こんにちは。咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。
退職勧奨による退職は、会社都合退職扱いになるのか、自己都合退職扱いになるのか、迷っていませんか。
会社側は自己都合退職扱いにしたい、従業員側は会社都合退職扱いにしたい、と考えることが多く、どちらにするかを巡って従業員との間でトラブルに発展することがしばしばあります。もし選択を間違えると、退職勧奨がうまくいかない原因になったり、退職後に不当な退職勧奨を受けたとして訴訟等に発展したりするリスクがあります。
そのため、従業員が退職勧奨に応じて退職する場合の離職票において、退職理由が会社都合になるのか、自己都合扱いになるのかを正しく理解しておくことが必要です。
この記事では、会社都合退職と自己都合退職の違いや、それぞれのメリットやデメリット、そして退職届や離職票の書き方等について解説します。この記事を読んでいただければ、退職勧奨による退職を、会社都合退職と自己都合退職のどちらにするべきかがわかるはずです。
本来会社都合退職とするべきところを自己都合退職扱いとして処理した場合、会社が退職者から損害賠償を請求されるケースもあるので注意が必要です。
例えば、ゴムノイナキ事件(大阪地方裁判所判決平成19年6月15日)では、会社が、本来会社都合退職とするべき退職者を自己都合退職扱いで処理したことについて、会社都合退職であれば受け取ることができた退職金の差額分と失業保険の差額分として合計275万1200円の支払いを命じられています。
このような問題を発生させないためには、相手がどんな問題社員であったとしても、その退職勧奨にあたっては、法律のルールをよく確認し、適切な手続きで進めることが大切です。また、退職理由もルールに従って処理することが必要です。事前に弁護士にご相談いただくことで、トラブルの発生を予防することができます。ぜひご相談ください。
▶参考情報:問題社員対応に強い弁護士サービス
また、退職勧奨に関する咲くやこの花法律事務所の解決実績は以下をご参照ください。
▶参考情報:退職勧奨に関する解決実績はこちら
▼退職勧奨について今スグ弁護士に相談したい方は、以下よりお気軽にお問い合わせ下さい。
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今回の記事で書かれている要点(目次)
1,退職勧奨とは?
会社都合退職になるのか、自己都合退職になるのかという本題に入る前に、まず、退職勧奨について簡単に確認しておきましょう。
(1)合意退職してもらうことが目的
退職勧奨とは、会社から従業員に対して退職を促す行為のことをいいます。退職勧奨は、会社の働きかけによって従業員に自ら退職を決意してもらい、合意によって退職してもらうことが目的です。解雇とは異なり、従業員との合意によって雇用契約を終了することになるため、会社にとってはトラブルに発展するリスクが小さいというメリットがあります。
(2)退職勧奨と解雇の違い
退職勧奨と解雇の違いは、雇用契約の終了に従業員の同意が必要かどうかという点です。解雇の場合は、従業員の同意を得ることなく会社が一方的に雇用契約を解除します。これに対して、退職勧奨の場合は、会社と従業員の双方の合意によって雇用契約を解除します。
▶参考情報:退職勧奨については以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
・退職勧奨(退職勧告)とは?適法な進め方や言い方・注意点を弁護士が解説
また、解雇については以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
2,会社都合退職と自己都合退職の違い
会社都合退職、自己都合退職というのは正式な用語ではありません。
会社都合退職というのは、一般的に、失業保険(雇用保険の失業給付)に関する「特定受給資格者」のことをいい、自己都合退職とは「特定理由離職者」や「一般受給資格者」のことを指します。
会社都合退職と自己都合退職では、この失業保険の給付条件や給付金額等が異なり、会社都合退職の方が、有利な条件で失業保険を受給することができます。
会社都合退職と自己都合退職を区別しているのは離職理由です。
会社都合退職にあたる離職理由とは、例えば会社の倒産や事業縮小、賃金の未払いや長時間労働等による退職です。それ以外の転職や家庭事情等を理由とする離職は自己都合退職となります。ただし、自己都合退職でも、事業主による雇止めや正当な理由による自己都合退職の場合は、特定理由離職者として一般の自己都合退職者よりも失業保険の受給で優遇される場合があります。
会社都合退職、自己都合退職のそれぞれに該当する離職理由をまとめると以下のとおりです。
▶参考:会社都合退職と自己都合退職の主な離職理由の例
会社都合退職 | 自己都合退職 | ||
失業保険の 受給資格 |
特定受給資格者 | 特定理由離職者 | 一般受給資格者 |
退職理由の例 | ・会社の倒産、事業縮小 ・人員整理 ・解雇(労働者の責めに帰すべき重大な理由による場合を除く) ・賃金の未払い ・長時間労働 ・上司、同僚等からの 故意の排斥、著しい冷遇、嫌がらせ ・退職勧奨 等 |
・事業主による雇止め ・正当な理由による自己都合退職(例:健康状態、妊娠・出産・育児、家族の死亡や病気、通勤不可能、希望退職者の募集に応じての離職等) |
・転職 ・結婚・出産・育児・介護等の家庭の事情 ・労働者の責めに帰すべき重大な理由による解雇 |
会社都合退職と自己都合退職の失業保険の受給に関する条件の違いは、「4,会社都合退職は失業保険の受給や退職金の面で有利」で詳しく解説します。
3,退職勧奨による退職は会社都合と自己都合のどっち?
では、退職勧奨に応じての退職の場合、会社都合退職、自己都合退職のどちらになるのでしょうか?
(1)退職勧奨による退職は会社都合退職
退職勧奨による退職は会社都合退職として扱われます。どのような理由であれば会社都合退職(特定受給資格者)にあたるのかについては、ハローワークが判断基準を公開しており、「事業主から直接若しくは間接に退職するよう勧奨を受けたことにより離職した者」は会社都合退職扱い(特定受給資格者)とすることが定められています。
退職勧奨を行う理由は、会社の業績不良や人員整理、従業員の体調不良やうつ病等の病気、能力不足や業務態度不良等様々ありますが、退職勧奨の理由に関わらず、会社都合退職となります。
正社員だけでなく、契約社員やパート、アルバイト等も退職勧奨による退職は会社都合退職となります。
▶参考情報:厚生労働省が公開している「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準」も参考にご覧ください。また、厚生労働省が公開している「雇用保険に関する業務取扱要領」のうち「一般被保険者の求職者給付」288ページにおいても、退職勧奨による退職が会社都合退職として扱われることが記載されていますので、あわせてご覧ください。
会社側から見ると、能力不足や業務態度不良等の従業員自身の問題が退職勧奨の理由になっているケースまで、会社都合退職扱いとなることには、納得しがたい場合もあるでしょう。しかし、従業員に業務態度不良等の事情があっても、会社から退職を促して退職に至った場合は、退職が会社の利益にかなうものだったと評価できるため、会社都合退職とするべきであると判断した裁判例があります(大阪地方裁判所判決平成19年6月15日)。
このように、従業員側に問題があったとしても、会社から退職を働きかけている以上は会社都合退職となります。
会社が離職証明書に記載した離職理由に不服がある場合、離職者はハローワークに対して異議申し立てをすることができます。異議申し立てがあれば、ハローワークは、双方の意見を聴いたり、客観的な資料を確認したりして調査を行った上で、最終的に会社都合退職か自己都合退職かを判定します。そのため、事業者が仮に自己都合退職と申告しても、離職者から異議申し立てをされて、ハローワークの調査で離職が退職勧奨によるものであると認定されれば、会社都合退職扱いになる可能性が高いです。
(2)会社都合退職とすることは退職の合意を取り付ける説得材料にもなる
従業員は退職勧奨に応じて退職すれば収入を失うことになるため、金銭的な不安から退職勧奨に応じることに消極的になるケースが少なくありません。金銭的な不安から退職勧奨が難航している場合は、「退職勧奨に応じた場合は会社都合退職になるので、有利な条件で失業保険や退職金を受給することができる」というのは有用な説得材料になります。
従業員側からすれば、会社からの働きかけで退職をすることになったのに自己都合退職扱いというのは納得し難いものです。自己都合退職扱いとなれば、従業員は収入を失うことになる上、失業保険もすぐには受け取れないことになり、退職勧奨に応じるメリットがありません。退職勧奨を成功させるためには、従業員の気持ちに配慮し、退職を受け入れやすい状況を作ることが重要です。会社都合退職扱いにすることは、従業員の納得を得て退職の合意を得るためのポイントの1つといえます。
4,会社都合退職は失業保険の受給や退職金の面で有利
では、会社都合退職になるか、自己都合退職になるかによって、どのような違いが生じるのでしょうか?
一般論として、自己都合退職の場合は、在職中から転職活動をしたり、退職後の生活の備えをした上で退職することができます。しかし、会社都合退職の場合は準備期間が十分にとれない状態で退職することになります。このような理由から、自己都合退職よりも会社都合退職の方が給付が手厚くなっています。
以下でご説明します。
(1)失業保険
失業保険とは正式な用語ではなく、いわゆる雇用保険の基本手当(失業給付)のことを指す言葉です。雇用保険の基本手当とは、雇用保険の被保険者が離職したときに、失業している期間中の生活の不安を解消し、再就職を支援するために支給される給付金のことです。
離職者がハローワークに申請することによって支給されますが、会社都合退職と自己都合退職では、この失業保険の給付条件や給付金額等が異なります。
会社都合退職と自己都合退職の給付条件の違いをまとめると以下のとおりです。
▶参考:会社都合退職と自己都合退職の失業給付における給付条件の違いまとめ
会社都合退職 | 自己都合退職 | |||
受給資格 | 特定受給資格者 | 特定理由離職者 | 一般受給資格者 | |
給 付 条 件 |
支給日額 | 日額 = 離職前6ヶ月の給与の合計 ÷ 180 × 給付率(45~80%) | ||
受給資格 | 離職日以前1年間に被保険者期間が通算6ヶ月以上あること | 離職日以前の2年間に被保険者期間が通算12ヶ月以上あること | ||
給付制限期間 | なし(待機期間7日) | 2ヶ月間 (過去5年間に2回以上の自己都合退職をしている場合は3ヶ月間) |
||
支給日数 | 90~330日 | 90~150日 (最大330日まで受給できる場合あり) |
90~150日 |
このように、自己都合退職の場合、失業保険は2ヶ月間待たないと受給できませんが、会社都合退職の場合はこのような制限はなく、退職後すぐに受け取ることができます。また、年齢や被保険者期間にもよりますが、会社都合退職者の方が失業保険を受け取ることができる期間が長く、トータルでの給付額も多くなります。
具体的な給付日数の違いは以下の通りです。
▶参考:会社都合退職(特定受給資格者)の場合の支給日数
被保険者であった期間 | ||||||
1年未満 | 1年以上 5年未満 |
5年以上 10年未満 |
10年以上 20年未満 |
20年以上 | ||
年齢 | 30歳未満 | 90日 | 90日 | 120日 | 180日 | − |
30歳以上 35歳未満 |
120日 | 180日 | 210日 | 240日 | ||
35歳以上 44歳未満 |
150日 | 240日 | 270日 | |||
45歳以上 58歳未満 |
180日 | 240日 | 270日 | 330日 | ||
60歳以上 65歳未満 |
150日 | 180日 | 210日 | 240日 |
▶参考:自己都合退職の場合の支給日数
被保険者であった期間 | 1年未満 | 1年以上 5年未満 |
5年以上 10年未満 |
10年以上 20年未満 |
20年以上 |
支給日数 | − | 90日 | 120日 | 150日 |
支給日数についての詳細は以下を参照してください。
(2)退職金
そもそも退職金制度がない会社もありますが、退職金制度がある会社の中には、自己都合退職よりも会社都合退職の方が支給される退職金が高くなる規定になっていることがあります。
また、退職勧奨の場面では、「退職上乗せ金」や「解決金」等といった名目で、退職金とは別に金銭の給付を提示することがあります。これは、金銭的な不安をやわらげ、従業員から退職の合意を得やすくするために提示するものです。
▶参考情報:退職勧奨の退職金については、以下の記事で詳しく解説していますのであわせてご覧ください。
5,会社都合退職扱いになった場合の会社のデメリットとは?
従業員の退職が会社都合退職扱いになることで会社に何かペナルティが科せられることはありません。ただし、会社が雇用関係の助成金を利用している場合と、特定技能外国人の雇用を検討している場合は、注意が必要です。
(1)雇用関係の助成金の受給が制限されることがある
雇用関係の助成金には様々な種類があり、支給の条件は助成金の種類によって異なります。しかし、多くの場合、「一定の期間内に会社都合の退職者がでていないこと」を条件としています。
例えば、高年齢者・障害者・母子家庭の母などの就職困難者を雇用したときに支給される特定求職者雇用開発助成金では、「対象労働者の採用日前後6か月間に事業主都合による解雇(退職勧奨を含む)をしていないこと」が条件になっています。
現在助成金を受給している、あるいは助成金を申請する予定がある会社は、会社都合退職者を出したことによって、一定期間、助成金が受給できなくなる可能性があることに注意する必要があります。
(2)特定技能外国人の雇用が制限されることがある
「特定技能」の在留資格で就業する外国人を雇用する場合、さかのぼって1年間の間に、その外国人に従事させようとする業務と同種の業務に従事する労働者を会社都合により離職させていないことが原則として必要とされます(特定技能雇用契約及び一号特定技能外国人支援計画の基準等を定める省令第2条1項2号)。
▶参照:「特定技能雇用契約及び一号特定技能外国人支援計画の基準等を定める省令第2条1項2号」の条文は以下をご参照ください。
これは、特定技能制度は人手不足に対応するための人材の確保のための制度であることから、現に雇用している国内労働者を非自発的に離職させ、その補填として特定技能外国人を受け入れることは認めるべきではないという考え方によるものです。
(3)円満解決のメリットの方が大きい
会社が雇用関係の助成金を利用している場合や特定技能外国人の雇用を検討している場合は、上記の点を考えると、会社としては自己都合退職扱いにしたいということもあるかもしれません。
しかし、退職勧奨の場面では会社都合退職として扱う必要があります。それにもかかわらず、自己都合退職扱いとすることにこだわると、従業員が反発して退職に応じなくなったり、不当な退職勧奨をされたとして訴訟になる等の大きなトラブルにつながることも考えられます。
さらに、本来、会社都合退職とするべきところを自己都合退職扱いにした場合、退職した従業員から退職金や失業保険の差額分について損害賠償請求をされる可能性があります。
参考裁判例:ゴムノイナキ事件(大阪地方裁判所判決平成19年6月15日)
退職勧奨を承諾して退職した従業員が、会社により自己都合扱いとされたことについて、本来は会社都合退職であったとして、退職金と失業保険のうち会社都合退職の場合との差額分の損害賠償を会社に請求した事例です。
裁判所は、従業員の退職は、会社の退職勧奨によるものであり、会社都合退職にあたると判断し、会社都合退職であれば受け取ることができた退職金と失業保険との差額として合計275万1200円の損害賠償を会社に命じました。
自己都合退職にこだわって退職の合意が成立しなければ会社は問題のある従業員を雇用し続けることを余儀なくされますし、もし訴訟等に発展すればその対応にかかる労力も金銭的な負担も大きくなります。
一方、助成金の支給制限や特定技能外国人の雇用の制限は一時的なものです。これらの点を考えると、助成金や特定技能外国人の雇用の制限というデメリットがあるとしても、会社都合退職扱いにして従業員に円満に退職してもらうメリットを優先すべき場合が多いでしょう。
6,離職票の書き方
離職票の正式名称は「雇用保険被保険者離職票」で、退職者が失業保険を受給するためにハローワークに提出する書類のことです。正確に言えば、離職票は会社が作成するものではなく、会社が作成した離職証明書(雇用保険被保険者離職証明書)をもとにハローワークが交付するものです。
退職者が離職票の交付を希望しない場合、つまり失業保険の受給を希望しない場合は、会社はハローワークに離職証明書を提出する必要はありません。例外的に59歳以上の離職者については本人の希望は関係なく、離職証明書を提出する必要があります。これは、60歳以上の労働者に支給されることがある「高年齢雇用継続給付」の手続きのために、60歳時の賃金支払状況を証明する必要があるためです。
▶参考:離職票が交付されるまでの流れ
離職証明書は、従業員が退職した日の翌々日から10日以内にハローワークに提出する必要があります。
離職証明書は、事業主控、ハローワーク提出用、離職票-2の3枚セットで複写式になっています。離職証明書の書式はハローワークで配布されていますので、窓口で受け取るか、郵送で請求します。インターネットからダウンロードすることはできません。ただし、電子申請も可能です。
(1)離職票の記載内容
離職証明書には、離職年月日や賃金支払状況、離職理由等を記載します。ハローワークは、離職証明書の記載内容を見て会社都合退職か自己都合退職かを判断します。会社都合退職か自己都合退職かの判断で重視されるのは、離職証明書の「離職理由欄(⑦欄)」です。
退職勧奨の場合、「4 事業主からの働きかけによるもの」の「(3)希望退職の募集又は退職勧奨」を選択します。
▶参考:離職証明書「⑦離職理由欄」
「離職者本人の判断(⑯欄)」は、退職者に記入してもらう必要があります。この項目は、会社が選択した離職理由が退職者本人の認識と一致しているかを確認するためのものです。
もし、この項目に「事業主が〇を付けた離職理由に異議有り」と記入された場合、ハローワークが双方の主張を聞いて、それぞれの主張を裏付ける資料を確認した上で、離職理由を判定することになります。
▶参考:離職証明書「⑯離職者本人の判断」
離職証明書の書き方については、厚生労働省が公開している「雇用保険被保険者離職証明書についての注意」もご参照ください。
上記の「離職者本人の判断(⑯欄)」の欄は、離職者が帰郷その他やむを得ない場合を除き、離職する日までに、離職者本人に記名押印又は自筆による署名のいずれかにより記載させなければならないとされています。また、記名押印又は自筆による署名を得ることができないときは、「離職者本人の判断(⑯欄)」の欄にその理由を記載し、事業主の押印又は自筆による署名のいずれかにより記載しなければならないとされています。
7,退職届にはどう書くべきか?
退職勧奨の結果、従業員との話し合いで退職条件等がまとまり、退職の合意が成立したら、できるだけ早いタイミングで従業員に退職届を提出してもらいます。
(1)退職届は必ず提出してもらうべき
口頭で合意していればいいのではないかと思う方もいるかもしれませんが、退職届がなければ後になって退職の合意を翻されるリスクがあります。
裁判では、たとえ口頭で退職に合意していても退職届がなければ退職の合意が成立していたとは認められないことが多いのが実情です。
例えば、東京地方裁判所判決平成29年12月22日(医療法人社団充友会事件)は、退職届がない場合の退職の合意の有無の判断について以下のように判示しています。
「書面によらない退職の意思表示の認定には慎重を期する必要がある。むしろ、辞表,退職届、退職願又はこれに類する書面を提出されていない事実は、退職の意思表示を示す直接証拠が存在しないというだけではなく、具体的な事情によっては、退職の意思表示がなかったことを推測しうる事実というべきである。」
一度退職に合意したのに、後になって従業員の気が変わり、退職を撤回するというのはよくあることです。その場合、退職届が提出されていなければ、会社は退職の撤回を拒むことが難しくなってしまいます。従って、口頭で退職の合意を得た場合も、退職届を提出してもらうまでは安心すべきではありません。
(2)退職届の書き方
退職届の文言として目にすることが多いのは、「一身上の都合により退職します」というものだと思います。これは自己都合で退職するときに記載する文言です。
退職勧奨に応じての退職で「一身上の都合により」と記載するのは、実態にそぐわないものとなり不適切です。会社が退職届の書式を用意する場合、退職理由を「一身上の都合により」と記載してしまうと、従業員が自己都合退職扱いとされたと不満を感じてトラブルに発展する恐れもあります。
退職勧奨に応じた場面で提出してもらう退職届には、例えば「会社からの退職勧奨に応じて退職します」等と記載するとよいでしょう。
以下の退職届の用紙を参考にしてください。
(3)退職合意書の作成について
トラブル防止という観点では、退職届に加えて退職合意書を作成できればベストです。
退職合意書は、退職や退職条件について会社と従業員の双方が合意していることを示すための書類です。退職合意書を作成することで、後になって従業員が退職を撤回したり、退職後に金銭請求をしてくる等のトラブルを防ぐことができます。
退職合意書には、合意が成立したことや退職条件等に加えて、離職理由を会社都合退職扱いとすることも記載しておくべきです。この点を明確にすることで従業員の退職合意を取り付けやすくなることも多いです。
8,咲くやこの花法律事務所の退職勧奨に関する解決実績
咲くやこの花法律事務所では、会社側の立場で問題社員対応についてのご相談をお受けしてきました。退職勧奨についても、数多くのご依頼をお受けし、解決してきました。その解決実績の一部をご紹介します。あわせてご参照ください。
・遅刻を繰り返し、業務の指示に従わない問題社員を弁護士の退職勧奨により退職させた成功事例
・横領の疑いがある従業員に対して、弁護士が調査を行って横領行為を認めさせ、退職させた解決事例
・退職勧奨を一度断った能力不足の看護師に対して弁護士が支援して指導を継続し退職合意に至った事例
・業務に支障を生じさせるようになった従業員について、弁護士が介入して規律をただし、退職をしてもらった事例
また、退職勧奨の事例ではありませんが、従業員の退職理由が会社都合か自己都合かでトラブルになり、咲くやこの花法律事務所の対応によって解決できた事例として以下の例もご紹介しています。あわせてご参照ください。
・従業員の退職理由が会社都合か自己都合かでトラブルになったが、会社の主張を認めてもらうことができた事例
9,退職勧奨について弁護士へ相談したい方はこちら
咲くやこの花法律事務所では、企業側の立場で、問題社員対応、退職勧奨に関するご相談・ご依頼をお受けしています。咲くやこの花法律事務所の弁護士によるサポート内容をご紹介します。
(1)退職勧奨に関するご相談
咲くやこの花法律事務所では、退職勧奨について、面談の同席や従業員との交渉、退職合意書の作成、団体交渉や訴訟に発展した場合の対応等のご依頼を承っています。
退職勧奨を弁護士に依頼するメリットとして、第三者である弁護士が交渉することで感情的な対立を避けることができることや、適切な退職の条件を提示できること、退職の合意が成立した後のトラブルを防ぐことができること等があります。
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▶参考情報:退職勧奨に関するサポート内容については以下の記事で詳しく説明していますので、あわせてご覧ください。
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(3)「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法
今すぐお問い合わせは以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
10,まとめ
この記事では、自己都合退職と会社都合退職の違いや、退職勧奨による退職は会社都合退職となること等について解説しました。
会社都合退職と自己都合退職では、失業保険等の給付条件が異なり、会社都合退職の方が有利な条件で受給することができます。一方、会社は、会社都合退職となることにより、雇用関係の助成金を一定期間受給できなくなったり、特定技能外国人の雇用が一定期間制限されるというデメリットがあります。
しかし、問題社員を引き続き雇用し続けることによる不利益等を考えると、会社都合退職扱いにして円満に退職してもらえるのであれば、その方が会社にとっての利益は大きいことが多いでしょう。
咲くやこの花法律事務所では、問題社員への対応にお困りの事業者に向けて専門的なサポートを提供しており、この分野について多数の経験、解決実績があります。退職勧奨についてお困りの際はぜひ咲くやこの花法律事務所へご相談ください。
11,【関連情報】退職勧奨に関するお役立ち記事一覧
この記事では、「退職勧奨のよる退職は会社都合?自己都合?離職票はどうすべきかを解説」について、わかりやすく解説しました。退職勧奨に関しては、この記事で解説してきた退職手続を進めていく場面以外にも、前提として問題のある従業員に退職してもらいたい時に退職勧奨や解雇ができるかの判断など、幅広い知識を正しく理解しておかなければ重大なトラブルに発展してしまいます。以下ではこの記事に関連する退職勧奨に関するお役立ち記事を一覧でご紹介しますので、こちらもご参照ください。
記事更新日:2024年10月6日
記事作成弁護士:西川 暢春
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