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能力不足の契約社員を更新しないことはできる?雇止めについて事例を交えて解説

能力不足の契約社員を更新しないことはできる?雇止めについて事例を交えて解説
  • 西川 暢春(にしかわ のぶはる)
  • この記事を書いた弁護士

    西川 暢春(にしかわ のぶはる)

    咲くやこの花法律事務所 代表弁護士
  • 出身地:奈良県。出身大学:東京大学法学部。主な取扱い分野は、「問題社員対応、労務・労働事件(企業側)、クレーム対応、債権回収、契約書関連、その他企業法務全般」です。事務所全体で600社以上の企業との顧問契約があり、企業向け顧問弁護士サービスを提供。

こんにちは。弁護士法人咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。

能力不足の契約社員の雇止めを考えていませんか?

咲くやこの花法律事務所でも以下のようなご相談をいただくことが少なくありません。

 

  • 契約社員に業務上のミスが多く、指導する側が疲弊している
  • 仕事が遅く、10分程度で終わるような作業を2日かけたりして困っており、雇止めしたいと思っている。いままで指導してきたが全く改善が見られない。
  • 契約社員の能力不足で困っており、給与の減額に応じてくれない場合は、更新しない対応を考えている。

 

結論から言えばこのような場面で、企業は弁護士に相談して対応する必要があります。

「有期雇用だから期間満了のタイミングでいつでも雇止めができる」と安易に考えてしまうのは危険です。手続きがずさんなまま更新が繰り返されていたり、臨時的な業務ではなく恒常的な業務を担当していて更新についての合理的期待が認められる場合は、「雇止め法理」が適用され、正社員を解雇する場合と同様に厳しく雇止めの有効性が判断されることとなります。

訴訟において雇止めが無効とされた場合は、会社は契約の更新と多額の未払賃金の支払いを命じられることとなります。例えば以下の事例があります。

 

●裁判例1:学校法人玉手山学園(関西福祉科学大学)事件(京都地方裁判所判決令和5年5月19日)

1年契約を4回更新された非常勤講師に更新の合理的期待を認め、能力不足による雇止めを無効として法人に約390万円の支払いを命じた事例

 

●裁判例2:東京地方裁判所判決令和 6年 3月19日

販促物制作やイベント運営等を事業とする会社が行った、能力不足や勤怠不良を理由にした雇止めが無効とされ、会社が約1350万円の支払いを命じられた事例

 

会社としては、雇止めをする前に、雇止め法理の適用があるかを十分に検討したうえで、正しい手順で対応する必要があります。

この記事では、能力不足の契約社員の雇止めについて、雇止めが有効とされる要件や、実際の裁判例、雇用保険(失業保険)の扱いなどをご紹介します。この記事を最後まで読めば、能力不足を理由に契約社員との雇用を終了する場合にどのような対応が必要かがわかり、リスクを理解したうえで問題の解決に向けた正しい一歩を踏み出すことができるはずです。

それでは見ていきましょう。

 

「弁護士西川暢春のワンポイント解説」

雇止めで訴訟トラブルとなり会社側が敗訴した場合、会社は雇用契約の継続だけでなく、バックペイの支払いを命じられることとなります。

バックペイとは雇止めにより従業員が働けなかった期間について会社に賃金の支払いを命じるものです。訴訟は、最低でも1年程度はかかることが多く、上記で紹介した裁判例のように、バックペイの支払いを命じられた場合は、会社は数百万円から1000万円以上にのぼる多額の支払いをしなければならなくなります。(▶参考情報:バックペイとは?)

このように、雇用契約の期間満了の場面であっても安易に雇止めをすることは会社にとって大きなリスクがあります。雇止めを検討している企業や人事担当者の方は、事前に、人事労務を企業側で扱う弁護士に相談することが、トラブル防止の観点から非常に重要です。

筆者が代表を務める咲くやこの花法律事務所では、企業側の立場で雇止めについてご相談をお受けしていますので、是非ご利用ください。咲くやこの花法律事務所のサポート内容については以下もご参照ください。

能力不足など問題社員対応に関する咲くやこの花法律事務所のサポート内容は以下もご参照ください。

▶参考情報:問題社員対応に関する企業側弁護士への相談サービスはこちら

 

また、実際に咲くやこの花法律事務所の弁護士が有期雇用の雇止め関連の対応をサポートしてきた解決事例もご紹介していますのであわせてご覧ください。

▶参考情報:実際に咲くやこの花法律事務所の弁護士が有期雇用の雇止め関連の対応をサポートした解決事例はこちら

 

▶参考動画:この記事の著者 弁護士西川暢春が、「能力不足でも更新拒否できない⁉ 契約社員の雇止めで1350万円の敗訴事例も!会社はどう対応すべき?弁護士が解説」の動画でも、能力不足の契約社員の会社の対応について、裁判例などを交えながら詳しく解説しています。こちらもあわせてご参照ください。

 

▼能力不足の契約社員の対応について、弁護士の相談を予約したい方は、以下よりお気軽にお問い合わせ下さい。

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1,能力不足の契約社員とは?

能力不足の契約社員とは、業務遂行に必要な知識・技能・経験等が十分でなく、会社が求める業務水準に達しない状態にある契約社員をいいます。

例えば、以下のようなケースが典型例として挙げられます。

 

  • 業務の水準について長期間求められる水準を下回る状況が続き、指導を重ねても改善が見られない場合
  • ミスが多く、指導を重ねても改善が見られずに業務に支障が生じている場合

 

会社としては、まずは十分な指導を行い本人に改善を促すことが適切ですが、それでも改善が見られない場合は雇用の終了を検討せざるを得ないことがあります。

 

2,能力不足の契約社員に対する正しい対応方法は?

能力不足の契約社員に対する正しい対応方法は?

能力不足の契約社員に対しては、以下の順に対応することが適切です。

 

  • (1)具体的な問題点の指摘
  • (2)改善方法の指導
  • (3)改善の機会を与える
  • (4)改善できない場合は雇用終了を検討する

 

それぞれ順番に解説していきます。

 

(1)具体的な問題点の指摘

まず、会社としてその契約社員に求める業務内容、業務水準を具体的に説明し、いまの業務状況のどの点に問題があるかを具体的に指摘することが必要です。

 

(2)改善方法の指導

指導担当者と指導責任者を決めたうえで、具体的にどのように改善すべきかという改善方法の指導を行います。契約社員に毎日業務日報を提出させ、それにコメントを入れる中で具体的な改善方法を指導していくことが適切です。また、指導した内容は、指導担当者の側でも指導記録票に記録することが必要です。

 

(3)改善の機会を与える

一定期間、面談による指導を続けながら、業務改善の機会を与えて、改善状況を確認します。

 

(4)改善できない場合は雇用終了を検討する

業務の改善の見込みがなく雇用の維持も難しい場合は雇止めを検討します。ただし、雇止め法理の適用の可能性がある場合は、雇止めの判断にリスクも伴うため、できる限り退職勧奨で合意による解決を行うことが適切です。

 

▶参考情報:退職勧奨については以下の記事で詳しく解説していますのであわせてご参照ください。

・退職勧奨(退職勧告)とは?適法な進め方や言い方・注意点を弁護士が解説

 

3,能力不足の契約社員を更新しないことは可能?雇止めについて

能力不足の契約社員を更新しないことは可能?雇止めについて

雇止めとは、有期労働契約において、事業者側が契約の更新を拒否し、契約期間満了によって雇用契約を終了させることです。

 

▶参考情報:雇止めについて詳しくは以下の記事で解説していますので、あわせてご参照ください。

・雇い止めとは?無効になる基準や会社都合になるかなどの注意点を解説

 

雇止めについては「雇止め法理」(労働契約法第19条)により一定の場合は無効とされるなど、労働者保護の観点から様々な規制が設けられています。

能力不足を理由として契約社員を雇止めする場合、以下の2点を確認する必要があります。

 

  • (1)雇止め法理の適用があるか
  • (2)雇止め法理の適用がある場合は、雇止めに合理的な理由があると認められるか

 

詳しくご説明します。

 

(1)雇止め法理の適用があるか?

雇止め法理とは、「法律で定められた一定の場合は、契約社員の雇止めに合理的な理由と社会通念上の相当性が必要とされ、これを満たさない雇止めは無効とされる」というルールのことを言います。労働契約法第19条にこの点が定められています。

 

▶参考情報:労働契約法第19条

第十九条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

・参照元:「労働契約法」の条文

 

雇止め法理が適用される場面では、雇止めに「合理的な理由があり、社会通念上の相当性があること」が必要となります。一方で、雇止め法理が適用されない場面では、特に制限はなく、雇止めが可能です。

そのため、契約社員の能力不足があった場合でも、①雇止め法理が適用され、②合理的な理由や社会通念上の相当性が認められない場合には、雇止めは無効となります。

雇止めの有効性の判断については、簡単にまとめると以下の通りとなります。

裁判例における契約社員の雇止めの有効性の判断について

 

1,雇止め法理が適用される場面とは?

雇止め法理は、すべての契約社員の雇止めに適用されるわけではなく、下記のいずれかの条件を満たす場合に適用されます。

 

  • ① 契約社員の更新手続きがずさんなまま繰り返されているなどの事情から、期間の定めのない労働契約と実質的に異ならない状態になっている場合
  • ② 労働者において更新を期待することについて合理的な理由があると認められる場合

 

①は実質無期契約型、②は期待保護型などと呼ばれます。

このうち、「①期間の定めのない労働契約と実質的に異ならない状態になっている場合」(実質無期契約型)にあたるかについては、以下の点を総合的に考慮して判断されることとなります。

 

  • 雇用の臨時性・常用性
  • 更新の回数
  • 雇用の通算期間
  • 契約期間管理の状況
  • 契約更新の手続きが適切に行われていたかどうか

 

また、下記のような事情があるケースでは、「②労働者において更新を期待することについて合理的な理由があると認められる場合」(期待保護型)に該当すると判断される可能性があります。

 

  • 採用面接の際に「できるだけ長く勤めてください」とか「特に問題がなければ契約は更新されます」と説明するなど、契約更新を期待させるような発言があったケース
  • 業務内容が一定期間後に終了する予定がないような常時必要とされる業務であり、恒常性が認められるケース

 

▶参考情報:雇止め法理については、以下の記事で詳しく解説していますので、合わせてご参照ください。

・契約社員の雇止め法理とは?弁護士がわかりやすく解説

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

雇止め法理の適用をできるだけ回避するためには、契約更新の際の手続きや更新面談を適切に行い、また契約更新を期待させる言動をしないことが必要です。ただ、そのような取り組みをしていても、契約社員に臨時的な業務ではなく恒常的に存在する業務を担当させている場合、「②労働者において更新を期待することについて合理的な理由があると認められる場合」(期待保護型)にあたるとして、雇止め法理を適用する裁判例が多数みられることに注意が必要です。

 

(2)雇止め法理の適用がある場合は、雇止めに合理的な理由があると認められるか?

雇止め法理が適用される場面では、合理的な理由があり、社会通念上相当と認められる場合にのみ雇止めが有効となります。

この「合理的な理由」や「社会通念上の相当性」については、正社員を解雇する場合とおおむね同様の判断基準となっています。

そのため、雇止め法理が適用される場面では、能力不足を理由として正社員を解雇する際とほぼ同様に、能力不足を理由とする雇止めの有効性が厳しく判断されることとなります。
能力不足を示す事実について十分な具体性と証拠が確保されているか、業務の問題点について十分な指導が行われているかを確認しておく必要があります。

 

▶参考情報:なお、能力不足の従業員の指導方法については以下の記事で解説していますのであわせてご参照ください。

・仕事ができない人の対処法は?能力不足の社員の特徴や対応方法を詳しく解説

 

4,能力不足の契約社員を雇止めした事案についての裁判例

以下では、実際に、能力不足を理由とする雇止めの有効性が争われた裁判例をご紹介します。

 

(1)雇止めが無効とされた裁判例

 

1年契約を4回更新された非常勤講師の更新の合理的期待を認め、能力不足を理由とする雇止めを無効とした事例:「学校法人玉手山学園事件(京都地方裁判所判決令和5年5月19日)」

 

●事案の概要

1年間の有期労働契約で大学の非常勤講師として勤務していた職員について、4回にわたり契約更新をしていましたが、5回目の更新をせず能力不足を理由として雇止めしたところ、職員から雇止めは無効であるとして訴訟を提起された事案です。

 

●裁判所の判断

裁判所は、職員が契約更新されると期待することについて、程度は高いとはいえないものの一定程度の合理性は認められるとしました。その上で、本件雇止めは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとは認められないとして無効と判断し、大学側にバックペイとして約390万円の支払いを命じました。

その理由は以下の通りです。

 

 ① 雇止め法理の「②労働者において更新を期待することについて合理的な理由があると認められる場合」にあたるかについて

裁判所は、以下の事情を考慮し、契約更新されると期待することについて一定程度の合理性が認められると判断しました。

 

  • 職員が担当していた教科が、一般的に大学において第一外国語として履修対象とされることが多く、また本件の大学において1年次および2年次の必修科目であったこと。
  • 職員は、学期ごとに安定的に5〜6コマを担当してきたことから、恒常性がある業務であると言えること。
  • 4回にわたり契約更新された原告が、雇用継続に対する期待を抱いても不思議はないこと。

 

② 雇止めの合理的な理由の有無について

会社側は、能力不足を裏付ける証拠として、以下の事情を主張していました。

 

  • 職員の授業に関する学生アンケートの評価結果が悪化していること
  • 他の非常勤講師と比べて学生の英語能力向上に資する授業を実施できておらず、不合格率の平均が高いこと

 

しかし、それぞれの点について裁判所は、下記の理由から認められないと判示しました。

 

能力不足であったとする大学側の主張 裁判所が能力不足は認められないと判断した理由
職員の授業に関する学生アンケートの評価結果が悪化していること ・アンケートがどこまで学生の真摯な意見が反映されているか明らかではない。
・アンケート結果により指導能力や勤務態度の良し悪しを判定することができているかが明らかでない。
・全ての評価項目について「大きく」悪化しているとまでいうことはできない。
他の非常勤講師と比べて学生の英語能力向上に資する授業を実施できておらず、不合格率の平均が高いこと ・職員は大学側から指定を受けた教科書が少し難しすぎることを理解していたものの、大学側からの指示に忠実に従ったために、他の非常勤講師より多数の不合格者を出したものと認められる。
・授業を受講する学生の不合格率は最大でも20%弱であって、必ずしも多すぎるということもできない。

 

(2)雇止めが有効とされた裁判例

 

契約更新を3回受けた非常勤の介護職員について、能力不足を理由とする雇止めが有効とされた事例:大阪地方裁判所判決令和5年12月8日

 

●事案の概要

老人ホームで非常勤の介護職員として勤務していた職員について、法人が、当初3か月契約で雇用し、その後2か月、3か月、さらに1年と3度更新した後、職員の能力不足を理由として4回目の更新はなしとして雇止めした事案です。法人は、この職員から、期間の定めのない雇用と実質的に変わらない状態にあり、また更新への合理的期待があったにもかかわらず雇止めされたとして、地位確認および未払賃金の支払を求める訴訟を提起されました。

 

●裁判所の判断

裁判所は、無期契約と同視できるとは言えないとしたうえで、契約更新への合理的期待は認められないか、あっても低い程度にとどまると判断しました。そして、施設側が介護職員としての業務適性に欠けると判断したことには合理性があるとして、雇止めは有効と判断しました。

 

① 雇止め法理の「①期間の定めのない労働契約と実質的に異ならない状態になっている場合」に該当するかについて

裁判所は、以下の事情から期間の定めのない労働契約と同視できる状態とはいえないとしました。

 

  • 契約更新時に、当時の個別事情に応じて雇用期間を設定している上、更新の都度、雇用契約書への署名・押印を求めており、雇用契約の更新手続きが形骸化していたとはいえないこと。
  • 雇用契約の更新回数(3回)や雇用の通算期間(約1年8か月)に照らすと、本件雇止めが無期労働契約における解雇と社会通念上同視することはできないこと。

 

② 雇止め法理の「②労働者において更新を期待することについて合理的な理由があると認められる場合」に該当するかについて

裁判所は、以下の事情などを理由として、「雇用契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があったとは認められず、仮にこれが認められるとしても、その期待の程度はかなり低いものであった」と判示しました。

 

  • 雇用契約書上「更新する場合がある」と記載され、能力等を基準とすることが示されていたこと。
  • 法人において、実際に能力不足を理由に契約が更新されない例が存在したこと。
  • 法人側に契約更新を保証するような言動がなかったこと。
  • 雇用の通算期間も1年8か月と比較的短期間であること。

 

③ 雇止めの合理的な理由の有無について

法人は、能力不足を主張する証拠として、他の同僚職員から送られた、本件職員の問題行動について指摘されたメールを提示しました。

 

▶参考情報:指摘メールの内容の一部

  • 入居者の顔と名前が一致せず、呼び間違えることが多い。
  • 服薬支援を任せられないため、他の職員で服薬を行っているが、「できるようにならなければ」と思っている様子がなく、「次、服薬行って下さいね」と周囲の職員に指示出ししている状態である。
  • おやつを出した入居者に再度出そうとすることもある。
  • 準夜勤の朝など、「することがない」と言い、自分のタイミングで入居者を起こそうとし、職員から本件施設が求める支援ではないと何度説明しても一斉に起こそうとする。
    など

 

本件職員はこの内容を否定していましたが、裁判所は、同僚職員が本件職員について虚偽の業務上の問題点を指摘するメールを送信する動機は見当たらないことや、これらの業務上の問題点がみられたことを踏まえて様子を見る必要があるとの判断から、1回目の更新時に雇用期間が比較的短期間である2か月と設定されていることを理由に、客観的な裏付けがあると判断しました。

 

「弁護士西川暢春のワンポイント解説」

この大阪地方裁判所判決令和5年12月8日では、仮に雇止め法理が適用されるとしても、期待の程度はかなり低いものであり、業務上の問題点の内容や程度から、雇止めが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上不相当であるとはいえないと判断されました。

これは、職員の業務の問題点を指摘した同僚のメールが残っており、能力不足を証明できたことが大きかったと思われます。このように、能力不足を理由とする雇止めの場面では、その事案に応じた方法で、能力不足の事実について証拠を提示できるかどうかが重要になります。

 

5,本人に対して更新しない理由をどう説明するのが適切か?

契約更新しない旨を本人に伝える面談において、能力不足が理由であることを伝えるべきかは、個別に判断していくことが大切です。

例えば、今まで1度も更新していないケースなど、雇止め法理が適用される可能性が低い場合は、能力不足を指摘することで逆にトラブルになってしまう可能性もあるため、単に契約の更新はなしとする旨を伝えるだけにとどめる方が良いこともあります。

一方で、ある程度契約を更新していたり長い期間雇用していたようなケースでは、本人の能力が会社が求める水準に達していないことを丁寧に説明して、雇止めとなった理由について本人に理解してもらうことが非常に重要となります。

 

(1)能力不足であること説明する場合の注意点

能力不足を理由とする雇止めであることを伝える場合は、そのような結論に至る前に、会社側から十分な指導を行い、改善を促すというプロセスを経ることが非常に重要です。会社としては、すぐに雇止めとするのではなく、まずは指導をきちんと行い改善を試みることが大切です。

能力不足の従業員であっても、会社がそれを放置しているような場合、本人は自身の問題点に気付くことができません。そして、この認識がないまま雇止めを伝えてしまうと、本人としては問題ないと思っているため、自身が雇止めされることに納得がいかない、ということになり、後にトラブルに発展します。

会社としてしっかり指導を行うことで、初めて本人に「会社が求める水準で業務を行えていないこと」を認識させることとなり、面談で能力不足について伝える際も、会社の対応の一貫性を示すことができます。

 

▶参考情報:具体的な指導の方法については以下でも解説していますのであわせてご参照ください。

・問題社員を指導する方法をわかりやすく解説

 

6,雇用保険(失業保険)の扱い

雇止めされた労働者が基本手当(いわゆる失業手当)を受給するには、一定の条件を満たす必要があり、特定受給資格者か、特定理由離職者かのどちらに該当するかで受給できる金額が異なります。

 

(1)基本手当(失業手当)の給付条件

雇止めされた労働者が基本手当(失業手当)を受給するには、以下の要件を満たしている必要があります。

 

  • ①離職の日以前2年間に被保険者期間が通算して12か月以上あるか、離職の日以前1年間に被保険者期間が通算して6か月以上あること
  • ②就業の意思があること

 

(2)特定受給資格者と特定理由離職者の違いについて

有期雇用の労働者が雇止めされた場合は、特定受給資格者か特定理由離職者のどちらかに該当します。

 

1,対象者の違い

特定受給資格者は、以下の労働者が該当します。

 

  • 更新により3年以上雇用されたのち、雇止めとなった場合
  • 有期労働契約が更新されることが明示されていたが、更新されず雇止めされた場合

 

つまり、ある程度更新の期待を持っていた有期雇用の労働者が、雇止めされたケースが該当します。

一方で、特定理由離職者は以下の場合が該当し、特定受給資格者以外の有期雇用労働者が雇止めされたケースが当てはまります。

 

  • 更新を希望したにもかかわらず、労働契約の更新がないことにより雇止めされた場合

 

どちらに該当するかの判断については、最終的にはハローワークにおいて、事業主側と離職者側の双方の主張内容を把握したうえで判断されることとなります。

 

2,受給日数のちがい

特定受給資格者と特定理由離職者では、基本手当(失業手当)を受給できる日数が異なります。

特定受給資格者の場合、最大で330日の受給が可能である一方、特定理由離職者の場合は、最大でも150日となります。ただし、令和9年3月末日までの間は、特定理由離職者に該当する雇止めの場合でも、所定給付日数は特定受給資格者と同様とされています。

 

▶参考情報1:特定受給資格者の基本手当の所定給付日数

被保険者であった期間
1年未満 1年以上
5年未満
5年以上
10年未満
10年以上
20年未満
20年以上
区分 30歳未満 90日 90日 120日 180日 –
30歳以上35歳未満 120日 180日 210日 240日
35歳以上45歳未満 150日 240日 270日
45歳以上60歳未満 180日 240日 270日 330日
60歳以上65歳未満 150日 180日 210日 240日

 

▶参考情報2:特定理由離職者の基本手当の所定給付日数

被保険者であった期間
1年未満 1年以上
5年未満
5年以上
10年未満
10年以上
20年未満
20年以上
区分 全年齢 90日(※) 90日 120日 150日

・引用:厚生労働省「基本手当の所定給付日数」

 

7,実際に咲くやこの花法律事務所の弁護士が有期雇用の雇止め関連の対応をサポートした解決事例はこちら

次に、有期雇用の雇止め関連の対応について咲くやこの花法律事務所の弁護士が実際にサポートした解決事例をご紹介します。

 

(1)雇止め無効を主張する契約社員から起こされた復職を求める労働審判に対応し、復職を認めない内容での和解を成立させた事例

有期契約の従業員を雇止めしたところ、従業員から「雇止めは無効である」として労働審判を申し立てられ、復職および未払賃金の支払いを求められた事案です。会社としては円満に契約終了した認識であったため、突然の申立てに対応を迫られ、咲くやこの花法律事務所にご相談いただきました。

本件では、弁護士が詳細な聴き取りと資料精査を行い、雇止めの有効性だけでなく、「当事者間の合意による雇用契約終了」という主張を軸に据えて対応しました。具体的には、従業員が自ら退職日を指定し、その内容に基づく新たな雇用契約書が作成・保管されていた点に着目し、客観的証拠に基づいて合意退職の成立を主張しました。

労働審判では、これらの主張が評価され、会社側の言い分が認められる方向で手続が進みました。その結果、復職は行わない形で和解が成立し、解決金として給与約2.5か月分を支払うことで、申立てから約2か月という短期間での解決に至りました。平均的水準と比べても低い金額での解決となり、会社の負担を抑えつつ、早期に紛争を終結させることができた事案です。

 

▶参考情報:この事例については下記の記事で詳しくご紹介していますのでご参照ください。

・雇止め無効を主張する契約社員から起こされた復職を求める労働審判に対応し、復職を認めない内容での和解を成立させた事例

 

(2)契約社員に弁護士から解雇ではなく期間満了による労働契約の終了であると説明して紛争解決した事案

小売業を営む企業において、有期契約の従業員に対し契約期間満了による雇用終了を伝えたところ、従業員側から解雇理由通知書の交付を求められ、対応にお困りとなったことからご相談いただいた事案です。

本件のポイントは、「契約期間満了による終了」と「解雇」の法的な違いを踏まえ、適切に対応する点にありました。そこで、解雇理由通知書は交付できないことを明確にしつつ、労働基準法に基づく退職証明書および雇止め理由については、法令に沿った内容で弁護士が文書を作成し、従業員に送付しました。あわせて、契約更新を行わない旨の合意が記載された雇用契約書の写しも提示し、客観的根拠を示して説明を行いました。

その結果、従業員側からの異議やクレームは生じることなく、紛争に発展する前に円滑に解決することができました。

 

▶参考情報:この事例については下記の記事で詳しくご紹介していますのでご参照ください。

・契約社員に弁護士から解雇ではなく期間満了による労働契約の終了であると説明して紛争解決した事案

 

(3)社会福祉法人において能力不足の従業員についての雇止めをサポートした事案

社会福祉法人において、業務に十分対応できず、職場の同僚や上長に対する攻撃的な言動が問題になっていた職員の雇止めについて、咲くやこの花法律事務所の弁護士がサポートした事案です。

合意退職を目指して、1か月分の給与の解決金を提示することにしましたが、応じてもらえなければ雇止めする方針をとりました。これまでの経緯から、法人や同僚に対する悪口を書いたはがきを何通も出しており、説得が難航することも見込まれたので、弁護士も面談に同席して対応しました。

弁護士から、解決金を提示して説得しましたが、合意がまとまらず、最終的に雇止めの理由を説明したうえで、雇止めを行いました。

 

8,能力不足の契約社員の対応について咲くやこの花法律事務所への相談がおすすめ

ここまで見てきたように、能力不足という事情があっても契約社員の安易な雇止めは大きなトラブルに発展する危険があります。安易に自社で判断せずに、咲くやこの花法律事務所にご相談ください。咲くやこの花法律事務所にご相談いただくことには以下のメリットがあります。

 

(1)豊富な経験と解決実績に基づく対応

咲くやこの花法律事務所では、これまで多数の企業から同様のご相談を受け、雇止めに関するトラブルを解決してきた実績があります。そのなかで得たノウハウをもとに、机上の空論ではなく、現実に即した助言や対応が可能です。

 

(2)労働審判や訴訟にも一貫して対応が可能

能力不足を理由とする雇止めは、従業員から労働審判や訴訟を提起されるケースも少なくありません。このような場合、初動対応の内容がその後の結果に大きく影響します。

咲くやこの花法律事務所では、事前の相談段階から、万一紛争に発展した場合も見据えて対応方針を検討し、証拠の確保等を行います。そして、労働審判や訴訟まで一貫して対応することが可能です。途中で方針がぶれることなく、証拠や主張の整合性を保ったまま進めることで、企業側の意向に沿った解決を実現しやすくなります。

 

(3)顧問先650社以上の実績を踏まえ様々な業種に対応が可能

咲くやこの花法律事務所は、これまで650社以上の顧問先企業をサポートしてきた実績があり、小売業、製造業、IT業、医療・介護・福祉など、幅広い業種の労務問題に対応してきました。

業種によって人事運用や現場の実情は大きく異なるため、画一的な対応ではなく、それぞれの企業の実態に合わせた対応が重要になります。豊富な顧問対応の経験に基づき、各企業の状況に即した現実的かつ実行可能な解決策を提案・実行できる点も咲くやこの花法律事務所の強みの1つです。

 

9,能力不足の契約社員の対応に関して弁護士に相談したい方はこちら

能力不足の契約社員の対応に関して弁護士に相談したい方はこちら

以下では、契約社員の能力不足のトラブルの対応についての、咲くやこの花法律事務所のサポート内容をご紹介します。

 

(1)能力不足の契約社員の雇止めに関するご相談

咲くやこの花法律事務所では、能力不足の契約社員について雇止めのご相談をお受けしています。

安易に雇止めをしてしまう前に、雇止め法理の適用のリスクを慎重に検討する必要があります。また、雇止めをする際は、雇用終了までに十分な期間を設け、本人に丁寧に説明して理解してもらうことが大切です。

雇止めをする前に、十分な検討や準備をし、雇止めの理由について証拠も確保することで、後に労働審判や訴訟に発展するリスクを最小限にとどめることが可能です。そうすることで、結果的に、会社が労働審判や訴訟において多額の金銭や時間を費やすことを防ぐことができます。

咲くやこの花法律事務所では、事務所としての経験を踏まえ、弁護士が企業の立場に立って、ご相談、ご依頼をお受けします。ぜひ、雇止めする前の段階でご相談ください。

 

咲くやこの花法律事務所の弁護士へのご相談費用

  • 初回相談料:30分5000円+税(顧問契約の場合は無料)
  • 相談方法:来所相談のほかオンライン相談、電話相談が可能

 

(2)能力不足を理由とした雇止めトラブルへの対応

雇止めの有効性は、判例を見ても明確な判断基準が示されているわけではなく、様々な状況を総合的に考慮したうえで、個々に判断されています。そのため、雇止めで労働者とトラブルになった場合、自社の判断で適切に対応していくことは容易ではありません。

咲くやこの花法律事務所では、これまで雇止めトラブルについて多数ご相談をいただいており、事案に応じた適切な主張により、事業者の利益を守る対応が可能です。雇止めトラブルへの対応についても咲くやこの花法律事務所にご相談ください。

 

咲くやこの花法律事務所の弁護士へのご相談費用

  • 初回相談料:30分5000円+税(顧問契約の場合は無料)
  • 相談方法:来所相談のほかオンライン相談、電話相談が可能

 

(3)顧問弁護士による雇止めトラブル防止のサポート

咲くやこの花法律事務所では、顧問弁護士サービスにより、企業の労務管理を継続的にサポートすることで、労務トラブルがおきない体制づくりを支援しています。

雇止めについても、契約社員に対する指導方法の工夫や、雇用契約書の整備、契約更新面談の準備、正社員と業務内容の差別化などを進めることで、法的リスクを最小限にとどめることが可能です。

トラブルが起きてから対応するのではなく、そもそもトラブルが起きないような体制を整えるという、一歩先をいった労務管理を実現することができます。

顧問契約をご検討中の方は、無料で弁護士との面談(オンラインや電話も可)を実施しておりますので、気軽にお問い合わせください。

 

咲くやこの花法律事務所の顧問弁護士サービスの費用例

  • 月額3万円+税~15万円+税
  • 申し込み方法:来所面談のほかオンライン面談、電話でのご案内が可能

 

▶参考情報:咲くやこの花法律事務所の顧問弁護士サービスの内容は以下をご参照ください。

・実績豊富な顧問弁護士サービスをお探しなら大阪の咲くやこの花法律事務所まで

 

(4)「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法

弁護士の相談を予約したい方は以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。

【お問い合わせについて】

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10,まとめ

この記事では、能力不足の契約社員への対応と雇止めについて解説しました。

能力不足を理由に雇止めを行う場合、以下の2点の検討が必要です。

 

  • (1)雇止め法理の適用があるか
  • (2)雇止め法理の適用がある場合は、雇止めに合理的な理由や社会通念上の相当性があると認められるか

 

雇止め法理とは、一定の場合に契約社員の雇止めに合理的理由や社会通念上の相当性が必要とされるルールであり、能力不足の契約社員の雇止めの場面でも、その適用の有無が重要な分岐点となります。

雇止め法理が適用される場面としては、以下が挙げられます。

 

  • ①契約社員の更新手続きがずさんなまま繰り返されているなどの事情から、期間の定めのない労働契約と実質的に異ならない状態になっている場合
  • ②労働者において更新を期待することについて合理的な理由があると認められる場合

 

例えば、更新回数が多い、業務が恒常的である、更新を期待させる発言があるといった事情がある場合には、雇止め法理が適用される可能性が高まります。

そして、雇止め法理が適用される場合には、能力不足の契約社員の雇止めについて「合理的な理由」や「社会通念上の相当性」が必要となり、正社員の解雇と類似した厳格な判断が行われます。能力不足を理由とする場合であっても、能力不足の事実や、それに対して会社が指導してきた事実について、客観的な証拠に基づく裏付けが不可欠です。

また、契約更新をしない旨を本人に説明する際は、ケースに応じた対応が必要です。更新回数が少ない場合には能力不足等の理由を詳細に述べない方が適切なこともありますが、一定期間継続して雇用している場合には、求められる業務水準に満たないことを丁寧に説明し、納得を得ることが重要です。

ただし、能力不足を理由とする場合には、事前に十分な指導と改善の機会を与えていることが前提となります。これを欠いたまま雇止めを伝えると、本人の納得が得られず、紛争に発展するリスクが高まります。日頃から指導内容を記録し、一貫した対応を行うことが重要です。

さらに、雇止め後の雇用保険の取扱いについてもご説明しました。

能力不足を理由とする雇止めは、判断や進め方を誤ると大きなトラブルにつながるおそれがあります。冒頭でご説明した通り、敗訴した企業が1000万円を超える多額の支払を命じられることもあります。トラブルなく対応するためにも、早い段階で労務問題に精通した弁護士にご相談いただくことが必要です。咲くやこの花法律事務所でもご相談をお受けしていますのでご利用ください。

 

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記事更新日:2026年7月30日
記事作成弁護士:西川 暢春

 

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