
都道府県労働局が実施している総合労働相談で、相談件数のトップを占めているのが、「いじめ・嫌がらせ」といった、いわゆる「パワハラ(パワーハラスメント)」に関する相談です。
パワハラの相談件数は毎年増加し、平成26年度は全国で「6万件」以上に上っています。
最近では、電通で起こった過労死事件についても、背景にパワハラの存在が報道されました。また、平成27年1月にはサントリーが、従業員が行き過ぎた叱責によるパワハラにより部下をうつ病に罹患させたとして、会社としての責任を問われ、「165万円」の損害賠償を命じられたことが報道されました。
社内でパワハラが起こると、離職者が増加してしまったり、企業が被害者から法的責任を問われるなど、重大なダメージを受けます。
一方で、「パワハラ(パワーハラスメント)」という用語が広く浸透して、正しい指導に対しても、安易に「パワハラである」という主張がされるケースも増えています。
今回は、トラブルが急増しているパワハラの問題について、「パワハラ(パワーハラスメント)の定義やパワハラに該当する場合の加害者への懲戒処分の注意点」についてご説明したいと思います。
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今回の記事で書かれている要点(目次)
1,パワハラとは?パワーハラスメントの定義について
パワハラによる会社の賠償責任や対策方法、加害者への懲戒処分の注意点についてご説明する前に、まずは、「パワハラ(パワーハラスメント)の定義」について確認しておきたいと思います。
(1)パワハラ(パワーハラスメント)の定義
『パワハラ(パワーハラスメント)とは、同じ職場で働く者に対して、地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、適正な範囲を超えて、「精神的・身体的苦痛を与える行為」または「職場環境を悪化させる行為」をいいます。』
パワハラの定義については、以下の記事で詳しく解説していますのでご参照下さい。
具体的には、パワハラとは、以下の6つの行為に分類されます。
(2)パワハラ(パワーハラスメント)の6類型
- 1, 暴行
- 2, ひどい暴言や侮辱、脅迫
- 3, 職場内の人間関係からの隔離
- 4,不要なことや不可能なことの強制
- 5,合理的理由なく仕事を与えないこと
- 6,プライベートへの過度の立ち入り
こちらのパワハラ6類型については、以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。
それぞれの類型について、裁判所でパワハラに該当すると判断された事例には、以下のようなものがあります。
1,暴行
「辞めてしまえ」などと言いながら、被害者が座っている椅子を蹴るなどしたケース。(大阪地方裁判所平成24年5月25日判決)
2,ひどい暴言や侮辱、脅迫
成績があがらないマネージャーに対して、面談の際に「マネージャーが務まると思っているのか」、「マネージャーをいつ降りてもらっても構わない」等の言葉を使って叱責したケース。(鳥取地方裁判所米子支部平成21年10月21日判決)
3, 職場内の人間関係からの隔離
退職に追い込むことを目的として、資料置き場になっていた、他の従業員に背中を向けて座る席への移動を命じ、補助的な業務以外仕事を与えなかったケース。(東京地方裁判所平成14年7月9日判決)
4,不要なことや不可能なことの強制
入社2か月程度の新入社員に対して、「今日中に仕事を片付けておけ」と命じたり、他の従業員の仕事を押しつけるなどして、仕事のやりかたがわからないままひとり深夜遅くまで残業させていたケース。(津地方裁判所平成21年2月19日判決)
5,合理的理由なく仕事を与えないこと
事故を起こしたバスの運転士に対して、1か月にわたって、炎天下で終日、営業所構内の除草作業を命じたケース。(横浜地方裁判所平成11年9月21日判決)
6,プライベートへの過度の立ち入り
販売目標を達成できなかった従業員に対し、上司らが、研修会において、罰ゲームとして、「うさぎの耳形のカチューシャ」や「コスチューム」を着用させたケース。(大分地方裁判所平成25年2月20日判決)
このように個別の裁判例をみると、従来は裁判にまで発展せずに済んでいたと思われるケースも、パワハラ(パワーハラスメント)と認定されており、注意が必要です。
まずここでは、パワハラ(パワーハラスメント)の定義をおさえておきましょう。
2,加害者に対する懲戒処分の注意点について
続いて、パワハラについて企業がおさえておくべきチェックポイントとして、「パワハラの加害者に対する懲戒処分の注意点」についてご説明したいと思います。
まず、「懲戒処分の注意点」についてご説明したうえで、「懲戒処分の選択の基準」、「懲戒処分に関する裁判例」もご紹介したいと思います。
(1)パワハラの加害者に対する懲戒処分の注意点について
社内でパワハラが発生してしまったときには、企業は加害者に対する懲戒処分を検討する必要があります。
しかし、パワハラ加害者に対して懲戒処分をする際は、「事案の内容と比較して重すぎる懲戒処分は無効となる」というルールに注意が必要です。
このルールは、「労働契約法第15条」のルールに基づくものです。
▶参考:労働契約法第15条
「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」
企業がパワハラの加害者に対して重すぎる懲戒処分をした場合、労働契約法第15条の「社会通念上相当であると認められない場合」に該当し、裁判で無効とされるリスクがあります。
そのため、どの懲戒処分を選択するかは、慎重な判断が必要です。
一般的に懲戒処分の種類は、軽い順から、「戒告・譴責・訓告」、「減給」、「出勤停止」、「降格処分」、「諭旨解雇」、「懲戒解雇」などが就業規則に定められています。
このうち、特に、「諭旨解雇」、「懲戒解雇」については、裁判で無効と判断された場合、企業が多額の金銭支払いを命じられるケースが多く、要注意です。
パワハラを理由とする解雇については、以下の記事で解雇の方法や注意点について解説していますので、あわせてご覧ください。
なお、懲戒処分の種類や選択基準、進め方については以下の記事も参照してください。
では、具体的にパワハラの加害者に対する懲戒処分をどのように選択すればよいのでしょうか?
パワハラの加害者に対する「懲戒処分の選択の基準」についてご説明していきたいと思います。
(2)パワハラの加害者に対する懲戒処分の選択の基準
まず、パワハラの加害者に対する懲戒処分を選択するにあたって考慮しなければならない重要なポイントは以下の6つです。
1,パワハラの加害者に対する懲戒処分の選択にあたっての重要なポイント
- 1,パワハラ行為の内容
- 2,パワハラ行為の頻度、期間、常習性
- 3,パワハラについての被害者の数
- 4,パワハラによる被害の程度(被害者が退職に追い込まれたかどうか、精神疾患に罹患するなど健康上の問題が生じたかどうか)
- 5,行為後の謝罪や反省の有無
- 6,加害者の過去の懲戒処分歴の有無
このようにさまざまな要素を検討する必要がありますので、一律の基準を示すことは困難ですが、ケースごとのおよその目安としては以下のとおりです。
2,パワハラの加害者に対する懲戒処分の選択の目安
ケース1:
パワハラ行為が行われたが、その後、加害者が反省して被害者に謝罪し、被害者も一応謝罪を受け入れているようなケース
このようなケースでは「戒告」あるいは「減給」程度にとどめるべきケースが多いでしょう。
ケース2:
パワハラの被害者が多数であり、しかも加害者が反省していないケース
このようなケースでは、加害者を上位の役職につけておくのは企業の職場環境を著しく悪化させることになります。そのため、「降格処分」を検討すべきケースが多いでしょう。
このようなケースでも、加害者が過去にパワハラで注意や懲戒処分を受けたことがない場合は、「懲戒解雇」は重すぎると判断される可能性が高いです。
ケース3:
過去にもパワハラについて懲戒処分歴がある従業員がさらにパワハラを繰り返したケース
このようなケースでは、「諭旨解雇」あるいは「懲戒解雇」を検討する必要があります。
以上が目安ですが、パワハラの加害者に対して懲戒処分をする際は、慎重に懲戒処分を選択する必要があることをおさえておきましょう。
最後に、パワハラの加害者に対する懲戒処分について、処分をうけた従業員から無効であるとの裁判を起こされたが、企業側が勝訴した裁判例を紹介しておきたいと思います。
(3)パワハラの加害者に対する懲戒処分に関する裁判例(東京地方裁判所 平成27年8月7日判決)
事案の概要
不動産会社において、「役員補佐」の地位にあった管理職がパワーハラスメントを理由として降格の懲戒処分を受けたことに対して、降格処分の無効を主張して、会社に訴訟を起こした事案です。
この事案で、処分を受けた管理職は、営業成績があがらない複数の従業員に対して、継続的に以下のようなパワハラ行為を行っていました。
1,「12月末までに2000万やらなければ会社を辞めると一筆書け」、「会社に泣きついていすわりたい気持ちはわかるが迷惑なんだ」などと発言して、部下に退職を強要するパワハラ。
2,従業員の子供の年齢を尋ねて従業員が「10歳」と答えると、「それくらいだったらもう分かるだろう、おまえのこの成績表見せるといかに駄目な父親か」などと従業員の人格を傷つける発言を繰り返すパワハラ。
これらのパワハラに対して、企業はこの管理職を2段階下の役職まで降格させる懲戒処分を行いました。
この懲戒処分について、処分を受けた管理職が「パワハラの事実はない」、「処分が重すぎる」などとして、無効であると主張して企業に訴訟を提起したのが本件の裁判です。
裁判所の判断
裁判所は、降格の懲戒処分を有効と判断しました。
裁判所の判断の理由
裁判所が、降格の懲戒処分を有効と判断した理由は以下の通りです。
●判断理由1:
処分をうけた管理職は、成果の挙がらない数多くの部下に対して、適切な教育的指導を施すのではなく、単に結果をもって従業員らの能力等を否定し、退職を執拗に迫っており、内容が極めて悪質である。
●判断理由2:
会社はハラスメントのない職場作りを経営上の指針として明確にしていたにもかかわらず、処分を受けた管理職は幹部としての職責に反し、パワハラに該当する言動をとり続けた。
●判断理由3:
裁判で処分を受けた管理職はパワハラの事実を全面的に否定して争っており、反省していない。
この事案では、「被害者の数が多く常習性があったこと」、「会社がパワハラのない職場づくりをかかげており事前の注意喚起がされていたといえること」、「加害者が反省していないこと」などの事情から、2段階の降格という比較的重い懲戒処分が有効と判断されています。
このように、パワハラ(パワーハラスメント)の加害者に対する懲戒処分については、「労働契約法第15条」のルールに基づき、事案の内容と比較して適切な懲戒処分の選択をしなければいけないことをおさえておきましょう。
3,咲くやこの花法律事務所の弁護士なら「こんなサポートができます!」
最後に咲くやこの花法律事務所における「パワハラトラブルに関する企業向けのサポート内容」をご紹介いたします。
サポート内容は以下の通りです。
(1)パワハラ防止に関するご相談
咲くやこの花法律事務所では、パワハラの事前防止策、事前対策のご相談も承っております。
パワハラに関する研修や就業規則など諸規則の整備、相談窓口の整備、その他パワハラ防止策の具体的な進め方についてのご相談はぜひ咲くやこの花法律事務所におまかせください。
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またパワハラ事前防止策については、「日ごろからの自社の労務管理の整備、または見直しや改善を行っておくこと」も重要です。
これらは急に対応できるものではありません。
自社にあった労務管理に強い顧問弁護士に相談して、万が一パワハラトラブルが発生しても慌てることがないように日ごろから取り組んでおきましょう。
咲くやこの花法律事務所の顧問弁護士サービスについては以下をご覧下さい。
(2)パワハラトラブルに関する会社としての対応方法のご相談
咲くやこの花法律事務所では、パワハラトラブルが発生した場面でも、企業側の立場で以下のご相談を承っています。
- パワハラがあったかどうかの調査に関するご相談
- パワハラ加害者に対する懲戒処分や人事上の扱いに関するご相談
- パワハラ被害者との話し合いや慰謝料支払いに関するご相談
- パワハラ被害者が休職した場合の対応方法に関するご相談
パワハラトラブルは感情的なもつれが大きく、訴訟などにつながりやすいトラブルです。
訴訟をできるだけ防ぐことができるように、また、訴訟になっても会社を守ることができるようにするには、パワハラトラブルを察知したらすぐにご相談いただくことが必要です。
咲くやこの花法律事務所では、パワハラトラブルについて多数の解決実績があり、パワハラトラブルについて実際に裁判等を担当してきた弁護士がご相談をお受けします。
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(3)パワハラに関する事実関係の調査のご依頼
パワハラについて、問題になるのが、「パワハラがあったかなかったか」、「パワハラにあたるのかあたらないのか」の判断です。
被害を主張する従業員の言い分と、加害者とされた従業員の言い分が食い違うことも多く、難しい判断になることがよくあります。そこで、咲くやこの花法律事務所では、パワハラに関する事実関係の調査のご依頼を企業からお受けしています。
パワハラトラブルについて経験が豊富な弁護士が、パワハラの有無について当事者にヒアリングを行い、法的な判断を行います。
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(4)パワハラに関する被害者との示談交渉、労働審判・訴訟対応のご依頼
咲くやこの花法律事務所では、パワハラ被害者から慰謝料等の金銭請求があった場合の示談交渉や、パワハラ被害者からの労働審判、訴訟への対応についても常時ご依頼を承っております。
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4,「咲くやこの花法律事務所」の弁護士へのお問い合わせ方法
咲くやこの花法律事務所の労働問題に強い弁護士によるパワハラトラブルのサポート内容については「労働問題に強い弁護士への相談サービスについて」をご覧下さい。
また、今すぐのお問い合わせは以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
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6,まとめ
今回は、最近トラブルが急増しているパワハラ(パワーハラスメント)について、まず、パワハラ(パワーハラスメント)の定義を説明したうえで、実際にパワハラの訴えがあったときの加害者に対して行うべき懲戒処分について詳しく解説しました。
昨今、パワハラ(パワーハラスメント)に関する話題は注目されてきており、同時にトラブルも急増しています。
パワハラの事前対策にお悩みの方や、パワハラのトラブルにお困りの方は、スピード対応がとても重要ですので、労働問題に強い弁護士がそろう「咲くやこの花法律事務所」に早めにご相談ください。
記事作成弁護士:西川 暢春
記事更新日:2022年6月21日
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