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パワハラの事例について!よくある例をわかりやすく解説

パワハラについての事例をわかりやすく解説
  • 西川 暢春(にしかわ のぶはる)
  • この記事を書いた弁護士

    西川 暢春(にしかわ のぶはる)

    咲くやこの花法律事務所 代表弁護士
  • 出身地:奈良県。出身大学:東京大学法学部。主な取扱い分野は、「問題社員対応、労務・労働事件(企業側)、クレーム対応、債権回収、契約書関連、その他企業法務全般」です。事務所全体で400社以上の企業との顧問契約があり、企業向け顧問弁護士サービスを提供。

どのような事例がパワハラに該当するのか分からず、調べていませんか?

パワハラの事例としては以下のものをあげることができます。

  • 身体的な攻撃(殴る、蹴る、物を投げつけるなど)
  • 精神的な攻撃(人格を侮辱する暴言、人前での苛烈な叱責など)
  • 人間関係からの切り離し(必要な情報を与えず孤立させる、会議に参加させないなど)
  • 過大な要求(明らかに達成不可能なノルマの強制など)
  • 過小な要求(草むしりや掃除といった雑用しか与えないなど)
  • 個の侵害(家族や交際相手について執拗に詮索するなど)

 

パワハラに関する法令の整備が進んだこともあり、近年パワハラに対する認識がより広まっています。しかし、高年齢層ではまだまだパワハラについての理解が遅れていることもあり、そのことがパワハラの温床となり、企業の責任が問われる恐れがあります。また、上司がパワハラについての正確な理解がない場合に、逆に、部下からパワハラを受けたという主張がされることを恐れて、必要な指導を行わなくなる恐れもあります。

その結果、部下の規律違反行為や部下の業績不良を放置してしまい、事業に重大な悪影響が生じてしまうこともあります。

この記事では、ケースごとのパワハラの事例や、パワハラにあたらない事例、グレーゾーン的な事例などについて解説します。この記事を最後まで読めば、場面ごとのパワハラの事例にどのようなものがあるのか、どのような言動がパワハラに該当するのかを理解できるはずです。

それでは見ていきましょう。

 

▶参考情報:なお、パワハラの基礎知識をはじめとする全般的な説明については、以下の記事で詳しく解説していますので事前にご参照ください。

パワハラとは?わかりやすい解説まとめ

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

社内でパワハラ被害の訴えがあった場合には適切な方法で事実関係を調査して証拠化したうえで、パワハラの有無を判断し、被害者への対応、加害者への対応を決めていく必要があります。調査のやり方や事実認定をめぐって被害者あるいは加害者との間でトラブルになりやすく、会社の誤った対応がトラブルの原因になっていることも非常に多いです。

被害の訴えがあったときは、調査の進め方や被害者、加害者への対応方法について、早期に弁護士にご相談いただくことをおすすめします。

パワハラに強い弁護士にトラブル解決を依頼する各種メリットや弁護士費用についてなどは、以下の記事で詳しく解説していますので、ご参照ください。

 

▶参考情報:パワハラに強い弁護士にトラブル解決を依頼するメリットと費用の目安

 

また、咲くやこの花法律事務所のパワハラ関連の解決実績もあわせてご参照ください。

 

▶参考情報:咲くやこの花法律事務所のパワハラトラブルについての解決実績はこちらをご参照ください。

 

▼パワハラに関して今スグ弁護士に相談したい方は、以下よりお気軽にお問い合わせ下さい。

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※個人の方からの問い合わせは受付しておりませんので、ご了承下さい。

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1,パワハラに当てはまる言動とは?

パワハラの具体的な事例を見ていく前に、どのような言動がパワハラにあたるのかについて、パワハラの定義を確認しておきましょう。

厚生労働省はパワハラの定義として「職場において行われる(1)優越的な関係を背景とした言動であって、(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、(3)労働者の就業環境が害されるものであり、(1)から(3)までの要素を全て満たすもの」とパワハラ防止指針において定めています。

例えば業務上必要な範囲の指導は、通常は、「(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより」「(3)労働者の就業環境が害されるものであり」の要素を満たさず、パワハラには当たりません。

パワハラの定義についての詳しい内容については、以下の記事で解説していますのでご参照ください。

 

 

2,人格否定の暴言によるパワハラの事例

人格否定の暴言によるパワハラの事例

人格を否定・侮辱するような言動は精神的な攻撃の類型のパワハラに該当します。

実際の裁判例としては、以下のようなものがあります。

 

福井地方裁判所判決 平成26年11月28日

消火器販売会社に勤める新入社員が、上司から「耳が遠いんじゃないか」「相手するだけ時間の無駄」「会社を辞めた方が皆のためになる」「死んでしまえばいい」「この世から消えて欲しい」などの罵倒を繰り返し受け、自殺した事案です。

裁判所は、これらの発言は仕事のミスに対する叱責を超えて、人格を否定し威圧するものであり、これらの言葉が上司から入社後1年にも満たない新入社員になされたことを考えると典型的なパワハラと言わざるを得ないとし、不法行為に当たると認めています。

この事例において、裁判所は会社と加害者である上司に、約7300万円の損害賠償を命じました。

言葉によるパワハラの事例については以下の記事で詳しく解説していますので併せてご参照ください。

 

 

3,陰口はパワハラにあたらないことが多い

陰口は、本人に向けられた言動ではないため通常はパワハラにならないことが多いでしょう。

ただし、個人の人格を傷つける陰口について違法性が認められるケースは存在します。

例えば、以下の裁判例は、職場内の陰口について違法性を認め賠償を命じた例です。

 

大阪地方裁判所判決 平成30年12月20日

会社の同僚A、Bの二人が、「チャットワーク」のチャット機能において、ある社員のことを「コシツ星人」などと言及し、一人が「今日な、コシツ星人が朝からやばくてさ…昼もうっさかったやろ?まじ迷惑。昨日夫婦無断で休んどいて何様って思うwどうでもいい話聞きたないからもめるなら個室に行け!コシツ星人だけに!!ぐっちちゃった」と書き込み、それに応じもう一人が「コシツさんはほんま個室に閉じこもっててwガチで精神医療センター入ってほしいわー!」「お花たくさん用意してあげるから、大人しくお花と会話しといてw」などと書き込みを行いました。

また、書き込みを行った二人は、コシツ星人と称する社員が社内の噂話などを知っておかないと気が済まない性格であるとの認識の下、「コシツ」とのあだ名をつけていました。その後、社員が業務上の必要性から同僚Aのパソコンを閲覧した際、業務上の必要性なくチャットワークの画面を閲覧し、これらの書き込みを目にしました。

社員はうつ病を発症し、休職しましたが、休職期間満了により復職することはありませんでした。

裁判所は本件書き込みについては社員に不快感を覚えさせるにすぎないと評価し、一定範囲の精神的損害についてのみ相当因果関係を認め、会社と陰口を言っていた同僚に対して、慰謝料として5万円の支払いを命じました。

 

4,過大な要求のパワハラの事例

過大な要求の代表的なパワハラの事例としては、以下のようなものが挙げられます。

 

  • 終業時刻間際に深夜まで残業しても終わらないであろう量の仕事を押し付ける
  • まだ仕事内容を覚えきれていない新入社員に対し、ベテラン社員と同じ内容の仕事を押し付ける
  • 部下がミスをするたびに大量の反省文を書かせる。

 

新入社員への過大な要求の典型的な事例についての裁判例をご紹介します。

 

津地方裁判所判決 平成21年2月19日

土木建築会社に勤める新入社員が、過酷な工事現場での長時間労働の末、交通事故で亡くなった事例です。

この新入社員はベテランの社員にとっても過酷とされる工事現場に配属され恒常的に長時間労働を強いられており、土曜日も出勤することがほとんどでした。

また上司は頻繁に新入社員を叱責し、物を投げつける、蹴飛ばすなどの行為を行っていました。

なお、新入社員は徹夜明けで2時間しか睡眠できていない状態で先輩社員らと居酒屋で飲酒した後、自ら車を運転して先輩社員らを自宅に送る途中に交通事故を起こし、先輩社員らと共に死亡しました。

裁判所は、会社がパワーハラスメント防止義務に違反したとして慰謝料150万円を認めています。

 

5,職種ごとに見るパワハラの事例

次に、その性質上パワハラが起こりやすい職業のパワハラについて、職種別にみていきましょう。

 

(1)学校教員の事例

学校の教員は、その閉鎖的で特殊な環境からパワハラが起こりやすい職業の一つです。

特に経験の浅い新任教師・青年教師のパワハラ被害が問題になる傾向にあり、校長などの管理職からパワハラを受けるといったケースも多く見られます。

実際に起きたパワハラ事例を一つご紹介します。

 

甲府地方裁判所判決 平成30年11月13日

教員が児童の父と祖父の理不尽な謝罪要求に対し、応じるよう強要した事案です。

ある日、児童の家で飼っていた犬に教員が咬まれるという事故が発生しました。

教員が児童の母親に、もし保険に加入しているのならそれを使って賠償してほしい旨を伝えた後、それに対し児童の祖父が「地域の人に教師が損害賠償を求めるとは何事か」などと言って教員を非難し、「強い言葉を娘に言ったことを謝ってほしい」などとして謝罪を求めました。

これを受けて、校長は教員に対し、児童の祖父と父に謝罪するよう強要しました。また謝罪後、「会ってもらえなくとも、明日、朝行って謝ってこい」と言い、翌日に教員一人で児童宅を訪問し児童の母に謝罪するよう指示しました。

裁判所はこれらの校長の行為について、勢いに押されその場を穏便に収めるための安易な行動であり、「教員の自尊心を傷つけ、多大な精神的苦痛を与えたものと言わざるを得ない。」として、パワハラであると判断しています。

 

(2)介護業界の事例

介護業界も、パワハラが起こりやすい業界の1つです。

介護職員間で起こるパワハラの事例として以下のものをあげることができます。

 

  • 「できないなら辞めろ」など適切な指導を超えた暴言
  • 必要な情報を与えずに孤立させる(合理的な理由なく申し送りをしない等)

 

以下で、介護職員間で起きるパワハラ事例についての裁判例をご紹介します。

 

福岡地方裁判所判決 令和元年9月10日

介護施設の職員が施設長からパワハラ被害を受けた事案です。

この施設長は、バザー担当になった職員に対しバザーの売上金を横領したと決めつけ、日常的に「ばか」「品がない」「泥棒さん」などと発言したり、利用者の手に便がついたまま食事をさせてしまった職員に対しトイレブラシをなめるよう強要するなどの行為を行っていました。

裁判所はこれらの言動について、「名誉感情を害し、人格をおとしめる発言や行動であるというべきであって、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景として、業務の適正な範囲を超えて、精神的、身体的苦痛を与える発言や行動であると認められるから、不法行為に該当する」と述べています。

 

(3)病院の事例

病院は上下による立場の差が大きく、パワハラが起こりやすい職場の1つです。

病院におけるパワハラについての事例を2つ取り上げてご紹介します。

 

1,医師間で起きたパワハラの事例(広島高等裁判所松江支部判決 平成27年3月18日)

整形外科医が患者の面前で整形外科部長に罵倒、暴行されたことや長時間労働によりうつ病を発症し、自殺に至った事案です。

自殺した医師は上司から「田舎の病院だと思ってなめとるのか」「その仕事ぶりでは給料に相当しない」「両親に連絡しようか」などと言われ多くの叱責を受けていました。

裁判所は、状況に照らしても社会通念上許容される指導又は叱責の範囲を明らかに超えるものであると判断して、約1億円の賠償を命じています。

 

2,医師から看護師になされたパワハラの事案(旭川地方裁判所判決 平成30年3月6日)

公立病院の医師が看護師に対し処方する薬剤名を誤って伝えた上、看護師に指摘されると「お前が間違って伝えたんだろう」と怒鳴りつけ詰め寄る、特定の看護師を罵倒する、激高した際に看護師の服を掴んで無理やり別室へ連れていく、などの行為を行いました。

医師は上記行動を含む問題行動の数々から懲戒免職処分を受け、訴訟を起こして、懲戒免職処分の取消を求めました。

裁判所は、この医師について「医師として当然行うべきことをせず,あるいは社会人として明らかに相当性を欠く言動をしていた」と指摘し、懲戒免職処分は適法であると判断しています。

 

(4)公務員のパワハラの事例

 

川崎市水道局事件(東京高等裁判所判決 平成15年3月25日)

水道局の職員(公務員)が上司3人から執拗にいじめ・嫌がらせを受け自殺に至った事案です。

この職員は以前、職員の家族と水道局の間で土地の貸し出しについてトラブルがあり、そのために水道局が負担する工事費が増加するといった出来事がありました。

トラブルの後異動した職員は、無口で内気な性格とトラブルについての負い目もあり職場に馴染めずにいたところ、上司らから「なんであんなのがここに来たんだよ」といった発言や、職員の容姿を「むくみ〇〇」などと呼んで嘲笑するなどの嫌がらせ行為が執拗に行われました。

また課における旅行の際上司にナイフを振り回しながら脅すような発言をされ、精神的に追い詰められ自殺に至りました。

裁判所は、職員によるいじめの訴えがあったのにもかかわらず、いじめを制止せず、事実の有無の調査や善後策、いじめ防止のための職場環境の調整を怠ったのは安全配慮義務違反であるとして、川崎市に損害額として合計1172万9708円の支払を命じました。

 

6,パート社員や契約社員、派遣社員等に対するパワハラの事例

次に、非正規労働者(パート社員や契約社員社員、派遣社員等)に対するパワハラの事例をご紹介します。

パワハラにあたるのは「労働者」に対する言動であると厚生労働省は定義しています。

この「労働者」には、自社の正規雇用労働者だけではなく、パート社員や契約社員などの非正規雇用労働者についても含まれます。

また、派遣社員については、派遣先の事業主との間で雇用関係がありませんが、パワハラ防止義務については派遣先の事業主も派遣労働者を雇用する事業主とみなされ、派遣社員に対する言動もパワハラになり得ます(労働者派遣法47条の4)。

契約社員、派遣社員に対するパワハラの事例についてご紹介します。

 

(1)契約社員に対するパワハラ事例

 

福岡地方裁判所判決 小倉支部平成27年2月25日

病院に常勤的非常勤職員として勤務していた看護師が子育てのための年休取得の妨害、解雇を示唆されるなどの嫌がらせを受けた事案です。

この看護師は4人の子がいたため、以前から休暇を取得することが多く、そのために正社員への推薦を断られており、平成25年から1年間の雇用契約を締結していました。

平成25年4月、看護師の娘がインフルエンザに罹り、自身も体調不良のため早退したい旨を師長に申し出たところ、娘がインフルエンザに罹っていることを言わない方がいい、検査もしないようにといった発言をしました。

その後、子どもが高熱を出したと幼稚園から連絡を受け早退しようとしたところ、師長が「年休は使ってもいいけど、私は上にありのままを話す」等と発言し、翌月の面談においても看護師に対し「私が(あなたを)無理ですと言ったらいつでも首にできる」等と発言しました。

裁判所は、これらの発言を部下という弱い立場にある看護師を威圧する言動であり、社会通念上許容される相当な限度を超えて、配下にあるものに過重な心理的負担を与える違法なものであると評価し、病院を運営する連合会と師長に対し、連帯して計120万円を支払うように命じました。

 

(2)派遣社員に対するパワハラ事例

 

大阪高等裁判所判決 平成25年10月9日

医薬品製造販売会社に勤める派遣社員が、有給休暇予定の日に正社員から出勤を促されたり、指示された業務についてわからないでいると「殺すぞ」「あほ」等と罵倒された事案です。

裁判所は会社が派遣社員のために適切な職場環境を維持する義務があったのにも関わらず、それを怠ったとして慰謝料50万円の支払いを命じました。

 

7,パワハラのグレーゾーンについて判断した裁判事例

仕事をするにあたって、パワハラに該当するかどうかの判断が難しい、グレーゾーンな言動も多くあります。

特によく問題となる「叱責」についての事例を見ていきましょう。

 

(1)パワハラにあたらないとされた事例

まず、パワハラにあたらないとされた事例をご紹介します。

 

1,不適切な発言だがパワハラとまではいえないとされた事例(大阪地方裁判所判決 平成24年3月30日)

スケジュール調整ができず予定外の会議に出た部下に怒鳴ることなく「自分の仕事しないで、どうして会議に出たんや」と述べたり、残業申請した部下に「今日中にせなあかん仕事やないやろ。優先順位もつけられないでやっているのか」「ずぶとそう」「もう何カ月やってるんや。小学生レベルの能力しかないってことやな」と述べたことが問題となった事案です。

裁判所は「繰り返し指導しても理解してもらえないことに対して感情的になってされた発言とみるべきであって、不適切な発言ではあるものの、パワハラに該当するとまではいえない」と判断しています。

 

2,不正を是正しない従業員に厳しい叱責を加えたが違法とはいえないと判断した事例(前田道路事件 高松高等裁判所判決 平成21年4月23日)

不正経理の解消を指示したにもかかわらず、1年以上是正されなかったこと等に対する叱責(会社を辞めれば済むと思っているのかもしれないが、辞めても楽にならない旨の発言)が問題となった事案です。

裁判所は、指示をされて1年以上経過した時点でも不正経理の解消がされていなかったことについて、ある程度の厳しい改善指導をすることは正当な業務の範囲内であるとして、叱責は違法とはいえないと判断しています。

 

(2)パワハラであると判断された事例

次に、パワハラであると判断された事例をご紹介します。

 

海上自衛隊事件(福岡高等裁判所判決 平成20年8月25日)

海上自衛官に対し、上司が「お前は三曹だろ。三曹らしい仕事をしろよ」「お前は覚えが悪いな」「バカかお前は。三曹失格だ」等といった叱責をし、叱責を受けた海上自衛官が自殺した事案です。

裁判所は、地位階級に言及し人格的に侮辱を加えたこと、閉鎖的な環境で頻繁に行われたことを考慮すれば過度な心理的負荷を与え、指導の域を超えたものであったといわなければならないと評価しています。

この事件の判決全文は以下をご参照ください。

 

 

8,パワハラではない事例

次に、パワハラではない事例についても解説します。

パワハラか否かの判断要素を説明した上で、厳しい叱責ではあるがパワハラではないとされた具体的な事例をご紹介します。

以下で、見ていきましょう。

 

(1)パワハラか否かの判断で考慮される要素

パワハラの要素の一つに、「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」であるというものがあります。

そのため、適正な業務指示や指導はパワハラには該当しません。

適正な業務指導か違法なパワハラかの境界については、以下の要素を考慮して判断されることが厚生労働省のパワハラ防止指針で記述されています。

 

  • 言動の目的
  • 言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む言動が行われた経緯や状況
  • 業種・業態
  • 業務の内容・性質
  • 言動の態様・頻度・継続性
  • 言動を受けた労働者の属性や心身の状況
  • 行為者と言動を受けた労働者の関係性

 

厚生労働省のパワハラ防止指針は以下をご参照ください。

 

 

特に以下のような事情が存在する場合はパワハラにあたるとされやすい傾向にあります。

 

  • 明らかに業務上必要の無い叱責を行う
  • 他の労働者等の前で大声で叱責する等、見せしめ的な言動を行う
  • 必要以上に長時間にわたる叱責を行う
  • 人格や人間性を否定するような、業務の目的を逸脱した精神的攻撃を行う
  • 相手の属性(新入社員等)や心身の状況を把握しないまま苛烈な叱責を行う

 

(2)厳しい叱責ではあるがパワハラではないとされた事例

以下では、上記の考慮要素を踏まえ、厳しい叱責であってもパワハラではないと判断された事例を1つご紹介します。

 

医療法人財団健和会事件(東京地方裁判所判決 平成21年10月15日)

医療機関の事務スタッフに対し「ミスが非常に多い」「仕事は簡単なものを渡してペースを抑えているのに、このままミスが減らないようであればこの業務を続けるのは難しい」「遅いのは問題ではないからミスのないように何度もチェックするなど正確にしてもらいたい」「仕事に関して質問を受けたことがない」などといった言葉を含む叱責がなされた事案です。

裁判所は「原告の事務処理上のミスや事務の不手際は、いずれも、正確性を要請される医療機関として見過ごせないものであり、これに対する…都度の注意・指導は必要かつ的確なものというほかない。」「原告を責任ある常勤スタッフとして育てるため、単純ミスを繰り返す原告に対して、時には厳しい指摘・指導や物言いをしたことが窺われるが、それは生命・健康を預かる病院において当然になすべき業務上の指示の範囲内にとどまる。」として違法性を否定しました。

この事案では、裁判所の判断にあたり、前述の考慮要素のうち、「業種・業態」や「言動の目的」、「行為者と言動を受けた労働者の関係性」が考慮されています。

「業種」については、医療機関という正確性を要求される業種であることが考慮され、「言動の目的」については、責任ある常勤スタッフとして育てるためという点が考慮された結果、叱責は違法ではないという判断に至っています。

また、「行為者と言動を受けた労働者の関係性」については、上司が問題点を指摘するだけではなく、プラスの評価や励ましの言葉を伝えていた点が、違法性を否定した一要素となっています。

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

従業員からパワハラ被害の訴えがあった場合も、パワハラ防止指針の考慮要素をもとに判断すると、パワハラにはあたらないと判断できるものは多いです。

ただし、この点の判断は非常に微妙であり、過去の裁判例も分析のうえで判断していくことが必要になります。

パワハラ被害の訴えがあったのに、会社としてパワハラとして認めないという判断をする場合は、被害を訴えた従業員からの反発も予想されます。

本人に結論を伝える前にしっかりその論拠を固めておくべきであり、必ず労働問題に強い弁護士に相談して対応してください。

労働問題に強い弁護士については、以下をご参照ください。

 

▶参考情報:労働問題に強い弁護士への相談サービスはこちら

 

9,労働基準監督署の対応

パワハラ被害にあったときに、従業員が労働基準監督署に相談するケースもあります。

しかし、労働基準監督署では通常は、パワハラについての相談は受け付けてもらえません。

労働基準監督署は、企業が労働関係の法律を守っているか監督したり、労災保険の給付を行う機関です。そのため、パワハラについては担当業務にあたりません。

このことから、企業が、労働基準監督署からパワハラについての調査や是正勧告を受けるといったことは通常、ありません。

しかし、残業代の未払いや長時間労働の強制等を伴うパワハラが行われている場合は、労働基準監督署の担当業務となり、労働基準監督署から調査や是正勧告がなされる恐れがあります。

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

労働基準監督署からの調査がされる場合に、これに対応するためには事前の準備が重要になります。

労働基準監督署の立入調査と是正勧告への対応については以下の記事で詳しく解説していますのでご参照下さい。

 

▶参考情報:労働基準監督署の調査と是正勧告を乗り切る2つのこつを弁護士が解説

 

10,パワハラトラブルについての咲くやこの花法律事務所の解決実績

咲くやこの花法律事務所におけるパワハラトラブルに関する企業向けのサポートの解決実績の一部を以下でご紹介しております。

あわせてご参照ください。

 

パワハラ被害を受けたとして従業員から会社に対し300万円の慰謝料が請求されたが、6分の1の慰謝料額で解決した成功事例

教職員が集団で上司に詰め寄り逆パワハラが発生!学校から弁護士が相談を受けて解決した事例 

内部通報窓口に匿名で行われたハラスメントの通報について、適切な対処をアドバイスし、解決まで至った事例

 

11,咲くやこの花法律事務所の弁護士なら「こんなサポートができます!」

咲くやこの花法律事務の弁護士によるサポート内容

今回は多様なパワハラの事例についてご紹介しました。

パワハラに該当するかどうかの判断にあたっては様々な要素を検討する必要があるため、実際には専門家でないと判断が難しいことも多くあります。

咲くやこの花法律事務所では、従業員からのパワハラの訴えに対する対応が必要になった事業者からのご相談をお受けしています。問題がこじれて複雑化してしまう前に、早めにご相談いただくことをおすすめします。

咲くやこの花法律事務所における「パワハラトラブルに関する企業向けのサポート内容」は以下の通りです。

 

  • パワハラトラブルに関する会社としての対応方法のご相談
  • パワハラに関する事実関係の調査のご依頼
  • パワハラに関する被害者との示談交渉、労働審判・訴訟対応のご依頼
  • パワハラ防止措置に関するご相談
  • ハラスメント相談窓口の外部委託のご依頼

 

トラブル発生時は早期に弁護士に相談して、迅速かつ適切な対応をすることが、問題を早く解決する鍵になります。また、トラブルをあらかじめ防止する体制を整備することも非常に大切です。

パワハラトラブルでお困りの場合や、自社のパワハラ防止体制に不安がある場合は、ぜひ咲くやこの花法律事務所の弁護士にご相談ください。

 

「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法

パワハラに関する相談などは、下記から気軽にお問い合わせください。今すぐのお問い合わせは以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。

【お問い合わせについて】

※個人の方からの問い合わせは受付しておりませんので、ご了承下さい。

「咲くやこの花法律事務所」のお問い合わせページへ。

 

12,【関連情報】パワハラに関するお役立ち関連記事

この記事では、「パワハラについての事例」をわかりやすく解説しました。社内でパワハラトラブルが発生した際は、パワハラかどうかの判断基準について正しく理解しておく必要があります。

そのためにも今回ご紹介したパワハラの事例をはじめ、他にもパワハラトラブルを正しく対応するためには基礎知識など知っておくべき情報が幅広くあり、正しい知識を理解しておかなければ重大なトラブルに発展してしまいます。

以下ではこの記事に関連するパワハラのお役立ち記事を一覧でご紹介しますので、こちらもご参照ください。

 

パワハラの判断基準とは?裁判例をもとにわかりやすく解説

パワハラの種類はいくつ?6つの行為類型を事例をもとに徹底解説

パワハラ防止法とは?パワハラに関する法律のわかりやすいまとめ

パワハラ発生時の対応は?マニュアルや対処法、流れについて解説

パワハラやハラスメントの調査方法について。重要な注意点を解説

職場のパワハラチェックまとめ!あなたの会社は大丈夫ですか?

パワハラの慰謝料の相場はどのくらい?5つのケース別に裁判例をもとに解説

パワハラの相談まとめ!企業の窓口や労働者の相談に関する対応について

パワハラの加害者に対する処分についてわかりやすく解説

パワハラ上司の特徴や対処についての解説まとめ

パワハラ防止の対策とは?義務付けられた10項目を弁護士が解説

パワハラ(パワーハラスメント)を理由とする解雇の手順と注意点

逆パワハラとは?具体的な対処法を事例や裁判例付きで徹底解説

 

注)咲くやこの花法律事務所のウェブ記事が他にコピーして転載されるケースが散見され、定期的にチェックを行っております。咲くやこの花法律事務所に著作権がありますので、コピーは控えていただきますようにお願い致します。

 

記事作成弁護士:西川暢春
記事更新日:2024年8月25日

 

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    西川 暢春(にしかわ のぶはる)
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