こんにちは。咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。
社内でパワハラ被害の相談があり、対応方法がわからずに、困っていませんか?
令和4年4月以降、全ての事業者においてハラスメント相談窓口の設置が義務となり、より一層パワハラが世間から注目を浴びるようになりました。
しかし実際に、社内の従業員からパワハラ被害の相談をされた際に、どのように対応すれば良いかわからない、という方も多いのではないでしょうか。
パワハラの対応は、以下の手順で行う必要があります。
- 1.迅速かつ正確に事実関係を確認する
- 2.パワハラの有無について判断する
- 3.調査報告書を作成する
- 4.被害者への配慮の措置を行う
- 5.加害者に対する処分等の措置を行う
- 6.再発防止に向けた措置を講ずる
パワハラ被害の相談があったのにもかかわらず、うやむやにして放置したり、パワハラの調査の過程で不適切な対応をしてしまったりすると、後に被害社員から安全配慮義務違反であるとして損害賠償を請求されるといったことになりかねません。
また、加害社員からも、パワハラの調査の過程での不適切な対応や、調査後の処分の選択の誤り、懲戒処分の手続の誤り等があれば、処分は不当であるとして、外部の労働組合に加入して団体交渉を申し入れられたり、処分の無効を求める訴訟が起こされたりするといったことになりかねません。
このようなトラブルを防ぐためには、パワハラの被害の相談がされたときの正しい対応を把握しておくことが重要です。
この記事では、厚生労働省のパワハラ防止指針において、企業が求められているパワハラ発生時の対応と各段階における注意点を分かりやすくご説明します。
この記事を読めば、パワハラについて相談があった際、どのように対処すれば良いかが分かるはずです。
それでは見ていきましょう。
なお、パワハラの基礎知識をはじめとする全般的な説明については、以下の記事で詳しく解説していますので事前にご参照ください。
パワハラ被害の相談があった際、会社側が、被害社員あるいは加害社員に対して必要な措置を講じなかったり、あるいは間違った対応をしてしまうことで、会社の責任が問われ、訴訟に発展するケースは少なくありません。
パワハラ発生時の初期段階で適切な対応をすることは、その後の二次トラブル防止の意味でも非常に重要です。初期段階で対応を誤らないためにも、パワハラ被害の相談への対応は弁護士に相談しながら行っていただくことをおすすめします。
パワハラに強い弁護士に依頼するメリットと費用の目安については以下をご参照ください。
▶参考情報:パワハラに強い弁護士にトラブル解決を依頼するメリットと費用の目安
また、パワハラトラブルに関する咲くやこの花法律事務所の解決実績は以下をご参照ください。
▶参考情報:パワハラトラブルに関する解決実績はこちら
▼パワハラチェックに関して今スグ弁護士に相談したい方は、以下よりお気軽にお問い合わせ下さい。
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今回の記事で書かれている要点(目次)
- 1,厚生労働省が求める会社の対応について
- 2,パワハラの相談から解決までの対応手順の流れ
- 3,被害者(相談者)へのヒアリング時の対応について
- 4,加害者(行為者)へのヒアリング時の対応について
- 5,パワハラ対応マニュアル(各対応段階における注意点)
- 6,労働組合からの団体交渉への対処方法
- 7,【補足1】先輩や上司からパワハラを受けたときの対処方法(労働者側)
- 8,【補足2】部下からパワハラで訴えられたときの対応方法(労働者側)
- 9,パワハラの対応に関して弁護士へ相談したい方はこちら
- 10,パワハラトラブルについての咲くやこの花法律事務所の解決実績
- 10,「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法
- 11,パワハラに関する法律のお役立ち情報も配信中(メルマガ&YouTube)
- 12,【関連情報】パワハラに関するお役立ち関連記事
1,厚生労働省が求める会社の対応について
まず、パワハラ被害の相談があった場合の会社の基本的な対応を確認しておきましょう。
厚生労働省のパワハラ防止指針により、事業者は、従業員からパワハラ被害の相談があった際に、以下の対応を取ることが求められています。
- (1)事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認すること。
- (2)職場におけるパワーハラスメントが生じた事実が確認できた場合においては、速やかに被害を受けた労働者に対する配慮のための措置を適正に行うこと。
- (3)職場におけるパワーハラスメントが生じた事実が確認できた場合においては、行為者に対する措置を適正に行うこと。
- (4) 改めて職場におけるパワーハラスメントに関する方針を周知・啓発する等の再発防止に向けた措置を講ずること。 なお、職場におけるパワーハラスメントが生じた事実が確認できなかった場合においても、 同様の措置を講ずること。
パワハラ防止指針は、以下のリンクからご覧いただけます。
つまり、「パワハラの相談があった際は、迅速かつ正確に事実関係を確認したうえで、パワハラがあったと認められる場合は、被害社員への配慮及び加害社員への処分等を適切に行い、再発防止措置をとる」ことが事業者の責任であるとされています。
では具体的にどのような流れで対応すればよいのか、以下でご説明いたします。
2,パワハラの相談から解決までの対応手順の流れ
パワハラの相談があった後、事業者は以下のような手順の流れで対応することになります。
- (1)調査担当者を決める、または調査委員会を作る
- (2)事実関係の調査をする
- (3)パワハラの有無について判断する
- (4)調査報告書を作成する
- (5)被害者への配慮の措置を行う
- (6)加害者に対する処分等の措置を行う
- (7)再発防止に向けた措置を講ずる
以下で一つずつ詳しくご説明いたします。
(1)調査担当者を決める
社内でパワハラ被害の相談があった場合、まずは、調査担当者を決めることが必要です。
ハラスメント相談窓口の担当者がそのまま調査担当者となるケースのほか、ハラスメント相談窓口の担当者は調査を担当せず、調査は調査担当者や調査委員会に委任するケースもあります。
中小企業では調査担当者1名で調査を担当することも多いですが、調査の客観性を担保するためには、複数名での調査委員会を作ることが望ましいでしょう。
調査委員会を作るときは、調査委員会のメンバーに、人事部門の担当者に加え、法務部門を含めて構成することが望ましいです。そうすることで、調査の方法や調査の過程における証拠の確保について法的な観点からも検討を加えることができます。
ここでは社内で調査担当者を指定したり、調査委員会を構成するケースについてご説明しましたが、調査の客観性を確保し、また調査過程で不適切な対応がないようにするためには、調査をパワハラ問題に精通した弁護士に依頼することも、選択肢の1つです。
(2)パワハラの事実調査をする
調査担当者を決め、または調査委員会を作った後は、パワハラの有無について事実調査を行います。
パワハラの事実調査は、以下の手順で行います。
- ① 相談者へのヒアリングを行う
- ② 録音やメールの履歴等、パワハラについての証拠の確認を行う
- ③ 相談者の承諾を得た上で関係者からのヒアリングを行う
- ④ 相談者の承諾を得た上で行為者にヒアリングを行う
- ⑤ 相談者と行為者の言い分が食い違う点について再度ヒアリングを行う
ヒアリングを行う際には、聞き取った内容について記録を取り、その内容を文書にまとめて、内容に間違いがないかをヒアリング対象者に確認させ、署名をしてもらいましょう。
パワハラについての調査方法や調査における注意点は、以下の記事で詳しく説明していますので、ご参照ください。
また、調査の際に重要になる証拠の集め方については、以下の記事をご参照ください。
▶参考動画:西川弁護士が「ハラスメント調査のトラブル事例!重要な注意点を解説【前編】」について詳しく解説中!
(3)パワハラの有無について判断する
パワハラの事実調査を終えると、次はその調査結果をもとに、パワハラの有無について判断します。
この時、相談者の供述と行為者の供述が食い違っている場合は、どちらの言い分が信用できるのかを判断する必要があります。
そのような場合は、以下の点を判断材料として、事実認定を行いましょう。
- ① 相談者あるいは行為者のどちらかの言い分について、他の証拠に照らして不自然な点がないか
- ② 相談者あるいは行為者のどちらかの言い分について、当初の言い分から不自然に変更された点はないか
- ③ 相談者がハラスメントを訴えた時期がいつか(ハラスメントがあったとされる日から長期間経過してハラスメントを訴えている場合で、長期間行動しなかったことについて合理的な理由が認められない場合は、相談者の供述の信用性を疑う理由になり得ます)
- ④ 相談者に虚偽の供述をする動機がないか
- ⑤ ほかに被害者がいるか(相談の対象となった行為者について、相談内容と同様のパワハラ被害を訴える従業員が他にもいるときは、パワハラがあったことを推測させる事情の1つになり得ます。)
また、事実認定をした後は、それがパワハラにあたるかどうかの判断を正しく行う必要があります。
パワハラかどうかの判断基準については以下の記事で解説していますのでご参照ください。
(4)調査報告書を作成する
パワハラの有無について判断した後は、調査報告書を作成します。
調査報告書には、以下の内容を記載しましょう。
- 調査を実施した調査担当者や調査委員会のメンバーやその独立性について
- 調査を実施した期間と具体的な調査方法
- 相談者からのハラスメント被害申告の経緯とその内容
- ハラスメントの有無に関する行為者の主張内容
- 調査により判明した事実関係
- ハラスメントの有無に関する事実認定と結論
- ハラスメント防止のための改善点
(5)被害者への配慮の措置
パワハラがあったと認定された場合、すみやかに、被害者への配慮の措置を講じることが必要です。
被害者への適正な措置として、パワハラ防止指針では以下の例が挙げられています。
- 加害者との関係改善に向けての援助
- 加害者と引き離すための配置転換
- 加害者から謝罪させる
- 被害者の労働条件上の不利益の回復
- 管理監督者又は事業場内産業保健スタッフ等による被害者のメンタルヘルス不調への相談対応
(6)加害者に対する処分等の措置を行う
また、パワハラがあったと認められた場合は、加害者に対して適正な措置を行う必要があります。
パワハラ防止指針では、措置を適正に行っていると認められる例として以下の例が挙げられます。
- 必要な懲戒その他の措置を講ずる
- 被害者との関係改善に向けての援助
- 被害者と引き離すための配置転換
- 被害者へ謝罪をさせる
上記のようなパワハラ防止指針にあげられた措置のほかに、加害者にパワハラ防止研修を受講させる、パワハラを繰り返さない旨の誓約書を提出させるといった措置も検討に値します。
パワハラの加害者に対する処分等の措置については以下の記事で解説していますのでご参照ください。
(7)再発防止に向けた措置を講ずる
パワハラ防止指針では、被害者と加害者への個々の対応にあわせて、職場全体に向けたパワハラの再発防止措置を講じることが求められています。
パワハラ防止指針では、パワハラの再発防止措置として、次の例が挙げられます。
- 職場におけるパワーハラスメントを行ってはならない旨の方針及び職場におけるパワーハラスメントに係る言動を行った者について厳正に対処する旨の方針を、社内報、パンフレッ ト、社内ホームページ等広報又は啓発のための資料等に改めて掲載し、配布等すること
- 労働者に対して職場におけるパワーハラスメントに関する意識を啓発するための研修、講習等を改めて実施すること。
厚生労働省は、パワハラがあったと認められなかった場合においても、これらの防止措置を講じるべきだとしています。
パワハラの防止対策については、以下の記事でも詳しく解説していますのであわせてご覧ください。
3,被害者(相談者)へのヒアリング時の対応について
社内の先輩や上司からのパワハラ被害を相談することは、とても勇気がいることです。また、パワハラにどう対処したらよいかわからず相談したが、相談したことを理由に、今後不利益な取扱いをされるのではないか、と不安を感じる相談者も多いはずです。
そのため、パワハラに関する相談があった際には、相談窓口の担当者は相談者に対して「相談したことを理由に不利益な取り扱いがされることはないこと」、「プライバシーは保護されること」を十分に説明し、相談者との信頼関係を築くことが大切です。
ヒアリングでは「指導」や「判断」をすることはせず、相談者の言い分に気になる点があったとしても、反論したり、話を遮ったりせずに、聞き取りを行うことに徹することが重要です。
聞き取りの担当者は、あくまでも中立的な立場をとり、主観の判断を伝えたり、相談者に対して肩入れをしすぎないように注意してください。
ハラスメント相談窓口での対応の注意点については以下でも解説していますのでご参照ください。
4,加害者(行為者)へのヒアリング時の対応について
相談者からのヒアリングをひととおり終えた後は、相談者の了解を得た上で、行為者に対してヒアリングを行うことになります。
そして、相談者の主張は、必ずしも事実とは限りません。そのため、行為者へのヒアリングの際には、あくまで中立的な立場であることを意識し、先入観をもたないようにして臨む必要があります。
相談者への対応と同様に、ヒアリングの際には聞き取りに徹し、聞き取り担当者の主観や判断を伝えるようなことはしないようにしましょう。
また、パワハラの調査対象になっているという事実が、社内に漏れると、それだけで行為者に不利益を与える可能性もあります。そのため、パワハラに関する聞き取り調査を行っていることを、周りに知られないようにする工夫が必要となります。
一方で、パワハラの事実調査は、一定の期間を要します。その間、行為者と相談者を同じ職場で執務をさせてしまうと、相談者に対するパワハラが継続され、相談者に心理的負荷がかかり続ける恐れがあります。そのため、相談内容が深刻なものであるときは、調査結果をまたずに、被害者と行為者を隔離することも検討する必要があります。
仮にパワハラの存在が認められない場合であっても、配置転換等の対応をすべきであった旨を判示した裁判例として、以下のものがあります。
参考裁判例:
さいたま地方裁判所判決 平成27年11月18日
●事案の概要
市の職員が、指導係からパワハラを受けたことによって精神疾患を発病し、自殺したとして、遺族が市に対して損害賠償を請求した事件です。
この職員は、生前、この指導係から暴力を受けていてあざができており、写真を撮ってあることやパワハラを受けていることなどを上司に相談していたという事情がありました。
●裁判所の判断
裁判所は、職員がパワハラの相談をした際に、上司はパワハラの有無について全く確認をしなかったうえ、10分程度の話し合いしかなされなかったため再度話し合いの機会を作ってほしいという職員の要望にも答えず放置したことにより、パワハラが放置されたとして安全配慮義務違反と判断しました。
この事案では、職員は前年にうつ病での休職歴があり、また、相談の内容からもパワハラの相談をしてきた時点で深刻な事態ととらえてしかるべき状況にあったということができるから、市は、パワハラの有無を調査し、仮にパワハラの存在が認められない場合であっても、指導係又は職員に対して配置転換等の措置を取るなどして、両者を切り離し、職員のうつ病を悪化させることがないように配慮すべきであったと判断されています。
5,パワハラ対応マニュアル(各対応段階における注意点)
ここまで、パワハラの相談があった際の会社の対応の流れをご説明いたしました。
ここでは、会社の各段階の対応において注意すべき点について、解説します。
ここでご説明する注意点と、前述の対応の流れを参考に、自社のパワハラ対応マニュアルを整備しておくと、いざというときに対応に迷わなくて済むでしょう。
(1)調査担当者、調査委員会について
調査担当者、調査委員会は、常に中立的な立場を取り、調査の公平性を保つことが重要です。
そのため、調査担当者や調査委員会のメンバーは、相談者及び行為者の両者と、利害関係のない者で構成する必要があるといえます。相談者、行為者のどちらかと個人的な人間関係がある人物を調査に関与させることは適切ではありません。
(2)パワハラの事実調査の注意点
1,相談者に提出してもらった資料の取り扱いに注意
相談者から提出された資料については、その取扱いに注意を要します。
行為者や関係者へのヒアリングの際に、相談者から提出された資料をどこまで共有して良いかについて、あらかじめ相談者に確認しておき、適切に取り扱うように注意してください。
実際に、パワハラの相談者から提出された資料を行為者にそのまま示したことが違法であるとして損害賠償を命じられた裁判例をご紹介いたします。
参考裁判例:
京都地方裁判所判決令和3年5月27日
●事件の概要
市立幼稚園の教諭が、園長からパワハラを受けたと主張し、その証拠資料として日記のコピーを市長に提出したところ、市がその日記のコピーを当該園長に交付して事実確認させたことが問題となった事案です。
教諭は、日記のコピーを園長に確認させたことは、プライバシーの侵害であるとして市に対して損害賠償を請求しました。
●裁判所の判断
裁判所は、日記には教諭の心情等の記載もあり、被害者であると主張する教諭の立場からすれば、園長に日記の内容をそのままの状態では知られたくないと考えるのが通常であると指摘しました。
そのうえで、コピーをそのまま渡すのではなく、事実関係のみを抽出して作成した書面を交付するなど、他の方法により事実確認をすることも可能であったとして、日記のコピーを交付したことはプライバシーの侵害にあたると判断しました。
2,関係者へのヒアリングはできるかぎり広範囲に実施する
関係者へのヒアリングの段階では、ヒアリングの対象となる関係者と、相談者あるいは行為者との人間関係が、供述内容をゆがませる可能性がある点に留意する必要があります。
行為者に対して恨みを抱いているような関係者にヒアリングを行うと、パワハラを誇張した主張をする可能性もありますし、逆に普段から親しくしているような場合には、行為者をかばって事実を言わない可能性もあります。
人間関係によって調査結果がゆがめられるリスクを排除するためには、関係者へのヒアリングをできるかぎり広範囲に実施することが重要です。
実際に、幅広くヒアリングを行っていたことから、パワハラの調査結果の信用性が肯定された裁判例をご紹介いたします。
参考裁判例:
東京地方裁判所判決令和元年11月7日
●事案の概要
大手税理士法人が、法人内に設置したコンプライアンス室に匿名でパワハラの通報があったため、法人がパワハラの調査を弁護士に依頼して、調査の結果、パワハラがあったとされた人事課長に訓戒処分を行った事件です。
これに対し、人事課長が調査結果は誤りであるとして、訓戒処分の無効の確認を求める訴訟を起こしました。
●裁判所の判断
人事課長は、訴訟において、人事課長と、パワハラを受けたとされる被害社員はいずれも従業員5名で構成される人事部に所属しており、このような少人数の人事部内の人間関係によって間違った調査結果になっていると主張しました。
具体的には、弁護士によるパワハラ調査の際のヒアリング対象者の中に、人事課長を人事部から異動させたがっている人事部長や、被害社員と親しい人事部内の従業員が含まれており、彼らが被害社員のパワハラの訴えに同調する虚偽の供述をしたことで調査結果がゆがめられていると主張しました。
しかし、裁判所は、この人事課長の主張を採用せず、パワハラがあったという結論を出した調査結果の信用性を肯定しています。
裁判所はその理由として、パワハラ調査を担当した弁護士が、人事部内だけでなく他部署の従業員からも事情聴取を行っている点を評価して、「人事部における人間関係にとらわれない調査がされている」とし、調査結果が部署内の人間関係によってゆがめられたという指摘はあたらないとしています。
小さい部署内でのハラスメント調査では、その部署内でヒアリング調査をすれば十分と考えがちです。
しかし、上記裁判例のように、行為者から、部署内の人間関係によって調査結果がゆがめられているという主張がされることがありますので、他部署も含めて関係者のヒアリング調査をするなどして、調査の信用性を高めることが必要です。
(3)パワハラ該当性の判断は弁護士に相談する
パワハラに該当するかどうかの判断は複雑であり、自社で判断すると、判断を誤ることも少なくありません。
パワハラ該当性の判断については、必ず弁護士に相談することが必要です。
パワハラ被害を訴えている被害者に対してパワハラには該当しないと説明する場面や、パワハラであると認めていない行為者に対してパワハラにあたると説明する場面も、弁護士への相談したうえでの判断であることを説明することによってはじめて説明に説得力をもたせることができます。
(4)調査報告書は訴訟での証拠提出も意識して作成する
調査報告書は、加害者への懲戒処分や被害者への対応を決定するうえで、非常に重要な証拠となります。
調査の結果、パワハラがあったと判断して加害者に懲戒処分をするときは、加害者が後日、懲戒処分が不当、無効であると主張して処分の撤回を求めたり、事業者に対して懲戒処分の無効を確認する訴訟が起こされるということを視野に入れる必要があります。
調査報告書は、このような訴訟において、行為者に対する懲戒処分が妥当であることを示すための重要な証拠となるものです。
また、調査の結果、パワハラには該当しないと判断したときは、被害者が事業者に対して損害賠償を請求し、これに応じない事業者に対して訴訟が起こされるということを視野に入れる必要があります。
調査報告書は、このような訴訟において、パワハラがなかったという事業者の主張を基礎づけるための重要な証拠となるものです。
そのため、調査報告書は、将来の訴訟での証拠になることを見据えて、客観性、信用性が担保されたものを作成することが重要になります。
(5)被害者に体調不良が生じている場合は休職命令を検討する
被害者に体調不良が生じているときは、医療機関への受診を促し、必要であれば診断書を提出させ、休職を命じるなどの措置をとることが重要です。
また、パワハラが確認されたときに被害者と加害者を引き離すための配置転換は、原則として加害者について行うべきです。
労働施策総合推進法(パワハラ防止法)の第30条の2第2項は「事業主に相談等をした労働者に対する不利益取り扱いの禁止」を定めており、被害者を配置転換することには慎重な検討が必要です。
被害者側から異動を申し出てきている場合や、被害者が明確に異動に同意している場合を除き、被害者を配置転換することは避けるべきです。
また、被害者からうつ病等の精神疾患を発症したとして、労災を申請したいとの申し出がされる場合もあります。
パワハラがあったかどうかと、精神疾患の業務起因性とは別の問題であり、必ずしも、労災が認定されるとは限りません。
しかし、たとえ事業者が労災ではないと考えている場合でも、労災申請における書類の手続きについて、事業者が一定のサポートをすることが義務とされています。
従業員の労災申請についての事業者側の対応や、パワハラによる精神疾患の労災認定基準については、以下の記事で詳しくご説明しておりますので、ご参照ください。
(6)加害者の懲戒処分は重すぎず軽すぎないように注意が必要
事業者としてパワハラの事実があったと判断し、加害者に対して懲戒処分をする場合は、まず就業規則において、パワハラが懲戒事由として定められていることを確認する必要があります。また、懲戒処分に先立ち、加害者に弁明の機会を与えることも必要です。
さらに、パワハラの程度や内容、加害者の懲戒処分歴や反省の程度などを考慮して、重すぎず軽すぎない処分を選択することが必要です。
処分が重すぎる場合は、懲戒処分が後日、裁判所で無効と判断される危険があります。パワハラの程度が軽微である場合は、懲戒処分を行わず、被害者に対して謝罪させ、再発防止を確約させるといった謝罪で済ませることが適切な場合もあります。
実際に、パワハラを理由とした停職の懲戒処分について、重すぎるとして無効と判断した裁判例をご紹介いたします。
参考裁判例:
T大学事件(東京地方裁判所判決 平成27年9月25日)
●事案の概要
大学に勤務する教員が、部下に対し「あんたはばかなんだから」「あんたは実力がない」「あんたなんかいなくたっていい」と発言したり、コップのお茶をかけるなどしたことがパワハラであるとして2か月の停職の懲戒処分とされたことについて、処分が無効であると主張した事件です。
●裁判所の判断
部下が外面的には教員との良好な関係を保っており、部下の深刻な被害感情に思いが及ばなかったとしてもやむを得ないところがあるなどとして、部下の心情を理解させたうえで改善を待つなどの機会を与えないまま、いきなり停職処分を課すのは重すぎるとして無効と判断しました。そして、停職期間における未支給の給与及び賞与の減額分として、総額約240万円の支払を命じました。
このように、加害者への懲戒処分が重すぎると、訴訟トラブルに発展し、会社が敗訴する危険があります。一方で、軽すぎる処分は、被害者に不満を抱かせ、また、会社内の規律維持の観点からも適切とは言えません。
そのため、加害者への処分については、慎重に決定する必要があります。
懲戒処分の選択や、正しい懲戒処分の進め方については、以下の記事でも詳しくご説明しておりますので、ご参照ください。
(7)社内での公表時はプライバシーに配慮する
パワハラの再発防止のため、事例として社内に公表する場合は、プライバシー保護の観点から、個人を特定できないようにすることが必要です。
事例の公表の目的は、あくまでも再発防止のための注意喚起であり、加害者に対する見せしめではありません。懲戒処分を公表したことが、名誉棄損に該当するとして、事業者が損害賠償を命じられている事例もありますので、注意してください。
懲戒処分の公表についての注意点は、以下の記事で詳しく解説していますので、併せてご参照ください。
6,労働組合からの団体交渉への対処方法
パワハラ被害を訴える従業員が外部の労働組合に加入し、事業者の対応が不当だとして、団体交渉を申し入れるケースがあります。
団体交渉については、以下で詳しく解説していますので参考にご覧ください。
また、パワハラを理由に決定した懲戒処分が不当だとして、パワハラの加害者側が外部の労働組合に加入し、懲戒処分の撤回を求める団体交渉を申し入れるケースもあります。
団体交渉の申し入れがあったときは、労働組合法に定められたルールに注意して、対処することが必要です。
外部の労働組合から団体交渉を申し入れた場合の対応の流れと進め方のポイントについて、以下の記事で解説していますのでご参照ください。
7,【補足1】先輩や上司からパワハラを受けたときの対処方法(労働者側)
では、労働者側の立場では、先輩や上司からのパワハラに対し、どのように対処すればよいでしょうか。
(1)会社の同僚や上司、ハラスメント相談窓口に相談する
パワハラを受け悩んでいる場合は、同僚や上司、社内、あるいは社外のハラスメント相談窓口に相談しましょう。
一人で抱え込んでいても、解決するどころか状況が悪化してしまい、うつ病等の精神疾患を発症してしまうといったことになりかねません。そのため、パワハラに悩んでいる場合は、一人で抱え込まずに、誰かに相談することが重要です。
ハラスメント相談窓口は、多くの事業者で、匿名での相談も可能とされていますので、勇気が出ない場合は、まず匿名で相談してみるのも一つの方法と言えるでしょう。
パワハラの相談については以下の記事で詳しくご説明していますのでご参照ください。
(2)証拠について
パワハラトラブルの解決において一番重要となるのが、証拠です。
証拠がなければ、パワハラと思われる言動の存在が認められず、パワハラに該当するか否かの判断がなされる前に、証拠不十分であるとして主張が認められない可能性があります。
まずは証拠を確保することが重要となります。
証拠の中でも、録音データやメール等でのやり取りの履歴は、客観性が高いため非常に有効な証拠となります。
(3)うつ病等の精神疾患を発症している場合
パワハラが原因で、うつ病等の精神疾患を発症しており、働けない状態になっている場合、働けない間の生活費は、労災給付または傷病手当金でまかなうのが通常です。
一方で、労災給付及び傷病手当金は給与の全額は出ないため、その差額を会社に負担してもらうことも考えられます。
この点については、まずは会社と話し合いをしてみることが必要でしょう。
先輩や上司からのパワハラについては、以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。
8,【補足2】部下からパワハラで訴えられたときの対応方法(労働者側)
一方、あなたが上司の立場で、部下からパワハラで訴えられたときの対応については、実際にあなたがパワハラにあたるような言動をしてしまったのであれば、謝罪をしたうえで、反省の態度を示し、会社の調査に協力することが必要になります。
なお、その場合も、会社が懲戒処分等を課そうとしているときで、その処分の内容が重すぎると感じるときは、重すぎる懲戒処分は法律上無効となることがありますので、弁護士に相談して、会社に懲戒処分の撤回を求めることを検討する余地があります。
一方で、実際はパワハラにあたるような言動をしてないのに、パワハラをしたとして部下から主張を受けたときなど、いわば冤罪といえるような場面では、部下の主張のうち事実と違う点をしっかりと会社に説明することが必要です。
また、部下に対する叱責がパワハラであると部下から主張された場合も、叱責は必要な指導として行ったものであることを会社に説明していくことが必要です。
部下からパワハラで訴えられたときの対応方法については以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。
9,パワハラの対応に関して弁護士へ相談したい方はこちら
ここまで主にパワハラ被害報告があったときの事業者側の対応についてご説明してきましたが、正しい対応をするためには、弁護士への相談が不可欠です。
ここからは、筆者が代表を務める咲くやこの花法律事務所のサポート内容をご紹介します。
(1)会社側の対応方法のご相談
パワハラの相談があった際、会社がいかなる対応をするかが、トラブル解決において、とても重要となります。
誤った対応をしてしまうと、被害者や行為者との間でトラブルとなり、訴訟に発展することも少なくありません。
パワハラトラブルを長期化させず、迅速に解決するためにも、パワハラトラブルへの対応は、初期段階で弁護士に相談することをおすすめします。
筆者が代表を務める咲くやこの花法律事務所では、以下のようなパワハラのトラブルに関するご相談、ご依頼を事業者側の立場で承っています。
- パワハラ被害の訴えがあった場合の対応方法についてのご相談
- パワハラに関する事実調査のご依頼
- パワハラの加害者に対する懲戒処分についてのご相談
- パワハラ被害者からの損害賠償請求、訴訟または団体交渉申し入れへの対応のご依頼
- パワハラ加害者に対する懲戒処分をめぐる訴訟または団体交渉申し入れへの対応のご依頼
弁護士へのご相談費用
●法律相談:初回30分/5500円(税込) 顧問契約締結の場合は無料
咲くやこの花法律事務所では、パワハラトラブルについて経験・実績が豊富な弁護士が、ベストな解決に向けた助言、サポートを行います。パワハラトラブルへの対応に困った際は、ぜひ咲くやこの花法律事務所にお任せください。
(2)顧問弁護士サービス
咲くやこの花法律事務所では、パワハラトラブルをはじめとする、労務トラブルを日ごろから弁護士に相談するための、顧問弁護士サービスを事業者向けに提供して、多くの事業者をサポートしてきました。
顧問弁護士サービスを利用することで、問題が小さいうちから気軽に相談することができ、問題の適切かつ迅速な解決につながります。また、日ごろから労務管理の改善を進め、トラブルに強い会社をつくることに取り組むことができます。咲くやこの花法律事務所の顧問弁護士サービスは以下をご参照ください。
10,パワハラトラブルについての咲くやこの花法律事務所の解決実績
ご参考までに咲くやこの花法律事務所におけるパワハラトラブルに関する企業向けのサポートの解決実績の一部を以下でご紹介しております。
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10,「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法
パワハラの対応に関する相談などは、下記から気軽にお問い合わせください。今すぐのお問い合わせは以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
【お問い合わせについて】
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12,【関連情報】パワハラに関するお役立ち関連記事
この記事では、パワハラ発生時の対応は?マニュアルや対処法、流れについて解説しました。社内でパワハラトラブルが発生した際は、パワハラかどうかの判断はもちろん、初動からの正しい対応方法を全般的に理解しておく必要があります。
そのためにも今回ご紹介したパワハラに関する対応知識をはじめ、他にもパワハラに関する基礎知識など知っておくべき情報が幅広くあり、正しい知識を理解しておかなければ重大なトラブルに発展してしまいます。
以下ではこの記事に関連するパワハラのお役立ち記事を一覧でご紹介しますので、こちらもご参照ください。
・パワハラの種類はいくつ?6つの行為類型を事例をもとに徹底解説
・職場のパワハラチェックまとめ!あなたの会社は大丈夫ですか?
・パワハラ(パワーハラスメント)を理由とする解雇の手順と注意点
・パワハラの慰謝料の相場はどのくらい?5つのケース別に裁判例をもとに解説
・逆パワハラとは?具体的な対処法を事例や裁判例付きで徹底解説
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記事作成弁護士:西川暢春
記事作成日:2023年6月29日