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社内で暴力を振るった社員の対応の重要ポイント

社内で暴力を振るった社員の対応の重要ポイント
  • 西川 暢春(にしかわ のぶはる)
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    西川 暢春(にしかわ のぶはる)

    咲くやこの花法律事務所 代表弁護士
  • 出身地:奈良県。出身大学:東京大学法学部。主な取扱い分野は、「問題社員対応、労務・労働事件(企業側)、クレーム対応、債権回収、契約書関連、その他企業法務全般」です。事務所全体で400社以上の企業との顧問契約があり、企業向け顧問弁護士サービスを提供。

こんにちは。咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。

社内で暴力を振るった社員への対応に悩んでいませんか?

暴力はいかなる場合でも許されるものではなく、会社の規律維持の観点からも、何らかの処分を科すことが必要です。しかし、会社が社内暴力を理由に加害社員を解雇した事例の中には、以下のように、処分が重すぎるとして、裁判所で解雇が無効と判断され、企業が多額の支払いを命じられているものが多数存在します。

 

判例1:大阪地方裁判所判決平成30年9月20日(医療法人錦秀会事件)

病院の職員に対して暴力行為を行った医師を解雇したことが、不当解雇と判断され、病院が860万円の支払を命じられた事例

 

判例2:名古屋地方裁判所判決平成15年5月30日(ダイコー事件)

職場構内で同僚に暴行を加えたトラック運転手を解雇したことが、不当解雇と判断され、会社が、約900万円の支払と雇用の継続を命じられた事例(▶参考情報:「名古屋地方裁判所判決平成15年5月30日(ダイコー事件)」の判決内容

 

この記事では、社内暴力があったときに、加害社員に懲戒処分を科したり、加害社員を解雇をする際の注意点や、社内での従業員間の暴力トラブルについての会社の責任について、ご説明します。

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

社内で暴力を振るった社員への対応を誤ると、裁判トラブルに発展するリスクがあるうえ、前述の裁判例のように裁判で敗訴し、多額の支払いを命じられることになる危険があります。

暴力を振るった社員への対応として、懲戒処分や解雇を検討する場合は、必ず事前に弁護士にご相談いただくことをおすすめします。

 

▼【動画で解説】西川弁護士が「社内で暴力を振るった社員!対応の重要ポイント」を詳しく解説中!

 

▶【関連情報】社内暴力の対応については、以下の関連記事でも解説していますので参考にご覧ください。

社員同士のいざこざ、喧嘩、仲が悪い!会社としてどう対応すべき?

モンスター社員(問題社員)の対応方法を事例付きで弁護士が解説

 

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1,社内での暴行や傷害が問題になる場面

社内での暴行や傷害が問題になる場面は以下の3つにわけることができます。

 

  • 上司が部下に暴力を振るった場合
  • 部下が上司に暴力を振るった場合
  • 同僚同士の暴力トラブルや社内での喧嘩の場合

 

以下でも3つの場面に分けてご説明します。

 

2,部下に対して暴力を振るった上司に対する処分

部下に対して暴力を振るった上司に対する処分

まず、職場内で部下に対して上司が暴力を振るうケースは、通常は「パワハラ」に該当します。厚生労働省のいわゆるパワハラ防止指針(令和2年厚生労働省告示第5号)では、社内で「パワハラ」が起きた場合、加害者に懲戒処分を科し、被害者に対し謝罪させる等の措置をとることが求められています。

 

 

暴力を振るうというのは、パワハラの中でも強い非難に値しますので、原則として懲戒処分が必要です。

 

(1)懲戒処分の種類

会社の懲戒処分の種類は、各会社の就業規則で定められますが、通常は、軽い順から以下のような種類があります。

自社の就業規則でどのような場合にどのような懲戒処分を科すことが定められているかを確認し、就業規則に基づいた処分を科す必要があります。

 

懲戒処分の内容 本人の経済的不利益
戒告譴責訓告 文書で注意する。会社によっては始末書を提出させる なし
減給 給与を1回減給する 1回の問題行動に対しては半日分の給与が限度額
出勤停止 一定期間、出勤を禁じ、その期間を無給とする 出勤停止30日なら30日分の給与
降格 従業員の役職や資格を下位のものに引き下げる 降格処分に伴い、役職給が下がることが多い
諭旨解雇・諭旨退職 退職届の提出を勧告し、提出しない場合は懲戒解雇する 退職金は通常通り支払われる会社が多い
懲戒解雇 問題行動に対する制裁として、従業員を解雇する 退職金の全部または一部が支払われないことが多い。解雇予告手当も通常支払われない

 

懲戒処分の種類をはじめ各処分の内容・判断基準などの詳細については、以下をご参照ください。

 

 

(2)部下に対して暴力を振るった上司の処分の判断基準

上司が部下に対して暴力を振るった場面で、その上司に対して、どのような懲戒処分を選択すべきか、あるいは解雇すべきかについては、以下の点を考慮して判断する必要があります。

 

1,暴力に至った経緯

被害社員の著しい勤務態度不良など被害社員側にも問題があった場合は処分を軽くするべき理由になります。

 

2,暴力の回数、暴力行為の強さ

暴力の程度が軽微である場合(例えば、新聞紙を丸めて頭をたたいたケース)は処分を軽くするべき理由になります。

 

3,傷害の有無、程度

被害社員が怪我をしたのかどうかを確認し、怪我をした場合は「入院や休業が必要な怪我かどうか」や「診断書に記載された加療日数」などを踏まえて、怪我の程度を判断する必要があります。

 

4,加害者の反省や謝罪の有無

加害社員が事件後素直に暴行の事実を認め、謝罪、反省している場合は、処分を軽くするべき理由になります。

 

5,加害社員に対する懲戒処分歴、指導歴

加害社員がこれまでから暴力や暴言について会社から注意や懲戒処分を受けていたにもかかわらず、繰り返した場合は、処分を重くする方向の理由付けになります。

 

6,加害社員の職責

加害社員が従業員を指導する立場にある場合、処分を重くする方向の理由付けになります。

 

これらの要素を総合的に考慮して、処分を決めていくべきですが、おおむね以下を目安とするべきでしょう。

 

判断基準 処分の目安
部下の著しい勤務態度不良など部下側の問題も大きく、暴力が強度のものでない場合 戒告・譴責・訓戒、あるいは減給処分など比較的軽微な処分が妥当
部下に特段の問題がないのに、上司が感情的に暴力を振るったが、これまで会社からその上司のパワハラ行為について特段の指導を行ったことがなく、事件後上司も反省しているケース 出勤停止処分としたうえで、人事上の措置として、上司を役職から降格させることが妥当
過去に暴力や暴言について注意指導を受けていた上司がさらに暴力を繰り返し、事件後も反省や謝罪の意思が見られないケース 諭旨解雇または懲戒解雇が妥当

 

(3)諭旨解雇や懲戒解雇は暴力の再発可能性が高い場合に限られる

上の表の通り、諭旨解雇や懲戒解雇など、加害社員との雇用契約を終了させるような処分は、過去に暴力や暴言について注意指導を受けていた上司がさらに暴力を繰り返し、反省や謝罪の意思が見られないケース、つまり今後もその上司が暴力問題を起こす可能性が高いケースに限定して認められることに注意が必要です。

 

1,諭旨退職処分を有効と認めた裁判例

上司の暴力行為による解雇を有効と認めた裁判例として以下のものがあります。

 

裁判例1:
豊中市不動産事業協同組合事件(大阪地方裁判所判決平成19年8月30日)

他の職員に蹴りかかるなどの暴力行為をした女性事務局長を諭旨退職処分としたところ、事務局長が処分は無効であるとして提訴した事案

 

裁判所の判断:

裁判所は、この事務局長が他の事務職員との和を乱すことがたびたびあり協同組合から指導を受けていたことや、事件後一度は暴力行為を認めたがその後否定するようになり、被害職員に対する謝罪の意思も示していないことなどを指摘して、諭旨退職処分は有効であると判断しています。

 

2,解雇を無効とした裁判例

これに対し、以下の裁判例のように、これまで会社から加害社員のパワハラ行為について特段の指導を行った形跡がない場合や、加害社員が事件後に反省の態度を示している場合等、加害社員による暴力事案の再発可能性が高いといえないケースでは、解雇を伴う処分は不当に重すぎるとして、無効と判断されています。

 

裁判例2:
大阪地方裁判所決定平成29年12月25日

若手社員の顔面を平手でたたくなどした古参社員を会社が懲戒解雇し、古参社員が懲戒解雇は無効であるとして提訴した事案

 

裁判所の判断:

裁判所は、平手でたたく事件以前に会社からこの古参社員に若手社員への対応について十分な指導をした形跡がないことや、事件後に古参社員が若手社員に謝罪していることなどを指摘して、懲戒解雇は無効と判断しています。

 

裁判例3:
医療法人錦秀会事件(大阪地方裁判所判決平成30年9月20日)

医療法人が病院の職員に対して暴力行為を行った医師を普通解雇したところ、医師が不当解雇であるとして医療法人を提訴した事案

 

裁判所の判断:

裁判所は、入院治療が必要となる程度の傷害を生じさせたわけではないことや、事件後に医師が反省し、被害職員に対しても謝罪したい旨述べていたことを指摘して、解雇は無効と判断し、医療法人に対し、860万円の支払を命じています。

 

なお、不当解雇と正当な解雇の違いや、不当解雇と判断された場合に会社が支払う金銭については、以下の記事で解説していますのでご参照ください。

 

 

3,上司に暴力を振るった部下に対する処分

上司に暴力を振るった部下に対する処分

次に、部下が上司に暴力を振るう事案についても、「上司の指示に従う」という職場の秩序を乱すという意味では、上司の部下に対する暴力の事案と同等の重大性があるといえます。

ただし、ここでも、暴力が突発的なもので部下が反省の態度を示すなど、暴力事案の再発可能性が高いといえないケースでは、解雇を伴う処分をすると、裁判所で不当解雇と判断される可能性が高いことに注意が必要です。

暴力事案の再発可能性が高いとはいえないケースについては出勤停止などの処分にとどめることが適切です。

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

裁判例の中には、保険会社の従業員が人事考課の面談中に、上司の首をつかみ、上司のメガネをとりあげて投げるなどの暴行を加えた事案について、従業員に出勤停止3日の懲戒処分を科したことを有効と判断したものがあります(東京地方裁判所判決平成23年11月9日)。

 

4,同僚同士の暴力トラブルや社内での喧嘩についての対応

会社での同僚同士の喧嘩や暴力トラブルについても、従業員が暴力事案を再度起こす可能性があるかどうかという観点から、処分の内容を決める必要があります。

喧嘩といっても内容が軽微で、これまで暴力事案を起こしたことがない従業員の場合は、通常は再発可能性がなく、出勤停止などの処分にとどめる必要があります。

参考になる裁判例として以下のものがあります。

 

裁判例1:
名古屋地方裁判所判決平成15年5月30日(ダイコー事件)

職場構内で同僚に暴行を加えたトラック運転手を解雇したことが、不当解雇と判断され、会社が、約900万円の支払と加害社員の雇用の継続を命じられた事案

 

裁判所の判断

裁判所は、不当解雇と判断した理由として、暴行が、胸倉をつかんで2、3回揺さぶるという数秒間の出来事にとどまり、その後、加害社員が更に暴行を加えようとしたなどという事情もないこと、加害社員が過去に暴行事件を起こした前歴もないことを指摘しています。

そのうえで、裁判所は、解雇によらずとも職場秩序の回復を図ることは十分可能であって、「他の懲戒手段(出勤停止等)を超えて解雇まですることの合理性は乏しい」と判断しています。

 

このように、再発可能性が高いといえないようなケースでは、出勤停止までの懲戒処分で十分に職場秩序を回復することが可能であり、諭旨解雇や懲戒解雇の処分は重すぎると判断されることが通常です。一方、雇用を継続すれば加害社員が暴力事案を再度起こす可能性が高いことが客観的に認められるようなケースでは、懲戒解雇の処分も有効とされています。

裁判例として以下のものがあります。

 

裁判例2:
東京地方裁判所判決令和3年3月16日(SOMPOケア株式会社事件)

試用期間の途中で、同僚の胸ぐらをつかみ「お前やんのか」と暴言を吐いた介護職員を解雇した事案

 

裁判所の判断

裁判所は、加害職員が暴行後の事情聴取でも虚偽の説明をして暴行を否定する等不誠実な態度をとっていたことを理由にあげて、解雇を有効と判断しています。

 

5,社内暴力の調査

社内で暴力事案が起きたときは、処分を決める前に、暴力事案の内容について十分な調査をしたうえで、その結果を証拠化しておくことが必要です。

調査が不十分なまま、懲戒や解雇の処分をしてしまうと、それが不当だとして訴訟などで争われた際に、懲戒処分や解雇の処分をした根拠を示すことができず、会社が敗訴することになるからです。

以下の点を調査することが必要です。

 

(1)暴力に至った経緯

問題となった暴力に至った直接の経緯だけでなく、事件以前の被害社員と加害社員の関係や過去のトラブルの有無についても確認しておくべきです。

 

(2)加害社員、被害社員の日ごろの勤務態度

特に加害社員が過去に暴言や暴力で注意、指導を受けたことがあったかどうかについて確認する必要があります。

 

(3)暴力の回数、暴力行為の強さ

暴力行為の内容だけでなく、加害社員がどのようにして暴力行為を中止したのかも確認する必要があります。

加害社員が、いったんは暴力をふるったがその後は自制したのか、それとも、自制がきかずに暴力行為を続けようとしたところを周りに制止されたのかによって、暴力行為の再発可能性の評価が異なります。

自制がきかずに暴力行為を続けようとしたところを制止されたのであれば、暴力行為の内容は重大であり、再発のおそれもあるという評価につながりやすくなります。

 

(4)傷害の有無、程度

被害社員から診断書を提出させて、怪我の内容や程度、今後の治療方針について確認する必要があります。

 

(5)加害者の反省や謝罪の有無

加害者が事件後素直に暴行を認め、謝罪、反省している場合は、処分を軽くするべき理由になります。

 

これらの点について、まず、被害社員から聴き取りを行い、その聴き取り内容を整理して書面化したうえで、被害社員に確認させましょう。

整理した内容に間違いがなければ、被害社員に署名、捺印してもらい、記録に残すことが必要です。

次に、暴行を目撃した目撃者がいる場合は、目撃者からも同様に聴き取りを行い、その聴き取り内容を整理して書面化したうえで、確認してもらうことが必要です。

整理した内容に間違いがなければ、目撃者に署名、捺印してもらい、記録に残しましょう。

そのうえで、加害社員に対しても同様の聞き取りを行う必要があります。

加害社員の聴き取りにおいては、加害社員が自分の非を素直に認めて反省、謝罪の意思を示しているのか、それとも、被害社員の問題点を誇張するような不合理な弁解をするなどして反省の態度を示していない状況なのかを記録することも重要です。

 

6,処分の進め方

調査の結果に基づき懲戒処分を進める際は、正しい手順で進めることが重要です。

以下の点をおさえておきましょう。

 

  • 就業規則に定められた懲戒の手続きを確認し、それに従って対応を進めること
  • 加害社員に対してどのような事実について懲戒処分を予定しているかを記載した「弁明通知書」を交付したうえで、「弁明書」の提出を求めることにより、加害社員の弁明(言い分)を聴く手続きを行ったうえで、懲戒処分を決めること
  • 懲戒処分を決定したら加害社員に懲戒処分通知書を交付すること

 

懲戒処分を行う際の手続きの具体的な流れについては以下の記事内の「7,懲戒処分を行う際の手続きの流れ」をご参照ください。

 

 

なお、加害社員を懲戒解雇すると、次の職を探す際の支障になることがありますので、加害社員の将来のために、解雇するにしても普通解雇にとどめるという判断をすることもありえるところです。

普通解雇は懲戒処分とは異なりますので、その手続きの流れも懲戒処分とは違います。普通解雇については以下をご参照ください。

 

 

7,解雇の前に退職勧奨を行う

ここまで、社内暴力があった場合の処分の選択や処分の進め方についてご説明してきましたが、企業が暴力の再発可能性が高いとして解雇した場合でも、裁判トラブルになったときに、裁判所で同じように判断してもらえるかは不確実であることも事実です。

そのため、企業のリスク回避の側面からは、懲戒解雇や諭旨解雇あるいは普通解雇は避け、加害社員を退職に向けて説得し、合意による退職を実現することも視野に入れることが必要です。

従業員を退職に向けて説得する「退職勧奨」の手順や注意点については、以下の記事で解説していますので、ご参照ください。

 

 

また、問題社員トラブルを解雇ではなく、退職勧奨で円満に解決するための具体的な手順がわかるおすすめ書籍(著者:弁護士西川暢春)も以下でご紹介しておきますので、こちらも参考にご覧ください。書籍の内容やあらすじ、目次紹介、読者の声、Amazonや楽天ブックスでの購入方法などをご案内しています。

 

 

8,警察への通報や刑事告訴について

筆者の経験上、会社が暴力事件を確認した段階では、すでに暴力がやんでいることがほとんどです。

その場合に、警察に通報するかどうか、警察へ被害届を出すかどうか、刑事告訴をするかどうかについては、被害社員が判断すべきことであり、会社が行うべきことではありません。

会社として被害社員をケアする姿勢を示すために、会社から、刑事告訴の手続をサポートしてくれる弁護士を被害社員に紹介するなどすることは有効ですが、会社がその手続に深く関わるべきではありません。

 

9,暴力事件が起こった場合の会社の責任について

社内で暴力事件が起きたときには、被害社員に対する会社の損害賠償責任も気になるところです。

この点については、「使用者責任」と「安全配慮義務違反」という両方の観点から会社の責任が問われる可能性があり、両方を検討する必要があります。

 

(1)使用者責任について

民法第715条1項は、従業員が事業主の事業の執行について第三者に加えた損害について、会社も加害社員と連帯して賠償責任を負うことを定めています。

そのため、加害社員が被害社員に対して暴行をして、被害社員に損害を生じさせた場合、会社は民法第715条により被害社員に対する損害賠償責任を負うことになります。

 

▶参考情報:民法第715条1項

事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

・参照:「民法」の条文はこちら

 

使用者責任について詳しくは、以下の解説記事を参考にご覧ください。

 

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

使用者責任が発生するのは、あくまでその暴行が事業の執行についてされたときに限られます。

裁判例の中には、職場内の暴力事案について、「暴行が事業の執行についてされたものではない」として、会社の責任を否定したものも存在します。

例えば、東京地方裁判所判決平成30年11月1日は、被害社員が使用した傘を加害社員が干しておいたことに対して、被害社員が礼を言わなかったことに端を発して従業員間のトラブルになり暴行が行われた事案について、暴行が事業の執行についてされたものではないとして、会社の責任を否定していています。

 

(2)安全配慮義務違反について

労働契約法第5条は、会社が従業員が安全を確保しつつ就業することができるように必要な配慮をする義務を負うことを定めています。これを安全配慮義務といいます。

加害社員が被害社員に対して暴行をして、被害社員に損害を生じさせた場合、会社は安全配慮義務違反として、被害社員に対する損害賠償責任を負うことがあります。

 

▶参考情報:労働契約法第5条

使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

・参照:「労働契約法」の条文はこちら

 

ただし、加害社員の暴行が会社の安全配慮義務違反によるものであるとして、会社の責任が発生するのは、会社としても暴力事案の発生が予見できるのに必要な対策を講じてこなかったという事例に限られます。

過去の判例でも暴行が偶発的、突発的に発生したものであり、会社としても予見できなかったような事例では、会社の安全配慮義務違反にはあたらないと判断されています(大阪高等裁判所判決令和2年11月13日等)。

安全配慮義務違反について詳しくは、以下の解説記事を参考にご覧ください。

 

 

10,暴力事案を予防するための取り組みについて

前述の通り、暴力事件が社内で起こってしまうと、会社としての責任も問題になります。

日ごろから暴力事案を予防するためには、以下の点が重要です。

 

(1)暴言など暴力の兆候が出たときはその場で指導する

暴力事案が発生する職場では、上司や同僚に対する暴言が日ごろから放置され、暴力沙汰が発生しやすい状況になっていることが多いです。

暴言やその兆候があったときにその場で指導することで、従業員に常に規律を意識させることが、暴力事件を発生させない重要なポイントです。

 

(2)暴力事件が起きてしまったときは放置しない

暴力事件が起きてしまったときは、この記事でご説明したようにしっかり調査を行い、懲戒処分を科す、場合によっては退職勧奨を行うことが重要です。

このように暴力事件が起きたときは会社から厳しい処分を受けるということをはっきりと従業員に示しておくことが、暴力事件の再発を防ぐことにつながります。

 

11,暴力社員の対応について弁護士に相談したい方はこちら(法人のみ)

咲くやこの花法律事務の弁護士によるサポート内容

咲くやこの花法律事務所では、社内暴力への対応についてお困りの企業の経営者、管理者の方からのご相談を承っています。

冒頭に紹介した事例のように、社内暴力については、十分な調査、検討を行わずに安易に解雇等の処分をすると、不当解雇として後日訴訟を起こされ、多額の支払いを命じられることになりかねません。

社内暴力については、正しい方法で社内調査を行って、記録に残し、それをもとに適切な処分を決める必要があります。

自社の判断で処分を行ってしまってから、弁護士にご相談いただいても、とれる手段が限られてしまいますので、自社で結論を出す前に弁護士にご相談ください。

問題社員対応に強い弁護士がご相談に対応し、事案の内容を踏まえて、今後会社が行うべき調査の内容や調査の手順、処分の内容や処分の進め方について、わかりやすくご説明します。

 

「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法

社内暴力の対応に関する相談は、下記から気軽にお問い合わせください。今すぐのお問い合わせは以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。

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※個人の方からの問い合わせは受付しておりませんので、ご了承下さい。

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記事作成弁護士:西川 暢春
記事更新日:2024年7月19日

 

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