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退職勧奨がパワハラになる場合とは?注意点や判断基準を解説

退職勧奨がパワハラになる場合とは?注意点や判断基準を解説
  • 西川 暢春(にしかわ のぶはる)
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    西川 暢春(にしかわ のぶはる)

    咲くやこの花法律事務所 代表弁護士
  • 出身地:奈良県。出身大学:東京大学法学部。主な取扱い分野は、「問題社員対応、労務・労働事件(企業側)、クレーム対応、債権回収、契約書関連、その他企業法務全般」です。事務所全体で400社以上の企業との顧問契約があり、企業向け顧問弁護士サービスを提供。

こんにちは。咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。

退職勧奨がパワハラにならないか不安に思っていませんか?

適切な方法で退職勧奨をすること自体は何ら違法なものではありません。しかし、正しい進め方を知らないと、退職勧奨がパワハラや退職強要にあたると判断され、会社が従業員から損害賠償を請求される恐れがあります。

退職勧奨が違法と判断され、損害賠償が命じられた事例として以下のようなものがあります。

 

裁判例1:大阪地方裁判所判決平成27年4月24日

従業員一人だけ別の部屋で業務をさせたり、業務上の情報を保存している共有フォルダにアクセスさせない等して、他の従業員との接触を遮断したこと等について、退職に追い込むための嫌がらせであると判断し、慰謝料150万円の支払いを命じた事例

 

裁判例2:東京高等裁判所判決平成24年11月29日

退職勧奨において「いつまでしがみつくつもりなのかなって」「辞めていただくのが筋です。」「懲戒免職とかになったほうがいいんですか。」等と発言し、また、長時間にわたって面談を行ったこと等が不法行為にあたると判断し、慰謝料20万円の支払いを命じた事例

 

このように極端に高額な慰謝料の支払が命じられるケースは限られていますが、上記のような紛争に対応するために費やすことになる費用、労力は決して小さくありません。さらに、パワハラにあたるような退職勧奨してしまうと、損害賠償の問題だけではすまず、せっかく退職合意に至っても、合意が「自由な意思に基づくものではない」等として、退職の効力が認められない危険もあります(東京地方裁判所判決令和3年10月14日・グローバルマーケティングほか事件参照)。

そのため、退職勧奨は、パワハラになるかどうかなどの判断基準も理解したうえで、適法な方法で行うことが必要です。

この記事では、どのような退職勧奨がパワハラになるのかや退職勧奨が違法と判断された裁判例、退職勧奨をする際の注意点などを解説します。この記事を最後まで読んでいただければ、退職勧奨がパワハラになってしまわないためにどのような点に注意するべきかが分かります。

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

従業員の問題の程度が大きく、辞めてほしいという気持ちが強いほど、感情的になり、退職させることに躍起になって言動がエスカレートしてしまいがちです。その結果、退職勧奨がパワハラになってしまうことがあります。

感情的にこじれてしまって冷静に話ができない状態になる前に、弁護士等の外部の専門家に対応を依頼することも方法の一つです。咲くやこの花法律事務所では、退職勧奨の進め方のアドバイスや従業員との退職交渉等のご依頼を承っています。お困りの際はぜひご相談ください。

咲くやこの花法律事務所へのご相談は以下をご参照ください。

 

▶参考情報:問題社員対応に強い弁護士への相談サービス

 

咲くやこの花法律事務所の退職勧奨に関する解決実績を以下でご紹介していますのでご参照ください。

 

▶参考情報:咲くやこの花法律事務所の退職勧奨に関する解決実績

 

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1,退職勧奨がパワハラになる場合とは?

退職勧奨がパワハラになる場合とは?

退職勧奨とは、会社から従業員に対して退職を促す行為のことをいいます。

退職勧奨の目的は、会社の働きかけによって従業員に自ら退職を決意してもらい、会社と従業員双方の合意によって雇用契約を解約することです。退職勧奨に応じるかどうかは従業員の自由で、会社が退職を強制することはできません。また、退職勧奨に応じて退職した場合は会社都合退職となるのが原則です。退職勧奨の理由には、従業員の能力不足や勤務態度不良、会社の経営上の理由等様々なものがあります。

適切な方法で退職勧奨を行うことは何ら違法なものではありません。しかし、行き過ぎた退職勧奨はパワハラや退職強要にあたる可能性があります。

パワハラとは、「職場において行われる(1)優越的な関係を背景とした言動であって、(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、(3)労働者の就業環境が害されるものであり、(1)から(3)までの要素を全て満たすもの」と定義されています。

 

▶参考情報:パワハラの定義については、以下の解説記事をご参照ください。

パワハラの定義とは?わかりやすく解説

 

パワハラになる退職勧奨の例として以下のようなものがあります。

 

  • 退職勧奨にあたって大声で怒鳴りつけたり、机をたたく等の威圧的な行動をする
  • 退職勧奨に応じるまで終わらない等と言って長時間拘束する
  • 「無能はいらない」「会社のお荷物」「会社にいても役にたたない」等の侮辱的な発言をする
  • 退職に追い込むための嫌がらせとして、閑職へ配置転換したり、一人だけ別室で業務をさせたりする

 

これらの言動は、厚生労働省がパワハラ6類型として整理する、パワハラの類型のうち、「精神的な攻撃」や「人間関係の切り離し」あるいは「過小な要求(業務上の合理性がないのに、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)」に該当します。

 

▶参考情報:なお、退職勧奨についてのわかりやすい解説は、以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。

退職勧奨(退職勧告)とは?適法な進め方や言い方・注意点を弁護士が解説

 

また、パワハラについてのわかりやすい解説は、以下の記事もご参照ください。

パワハラとは?わかりやすい解説まとめ

 

2,パワハラと判断されると損害賠償請求等のリスクがある

退職勧奨を行ってパワハラと判断された場合、「損害賠償請求」「退職が無効になる」「労災請求の対象になる」などのリスクがあります。

以下では、それぞれのリスクについて詳しく見ていきましょう。

 

(1)損害賠償請求について

退職勧奨がパワハラと判断された場合、従業員から損害賠償を請求される可能性があります。

パワハラの慰謝料はパワハラの内容や頻度、期間、被害の程度によって大きく異なりますが、30万円~100万円くらいが一般的です。パワハラの結果、従業員がうつ病や適応障害等の精神疾患を発症した場合は、賠償額が高額になる傾向があります。

 

▶参考情報:慰謝料額の目安等については以下で解説していますのでご参照ください。

パワハラの慰謝料の相場はどのくらい?5つのケース別に裁判例をもとに解説

 

(2)退職が無効になるリスク

また、パワハラにあたるような退職勧奨をした場合、従業員が一旦は退職勧奨に応じて退職しても、後々従業員から退職の合意は退職強要によるものであるとして退職の無効を主張されるケースもあります。

もし裁判で退職が無効と判断されると、会社は従業員を復職させた上で、退職から復職までの賃金の支払いを命じられることになります。この場合、支払額が数百万円に及ぶことになる可能性があり、会社は金銭的に大きな打撃をうけることになります。

 

(3)労災請求の対象になる

さらに、パワハラや退職強要による精神疾患は労災請求の対象にもなります。

 

▶参考情報:労災について、詳しくは以下の記事でわかりやすく解説していますので、ご参照ください。

労災(労働災害)とは?わかりやすい解説まとめ

 

厚生労働省の労災認定基準から、例えば、退職の意思のないことを表明しているにもかかわらず、長時間にわたり又は威圧的な方法等により、執拗に退職を求めたり、反覆・継続的な精神的攻撃を加えたりなどといったことがあり、その後6か月以内に従業員がうつ病等の精神疾患を発症した場合、労災として認定されることが原則となります。

労災請求が行われると、労基署から資料の提出を求められ、また、会社関係者へのヒアリング等がされることになります。

 

▶参考情報:パワハラについての労災認定基準は以下で解説していますのでご参照ください。

パワハラで労災は認定される?会社の対応と精神疾患の認定基準を解説

 

このようなリスクを考慮すると、退職勧奨がパワハラにならないよう慎重にすすめるべきであることは言うまでもありません。

 

3,パワハラ的な退職勧奨が違法と判断された裁判例

ここからは、実際の裁判において、パワハラ的な退職勧奨が違法と判断された事例を紹介します。

 

(1)全日空事件(大阪高等裁判所判決平成13年3月14日)

労災によって受傷し休職していた客室乗務員が、上司らから何度も退職勧奨をされ、最終的に復職を認められず解雇されたことについて、解雇無効と退職強要についての損害賠償を求めた事例です。

この事案で上司らは約4か月間という長期間にわたって30回を超える退職勧奨に関する面談を行っていました。面談の中には8時間の長時間に及ぶものもあり、従業員が住む寮に複数名で押しかけて行ったこともありました。上司らは面談において「CAとしての能力がない」「別の道があるだろう」「寄生虫」「他のCAの迷惑」等の発言をしており、大声を出したり、机をたたいたりすることもありました。さらに、従業員の兄や遠方に住む両親に会いに行き、家族からも従業員が退職するように説得をしてほしいと述べたこともありました。

裁判所は、このような一連の退職勧奨について、その頻度や面談時間の長さ、従業員に対する言動は社会一般的に許される範囲をこえており違法な退職強要であると判断し、従業員が受けた精神的損害に対する慰謝料として90万円の支払いを命じました。そして、解雇についても無効であると判断しています。このような退職勧奨は、パワハラの6類型のうち、「精神的な攻撃」に該当します。

 

▶参考裁判例:「全日空事件(大阪高等裁判所判決平成13年3月14日)」の全文は以下よりご確認ください。

「全日空事件(大阪高等裁判所判決平成13年3月14日)」の判決内容はこちら

 

(2)大和証券事件(大阪地方裁判所判決平成27年4月24日)

大手証券会社が、勤務態度や成績が悪い従業員に対して退職して子会社に転籍するよう勧告し、従業員がこれに応じて転籍したことについて、従業員が退職・転籍は会社に強要されたものであるとして会社に損害賠償を求めた事例です。

この事案で、会社はこの従業員に対して、一人だけ別の部屋で業務をさせたり、他の従業員が全員参加している会議に出席させなかったり、業務上の情報を保存している共有フォルダにアクセスさせなかったり、忘年会や歓迎会に呼ばない等して、他の従業員との接触を遮断していました。また、約1年間にわたって飛び込み営業のみを命じ、飛び込みで1日100件訪問するように指示する等実現が難しいノルマを課したりしていました。

裁判所は、会社の行為は、従業員を退職に追い込むための嫌がらせであると判断し、従業員が受けた精神的損害に対する慰謝料として150万円の支払いを命じました。このような退職勧奨は、パワハラの6類型のうち、「人間関係の切り離し」や「過大な要求」に該当します。

 

▶参考裁判例:「大和証券事件(大阪地方裁判所判決平成27年4月24日)」の全文は以下よりご確認ください。

「大和証券事件(大阪地方裁判所判決平成27年4月24日)」の判決内容はこちら

 

(3)親和産業事件(大阪高等裁判所判決平成25年4月25日)

退職勧奨を拒否したことをきっかけに営業職から倉庫業務へ配置転換を命じられ、課長職から降格させられたことについて、配置転換と降格命令の無効、配置転換に伴う賃金の減額分および慰謝料の支払いを求めた事例です。

この事案では、配置転換命令の前に2か月間にわたって退職勧奨が繰り返し行われていましたが、従業員は拒否したという経緯がありました。従業員は元々総合職だったところ、配置転換によって運搬業に変更され、賃金は2分の1以下に減少しました。

会社は配置転換の理由を営業職としての適性に問題があったためと主張しましたが、従業員に適性や能力の問題はなく、倉庫には人員を増やす必要があるほどの業務量はなかったこと、これまで社内で大学卒の従業員を倉庫に配置した例はなかったこと等から、裁判所は、配置転換の必要性は乏しく、配置転換は退職勧奨を拒否したことに対する報復として退職に追い込むため、あるいは大幅な賃金の減額を正当化するためになされたものと判断し、従業員が受けた精神的損害に対する慰謝料として50万円の支払いを命じました。慰謝料の他、配置転換・降格命令によって減額された賃金の差額の支払いも命じられています。このような退職勧奨も、パワハラの6類型のうち、「精神的な攻撃」に該当します。

 

(4)日立製作所事件(横浜地方裁判所判決令和2年3月24日)

総合電機メーカーで課長をしていた従業員が、退職強要とパワハラを受けたとして、会社に対して慰謝料の支払いを求めた事案です。

この事案では、約4か月間にわたって退職勧奨が行われ、従業員が会社を辞めるつもりはないと明確に断った後も執拗に退職を迫っていました。面談の中で、上司は、「課長職でなくても十分やれる仕事」「今の状態で高い課長職としての給料をもらい続けているということに対しても何も思わないわけね」等の従業員の自尊心を傷つける発言をしていました。また、他の部署が受け入れてくれる可能性は極めて低いと言ったり、社内に残るためには他の従業員のポジションを奪う必要があると言ったりする等、退職以外の選択肢がないと思わせるような言動もしていました。

裁判所は、上司による退職勧奨は、社会一般的に相当と認められる範囲を超えた違法な退職勧奨であると判断し、慰謝料として会社に20万円の支払いを命じました。このような退職勧奨も、パワハラの6類型のうち、「精神的な攻撃」に該当します。

 

「弁護士西川暢春のワンポイント解説」

一度退職勧奨を拒否した従業員に対して説得を続けること自体は問題のある行為ではありません。この点は、上記日立製作所事件でも判示されているところです。

しかし、この裁判例の事案では、従業員が会社を辞める意思がないことを明確に意思表示した後も複数回の面談の場で執拗に退職を迫り、退職以外の選択肢がないような印象を抱かせる発言をしていました。また、従業員を侮辱するようなパワハラ的な発言をしていたことも問題となり、違法な退職勧奨と判断されました。

思うように従業員が退職に応じなかった場合、どうにか退職させようと躍起になって、言動がエスカレートしてしまうケースがあります。退職させることに固執するとパワハラや退職強要につながりかねません。従業員の様子から会社を辞めない意思が固いことがうかがわれる場合は、無理に推し進めることなく方針転換をすることも必要です。

違法な退職勧奨についてや、従業員が拒否して退職勧奨に応じない場合の正しい対応については以下をご参照ください。

 

▶参考情報:違法になる退職勧奨とは?具体的な判断基準を判例付きで解説

▶参考情報:従業員が拒否して退職勧奨に応じない場合の対応を解説

 

4,パワハラにならないための注意点

ここからは退職勧奨がパワハラにならないように注意するべき点について説明します。

 

(1)解雇をちらつかせる発言をしない

辞めてほしい気持ちが強いと、「退職勧奨に応じなければ解雇する」という発言をしてしまうケースがありますが、このような発言をするべきではありません。

解雇には厳しい制限があり、従業員を解雇できる場面は限られています。解雇の条件を満たしていない場面でこのような発言をすると、退職させるために会社が嘘の説明をしたことになり、後々従業員から退職の合意は無効だとして訴えられれば、会社側が敗訴する理由になります。また、このような事実上退職せざるを得ない状況に追い込む発言はパワハラにあたる可能性があります。

 

(2)罵倒したり侮辱的な言葉を使ったりしない

会社側が従業員に対して侮辱するような発言をしたことを理由に、退職勧奨を違法と判断している裁判例が多数あります。

裁判において違法と判断された退職勧奨時の発言には以下のようなものがあります。

 

  • 「無能」
  • 「他の従業員の迷惑」
  • 「寄生虫」
  • 「新人以下」

 

また、このような従業員の人格を傷つけるような発言はパワハラにもなります。人間性を否定するような言葉を使うべきではありません。

 

▶参考情報:裁判例においてパワハラと判断された言葉にどのようなものがあるかについては、以下の記事もご参照ください。

パワハラにあたる言葉の一覧とは?裁判例をもとに解説

 

退職勧奨を受ける従業員の人間性や能力を否定するのではなく、「他社なら能力が活かせるかもしれないが、うちの職場で求められる水準には達していない」という伝え方をすることが適切です。

 

(3)業務を取り上げたり、過大な業務を押し付けたりしない

不適切な退職勧奨によくある例として、退職させることを目的とした嫌がらせがあります。

例えば、一人だけ別室に隔離して業務を行わせたり、他の従業員と比べて業務量を著しく減らしたり、会議に出席させなかったり、達成不可能なノルマを設定したり、一人では処理できない量の仕事を押し付ける等の行為です。

厚生労働省は、パワハラの6類型として「過大な要求」「過小な要求」をあげています。上記のような行為はパワハラにあたりうる行為であり、嫌がらせによって会社から追い出そうとするやり方は、適切な退職勧奨とは言えません。

 

▶参考情報:パワハラの6類型については以下でも解説していますのでご参照ください。

パワハラの種類はいくつ?6つの行為類型を事例をもとに徹底解説

 

(4)不適切な配置転換や仕事内容の変更をしない

前章「3,退職勧奨が違法と判断された裁判例で紹介した親和産業事件(大阪高等裁判所判決平成25年4月25日)は、退職勧奨を拒否した従業員を営業職から倉庫業務に配置転換した事例です。この事案で裁判所は、会社が行った配置転換は退職勧奨を拒否したことに対する嫌がらせであると判断し、会社に損害賠償を命じています。

このように、退職勧奨を拒否したことに対する報復、または退職に追い込むための嫌がらせとして、本人の経歴にそぐわない部署に配置転換したり、役職者に新入社員がやるような仕事を担当させたりすることはパワハラや退職強要行為にあたります。

業務上の必要性から配置転換や仕事内容の変更をしなければならない場合は、退職に追い込むための嫌がらせと誤解を与えないように、十分に注意をする必要があります。

 

▶参考情報:配置転換がパワハラになるケースについては以下でも解説していますのでご参照ください。

配置転換がパワハラになるケースとは?企業の注意点を解説

 

(5)執拗に退職勧奨をしない

退職勧奨の面談を繰り返し行ったり、拒否された後で再度面談を行って再考を促したりすること自体は、合理的な範囲内であれば問題はありません。

しかし、「3,退職勧奨が違法と判断された裁判例」で紹介した全日空事件(大阪高等裁判所判決平成13年3月14日)のように、短期間に何度も面談を行ったり、1回の面談があまりにも長時間に及んだりすると退職強要と判断される危険があります。目安として1回の面談は30分~1時間程度にとどめることを心がけましょう。

また、面談の場ですぐに回答を求めることも避けるべきです。「退職勧奨に応じなければ終わらない」「応じるまで退職勧奨をする」という発言もするべきではありません。

 

▶参考情報:退職勧奨をする際の注意点については以下の記事でも解説していますので、あわせてご参照ください。

退職勧奨(退職勧告)の注意点の解説はこちら

 

5,退職勧奨を受けた従業員は労働基準監督署に相談できる?

では、退職勧奨を受けた従業員は、退職勧奨がパワハラにあたるとして労働基準監督署に相談することができるのでしょうか?

この点については、労働基準監督署が個別の退職勧奨について、労働者側の相談に応じるということはされていません。また、退職勧奨がパワハラにあたるかどうかについては、裁判所で判断されるべき内容であり、労働基準監督署が判断してくれるわけではありません。

ただし、令和2年6月に労働施策総合推進法が改正され、事業者はハラスメント相談窓口の設置等のパワハラ防止措置を講ずることが義務付けられました。事業者が法律で義務付けられたパワハラ防止措置を講じていない場合は、その点について、労働基準監督署から指導を受けることがあります。

厚生労働省が労働基準監督署等の運営方針を定める「地方労働行政運営方針(pdf)」においても、「パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント等職場におけるハラスメント防止措置を講じていない事業主に対し厳正な指導を実施すること等により、引き続き、法の履行確保を図る」とされています。

退職勧奨の場面に限らず、事業者はパワハラを発生させないための対策を行い、もしパワハラが発生してしまった場合は速やかに適切な対応をすることが求められ、これができていなければ労働基準監督署から指導を受けることがあります。

 

▶参考情報:事業者に義務付けられているパワハラ防止対策については以下の記事で詳しく解説していますのであわせてご覧ください。

パワハラ防止の対策とは?義務付けられた10項目を弁護士が解説

 

6,咲くやこの花法律事務所の退職勧奨に関する解決実績

咲くやこの花法律事務所では、これまでに数多くの退職勧奨に関するご相談・ご依頼を承ってきました。その解決実績の一部をご紹介します。あわせてご参照ください。

 

遅刻を繰り返し、業務の指示に従わない問題社員を弁護士の退職勧奨により退職させた成功事例

横領の疑いがある従業員に対して、弁護士が調査を行って横領行為を認めさせ、退職させた解決事例

退職勧奨を一度断った能力不足の看護師に対して弁護士が支援して指導を継続し退職合意に至った事例

従業員に対する退職勧奨のトラブルで労働審判を起こされたが、会社側の支払いなしで解決した事例

 

7,退職勧奨について弁護士へ相談したい方はこちら

咲くやこの花法律事務の弁護士によるサポート内容

咲くやこの花法律事務所では、企業側の立場で、退職勧奨に関するトラブルについてご相談をお受けしております。咲くやこの花法律事務所の弁護士によるサポート内容をご紹介します。

 

(1)退職勧奨に関するご相談

日本では解雇には厳しい制約があり、一度雇った従業員を辞めさせることには相当高いハードルがあります。しかし、円滑な企業経営のために問題のある従業員に退職してもらわなければならないという場面もあり、そんなときに有効な手段が退職勧奨です。

しかし、退職すれば職を失うことになる以上、従業員に強いショックを与えることは間違いなく、反発されてトラブルに発展するケースもあります。

退職勧奨を成功させるためには従業員が退職を受け入れやすい状況を作ることが重要です。本人が退職勧奨を拒否する姿勢をとっている場合は、従業員がなぜ拒否しているのかを理解した上で、方法を変えてアプローチすることが必要です。

咲くやこの花法律事務所は、問題社員対応の専門家としてこれまで数多くの退職勧奨に関わってきました。経験豊富な弁護士が退職勧奨を成功させるために尽力します。退職勧奨についてお困りの際はぜひ咲くやこの花法律事務所へご相談ください。

 

咲くやこの花法律事務所の労働問題に強い弁護士への相談費用

  • 初回相談料:30分5000円+税

 

▶参考情報:退職勧奨に関するサポート内容については以下の記事で詳しく説明していますので、あわせてご覧ください。

企業が弁護士に退職勧奨を相談すべき4つの理由とサポート内容や費用について

 

(2)顧問弁護士サービスのご案内

咲くやこの花法律事務所では、退職勧奨の対応はもちろん、企業の労務管理全般をサポートするための顧問弁護士サービスを提供しております。

現実にトラブルが発生していないのに、リスク対策のために相談料を払って弁護士に相談しようと考える方は少ないのではないかと思います。しかし、何かトラブルが発生した場合、事前のリスク対策ができていない会社ほど大きなダメージを負うことになります。

トラブルによるダメージを抑えるためには、こまめに顧問弁護士に相談し、日頃から社内規定や労務管理体制の整備等の法的なリスクマネジメントに取り組むことが重要です。もし何かトラブルが発生してしまった時も、初期段階で弁護士に相談して専門的な助言を受けて対応することが早期解決につながります。

企業をトラブルから守り、事業の成長と安定した企業運営を実現するために、ぜひ顧問弁護士を活用していただきたいと思います。

咲くやこの花法律事務所では、企業側の立場で数多くの事案に対応してきた経験豊富な弁護士が、トラブルの予防、そしてトラブルが発生してしまった場合の早期解決に尽力します。

咲くやこの花法律事務所の顧問弁護士サービスのご案内は以下をご参照ください。

 

 

(3)「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法

今すぐお問い合わせは以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。

「咲くやこの花法律事務所」のお問い合わせページへ。

 

8,まとめ

この記事では退職勧奨がパワハラになるケースについて解説しました。

パワハラになる退職勧奨の例として以下のようなものがあります。

 

  • 退職を明確に拒否した後も執拗に退職勧奨を繰り返す
  • 短期間に頻繁に退職勧奨をしたり、不合理な長時間面談を行う
  • 「寄生虫」「他の従業員の迷惑」「新入社員以下」等の侮辱的な言葉を使う
  • 退職させることを目的に不適切な配置転換や仕事内容の変更を行う

 

退職勧奨時のパワハラについて会社が損害賠償を命じられている裁判例は少なくありません。この場合に会社が従業員に支払う慰謝料は30~100万円程度になるのが一般的ですが、従業員が精神疾患を発症した場合等は賠償額が高額になる可能性があります。

また、退職勧奨時にパワハラをしていると、一旦従業員が退職に合意していたとしても、後々従業員が退職の無効を主張して訴訟になった場合、裁判所において退職合意が無効と判断される原因になり得ます。

退職勧奨がパワハラにならないためには、従業員の人格を傷つける発言をしないこと、執拗に退職勧奨を繰り返さないこと等に注意する必要があります。

咲くやこの花法律事務所では、問題社員の退職勧奨について、企業側の立場での相談、立会い等のサポートを提供し、退職合意による解決を実現してきた多くの実績があります。退職勧奨についてお困りの際はぜひ咲くやこの花法律事務所へご相談ください。

 

記事作成日:2023年11月14日
記事作成弁護士:西川 暢春

 

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