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フリーランス保護法とは?いつから?内容や対策方法を解説

フリーランス保護法とは?いつから?内容や対策方法を解説
  • 西川 暢春(にしかわ のぶはる)
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    西川 暢春(にしかわ のぶはる)

    咲くやこの花法律事務所 代表弁護士
  • 出身地:奈良県。出身大学:東京大学法学部。主な取扱い分野は、「問題社員対応、労務・労働事件(企業側)、クレーム対応、債権回収、契約書関連、その他企業法務全般」です。事務所全体で400社以上の企業との顧問契約があり、企業向け顧問弁護士サービスを提供。

こんにちは。咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。

「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」、いわゆるフリーランス保護法が令和6年11月1日から施行されます。フリーランスに対する業務委託を行なっている事業者全般において、この法律への対応が必要になり、広範囲に影響が及ぶことが予想されます。

そのため、フリーランス保護法の内容を正しく理解した上で、企業側の対策を進めていくことが重要です。

この記事では、フリーランス保護法の内容を解説したうえで、違反時の罰則、事業者において必要となる対応についても解説します。

対応が遅れると、行政指導等を受けることも考えられますので、施行日ぎりぎりの対応にならないように、準備を進めていきましょう。

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

フリーランス保護法は多くの事業者において契約書のひな形の修正等の変更が必要になる重要な法律です。咲くやこの花法律事務所でも法改正の対応についてのご相談を承っていますのでお困りの際はご相談いただきますようにお願い致します。

 

▶関連動画:この記事の著者 弁護士 西川 暢春が「フリーランス保護法が施行!規制内容・適用範囲・事業者が必要な対応を弁護士が解説」や「フリーランスに対するパワハラ・セクハラ放置は違法です【フリーランス保護法 施行】」を詳しく解説中!

 

 

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1,フリーランス保護法とは?

フリーランス保護法とは?

フリーランス保護法とは、事業者がフリーランス(特定受託事業者)に発注する取引におけるフリーランスの保護と、フリーランスに対するハラスメント防止措置の義務付けやフリーランス募集の適正化などといったフリーランスの就業環境整備を内容とする法律です。正式には「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」といいます。

従業員を使用しない個人事業主のほか、代表者以外に役員や従業員がいない法人もこの法律による保護対象となります。

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

フリーランスの保護については、厚生労働省が、「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン 」を作成しており、このガイドラインもあわせて参照する必要があります。

 

▶参照:フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン(pdf)

 

(1)フリーランス保護法と下請法との違い

フリーランス保護法は、下請法とは異なり、取引におけるフリーランスの保護だけでなく、ハラスメント防止措置の義務付けや募集の適正化などといったフリーランスの就業環境整備も内容としています。また、下請法とは異なり、資本金が1000万円以下の法人が発注者となる場合や個人事業主が発注者となる場合にも適用があります。

 

▶参考情報:なお、下請法についての解説は以下をご参照ください。

下請法とは?概要や適用される取引などわかりやすく解説

 

2,いつから施行されるのか(施行日)

いつから施行されるのか(施行日)

フリーランス保護法は令和5年4月に成立した新しい法律です。令和6年11月1日から施行されることが決まっています。

 

3,フリーランス保護法の条文

フリーランス保護法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和五年法律第二十五号))の条文は、第26条まである本則と附則から構成されます。

本則部分の第一章で、保護対象となる「特定受託事業者」(フリーランス)の定義などを定めたうえで、第二章で取引関係におけるフリーランスの保護、第三章でハラスメント防止措置や募集の適正化などフリーランスの就業環境整備について規定がおかれています。そのうえで、第四章で、公正取引委員会、中小企業庁長官、厚生労働大臣、都道府県労働局長による事業者に対する指導・助言について規定がおかれ、第五章で罰則について定められています。

「フリーランス保護法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和五年法律第二十五号))」の条文の詳細は以下を参照してください。

 

 

4,フリーランス保護法の適用範囲(保護対象と規制対象)

フリーランス保護法の保護対象と規制対象は以下の通りです。

 

(1)保護対象は「特定受託事業者」

保護対象はおおまかに言えば、「フリーランス」ということになりますが、法律上は「特定受託事業者」が保護対象とされています。

「特定受託事業者」に該当するのは、①従業員を使用しない個人事業主と、②代表者1人以外に役員や従業員がいない法人です。このように代表者1人の法人も保護対象となる点で、一般的に「フリーランス」と呼ばれる範囲よりも保護対象が広いことに注意が必要です。

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

フリーランス保護法において「従業員を使用する」とは①週の所定労働時間が20時間以上であり、かつ、②継続して31日以上雇用されることが見込まれる労働者を雇用することを指します。そのため、例えば、所定労働時間が20時間未満のパート社員のみを雇用している事業者は保護対象となることに注意が必要です。一方で、自社で雇用していなくても派遣労働者を受け入れている場合も「従業員を使用する」に含まれます。この点の考え方は規制対象となる「特定業務委託事業者」においても同様です。

 

▶参考情報:厚生労働省「<解釈ガイドライン>特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方(令和6年5月31日公正取引委員会・厚生労働省)」の3ページ(pdf)

 

(2)規制対象は「業務委託事業者」

フリーランス保護法の規制には、「業務委託事業者」に適用される規制と、業務委託事業者のうち「特定業務委託事業者」のみに適用される規制があります。

まず、「業務委託事業者」とは「特定受託事業者」(フリーランス)に物の製造や加工、プログラムやコンテンツの作成、サービスの提供を委託する事業者をさします。フリーランス保護法の規制内容のうち、「発注内容についての書面や電子メールでの明示の義務付け」については、この「業務委託事業者」が規制対象となります。後述する「特定業務委託事業者」にあたるかどうかにかかわらず、規制対象となるため、例えば、フリーランスがフリーランスに業務委託する場合も規制対象になります。

これに対し、フリーランス保護法の規制のうち「発注内容についての書面や電子メールでの明示の義務付け」以外の規制内容は、発注者が「特定業務委託事業者」である場合に限り、規制対象となります。事業者が以下の要件を全て満たす場合に「特定業務委託事業者」に該当します。

 

  • 1.従業員を使用する個人事業主か、従業員がいる法人または2人以上の役員がいる法人であること
  • 2.前述の「特定受託事業者」(フリーランス)に業務を委託する事業者であること
  • 3.委託の内容が、物の製造や加工の委託、プログラムやコンテンツ等の作成の委託、サービスの提供の委託のいずれかであること

 

▶参考:特定業務委託事業者の定義

(定義)
第二条 この法律において「特定受託事業者」とは、業務委託の相手方である事業者であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。
一 個人であって、従業員を使用しないもの
二 法人であって、一の代表者以外に他の役員(理事、取締役、執行役、業務を執行する社員、監事若しくは監査役又はこれらに準ずる者をいう。第六項第二号において同じ。)がなく、かつ、従業員を使用しないもの
2 この法律において「特定受託業務従事者」とは、特定受託事業者である前項第一号に掲げる個人及び特定受託事業者である同項第二号に掲げる法人の代表者をいう。
3 この法律において「業務委託」とは、次に掲げる行為をいう。
一 事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造(加工を含む。)又は情報成果物の作成を委託すること。
二 事業者がその事業のために他の事業者に役務の提供を委託すること(他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む。)。
4 前項第一号の「情報成果物」とは、次に掲げるものをいう。
一 プログラム(電子計算機に対する指令であって、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。)
二 映画、放送番組その他影像又は音声その他の音響により構成されるもの
三 文字、図形若しくは記号若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合により構成されるもの
四 前三号に掲げるもののほか、これらに類するもので政令で定めるもの
5 この法律において「業務委託事業者」とは、特定受託事業者に業務委託をする事業者をいう。
6 この法律において「特定業務委託事業者」とは、業務委託事業者であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。
一 個人であって、従業員を使用するもの
二 法人であって、二以上の役員があり、又は従業員を使用するもの
7 この法律において「報酬」とは、業務委託事業者が業務委託をした場合に特定受託事業者の給付(第三項第二号に該当する業務委託をした場合にあっては、当該役務の提供をすること。第五条第一項第一号及び第三号並びに第八条第三項及び第四項を除き、以下同じ。)に対し支払うべき代金をいう。

・参照元:「フリーランス保護法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和五年法律第二十五号))」の条文はこちら

 

5,フリーランス保護法の規制内容

フリーランス保護法の規制内容は以下の2点です。

 

  • 1.取引関係におけるフリーランスの保護
  • 2.フリーランスの就業環境整備

 

「(1)取引関係におけるフリーランスの保護」については、フリーランスについて下請法類似の保護を与える内容であり、公正取引委員会や中小企業庁が所管します。「(2)フリーランスの就業環境整備」については、フリーランスについて労働法類似の保護を与える内容であり、厚生労働省が所管します。

 

1.取引関係におけるフリーランスの保護

  • 発注内容について書面や電子メールでの明示が義務付けられる
  • 原則として60日以内の報酬の支払が必要になる
  • 帰責性がないのに報酬を減額したり、仕事のやりなおしをさせることが禁止される

 

2.フリーランスの就業環境整備

  • フリーランス募集時の広告における的確な表示が義務付けられる
  • 妊娠、出産、育児、介護との両立のために必要な配慮が義務付けられる
  • フリーランスに対するセクハラ・マタハラ・パワハラ等を防止するための措置が義務付けられる
  • フリーランスとの継続的業務委託契約を解除する際や更新しない際は30日以上前の予告が義務付けられる。

 

以下で順番に見ていきましょう。

 

(1)発注内容について書面や電子メールでの明示が義務化

業務委託事業者がフリーランス(特定受託事業者)に業務を委託した際は、委託後ただちに、以下の事項を書面または電子メール等によりフリーランス(特定受託事業者)に明示しなければなりません。

 

  • 業務委託事業者の社名、氏名、屋号等
  • 業務委託をした日
  • 受託者の給付の内容(品目、品種、数量、規格、仕様等を明確に記載する必要がある。知的財産権が発生する場合にそれを発注者に譲渡・許諾させる場合は、譲渡・許諾の範囲も明確に記載する必要がある)
  • 納期
  • 引渡し場所またはサービスの提供を受ける場所
  • 発注者が検査をする場合は検査を完了する期日
  • 報酬の額(具体的な金額の明示が困難なやむを得ない事情がある場合は報酬の算定方法を明示し、具体的な金額が確定した後にすみやかに明示する)
  • 支払期日
  • 現金以外の方法で報酬を支払う場合はそれに関する事項
  • 上記のうち内容が定められないことについて正当な理由がある事項については、定められない理由と、その事項について定めることとなる予定期日(定めた後は、直ちに補充の明示が必要)

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

フリーランス保護法における発注内容の明示は、下請法における発注内容の明示とは異なり、電子メールで明示することについて事前に受託者の承諾を得る必要はありません。

 

(2)原則として60日以内の報酬の支払が必要になる

フリーランス保護法では、フリーランス(特定受託事業者)に対する報酬の支払期日についても規制が設けられており、その概要は以下の通りです。

 

  • 発注者が給付を受領する日から60日以内のできる限り短い期間を報酬の支払期日としなければならない。
  • 報酬の支払時期が定められていないときは、発注者が給付を受領した日が報酬の支払時期とみなされる。
  • 発注者による委託内容が他の事業者(元委託者)からの委託業務の再委託である場合は、例外として、元委託者から発注者への支払期日から30日以内のできる限り短い期間を報酬の支払期日と定めることができる。ただし、その場合は、発注者は受託者に①再委託である旨②元委託者の社名、氏名、屋号等③元委託者の対価の支払期日を明示する必要がある。

 

(3)不当な報酬の減額や仕事のやり直しの強制が禁止される

その他、フリーランス(特定受託事業者)の取引上の利益を保護するための遵守事項として、以下の点が、フリーランス保護法の規制対象となる事業者(特定業務委託事業者)に対して義務付けられています。ただし、これらの義務のうち「1,不当な給付の受領の拒絶の禁止」から「5,物の購入強制、サービスの利用強制の禁止」の義務については、業務委託の期間が1か月以上の場合または業務委託の期間が定められていない場合に限り課されることになっています。

 

1,不当な給付の受領の拒絶の禁止

受託者の責めに帰すべき事由がないのに、その給付の受領を拒むこと。

(例)フリーランスへの業務委託後に検査基準を厳しくすることにより、従来の検査基準であれば合格とされたものを不合格とすること

2,不当な報酬の減額の禁止

受託者の責めに帰すべき事由がないのに、報酬を減額すること。

(例)自社への発注者からのキャンセルや市況変化等により不要品となったことを理由に、不要品の対価に相当する額をフリーランスへの報酬から差し引くこと

3,不当返品の禁止

受託者の責めに帰すべき事由がないのに、返品すること。

(注)フリーランスとの間で返品ができるという契約がされている場合でも禁止の対象になります。また、契約不適合がある場合は返品することが認められますが、その場合も納品後6か月を経過した後の返品は禁止されます。

4,買いたたきの禁止

通常の対価と比較して著しく低い報酬の額を不当に定めること。

(例)労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストが上昇したため、フリーランスが報酬の引上げを求めたにもかかわらず、理由を書面、電子メール等で回答することなく、従来どおりに報酬を据え置くこと

5,物の購入強制、サービスの利用強制の禁止

指定する物の購入や指定するサービスの利用を強制すること(ただし、受託者による給付内容を均質にし、またはその改善を図るため必要がある場合その他正当な理由がある場合を除く)。

(例)フリーランスごとに目標額を定めて購入または利用を要請すること

6,不当な経済上の利益の提供要請の禁止

自社のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させることにより、不当に受託者の利益を害すること。なお、プログラムやコンテンツの作成に際し、発注時に知的財産権の譲渡や許諾が発注内容に含まれることを記載していなかったにもかかわらず、無償で作成目的となる使用の範囲を超えて知的財産権を譲渡・許諾させることは、不当な経済上の利益の提供要請に該当するとされています。

 

7,不当な給付内容の変更ややり直し強制の禁止

受託者の責めに帰すべき事由がないのに、給付の内容を変更させたり、給付受領後にやり直させることにより、不当に受託者の利益を害すること。

(例)フリーランスから給付の内容を明確にするよう求められたのに、委託者が正当な理由なく給付の内容を明確にせず、フリーランスに継続して作業を行わせ、その後、給付の内容が委託内容と適合しないとしてやり直しをさせること

(4)フリーランス募集時の広告における的確な表示が義務づけられる

フリーランス保護法の規制対象となる事業者(特定業務委託事業者)がフリーランス(特定受託事業者)を募集する場合の募集情報の的確な表示が義務づけられました。

虚偽の表示、誤解を生じさせる表示が禁止され、募集情報について正確かつ最新の内容に保つことが義務づけられます。募集情報については、いつの時点の募集情報かを表示することが適切です。

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

募集時の的確な表示については以下の点が求められています(厚生労働省告示第212号)。

  • 募集を終了した場合は、すみやかに募集情報を削除すること
  • 募集内容を変更した場合は、すみやかに募集に関する情報を変更すること
  • 他の事業者に募集を委託した場合、募集を終了または変更するときは、他の事業者に終了または変更を依頼し、実際に終了または変更されたかの確認を行うこと
  • 他の事業者に募集を委託した場合であって、その事業者が虚偽の表示をしていることを認識した場合は、訂正を依頼し、実際に訂正されたかの確認を行うこと

 

▶参考情報:厚生労働省告示第212号「特定業務委託事業者が募集情報の的確な表示、育児介護等に対する配慮及び業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等に関して適切に対処するための指針」(pdf)

 

(5)妊娠、出産、育児、介護に対する配慮

フリーランス保護法の規制対象となる事業者(特定業務委託事業者)がフリーランス(特定受託事業者)から、妊娠、出産、育児、介護等に関する申し出を受けた際は、妊娠、出産、育児、介護等と両立しつつ就業できるように必要な配慮をすることが義務づけられました。

ただし、業務委託の期間が6か月未満の受託者については努力義務とされています。

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

具体的には、特定業務委託事業者がフリーランス(特定受託事業者)から配慮の申し出を受けた場合、次の配慮をする必要があります(厚生労働省告示第212号)。

  • 配慮の申出の内容等の把握
  • 配慮の内容又は取り得る選択肢の検討
  • 配慮の内容の伝達および実施
  • 配慮の不実施の場合の伝達・理由の説明

 

▶参考情報:厚生労働省告示第212号「特定業務委託事業者が募集情報の的確な表示、育児介護等に対する配慮及び業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等に関して適切に対処するための指針」(pdf)

 

(6)フリーランスに対するハラスメント防止措置が必要になる

フリーランス保護法の規制対象となる事業者(特定業務委託事業者)について、フリーランス(特定受託事業者)に対するセクハラ、パワハラ、マタハラ等により就業環境が害されることのないように、フリーランスからの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備すること等が義務付けられました。

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

具体的には、業務委託におけるハラスメント防止のため、次の措置を講じなければならないとされています(厚生労働省告示第212号)。

(1)業務委託におけるハラスメントに対する方針の明確化及びその周知・啓発
イ)業務委託におけるハラスメントの内容及びハラスメントを行ってはならない旨の方針を明確化し、周知・啓発すること
ロ)業務委託におけるハラスメントに係る言動を行った者については、厳正に対処する旨の方針及び対処の内容を文書(就業規則、服務規律等)に規定し、周知・啓発すること
(2)相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
イ)相談への対応のための窓口をあらかじめ定め、フリーランス(特定受託業務従事者)に周知すること
ロ)相談窓口の担当者が、相談に対し、その具体的な内容や状況に対応し、適切な対応を行えるようにすること。
(3)業務委託におけるハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
イ)事実関係を迅速かつ正確に把握すること
ロ)ハラスメントが生じた事実が確認できた場合においては、速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行うこと
ハ)ハラスメントが生じた事実が確認できた場合は、行為者に対する措置を適正に行うこと
ニ)改めてハラスメントに関する方針を周知・啓発する等再発防止に向けた措置を講ずること。
(4)(1)から(3)までの措置と併せて講ずべき措置
イ)相談への対応またはハラスメントについての事後対応にあたり、当事者のプライバシーを保護するために必要な措置を講じて、従業員・フリーランス等に周知すること
ロ)ハラスメントに関する相談をしたこと等を理由に契約の解除等の不利益な取扱いをされない旨を定め、フリーランスに周知・啓発すること

 

このうち(2)の点については、以前から、労働施策総合推進法第30条の2の第1項により、従業員向けにハラスメント相談窓口の設置が義務づけられています。今後は、フリーランスからのハラスメント相談も同じ窓口で受け付けることで対応することが考えられます。ハラスメント相談窓口については以下で解説していますのでご参照ください。

ハラスメント相談窓口が義務化!おさえておきたい4つのポイント

 

(7)契約解除について30日以上前の予告等が義務付けられる

フリーランス保護法の規制対象となる事業者(特定業務委託事業者)が、フリーランス(特定受託事業者)との間の6か月以上の継続的業務委託についての契約を解除する場合は、災害その他やむを得ない事由により予告が困難な場合等を除き、30日以上前に予告することが義務付けられました。6か月以上の継続的業務委託について契約期間が満了後1か月以内に次の契約をしないときも、同様に30日以上前の予告が必要です。

さらに、契約解除を予告した後にフリーランス(特定受託事業者)から契約解除の理由の開示を求められたときは、原則としてその理由を遅滞なく開示することが義務付けられました。

 

6,公正取引委員会や中小企業庁による調査や立ち入り検査について

フリーランス保護法のうち、取引関係におけるフリーランスの保護に関する部分は、下請法類似の内容になっており、下請法と同じ公正取引委員会や中小企業庁が所管します。

法令違反の事実がある場合に、受託者側から公正取引委員会または中小企業庁長官に申し出ることができ、その場合に公正取引委員会または中小企業庁長官は必要な調査を行い、適当な措置をとるべきことが定められています。公正取引委員会は、法令違反がある場合は、発注者側事業者に対して、必要な措置を勧告し、事業者が勧告に応じない場合は命令や公表等の措置をとることができるとされています。

一方、フリーランス保護法のうち、フリーランスの就業環境整備に関する部分については、労働法や職業安定法類似の内容になっており、厚生労働省が所管します。

法令違反の事実がある場合に、フリーランス(特定受託事業者)から厚生労働大臣に申し出ることができ、その場合に厚生労働大臣は必要な調査を行い、適当な措置をとるべきことが定められています。厚生労働大臣は、法令違反がある場合は、発注者側事業者に対して、必要な措置を勧告し、事業者が勧告に応じない場合は命令や公表等の措置をとることができるとされています。

 

7,違反時の罰則

フリーランス保護法による規制に違反した場合に直ちに刑事罰の対象となることはありませんが、以下の場合には刑事罰の対象となることが定められています。

 

(1)フリーランス保護法違反があった場合の公正取引委員会や厚生労働大臣による命令に違反したとき

50万円以下の罰金

 

(2)フリーランス保護法により義務づけられる報告をしなかったり、検査を拒んだりしたとき

50万円以下の罰金

 

(3)フリーランス保護法により義務付けられるハラスメント防止措置に関する報告をせず、または虚偽の報告をしたとき

20万円以下の過料

 

8,事業者において必要になる対応

フリーランス保護法の規制対象となる事業者(特定業務委託事業者)において、フリーランス保護法の施行日までに、必要な対応として以下の点が挙げられます。

 

(1)フリーランス保護法の適用を受ける契約の洗い出し

まずは、フリーランス保護法の適用を受ける契約の洗い出しが必要です。従業員を使用しない個人事業主や、代表者以外に役員や従業員がいない法人との業務委託契約が対象となります。

 

(2)委託内容の明確化

フリーランス保護法の適用を受ける契約については、法律の施行後、受託者に対する委託内容の書面または電子メール等での明示が必要になります。これに向けた準備として、フリーランス(特定受託事業者)への委託内容を明確化する準備をすすめたうえで、明示方法についても検討する必要があります。

この点は、フリーランス側の仕事に不備があった場合の返品や仕事のやり直しを求めるためにも必要な点になります。委託内容が不明確な場合、フリーランスの仕事の不備について修正等の対応を求めることが、不当返品や不当な仕事のやり直しの強制に該当し法令違反となる恐れがあります。

 

(3)業務委託契約書のひな形の修正

フリーランス保護法において、報酬の支払期日についての規制が設けられたことを踏まえて、フリーランス保護法の基準よりも長い支払いサイトを定めている業務委託契約書の修正が必要になります。

また、継続的な業務委託契約について、期間中の解約についての予告期間や期間満了時に更新しない場合の予告期間を30日未満としている場合も、同様に業務委託契約書の修正が必要になります。

 

(4)フリーランスに対するハラスメント防止措置

セクハラ、パワハラ、マタハラ等の各種ハラスメントの防止措置については、フリーランスに対するこれらのハラスメントの防止も対象に加える形でバージョンアップしていくことが必要になります。

 

 

(5)フリーランス募集時の広告の見直し

自社においてフリーランスを募集したことがある場合は、その際の募集広告の内容が、次回以降の募集の際にも使用されることが考えられます。その意味では、過去の募集内容について、事実に反する表示や、誤解を生じさせる表示がないか、正確かつ最新の内容が表示されていたかを検証しておくことが、フリーランス保護法施行に向けた準備になります。

 

9,下請法との関係

フリーランス保護法のうち、取引関係におけるフリーランスの保護についての規制は、取引関係における下請事業者の保護を目的とした下請法における規制内容と類似した内容になっています。フリーランス保護法と下請法の関係としては以下の点をおさえておくべきでしょう。

 

(1)資本金が1000万円以下の法人が発注者となる取引について

資本金が1000万円以下の法人が発注者となる取引については、下請法による規制は適用されません。しかし、この部分についても、発注先がフリーランス(特定受託事業者)である場合は、フリーランス保護法の規制が及ぶことになり、下請法と類似の規制に対応する必要が出てきます。

フリーランス保護法は、このように資本金1000万円以下の法人による発注の場面でのフリーランス保護を定めた点で大きな意味があります。これまで資本金が1000万円以下の法人では下請法への対応が不要であったため、契約書のひな形や発注の実務が下請法に対応していないケースが多いと思われますが、そのような法人も今後はフリーランス保護法に対応していくことが必要になります。

 

(2)従業員を使用する個人事業主が発注者となる取引について

従業員を使用する個人事業主が発注する取引についても上記の「(1)資本金が1000万円以下の法人が発注者となる取引について」で説明した点があてはまります。

これまで個人事業主による発注については下請法への対応が不要であったため、契約書や発注の実務が下請法に対応していないケースが多いと思われますが、今後は、従業員を使用する個人事業主についてはフリーランス保護法に対応していくことが必要になります。

 

(3)資本金が1000万円超の法人が発注者となる取引について

資本金が1000万円超の法人が発注者となる取引については、従来から下請法の規制がありました。今後は、発注先がフリーランス(特定受託事業者)である場合は、下請法の規制と、フリーランス保護法の規制の両方が適用されることになりますが、これまで下請法の規制に対応してきた場合は発注時の実務について大きな変更が必要になることは少ないでしょう。ただし、以下の点に注意する必要があります。

 

1,業務委託契約書の見直し

フリーランス保護法においては報酬の支払期日について、下請法とは異なるルールが設けられ、30日以内の支払が義務付けられる場面があります。また、継続的な業務委託契約について、期間中の解約についての予告期間や期間満了時に更新しない場合の予告期間についても、下請法にない独自のルールが設けられています。これらの点を踏まえて、業務委託契約書の見直しが必要になります。

 

2,下請法適用外だった取引についての対応

運送業務やコールセンター業務、メンテナンス業務、データ処理業務といったサービス提供を発注する場面では、下請法が適用されるのは再委託の場面のみであり、自社の業務のためにこれらの業務を委託するケースは下請法の適用外となっています。

しかし、フリーランス保護法では、発注者が自社の業務のためにサービス提供を発注するケースにも適用されます。このように下請法適用外だった取引については、契約書や発注の実務が下請法に対応していないことが考えられますが、今後は、フリーランス保護法に対応していくことが必要になります。

 

3,フリーランスに対するハラスメント防止措置

セクハラ、パワハラ、マタハラ等の防止措置については、フリーランスに対するこれらのハラスメントの防止も盛り込む形でバージョンアップしていくことが必要になります。

 

10,フリーランス保護法に関して弁護士に相談したい方はこちら

咲くやこの花法律事務の弁護士によるサポート内容

最後に、フリーランス保護法に関する咲くやこの花法律事務所の企業向けのサポート内容についてご説明したいと思います。

 

(1)発注側企業からのご相談

咲くやこの花法律事務所では、フリーランスへの発注がある事業者から、フリーランス保護法に関連する以下のご相談をお受けしています。

 

  • フリーランス保護法が適用されるか否かの判断
  • フリーランス保護法に準拠した業務委託契約書、発注書等の整備のご相談
  • 報酬の減額や仕事のやり直しを求めなければならない場合の対応方法についてのご相談
  • フリーランスに対するハラスメント防止措置に関するご相談
  • その他フリーランス保護法への対応に関するご相談

 

フリーランス保護法の適用がある取引については法律上の必要事項を書面または電子メール等で網羅的に明示する体制を作ることが必要です。

さらに、報酬の減額や発注内容の変更が必要になる場面、納品後に納品物に瑕疵が発見された場面、発注先とトラブルになった場面などで、フリーランス保護法のルールを守って対応することが必要です。

 

弁護士へのご相談費用

●初回相談料:30分5000円+税(顧問契約の場合は無料)

 

(2)受注側事業者(フリーランス)からのご相談

咲くやこの花法律事務所では、受注側事業者(フリーランス)から、発注先との取引に関するご相談を承っています。

 

  • 発注先のフリーランス保護法違反に関するご相談
  • 発注先との取引上のトラブルに関するご相談
  • 発注先による代金減額や不当な返品、商品の受け取り拒否等に関するご相談
  • 発注先が費用を負担せずに発注内容の変更を指示する場合の対応に関するご相談

 

弁護士へのご相談費用

●初回相談料:30分5000円+税(顧問契約の場合は無料)

 

11,「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法

今すぐのお問い合わせは以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。

【お問い合わせについて】

※個人の方からの問い合わせは受付しておりませんので、ご了承下さい。

「咲くやこの花法律事務所」のお問い合わせページへ。

 

記事更新日:2024年7月12日
記事作成弁護士:西川暢春

 

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    西川 暢春 代表弁護士
    西川 暢春(にしかわ のぶはる)
    大阪弁護士会/東京大学法学部卒
    小田 学洋 弁護士
    小田 学洋(おだ たかひろ)
    大阪弁護士会/広島大学工学部工学研究科
    池内 康裕 弁護士
    池内 康裕(いけうち やすひろ)
    大阪弁護士会/大阪府立大学総合科学部
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    「問題社員トラブル円満解決の実践的手法」〜訴訟発展リスクを9割減らせる退職勧奨の進め方

    著者:弁護士 西川 暢春
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