こんにちは。咲くやこの花法律事務所弁護士の西川暢春です。
パワハラの種類についてわからないことがあり、調べていませんか?
パワハラの種類は以下の6つに分類されています。
- (1)身体的な攻撃(暴行・傷害)
- (2)精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)
- (3)人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
- (4)過大な要求
- (5)過小な要求
- (6)個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
これは厚生労働省の分類であり、やや言葉遣いが難しい部分があります。この記事では、パワハラの6種類について事例をあげながらわかりやすく解説します。
どのような行為がパワハラにあたるのかを正しく把握しておかないと、例えば、従業員からパワハラ被害の訴えがあったときに、本当はパワハラに該当しないにもかかわらず、発言者を懲戒処分してしまって、懲戒処分を受けた従業員と企業の間で紛争になってしまうケースがあります。
一方で、本当はパワハラに該当するにもかかわらず、誤って該当しないと判断してしまい、被害者から企業の責任を問われることもあります。
このようなリスクを避け、適切な対応をするためには、パワハラの6つの行為類型をよく把握しておくことが重要です。
この記事を最後まで読んでいただくことで、パワハラかどうかの判断が必要な場面で、判断の基準をもつことができるようになるはずです。
それでは見ていきましょう。
なお、パワハラの基礎知識をはじめとする全般的な説明については、以下の記事で詳しく解説していますので事前にご参照ください。
パワハラについては、個人的な感覚でパワハラ被害を受けたと主張されるケースもありますが、言われた人がパワハラと感じればパワハラになるわけではありません。
そのような場面ではパワハラに当たるかどうかについて、弁護士による判断が必要です。咲くやこの花法律事務所では、従業員からパワハラ被害の報告を受けて、その対応が必要になった事業者からのご相談をお受けしています。
パワハラのトラブルはこじれて訴訟になることも多いです。問題をこじらせないためには初期段階で弁護士に相談して正しい対応をすることが重要になります。早めにご相談ください。
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今回の記事で書かれている要点(目次)
1,パワハラの6種類とは?厚生労働省が定める行為類型
冒頭でもご説明したように、厚生労働省は、パワハラを下記の6つの種類に分類しています。
厚生労働省によるパワハラの6類型
- (1)身体的な攻撃(暴行・傷害)
- (2)精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)
- (3)人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
- (4)過大な要求
- (5)過小な要求
- (6)個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
ただし、ここに挙げられている種類はあくまで例であるため、これらの種類以外についても、事業者は被害者からの相談にその都度応じるなどして対応することが適切であるとされています(厚生労働省のパワハラ防止指針)。
以下では、上記の6つの種類について、具体的にどのような言動がパワハラと判断されるのかを、裁判例を交えて順番にご説明いたします。
2,種類1:
身体的な攻撃
厚生労働省のパワハラ防止指針では、相手に対して以下のような暴力を振るった場合を、身体的な攻撃の類型にあたるパワハラの例として挙げています。
- 相手を殴打する
- 足で蹴る
- 物を投げつける
「誤ってぶつかった」などといった状況でない限り、職場内における上司から部下への暴力はパワハラに該当することが通常です。
身体的な攻撃がパワハラに該当するとした裁判例として以下のものがあります。
(1)みぞおちを殴る、顔面を平手でたたく
裁判例1:
住吉神社ほか事件(福岡地方裁判所判決 平成27年11月11日)
結論:パワハラに該当すると判断
事件の概要
この事案は、神社で働く従業員が上司から、みぞおちを殴る、顔面を平手でたたかれるなどの暴行を受け、「いつかお前を本気でぶん殴りそうな気がする」などと暴言を吐かれたあげく解雇され、精神的苦痛を受けたとして神社及び上司に対して損害賠償請求をした事件です。
裁判所の判断
本件で行われた暴力・暴言は、指導方法として許容される範囲を著しく逸脱するものであるとして、100万円の賠償を命じました。
この事件では、従業員の能力が不十分であったことが認められたものの、暴力や暴言が継続的に行われていたことから、業務上の指導としては不適切であるとして、指導方法として許容される範囲を著しく逸脱すると判断されました。
(2)殴る、体を揺さぶる
裁判例2:
水戸地方裁判所判決平成24年9月14日
結論:パワハラに該当すると判断
事件の概要
役場で勤務する職員に対し、上司が複数回にわたり指示をしたが、従わなかったため注意したところ、職員が反抗的な態度をとったことで、上司は職員に対し殴る、体を揺さぶるといった暴力行為を行いました。
その後上司は謝罪しましたが、職員はこれにより精神疾患を発症したとして上司に損害賠償を請求しました。
裁判所の判断
上司の本件暴行行為は、違法性は否定できないものの、その程度が過度であったとは認められないとして、30万円の賠償を命じました。
この事件は、上司の指示を何度も無視するなど、職員の勤務態度が非常に劣悪であったという背景がありました。裁判所は、上司の暴力と職員の精神疾患の発症との因果関係はないとしつつも、暴力行為については不法行為であると判断しました。
(3)部下が座っている椅子を蹴る、椅子の背部を蹴る
裁判例3:
神戸地方裁判所判決 令和3年9月30日
結論:パワハラに該当すると判断
事件の概要
交通局に勤務する上司が、部下の職員に対して、電話に出るよう指示するため部下の座っていた椅子の背部を一度蹴るという暴力行為を行いました。
その後部下は被害届を提出し、上司に対して損害賠償を請求しました。
裁判所の判断
本件暴力行為は部下の職員にとって侮辱的な態様であり、椅子を蹴るといった方法は業務上の必要性が全くなく、優越的な関係を背景に行われたものであるとして、約120万円の損害賠償を命じました。
この事件では、上司の職員は当時電話での打ち合わせ中で、携帯電話とメモを持っていたため両手がふさがっており、電話のコールが鳴っても他の職員と話をしている部下に対して電話に出るよう指示するために椅子を蹴ったという背景がありました。
しかしそのような場合であっても、足を用いて指示すること自体が不適切な行為であり、部下に対して身体的・精神的に苦痛を与えたとしてパワハラであると判断されました。
3,種類2:
精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)
厚生労働省は、以下のような言動を、精神的な攻撃の類型のパワハラに該当するとしています(厚生労働省 パワハラ防止指針)。
- 人格を否定するような言動を行う(相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を含む)
- 業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行う
- 他の労働者の面前における大声での威圧的な?責を繰り返し行う
- 相手の能力を否定し、罵倒するような内容の電子メール等をその相手だけでなく他の労働者も宛先に含めて送信する
一方、以下のような場合はパワハラに該当しないとされています。
- 遅刻など社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意してもそれが改善されない労働者に対して一定程度強く注意をする
- その企業の業務の内容や性質等に照らして重大な問題行為を行った労働者に対して、一定程度強く注意をする
精神的な攻撃がパワハラに該当するか否かが判断された裁判例として以下のものがあります。
(1)「新入社員以下だ、もう任せられない」などの発言
裁判例1:
サントリーホールディングスほか事件(東京地方裁判所判決 平成26年7月31日)
結論:パワハラに該当すると判断
事件の概要
飲料製造販売会社に勤める従業員に対し、上司からの指導注意の程度が徐々に厳しくなり、「新入社員以下だ、もう任せられない」「なんで分からない、おまえは馬鹿」などの発言を受け、従業員がうつ病を発症した事件です。
従業員は内部通報によりパワハラを訴えましたが、会社はパワハラとは認めず、会社と上司に損害賠償を請求しました。
裁判所の判断
本件の上司の発言は、従業員に対し屈辱を与えるものであり、心理的負担を過度に負うことは十分推測でき、また従業員の名誉を害するものであるため、指導として許容される範囲を逸脱しているとして賠償を命じました。
この事件では、従業員の能力不足や勤務態度が悪いという背景があったものの、本件の上司の発言は従業員の人格を否定するものであるとし、許容される業務上の指導の範疇にはないと判断されました。
このように能力不足や勤務態度不良といった問題がある従業員に対する対応を誤ると、パワハラ事案になってしまう危険があります。
問題社員であっても正しい方法で対応することが必要です。問題社員に対する対応は以下の記事でご説明していますのでご参照ください。
(2)「もう会社ではいらないんです。必要としてないんです。」などの発言
裁判例2:
宇都宮地方裁判所判決 令和2年10月21日
結論:一部についてのみパワハラに該当すると判断
事件の概要
路線バスの運転手をしていた従業員が、乗客に「殺すぞ」といった威圧的な発言をしたり、根拠が不十分であるにもかかわらず乗客を泥棒扱いしたなどの問題行動を取ったことに対し、上司らが「チンピラはいらねんだようちは。雑魚はいらねえんだよ。」「もう会社ではいらないんです。必要としてないんです。」などと発言し、辞めたくないと発言する従業員に対して退職を迫った事件です。
裁判所の判決
「チンピラ」や「雑魚」などといった発言は、その発言の内容自体が侮辱的であり、指導との関連性が稀薄であること、またその後に従業員がうつ病を発症したことから、社会通念上許容される業務上の指導を超えており、過重な心理的負担を与えたとして不法行為と判断し、66万円の賠償を命じました。
この事件では、「もう会社ではいらないんです。必要としていないんです。」や「なんでうちの会社に来たんだよ。」などといった上司らの一部の発言は、従業員の問題行動を踏まえると、指導の必要性が高かったといえるためパワハラに該当しないと判断しました。
一方で「チンピラ」や「雑魚」などといった従業員の人格を侮辱し名誉を害するような発言については、指導として許容される範囲を逸脱しているとして不法行為に該当すると判断しました。
このように、各々の発言について、指導の必要性や、発言の内容を考慮したうえでパワハラに当たるかの判断がされています。
この事例からもわかるように、暴言がパワハラにあたるかどうかは、その暴言に至った経緯も踏まえて判断されます。そのため、パワハラに該当するか否かの判断にあたっては、暴言の内容(言葉自体)だけでなく、暴言に至った経緯の確認も重要になります。
(3)大声での叱責でもパワハラに該当しないと判断した事案
裁判例3:
関西ケーズデンキ事件(大津地方裁判所判決 平成30年5月24日)
結論:パワハラに該当しないと判断
事件の概要
家電量販店に勤務する従業員が社内のルールに反して独断でリサイクル料金を変更したことについて上司が注意したところ、従業員が「売ってるからいいやん」などと発言したことで、上司が大声で叱責した事件です。
裁判所の判断
本件の上司の叱責は、ある程度強いものであったことは認められるが、従業員が反抗的な態度であったため一時的に感情を抑制できずにされた叱責にすぎず、適正な範囲を超えた叱責であるとはいえないとして、パワハラには該当しないと判断しました。
この事件では、ある程度強く大声で叱責したものの、それが繰り返し反復継続して行われたり、他の従業員の面前で見せしめにされたということは行われなかったことから、許容される叱責の範囲内であると判断されました。
4,種類3:
人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
厚生労働省のパワハラ防止指針では、以下のような、隔離・仲間外し・無視などといった行為が、人間関係からの切り離しの類型に該当するパワハラの例として挙げられています。
- 自身の意に沿わない労働者に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりする
- 一人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させる
人間関係からの切り離しがパワハラに該当するか否かが判断された裁判例として、以下のものがあります。
(1)個室に隔離し雑務ばかり与える
裁判例1:
トナミ運輸事件(富山地方裁判所判決 平成17年2月23日)
結論:パワハラに該当すると判断
事件の概要
従業員が外部の報道機関に内部告発を行ったことを理由に、16年にわたり他の社員とは離れた2階の個室で執務させ、雑務ばかり与えたことについて、会社に対して損害賠償を求めた事件です。
裁判所の判断
会社がした、従業員を個室に配席させて他の職員との接触を妨げるといった扱いは、従業員を著しく不利益に取り扱うもので、隔離・仲間外し・無視といった人間関係からの切り離し行為に該当するとして不法行為と判断しました。
この事件の判決文は以下をご参照ください。
(2)全体会議や懇親会への参加制限もパワハラに該当しないと判断した事案
裁判例2:
PwCあらた有限責任監査法人事件(東京地方裁判所判決 令和2年7月2日)
結論:パワハラに該当しないと判断
事件の概要
社内の女性職員をストーカーしたことを理由に、加害職員に対して、被害にあった女性職員が参加する全体会議や懇親会への参加を制限したことに対し、人間関係からの切り離しに当たるパワハラに該当するとして、会社に損害賠償を求めた事件です。
裁判所の判断
本件ストーカー行為は、その態様や、警察から警告が実施されたことなどを踏まえると決して軽微なものとはいえず、女性職員と接触する可能性を一定程度制限することは合理的であり、社会的相当性を逸脱するような制約であったとはいえないと判断しました。
この事件では、職員を全体の集まりに参加させないという隔離をしていましたが、ストーカー被害にあった女性職員と鉢合わせないようにするという合理的な理由があったことから、パワハラには該当しないと判断されました。
5,種類4:
過大な要求
従業員に対し、業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制をしたり、仕事の妨害をすることは「過大な要求」の類型のパワハラに該当します。
厚生労働省のパワハラ防止指針では、パワハラにあたる例として、以下の例が挙げられています。
- 長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下で、勤務に直接関係のない作業を命ずる
- 新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責する
- 労働者に業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせる
一方で、厚生労働省のパワハラ防止指針において、以下の例が、パワハラに該当しない例として挙げられています。
- 労働者を育成するために現状よりも少し高いレベルの業務を任せる
- 業務の繁忙期に業務上の必要性から、当該業務の担当者に通常時よりも一定程度多い業務の処理を任せる
過大な要求がパワハラに当たるか否かが判断された裁判例として、以下のものが挙げられます。
(1)業務軽減が必要な労働者に過大な仕事量
裁判例1:
鹿児島地方裁判所判決平成26年3月12日
事件の概要
精神疾患をかかえる中学校の教員に対して、校長が従来の担当教科の授業に加え、教員免許外の科目である国語を担当させるなどして業務量が増加したことにより自殺したとして、遺族が市に対して損害賠償を求めた事件です。
裁判所の判断
校長らによる教員の担当教科を増やす指示は、精神疾患を有する教員にとっては大きな心理的負荷を与えるものであり自殺との因果関係は認められると判断しました。
学校側は、教員の業務量は他の教員と比較しても過大ではなかったと主張しましたが、裁判所は、教員が過去に精神疾患で休職していたことを踏まえると、業務量を増加させたことは教員にとって多大な精神的負荷を掛けるものであった判断しました。
このように、過大な業務であったか否かを、単に業務量のみで判断するのではなく、その当時の従業員の健康状態等も踏まえて総合的に判断しています。
(2)過大な要求との主張を認めずパワハラに該当しないとした事案
裁判例2:
印刷・グラフィックデザインソフト販売等会社退職等事件(東京地方裁判所判決 平成27年3月4日)
結論:パワハラに該当しないと判断
事件の概要
印刷・グラフィックデザイン用のハードウェア等を販売する会社で、従業員が過大な電話業務や、製品についての過大な要求、不可能な作業を強要されたとして会社に損害賠償を請求した事件です。
裁判所の判断
会社のいずれの指導も、適正な業務指導の範囲としてパワハラに該当しないと判断しました。
この事件では、従業員が職務経歴書において自身の能力を誇張して記載し、その結果、会社が求めていた能力と従業員の能力に大きな差が生じてしまった事案です。
裁判所は、このような経緯を踏まえれば、会社が厳しく指導したことは、従業員が過大な要求と感じたとしても社会通念上許容される業務上の指導の範囲内であるとしました。
6,種類5:
過小な要求
業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないことは、「過小な要求」の類型のパワハラに該当する可能性があります。
厚生労働省のパワハラ防止指針では以下の例があげられています。
- 管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせる
- 気に入らない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えない
一方、労働者の能力に応じて、一定程度業務内容や業務量を軽減するといった行為はパワハラにはなりません。
過小な要求がパワハラに該当するか否かは以下のような裁判例が挙げられます。
(1)本来の担当業務を割り当てない
裁判例1:
千葉県がんセンター事件(東京高等裁判所判決 平成26年5月21日)
事件の概要
県が運営するがんセンターに勤める麻酔科医が、所属部の問題点を上司を通さず上申したことをきっかけに一切の手術の担当から外されたことで退職を余儀なくされ、損害賠償を請求した事件です。
裁判所の判断
上司が麻酔科医に対して手術を一切割り当てなかったことは、上司を通さずに上申したことに対する報復であり、不利益を及ぼす目的で行われたとして違法行為に該当すると判断しました。
裁判所は本件の麻酔科医の担当する手術は毎月約17件程であったのにもかかわらず、問題点を指摘したあとは一切担当手術が割り当てられなくなったことは不自然であり、報復目的であるとして、権限の濫用であると判断しています。
(2)倉庫への配置転換
裁判例2:
新和産業事件(大阪高等裁判所判決 平成25年4月25日)
結論:パワハラに該当すると判断
事件の概要
化学工業製品会社に勤める従業員が成績不良のため退職勧奨を拒否したところ、営業課長から倉庫に配置転換され、給与が半分になったことに対して、この配置転換が無効であると主張した事件です。
裁判所の判断
本件の配置転換は必要性が乏しく、嫌がらせ目的で行われたものだとして無効と判断しました。
本件会社の倉庫業務は通常、従業員が1名いれば事足りる業務量であったところ2名配置され、またこの従業員以外に大卒者を倉庫業務に就かせた例がありませんでした。
このことから、この配置転換は業務上の必要性が乏しく、退職勧奨を拒否したことを理由に行われたものであり、不法行為に該当すると判断されました。
7,種類6:
個の侵害
私的なことに過度に立ち入るような行為は、「個の侵害」の類型のパワハラに該当することがあります。
厚生労働省は、事業者は、プライバシー保護の観点から、他の従業員の機微な個人情報を暴露することのないよう、従業員に周知・啓発する等の措置を講ずることが必要であるとしています。
厚生労働省のパワハラ防止指針では、個の侵害としてパワハラに該当する例として以下のものが挙げられています。
- 労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりする
- 労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露する
一方で、パワハラに当たらない例としては以下のものが挙げられています。
- 労働者への配慮を目的として、労働者の家族の状況等についてヒアリングを行う
- 労働者の了解を得て、当該労働者の機微な個人情報について必要な範囲で人事労務部門の担当者に伝達し、配慮を促す
個の侵害がパワハラに該当するか否かについては以下のような裁判例があります。
(1)部下の交際相手を呼び出す
裁判例1:
豊前市パワハラ事件(福岡高等裁判所判決 平成25年7月30日)
結論:パワハラに該当すると判断
事件の概要
市役所で勤務する職員が当時の交際相手の女性と住居の建物の前で抱き合うなどしていた、といった通報があったことで、上司が職員と交際相手を別々で呼び出し、交際が不適切であるといった内容の中傷をする発言をしたことに対して、損害賠償を請求した事件です。
裁判所の判断
上司の発言は、職員の人格侵害に当たると判断しました。
裁判所は、交際は本人たちの自主的な判断に委ねるべきであり、職場への悪影響が生じ是正する必要がある場合を除き、上司は交際に介入するような発言は避ける義務があるとしました。
(2)賃借している部屋からの立ち退きを求める
裁判例2:
ダイエー事件(横浜地方裁判所判決 平成2年5月29日)
結論:パワハラに該当すると判断
事件の概要
上司が、部下が知人から賃借りしている建物からなかなか立ち退かないため、知人から明け渡しの説得を依頼され、左遷や人事上不利益な取扱いをほのめかしたとして、部下から損害賠償請求された事件です。
裁判所の判断
本件行為は、上司の優越的地位を利用し部下の私的な問題に関する意思決定の自由を侵害するものであったとして、違法な行為であると判断しました。
裁判所は、部下の私生活に関する問題について、上司の都合から積極的に説得を試みる場合であっても、その程度が著しく逸脱していない限り、直ちに不法行為であるとは言えないとしましたが、本件では、部下が自分の意志で交渉に応じないことを決断したにもかかわらず、それでも執拗に説得を行っており、違法であると判断しました。
ここまでパワハラの6つの種類ごとに、具体的にどのような言動がパワハラと判断されるのかを、裁判例を交えて解説してきましたが、パワハラの判断基準については、以下の記事や動画でも詳しく解説していますのでご参照ください。
▼【参考動画】西川弁護士が「その発言「パワハラ」かも?判断基準について」を詳しく解説中!
8,パワハラにあたる場合どうなるのか?
では、実際にパワハラに該当する行為があった場合には、どのような対応が必要になるのでしょうか。
主に以下の3つが考えられます。
- 懲戒処分が必要となることがある
- 慰謝料請求への対応が必要となることがある
- 労災認定の対象となることがある
以下では、順番にご説明します。
(1)懲戒処分が必要となることがある
会社でパワハラがあった場合、加害者の労働者に対する懲戒処分が必要となることがあります。
会社は、まずそのパワハラ行為が、就業規則等で定められた懲戒事由に該当するかを確認する必要があります。
懲戒事由に該当することが確認できたら、そのパワハラ行為について以下の点を考慮したうえで懲戒処分の内容を決定します。
- 回数・期間等のパワハラの具体的態様
- 被害の程度
- パワハラに至る経緯・目的
- 当事者間の地位関係
- パワハラ行為が与えた職場への悪影響の度合い
- 加害者の反省や謝罪の有無
刑事罰に該当するような特に悪質なパワハラや、過去にも同じことを繰り返している場合でない限り、最初から懲戒解雇としてしまうと権限の濫用として無効と判断される可能性が高くなります。
最初の懲戒処分は、戒告処分や譴責処分といった比較的軽い処分にとどめるべきであることがほとんどです。懲戒処分については必ず弁護士に相談して行うことが必要です。
パワハラ加害者に対しての処分については、以下の記事で解説していますのでご覧ください。
また、戒告処分や譴責処分など懲戒処分に関しては、以下の記事などで詳しく解説していますので、ご参照ください。
(2)慰謝料請求への対応が必要となることがある
被害者の従業員から、加害者の従業員、そして会社に対して、パワハラを理由とする慰謝料請求がされることがあります。その場合、会社としてこのような慰謝料請求に対応することが必要になります。
単にパワハラがあっただけでなく、パワハラにより精神疾患になったとの主張がされる場合は、請求額が高額化する傾向にあります。
ただし、裁判所は、被害者が精神疾患を発症したと主張した場合、パワハラと精神疾患発症との因果関係の有無を判断し、事案によっては、因果関係を否定したり、被害者側の問題点を考慮して、賠償額を減額する場合もあります。
慰謝料請求への対応についても、裁判になる前に弁護士に相談して対応することが、問題の早い解決に役立ちます。
パワハラの慰謝料については、以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。
(3)労災認定の対象となることがある
従業員がパワハラが原因で精神疾患を罹患した場合、その従業員は労災申請をすることができます。
この場合、会社側が労災と考えていても考えていなくても、会社は労災申請について一定の協力をすることが義務付けられています。
そして、厚生労働省の労災認定基準に基づき、労働基準監督署長において労災か否かが判断されます。
パワハラを理由とする労災申請があった場合は、早期に弁護士に相談して、会社として主張すべき点を労働局にも伝えていくことが必要です。
パワハラの労災認定基準や労災申請があった場合の会社の対応については以下で詳しく解説していますのでご参照ください。
9,事業主の防止措置義務について
労働施策総合推進法により、事業主に対して、パワハラを防止するための以下の措置を講じることが義務付けられています。
- パワハラを許さないことなど、事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
- パワハラに関する相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
- パワハラが発生した場合の迅速かつ適切な対応
- そのほか併せて講ずべき措置
ここでもパワハラの6種類、6類型を意識して対応する必要があります。
法律上義務付けられるパワハラ防止措置については、以下の記事をご参照ください。
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咲くやこの花法律事務所のハラスメント相談窓口の費用例
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- 従業員数1000名~2999名:月額7万円+税
- 従業員数3000名~:月額8万円+税
11,「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法
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13,【関連情報】パワハラに関するお役立ち関連記事
この記事では、「パワハラの種類はいくつ?6つの行為類型を事例をもとに徹底解説」について、わかりやすく解説いたしました。パワハラに関しては、その種類として6類型を正しく理解しておくのはもちろん、それ以外にも知っておくべき情報が幅広くあり、特に判断基準や対応方法などは正しく知識を理解しておかねければ重大なトラブルに発展してしまいます。
そのため、以下ではこの記事に関連するパワハラのお役立ち記事を一覧でご紹介しますので、こちらもご参照ください。
・パワハラ防止法とは?パワハラに関する法律のわかりやすいまとめ
・パワハラ発生時の対応は?マニュアルや対処法、流れについて解説
・パワハラやハラスメントの調査方法について。重要な注意点を解説
・職場のパワハラチェックまとめ!あなたの会社は大丈夫ですか?
・パワハラの証拠の集め方と確認すべき注意点などをわかりやすく解説
・パワハラ(パワーハラスメント)を理由とする解雇の手順と注意点
・パワハラの相談まとめ!企業の窓口や労働者の相談に関する対応について
・パワハラに強い弁護士にトラブル解決を依頼するメリットと費用の目安
・逆パワハラとは?具体的な対処法を事例や裁判例付きで徹底解説
注)咲くやこの花法律事務所のウェブ記事が他にコピーして転載されるケースが散見され、定期的にチェックを行っております。咲くやこの花法律事務所に著作権がありますので、コピーは控えていただきますようにお願い致します。
記事更新日:2022年12月19日
記事作成弁護士:西川 暢春