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使用者責任とは?基本要件(民法第715条)や事例や判例などをわかりやすく解説

使用者責任とは?基本要件(民法第715条)や事例や判例などをわかりやすく解説
  • 西川 暢春(にしかわ のぶはる)
  • この記事を書いた弁護士

    西川 暢春(にしかわ のぶはる)

    咲くやこの花法律事務所 代表弁護士
  • 出身地:奈良県。出身大学:東京大学法学部。主な取扱い分野は、「問題社員対応、労務・労働事件(企業側)、クレーム対応、債権回収、契約書関連、その他企業法務全般」です。事務所全体で400社以上の企業との顧問契約があり、企業向け顧問弁護士サービスを提供。

こんにちは。咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。

使用者責任についてわからないことがあり、悩んでいませんか?

使用者責任とは、従業員が他人に損害を発生させた場合に、会社もその従業員と連帯して被害者に対して損害賠償の責任を負う法制度です。民法第715条に使用者責任を定める規定がおかれています。従業員によるセクハラやパワハラ、従業員の過失による交通事故や業務上の事故、社内暴力など様々な場面で、会社の使用者責任が問題になります。

実際の裁判例としても以下のものがあります。

 

事例1:
労災事故の事例(大阪地方裁判所判決令和元年8月27日)

倉庫内作業中にフォークリフトを運転していた従業員が他の従業員の右足をひいた労災事故について、民法第715条に基づき、会社に対して約1600万円の賠償を命じた事例

 

事例2:
パワハラ自殺の事例(福井地方裁判所判決平成26年11月28日)

上司によるパワーハラスメントにより従業員が自殺したとして、民法第715条に基づき、会社に対して、8000万円を超える損害賠償を命じた事例

 

事例3:
通勤中の事故の事例(神戸地方裁判所判決平成22年5月11日)

従業員が自家用車で通勤中に起こした交通事故により被害者が負傷した事案について、民法第715条に基づき、会社に対して約850万円の支払いを命じた事例

 

ただし、従業員の行為であればすべて会社の責任になるわけではなく、従業員の行為が会社の事業に無関係のものである場合は、使用者責任は発生しません。

この記事では、使用者責任の基本的な考え方や要件、判例などをご説明したうえで、会社が使用者責任を問われた時の対応方法や予防策についてもご説明したいと思います。

この記事を最後まで読んでいただくことで、使用者責任に基づく請求を受けたときの会社側の反論方法や、使用者責任に関する事前のリスク対策についても理解していただくことができます。

それでは見ていきましょう。

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

使用者責任を問われるトラブルを放置すると、訴訟に発展し、解決までに多くの年月、労力、費用がかかることになりがちです。

トラブル発生時は、訴訟になる前の段階で弁護士に相談し、必要な反論を加えつつ裁判を回避して迅速に解決する途を目指すことが会社のメリットになることがほとんどです。

初期対応が重要であり、自己流の対応では、結果として後日、自社の不利につながりがちです。自社で対応する前に、できる限り早く弁護士にご相談いただくことをおすすめします。

 

▶参考情報:咲くやこの花法律事務所の労務・労働問題についての解決実績はこちらをご参照ください。

 

▼【動画で解説】西川弁護士が「従業員の行為は会社の責任?使用者責任について」を詳しく解説中!

 

▼使用者責任に関して今スグ弁護士に相談したい方は、以下よりお気軽にお問い合わせ下さい。

【お問い合わせについて】

※個人の方からの問い合わせは受付しておりませんので、ご了承下さい。

「咲くやこの花法律事務所」のお問い合わせページへ。

 

 

1,使用者責任とは?

使用者責任とは、従業員が他人に損害を発生させた場合に、その従業員が損害賠償の責任を負うだけでなく、会社もその従業員と連帯して被害者に対して損害賠償の責任を負う法制度です。

 

(1)報償責任や危険責任の考え方

なぜ、従業員が他人に損害を発生させた場合に会社が責任を負担しなければいけないのでしょうか?

その背景にある考え方が「報償責任」と「危険責任」です。

 

1,報償責任とは

報償責任とは、「利益を得る者が損失も負担する」という考え方です。

会社は、従業員を雇って、従業員を活動させることにより利益を得ています。従業員の活動によって利益を得ているのだから、その活動によって損害が生じた場合は、その損害も負担すべきというのが報償責任の考え方です。

 

2,危険責任とは

危険責任とは、「危険を支配する者が責任も負う」という考え方です。

会社は、自らの事業のために従業員を活動させることによって、社会に対して危険を及ぼす機会を増大させているので、会社が危険を生み出す者、危険を支配する者として、賠償責任を負うべきというのが危険責任の考え方です。

 

2,使用者責任の根拠条文は民法715条

使用者責任は民法715条1項に根拠となる条文が設けられています。その内容は以下の通りです。

 

▶参考情報:民法第715条1項

ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

 

・参照元:「民法」の条文はこちら

 

3,会社はどこまで責任を問われるのか?4つの要件を解説

従業員(被用者)の行為について、会社(使用者)の使用者責任が認められるのは、以下の4つの要件を全て満たす場合に限られます。

 

  • 要件1:被用者の不法行為があったこと
  • 要件2:使用者と被用者の間に使用関係があること
  • 要件3:被用者の不法行為が事業と関連して行われたものであること
  • 要件4:使用者としての免責事由に該当しないこと

 

これらの4つの要件は、会社が使用者責任を問われた場面で、必ず検討するべきものです。

4つの要件のうち1つでも該当しないときは、使用者責任は成立しません。

以下でそれぞれの要件について詳しく説明します。

 

(1)被用者の不法行為

1つ目の要件は、被用者の不法行為があったことです。

不法行為とは、故意または過失によって、他者の権利または利益を侵害し、損害を生じさせる行為のことです。

過失により交通事故を起こして他人に怪我をさせてしまったり、部下にパワハラをして精神的な被害を与えてしまったりということは、不法行為の典型例です。

一方、他者に被害が生じた場合でも、被用者に故意や過失がなく、被用者が不法行為責任を負わない場合は、使用者も責任を負うことはありません。

例えば、従業員が社用車を運転中に後続車に追突されて、同乗していた顧客がけがをしてしまったとしても、追突されたことは不法行為とはいえないので、使用者責任は発生しません。

 

(2)使用関係の存在

2つ目の要件は、使用者と被用者の間に「使用関係があること」です。

この「使用関係」は、会社と従業員のように直接雇用契約をしている場合が典型例です。会社が使用者、従業員が被用者と呼ばれます。

しかし、それだけでなく、直接の雇用契約がない場合でも、使用者が被用者を「実質的に指揮監督する関係」にあれば使用関係にあると判断されています。

使用者と被用者の間に契約関係があるかどうかや、行われる事業が継続的なものか一時的なものか、営利か非営利かは重要ではありません。

 

(3)事業の執行につき(外形理論)

3つ目の要件は、被用者の不法行為が、使用者の「事業の執行につき」行われたものであることです。

これは、被用者の不法行為が事業と関連して行われたものであることを要求する要件です。

ただし、この「事業の執行につき」というのは広く解釈されており、就業中に行われた行為や事業のために行われた行為に限定されません。

被用者の行為が、実際に事業のために行われたものであるか、被用者の職務の範囲内であるかどうかは別にして、世間一般からみれば事業のために行われた行為だと信じられるだけの外観があれば、その行為は「事業の執行につき」行われたものと判断されます。

このように、第三者から見た視点で「事業の執行につき」といえるかを判断することになっており、「外観理論」と呼ばれています。

例えば、業務時間外に会社に無断で社用車を私的利用して発生した交通事故や、会社の経理担当者が会社名義の手形を偽造した行為については、いずれも事業のための行為ではありませんが、「外観理論」に基づき、「事業の執行につき」行われたものと、裁判所で判断されています。

 

(4)免責事由の不存在

4つ目の要件は、使用者に免責事由がないことです。

使用者は、「被用者の選任および監督について相当の注意を払ったとき」または「相当の注意を払ったとしても損害が発生したであろうとき」、つまり使用者に落ち度がないときは、使用者責任を免れることができるとされています(民法第715条1項但書)。

しかし、実務上は免責事由に該当するとして、使用者が免責された事例はほぼなく、免責事由が認められることはまずありません。

 

4,業務委託でも使用者責任が発生するのか?

前述の通り、雇用関係ではなくても、「実質的な指揮監督関係」があれば、使用者責任が認められることがあります。

業務委託関係の場合に使用関係が肯定された裁判例として以下のようなものがあります。

 

参考裁判例:
委託先の従業員の注意義務違反により発生した交通事故について委託会社の使用者責任が肯定された事例(東京地方裁判所判決平成25年2月27日)

工事業者から委託をうけた警備会社が行った現場での交通誘導業務において、警備員の誘導ミスにより交通事故が発生した事案です。

裁判所は工事業者と警備員の間に雇用関係はないものの、実質的な指揮監督関係があったと認定し、交通事故について工事業者の使用者責任を肯定しました。

この裁判例は、実質的な指揮監督関係があったと認定した理由として、工事業者が警備員の配置及び配置時間帯を決定していたこと、工事業者が警備員に業務について報告書を提出させていたこと、警備員は事故発生後に最初に工事業者の現場監督に事故を連絡していること等をあげています。

 

【補足】暴力団と使用者責任

雇用関係がなくても使用者責任が肯定された著名な例として、暴力団組員による不法行為による被害について、組のトップに使用者責任を認めた裁判例が存在します。

最高裁は、階層的に構成されている暴力団の最上位の組長と下部組織の構成員との間について、暴力団の威力を利用しての資金獲得活動に係る事業に関する使用者責任を肯定しています(最高裁判所判決平成16年11月12日)。

これを受けて、組員らによる特殊詐欺の被害や、みかじめ料の支払い要求による被害について、組トップの使用者責任を肯定した裁判例が多数存在します。

 

 

5,使用責任が問題になる事例と判例

使用責任が問題になる事例と判例

以下では使用者責任が実際に問題になる事例について、判例の事案もあげながらご説明したいと思います。

 

(1)パワハラ

上司のパワハラ行為によって部下が精神的な被害を受けたり、あるいは精神疾患になったり、ひどい場合は、自殺してしまうというケースがあります。

この場合、加害者である上司には、被害者である部下あるいはその遺族に対する損害賠償責任が発生します。

そして、この上司は会社の従業員であることから、会社も、民法第715条により、部下に対して損害賠償責任(使用者責任)を負うことになります。

パワハラについて使用者責任が認められた裁判例として例えば以下のものがあります。

 

裁判例:
パワハラ自殺の事例(福井地方裁判所判決平成26年11月28日)

上司によるパワーハラスメントにより従業員が自殺したとして、民法第715条に基づき、会社に対して、8000万円を超える損害賠償を命じた事例

 

(2)セクハラ

上司のセクハラ行為による被害についても、会社が使用者責任を問われることがあります。

セクハラについて使用者責任が認められた裁判例として例えば以下のものがあります。

 

裁判例:
セクハラにより女性従業員が退職を余儀なくされた事例(青森地方裁判所判決平成16年12月24日)

出張中の旅館で部下である女性職員の部屋に入り込み抱擁するなど、上司により8年以上にわたり行われたセクハラ行為の結果、女性職員が退職を余儀なくされたとして、民法715条に基づき、会社に対して、600万円を超える損害賠償を命じた事例

 

(3)労災事故

被災者とは別の従業員の過失により、業務中の労災事故が発生するケースがあります。

この場合、国の労災保険からも一定の支給がありますが、慰謝料等は労災保険からは支払いがありません。

そのため、過失により労災事故を発生させた従業員は、被災者に対して、慰謝料等の損害賠償責任を負担します。

そして、この過失のあった従業員は会社の従業員であることから、会社も、民法第715条により、被災者に対して損害賠償責任(使用者責任)を負うことになります。

労災事故について使用者責任が認められた裁判例として例えば以下のものがあります。

 

裁判例:
労災事故の事例(大阪地方裁判所判決令和元年8月27日)

倉庫内作業でフォークリフトを運転していた従業員が他の従業員の右足を轢いた労災事故について、民法第715条に基づき、会社に対して約1600万円の賠償を命じた事例

なお、労災事故についての損害賠償金の算定方法や、労災事故発生に伴い会社に発生する使用者責任以外の責任については以下で詳しく解説していますので、ご参照ください。

 

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

ここまで使用者責任が問題となる事例としてご紹介した、労災事故やパワハラ、セクハラについては、使用者責任だけでなく、会社の安全配慮義務違反を理由とする損害賠償責任も別途問題とされることが多いです。

会社のリスクを把握するうえでも、使用者責任と安全配慮義務違反をセットで検討する必要があります。安全配慮義務違反については、以下の記事でご説明していますのでご参照ください。

 

▶参考情報:安全配慮義務違反とは?会社が訴えられる4つのケースと対応方法

 

(4)業務中の交通事故

従業員が業務として運送用車両や営業車両等を運転中に交通事故を起こし、第三者に被害を与えてしまった場合、従業員は被害者に対して不法行為に基づく損害賠償責任を負担します。

その場合は、通常、会社も、民法第715条により、使用者責任を負うことになります。

 

(5)通勤中の事故

従業員が通勤中に交通事故を起こし、被害者に被害を与えてしまった場合、従業員は被害者に対して不法行為に基づく損害賠償責任を負担します。

その場合に、会社も、民法第715条により、被害者から損害賠償請求を受け、使用者責任を問われるケースが少なくありません。

しかし、自家用車での通勤中の事故や自転車通勤中の事故については、通勤中は業務とは言えないことなどから、原則として使用者責任は否定されています(大阪地方裁判所判決平成26年3月27日等)。

ただし、公共交通機関がない場所で自家用車での通勤が必須になる場合や、会社が業務にも自家用車を使用させるなど自家用車の使用を奨励したり助長している等の事情がある場合は、通勤中の事故についても使用者責任が認められることがあります。

通勤中の交通事故について使用者責任が認められた裁判例として例えば以下のものがあります。

 

裁判例:
通勤中の事故の事例(神戸地方裁判所判決平成22年5月11日)

従業員が自家用車により通勤中に起こした交通事故により被害者を負傷させた事案について、民法第715条に基づき、会社に対して約850万円の支払いを命じた事例

 

6,使用者責任と慰謝料

会社に使用者責任が認められる場合、慰謝料も損害賠償の対象となることがあります。

特に、労災事故や交通事故で被害者を負傷させた場合や、被害者が亡くなった場合は、慰謝料についても会社が使用者責任を負担することになります。

また、セクハラやパワハラによる精神的被害についても慰謝料が発生し、会社が慰謝料についても使用者責任を負担することになります。

これに対して、物の損害については、通常は慰謝料は発生しません。

例えば、交通事故で被害者の車両が壊れたが、被害者に怪我はなかったという事案では、通常は、車両の修理費や車両の時価額を賠償すればよく、慰謝料の支払義務は発生しません。

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

被害者を死亡させたり、負傷させた事案では、慰謝料のほかにも、逸失利益、治療費、休業損害といった項目が損害賠償の対象となります。

この点については、以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。

 

▶参考情報:労災の損害賠償請求の算定方法をわかりやすく解説!

 

7,使用者責任を問われた場合の会社側の反論と事前の予防策

被害者から会社の使用者責任を問われた場面でも、適切な反論を加えることで、会社としての負担を回避できることは少なくありません。

そのため、被害者から請求を受けた場合も、それをうのみにせずにしっかりと反論を検討することが重要です。

以下では、使用者責任を問われた場合に会社ができる反論や事前の予防策についてご紹介したいと思います。

 

(1)パワハラ事案

パワハラ事案については、パワハラがあったことが認められれば、通常は、会社の使用者責任が肯定されます。

ただし、上司による行き過ぎた指導があったとしてパワハラ被害を訴えているケースについては、業務上正当な指導であり、そもそもパワハラにあたらないことを主張して、反論することが可能です。

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

パワハラで使用者責任を問われる事態を防ぐためには、会社は、パワハラ防止措置をしっかり行うことが重要です。

法律上、企業には、パワハラを許さない方針を明確にして周知すること、パワハラについて相談に応じる体制の整備、パワハラの被害申告があったときの適切な対応等がパワハラ防止措置として義務づけられています。

パワハラ防止措置について詳しくは以下で解説していますのでご参照ください。

 

▶参考情報:パワハラ防止の対策とは?義務付けられた10項目を弁護士が解説

 

(2)セクハラ事案

セクハラ事案について会社が使用者責任を問われた場合の反論は、大きく分けて以下の2通りです。

 

反論1:
そもそもセクハラにあたらないという反論

これには被害者のセクハラ主張が事実ではないという反論のほか、主張自体は事実であるがセクハラにあたらないという反論も含まれます。

また、被害者が主張するような性的行為があった場合でも、被害者の同意によるものであり、セクハラにはあたらないという反論も考えられます。

 

反論2:
会社の事業と無関係という反論

従業員によるセクハラ行為があった場合でも、事業との関連が薄く、会社は使用者責任を負わないという主張も検討に値します。

上司と部下がプライベートで飲酒した際のセクハラ行為等については、事業との関連性が薄く、使用者責任は発生しないと考えることができます。

セクハラについて使用者責任を否定した事例として東京地方裁判所判決平成23年5月10日等があります。

一方、会社の懇親会や慰労会でのセクハラ行為については、事業との関連を肯定し、使用者責任を肯定する裁判例が多くなっています(東京地方裁判所判決平成15年6月6日、東京高等裁判所判決平成20年9月10日等)。

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

セクハラで使用者責任を問われる事態を防ぐためには、会社としてセクハラ対策をしっかり行うことが重要です。

法律上、企業には、セクハラを許さないという企業の方針を明確にして周知すること、ハラスメント相談窓口の設置、セクハラの被害申告があったときの適切な対応等がセクハラ防止措置として義務づけられています。

会社が行うべきセクハラ対策について詳しくは以下で解説していますのでご参照ください。

 

▶参考情報:セクハラ対策について!会社がやるべき10項目のまとめ

 

(3)社内暴力

社内暴力事案についても、事業との関連が薄く使用者責任を負わないという主張が検討に値します。特に、いわゆる喧嘩については、事業と無関係であるとして、使用者責任を否定した裁判例も少なくありません。

 

▶参考情報:社員同士のいざこざ・喧嘩などについて、会社側の対応方法は以下の記事でも詳しく解説していますのであわせてご参照ください。

社員同士のいざこざ、喧嘩、仲が悪い!会社としてどう対応すべき?

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

東京地方裁判所判決平成30年11月1日は、被害社員が使用した傘を加害社員が干しておいたことに対して、被害社員が礼を言わなかったことに端を発して従業員間のトラブルになり暴行が行われた事案について、暴行が事業の執行についてされたものではないとして、会社の責任を否定していています。

なお、社内暴力を起こした従業員の処分等については、以下で解説していますので併せてご参照ください。

 

▶参考情報:社内で暴力を振るった社員の対応の重要ポイント

 

8,損害保険の活用も検討が必要

使用者責任を問われて会社が大きな賠償責任を負担するリスクがある場合には、損害賠償保険の活用も検討に値します。

以下では検討するべき損害賠償保険をご紹介します。

 

(1)自動車保険

交通事故は使用者責任が問われるリスクのある代表的なケースの1つです。

通勤や業務に車両を使用させる場合、車両使用者が事故を起こしてしまい、会社が使用者責任を問われるケースが出てくることを完全に防ぐことは難しいことが実情です。

しかし、適切な自動車保険に加入していれば、会社が使用者責任を負担する事態になっても、それを保険でカバーすることが可能です

通勤や業務に車両を使用させるときは、以下の点を確認しておきましょう。

 

  • 必ず、自賠責保険と任意保険の両方への加入を確認することが必要です。
  • 任意保険の加入時に、自動車の使用目的を「業務使用」、「通勤・通学使用」、「日常・レジャー使用」等の中から選択することになり、これによって保険料も異なります。間違った自動車保険に加入している場合、交通事故を起こしても保険金が支払われないおそれがあるため、必ず正しい自動車保険に加入することが必要です。
  • 自動車保険の限度額は「対人、対物無制限」を選択しましょう。対物でも大きな賠償額になることがあります。

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

バイクや原付での通勤についても、必ず、自賠責保険と任意保険の両方に加入しているかの確認をしておきましょう。バイクや原付については任意保険に加入していない人も多く、会社のリスク対策の穴になる危険があります。

 

(2)自転車保険

自転車通勤中の交通事故で使用者責任を問われる事態については、会社が自転車通勤者に自転車保険への加入を義務付けることにより対策することが一般です。

東京都や大阪府においては、条例で自転車利用者に保険加入を義務付けており、自転車通勤者にこれらの条例を守らせることが必要です。

 

 

(3)使用者賠償責任保険

労災事故で会社が使用者責任を負担した場合の損害賠償については、使用者賠償責任保険の活用を検討することが可能です。

 

9,会社は従業員に求償できる

会社が自社の従業員による加害行為について、使用者責任に基づき被害者に賠償をした場合、会社は加害行為を行った従業員に対して賠償金の全部又は一部の負担を求めることができます。これを「求償」といいます(民法第715条3項)

ただし、会社が被害者に支払った賠償金のうち、どの範囲について、加害者である従業員に対する求償が認められるかについては、法律上の規定がなく、事案によって裁判所の判断がわかれています。

一般に、従業員による顧客の金銭の横領などといった、故意による加害行為について、会社が被害者に賠償したケースでは、会社が賠償した金額の全額を従業員に求償することが認められることが多くなっています(東京地方裁判所判決平成28年4月28日等)。

一方、交通事故などの過失による加害行為については、全額の求償は認められないことがほとんどです。

過去の最高裁判例では、従業員がタンクローリー運転中に交通事故で第三者に被害を与えた事案について、会社が被害者に対して賠償した額の4分の1を限度として、この従業員への求償を認めたものがあります(最高裁判所判決昭和51年7月8日)

 

 

10,従業員から会社への逆求償について

会社から従業員に対する求償とは逆に、従業員から会社に対する求償のことを「逆求償」といいます。

つまり、従業員が業務に関連して第三者に被害を与えてしまい、その損害を賠償をした場合、従業員から会社に対して、被害者へ支払った賠償金の負担を求めるのが「逆求償」です。

この逆求償ができるかどうかについては、法律上の規定がなく、裁判所の判断がわかれていましたが、令和2年2月28日に最高裁判所で逆求償を認める判決が出ました。

以下で裁判例をご紹介します。

 

判例:
最高裁判所判決令和2年2月28日

 

事案の概要

運送会社にトラック運転手として勤務する従業員が、業務中に死亡事故を発生させ、被害者の相続人に対し従業員が賠償金を支払った後、従業員が運送会社に対して賠償金の負担を求めた事案です。

 

裁判所の判断

最高裁判所は「損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度について、使用者(会社)に対して求償することができる」として、従業員から会社に対する逆求償を認めました。

 

判断の理由

最高裁判所は、逆求償を認めた理由として以下の点を挙げています。

 

  • そもそも使用者責任は、損害の公平な分担という観点から、従業員が事業の執行について第三者に与えた損害を会社に負担させることとしたものであること
  • 使用者責任の趣旨からすれば、会社は被害者に対する損害賠償義務だけでなく、従業員との間でも損害の全部または一部について負担するべき場合があること
  • 「会社が被害者に対して賠償をしてから従業員に対して求償をした場合」と「従業員が被害者に対して賠償をした場合」で会社の損害の負担について異なる結果となるのは適切でないこと

 

また、この事案では、使用者である運送会社が、自動車保険(任意保険)に加入していなかったという事情もありました。

 

 

なお、従業員が支払った賠償金のうち、どの程度の割合について、会社に対する逆求償が認められるかについては、「会社の事業の性格、規模、施設の状況、従業員の義務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防または損失の分散についての会社の配慮の程度、その他諸般の事情」を考慮し、個別に判断されることになります。

 

11,時効について

令和2年4月の民法改正により、使用者責任の時効や求償権についての時効の規定が変更されました。

 

(1)使用者責任の時効

使用者責任の時効は、民法第724条1号により、原則として3年とされています。

ただし、被害者の生命や身体を害するような不法行為についての使用者責任については、時効は5年とされています(民法724条の2)。

そのため、交通事故や労災事故で被害者を負傷させた場合の使用者責任の時効期間は5年となります。

 

(2)求償や逆求償についての時効

会社が被害者に支払った賠償金について従業員に負担を求める「求償」については、会社が被害者に賠償金を支払ったときから、5年たてば時効になります(民法166条1項1号)。

また、従業員が被害者に支払った賠償金について会社に負担を求める「逆求償」についても、従業員が被害者に賠償金を支払ったときから、5年たてば時効になります(民法166条1項1号)。

 

12,咲くやこの花法律事務所の弁護士なら「こんなサポートができます」

咲くやこの花法律事務の弁護士によるサポート内容

ここまで使用者責任についてご説明しました。最後に咲くやこの花法律事務所の使用者責任に関するサポート内容をご紹介したいと思います。

咲くやこの花法律事務所では、使用者責任について、企業の経営者、担当者から、以下のようなご相談をお受けしています。

 

  • 使用者責任に基づく賠償請求がされた場合の対応や弁護士への交渉依頼
  • 使用者責任に関する訴訟事案の弁護士への依頼
  • 使用者責任に関する企業のリスク対策のご相談

 

労務問題、労働問題に精通した弁護士が企業側の立場になってご相談をお受けします。

特にトラブルの事案については、裁判になる前に、交渉段階からご相談いただくことをおすすめします。裁判になる前に弁護士にご依頼いただくことで、トラブルを裁判に発展させることなく迅速に解決することが多いです。

 

咲くやこの花法律事務所の労務問題、労働問題に精通した弁護士へのご相談費用

●初回来所相談 30分5000円+税(顧問契約の場合は無料)

 

13,「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法

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記事更新日:2023年1月16日
記事作成者:弁護士 西川暢春

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    労使トラブル円満解決のための就業規則・関連書式 作成ハンドブック

    著者:弁護士 西川 暢春
    発売日:2023年11月19日
    出版社:株式会社日本法令
    ページ数:1280ページ
    価格:9,680円


    「問題社員トラブル円満解決の実践的手法」〜訴訟発展リスクを9割減らせる退職勧奨の進め方

    著者:弁護士 西川 暢春
    発売日:2021年10月19日
    出版社:株式会社日本法令
    ページ数:416ページ
    価格:3,080円


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