こんにちは。咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。
パワハラに関する法律について、わからないことがあり、悩んでいませんか?
パワハラに関する法律として重要なのが労働施策総合推進法です。法改正により、企業にパワハラを防止するための措置を義務づけたことから、「パワハラ防止法」ともいわれています。
この「パワハラ防止法」により、大企業では2020年6月からパワハラ防止措置が義務化されました。そして、中小企業でも、2022年4月からパワハラ防止措置が義務化されます。
法律上義務付けられたパワハラ防止措置をとらずに、社内でパワハラ被害が発生した場合、企業の責任がこれまで以上に厳しく問われ、企業が負担しなければならない慰謝料額、損害賠償額が高額化することになります。
また、パワハラ防止措置をとらずにパワハラ自殺などの重大事案が発生した場合は、社会的にも厳しい非難を浴びることになるでしょう。
この記事では、パワハラ防止法の内容や、企業がどのような対応をすればよいのかをわかりやすく説明します。
この記事を最後まで読んでいただくことで、パワハラ防止法の対応のために、会社として取り組むべき内容がわかるはずです。
それでは見ていきましょう。
なお、パワハラの基礎知識をはじめとする全般的な説明については、以下の記事で詳しく解説していますので事前にご参照ください。
パワハラ防止法の施行により、企業はいままで以上にパワハラ対策を厳しく問われることになります。
法律上義務付けられたパワハラ防止措置は必ず取り組んでおきましょう。また、従業員からパワハラ被害の訴えがあった場合は、決して放置せず、適切な対応をすることが必要です。
パワハラに関するトラブルが発生した場合は、早急に弁護士に相談し、初期段階で正しい対応をすることが解決のポイントです。
パワハラに強い弁護士にトラブル解決を依頼する各種メリットや弁護士費用についてなどは、以下の記事で詳しく解説していますので、ご参照ください。
▶参考情報:パワハラに強い弁護士にトラブル解決を依頼するメリットと費用の目安
また、咲くやこの花法律事務所のパワハラについての解決実績は以下をご参照ください。
▶参考情報:内部通報窓口に匿名で行われたハラスメントの通報について、適切な対処をアドバイスし、解決まで至った事例
▶参考情報:パワハラ被害を受けたとして従業員から会社に対し300万円の慰謝料が請求されたが、6分の1の慰謝料額で解決した成功事例
▼パワハラ防止法に関して今スグ弁護士に相談したい方は、以下よりお気軽にお問い合わせ下さい。
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今回の記事で書かれている要点(目次)
- 1,パワハラ防止法とは?
- 2,中小企業には2022年4月から施行
- 3,違反した場合の罰則はないが企業名公表の対象となる
- 4,法律の内容1: パワハラの定義が明確にされた
- 5,法律の内容2: 企業には3つの措置が義務付けられた
- 6,法律の内容3: 労働者の責務が定められた
- 7,法律の内容4: 紛争解決制度が整備された
- 8,パワハラ防止法を踏まえた企業の対策
- 9,厚生労働省のガイドラインが重要
- 10,就業規則での具体的な規定例
- 11,セクハラ・マタハラ等その他のハラスメント対策もあわせて行うことが理想
- 12,パワハラ防止法の違反事例
- 13,パワハラ防止法の問題点
- 14,パワハラにおける企業の法的責任
- 15,咲くやこの花法律事務所の弁護士なら「こんなサポートができます!」
- 16,「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法
- 17,パワハラに関する法律のお役立ち情報も配信中(メルマガ&YouTube)
- 18,【関連情報】パワハラに関するお役立ち関連記事
1,パワハラ防止法とは?
まず、最初にパワハラ防止法の概要をご説明します。
(1)正式名称
パワハラ防止法とは、事業主にパワハラ防止の措置を義務付ける法律であり、正式名称は、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律です。
通常は、労働施策総合推進法と略称されますが、「パワハラ防止法」とも呼ばれています。
(2)法改正の目的
法改正の背景には、パワハラに関する相談の増加があります。
全国の都道府県労働局への「職場でのいじめ・いやがらせ」に関する相談は、2011年度は45,000件超であったところ、2017年度には72,000件超に増加しました。
上記の相談件数に関する統計情報は、以下をご参照ください。
このような状況から、職場のパワハラ対策を強化することを目的として、2019年5月に企業のパワハラ防止措置が法制化されました。
(3)法改正で何が変わるのか?
法改正のポイントは、企業にパワハラ防止措置を義務づけたことです。
これによって、大企業はもちろん中小企業(※2022年4月から施行)を含めたすべての企業は相談体制の整備等のパワハラ防止対策に取り組むことが法律上の義務になりました。
法改正により義務付けられたパワハラ防止措置をとらずに社内でパワハラ被害が発生した場合や、パワハラ被害があった後に法律上義務付けられた事後措置をとっていない場合、企業の責任がこれまで以上に厳しく問われることが予想されます。
(4)公務員にも適用されるのか?
パワハラ防止法は地方公務員や教職員にも適用されます(労働施策総合推進法38条の2)。
労働施策総合推進法の条文は以下をご参照ください。
これに対して、国家公務員には適用されません。そのため、国家公務員については、別途、人事院規則でパワハラ防止規定が定められました(人事院規則10-16)。
人事院規則10-16(パワーハラスメントの防止等)は以下をご参照ください。
(5)条文の規定
パワハラの定義およびパワハラ防止措置の義務化については、労働施策総合推進法第30条の2で規定されています。
労働施策総合推進法 第30条の2の該当部分を抜粋すると以下の通りです。
▶参考:「労働施策総合推進法 第30条の2」の条文
(雇用管理上の措置等)
第30条の2 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
2 事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
3 厚生労働大臣は、前二項の規定に基づき事業主が講ずべき措置等に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(以下この条において「指針」という。)を定めるものとする。
このうち、第1項が事業主のパワハラ防止措置を定めたものです。
第2項はパワハラについて事業主に相談した従業員に対する不利益な取扱いを禁止する規定です。第3項では、パワハラ防止措置の具体的な内容が厚生労働省の指針に定められることを規定しています。
2,中小企業には2022年4月から施行
パワハラ防止措置を義務付けた労働施策総合推進法第30条の2は、大企業では2020年6月から施行されています。
中小企業は2022年3月までは努力義務となっていましたが、2022年4月以降は大企業と同様に、パワハラ防止措置が義務化されます。2022年4月以降に、防止措置をとっていない企業は法律違反になりますので、早急に対応が必要です。
(1)中小企業の定義
ここでいう中小企業については、法律に定義規定があり、以下の表にあてはまる事業者が中小企業です。
業種によって中小企業の基準が異なります。
▶参考情報:中小企業の基準表
業種 | 以下のいずれかを満たすもの | |
資本金の額または出資の総額 | 常時使用する従業員の数 | |
① 卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
② サービス業 | 5000万円以下 | 100人以下 |
③ 小売業 | 5000万円以下 | 50人以下 |
④ その他の業種
(①から③に当てはまらないものすべて) |
3億円以下 | 300人以下 |
どの業種に分類されるかわからない方は、以下の中小企業庁のFAQを参考にしてください。
3,違反した場合の罰則はないが企業名公表の対象となる
パワハラ防止法に罰則の規定はありません。
ただし、厚生労働大臣が必要があると認めた場合は、助言、指導または勧告の対象になります(労働施策総合推進法第33条第1項)。
また、勧告に従わなかった場合、企業名が公表される可能性があります(労働施策総合推進法第33条第2項)。
こちらについても、大企業だけでなく中小企業でも同様の内容になりますので注意が必要です。
4,法律の内容1:
パワハラの定義が明確にされた
パワハラ防止法では、パワハラについての法律上の定義が定められました。
以下の3つの要素を全て満たすものがパワハラと定義されています(労働施策総合推進法第30条の2第1項)。
(1)職場において行われる抵抗や拒絶することができない関係を背景とした言動であること
上司から部下に対する言動に限らず、同僚間や部下から上司に対する言動も、抵抗や拒絶することができない関係を背景とした言動であれば、パワハラにあたる場合があります。
(2)業務上必要がないもの、または適切でない方法で行われた言動であること
例えば以下のようなものです。
- 1.業務上明らかに必要性のない言動
- 2.業務の目的を大きくはずれた言動
- 3.業務を行うための手段として不適切な言動
- 4.行為の内容(手段、回数、人数等)が、社会一般の常識で許容される範囲を超える言動
(3)労働者の就業環境に支障を生じさせる言動であること
「労働者の就業環境に支障を生じさせる」とは、その言動によって、労働者が身体的または精神的に苦痛を感じて、職場環境が悪くなり、能力を十分に発揮できなくなる等、働く上で無視できない程度の支障が生じた状態のことです。
パワハラの定義については、以下の記事や動画で詳しく解説していますのでご参照下さい。
▶参考情報:西川弁護士の「パワハラの定義とは?裁判例をもとに弁護士が解説【前編】」動画を公開中!
5,法律の内容2:
企業には3つの措置が義務付けられた
パワハラ防止法では、パワハラについて、「労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置」が義務付けられました。
これに基づき、厚生労働省の指針では、企業に対して、次の3つの措置を義務付けています。
- (1)パワハラについての方針を明確にして従業員に周知・啓発する
- (2)パワハラの相談に対応するための体制の整備
- (3)パワハラの相談を受けたら迅速かつ適切に対応する
それぞれの措置について、詳しく説明します。
(1)パワハラへの方針を明確にして労働者に周知・啓発する
パワハラ防止法では、まず、パワハラについての方針を明確にして従業員に周知・啓発する措置を事業主に義務付けています。
具体的には以下の内容です。
1,パワハラを行ってはならないことを従業員に周知する
パワハラを許さないという会社の方針を明確にし、職場におけるパワハラの内容とあわせて従業員に周知することが必要です。
具体的には以下のような取り組みを行います。
- 就業規則等にパワハラに関する規定を設ける
- 社内誌、パンフレット等にパワハラに関する会社の方針を掲載し、従業員に配布する
- パワハラに関する研修・講習を実施する
パワハラ防止の効果を高めるために、どのような行為がパワハラに該当するかやパワハラの発生原因等に ついても従業員に理解をしてもらうことが必要です。
研修は、管理職層と一般従業員を分けて行い、一度だけでなく定期的に実施すると効果的です。
研修には、厚生労働省が公開している動画やテキストを活用する方法や、弁護士や社労士などの専門家に 講師を依頼する方法、オンライン研修講座を受講する方法等があります。
厚生労働省もハラスメントに関するオンライン研修講座を公開していますので、ご参照ください。
2,パワハラをした場合は厳正に処分することおよび処分の内容を規定する
就業規則等の職場の服務規律を定めた文書で、パワハラをした場合は懲戒処分の対象となること、また、その処分の内容を明記します。
パワハラをした場合は懲戒処分の対象となることを従業員に認識してもらうことが重要です。
(2)パワハラ防止法の最大のポイントは相談窓口の義務化
パワハラ防止法では、まず、パワハラについての相談体制の整備を事業主に義務付けています。
具体的には以下の内容です。
1,パワハラに関する相談窓口を設置する
相談窓口は社内に設置する方法と外部に委託する方法があります。
社内に相談窓口を設置する場合の例
- 人事、コンプライアンス、法務担当部門が相談窓口を兼ねる
- 管理職や従業員を相談担当者として選任する 等
社外に相談窓口を設置する場合の例
- 弁護士や社会保険労務士の事務所へ委託する
- ハラスメントなどの相談窓口の代行を専門的に行っている企業へ委託する
相談窓口を設置したら従業員へ周知します。
周知の際は「相談者のプライバシーは守られること」「相談したことによって不利益な取扱いを受けることはないこと」を明記して、従業員が相談しやすい環境を作ることが必要です。
ハラスメント相談度口の設置については、以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
2,適切に相談に対応することができるようマニュアルの作成や研修を行う
適切な相談を行うために取り組むべき内容には、以下のようなものがあります。
- 相談を受けた際の対応手順を決めて、必要に応じて他部署と連携して対応ができるよう事前に整備する
- 相談担当者に対し、相談を受けた際の対応について研修を行う
- 相談時の注意点などを記載したマニュアルや相談シートを作成し、それに基づいて対応する
相談担当者向けの研修や相談マニュアルの作成には、厚生労働省が公開しているマニュアルや動画が参考になりますので参考にしてください。
(3)パワハラの相談を受けたら迅速かつ適切に対応する
さらに、パワハラ防止法では、パワハラの相談を受けたら迅速かつ適切に対応することも義務付けています。
具体的には以下の内容です。
1,相談があったら迅速かつ正確に事実関係の確認を行う
パワハラの訴えがあった場合は、相談者や行為者からの聞き取り調査等を行い、速やかに事実確認を行いましょう。
相談者と行為者の認識が一致しない場合は、目撃者等の第三者からも聞き取りを行い、メールや録音等の証拠資料があるか確認します。
行為者や第三者に事実確認を行う時は、必ず事前に相談者の了解を得ることが必要です。
ハラスメントの調査方法については、以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
2,被害者に対する配慮のための支援や配置転換等の必要な措置を行う
被害者に対する配慮のための対応としては、以下のような対応が考えられます。
- 被害者と加害者の関係改善に向けた援助
- 被害者と加害者と引き離すための配置転換
- 加害者への注意や指導、加害者の謝罪
- 被害者の労働条件上の不利益の回復
- 被害者のメンタルヘルスの不調への相談対応
- 被害者の復職に向けた支援
明確にパワハラがあったと判断できないケースでも、現状を放置すると事態が悪化する可能性がある場合には、当事者同士の接触を断つために配置転換をする等の対応を行うのが望ましいです。
▶参考:パワハラの加害者と被害者のそれぞれの従業員の配置転換に関しては、以下の参考記事で詳しく解説していますのでご参照ください。
3,必要に応じて加害者に対する懲戒等の処分を行う
調査の結果、パワハラがあったと判断できる場合は、加害者の処分を検討する必要があります。
しかし、懲戒処分をめぐって、加害者とトラブルになり、裁判に発展するケースも少なくありません。懲戒処分をするときは、パワハラの内容、加害者の謝罪や反省の有無、常習性、被害の程度等の要素を考慮し、以下の点に注意して処分の内容を検討します。
- パワハラの内容に対して重すぎる処分になっていないか
- 就業規則や懲戒規定にそった処分になっているか
- 過去の懲戒処分事例と照らし合わせて不当に重い処分になっていないか
懲戒処分の対象とするべきか、どの程度の処分が妥当か判断に迷った場合は、弁護士や社労士等の専門家に相談することをおすすめします。
パワハラ加害者に対する処分については、以下の記事で詳しく解説していますのでご覧ください。
また、懲戒処分については、以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
4,再発防止のための対策を行う
パワハラが発生した場合は、再発を防止するために、以下のような対策を行うことが義務付けられています。
- パワハラをしてはいけないこと、パワハラをした場合は厳正に処分することを改めて周知する
- パワハラに関する研修や講習を行う
- 管理職向けにパワハラ事案が発生したことを周知し注意をうながす
- 加害者が同様の行為を繰り返すことがないよう、研修を行ったり、定期的な面談を行う
また、パワハラが発生していなくても、パワハラ防止効果を高めるために、定期的にパワハラに対する方針の周知や研修を実施する、相談体制が上手く機能しているか確認する等、定期的な見直しが必要です。
パワハラの相談については、以下の記事でまとめて詳しく解説していますのでご参照ください。
ここまでご説明したパワハラ防止措置については以下の記事で詳しく解説していますので併せてご参照ください。
(4)プライバシーの保護と不利益取扱いの禁止も法律上の義務
パワハラ防止法では、ここまでに説明した3つの措置とあわせて、「プライバシーの保護」と「不利益取扱いの禁止」を企業に義務づけています。
1,プライバシーの保護
パワハラに関する相談の中で知り得る情報の中には、相談者や行為者の個人情報が含まれます。
相談の対応、事実確認等の一連の対応において、相談者や行為者のプライバシーを保護するために、十分な注意を払うことが必要です。
プライバシー保護のために必要な事項をあらかじめマニュアルに定めたり、相談担当者のプライバシー保護の意識を高めるための研修を行いましょう。
2,不利益取扱いの禁止
パワハラ防止法では、パワハラに関する相談をしたことや、事実関係の調査に協力したこと、労働局に対して相談をしたこと等を理由として、解雇やその他の不利益な扱いをすることを禁止しています(労働施策総合推進法第30条の2第2項)。
従業員が相談をためらうことがないよう、「相談したことで不利益な取扱いをされることはないこと」を周知することが必要です。
社内でパワハラトラブルが発生した際の対応の流れなどについては、以下の記事で詳しく解説していますので参考にご覧ください。
6,法律の内容3:
労働者の責務が定められた
パワハラを防止するためには、企業だけでなく、労働者もパワハラに対する理解を深め、パワハラの加害者にならないよう自分自身の言動に注意をすることが必要です。
パワハラ防止法では、労働者が以下の内容に取り組むことを「労働者の責務」として規定しています(労働施策総合推進法第30条の3第4項)。
- ハラスメント問題に関する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に注意すること
- 企業が行うパワハラ防止措置に協力すること
労働施策総合推進法第30条の3第4項は、以下の通り規定されています。参考にご覧下さい。
▶参考情報:パワハラ防止法第30条の3第4項
労働者は、優越的言動問題に対する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うとともに、事業主の講ずる前条第一項の措置に協力するように努めなければならない。
7,法律の内容4:
紛争解決制度が整備された
パワハラに関して企業と労働者間の紛争が生じた場合に、以下の紛争解決手段が利用できるようになりました。
- 都道府県労働局長からの助言、指導または勧告(労働施策総合推進法第30条の5第1項)
- 紛争調整委員会での調停(労働施策総合推進法第30条の6)
(1)都道府県労働局長からの助言、指導または勧告
紛争の当事者である企業または労働者から紛争解決の援助を求められた都道府県労働局長は、双方の主張を確認した上で、具体的な解決案を提示します。
強制力はありませんが、双方の歩み寄りによって紛争の早期解決が期待できます。
(2)紛争調整委員会での調停
紛争調整委員会は各都道府県労働局に設置された、弁護士や大学教授等の専門家で組織された委員会です。
調停は、紛争の解決のために、中立な第三者機関が間にはいって調整を行う、裁判外の紛争解決手続です。調停の申請は企業側からも行うことができます。
裁判に比べて、必要経費や手続きにかかる期間も大幅に軽減されるため、調停等の利用は企業にもメリットがあります。
労働者が労働局へ相談をしたこと、調停の申請をしたことを理由として、解雇等の不利益な取扱いをすることは禁止されています(労働施策総合推進法第30条の5第2項、第30条の6第2項)。
8,パワハラ防止法を踏まえた企業の対策
ここまでご説明した通り、パワハラ防止法を踏まえて必要となる企業の対策としては大きく分けて以下の4つがあります。
(1)パワハラについての方針を明確にして従業員に周知・啓発する
- パワハラを行ってはならないことを従業員に周知する
- パワハラをした場合は厳正に処分することおよび処分の内容を規定する
(2)パワハラの相談に対応するための体制の整備
- パワハラに関する相談窓口を設置する
- 適切に相談に対応することができるようマニュアルの作成や研修を行う
(3)パワハラの相談を受けたら迅速かつ適切に対応する
- 相談があったら迅速かつ正確に事実関係の確認を行う
- 被害者に対する配慮のための支援や配置転換等の必要な措置を行う
- 必要に応じて加害者に対する懲戒等の処分を行う
- 再発防止のための対策を行う
(4)プライバシーの保護と不利益取扱いの禁止
- プライバシーの保護の対策を講じる
- 不利益取扱い禁止の対策を講じる
以下ではこれらの対策を講じるうえで重要なポイントについてもご説明していきたいと思います。
9,厚生労働省のガイドラインが重要
厚生労働省は、労働施策総合推進法第30条の2第3項で規定されている、「事業主が講ずべき措置等に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」を公表しています。
パワハラ防止措置について規定した指針であることから、「パワハラ指針」とも呼ばれています。
この指針では、以下のような内容が定められています。
- パワハラを定義する3つの要素についての具体的な内容
- パワハラの種類とパワハラに該当する/該当しない行為の具体例
- 会社が行うべき措置の具体的な内容や注意点
実際の取り組みにあたっては、指針に沿って対応することが重要です。
指針は以下からご確認ください。
10,就業規則での具体的な規定例
就業規則にパワハラの禁止に関する規定がない場合は早急に規定を設けるべきです。
懲戒規定がない場合は、社内でパワハラが発生しても、加害者を処分することが難しくなります。すでに規定を設けている企業も、パワハラ防止法に沿った内容となっているか見直しをしましょう。
パワハラの禁止に関する就業規則の規定例は、以下をご参照ください。
▶参考:パワハラについての就業規則条文の記載例
(パワーハラスメントの禁止)
第〇条 従業員は、パワーハラスメントに該当する行為をしてはいけません。
2 パワーハラスメントとは、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されるものを指します。その典型例は以下の通りです。なお「優越的な関係を背景した言動」には、同僚または部下による言動であっても、当該言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しておりその協力を得なければ業務の円滑な遂行が困難であるもの、及び同僚または部下からの集団による行為で抵抗または拒絶することが困難であるものを含みます。
① 暴行・傷害などの身体的な攻撃を加えること。
② 脅迫、名誉毀損、侮辱、ひどい暴言などにより、精神的な攻撃を加えること。
③ 隔離、仲間外し、無視などにより、人間関係から切り離すこと。
④ 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことを強制し、または仕事を妨害すること。
⑤ 業務上の合理性がないのに能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じ、または仕事を与えないこと。
⑥ 私的なことに過度に立ち入ること。
3 業務上必要かつ相当な指導はパワーハラスメントに該当しません。また、パワーハラスメントに該当するか否かについては、従業員個人の感じ方を基準とするのではなく、社会一般の労働者が、就業するうえで看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうかを基準に判断します。
就業規則の作成については以下の記事をご参照ください。
このように就業規則で単にパワハラの禁止を定めるだけでなく、禁止されるパワハラの内容や判断基準を盛り込んでおくことがポイントです。
単にパワハラを禁止するだけでは、「被害者がパワハラと感じた以上パワハラだ」と主張する部下が現れたり、そのような主張を恐れて問題がある従業員に対しても指導を控える管理職が出ることになり、正しい人事管理が行われない原因となる危険があります。
11,セクハラ・マタハラ等その他のハラスメント対策もあわせて行うことが理想
パワハラと同様、セクハラ、マタハラ(妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント)についても、防止措置を行うことが義務化されています(男女雇用機会均等法第11条・第11条の3、育児・介護休業法第25条)。
セクハラ、マタハラの防止措置は、パワハラ防止措置と重なる部分も多いので、ハラスメント対策としてまとめて対応するのがよいでしょう。
職場でのハラスメントは、パワハラ、セクハラ、マタハラ等のハラスメントが複合的に行われることもあります。それぞれのハラスメントを明確に区別できないケースも少なくありません。
ハラスメントに関する相談窓口を一本化し、1つの窓口であらゆるハラスメントについて相談できる体制を整備することが望ましいとされています。
12,パワハラ防止法の違反事例
パワハラ防止法に違反する事例としては以下のケースが考えられます。
- ハラスメント相談窓口を設置していないケース
- パワハラの被害報告をうけたにもかかわらず、調査を行わないで放置するケース
- パワハラの被害報告を受けた場合に、被害者に対して退職するように説得するなど、被害者に不利益な扱いをするケース
- パワハラの被害報告を受けた際に、それを企業が被害者の了解なく、加害者に伝え、被害者のプライバシーに配慮されていないケース
特に、企業がパワハラの被害報告をうけたにもかかわらず放置したり、あるいは被害者に対して不利益な扱いをする事例では、紛争化した場合、裁判所から高額な慰謝料の支払いを命じられる傾向にあります。
13,パワハラ防止法の問題点
ここまでご説明したパワハラ防止法ですが、パワハラ防止措置をとっていない企業に対する罰則は定められませんでした。
この点については、より強いパワハラ防止対策を求める立場から、パワハラ防止法の問題点として指摘されています。
企業としては、パワハラ防止措置をとることは、良い職場環境をつくり、最終的には企業としてメリットがあることです。罰則がなくても、必ず対応しておくべきであるといえるでしょう。
14,パワハラにおける企業の法的責任
社内でパワハラが発生した場合、企業もその責任を問われることがあります。
裁判で多額の賠償を命じられるケースも多く、会社は金銭的に大きなダメージを負うことになります。
従業員を守り、会社のリスクを減らすためにも、パワハラを防止するための取り組みは重要です。
(1)安全配慮義務違反
企業には、従業員が安全かつ健康に働くことができるように必要な配慮をする義務があります(労働契約法第5条、労働安全衛生法第3条1項)。
パワハラの防止措置が不十分であった場合やパワハラを放置した場合、安全配慮義務違反として、従業員から損害賠償請求をされる可能性があります。
例えば、長崎地方裁判所判決平成30年12月7日は、パワハラによる精神疾患の発症について、会社の安全配慮義務違反を理由に、会社に対して、約1100万円の損害賠償を命じています。
安全配慮義務違反については、以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
(2)使用者責任
従業員が他人に損害を発生させた場合、会社もその従業員と連帯して、被害者に対して損害賠償責任を負います(民法第715条)。
社内のパワハラによって従業員が精神疾患を発症したり、自殺をしてしまったりすることがあります。その場合、加害者である従業員だけでなく、使用者である会社も、被害者に対する損害賠償責任を負うことになります。
例えば、福井地方裁判所判決 平成26年11月28日は、パワハラによる従業員の自殺について、使用者責任を根拠に、会社に対して約7300万円の損害賠償を命じています。
使用者責任については、以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
15,咲くやこの花法律事務所の弁護士なら「こんなサポートができます!」
最後に、咲くやこの花法律事務所における企業のパワハラ対策、パワハラトラブルについてのサポート内容をご説明したいと思います。
(1)パワハラ防止法への対応に関するご相談
咲くやこの花法律事務所では、パワハラ防止法に対応した相談窓口の設置等に関するご相談を承っています。
パワハラ相談窓口は、単に設置すればよいというものではなく、設置後の対応が適切に行われることが重要です。
相談後の対応が不適切であると、問題がこじれて訴訟につながったり、外部の第三者(ユニオンや被害者の両親など)の介入を招くことになります。
咲くやこの花法律事務所では、パワハラ、その他労務トラブルの解決経験豊富な弁護士が、パワハラ相談窓口設置に関する相談を随時承っております。
また、咲くやこの花法律事務所では、パワハラ相談窓口の外部委託のご依頼も承っています。
法律事務所が相談窓口になることによって、守秘義務や信頼性において、通報者に安心感を与えることができます。
パワハラ相談窓口を法律事務所に委託することを検討されている企業の方は、ぜひ咲くやこの花法律事務所にご相談ください。
ハラスメント相談窓口の費用例
- 従業員数300名未満:月額3万円+税
- 従業員数300名~999名:月額5万円+税
- 従業員数1000名~2999名:月額7万円+税
- 従業員数3000名~:月額8万円+税
(2)パワハラ発生時の調査についてのご相談
パワハラの相談があった場合、被害者、加害者等への調査をすみやかに行うことが必須です。
しかし、調査の結果、パワハラの有無について、被害者と加害者の言い分が食い違うなど、対応が難しいケースも少なくありません。
咲くやこの花法律事務所では、パワハラについて、弁護士がヒアリングに立ち会い、適切な調査をバックアップします。
また、加害者の懲戒処分など、調査結果を踏まえた会社の対応についてもご相談をお受けします。
弁護士費用例
- 初回相談料:30分5000円+税(※顧問契約ご利用の場合は相談料はかかりません。)
- 調査費用:30万円+税~
(3)パワハラに関する紛争解決のご相談
パワハラについては裁判や労働審判に発展するケースが急増しています。
また、パワハラをきっかけに、パワハラを主張する部下や従業員が、ユニオンと呼ばれる外部の労働組合に加入して、団体交渉を求めてくるというケースも増えています。
咲くやこの花法律事務所では、パワハラについて裁判や労働審判を起こされた場合、あるいは団体交渉の申入れがあった場合も、労働裁判、労働審判、団体交渉に精通した実績豊富な弁護士が全力で対応し、相談者にとって、もっとも有利な解決を導きます。
弁護士費用例
- 初回相談料:30分5000円+税(※顧問契約ご利用の場合は相談料はかかりません。)
労働審判や団体交渉に関する解説は以下をご参照ください。
▶参考情報:労働審判とは?手続きの流れや費用、解決金の相場などをわかりやすく解説
▶参考情報:団体交渉とは?わかりやすく徹底解説!
(4)パワハラ防止に関する社内研修、社内セミナー
パワハラ防止法で義務付けられるパワハラ防止措置として、パワハラ防止に関する社内研修や社内セミナーを行うことも重要です。
咲くやこの花法律事務所でも、社内研修、社内セミナーのご依頼を承っています。実際にパワハラ事例の調査やトラブルの交渉、訴訟案件等に対応してきた弁護士が講師を務めることで、パワハラにあたる事案についての注意喚起はもちろん、パワハラ問題にならない指導方法などより企業に役に立つ効果的な研修をご提供します。
咲くやこの花法律事務所の社内研修や社内セミナーに関するご案内は以下をご参照ください。
16,「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法
パワハラ防止法に関する相談などは、下記から気軽にお問い合わせください。今すぐのお問い合わせは以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
【お問い合わせについて】
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18,【関連情報】パワハラに関するお役立ち関連記事
この記事では、「パワハラ防止法とは?パワハラに関する法律のわかりやすいまとめ」について、わかりやすく解説いたしました。パワハラに関しては、法律に関して以外も知っておくべき情報が幅広くあり、特に対応方法などは正しく知識を理解しておかねければ重大なトラブルに発展してしまいます。
そのため、以下ではこの記事に関連するパワハラのお役立ち記事を一覧でご紹介しますので、こちらもご参照ください。
・パワハラの種類はいくつ?6つの行為類型を事例をもとに徹底解説
・パワハラの証拠の集め方と確認すべき注意点などをわかりやすく解説
・パワハラ(パワーハラスメント)を理由とする解雇の手順と注意点
・部下からパワハラで訴えられた時、パワハラと言われた時の必要な対応
・パワハラの慰謝料の相場はどのくらい?5つのケース別に裁判例をもとに解説
・逆パワハラとは?具体的な対処法を事例や裁判例付きで徹底解説
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記事作成日2023年8月8日
記事作成弁護士:西川 暢春