こんにちは。咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。
会社を経営していると、一度採用した従業員について、「残念だが一緒にやっていけない」、「退職をすすめなければならない」という場面もでてきます。
退職勧奨とは、会社側から退職に向けて従業員を説得し、従業員との合意により雇用契約を終了することを目指すことを言います。一方的な会社からの意思表示により雇用契約を終了させる「解雇」とは異なり、退職勧奨は従業員との合意による退職を目指す方法です。その意味で、退職勧奨は、会社と従業員の間に雇用のミスマッチがあったときの円満解決の手段の1つであるといえます。
ただし、「退職勧奨」、「退職勧告」は、従業員から見れば、「解雇」との区別があいまいで、「解雇」あるいは「退職強要」とうつることも多く、裁判で、会社側に慰謝料等の支払いを命じられることが少なくありません。
たとえば、以下のような事例があります。
●事例1:昭和電線電纜事件(平成16年 5月28日横浜地方裁判所川崎支部判決)
退職勧奨時の会社側の言動が一因となって、いったん退職に応じた従業員の退職が無効と判断され、会社に従業員の復職と「約1400万円」の支払いを命じました。
●事例2:大和証券事件(平成27年4月24日大阪地方裁判所判決)
会社が従業員を退職に追い込む目的で配置転換や仕事の取り上げを行ったとして、会社に「150万円」の慰謝料の支払いを命じました。
●事例3:全日空事件(平成13年3月14日大阪高等裁判所判決)
退職勧奨時の会社側の言動や、長時間多数回の退職勧奨に問題があったとして、会社に「90万円」の慰謝料の支払いを命じました。
特に、「事例1」のように、退職勧奨時の言動が原因となって、退職が無効と判断された場合、「1000万円」を超えるような多額の支払いを命じられるリスクがあります。
今回は、これらの裁判例の傾向も踏まえて、「退職強要トラブル・解雇トラブルを避けるために経営者がおさえておくべき、退職勧奨・退職勧告の方法や進め方の注意点」についてご説明したいと思います。また、「退職勧奨、退職勧告の面談における具体的な言い方、伝え方」についてもご説明します。
退職勧奨に入る前に、トラブルのない進め方を把握して、円満な退職合意を目指しましょう。
それでは、以下で詳しく見ていきましょう。
▶参考:退職勧奨に関する咲くやこの花法律事務所の解決実績は、こちらをご覧ください。
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今回の記事で書かれている要点(目次)
- 1,退職勧奨とは?
- 2,退職勧奨(退職勧告)を実施するための条件
- 3,企業にとってのメリットとデメリット
- 4,退職勧奨の理由の例
- 5,パワハラ型退職勧奨は違法!注意すべき3つのポイント
- 6,具体的な進め方
- 7,面談での話し方、言い方の具体例
- 8,退職勧奨における解決金や退職金上乗せ額の相場
- 9,対象従業員が納得するために必要な事前対応とは?
- 10,失業保険は会社都合退職として扱う
- 11,退職勧奨の必要書類
- 12,退職勧奨を拒否されたら?
- 13,退職勧奨に関するおすすめの本をご紹介
- 14,退職勧奨の前に必ず弁護士にご相談を!
- 15,退職勧奨に関する咲くやこの花法律事務所の解決実績
- 16,咲くやこの花法律事務所のサポート内容と弁護士費用
- 17,まとめ
1,退職勧奨とは?
退職勧奨とは、会社から従業員に退職を促し、従業員に退職について同意してもらい、退職届を提出して退職してもらうことを目指す会社からの説得活動をいいます。退職勧奨は、法的には、いったん企業と労働者の合意により成立した雇用契約を、企業と労働者の合意により終了させる合意解約であると理解することができます。
(1)読み方
「退職勧奨」は「たいしょくかんしょう」と読みます。
(2)退職勧奨(退職勧告)と解雇の違い
退職勧奨が従業員との合意により雇用契約を終了させることを目指すものであるのに対し、解雇は、従業員の同意なく、企業からの一方的な通知により雇用契約を終了させることを意味します。
解雇について詳しくは以下の記事を参考にご覧ください。
つまり、雇用終了が従業員との合意によるものかどうかが、退職勧奨と解雇の大きな違いです。
▶【関連動画】この記事の著者 弁護士 西川 暢春が『「問題社員の退職勧奨」違法にならないための注意点と進め方』を詳しく解説中!
2,退職勧奨(退職勧告)を実施するための条件
退職勧奨については、男女雇用機会均等法第6条4号において、性別を理由に退職勧奨において差別的な取扱いをすることが禁止されています。
例えば、人員削減の場面で女性社員のみを退職勧奨の対象とすることはこの規定により許されません。
一方、法律上、退職勧奨について前提条件を設ける規定はありません。
そのため、成績が悪い従業員、協調性がない従業員、業務の指示に従わない従業員など問題がある従業員に対し、会社が退職勧奨・退職勧告を行うこと自体、違法ではなく、特段の前提条件は必要ありません。
この記事の冒頭で、退職勧奨・退職勧告について慰謝料等の支払が企業に命じられた事例を紹介しましたが、裁判所も、退職勧奨・退職勧告を行うこと自体が違法であるとしているわけではありません。
(1)退職勧奨の適法性についての判例
たとえば、裁判所は、住友林業が約半年間受注実績のない営業担当者に退職勧奨・退職勧告を行ったことが問題となった事件で、次のように述べています。
1,住友林業事件(平成11年7月19日大阪地方裁判所決定)の裁判所の判断内容
判断内容1:
長期間にわたり全く業績のない従業員に対して、業績を上げるよう叱咤したり、退職を勧奨したりすることは企業として当然のことであり、それ自体は何の問題もない。
判断内容2:
営業成績からして、面談等を重ねたことや、その結果最終的には退職勧奨にまで至ったことは、企業としてはやむを得ない措置というべきである。
裁判所は、上記の通り述べて、住友林業の退職勧奨に特段の問題はなかったと判断しています。
このように、退職勧奨・退職勧告を行わなればならない場面があること自体、裁判所も認めており、正しい方法で退職勧奨・退職勧告を行うことに何ら問題はありません。
(2)退職勧奨をやってはいけない場面
このように通常は適切な方法で退職勧奨を行うこと自体は問題ありませんが、退職勧奨の対象者にメンタルヘルス不調の問題がある場合は、退職勧奨自体を控えるべきケースがあります。
まず、特に業務に問題が生じていないのにメンタルヘルス不調で通院治療しているという事実だけを理由に退職勧奨することは違法と評価される危険があります(京都地方裁判所判決令和5年3月9日・中倉陸運事件)。また、メンタルヘルス不調で就業不能となっている場面で、私傷病休職制度があり、退職せずに休職する余地があるのにそれを告げずに退職勧奨することも適切ではありません(宇都宮地方裁判所判決令和5年3月29日・栃木県事件)。
この点については以下の動画で詳細を解説していますのでご参照ください。
▶西川弁護士が「これNG!退職勧奨でやってはいけないことを弁護士が解説」を詳しく解説中!
3,企業にとってのメリットとデメリット
能力や勤務態度に大きな問題があり辞めさせたい社員がいる場合、あるいは人員削減が必要になり一定数の従業員にやめてもらわなければならない場合、通常は、解雇ではなく退職勧奨によって雇用を終了させることが適切です。
以下で退職勧奨によることのメリットとデメリットをご説明します。
(1)退職勧奨は法的なリスクが小さい
退職勧奨によるべき理由は、解雇よりも企業側の法的なリスクが小さいからです。
解雇は従業員の同意を得ずに一方的に行うものであるため、非常にトラブルになりやすく、法的なリスクが大きいです。解雇する際は、単に30日前の解雇予告の手続や30日分の解雇予告手当の支払いをすればそれでよいというものではなく、正当な解雇理由が必要です。
それぞれ以下の記事で詳しく解説していますので、参考にご覧ください。
▶参考情報:解雇予告とは?わかりやすく解説!
この「正当な解雇理由」があるかどうかをめぐって、従業員から「不当解雇」であるとして訴えられ、企業側が裁判で敗訴して、多額の支払いを命じられるケースが相次いでいます。
そして、どのような場面であれば不当解雇となるかについては明確な基準がなく、裁判官によっても判断がわかれることもあります。
そのため、企業の立場から、不当解雇になるかどうかの予測が困難なことが実情です。
このように、解雇により従業員をやめさせることについては、リスクが非常に大きいだけでなく、リスクの程度の予測も難しい状況にあります。
不当解雇について詳しくは、以下の解説記事を参考にご覧ください。
この点、退職勧奨については、弁護士に相談しながら、正しい手順を踏んで行えば、解雇のような法的リスクを抱えることはありません。
また、退職勧奨の結果、退職について合意に至った場合、それにより雇用は終了し、後日、退職勧奨について「正当な理由」があったかどうかを問われることもありません。
(2)退職勧奨は手間がかかる
退職勧奨のデメリットとなりうる点は、手間がかかることでしょう。
一方的に通知すればよい解雇とは違い、従業員を退職に向けて説得し、同意を得ることが必要です。
一度話しただけでは、退職について了解を得ることができないことも多く、その場合は、合意に至るまで辛抱強く話し合いをする必要があります。
面倒な話し合いはせずに、解雇で済ませたいというご相談をいただくことも多いです。
しかし、解雇した後にトラブルになると、解決まで2年を超える期間と1000万円を超える金銭の支払いが必要になることも少なくありません。
解雇に伴う法的なリスクを考えると、退職勧奨の手間を惜しんで安易に解雇を選択することは決しておすすめできることではありません。
4,退職勧奨の理由の例
企業が退職勧奨を行う理由はさまざまです。主な例として、以下のようなケースがあげられます。
(1)従業員の能力不足
ミスの頻発や顧客からの苦情、営業職社員の営業成績の不良等を理由とする退職勧奨が代表例です。また、管理職のマネジメント能力の不足を理由とする退職勧奨もこれに含まれます。
従業員の能力不足については、以下の記事も参考にご覧ください。
(2)勤務態度不良
業務上の指示に従わない従業員に対する退職勧奨や、仕事中の居眠り、遅刻、欠勤等を繰り返す従業員に退職勧奨を行うケースです。
従業員の勤務態度不良については、以下の記事も参考にご覧ください。
(3)周囲の同僚や上司とのトラブルの頻発
協調性が欠け、周囲とのトラブルが多い従業員に対する退職勧奨のケースです。部下に対するパワハラや、セクハラをする従業員に対する退職勧奨もこれに含まれます。
協調性欠如における問題社員の対応については、以下の記事も参考にご覧ください。
(4)信頼関係の喪失
機密情報の持ち出しや就業規則違反、上司や経営陣に対する誹謗中傷などがあり、もはや雇用を継続するための信頼関係を築くことができないことを理由とする退職勧奨です。
(5)経営上の事情による退職勧奨
会社の経営難や、不採算部門の廃止、事業内容の転換などの事情で、人員整理を行う場合の退職勧奨がこれにあたります。
経営上の事情による退職勧奨については、以下の記事も参考にご覧ください。
退職勧奨の理由をどのように伝えようかというご相談をいただくこともあります。
退職勧奨では、対象となる従業員に退職してほしい本音の理由を伝えるべきです。本当は会社の不採算部門の廃止で退職してほしいのに、退職勧奨の理由として「能力不足」と説明するなど、たてまえ上の理由を伝えると、対象従業員は必ず違和感を抱きます。それがきっかけで不信感が生まれ、退職の合意に至らない原因になります。
退職勧奨は嘘なく、誠実に本音で行うことが必要です。
(6)【補足】試用期間中の従業員の能力不足を理由とする退職勧奨について
特に、試用期間中の従業員について、会社の指導にもかかわらず、会社が求める能力に達せず、雇用の継続が難しいという場合、安易に解雇したり、本採用を拒否したりしがちです。
しかし、このような場面でも、解雇や本採用拒否といった方法ではなく、退職勧奨をして合意による退職を目指す必要があることに注意してください。
判例上、試用期間満了後の本採用拒否は、通常の解雇よりも広い範囲で認められるという最高裁判所の判例(最高裁判所判決昭和48年12月12日 三菱樹脂事件)がありますが、実際には、試用期間中の解雇や、試用期間満了後の本採用拒否が無効であると判断とされ、会社が敗訴しているケースが多いためです。
試用期間中だからといって安易に解雇してしまうと、従業員から訴訟を起こされ、敗訴すれば多額の支払いをしなければならなくなるリスクをかかえることになるため、解雇ではなく、退職勧奨により、本人との合意のもと退職してもらうことを目指すべきです。
試用期間中の従業員の解雇についての企業側のリスクについては、以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。
5,パワハラ型退職勧奨は違法!注意すべき3つのポイント
では、この記事の冒頭で述べたような会社が敗訴した事例ではどのような点が問題だったのでしょうか。
退職勧奨は適切な方法で行わなければならず、退職勧奨の過程で、従業員に不当な心理的圧力を加えたり、従業員の名誉感情を不当に害するような発言をすることは、不法行為となります(東京地方裁判所判決平成23年12月28日 日本アイ・ビー・エム事件)。
このような退職勧奨は、違法に退職を強要するものであり、パワハラにも該当します。
そして、違法なパワハラ型退職勧奨を行った場合、裁判所で会社が慰謝料の支払いを命じられたり、退職勧奨により取り付けた退職の合意が無効と判断されて従業員を復職させることを命じられることになります。
▶参考情報:退職勧奨がパワハラと判断された場合のリスクについては、以下の記事で詳細に解説していますのでこちらもご参照ください。
違法な退職勧奨にならないために注意するべきポイントは以下の通りです。
退職勧奨・退職勧告の進め方の3つの注意点
- 注意点1:「退職届を出さなかったら解雇する」という発言は要注意である。
- 注意点2:退職を目的とした配置転換や仕事のとりあげはしてはならない。
- 注意点3:長時間多数回にわたる退職勧奨は退職強要と判断される危険がある。
以下で順番に詳細をご説明していきたいと思います。
注意点1:
「退職届を出さなかったら解雇する」という発言は要注意
退職勧奨・退職勧告の進め方の注意点の1つ目は、従業員に対する退職勧奨の際に、「退職届を出さなかったら解雇する」という発言をすることは要注意であるという点です。
具体的には、以下の点をおさえておく必要があります。
1,「退職届を出さなかったら解雇する」という発言をすることの注意点
会社側が『退職届を出さなかったら解雇する』として従業員を退職勧奨した場合に、実際は裁判所で解雇が認められないようなケースであれば、従業員が退職勧奨に応じて退職届を提出したとしても、退職の合意が無効とされるリスクがあります。
つまり、裁判所では解雇した場合に不当解雇と判断されるようなケースであるのに、会社側があたかも当然に解雇できるかのような説明をして退職届を提出させた場合、従業員が誤信して提出したものであるとして、退職の合意は無効と判断されるリスクがあるのです。
この点について、参考になるのが、冒頭でご紹介した「事例1」の昭和電線電纜事件ですので、以下で内容をご紹介します。
事例1:
昭和電線電纜事件(平成16年 5月28日横浜地方裁判所川崎支部判決)の内容
●事案の内容
この事件は、電気工事などを事業とする会社が、同僚に対する暴言などの問題があった従業員に退職を勧告し、従業員もこれに応じて退職したが、その後従業員が退職の合意は無効であるとして、会社を訴えた事件です。
従業員は訴訟において、「復職」と「退職により受け取れなかった退職後復職までの期間の賃金の支払い」を求めました。
●争点
この事件で、会社は退職勧奨の際に、従業員に対して、「自分から退職する意思がないということであれば解雇の手続をすることになる」、「どちらを選択するか自分で決めて欲しい」などと説明していました。
従業員は、「会社の説明により、退職届を出さなければ当然解雇されると誤信して退職届を提出した」として、退職の合意の無効を主張しました。
そこで、会社が退職勧奨の際に、「自分から退職する意思がないということであれば解雇の手続をすることになる」などと説明したことにより、いったん成立した退職の合意が無効となるかが、裁判の争点となりました。
●裁判所の判断
裁判所は、本件では本来解雇できるほどの理由はなく、解雇は法的には認められないのに、会社の説明により、従業員が退職届を出さなければ当然解雇されると誤信して退職届を提出したと認めました。
そして、退職の合意を無効と判断し、会社に対し、この従業員を復職させ、かつ、退職によりこの従業員が受領できなかった賃金「約1400万円」を支払うことを命じました。
この「約1400万円」は、従業員がいったん退職に応じてから、裁判を起こし、裁判で判決が出るまでの間の約2年半の賃金の額にあたります。
この裁判例も踏まえて、「退職勧奨(退職勧告)」時の企業側の説明方法のポイントとして、以下の点をおさえておきましょう。
2,「退職勧奨(退職勧告)」時の話し方のポイント
ポイント1:
退職勧奨・退職勧告の際に「退職届を出さなかったら解雇する」という発言をすることは、業務上横領を本人が認めているケースなど明確に解雇できる理由がない限り、あとで退職した従業員から退職の合意は無効だと主張して訴えられれば、企業側が敗訴する理由になる。
ポイント2:
裁判所で「退職の合意は無効」と判断された場合、会社は、従業員を復職させたうえで、従業員が退職のために受領できなかった賃金をさかのぼって支払うことを命じられるため、企業が支払いを命じられる額が1000万円を超えることもある。
注意点2:
退職を目的とした配置転換や仕事のとりあげはしてはならない
退職勧奨・退職勧告の進め方の注意点の2つ目は、「退職を目的とした配置転換や仕事のとりあげをしてはならない」という点です。
この点について、参考になるのが、冒頭でご紹介した「事例2」の大和証券事件です。
以下でその内容をみてみましょう。
事例2:
大和証券事件(平成27年4月24日大阪地方裁判所判決)の内容
●事案の内容
この事件は、大和証券が、勤務態度、勤務成績の評価が悪かった従業員に対して、退職して子会社に転籍することを勧告し、従業員もこれに応じて転籍したが、その後、この従業員が退職・転籍は強要されたものであるなどとして、会社を訴えた事件です。
●争点
会社は、退職勧奨を行っていた時期に、約4カ月もの間、この従業員を「追い出し部屋」などと呼ばれる1人の部屋で執務させ、他の社員との接触を遮断し、朝会などにも出席させませんでした。
これらの点が、退職の強要にあたり違法かが、裁判の争点となりました。
●裁判所の判断
裁判所は、会社の行為は、従業員を退職に追い込むための嫌がらせであり、およそまともな処遇であるとはいい難いとして、会社に対し、「150万円」の慰謝料の支払いを命じました。
この裁判例も踏まえて、退職勧奨・退職勧告する従業員に対する配転命令や仕事の配分についてのポイントとして、以下の点をおさえておきましょう。
1,退職勧奨(退職勧告)の際の、配転命令や仕事の配分についてのポイント
ポイント1:
従業員を退職に追い込むことを目的として、嫌がらせ目的で、配転や仕事の取り上げをしてはならない。
ポイント2:
退職に追い込むという動機がなくても、退職勧奨の対象となる従業員に対して、配転命令や仕事の内容の変更をするときは、退職に追い込む目的であると誤解されるおそれがあるため、配転の必要性や仕事内容変更の必要性を丁寧に説明して、誤解を与えない努力をしておく必要がある。
このように、嫌がらせ目的での配転や仕事の取り上げをしないことはもちろん、そのような誤解を与えないことも重要なポイントとなります。
特に、「仕事にミスが多い」、「上司と協調できない」というような理由で退職勧奨、退職勧告をする際は、業務に支障を生じさせないために、配転や仕事内容の変更をしなければならないケースもあります。その際に、退職に追い込むための嫌がらせであると誤解を与えないように十分な説明を行うように注意しましょう。
配転や仕事内容の変更に伴うトラブルについては、以下の記事でも解説していますので併せてご参照ください。
注意点3:
長時間多数回にわたる退職勧奨は退職強要と判断される危険がある
退職勧奨・退職勧告の進め方の注意点の3つ目は、「長時間多数回にわたる退職勧奨は退職強要と判断される危険がある。」という点です。
この点について、参考になるのが、冒頭でご紹介した「事例3」の全日空事件(平成13年3月14日大阪高等裁判所判決)ですので、ご紹介します。
事例3:
全日空事件(平成13年3月14日大阪高等裁判所判決)の内容
●事案の内容
この事件は、全日空が、能力面での問題があった客室乗務員に対して、退職することを勧告し、客室乗務員がこれに応じなかったために解雇したところ、この客室乗務員から慰謝料等の支払いを求めて提訴された事件です。
●争点
本件で、全日空は約4か月の間に30回以上の退職勧奨の面談を行い、その中には8時間もの長時間にわたるものもありました。
また、退職勧奨の面談の際に、大声を出したり、机をたたいたりという不適切な言動もありました。これらの点が、退職の強要行為にあたり、違法かが、裁判の争点となりました。
●裁判所の判断
裁判所は、「全日空が行った退職勧奨の頻度、面談の時間の長さ、従業員に対する言動は、許容できる範囲をこえており、違法な退職強要として不法行為となる」と判断し、全日空に対し、「90万円」の慰謝料の支払いを命じました。
以上が慰謝料の支払を命じた企業側敗訴の裁判事例ですが、一方で、別の裁判例では、1週間に1回あたり30分程度の面談を7回行って退職勧奨した事例(サニーヘルス事件:平成22年12月27日東京地方裁判所判決)について、適法な退職勧奨の範囲内と判断しています。
これらの裁判例も踏まえて、退職勧奨・退職勧告の際の、退職勧奨の頻度や時間のポイントとして、以下の点をおさえておきましょう。
1,退職勧奨(退職勧告)の際の、退職勧奨の頻度や時間のポイント
- ポイント1:退職勧奨・退職勧告の面談を繰り返し行ったり、従業員が退職を拒否していても再度、退職の方向で説得し、再考を促すこと自体は問題がない。
- ポイント2:1回あたりの面談時間が2時間以上の長時間になったり、面談があまりにも多数回行われた場合、退職勧奨としての許容限度を超えた「退職強要」であると判断される危険がある。
このように退職勧奨の頻度については、常識的な限度にとどめなければ、退職強要として違法と判断されることに、注意しておきましょう。
違法になる退職勧奨については、以下の記事で詳しく解説していますので参考にご覧ください。
6,具体的な進め方
ここまでご説明した注意点を踏まえたうえで、退職勧奨の具体的な進め方について見ていきたいと思います。
まず、以下の流れをおさえておきましょう。
退職勧奨の具体的な進め方は、
- 1,退職勧奨の方針を社内で共有する。
- 2,退職勧奨の理由を整理したメモを作成する。
- 3,従業員を個室に呼び出す。
- 4,従業員に退職してほしいという会社の意向を伝える。
- 5,退職勧奨についての回答の期限を伝え、検討を促す。
- 6,退職の時期、金銭面の処遇などを話し合う。
- 7,退職届を提出させる。
の手順で進めていきます。
以下で順番にご説明したいと思います。
(1)退職勧奨の方針を社内で共有する
まず、対象の従業員について退職勧奨を行うことに関して、会社の幹部や本人の直属の上司に意見を聴き、退職勧奨をする方針を社内で共有して理解を求めておく必要があります。
このように、会社一丸となって対応することにより、退職勧奨が社長個人の意向ではなく、会社の総意であることを対象従業員に示すことができます。
(2)退職勧奨の理由を整理したメモを作成する
次に、退職勧奨の理由を整理したメモを作成します。
これは、従業員に退職勧奨をする際に、できるだけ説得的な話をするための準備です。退職勧奨の場面では、退職勧奨を伝える側も、一定程度のプレッシャーがかかることが避けられません。また、退職勧奨を伝えられた対象従業員が、攻撃的な反論をしてくる可能性もあります。
どのような場面でも必要な内容を伝えることができるように事前のメモは必ず作成しましょう。
(3)従業員を個室に呼び出す
退職勧奨は、会社の会議室など、個室で行いましょう。
「〇〇さん、話があるので来てください。」といって個室に対象従業員を呼びます。
(4)従業員に退職してほしいという会社の意向を伝える
対象従業員に退職してほしいという会社の意向を伝えます。
具体的な話し方については次の章「7,面談での話し方、言い方の具体例」で例を挙げて解説します。
(5)退職勧奨についての回答の期限を伝え、検討を促す
退職勧奨についての回答を面談の場ですぐに求めることは強引な印象が強く避けるべきです。また、家族を扶養している従業員の場合、家族にも相談しなければ回答できないことも多いでしょう。
そのため、退職してほしいという会社の意向を伝えた後は、再度の面談の期日を設けて、再度の面談までに回答するように、従業員に検討を促しましょう。
金曜日に退職勧奨の話を切り出し、月曜日に再度の面談を設定して、週末に検討してもらうということも1つの方法です。
(6)退職の時期、金銭面の処遇などを話し合う
従業員が条件によっては退職に応じる意向を示した場合は、「退職の時期」や「金銭面の処遇」を決めていきましょう。
退職する従業員の生活の不安が大きく、その点が退職に合意するうえでの支障となっているときは、退職に応じることを条件に一定の退職金や解決金を支給することも検討することが必要です。
具体的な金額については、第8章「退職勧奨における解決金や退職金上乗せ額の相場」でご説明します。
対象従業員の有給休暇の残日数も事前に確認しておきましょう。退職日までに消化できない有給休暇がある場合は、退職勧奨にあたり、有給休暇の買い取りを会社から提案することも検討に値します。
一方、対象従業員に有給休暇の残日数がない場合についても、退職日までの間、特別に就業を免除し、転職活動をすることを認めるといった条件を提示することで、退職の合意を取り付けやすくすることも検討に値します。
(7)退職届を提出させる
退職勧奨の結果、退職の時期や金銭面の処遇についてまとまったときは、必ず、退職届を提出させましょう。
退職届は、従業員が退職勧奨に応じて退職を承諾したこと、つまり、解雇ではないことを示す重要な書類ですので必ず取得することが必要です。
以上、退職勧奨の進め方についてご説明しました。
7,面談での話し方、言い方の具体例
では、退職勧奨・退職勧告の面談で、どのようにして、退職してほしいという会社の意向を伝えていけばよいのでしょうか?
ここからは、退職勧奨における話し方、言い方について具体例を挙げてご説明したいと思います。
(1)退職勧奨の話し方、言い方の具体例
以下では、勤務態度不良の従業員に退職勧奨をするケースを例にご説明します。
1,退職勧奨の話の切り出し方
「これまで、私からもあなたの上司の○○さんからも、あなたの勤務態度について何度も指導し、改善するようにお願いしてきました。」と話を切り出します。
2,会社としても雇用を継続するための努力してきたことについて伝える
「あなたが上司の〇〇さんとトラブルになったときは、~という話をしましたし、あなたが顧客対応でトラブルになったときは~という話もしましたね。あなたに何度もチャンスを与えて、改善をお願いしてきました。しかし、今回、また同じような問題を起こりました。」などと、会社としても何度もチャンスを与えて指導してきたが問題点が改善されなかったことを伝えます。
また、会社として本人にあう部署を探すために配置換えなどをした場合は、さらに「あなたが顧客とのトラブルを繰り返すので、●●部に配置換えして、仕事の内容を変えてみましたが、それもうまくいきませんでしたね。」などと話をします。
できるだけ、本人に対する批判的な内容は避け、あくまで本人にとって会社や仕事内容があっていないという「ミスマッチ」の観点で話すことがポイントです。
3,退職してほしいという会社の意向を伝える
「あなたをどう処遇すべきかについて社内でも話し合った結果、あなたにはこの会社があっていないと考えています。そのため、会社としては、あなたに退職してほしいと考えています。」と退職してほしいという会社の意向を伝えます。
4,相手の反論や質問に対応する
従業員からは、あなたが伝えた退職勧奨の理由についての反論や、会社の落ち度を指摘するような発言がされることが想定されます。
その場合も、「(2)退職勧奨の理由を整理したメモを作成する」のところで作成したメモを見ながら、冷静に、会社の考え方を説明しましょう。
また、前述した通り、「退職に応じなければ解雇する」という言い方はするべきではありません。
退職に応じないときのペナルティを話すのではなく、会社として「なぜ、退職してほしいのか」という「退職してほしい理由」を説明することに重点をおいて説明することを心がけてください。
そのうえで、退職金の支給も含めた金銭的な条件を提示し、退職後の生活への不安を取り除くことで従業員を退職に向けて説得していくことがポイントになります。
5,録音はしておくべき
この記事でご説明した手順や注意点を守って、退職勧奨の話を進めれば、通常は、退職勧奨が違法であるとして訴えられたり、退職勧奨の結果、取り付けた退職の意思表示が、後日の裁判で無効になったりすることはありません。
ただし、退職勧奨で、「不当な心理的圧力をかけられた」とか「名誉を傷つけるような暴言を吐かれた」という訴訟を起こされるリスクも皆無ではないので、そのような場面で会社として反論できるように、退職勧奨の内容については録音しておかれることをおすすめします。
なお、退職勧奨がらみの裁判では、従業員側から録音テープが証拠提出されることがほとんどであり、会社としても当然録音されているものとして、言動には細心の注意を払うことが必要です。
(2)退職勧奨の場面で言ってはいけない言葉
退職勧奨の場面で言ってはいけない言葉にも注意する必要があります。
言ってはいけない言葉の例として、「従業員を不当に侮辱する言葉」「退職を強要する言葉」「応じなければ解雇されると誤解させる言葉」「ハラスメントにあたる言葉」の4つを挙げることができます。具体的にどのような言葉が問題になりうるかを以下の記事や動画で解説していますのでご参照ください。
▶参考動画:西川弁護士が解説する「退職勧奨の場面で言ってはいけない言葉5つを弁護士が解説」を公開中!
8,退職勧奨における解決金や退職金上乗せ額の相場
退職勧奨の場面では、会社から「解決金」や「退職金上乗せ額」、あるいは「特別退職金」といった名目でいくらかの金銭的な提示をすることが通常です。
この点については、結論から言えば、能力不足や業務命令違反、ハラスメントなど対象従業員の就業状況に問題があって退職勧奨をする場合、中小企業においては、給与の3か月分を上乗せ退職金の目安にすべきです。
筆者の経験からも、正しい方法で退職勧奨の話し合いを進めた場合、給与の3か月分程度の退職金を支給すれば、対象従業員から退職についての同意を取り付けることができることがほとんどです。
退職勧奨の退職金について、上乗せ支給する相場などの詳しい解説は以下の記事を参考にご覧ください。
ただし、それには条件があり、「対象従業員が退職勧奨を納得して受け入れるために必要な事前対応をきっちり行ったこと」と「会社都合退職と扱うこと」がその条件です。
この点については次の項目でご説明します。
9,対象従業員が納得するために必要な事前対応とは?
まず、1つ目の条件である「対象従業員が納得して受け入れるために必要な事前対応をきっちり行ったこと」という点についてご説明したいと思います。
(1)いきなり退職金の上乗せの話をしてもうまくいかない
例えば能力不足でミスを繰り返し、改善も見込めない従業員について退職勧奨を行わなければならない場面を考えてみましょう。
筆者が多くのご相談をお受けしてきた経験からは、上司や経営者として、その従業員について「給与に見合う仕事をしていない」「改善の意欲が見られない 」と思っていても、そのことが対象従業員に伝わっていないケースが多々あります。
特に、上司や経営者が対応に悩むような改善の見込みが薄い従業員ほど、自分自身の問題点に自分では気づかず、むしろ、自分はできていると思っている傾向にあります。
上司や経営者から、業務についての問題点について明確な指導をし、現在会社の求める基準に達していないことを明確に指摘しない限り、対象従業員は「給与に見合う仕事をしていない」「改善の意欲が見られない 」などと思われていることに気づかないことがほとんどです。
そのような状態のままで、対象従業員を呼んで、「あなたは能力的に難しいから退職してほしい」と伝えても、対象従業員からすれば突然のことであり、全く納得がいかないでしょう。なぜ自分が能力不足だと言われるのか、なぜやめてほしいと言われなければならないのかが理解できないためです。
そのため、仮に、退職金を上乗せして支払う旨の提示をしたとしても、対象従業員の納得を得られる見込みは低く、退職の合意を得ることは難しくなります。
そして、そのような状況でもあえて退職の合意を得ようとするならば、より高額な退職金を支給することが必要になってしまいます。
(2)対象従業員に「自覚」させたうえで退職勧奨を行う
退職勧奨で退職の合意を得やすくするためには、対象従業員が退職勧奨に納得するだけの事前対応をしておくことが必要です。
例をあげてご説明したいと思います。
例1:
能力不足のケース
能力不足の従業員の場合には、業務についての問題点、改善が必要な点を明確に伝えて、繰り返し指導し、改善の機会を与えることが、必要な事前対応になります。
上司から明確に問題点を伝えて改善指導され、機会を与えられたのに改善できなかったというプロセスを踏むことによってはじめて、対象従業員としても、自身の能力が会社の求めるレベルに至らないことを自覚するに至るのです。
そして、その段階で退職勧奨を行えば、対象従業員としても退職することはやむを得ないと納得し、退職の合意を得ることができます。
例2:
業務上の指示に従わないケース
業務上の指示に従わない従業員についても、基本的な考え方は同じです。
指示に従わない従業員にいきなり退職金を提示してやめてほしいという話をしても合意が得られる見込みは高くありません。退職の合意を得やすくするためには、対象従業員が退職勧奨に納得するだけの事前対応をしておくことが必要です。
具体的には、まず、業務上の指示の趣旨について対象従業員に説明することが必要になります。
なぜわざわざ説明しなければならないんだと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、過去の裁判例でも業務上の指示についての説明が求められています。
そのうえで、それでも従わないときは、文書で明確な業務命令を出し、それでも指示に従わないときは懲戒処分の手続を行う必要があります。
そういったプロセスを踏むことにより、対象従業員としても、自分が自社で就業を続けても評価されないことを自覚するに至るのです。
そして、この段階で、退職勧奨を行うことにより、対象従業員としても、退職することはやむを得ないと納得し、退職の合意を得ることができます。
懲戒処分を行う際は、その手順や進め方、懲戒処分の選択に注意することが必要です。以下で、懲戒処分の種類や選択基準、進め方などを詳しく解説していますのでご参照ください。
10,失業保険は会社都合退職として扱う
2つ目の条件は「会社都合退職として扱う」という点です。
退職勧奨の交渉の場面で、必ずと言っていいほど話題になるのが、「会社都合退職かどうか」という点です。
会社からの退職勧奨によって退職に至った場合は、雇用保険上の特定受給資格者、つまり「会社都合退職」として扱うべきであるとするのが、ハローワークの判断基準です。
会社都合退職扱いになることにより、雇用保険(失業保険)の基本手当の給付日数が優遇されますので、「会社都合扱いになること」も、退職勧奨における説得材料の1つにできるでしょう。
逆に、会社から退職を求めているのに自己都合退職にしてくれというのでは、退職の合意を得ることはなかなか難しいと考える必要があります。
▶参考情報:退職勧奨での退職は、会社都合扱いになるか、自己都合扱いになるかなどについて詳しくは以下の記事で解説していますのでご参照ください。
会社都合退職扱いとすることによって、雇用関係の助成金の受給に支障が生じることがありますので、雇用関係の助成金を利用している会社は注意が必要です。雇用関係助成金について、詳しくは以下をご参照ください。
▶参考情報:厚生労働省「事業主の方のための雇用関係助成金」
11,退職勧奨の必要書類
以下では退職勧奨の必要書類についてご紹介したいと思います。
(1)退職届の例文
退職届を対象従業員から出させることが重要であることはすでにご説明しました。退職届の書式にも注意しましょう。
一般的な退職届の書式は、「一身上の都合により令和●年●月●日付で退職します。」となっているものが多いです。しかし、会社からの説得に応じて退職する場合は、「一身上の都合により」とするのは適切ではありません。
例えば、「会社からの退職勧奨を承諾し、令和●年●月●日付で会社都合により退職します。」などとすべきです。
退職届の書式は会社で用意することが多いと思いますが、書式に「一身上の都合により」とあることで、対象者従業員が腹を立ててしまうということもあり得ますので注意してください。
(2)合意書について
退職届の提出までしてもらえれば、退職勧奨はおおむね成功したといえます。つまり、退職勧奨は退職届を提出してもらうことをゴールとして行うべきです。
ただし、退職届の提出をしてもらった後、さらにもうひと手間かけて、自社と対象社員の間で合意書も作っておくことがベストです。
1,合意書の重要ポイントについて
特に退職にあたって従業員に金銭を支給する場合は、それが自社の他の従業員に伝わらないように、第三者への口外を禁止する口外禁止条項を入れておくことが重要です。問題社員にだけ会社が金銭を支給したということが、他の従業員に知れれば、いい気がしない人もいるからです。
また、合意書に退職後に会社に対して一切の請求をしないことを約束させる条項を入れておくことも必須です。これを「清算条項」といいます。
さらに、会社と退職した従業員がお互いに誹謗中傷しないことを約束する条項も入れておきましょう。これを「誹謗中傷禁止条項」といいます。Google Mapのクチコミや対象社員自身のブログ、あるいはSNSなどで、会社に対する誹謗中傷の投稿がされることを防ぐために必要な条項です。
(3)退職を求める理由を記載した書面(通知書)は通常不要
退職勧奨をする前に、従業員に退職を求める理由を記載した書面(通知書)を作成し、対象従業員に交付したほうがよいかというご相談を受けることがありますが、そういった書面は、通常は必要ありません。
退職勧奨というのは、話し合いによって進めるもので、書面で一方的に通知することで、合意に向けた後押しができるようなものではないからです。
ただし、希望退職の募集という形で退職勧奨を行う場合は、希望退職者の募集要項を準備して、社内で発表することが必要です。
また、退職勧奨の対象となる従業員が休職中であるとか、あるいは逮捕中である等の事情があり、簡単に対面での話し合いができないときは、退職を求める理由を記載した書面を送ることで退職勧奨を進めることが適切なケースもあります。
12,退職勧奨を拒否されたら?
従業員が退職勧奨に対して、退職する気持ちがないことを表明した後も、企業側から、再度退職に向けて説得すること自体は、適切な方法で行う限りは適法とした判例が多くなっています(前述のサニーヘルス事件等)。
ただし、退職勧奨に応じない従業員に対して、何度も退職勧奨を繰り返すことは、その従業員が外部の労働組合(ユニオンなど)に加入して退職勧奨の停止を求めたり、労働者側の弁護士に依頼して会社の退職勧奨に抗議したりするといったトラブルが起きるきっかけになりがちです。
そのため、退職勧奨を拒否する従業員に対して、繰り返し退職勧奨を行うというのは、違法とはいえない場合であっても、適切ではありません。
従業員に退職勧奨を拒否されたら、同じ方法で繰り返し退職勧奨をするのではなく、「なぜ従業員が退職に応じないのか」を考えてみることが必要です。
(1)従業員が退職勧奨を拒否する理由
従業員が退職に応じない理由はケースごとに様々ですが、筆者の経験上、おおむね以下の3つに大別することができます。
理由1:
自分が退職勧奨をされる対象であるということに納得がいっていない
対象従業員において、自分が問題社員として扱われることや、あるいはローパフォーマーとして扱われることに納得がいっていないケースがこれにあたります。
会社が対象従業員に遠慮して、その問題点を端的に指導することをしてこなかった場合、従業員としては、会社から問題社員やローパフォーマーとして扱われているという自覚がありません。
その状態で、「やめてほしい」と伝えても、対象従業員の立場からすると、なぜやめてほしいと言われるのかに納得がいかず、退職に応じないケースが多いです。
ローパフォーマーとは、以下の解説記事を参考にご覧ください。
このように対象従業員が自分が退職勧奨をされる対象であるということに納得がいっていないケースでは、対象従業員の指導をやり直すことが必要です。
問題社員の指導については以下で詳しく解説していますのでご参照ください。
▶参考情報:問題社員を指導する方法をわかりやすく解説
また、一度、退職を拒否されたものの、再度指導を行うことで本人の自覚を促した結果、退職合意に至ったケースを以下でご紹介していますのでご参照ください。
理由2:
退職後の生活への不安
扶養家族がいて多くの生活費を負担する必要が従業員や、50代以上で転職が難しいと考えている従業員は、退職後の生活への不安が、退職の合意を取り付けるうえでのハードルとなることが多いです。
また、退職勧奨を行う会社が大企業で、退職勧奨の対象となっている従業員の待遇が良い場合も、退職後の生活への不安が、退職の合意を取り付けるうえでのハードルとなります。
そのような場合は、退職にあたり支給する金銭面の条件を再検討することが必要になることが多いでしょう。
理由3:
上司や社長との感情的な対立
退職勧奨の話を誰からするかは、企業によってさまざまです。社長からすることもあれば、対象従業員が所属する事業部を担当する取締役や部長からすることもあると思います。
いずれにしても、会社側の立場で退職勧奨の話をする担当者と、対象従業員の感情的な対立が大きい場合は、話し合いがうまく進まないことが多いです。
このようなケースでは、退職勧奨の話をする会社側担当者を変更するか、弁護士に依頼して、会社側弁護士と対象従業員との間で、退職に向けた話し合いをすることが選択肢となります。
従業員が退職勧奨に応じない場合の対応方法については以下の記事で詳しく解説していますのでご参照ください。
13,退職勧奨に関するおすすめの本をご紹介
退職勧奨を行う場面では、適法な退職勧奨をするという観点からだけでなく、どのようにすれば合意を得られるかという観点からも、知識も身に着けておくことが必要です。
対象従業員とのこれまでの経緯からみれば、一見、合意を得ることなど到底できなさそうに思える場面でも、ポイントをおさえて正しいプロセスを踏めば、9割がたは合意による退職で問題を解決することができます。
この点については、筆者の法律事務所で退職勧奨のご相談を受ける中で体得した「退職勧奨で合意を得るために必要な3つの要素と具体的な進め方のプロセス」について、筆者が執筆した以下の書籍で解説していますので、お悩みの方はぜひご一読ください。
この本を読んでいただくことで、退職勧奨で合意を得るために必要なプロセスを詳しく理解し、自信をもって正しい方法で退職勧奨を進めていただくことが可能になります。
14,退職勧奨の前に必ず弁護士にご相談を!
以上、退職勧奨の方法、進め方の注意点をご紹介し、また、話し方、言い方の具体例についてご紹介しました。
ただし、実際に退職勧奨を行う際は、事前に企業の労働問題を扱っている弁護士にご相談いただくことをおすすめします。退職勧奨について弁護士に相談すべき理由は以下の通りです。
- 理由1:退職勧奨を一度行うと元には戻れない。
- 理由2:退職勧奨をきっかけに、退職強要トラブル、不当解雇トラブルに発展するケースが急増している。
- 理由3:弁護士に相談することで進め方が明確になる。
以下で順番に見ていきましょう。
理由1:
退職勧奨を一度行うと元には戻れない。
退職勧奨をいったん行うとその従業員との信頼関係は決定的に壊れてしまい、場合によっては会社に対して非協力的、反抗的な態度となることも少なくありません。
会社としては従業員が退職勧奨に応じず、解雇に進まざるを得なくなることもあります。そのため、退職勧奨を行う前の段階で、解雇した場合のリスクの程度も検討しておくこと必要です。
また、特に、従業員の成績不良や勤務態度不良が主な退職勧奨の理由である場合、裁判所は、これらの点を指導することは会社の責任と考えていることに注意が必要です。会社から十分な指導を行うことなく、退職勧奨を行い、さらに解雇に進んだ場合、会社の指導不足であるとして不当解雇と判断される可能性が高くなります。
退職勧奨を行う前に、それまでの会社の指導が十分だったかどうか、解雇に踏み切ったときのリスクがどの程度になるかを十分に検討しておくことが重要です。
理由2:
退職勧奨をきっかけに、退職強要トラブル、不当解雇トラブルに発展するケースが急増している。
冒頭でもご説明した通り、退職勧奨について退職強要に該当するとして、従業員から訴訟を起こされるケースがあり、例えば、「昭和電線電纜事件」(平成16年 5月28日横浜地方裁判所川崎支部判決)では、退職勧奨時の会社側の言動が一因となって、いったん退職に応じた従業員の退職が無効と判断され、会社に従業員の復職と「約1400万円」の支払いを命じられています。
さらに、最近では、退職勧奨をしたとたん、「不当解雇だ」などと主張され、不当解雇トラブルに発展するケースも増えています。
退職勧奨と解雇は紙一重ということもありますので、事前に「問題社員対応に強い弁護士」に相談し、場合によっては弁護士の立会を依頼して話を進めることが重要です。
咲くやこの花法律事務所の問題社員対応に強い弁護士への相談は以下をご覧ください。
理由3:
弁護士に相談することで進め方が明確になる
弁護士に相談することで、自社のケースにあった退職勧奨の進め方を事前に打ち合わせることができることも大きなメリットです。
この記事でも、進め方や伝え方のイメージ例をご紹介しましたが、実際に退職勧奨を成功させるためには、ケースに応じてより練り込んだシナリオを準備する必要があります。
また、対象従業員から「やめなければどうなるんですか?」とか「絶対にやめません」などと言われた時にどう対応するかも事前に決めておくべきでしょう。
弁護士に事前に相談することで、自社にあったベストな進め方が明確になります。
また、企業が弁護士に退職勧奨を相談すべき理由やメリットについては、以下の記事でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
15,退職勧奨に関する咲くやこの花法律事務所の解決実績
咲くやこの花法律事務所では、退職勧奨に関して多くの企業からご相談を受け、サポートを行ってきました。咲くやこの花法律事務所の実績の一部を以下でご紹介していますのでご参照ください。
・横領の疑いがある従業員に対して、弁護士が調査を行って横領行為を認めさせ、退職させた解決事例
・業務に支障を生じさせるようになった従業員について、弁護士が介入して規律をただし、退職をしてもらった事例
16,咲くやこの花法律事務所のサポート内容と弁護士費用
最後に、「咲くやこの花法律事務所」に関する「退職勧奨に関する企業向けサポート内容と弁護士費用」をご紹介したいと思います。
「咲くやこの花法律事務所」の弁護士による退職勧奨に関するサポート内容は以下の通りです。
- (1)退職勧奨の進め方、伝え方のご相談
- (2)退職勧奨面談への弁護士の立ち合い
- (3)退職勧奨後のトラブルについての交渉
以下で順番に見ていきましょう。
(1)退職勧奨の進め方、伝え方のご相談
「咲くやこの花法律事務所」では、退職勧奨について、その進め方や伝え方のご相談を承っています。弁護士が退職勧奨の事情をお伺いし、退職勧奨のタイミングや退職勧奨の伝え方について具体的なアドバイスを行います。また、従業員が退職勧奨に応じない場合の解雇のリスク判断についても、退職勧奨前に必ず事前にご相談いただき、把握しておいていただくことが必要です。
咲くやこの花法律事務所における退職勧奨に関するご相談の弁護士費用例
- 初回相談料:30分5000円+税(顧問契約の場合は無料)
(2)退職勧奨面談への弁護士の立ち会い
「咲くやこの花法律事務所」では、従業員への退職勧奨の面談について弁護士の立ち会いによるサポートも実施しています。特にトラブルが予想される退職勧奨の場面では、弁護士の立ち会いによるサポートをおすすめします。
咲くやこの花法律事務所における退職勧奨に関するご相談の弁護士費用例
- 初回相談料:30分5000円+税(顧問契約の場合は無料)
- 着手金:35万円+税
- 報酬金:35万円+税(退職合意に至った場合のみ発生)
- 立ち会い費用:10万円+税~
また、退職勧奨面談への立ち会いに関する「咲くやこの花法律事務所」の解決実績の一例を以下のページでもご紹介していますのでご参照ください。
▶参考情報:「咲くやこの花法律事務所」の解決実績の一例
●横領の疑いがある従業員に対して、弁護士が調査を行って横領行為を認めさせ、退職させた解決事例
(3)退職勧奨後のトラブルについての交渉
「咲くやこの花法律事務所」では、退職勧奨によりトラブルが発生してしまった場合の解決に向けての交渉のご相談、ご依頼もお受けしています。退職勧奨のトラブルは、解雇トラブルともつながるところがあり、対応を誤ると企業として大きな負担を裁判所から命じられることがあります。退職勧奨をめぐるトラブルについてはぜひ早めにご相談いただくことをおすすめします。
咲くやこの花法律事務所における退職勧奨に関するご相談の弁護士費用例
- 初回相談料:30分5000円+税(顧問契約の場合は無料)
- トラブル対応費用:着手金15万円+税~
退職勧奨後のトラブルについての「咲くやこの花法律事務所」の解決実績の一例を以下のページでもご紹介していますのでご参照ください。
▶参考情報:「咲くやこの花法律事務所」の解決実績の一例
●従業員に対する退職勧奨のトラブルで労働審判を起こされたが、会社側の支払いなしで解決した事例
退職勧奨を準備中の方、退職勧奨面談への弁護士の立ち合い依頼をご検討中の方、退職勧奨後のトラブルでお困りの方は、実績が豊富で労働問題に強い「咲くやこの花法律事務所」にご相談ください。
(4)「咲くやこの花法律事務所」へのお問い合わせ方法
今すぐのお問い合わせは以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
【お問い合わせについて】
※個人の方(労働者側)からの問い合わせは受付しておりませんので、ご了承下さい。
17,まとめ
今回は、まず、「退職勧奨とは?」について、「退職勧奨(退職勧告)と解雇の違い」などをご説明したうえで、退職勧奨(退職勧告)についての基本的な考え方などをご説明しました。
そのうえで、「具体的な方法、進め方の3つの注意点」として、以下の3点をご説明しました。
- 注意点1:「退職届を出さなかったら解雇する」という発言は要注意である。
- 注意点2:退職を目的とした配置転換や仕事のとりあげはしてはならない。
- 注意点3:長時間多数回にわたる退職勧奨は退職強要と判断される危険がある。
また、退職勧奨での従業員への伝え方の具体例をご紹介して、実際の退職勧奨の進め方についてご説明しました。
そして、最後に、退職勧奨については、企業のリスクが大きい場面であり、またいったん退職勧奨を始めると後戻りができない面もあるため、弁護士への事前の相談が必要であることをご説明しました。
裁判事例のご紹介により、退職勧奨時の言動が、場合によっては多額の支払い命令の対象となることをご理解いただけたと思います。
退職勧奨(退職勧告)については、行き過ぎがないように十分な注意が必要であることをおさえておいてください。
記事更新日:2024年10月6日
記事作成弁護士:西川 暢春
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