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無期転換ルールのメリットとデメリットとは?労使双方の視点から解説

無期転換ルールのメリットとデメリットとは?労使双方の視点から解説
  • 西川 暢春(にしかわ のぶはる)
  • この記事を書いた弁護士

    西川 暢春(にしかわ のぶはる)

    咲くやこの花法律事務所 代表弁護士
  • 出身地:奈良県。出身大学:東京大学法学部。主な取扱い分野は、「問題社員対応、労務・労働事件(企業側)、クレーム対応、債権回収、契約書関連、その他企業法務全般」です。事務所全体で400社以上の企業との顧問契約があり、企業向け顧問弁護士サービスを提供。

こんにちは。弁護士法人咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。
無期転換ルールは事業者や労働者から見てどのようなメリットとデメリットがあるのか、ご存知でしょうか。

無期転換ルールは平成25年の労働契約法改正で導入されました。これにより、契約社員や嘱託社員、有期パート社員など、有期契約の従業員を雇用している事業者はその対応が必要となりました。無期転換ルールへの対応方針を決める際は、無期転換ルールについて、労使それぞれから見たメリットとデメリットを正しく理解しておくことが重要です。

無期転換ルールは基本的には労働者のメリットが大きい制度となっており、事業者側は、自社の実情にあわせて対応方針を決めて、就業規則や雇用契約書・労働条件通知書等を整備していく必要があります。対応が不十分な場合、能力不足や勤務態度不良の社員であっても無期転換を強制されてしまう危険があります。また、無期転換した後の労働条件があいまいになり、定年の有無や転勤の有無、賞与の有無などをめぐって従業員とトラブルになる危険があります。

そして、無期転換ルールへの対応方針を決める際は、無期転換ルールについて、労使それぞれから見たメリットとデメリットを正しく理解しておくことが重要です。

この記事では、無期転換ルールのメリットやデメリットについて事業者側と労働者側の両方の視点から解説します。この記事を最後まで読むことで、労使双方の視点から見たメリットとデメリットをよく理解し、自社にあった対応方針を決めるための一歩を踏み出すことができるはずです。それでは見ていきましょう。

 

「弁護士西川暢春のワンポイント解説」

「無期転換ルール」とは、雇用契約が更新されて契約期間が通算5年を超えた有期雇用の労働者から申込みがあれば、事業者は、その労働者との雇用契約を期間限定なしの雇用契約に転換することを強制されるというルールです。事業者側が転換を拒否することができません。一方で、通算の契約期間が5年を超える前に有期雇用労働者の雇用を終了することが禁じられているわけでもありません(ただし、雇い止め法理による制限があります)。

このように事業者側にもさまざまな対応の選択肢があり、あらかじめ自社の対応方針を明確に決めて、その方針に沿った体制を構築しておくことが重要です。就業規則や、雇用契約書・労働条件通知書等を整備する必要があります。咲くやこの花法律事務所でもご相談を承っていますのでご利用ください。

 

▼【関連動画】西川弁護士が「無期転換ルールとは?メリット・デメリットを弁護士が解説」を詳しく解説中!

 

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1,無期転換ルールのメリット・デメリットとは?

無期転換ルールのメリット・デメリットとは?

無期転換ルールは、平成25年の労働契約法改正によって導入されました。この制度は、有期雇用の労働者の雇用を安定させる目的で導入されたものであり、基本的には、労働者のメリットが大きい制度です。事業者側にとっても様々なメリットがありますが、デメリットの方にも注意しておく必要があります。

 

(1)そもそも無期転換ルールとは?

そもそも無期転換ルールとは、有期雇用の労働者が、同じ事業者のもとで雇用契約を更新され、契約期間が通算5年を超えた場合、労働者に、期間の定めのない労働契約、つまり無期雇用契約に転換できる権利が発生する、というルールのことです。このルールは労働契約法18条において定められています。無期転換には労働者からの申込が必要ですが、申込みをされた事業者は、労働者が無期転換の条件を満たしている場合は、無期転換を拒否をすることができません。

 

▶参考情報:無期転換ルールの制度内容など、全般的な説明については、以下の記事で詳細に解説していますのでご参照ください。

無期転換ルールとは?わかりやすい解説まとめ

 

(2)事業者側から見たメリットとデメリット

では、事業者にとって無期転換ルールにはどんなメリットとデメリットがあるのでしょうか。

事業者側から見たメリットとデメリットは以下の通りです。

 

事業者側から見た無期転換ルールのメリット

  • 1.契約更新の必要がなくなり事務負担が軽減される
  • 2.意欲と能力のある労働力を確保しやすい
  • 3.雇い止めに伴う後任探しや引継ぎの必要から解放される

 

事業者側から見た無期転換ルールのデメリット

  • 1.能力不足や勤務態度不良の社員であっても無期転換を強制される
  • 2.余剰人員が生じた場合の調整が難しくなる
  • 3.就業規則や雇用契約書・労働条件通知書の整備が必要になる
  • 4.無期転換に関する事項の明示の対応が必要になる
  • 5.定年後再雇用について特例適用のための申請が必要になることがある

 

特に、事業者としては、勤務態度や勤務成績に問題がある労働者から無期転換を申し込まれた場合も、無期転換の条件を満たしている限りは、拒むことができません。その結果、そのような労働者について雇用を終了することがより困難になることが懸念されます。

これらの点については、以下の「2,事業者側から見たメリット・デメリットとは?」で詳しく解説いたします。

 

(3)労働者側から見たメリットとデメリット

一方、労働者側から見た無期転換ルールのメリットとデメリットは以下の通りです。

 

労働者側から見た無期転換ルールのメリット

  • 1.無期転換後は雇い止めの不安がなくなる
  • 2.無期転換に事業者側の許可は不要
  • 3.事業者によっては正社員と同様の待遇や福利厚生を受けられる可能性がある
  • 4.より責任がある業務を任せられればキャリアアップに繋がる

 

労働者側から見た無期転換ルールのデメリット

  • 1.無期転換を避けようとして雇止めをされるケースがある
  • 2.無期転換をきっかけに労働条件が下がることもある

 

有期雇用の労働者にとって一番のメリットは「無期転換後は雇い止めの不安がなくなる」点と言えます。労働者のメリットとデメリットについては、「3,契約社員や有期パート社員などの労働者側のメリット・デメリットとは?」で詳しく解説致します。

 

2,事業者側から見たメリット・デメリットとは?

まず、事業者側から見たメリットとデメリットについてご説明します。

 

(1)事業者側から見た無期転換ルールのメリット

メリットについては一応、以下の3つを指摘することができます。ただし、これらの点は、無期転換ルールがなくても、事業者において有期雇用社員に無期の雇用契約を提案していくことで得ることができるメリットであり、厳密には「無期転換ルールのメリット」ではなく、「無期転換のメリット」です。

 

1,契約更新の必要がなくなり事務負担が軽減される

有期雇用の場合、契約の更新のたびに、雇用契約書や労働条件通知書で労働条件を明示することが義務付けられています(労働基準法15条1項)。これを正しく行うためには、有期雇用の従業員について、従業員ごとに契約の満了期限を管理し、書面を作成する必要があります。また、正しい労務管理のためには、更新にあたり、面談等を行うことも必要になります。無期転換後は、そのような事務負担が不要になります。

 

2,意欲と能力のある労働力を確保しやすい

優秀な有期雇用社員に無期転換してもらうことで長期的に自社で勤務してもらうことを期待しやすくなります。社外に求人を出して優秀な社員を雇用しようとすると、求人や面接など採用活動を行い、実際に雇用するに至るまでに様々なステップを踏まなければなりません。

しかし、いま社内にいる優秀な有期雇用社員が無期転換をすれば、そういった手間も不要です。また、試用期間も設ける必要がなく、即戦力となることも多いでしょう。長期的に勤務できることになれば、その従業員のモチベーションを上げることができ、より能力を発揮してもらえることも期待できます。さらに、無期雇用社員となった場合は、長いスパンで教育の計画を立てることができるため、より専門的な業務も任せることができるようになり、心強い自社の戦力となることが期待できます。

 

3,雇い止めに伴う後任探しや引継ぎの必要から解放される

有期雇用社員について、契約期間が満了したタイミングで、契約を更新せずに雇用を終了することを、「雇い止め」といいます。

有期雇用社員を雇い止めする場合、その社員の業務について後任を探したり引継ぎを行ったりする必要があります。雇い止めせずに無期転換を認めて就業を続けてもらえば、後任の社員を探したり、その社員が行っていた業務の引継ぎをする必要がありません。

 

(2)事業者側から見た無期転換ルールのデメリット

次に、事業者側から見た無期転換ルールのデメリットをご紹介します。

 

1,能力不足や勤務態度不良の社員であっても無期転換を強制される

有期雇用労働者に無期転換の申込権が発生し、それを行使された場合、事業者は拒否することができません。普段から勤務態度が悪かったり、能力が低く戦力にならない社員であっても、無期転換申込をされると無期の雇用契約に転換されます。

その結果、有期雇用契約であれば、契約期間満了時の雇い止めにより雇用を終了できたようなケースであっても、無期転換後は退職勧奨や解雇によって雇用を終了するほかなくなり、能力不足や勤務態度不良の社員の雇用を終了するためのハードルが高くなってしまいます。

こういったことを防ぐために、有期雇用社員について通算の雇用契約の期間が5年を超える前に雇い止めすることで無期転換申込権の発生を回避する方針をとる事業者も存在します。そのような方針をとる場合は、それに沿った就業規則や労働条件通知書・雇用契約書等の整備が必要になります。

 

▶参考情報:無期転換ルールに関する就業規則や雇用契約書での対応については、以下の記事で詳しく解説していますので、ご参照ください。

無期転換ルールとは?わかりやすい解説まとめ

 

2,余剰人員が生じた場合の調整が難しくなる

景気の後退や受注の減少、業務のIT化など様々な事情によって、従業員数に余剰が生じることがあります。日本企業はこのような問題についての対処法の1つとして、有期雇用の社員を雇用したうえで、余剰人員が生じた場合は、有期雇用の社員を雇い止めすることによって、人件費を削減してきました。つまり、有期雇用の社員を、余剰人員が生じたときの「雇用の調整弁」として利用してきました。

有期雇用の社員が無期転換した場合、事業者としては、余剰人員が生じても、容易に無期転換社員の雇用を終了させることができません。このように有期雇用の社員が無期転換していくことによって、雇用の調整弁の機能が失われ、余剰人員が生じた場合の調整が難しくなるというデメリットがあります。

 

3,就業規則や雇用契約書・労働条件通知書の整備が必要になる

これはデメリットといえるかどうかわかりませんが、無期転換ルールが導入された結果として、事業者は就業規則の変更や作成が必要になっています。

まず、事業者は、有期契約の社員について、「①希望者全員を無期転換させる方針をとるか」、「②無期転換申込権が発生する前に全員雇い止めする方針をとるか」、「③正社員登用制度等により有期雇用社員を選別する方針をとるかといった」、基本的な方針を決めることとなります。

そして、無期転換させる方針を採用する場合は、無期転換社員に適用される就業規則を明確にしたり、無期転換社員用の就業規則で定年に関する規定を整備するといった対応が必要になります。一方、無期転換申込権が発生する前に全員雇い止めする方針をとる場合は、その方針に沿って雇用契約書や労働条件通知書の整備が必要になります。

このように、就業規則の変更や作成、あるいは雇用契約書や労働条件通知書の整備に労力と時間をかけることがどうしても必要になってきます。

 

4,無期転換に関する事項の明示の対応が必要になる

さらに、無期転換ルールのデメリット面として、有期雇用社員との雇用契約を更新する際の、労働条件通知書や雇用契約書の複雑化があげられます。

特に、 令和6年4月施行の労働基準法施行規則改正により、事業者は、無期転換権が発生することになる有期労働契約を締結する際に、「無期転換申込機会の明示」と「無期転換後の労働条件の明示」が義務づけられています(労働基準法施行規則5条5項)。

例えば、雇用期間が1年の場合、契約を5回更新すると、雇用期間が通算5年を超えて無期転換申込権が発生します。そのため、5回目の更新時に明示が必要になります。そして、その後も、労働者から無期転換申込権の行使がないまま、有期労働契約を更新する場合は、更新のたびに、明示が必要になります。このように、事業者として手間がかかり、対応が複雑化していくことも無期転換ルールのデメリットの1つといえるかもしれません。

 

▶参考情報:「無期転換申込機会の明示」と「無期転換後の労働条件の明示」の義務についての詳細は、以下の記事や厚生労働省の資料をご参照ください。

無期転換申込権の通知義務(明示義務)について

厚生労働省「2024年4月からの労働条件明示のルール変更備えは大丈夫ですか?」(pdf)

 

5,定年後再雇用について特例適用のための申請が必要になることがある

定年を60歳としたうえで、その後は嘱託社員等の名称で有期雇用を更新する形の継続雇用制度を設ける事業者が多いですが、その場合も、締結した有期雇用契約の通算期間が5年を超えると無期転換申込権が発生します。この点については、定年後に無期転換申込権が発生するのは困るという事業者も多いでしょう。こういったケースへの対応のために、定年後再雇用者について無期転換ルールの適用から除外する特例制度が設けられていますが、これを利用するためには労働局への申請が必要です。この点も、事業者から見れば手間がかかり、無期転換ルールのデメリットの1つといえるかもしれません。

 

▶参考情報:定年後再雇用者についての無期転換ルールの特例については以下で解説していますのでご参照ください。

無期転換ルールの特例とは?高齢者に関する例外や10年ルールを解説

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

無期転換ルールのデメリットのうち、「能力不足や勤務態度不良の社員であっても無期転換を強制される」や「余剰人員が生じた場合の調整が難しくなる」という点を考えるにあたっては、無期転換ルールがなくても、有期雇用社員の雇い止めは雇止め法理(労働契約法19条)によって制限されていることに注意する必要があります。その意味では、これらの点のデメリットはさほど大きなものではないと考えることもできます。

 

▶参考情報:雇止め法理については以下で解説していますのでご参照ください。

契約社員の雇止め法理とは?弁護士がわかりやすく解説

 

3,契約社員や有期パート社員などの労働者側から見たメリット・デメリットとは?

次に、契約社員や有期雇用のパート社員などの、労働者側から見た無期転換ルールのメリットとデメリットをご紹介します。

 

(1)労働者側から見た無期転換ルールのメリット

労働者側から見た無期転換ルールのメリットとして、以下の点をあげることができます。

 

1,無期転換後は雇止めの不安がなくなる

労働者にとって無期転換ルールの一番のメリットは、雇用契約の期間満了の際の雇止めの不安がなくなるという点にあります。無期転換をすると、今後雇止めされる心配はなくなりますので、経済面はもちろん精神的にも安定し、安心して生活することができます。無期転換ルールは、有期雇用社員が雇い止めを恐れて、有給休暇の取得、その他の事業者に対する正当な権利行使を控えがちであるなどの問題を解決するために導入された制度です。

 

2,無期転換に事業者側の許可は不要

無期転換ルールがなければ、有期雇用の従業員が無期雇用になるためには、事業者との合意が必要です。言い方を変えれば、事業者の許可が必要です。しかし、無期転換ルールがあれば、労働者が条件を満たしている場合、申込みをすれば事業者側の許可の有無に関係なく、無期の雇用契約に転換されます。事業者が、無期転換申込権が発生している労働者の無期転換を認めないことは法律上できません。

 

3,事業者によっては正社員と同様の待遇や福利厚生を受けられる可能性がある

無期転換後の労働条件の設定は事業者によって様々ですが、無期転換後は、正社員と同様の就業規則や賃金規程を適用するとしている事業者もあります。このような場合は、正社員と同様の待遇や福利厚生を受けることができます。また、正社員用の賃金規程に賞与や退職金の規定がある場合は、その支給を受けることができます。

 

4,より責任がある業務を任せられればキャリアアップに繋がる

無期の雇用契約に転換することで、長く就業することが予定されるため、より責任がある業務を任せてもらえることが期待できます。

数年後に辞めてしまうことが予定されているような有期雇用の場合は、長期間の訓練や研修を要する責任のある業務や専門的な業務などは任せてもらえないことが多く、比較的簡単な業務ばかりを指示されがちです。しかし、自分の意思で無期雇用契約への転換を申し込んだ場合は、長く勤務することが想定されるため、責任のある業務や専門的な業務を任せてもらいやすくなる可能性があるといえるでしょう。そして、こういったよりレベルの高い業務をこなしていくことで、労働者自身のキャリアアップにも繋がることとなります。

 

(2)労働者側から見た無期転換ルールのデメリット

一方、労働者側から見た無期転換ルールのデメリットとして、以下の点をあげることができます。

 

1,無期転換を避けようとして雇止めをされるケースがある

事業者によっては、無期転換申込権が労働者に発生する前に、雇い止めをして雇用を終了するという方針をとっていることがあります。その結果、長期で働きたいという希望がかなわないという意味で労働者から見た場合のデメリットとなることがあります。

 

▶参考情報:無期転換ルールと雇止めの関係については以下の記事でも解説しましたのでご参照ください。

無期転換ルール逃れの雇止めは違法?事例付きでわかりやすく解説

 

2,無期転換をきっかけに労働条件が下がることもある

無期転換後の労働条件については、原則として無期転換前の労働条件と同じとされていますが、「別段の定め」がある場合は、その定めによるとされています(労働契約法18条1項)。従って、事業者は就業規則等で「別段の定め」を設けることにより、無期転換した従業員について、始業時刻や終業時刻を変更すること、転勤に応じることを義務付けること、不合理にならない範囲で賃金を減額することなどが可能です。その結果、無期転換しないほうがよかったということは十分あり得ることですので、無期転換権を行使する場合は無期転換後の労働条件を十分に確認することが必要になります。

 

「弁護士西川暢春からのワンポイント解説」

これは必ずしもデメリットではありませんが、無期転換したからといって、正社員と同じ待遇になるとは限らないことにも注意する必要があります。無期転換後の労働条件については、「別段の定め」がない限り、無期転換前の労働条件と同じとされているためです。例えば、正社員には賞与が支給されるが契約社員には賞与が支給されていない会社において、契約社員が無期転換したからといって、当然に正社員と同様に賞与が支給されることにはなりません。雇い止めの対象とされなくなるという点を除けば、無期転換前と同じ労働条件となることが原則です。

 

4,有期雇用の派遣社員から見た無期転換ルールのメリットとは?

有期雇用の派遣社員(有期雇用派遣労働者)にも、無期転換ルールは適用されます。

この場合の派遣社員から見たメリットも、基本的には「3,契約社員や有期パート社員などの労働者側から見たメリット・デメリットとは?」でご紹介したとおりです。無期転換後は雇い止めの不安がなくなることが最大のメリットといえるでしょう。特に有期雇用の派遣社員は、派遣先からの派遣契約の解約があった場合や、派遣労働者自身の妊娠等のタイミングで派遣先が見つからないといった事情があれば、雇い止めされやすいのが実情です。無期転換すればこのような雇止めの不安がなくなり、妊娠・出産を超えて雇用が継続される結果、出産手当金や育児休業給付金を受給できるというメリットもあります。

また、「派遣先から派遣契約を解約された場合、次の派遣先が決まるまでの待機期間も給与が発生する」というメリットもあります。この点は有期雇用の派遣の場合も同じですが、有期雇用の派遣の場合は、雇用期間満了までに次の派遣先が見つからなければ雇い止めされてしまうことがほとんどです。これに対し、無期転換権を行使した場合は雇い止めの対象にもならないため、次の派遣先が見つからない間も給与を受け取ることができ、収入が途切れません。

一方、労働者側から見た無期転換ルールのデメリットとして説明した「無期転換を避けようとして雇止めをされるケースがある」「無期転換をきっかけに労働条件が下がることもある」といった点は、現状の人手不足の状況を考えると派遣社員にはあまり当てはまらないことが多いでしょう。

このように、派遣社員にとっては、無期転換ルールはメリットのほうが大きいと考えられます。

 

5,無期転換と失業保険について

無期転換ルールの制定に伴い、失業保険(正確には「雇用保険」と言います)の離職理由の取り扱いが変更となりました。事業者は、離職証明書を記載する上で注意が必要となります。

そもそも無期転換ルールは有期雇用労働者の雇用の安定を目的として設けられたルールですが、一方で無期転換を防ぐために事業者側が契約期間が通算5年を超える前に雇い止めしようとすることも考えられます。この点に配慮して、離職理由の取り扱いが変更されました。

具体的には、以下のいずれかに当てはまる場合においては、雇用保険上の「特定受給資格者」または「特定理由離職者」として扱われ、有利に失業保険を受け取ることができるケースがあります。

 

  • ① 採用当初はなかった契約更新上限がその後追加された、または不更新条項が追加された場合
  • ② 採用当初の契約更新上限が、その後引き下げられた場合
  • ③ 平成24年8月10日以降に締結された雇用契約において4年6か月以上5年以下の契約更新上限が設けられ、それが到来したことにより離職した場合

 

特定受給資格者または特定理由離職者に該当する場合は、雇用保険の給付をより早く、そして長く受け取ることが可能です。このように、離職理由は労働者にとって非常に重要な事項となりますので、事業者は離職証明書を適切に記載することが必要です。

 

▶参考情報:無期転換ルールの制定に伴う失業保険(「雇用保険」)の離職理由の取り扱い変更について詳しくは、以下の厚生労働省のリーフレットをご参照ください。

厚生労働省「有期雇用労働者の離職理由の取扱いが変わります」(pdf)

 

6,無期転換ルールの対応に関して弁護士に相談したい方はこちら

咲くやこの花法律事務の弁護士によるサポート内容

咲くやこの花法律事務所では、無期転換ルールについて事業者側の立場から多くのご相談を受け、専門的なサポートを行ってきました。最後に、無期転換ルールに関する咲くやこの花法律事務所のサポート内容をご紹介します。

 

(1)無期転換をめぐるトラブルや無期転換ルールへの対応に関するご相談

咲くやこの花法律事務所では、無期転換をめぐるトラブルや、無期転換ルールへの対応に関するご相談を事業者側の立場からお受けし、専門的なサポートを提供してきました。

今年から有期契約で社員を雇用することとなった、もうすぐ無期転換申込権が発生する社員がいるがどう対応すれば良いか、無期転換をめぐってトラブルになったなど、無期転換ルールに関してご不安な点やお困りごとがありましたら、ぜひ経験豊富な咲くやこの花法律事務所の弁護士にご相談ください。

 

●咲くやこの花法律事務所の人事労務分野に強い弁護士の相談料

初回相談料 30分5000円+税(顧問契約の場合は無料)

 

(2)無期転換ルールについての就業規則や労働条件通知書・雇用契約書の整備のご依頼

咲くやこの花法律事務所では、無期転換ルールに対応するにあたって必要となる、就業規則の変更または作成についてもご依頼を承っております。

就業規則の整備においては、様々なトラブルを想定したうえで、それを防ぐような文言になっている必要があります。また、作成するだけではなく、過半数代表者からの意見を聴取したり、社内で周知したり、労働基準監督署長に届出をしたりといった手続を間違いなく行うことが必要です。

咲くやこの花法律事務所の弁護士にご依頼いただければ、いざというときに自社を守ってくれる就業規則を作成し、過半数代表者からの意見聴取のほか、周知の方法や届出などの手続きもサポートさせていただきます。あわせて、無期転換ルールに関連して必要となる雇用契約書の整備、労働条件通知書の整備のご依頼にも対応します。

ぜひお気軽にお問い合わせください。

 

●咲くやこの花法律事務所の人事労務分野に強い弁護士の相談料

初回相談料 30分5000円+税(顧問契約の場合は無料)

 

7,まとめ

この記事では、無期転換ルールのメリットとデメリットについて、事業者と労働者の双方の観点からご説明しました。まず、事業者側から見たメリットとデメリットは以下の通りです。

 

●事業者側から見た無期転換ルールのメリット

  • 1.契約更新の必要がなくなり事務負担が軽減される
  • 2.意欲と能力のある労働力を確保しやすい
  • 3.雇い止めに伴う後任探しや引継ぎの必要から解放される

 

●事業者側から見た無期転換ルールのデメリット

  • 1.能力不足や勤務態度不良の社員であっても無期転換を強制される
  • 2.余剰人員が生じた場合の調整が難しくなる
  • 3.就業規則や雇用契約書・労働条件通知書の整備が必要になる
  • 4.無期転換に関する事項の明示の対応が必要になる
  • 5.定年後再雇用について特例適用のための申請が必要になることがある

 

一方、労働者側のメリットとデメリットは以下の通りです。

 

●労働者側から見た無期転換ルールのメリット

  • 1.無期転換後は雇い止めの不安がなくなる
  • 2.無期転換に事業者側の許可は不要
  • 3.事業者によっては正社員と同様の待遇や福利厚生を受けられる可能性がある
  • 4.より責任がある業務を任せられればキャリアアップに繋がる

 

●労働者側から見た無期転換ルールのデメリット

  • 1.無期転換を避けようとして雇止めをされるケースがある
  • 2.無期転換をきっかけに労働条件が下がることもある

 

有期雇用の従業員を雇用している事業者は、これらのメリット・デメリットを理解したうえで、自社の実情に合った対応方針を決め、その方針に沿った体制を整えることが重要です。無期転換ルールに関するトラブルは年々増える傾向にあり、咲くやこの花法律事務所においても日頃の整備やトラブル対応のノウハウを磨いてきました。お困りの方は咲くやこの花法律事務所に早めにご相談ください。

 

8,【関連情報】無期転換ルールに関する他のお役立ち記事一覧

この記事では、「無期転換ルールのメリットとデメリットとは?労使双方の視点から解説」についてご紹介しました。無期転換ルールに関しては、その他にも知っておくべき情報が幅広くあり、正しい知識を理解しておかなければ重大なトラブルに発展してしまいます。

そのため、以下ではこの記事に関連する無期転換ルールのお役立ち記事を一覧でご紹介しますので、こちらもご参照ください。

 

無期転換ルールで定年はどうなる?必要な対策や注意点を解説

 

記事作成弁護士:西川 暢春
記事更新日:2024年1月10日

 

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    発売日:2023年11月19日
    出版社:株式会社日本法令
    ページ数:1280ページ
    価格:9,680円


    「問題社員トラブル円満解決の実践的手法」〜訴訟発展リスクを9割減らせる退職勧奨の進め方

    著者:弁護士 西川 暢春
    発売日:2021年10月19日
    出版社:株式会社日本法令
    ページ数:416ページ
    価格:3,080円


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