質 | 契約に違反して損害を与える行為 | 他人の権利を侵害して損害を与える行為 |
典型例 | 代金の不払い、納期遅れなど | 交通事故、名誉棄損など |
契約関係にある当事者間では、債務不履行と不法行為の両方が問題になることがあります。両方が成立する場合は、どちらか片方のみを根拠に損害賠償請求することもできますが、両方に基づく損害賠償請求も可能です。
(4)債務不履行と詐欺の関係は?
売買代金の不払いや工事代金の不払い等の事案では、債務不履行と詐欺の区別が問題になることがあります。債務不履行は法律による刑事罰の対象にはならないため、債務不履行があったからといってただちに詐欺罪にあたるということはありません。
以下で詳しく見ていきましょう。
1,詐欺罪とは?
詐欺罪は人をあざむいて金銭を交付させたり、不法に財産上の利益を得た場合に成立する犯罪のことです。刑法第246条に定められています。
▶参考情報:刑法第246条
人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
・参照:「刑法」の条文はこちら
詐欺罪の構成要件は以下の4つです。これらの要件を全て満たしたうえで、4つの間に一連の因果関係がある場合にのみ詐欺罪が成立します。
詐欺罪の構成要件
- ①欺罔行為(故意に他人をだます行為)があること
- ②被害者が錯誤に陥ったこと
- ③財物などの処分行為(相手への交付や支払いなど)があったこと
- ④財物または財産上の利益の移転があったこと
2,債務不履行は詐欺罪に該当するのか?
前述の通り、詐欺罪が成立するためには、まず故意に相手をだます行為があったことが必要になります。
そのため、例えば期限を過ぎても代金を支払ってもらえないようなケースでも、支払いが遅れているだけでは詐欺罪に該当しません。最初から代金を支払うつもりがなかったにもかかわらず商品を発注したような場合に限り、詐欺罪の成立の可能性があります。
2,債務不履行の3種類とは?
債務不履行には、前述したとおり、主に「履行遅滞・履行不能・不完全履行」の3つの類型があります。
(1)履行遅滞(民法412条)
履行遅滞とは、債務者が契約等で決められた期限までに債務を履行しないことをいいます。
具体例としては、「5月1日までに商品を納品する」と契約していたにもかかわらず、納期に遅れたというようなケースがあげられます。
▶参考情報:民法412条
第四百十二条 債務の履行について確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した時から遅滞の責任を負う。
2 債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した後に履行の請求を受けた時又はその期限の到来したことを知った時のいずれか早い時から遅滞の責任を負う。
3 債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。
・参照:「民法」の条文はこちら
(2)履行不能(民法412条の2)
履行不能とは、「債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であること」です。簡単に言い換えると、債務の履行が不可能になることをいいます。
具体例としては、世界に一点しかない絵画の売買契約を締結したものの、引き渡し前に火災で絵画を焼失してしまったようなケースがあげられます。
なお、金銭債務については履行不能の対象に含まれません。芸術品や商品等とは違い、金銭そのものが消失することがない以上、例え現時点で支払いが不可能であっても、将来的に資金調達できる可能性があるからです。そのため、資金不足で支払不能になったケースは、履行不能ではなく履行遅滞と扱われます。
▶参考情報:民法412条の2
第四百十二条の二 債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは、債権者は、その債務の履行を請求することができない。
2 契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは、第四百十五条の規定によりその履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない。
・参照:「民法」の条文はこちら
(3)不完全履行
不完全履行とは、債務者が行った履行が不完全(内容や品質が契約の要件に達していない状態)であることを言います。
具体例としては、部品を100個納品する契約であったにもかかわらず、70個しか納品されないようなケースがあげられます。
これらの債務不履行について、債権者側は①履行の強制(民法第414条)、②損害賠償請求(民法第415条)、③契約の解除(民法第541、542条)などの対応を取ることができます。
3,債務不履行責任に対する対応方法とは?(民法の根拠条文付き)
債務者が債務を履行しない場合、債権者は債務不履行責任を追及することができます。具体的には、主に(1)履行の強制、(2)損害賠償請求、(3)契約の解除、(4)履行追完請求、(5)代金減額請求が可能になります。
ここでは、それぞれの対応方法と民法の条文について解説します。
(1)履行の強制
「履行の強制」とは、債務者に対する契約上の権利を強制的に実現するために、強制執行の手続きをとることです。さまざまな債権について強制執行の手続きをとることができますが、実際によく行われるのは、金銭債権についての強制執行(差押え)です。例えば、債務者の預金を差し押さえたうえで、銀行から直接支払いを受けることで金銭債権を実現するケースがその例です。このような履行の強制については民法第414条に条文が置かれています。
▶参考情報:民法第414条
債務者が任意に債務の履行をしないときは、債権者は、民事執行法その他強制執行の手続に関する法令の規定に従い、直接強制、代替執行、間接強制その他の方法による履行の強制を裁判所に請求することができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
2 前項の規定は、損害賠償の請求を妨げない。
・参照:「民法」の条文はこちら
▶参考情報:強制執行(差押え)についての詳細は以下の記事で解説していますのでご参照ください。
(2)損害賠償請求
相手が債務を履行しない場合、債権者は民法第415条1項に基づき損害賠償を請求することもできます。債務不履行による損害賠償請求については、条文上以下の通り定められています。
・参考情報:民法第415条
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
2 前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。
一 債務の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき
・参照:「民法」の条文はこちら
(3)契約の解除
「契約の解除」とは、契約の当事者どちらか一方の意思表示により契約の効力を消滅させることをいいます。債務不履行による契約の解除については、民法541条(催告による解除)と、民法第542条(催告によらない解除)に以下の規定があります。
▶参考情報:民法第541条
当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。
▶参考情報:民法第542条
次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。
一 債務の全部の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。
四 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。
五 前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。
2 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の一部の解除をすることができる。
一 債務の一部の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
・参照:「民法」の条文はこちら
(4)履行追完請求
売買契約では、不良品が納品されるなど、契約内容に適さない履行が行われた場合、買主は売主に対し、目的物の修理・補修や代替物の納品を求めることができます。また、納品数量の不足がある場合は不足分の引き渡しを求めることができます(民法第562条1項)。これを履行追完請求と言います。請負契約でも同様の請求が可能です(民法第559条)。
ただし、契約不適合が債権者の責めに帰すべき事由によるものである場合は、追完請求をすることができません。この履行追完請求については以下の通り民法に条文が置かれています。
▶参考情報:民法第562条
引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。
2 前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。
・参照:「民法」の条文はこちら
(5)代金減額請求
売買契約では、前述の履行追完の催告をしても債務者が履行を追完しない場合、民法第563条1項に基づき、不適合の程度に応じた代金の減額を請求することができます。
ただし、以下の場合は催告無しで直ちに代金の減額を請求することが可能です。
- ①履行の追完が不能であるとき
- ②債務者が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき
- ③特定の日時または一定の期間内に履行しなければならない場合に、債務者が期限内に履行の追完をしなかったとき
- ④債務者が履行の追完をする見込みがないことが明らかなとき
また、請負契約でも同様に代金減額請求が可能です。
▶参考情報:民法第563条
前条第一項本文に規定する場合において、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。
2 前項の規定にかかわらず、次に掲げる場合には、買主は、同項の催告をすることなく、直ちに代金の減額を請求することができる。
一 履行の追完が不能であるとき。
二 売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、売主が履行の追完をしないでその時期を経過したとき。
四 前三号に掲げる場合のほか、買主が前項の催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかであるとき。
3 第一項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、前二項の規定による代金の減額の請求をすることができない。
・参照:「民法」の条文はこちら

前述の履行追完請求や代金減額請求に対する債務者の責任は、契約不適合責任と呼ばれます。契約不適合責任については以下の記事で解説していますのであわせてご参照ください。
4,債務不履行に基づく損害賠償請求と時効
前述の通り、債務者が債務を履行しない場合は損害賠償請求をすることが可能です。
民法第415条1項にこの点が定められています。これにより、相手が期限内に商品を納品しないなど、契約通りに債務を履行しないとき、またはできないとき、債権者は相手の債務不履行により生じた損害の賠償を請求することができます。その際に請求できる損害賠償の範囲は、「債務不履行により通常生ずべき損害」+「予見すべき特別の事情によって生じた損害」です(民法第416条)。
▶参考情報:民法第416条
第四百十六条 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
2 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる。
・参照:「民法」の条文はこちら
また、債務不履行に基づく損害賠償請求の時効は、原則として5年です(民法第166条1項1号)。
▶参考情報:民法第166条1項1号
第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
・参照:「民法」の条文はこちら
▶参考情報:債務不履行に関する損害賠償請求については、以下の記事や動画で詳しく解説していますので、そちらをご覧ください。
この記事の著者 弁護士 西川暢春が「債務不履行(契約違反)の損害賠償請求!4つの要件などを詳しく解説【前編】」と「債務不履行(契約違反)の損害賠償請求!どこまで請求できるかなどを解説【後編】」 について、動画で解説しています。
5,要件事実と立証責任
では、どのような条件(要件事実)を満たせば損害賠償を請求することができるのでしょうか?
ここでは、債務不履行に基づく損害賠償請求の要件事実と立証責任についてご説明します。
(1)要件事実
債務不履行に基づく損害賠償請求の要件事実は、以下の4つです。
- 1.当事者間で契約を締結したこと(当事者間に直接の契約関係があること)
- 2.相手方が債務を履行しないこと
- 3.損害の発生及びその金額
- 4.損害の発生と相手方の債務不履行に因果関係があること
(2)立証責任
上記4つの要件事実については債権者側(請求する側)に立証責任があります。
また、損害賠償請求においては、民法第416条1項の但し書きで「ただし、その債務の不履行が…債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。」と規定されていることから、債務不履行について債務者に責任(帰責事由)がないときは損害賠償請求が認められません。この帰責事由がないことについての立証責任は債務者側にあります。
▶参考情報:債務不履行に基づく損害賠償請求の要件事実と立証責任についても、以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
6,慰謝料は請求できるのか?
慰謝料とは、精神的な損害に対する賠償のことです。債務不履行の場合、通常の商取引等における納品遅れや商品不良といったものは単に財産的損害に留まるため、慰謝料は認められないことが多いです。
ただし、債務不履行により債権者に怪我を負わせたり、死亡させた場合は慰謝料請求が認めれます。
これに対し、債権者が法人である場合、法人には精神的苦痛は考えられないため、慰謝料請求は認められません。ただし、債務不履行により法人の信用を毀損した場合は、信用毀損について損害賠償請求が認められます。
7,過失相殺はあるのか?
過失相殺(民法第418条)とは、債務不履行等について、債権者側にも過失がある場合にその過失の程度に応じて賠償額が減額されることを言います。債務不履行やそれによる損害の発生や拡大について債権者側にも過失がある場合は、過失割合に応じて賠償額が減額される可能性があります。
例えば、A社がB社にシステム開発を委託したが、納期に遅延してA社に損害が発生したという場合、納期に遅延した原因がA社がB社に十分な協力をしなかったり、不適切な修正要望を出したりした点にあるような場合は、A社のB社に対する損害賠償請求が認められる場合でも、過失相殺により損害賠償額が減額される可能性があります。
▶参考情報:民法第418条
債務の不履行又はこれによる損害の発生若しくは拡大に関して債権者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任及びその額を定める。
・参照:「民法」の条文はこちら
8,債務不履行に基づく契約の解除
「契約の解除」とは、契約の当事者の意思表示により、契約の効力を遡って消滅させることをいいます。
契約を解除すると双方の債務が取り消されるため、既に支払った金銭や引き渡した商品等について返還を求めることができます。債務不履行における契約の解除については、大きく分けて催告による解除(民法第541条)と催告によらない解除(民法第542条)の2つがあります。
(1)催告による解除(民法第541条)
債権者は債務者に対し、相当の期間を定めて催告したにもかかわらず債務が履行されないときは、契約を解除することができます。
ここでいう「催告」とは、債務者に対し債務を履行するように求めることを言います。催告の方法は法律上特に定められてはいませんが、催告をしたことを証拠として残すことができるように内容証明郵便を用いるのが一般的です。
(2)催告によらない解除(民法第542条)
債権者は、以下の条件に該当する場合は、前述した催告を経ずに直ちに契約を解除することができます。
1,債務の全部の履行が不能なとき
例:引き渡し予定の商品が火事で焼失してしまい、同じ商品が他に用意できない場合
2,債務者が全部の履行について明確に拒絶の意思を示したとき
例:債務者が債権者宛に「商品を引き渡すつもりはない」旨を明記した内容証明郵便を送った場合
3,債務の一部の履行が不能、または債権者が債務の一部の履行について明確に拒絶した場合において、残存する部分のみでは契約の目的を達成できないとき
例:A社がB社に対し業務用システムの開発を依頼したものの、その中核機能である請求管理システムについて技術的な理由で開発ができないことが判明し、残りの部分だけではA社の契約の目的を達成できない場合
4,契約の性質や当事者の意思表示により、特定の日時または一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が期限内に履行しなかったとき
例:A社がB社に対し、イベント用のパンフレットの作成を依頼し、B社が納期に間に合わせることができず、イベント開催までに納品できなかった場合
5.その他催告をしても履行の見込みがないことが明らかな場合
9,債務不履行トラブルが発生したら?ポイントと注意点
ここでは、債務不履行トラブルが発生した場合の対応として注意すべきポイントをご説明します。
(1)早めに弁護士に相談する
契約相手の債務不履行に直面した場合、もっとも重要なことは、早い段階で弁護士に相談することです。
会社からの連絡を無視していても、弁護士から督促することで事の重大さを認識し、請求に応じるなど、弁護士が介入することで早々に解決するようなケースもあります。また、早いうちに弁護士に依頼することで、交渉の段階から裁判や差押えを見据えた証拠収集、情報収集をすることができます。その結果、裁判になった場合もスムーズな解決が見込めます。のらりくらりとかわして対応しないような相手には、期限を区切って期限までに問題を解決できなければ、訴訟を提起する方針であることを弁護士から伝えることで、対応を求める必要があります。
(2)証拠を確保する
「5,要件事実と立証責任」でご説明した通り、裁判を起こす場合は当事者間で契約を締結したことを立証する必要があります。しかし、なかにはメールや口頭のみで取引をしたために契約書等の書類がない場合があります。そのような場合は、契約の成立を示す証拠をどう確保するかが問題となります。
このようなケースでは、メールでのやりとりの履歴や督促の際に送付した書面や請求書といった資料が証拠として活用できる場合があるため、早い段階から弁護士に相談して関連する資料を確保しておくことが大切です。
(3)相手と連絡が取れない場合も裁判を検討する
交渉や請求のために連絡を取ろうとしても、全く連絡がつかないケースもあります。
相手が意図的に無視している場合は、どれだけ書面や電話で連絡をしても無反応で、裁判を起こすことで初めてやりとりができるといったことも珍しくありません。何度も督促しているのに相手と連絡が取れない場合は、早期に方針を切り替えて裁判を起こす必要があります。
(4)時効を過ぎてしまわないよう注意
「4,債務不履行に基づく損害賠償請求と時効」でご説明した通り、債務不履行に基づく損害賠償請求の時効は原則として5年です。
時効を過ぎてしまうと裁判による請求が不可能になります。また、時効がまだ先であっても、時間が経てば経つほど損害賠償等の回収の可能性は低くなってしまいます。そのため、債務不履行トラブルが起きた際はすぐに弁護士に相談してできるだけ早く対応することが重要です。
10,債務不履行トラブルについての咲くやこの花法律事務所の解決事例
咲くやこの花法律事務所では、取引先等の債務不履行について、企業から多くのご依頼をいただき、債権額の回収を実現してきました。
咲くやこの花法律事務所がサポートした解決事例の一部を以下でご紹介します。
(1)施主と連絡がとれず未払いになっていた内装工事費について全額回収した事例
●事案の概要
本件は、賃貸マンションの内装工事費用が期限になっても支払われず、発注者である家主に請求しても連絡がつかず、回収ができなくなっていたため、咲くやこの花法律事務所が相談者から依頼を受け、裁判を起こして工事費の支払いを求めた事案です。
●解決結果
裁判所で強制力のある形での和解が成立し、分割ではありましたが、最終的に家主に工事費用全額を支払わせることができました。
●事案解決のポイント
本件では相談者が施主に連絡しても全く応答がなく、意図的に無視されている状況でした。裁判を起こすうえで、契約書などの証拠書類がないことが問題になりましたが、弁護士と相談者が協力して提訴前に丁寧に証拠を集めた結果、裁判でも請求が認められ、トラブルの解決につながりました。
▶参考情報:上記の解決事例について、弁護士による対応内容の詳しい解説等は以下の記事をご覧ください。
11,債務不履行の対応に関して弁護士に相談したい方はこちら
咲くやこの花法律事務所では、債務不履行に関するトラブルについて、企業からのご相談をお受けして解決してきました。最後に、咲くやこの花法律事務所の弁護士による債務不履行に関するサポート内容をご紹介します。
(1)債務不履行についての対応に関するご相談
咲くやこの花法律事務所では、取引先の債務不履行が発生した場面でその対応に関するご相談をお受けしています。
代金の未払い、納期や工期への遅延など、債務不履行への対応に関してお困りの方は咲くやこの花法律事務所にご相談ください。
- 債務不履行についての交渉に関するご相談
- 契約解除に関するご相談
- 債務不履行についての損害賠償請求に関するご相談
弁護士への相談費用
- 初回相談料:30分5,000円+税(顧問契約締結の場合は無料)
- 相談方法:来所相談のほか、電話相談、オンライン相談が可能
(2)顧問弁護士サービス
取引先の債務不履行について自社のみで対応しようとすると、のらりくらりと交わされたり、連絡を無視されるなど、なかなか解決に至らないことも少なくありません。なかには交渉に行き詰まっているうちに、相手が破産して回収の見込みがなくなってしまうといったケースもあります。
咲くやこの花法律事務所では、事業者向けに顧問弁護士サービスを提供しており、顧問契約サービスをご利用の事業者様は予約なしで気軽に弁護士にご相談いただくことができます。早い段階で弁護士にご相談いただき、場合によっては交渉をご依頼いただくことで、正しい適切な対応が可能になります。
▶参考情報:咲くやこの花法律事務所の顧問弁護士サービスについては、以下で詳しく説明していますので、ご覧ください。
(3)「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法
弁護士の相談を予約したい方は以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
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※個人の方からの問い合わせは受付しておりませんので、ご了承下さい。
12,まとめ
この記事では、債務不履行に関する民法上の規定や責任について詳しく解説しました。
まず、債務不履行とは、契約に基づく義務を果たさないことをいい、以下の3つの類型があります。
- (1)履行遅滞
- (2)履行不能
- (3)不完全履行
また、相手が債務を履行しない場合、債権者は債務不履行責任を追及することができます。具体的な方法と根拠条文はそれぞれ以下の通りです。
- (1)履行の強制:民法第414条
- (2)損害賠償請求:民法第415条
- (3)契約の解除:民法第541条、542条
- (4)履行追完請求:民法第562条
- (5)代金減額請求 民法第563条
このうち債務不履行に基づく損害賠償請求の時効は原則5年です。要件事実は以下の通りで、基本的には請求する側である債権者に立証責任があります。
- (1)当事者間で契約を締結したこと
- (2)相手方が債務を履行しないこと
- (3)損害の発生及びその金額
- (4)損害の発生と相手方の債務不履行に因果関係があること
相手に対し債務を履行するよう催告したにも関わらず債務が履行されない場合は、契約を解除することができます。ただし、相手側が履行を明確に拒絶するなどして履行される見込みがない場合は、催告無しでただちに契約を解除することが可能です。
債務不履行に対しては早い段階で適切な対応をとらないと、代金の回収ができず自社の資金繰りに悪影響が出たり、さらなるトラブルが発生して損害が拡大してしまうなどのおそれがあります。債務者の経済状況が悪化する危険もあり、迅速な対応が必要です。
咲くやこの花法律事務所では、債務不履行にまつわるトラブルについて事業者からのご相談をお受けし、解決してきた実績があります。取引先等の債務不履行についてお悩みの事業者様は、ぜひ咲くやこの花法律事務所にご相談ください。
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記事作成日:2025年6月18日
記事作成弁護士:西川 暢春
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