情報漏洩のトラブルが、新聞やニュースで報道されることが増えています。
報道される事例の中には、報道の対象となった会社自身が情報漏洩を起こしてしまったというものもありますが、外注先や業務委託先から情報漏洩が起こり、多額の損害が発生したケースも多くみられます。
たとえば、以下のようなケースです。
1,ベネッセコーポレーションの個人情報漏洩の事件
ベネッセコーポレーションの業務委託先に勤務していた派遣社員が、顧客の個人情報を名簿業者に売却した事件。
持ち株会社のベネッセホールディングスは、「260億円」の特別損失を計上しました。
2,エステティックサロン「TBC」の個人情報漏洩の事件
TBCの業務委託先の業務上のミスにより、サイト上で実施した顧客へのアンケート結果などがインターネットに公開されてしまい、TBCの顧客に対し迷惑メールなどの嫌がらせが相次いだ事件。
このような外注先、業務委託先からの情報漏洩を防ぐためのもっとも基本的な対策が、「秘密保持契約書(機密保持契約書やNDAとも呼ばれる)の締結」です。
しかし、秘密保持契約書が締結されていても、内容が不適切であったり、雛形を使いまわしたため実態にあったものになっていないというケースがよくあります。これでは、情報漏洩事件が発生したときの損害賠償請求にも問題が生じます。
そこで、今回は、情報漏洩を防ぐための基本的な対策となる「秘密保持契約書(機密保持契約書/NDA)の作成方法」について、ご説明します。
それでは、以下の本記事の目次からご覧下さい。
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今回の記事で書かれている要点(目次)
- 1,秘密保持契約書(機密保持契約書/NDA)とは?
- 2,必要な記載事項について
- 2−1,「秘密情報の定義に関する規定」の作成方法
- 2−2,「秘密情報の管理方法に関する規定」の作成方法
- 2−3,「秘密保持義務の内容に関する規定」の作成方法
- 2−4,「秘密保持義務の例外に関する規定」の作成方法
- 2−5,「秘密保持義務の期間に関する規定」の作成方法
- 2−6,「事故発生時の報告に関する規定」の作成方法
- 2−7,「秘密保持義務違反時の制裁に関する規定」の作成方法
- 3,自社がプライバシーマーク(Pマーク)を取得している場合の注意点
- 4,印紙、割印について
- 5,雛形(ひな形)のダウンロードはこちら
- 6,秘密保持契約書に関する弁護士へのご相談とサポート内容
- 7,まとめ
- 8,【関連情報】秘密保持契約書と合わせて確認すべきお役立ち記事
1,秘密保持契約書(機密保持契約書/NDA)とは?
「秘密保持契約書」とは、取引を行う際に、取引相手から開示される営業秘密や個人情報などについて、その取引以外の目的に利用したり、あるいは第三者に開示したりしないこと、また、漏洩がないように適切な管理をすべきことなどを定める契約書です。「機密保持契約書」と呼ばれることもあります。
英語では、「Non-disclosure agreement」と呼ばれ、頭文字をとって「NDA」と略称されます。
(1)秘密保持契約書(NDA)が必要となる場面について
秘密保持契約書(NDA)は取引のあらゆる場面で必要になります。
例えば以下のような場面です。
ケース1:
業務委託、外注取引に関する秘密保持契約書
自社の業務の一部を他社に外注したり、業務委託したりする場合、自社の社内情報や顧客情報を委託先に開示しなければ、委託先が仕事ができないケースが多いです。
このような場合は、業務委託先と秘密保持契約書(NDA)を締結することになります。また、業務委託においては、「業務委託契約書」も締結しておく必要がありますので、以下も合わせて確認しておきましょう。
ケース2:
業務提携、アライアンスに関する秘密保持契約書
他社との業務提携、アライアンスの場面では、自社の顧客情報を業務提携先と共有したり、自社のビジネスモデルを業務提携先に開示することになるケースが多いです。
このような場合も、業務提携先、アライアンス先と秘密保持契約書(NDA)を締結することになります。
ケース3:
新規取引の検討に関する秘密保持契約書
他社との新規取引を検討する場面においては、取引の可能性の検討のために他社に自社のノウハウや技術の一部を開示しなければならないケースもあります。
また、相手に自社の決算書を開示するケースもあるでしょう。このような場合も、取引を検討する相手との間で秘密時契約書(NDA)を締結することになります。
ケース4:
M&Aの検討に関する秘密保持契約書
M&Aを検討する場面においては、M&Aの対象となる会社の財務内容やビジネスモデル、技術内容を開示してもらったうえで、自社とのシナジーの有無や買収金額等について検討することになります。
このような場合は、M&Aを検討する相手との間で秘密保時契約書(NDA)を締結することになります。
ケース5:
WebサイトやECサイトの制作に関する秘密保持契約書
WebサイトやECサイトの制作を制作会社に委託する際は、自社のビジネスモデルや予定している販売促進のためのキャンペーンの内容等を制作会社に開示しなければならないことがあります。
このような場合は、制作会社との間で秘密保持契約書(NDA)を締結することになります。
また、Webサイト(ホームページ)やECサイトなどの制作においては、「Webサイト(ホームページ)制作契約書」も合わせて締結しておく必要がありますので、以下も確認しておきましょう。
このように、秘密保持契約書(NDA)が取引のあらゆる場面で必要になることをおさえておきましょう。
2,必要な記載事項について
それでは、「秘密保持契約書(NDA)の作成方法」のご説明に入りたいと思います。
まず、作成に入る前に、「秘密保持契約書(NDA)に必要な記載事項」について確認しておきましょう。
秘密保持契約書(NDA)に盛り込むべき基本的な記載事項は以下の7つの項目です。
基本的な記載事項
- 1,秘密情報の定義に関する規定
- 2,秘密情報の管理方法に関する規定
- 3,秘密保持義務の内容に関する規定
- 4,秘密保持義務の例外に関する規定
- 5,秘密保持義務の期間に関する規定
- 6,事故発生時の報告に関する規定
- 7,秘密保持義務違反時の制裁に関する規定
- 8,合意管轄に関する規定
具体的にみていくと、以下の通りになります。
1,秘密情報の定義に関する規定
取引先との間で、何を「秘密情報」として取り扱うかを決める定義規定です。
2,秘密情報の管理方法に関する規定
秘密情報を漏えいしないように管理することを相手方に義務付ける規定です。
3,秘密保持義務の内容に関する規定
秘密保持義務の内容として、秘密情報を第三者に開示することを禁止したり、取引相手が本来の目的とは別の目的で秘密情報を使用することを禁止することなどを定める規定です。
4,秘密保持義務の例外に関する規定
例外的に秘密保持義務の対象としないケースについて定める規定です。
5,秘密保持義務の期間に関する規定
秘密保持義務を守らなければならない期間について定める規定です。
6,事故発生時の報告に関する規定
相手方において秘密情報の漏えい事故が発生した時に、自社に対する事故内容の報告を義務付ける規定です。
7,秘密保持義務違反時の制裁に関する規定
秘密保持義務の違反があったときに、損害の賠償や取引関係の解除などの制裁を定める規定です。
8,合意管轄に関する規定
秘密保持義務の違反に関するトラブルで大きな損害が発生して、裁判に発展した際に、どこの裁判所で審理するかを定める規定です。
▶参考情報:「合意管轄に関する規定」について
合意管轄に関する規定については、裁判に発展した際に影響してくる重要な内容です。そのため、以下の記事も参考に確認しておきましょう。
以上、まずは、秘密保持契約書(NDA)の基本的な記載事項について確認しておきましょう。
上記のうち、「8,合意管轄に関する規定」については、先ほどの参考でご紹介した「合意管轄条項(専属的合意管轄)の記載方法と交渉方法について」に関する記事で詳しく解説していますので、以下では「1」~「7」についてご説明していきます。
2−1,「秘密情報の定義に関する規定」の作成方法
秘密保持契約書(NDA)の作成の場面で、まず重要になるのが「秘密情報の定義に関する規定」です。
「秘密情報の定義に関する規定」を作成するときは以下の点を検討することが必要です。
(1)秘密情報の定義に関する規定を作るときに検討すべきポイント
「自社が取引相手に開示する情報のうち、秘密として扱われなければならない重要な情報は何か?」
たとえば、取引の内容が、自社商品をECサイトで販売する業務の委託であったとします。
このような場合に、「秘密として扱われなければならない重要な情報」としては以下の情報が想定されます。
1,顧客の住所、氏名、電話番号、メールアドレス、購入歴等に関する情報
顧客情報は、ECサイトの運営委託先が委託業務の過程で知ることになるものであり、秘密情報として扱う必要があります。
2,顧客のクレジットカード番号や、その他クレジットカード決済に関する情報
これらの情報も、第三者に漏洩すれば、クレジットカードが不正使用される可能性がありますので、秘密情報として扱う必要があります。
3,ECサイトの売上額や経費の額に関する情報や、苦情処理に関する情報
これらの情報も、通常は第三者に知られたくない情報であり、秘密情報として扱うべきでしょう。
4,個人情報保護法に定める「個人情報」に該当する情報
ECサイトの運営委託先は、委託業務の過程で、顧客情報以外の個人情報(例えば、自社の従業員に関する情報等)についても接することになるでしょう。このような個人情報については、通常は第三者への開示などを禁止することが適切であり、秘密情報に入れておくべきです。
このように、予定している取引の内容や、取引の過程で取引相手が知ることになる情報の内容に応じて、秘密情報として扱うべき情報が何かを具体的に検討することが重要です。
そのうえで、たとえば、以下のように規定することがお薦めです。
なお、以下の規定例では、自社(業務を委託する側)を甲、契約相手(業務を受託する側)を乙としています。
▶参考:おすすめの規定例
第〇条(秘密情報の定義)
1 本契約において「秘密情報」とは、以下の情報を指す。
(1)甲の顧客の住所、氏名、電話番号、メールアドレスその他連絡先に関する情報
(2)甲の顧客の購入歴に関する情報
(3)甲の顧客のクレジットカード番号その他クレジットカード決済に関する情報
(4)甲のECサイトの売上の額、経費の額、平均購入単価、平均購入回数に関する情報
(5)甲の顧客からの苦情処理内容に関する情報
(6)個人情報保護法第2条1項に定める「個人情報」
(7)その他、他方当事者から開示される情報で、秘密情報であることが文書にて明示された情報
ここでのポイントは、以下の2点です。
ポイント1:
規定例の(1)~(6)にあるように、必ず秘密情報として扱わなければならない情報をまず具体的に列挙する。
ポイント2:
規定例の(7)にあるように、(1)~(6)以外の情報については、秘密情報であることを明示した場合に限り「秘密情報」として扱う旨を規定する。
これに対し、たとえば、以下のような規定は、改善が必要です。
▶参考:改善の検討が必要な「規定例1」:
第〇条(秘密情報の定義)
1 本契約において「秘密情報」とは、有形無形を問わず、他方当事者から開示される営業上、技術上の情報で、且つそれが秘密情報であることを文書にて明示されたものの一切を指す。
この「規定例1」には、以下の問題点があります。
●「規定例1」の問題点の解説
「規定例1」の定義規定では、情報を開示する都度、秘密情報であることを明示しなければならず、秘密情報である旨の明示を忘れたときは、「秘密情報」と扱われなくなってしまいます。
このような問題をできるだけ避けるためには、「おすすめの規定例」のように、あらかじめ秘密として扱うべきとわかっている情報については、定義規定の中で列挙しておき、秘密情報であることの明示をしなくても「秘密情報」として扱われるようにしておくのがよいです。
▶参考:改善の検討が必要な「規定例2」:
第〇条(秘密情報の定義)
1 本契約において「秘密情報」とは、他方当事者から開示される営業上、技術上の一切の情報を指す。
この「規定例2」には以下の問題点があります。
●「規定例2」の問題点の解説
「規定例2」のような定義規定は、秘密情報であることの明示が必要ないので、一見便利そうです。
しかし、「他方当事者から開示される営業上、技術上の一切の情報」という形で秘密情報が定義されており、「どの範囲までの情報が秘密情報か」があいまいです。
そのため、相手方が情報を漏らしたり、本来の目的とは別の目的に使ったりしても、「もともと契約書でどの範囲の情報について秘密保持義務を課しているのかがわかりづらいので、注意できなくても無理はない。」という判断を裁判所にされてしまい、秘密保持義務違反として損害賠償請求などのペナルティを課せない可能性が高くなってしまいます。
秘密情報の定義規定を作るときは、「おすすめの規定例」のように、情報を受け取る側が具体的にどの範囲までの情報を秘密情報として扱わなければならないのかが、明確にわかるように規定することが、法的に有効な秘密保持契約書を作成するための重要なポイントになりますのでおさえておいてください。
以上、「秘密情報の定義規定」の作成方法についてご説明しました。
「秘密情報」の定義規定は、第三者への開示禁止などの秘密保持義務を課す対象となる情報の範囲を決める条項であり、秘密保持契約書のもっとも重要なポイントになります。
定義の結果、「秘密情報」に含まれないものは、いくら秘密保持契約書を作成していても、「秘密情報」として扱われません。
自社が取引相手に開示する情報のうち、秘密情報として扱われなければならない重要な情報を具体的に検討し、実態にあった定義規定を作成することが必要ですので、おさえておきましょう。
2−2,「秘密情報の管理方法に関する規定」の作成方法
次に、「秘密情報の管理方法に関する規定」の作成方法について見ていきましょう。
秘密情報の管理方法に関する規定として定めておくべき点は主に以下の点です。
(1)「秘密保持の管理方法に関する規定」として定めておくべき3つのポイント
1,管理上の注意義務に関する項目
情報を受け取った側は秘密情報を適切な注意のもとで管理するべきこと。
2,情報を扱う人的範囲に関する項目
情報を受け取った側は、その秘密情報を開示する従業員の範囲を必要最小限とすべきこと。
3,複製禁止に関する項目
秘密情報については、原則として情報を受け取った側による複製を認めないこと。
これらの秘密保持の管理方法に関する規定の具体的な記載方法ついては、この記事の末尾の「秘密保持契約書の雛形(ひな形)」の「第4条」を参照してください。
2−3,「秘密保持義務の内容に関する規定」の作成方法
次に、「秘密保持義務の内容に関する規定」の作成方法について見ていきましょう。
秘密保持義務の内容に関する規定として定めておくべき点は主に以下の点です。
(1)「秘密保持義務の内容に関する規定」として定めておくべき3つのポイント
1,目的外使用の禁止に関する項目
情報を受け取った側が、秘密情報を本来の目的以外に使用することを禁止すること。(例えば、ECサイトの運営を委託された会社が、ECサイトで得た顧客情報を利用して、全く別の自社商材に関するDMを送ることはこの規定により禁止されます。)
2,第三者への開示禁止に関する項目
情報を受け取った側が、秘密情報を、無断で、第三者に開示することを禁止すること。
3,返還、廃棄に関する項目
情報を受け取った側は取引終了時や、秘密情報を使用する必要がなくなったときは、秘密情報が記録されている紙やデータを返還し、あるいは廃棄すべきこと。
これらの秘密保持義務の内容に関する規定の具体的な記載方法ついても、この記事の末尾の「秘密保持契約書の雛形(ひな形)」の「第5条」を参照してください。
2−4,「秘密保持義務の例外に関する規定」の作成方法
次に、「秘密保持義務の例外に関する規定」の作成方法を見ていきましょう。
秘密保持義務の例外に関する規定として定めておくべき点は主に以下の点です。
(1)「秘密保持義務の例外に関する規定」として定めておくべき2つのポイント
1,法令による開示に関する項目
情報を受け取った側が法令あるいは官公庁、裁判所の命令などにより、秘密情報を開示しなければならない場合は秘密保持義務の対象外とすること。
2,弁護士等への開示に関する項目
情報を受け取った側が弁護士、税理士、公認会計士などへの相談のために秘密情報を開示する場合は秘密保持義務の対象外とすること。
これらの秘密保持義務の例外に関する規定に関する具体的な記載方法ついても、この記事の末尾の「秘密保持契約書の雛形(ひな形)」の「第6条」を参照してください。
2−5,「秘密保持義務の期間に関する規定」の作成方法
次に、「秘密保持義務の期間に関する規定」の作成方法を見ていきましょう。
ここでは、「秘密情報の内容に応じて適切な期間を設定すること」が重要になります。
秘密保持契約書のひな形の中には、秘密保持義務の期間を「業務委託契約終了後3年間」などと限定しているケースが多くみられます。
たとえば、販売キャンペーンに関する情報など、期間がたてば、秘密情報としての意味がなくなる場合は、このような規定で問題ありません。
しかし、例えば、開示する情報に顧客の個人情報やクレジットカード情報が含まれる場合は、「期間の限定なく秘密保持を義務付けておくこと」が必要です。
その場合は、以下のような規定をおすすめします。
▶参考:おすすめの規定例
「本契約に基づく権利、義務は、甲乙間の業務委託関係が終了した後も存続する。」
このように規定しておけば、期間の限定なく秘密保持を義務付けることができます。
2−6,「事故発生時の報告に関する規定」の作成方法
次に、「事故発生時の報告に関する規定」の作成方法を見ていきましょう。
秘密情報漏洩の事故が発生した場合の報告に関する規定として定めておくべき点は主に以下の点です。
(1)「秘密情報漏洩の事故が発生した場合の報告に関する規定」として定めておくべき2つのポイント
1,事故報告に関する項目
情報を受け取った側において、秘密情報の漏えいや、本来の目的以外の目的で秘密情報を使用する事故を起こしたときはすみやかに報告しなければならないこと。
2,事故時の賠償の負担に関する項目
相手方による秘密情報漏えい事故について、自社が、情報漏洩の対象となった顧客等から苦情を受けて、顧客に対して賠償をしたときは、相手方がその賠償額を負担すべきこと。
これらの事故発生時の報告に関する規定の具体的な記載方法ついても、この記事の末尾の「秘密保持契約書の雛形(ひな形)」の「第9条」を参照してください。
2−7,「秘密保持義務違反時の制裁に関する規定」の作成方法
次に、「秘密保持義務違反時の制裁に関する規定」の作成方法についてご説明します。
「秘密保持義務違反時の制裁に関する規定」として定めておかなければならない点は、以下の2点です。
(1)「秘密保持義務違反時の制裁に関する規定」として定めておくべき2つのポイント
1,損害賠償に関する項目
相手方の秘密保持義務違反により自社に損害が発生した場合、損害賠償請求の対象となること。
2,契約解除に関する項目
相手方に秘密保持義務違反があった場合、自社は委託契約などを解除することができること。
このうち、注意を要するのは、「2,契約解除に関する項目」の作成方法です。
業務委託先から秘密情報の漏洩があったり、業務委託先が秘密情報を別の目的で無断で利用したときは、業務委託関係を中止できるように、契約解除の措置を定めておくことが必要です。
これについては、たとえば、次のように規定することをおすすめします。
▶参考:おすすめの規定例
第〇条(契約解除)
甲または乙は、相手方当事者が本契約に違反し相当な期間を定めて是正の催告をしても期間内に是正しないときは、甲乙間で締結した業務の委託に関する契約の一部または全部を解除することができる。
注意しなければならないのは、秘密保持義務違反の場合に秘密保持契約を解除するという内容を定めても意味がなく、「業務委託契約自体の解除」ができるようにしておく必要があることです。
このことから、上記の「おすすめの規定例」では、「甲乙間で締結した業務の委託に関する契約の一部または全部を解除することができる。」と規定しています。
これに対して、たとえば、以下のような規定は適切ではありません。
▶参考:改善が必要な「規定例」
第〇条(契約解除)
甲または乙は、相手方当事者が次の各号の一つにでも該当したときは、直ちに本契約を解除することができる。
(1)本契約に違反し、相当な期間を定めて是正の催告を受けても、期間内に是正しないとき
(2)破産、特別清算、会社更生、民事再生の申し立てがあったとき
(3) 以下略
このような規定では、秘密保持契約違反があった場合、「直ちに本契約を解除することができる。」とありますので、秘密保持契約を解除することになります。
しかし、秘密保持契約を解除すれば、むしろ、以後秘密を守らなくてよいことになってしまいかねず、適切ではありません。
秘密保持契約書のひな形の中にはこのように不適切な内容になっているものもありますので、作成の際は注意が必要です。
秘密保持義務違反の場合の契約解除に関する規定では、秘密保持契約の解除ではなく、業務委託などの取引に関する契約の解除を定めておくことがポイントとなりますので、おさえておきましょう。
3,自社がプライバシーマーク(Pマーク)を取得している場合の注意点
ここまで、一般的な秘密保持契約書の作成方法についてご説明しましたが、自社がプライバシーマーク(Pマーク)を取得している場合は、特別な注意が必要です。
プライバシーマークを取得している企業が他社に個人情報の取り扱いを委託する場合、プライバシーマークとの関係で、以下の3点を秘密保持契約書に追加する必要があります。
自社がプライバシーマークを取得している場合に追加しなければならない3つの項目
- 追加事項1:個人情報の取り扱いの再委託に関するルールを定める規定
- 追加事項2:個人情報の取扱状況に関する委託者への報告の内容及び頻度を定める規定
- 追加事項3:契約内容が遵守されていることを委託者が確認できることを定める規定
以下で順番に見ていきましょう。
追加事項1:
個人情報の取り扱いの再委託に関するルールを定める規定
プライバシーマークの要求事項として、個人情報の取り扱いを取引相手に委託する場合に、取引相手がさらに第三者に個人情報の取り扱いを再委託する場合のルールを定めることが求められています。
例えば、自社が他社にECサイトの運営を委託する場合に、委託先が顧客あてのダイレクトメールの発送をさらに他社に外注するような場合が、個人情報の取り扱いの再委託に該当します。
このような再委託の場合を想定して「事前の書面による許可がない限り再委託を認めない」という規定を設けたり、「再委託を認めるが、再委託する場合は、再委託先との間で個人情報の適切な取り扱いを義務付ける」という内容の規定を設けたりすることが必要です。
追加事項2:
個人情報の取扱状況に関する委託者への報告の内容及び頻度を定める規定
プライバシーマークの要求事項として、個人情報の取り扱いを取引相手に委託する場合に、自社に個人情報の管理状況等を定期的に報告することを義務付ける内容の規定を設けることが求められています。
追加事項3:
契約内容が遵守されていることを委託者が確認できることを定める規定
プライバシーマークの要求事項として、個人情報の取り扱いを取引相手に委託する場合に、取引相手が正しく個人情報を取り扱っていることを自社が確認するための規定を入れておくことが求められています。
例えば、必要に応じて取引相手の事務所に立ち入り調査などを行う権限が自社にあることを定めておくことが考えられます。
なお、これらの点以外にもプライバシーマークの要求事項として以下の4点が要求されています。
上記の点以外の「プライバシーマーク」の要求事項4つ
- 1,委託者及び受託者の責任に関する事項
- 2,個人情報の安全管理に関する事項
- 3,契約内容が遵守されなかった場合の措置に関する事項
- 4,事件・事故が発生した場合の報告・連絡に関する事項
しかし、この4点については、既に、「2,秘密保持契約書の記載事項について」でご説明した記載事項に含まれていますので、改めて追加する必要はありません。
自社がプライバシーマークを取得している場合の注意点として、「2,作成前にチェック!秘密保持契約書の記載事項について。」でご説明した項目とは別に、追加で記載が必要となる項目が3つあることをおさえておきましょう。
4,印紙、割印について
最後に秘密保持契約書(NDA)の印紙、割印についてご説明しておきます。
(1)秘密保持契約書(NDA)の印紙について
まず、秘密保持契約書には印紙を貼る必要がありません。
印紙税の対象となる契約書は印紙税法と言う法律で決められていますが、秘密保持契約書はその中に含まれていないためです。
▶参考情報:印紙税の対象となる契約書と印紙税額の一覧表について
・国税庁の公式サイトを参照してください。
(2)秘密保持契約書(NDA)の割印について
次に、割印についてご説明します。
割印とは、契約書の偽造などを防ぐために2通の契約書にまたがって押す印をいいます。通常は2通の契約書を少しずらした状態で重ね、重なる部分に自社と取引相手がそれぞれ印鑑を捺印します。
では、割印があればなぜ偽装を防ぐことができるのでしょうか?
契約書を作る場合、自社と取引相手の分の2通を作成し、1通ずつ保管することが通常です。
その場合に、2通にまたがるようにして自社の印と相手の印を割印として捺印しておくと、もし取引相手が後で契約書を偽造しようとした場合であっても、取引相手は偽造した契約書には自社の印の割印を捺印できません。そのため、割印を捺印しておけば偽造を防ぐことができるのです。
秘密保持契約書についてこのような割印が必要かどうかの判断は「ケースバイケース」です。
秘密保持契約書が何枚もの用紙にわたる場合は、中身を差し替えて偽造されることを防ぐために、割印を押すことも検討してもよいと思います。
一方、秘密保持契約書を1枚の用紙にまとめることができる場合は、相手が偽造したとしても偽造した契約書末尾の捺印欄の捺印ができないため、偽造のおそれは低いといえます。
そのため、秘密保持契約書を1枚の用紙にまとめることができる場合は、割印は必ずしも必要ないでしょう。
(3)電子署名について
最近では、秘密保持契約書を電子契約で行うことも多くなりました。電子契約は、契約書のデータファイルを、オンライン上で契約の相手方に開示して、双方の合意を確認することにより、契約を締結するものをいいます。電子契約については、契約書の署名、捺印に代わるものとして、電子署名を準備することが必要です。電子署名については、例えば下記のサービスなどが利用されています。
5,雛形(ひな形)のダウンロードはこちら
本記事でご紹介してきた秘密保持契約書(NDA)の一般的な記載事項を盛り込んだ簡易な(雛形)ひな形を以下でアップしますので、参考にしてください。
秘密保持契約書(NDA)のサンプル雛形のダウンロード
※ご注意:
上記のようなサンプルひな形を使用して作成しても、個別の事情に合致していないという場合は、秘密保持契約書があっても役に立ちません。場合によっては有害となるケースすらありますので、必ず自社の個別の事情にあった契約書になるように弁護士による「契約書のリーガルチェック」を受けておきましょう。
6,秘密保持契約書に関する弁護士へのご相談とサポート内容
ここまで秘密保持契約書の作成方法についてご説明してきました。最後に「咲くやこの花法律事務所」で秘密保持契約書について行うことができるサポートサービスの内容をご紹介します。
サポートの内容は以下の3点です。
- 1,個別の事情に応じた実効的な秘密保持契約書の作成
- 2,自社または取引相手が作成した秘密保持契約書のリーガルチェック
- 3,情報漏洩防止のための実効的なアドバイス
以下で順番にご説明したいと思います。
(1)個別の事情に応じた実効的な秘密保持契約書の作成
この記事では雛形(ひな形)についてもご紹介しましたが、実際には、秘密保持契約書の作成にあたっては、「具体的な取引内容」や「開示する情報の内容」、「秘密情報漏洩リスクの程度」に応じて、個別の事情を踏まえた内容で作成することが非常に重要です。
雛形(ひな形)を使用して作成したが、個別の事情に合致していないという場合は、秘密保持契約書があっても全く役に立たず、取引相手による情報漏洩や情報の不正使用に対応できないことになりかねません。咲くやこの花法律事務所では、企業の情報漏洩対策を万全なものにするために、個別の事情を踏まえた実効的な秘密保持契約書の作成を企業の依頼を受けて行っております。
弁護士費用例
●初回相談料:30分あたり5000円
●契約書作成費用:5万円程度
(2)自社または取引相手が作成した秘密保持契約書のリーガルチェック
自社で秘密保持契約書を作成された場合や、取引相手から秘密保持契約書を提示された場合についても、十分なリーガルチェックを行い、適切な内容に修正しなければ、取引相手による情報漏洩や情報の不正使用に対応できません。
咲くやこの花法律事務所では、企業からの依頼を受けて、秘密保持契約書について万全のリーガルチェックを行っております。
弁護士費用例
●初回相談料:30分あたり5000円
●契約書リーガルチェック費用:3万円程度
(3)情報漏洩防止のための実効的なアドバイス
情報漏洩を防止するためには秘密保持契約書の作成だけでなく、「どこまでの情報を取引相手に開示するか」、「どのような方法で情報を取引相手に開示するか」などについても配慮が必要です。
咲くやこの花法律事務所では、企業からの依頼を受けて、情報漏洩防止のための実効的なアドバイスを行っております。
相談料
●初回相談料:30分あたり5000円
雛形(ひな形)だけでは対応できない場合や、自社で判断が難しい場合は、企業法務に強い咲くやこの花法律事務所に契約書作成代行あるいは契約書チェックのご相談をお気軽にお問い合わせ下さい。
(4)「咲くやこの花法律事務所」の弁護士へのお問い合わせ方法
咲くやこの花法律事務所の契約書に強い弁護士によるサポート内容については「契約書に強い弁護士への相談サービスについて」をご覧下さい。
また、今すぐお問い合わせは以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
7,まとめ
今回は、情報漏洩のトラブルが、新聞やニュースで報道されることが急増してきていることから、情報漏洩リスクの最も基本的な対策である「秘密保持契約書」の作成方法についてご説明しました。
自社で秘密保持契約書を作成するときは、今回ご説明した「記載事項」、「秘密情報の定義」、「秘密保持義務の内容」、「秘密保持義務の期間」、「秘密保持義務違反時の制裁」などの重要ポイントを必ずチェックし、実効的な契約書にしていくことが大切です。
なお、会社が従業員との間で取り交わす秘密保持契約書は誓約書の形式をとることが通例です。
この点については、以下の「情報持ち出しから会社を守る顧客情報・顧客名簿の正しい管理方法とは?」の記事内の「ケース3: 従業員が記憶している顧客情報について」でご説明していますので、参照してください。
8,【関連情報】秘密保持契約書と合わせて確認すべきお役立ち記事
今回の記事では、「秘密保持契約書(NDA)の作成方法」についてご説明しました。
秘密保持契約書は、業務委託の外注先や、代理店・フランチャイズなど様々なビジネスパートナーとの間で締結することがあります。その際に、秘密保持契約書に関連して様々なビジネスの間で必要な契約のケースに合わせた契約書も正しく締結しておかなければ重大なトラブルに発展してしまいます。
そのため、以下ではこの記事に関連するお役立ち記事を一覧でご紹介しますので、こちらもご参照ください。
・ソフトウェアやITサービスの「代理店契約書」のチェックすべき重要ポイント!
・フランチャイズ(FC)契約書の作成の6つの重要ポイント!安易な雛形利用は危険
・レベニューシェア型の開発契約書のリーガルチェックで確認すべき4つのポイント!
記事作成弁護士:西川 暢春
記事更新日: 2024年5月24日
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