こんにちは。弁護士法人咲くやこの花法律事務所の弁護士西川暢春です。
試用期間中の能力不足の従業員の本採用拒否について悩んでいませんか。
咲くやこの花法律事務所でも、以下のような相談をいただくことがあります。
- 「ミスを繰り返し、指摘しても改善が見られない」
- 「キャリアを重視して雇用したが、それに相応しい能力が備わっていない」
- 「資格保有者を雇用したのに、その分野で必要な知識を有していない」
- 「試用期間中の従業員を本採用拒否したら、解雇理由証明書を求められ、不当解雇を主張されている」
試用期間満了後に本採用をしない場合であっても、法律上は解雇となり、有効性が認められるには一定のハードルがあります。そして、本採用拒否で訴訟トラブルとなり会社が敗訴した場合、会社側は多額のバックペイの支払いや、雇用の継続を命じられることになります。
例えば以下の例があります。
●事例1:試用期間中の複数のミスやトラブルを理由に作業者を解雇した事例(大阪地判令和6年1月19日)
→解雇は無効と判断されました。会社は、この従業員との間で雇用契約が続いていることを判決で確認され、約240万円の支払いを命じられました。
●事例2:海外出身の大卒者を日本語能力の不足などを理由に試用期間中に解雇した事例(東京地判令和5年12月1日)
→解雇は無効と判断されました。会社は、この従業員との間で雇用契約が続いていることを判決で確認され、約600万円の支払いを命じられました。
特に以下のような場合、本採用拒否が訴訟トラブルになると数百万円単位のバックペイの支払を命じられたうえ、復職を認めることが必要になるというリスクがあります。
- 指導についての客観的な記録が十分残っていない
- 面談記録がない
- 能力不足を裏付ける客観的記録がない
そのため、能力不足を理由に試用期間満了で本採用拒否を検討する場合は、弁護士のサポートを受けながら、法的な判断基準を踏まえて、事前に適切な準備をして、正しい手順のもと行うことが非常に重要です。
この記事では、試用期間中の能力不足の社員の本採用拒否について、有効性の判断基準や採用見送りを決める前に必ずやっておくべき内容や注意点、裁判例をご紹介します。この記事を最後まで読めば、本採用拒否を検討しなければならない場面で、どのような対応が必要かを理解していただけます。そして、現在、自社で起こっている試用期間中の能力不足の従業員の問題についても解決に向けて正しい一歩を踏み出せるはずです。
それでは見ていきましょう。
試用期間満了のタイミングであっても、本採用拒否が自由にできるわけではありません。本採用拒否であっても、法律上は解雇に当たるため、慎重に検討することが必要です。自社の判断だけで本採用拒否を進めることは大きなリスクを伴います。
本採用を拒否する場合は、必ず事前に人事労務に詳しい弁護士に相談することが大切です。
筆者が代表を務める咲くやこの花法律事務所では、企業側の立場で能力不足を理由とする本採用拒否についてご相談をお受けしていますので、是非ご利用ください。
能力不足など問題社員対応に関する咲くやこの花法律事務所のサポート内容は以下もご参照ください。
▶参考情報:問題社員対応に関する企業側弁護士への相談サービスはこちら
また、実際に咲くやこの花法律事務所の弁護士が本採用拒否後のトラブル対応に関してサポートした解決事例もご紹介していますのであわせてご覧ください。
▶参考情報:試用期間のルールについては、以下の記事で詳しく解説しています。あわせてご参照ください。
・試用期間とは?労働基準法におけるルールや注意点を詳しく解説
▼試用期間中の能力不足の従業員の対応について、弁護士の相談を予約したい方は、以下よりお気軽にお問い合わせ下さい。
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※個人の方からの問い合わせは受付しておりませんので、ご了承下さい。
今回の記事で書かれている要点(目次)
- 1,試用期間中の能力不足の社員とは?
- 2,試用期間中の能力不足の社員の本採用を見送りすることはできる?
- 3,能力不足を理由とする本採用拒否が有効になる判断基準とは?
- 4,能力不足で本採用拒否する際の注意点
- 5,本採用拒否が認められるか診断してほしい事業者の方へ
- 6,本採用拒否できるケースとできないケースについての裁判例
- 7,能力不足を理由とする従業員を本採用拒否する際の手続きについて
- 8,本採用拒否ではなく退職勧奨で合意による退職を目指す
- 9,実際に咲くやこの花法律事務所の弁護士が本採用拒否後のトラブルに対応した解決事例
- 10,試用期間中の能力不足について相談するなら咲くやこの花法律事務所がおすすめな理由
- 11,能力不足の社員の本採用拒否に関して弁護士に相談したい方はこちら
- 12,まとめ
1,試用期間中の能力不足の社員とは?
試用期間中の能力不足の社員とは、会社が採用時に期待していた業務遂行能力や適性を備えておらず、試用期間中において担当業務を適切に行うことができない社員をいいます。
ただし、特別な能力や経験を前提にしない未経験者の採用と、一定の能力や経験を前提にした中途採用では、試用期間中の能力不足の判断基準が異なります。
(1)特別な能力や経験を前提にしない未経験者の採用の場合
この場合、会社から十分な指導をすることが前提になっています。十分な指導をしないで、早い段階で能力不足と判断することは適切ではありません。未経験者の能力不足とは、会社が十分な指導や教育を行ったにもかかわらず、基本的な業務を遂行できない場合や、同じミスを何度も繰り返す場合に限られると考えるべきでしょう。
未経験者の試用期間は、能力面のチェックというよりは、勤怠不良がないか、職場内でトラブルがないかといった点のチェックがより重要になります。
(2)一定の能力や経験を前提にした中途採用の場合
中途採用者については、募集要項や職務経歴書に基づき一定の能力や経験を前提に採用しているケースも少なくありません。そのため、中途採用者は、試用期間中の勤務状況を通じて、採用時には把握できなかった能力不足が明らかになった場合には、本採用を見送ることを検討することになります。
ただし、中途採用者であっても単に業界経験者というだけで特別な業務能力を持つことを確認して採用に至ったというわけではない場合は、十分な指導を行わなければ不当解雇とされる傾向にあります。そして、中途採用者は給与が高いことが多く、本採用拒否が不当解雇と判断された場合のバックペイの金額が高額化しやすいことにも注意が必要です。
▶参考情報:不当解雇と判断された場合にどうなるのか、また、バックペイ、中途採用の従業員の解雇については、詳しくは以下で解説していますのであわせてご参照ください。
2,試用期間中の能力不足の社員の本採用を見送りすることはできる?

試用期間中の能力不足の社員について、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められる場合は、能力不足を理由として本採用を見送ることが可能です。また、試用期間は、採用時には十分に把握できなかった適性や能力を、試用期間中の勤務状況などを通じて見極め、本採用の可否を判断するための期間です。そのため、本採用をした後に解雇する場合と比べると、本採用拒否による解雇は広い範囲で会社に裁量が認められています。これを、「留保解約権の行使」といいます。
ただし、試用期間中だからといって自由に解雇できるわけではなく、冒頭でご説明したように本採用拒否による解雇の有効性が争われた裁判において、会社側が敗訴しているケースは少なくありません。
能力不足を理由に本採用拒否する場合には、業務遂行能力が著しく不足していることや、会社が適切な指導・教育を行ったにもかかわらず改善が見込めないことなどを、客観的な資料によって立証できるかどうかが重要となります。
試用期間中は社員の業務状況や指導担当者による指導内容を記録し、それに基づき判断することが必要です。
そして、本採用を見送る場合も、まずは退職勧奨を実施して合意による退職を目指すことが適切です。
▶参考情報:能力不足の社員への指導方法については、以下の記事をご参照ください。
(1)本採用拒否を検討している企業向けの「本採用拒否が無効と判断されるリスクチェックリスト」
以下の1つでもあてはまる場合は、本採用拒否が無効と判断されるリスクがありますので、事前に弁護士にご相談いただくことをおすすめします。
- □ 指導についての客観的な記録が十分残っていない
- □ 定期的な面談記録がない
- □ 能力確認テストなど能力不足を裏付ける客観的記録がない
- □ 本人が雇用終了を認めていない
- □ 弁護士に相談しないまま本採用拒否をしようとしている
3,能力不足を理由とする本採用拒否が有効になる判断基準とは?

試用期間中の能力不足を理由とする本採用拒否の有効性の判断基準は以下の通りです。
- (1)本人の能力不足について採用時に知ることができず、かつ、知ることが期待できなかったか
- (2)判明した能力不足を理由に、引き続き雇用しておくのが適当でないと判断することが、客観的に相当であると認められるか
この判断基準は、有名な「三菱樹脂事件」という最高裁の判決の判示を踏まえたものです。
▶参考情報:三菱樹脂事件(最高裁判所判決昭和48年12月12日)の判決抜粋
「企業者が、採用決定後における調査の結果により、または試用中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至つた場合において、そのような事実に照らしその者を引き続き当該企業に雇傭しておくのが適当でないと判断することが、上記解約権留保の趣旨、目的に徴して、客観的に相当であると認められる場合には、さきに留保した解約権を行使することができる・・・」
それぞれご説明します。
(1)本人の能力不足について採用時に知ることができず、かつ、知ることが期待できなかったか
試用期間中の勤務状態や調査によって初めて知ることができた事実のみが、本採用拒否の理由として認められます。採用前の面接や選考過程で容易に把握できた事項について、後から能力不足として本採用を拒否することはできません。
会社としては、採用時に求める人材の能力に応じて、面接で適切な質問をしたり、必要事項を本人に記載させて申告させたり、試験を実施するといった対応が必要となります。
例えば、後述する薬剤師の事件では、会社は、老眼のために処方せんの記載内容を読むのに時間を要することを本採用拒否の理由の1つとしていました。しかし、裁判所は、そのような事実は採用過程において確認可能な事項であり、本採用拒否の理由にはならないと判断しています(大阪地方裁判所判決令和6年2月22日)。
(2)引き続き雇用しておくのが適当でないと判断することが、客観的に相当であると認められるか
この「客観的に相当であるか」は、以下の事情を元に判断されます。
- 1.著しい能力不足があったか
- 2.会社が十分な指導を実施して改善を促しているか
- 3.指導を経ても改善の余地が乏しいと認められるか
順番に詳しく解説します。
1,著しい能力不足があったか?
本採用拒否の理由となる能力不足が、著しいものと認められるかが、相当性の判断の要素の一つとなります。ミスが一度に留まり繰り返されていない場合や、ただの不注意に留まるような軽微なミスである場合は、それを理由とする本採用拒否は認められません。
2,会社が十分な指導を実施して改善を促しているか?
また、会社が十分な指導を実施しているかも、相当性の判断の要素の一つとなります。具体的には、本人から日報を提出させて業務状況を把握するなどしたうえで、本人の状況に合わせた指導を行って改善を促す必要があります。また、定期的な面談やOFF-JT、研修などを行うことも重要です。
▶参考情報:OFF-JTとは、通常の業務から一時的に離れて行う社員研修などを指します。
本採用拒否を有効と認めた裁判例の中には、会社がOFF-JTを実施していたことを評価した者が見られます(A信用組合事件・大阪地方裁判所判決平成28年11月18日、日本基礎技術事件・大阪高等裁判所判決平成24年2月10日等)。
例えば、日本基礎技術事件では、全体研修、機械研修を通じて指導員がつくなど濃密な指導体制を組んで指導にあたっていたことなどが、本採用拒否の有効性を基礎づける事情として評価されました。
3,指導を経ても改善の余地が乏しいと認められるか
会社からの指導を経ても、改善の余地が乏しいと言えるかも、相当性の判断において重要となります。ミスについて何度も指導を受けているのに、その後も同じミスを繰り返しているような場合は、改善の見込みがないと認められる要因となります。一方、試用期間満了の時点で会社として求める水準に達していなくても、指導により改善がうかがえる場合は、本採用拒否は無効とされるリスクがあります。
会社として本採用拒否を検討しなければならない場面では、従業員の業務状況を記録して、改善の見込みがなかったことを立証できるようにしておくことが大切です。業務に関するテストを行ったうえで、期間を開けて再度同じテストを実施し、改善状況を記録するといった方法も検討する必要があります。
4,能力不足で本採用拒否する際の注意点

能力不足を理由に本採用拒否を検討する際の注意点は以下の通りです。
- 注意点1:能力不足や指導を行った証拠を確保する
- 注意点2:本採用拒否をする前に労働問題に詳しい弁護士に相談する
それぞれご説明します。
(1)注意点1:能力不足や指導を行った証拠を確保する
本採用拒否の有効性について訴訟トラブルに発展した場合、客観的な証拠がないと、会社は敗訴します。
例えば、「大阪地方裁判所判決令和6年2月22日」は、薬局を運営する会社が、薬剤師の能力不足を理由に本採用拒否したことについて有効性が争われた事案です。会社側は薬剤師の能力不足を裏付ける証拠として、指導を担当していた店長の業務日誌の写しを提出しました。
しかし、裁判所は、以下を理由に、業務日誌の証拠としての信用性を認めませんでした。
- この業務日誌の原本が見当たらなかったこと
- 業務日誌の作成の経緯と保管状況に信用性を疑わせる事情があること
- 薬剤師の休みの日に面談したという記載があったこと
- 本採用拒否後に店長がその時点の記憶をもとに作成されたと思われること
会社としては、以下の3点を裏付ける証拠を確保しておくことが必要となります。
- ①本人の能力不足があったこと
- ②会社が十分な指導を実施したこと
- ③指導を経ても改善がされなかった又は改善の余地が乏しいこと
具体的には、「指導内容の記録や面談記録」「注意指導書や業務改善指導書」などを作成し、能力不足があった事実や、十分な指導をしても改善が見られなかったことを証明できる証拠を残しておくことが非常に重要です。
▶参考情報:業務改善指導書については以下の記事で解説していますのであわせてご参照ください。
(2)注意点2:本採用拒否をする前に労働問題に詳しい弁護士に相談する
本採用拒否による解雇をしてしまう前に、まずは労働問題に詳しい弁護士に相談することが大切です。
本採用拒否をめぐるトラブルで、訴訟になり会社側が敗訴した場合、解雇した日から判決日までの期間における賃金の支払い(バックペイ)の支払いを命じられ、そしてその社員を雇用し続けなければなりません。
そのため、本採用拒否を検討している段階で弁護士に相談し、証拠の整理や今後どのように対応していくべきかについてアドバイスを受けることが非常に大切です。弁護士に相談することで、事前に適切な対応をすることができ、紛争の予防につながるだけでなく、万が一裁判になった場合にも会社側に有利な主張・立証を行いやすくなります。
▶参考情報:労働問題に詳しい弁護士への相談はこちらを参考にしてください。
5,本採用拒否が認められるか診断してほしい事業者の方へ
例えば指導不十分のまま本採用拒否をしてしまった場合に、その後に弁護士に相談しても、もはや必要な指導をすることはできません。このように解雇後の相談ではリカバリーできないことも多いので、必ず解雇前にご相談ください。
咲くやこの花法律事務所では、本採用拒否前の段階から、以下について事業者側の立場になった相談対応と支援でサポートします。
- 事業者側のリスクの程度の判断
- リスクを回避するための方法
- 不足している証拠
- 今後行うべき指導の内容
- 退職勧奨に切り替えるべきかどうか
事前にご相談いただくかどうかで、トラブルになったときの事業者側のダメージの程度が大きく変わります。
6,本採用拒否できるケースとできないケースについての裁判例
次に、実際に能力不足を理由として本採用拒否の有効性が争われた裁判例をご紹介します。本採用拒否が認められたケースと、認められなかったケースを順番にご紹介します。
(1)本採用拒否が有効と判断された事例
1.中途採用されたDX推進本部長について、業務遂行能力の不足を理由とする本採用拒否が有効とされた事例(東京地方裁判所判決令和5年6月14日)
●事案の概要
医薬品等の製造販売等を営む会社が、中途採用でDX推進本部長を採用しましたが、会社が期待していた現場課題の分析や業務改善の提案を十分に行わず、期待された役割を果たしていないとして、3か月間の試用期間満了のタイミングで本採用を拒否しました。
これに対し、本部長は、本採用拒否は無効であると主張して、地位確認およびバックペイの支払を求めて、会社を提訴しました。
●裁判所の判断
裁判所は、本部長が試用期間中に複数回にわたり注意・指導を受けても理解や行動の改善が見られなかったことから、業務遂行能力を欠いていたと評価し、本採用拒否を有効と判断しました。
●有効と判断された理由
採用された従業員が本部長となった部署は「デジタルトランスフォーメーション推進本部」であり、会社の各部門の現場における課題を抽出し、将来的なビジネス構想を支えるような変革をもたらす戦略を立てる、という役割を求められていました。
本部長にこのような役割が求められていたことを踏まえて裁判所は、以下の事情を考慮し、求められていた業務内容を遂行しなかったと判示しました。
- 会社の現状に関して発表する際に、本部長の発表内容が不十分なものであり、「現状をどのように把握・分析したのか、その結果会社がどのような状況にあることが判明したのか、今後どのような活動が必要かが全く分からない」との評価をうけていること。
- 部署のミーティングにおいて、「DX戦略とは何か」という抽象的な話題を持ち出し、上司から「用語の定義は関係ない」と指摘されたうえで、業務を進めるように指示があったにもかかわらず、再度定義の話題を持ち出していること。
- 行うべき業務内容に関する誤解があり、その誤解に基づいて業務を実行しようとしていたこと。
- 本部長の役割としては、現場における課題を抽出することが大前提となっていたにもかかわらず、そのような役割を放棄し、現場における課題を抽出せずに、抽象的な戦略を考えることを自身の業務内容と理解していたこと
また、本件の本部長は、会社から繰り返し指導や説明を受けたにもかかわらず、自身の考え方を改めず、求められる業務を遂行しませんでした。このような経緯から、改善の見込みが乏しく、本採用拒否も有効であると判断されたといえます。
(2)本採用拒否が無効と判断された事例
1,試用期間を延長された薬剤師について、能力不足等を理由とする本採用拒否が無効とされた事例(大阪地方裁判所判決令和6年2月22日)
●事案の概要
薬局を経営する会社に雇用された薬剤師について、会社が能力不足などを理由に試用期間を延長したのち、最終的に本採用を拒否した事案です。薬剤師は、本採用拒否は無効であるとして、労働契約上の地位確認などを求めて、会社に対する訴訟を提起しました。
●裁判所の判断
裁判所は、本採用拒否とする客観的に合理的な理由が一定程度存するとしつつも、薬剤師として不適格であると判断することは相当でなく、指導や注意を継続したけれども改善しなかったとも認められないとして、本採用拒否を無効と判断しました。
●無効と判断された理由
会社側は、以下の事情などから調剤薬局の薬剤師としての適格性が疑わしいとして、本採用拒否をしたと主張しました。
- 老眼のために処方せんの記載内容を読むのに時間を要すること
- 服薬指導において患者に必要な説明をしなかったこと
- 女子中学生の患者に水虫の薬が出ている旨を周囲に聞こえる声の大きさで言ったこと
- 外国籍の患者に周囲が聞こえる大きさの声で日本語が分かるのかと質問したこと
- 調剤や監査の誤りがあったこと
- 投薬時の代金の徴収及び釣銭の間違いがあったこと
しかし、裁判所は、これらのほかに勤務状態について適格性を疑わしめる出来事があったとも認められず、以下の理由から、いずれも直ちに薬剤師として不適格であると判断することは相当でないとしました。
| 能力不足であったとする会社側の主張 | 裁判所が本採用拒否は認められないと判断した理由 |
| 1.老眼のために処方せんの記載内容を読むのに時間を要すること | 「2」「3」の事実は認められ、これを機に試用期間が延長されたものの、その後生じた「4」の出来事に対する具体的な会社からの注意の内容は明らかではなく、試用期間延長後に他に適格性を疑わせる出来事があったとも認められない。 |
| 2.服薬指導において必要な説明をしなかったこと | |
| 3.女子中学生の患者に水虫の薬が出ている旨を周囲が聞こえる声の大きさで言ったこと | |
| 4.外国籍の患者に周囲が聞こえる大きさの声で日本語が分かるのかと質問したこと。 | |
| 5.調剤や監査の誤りがあったこと | 裏付ける資料として提出された業務日報の信用性が認められない |
| 6.投薬時の代金の徴収及び釣銭の間違いがあったこと |
7,能力不足を理由とする従業員を本採用拒否する際の手続きについて

能力不足を理由とする従業員を本採用拒否する際の手続きは以下の通りです。
- (1)解雇予告通知をする
- (2)本採用拒否の通知書を交付する
- (3)退職手続きを行う
順番に解説していきます。
(1)解雇予告通知をする
試用期間中であっても採用後14日以上が経過している場合は、解雇日の30日以上前に解雇の予告をするか、30日分の解雇予告手当を支払うことが義務付けられています。解雇予告をする場合は、本採用拒否について予告する書面を作成し、30日以上前に従業員に通知することが必要になります。
(2)本採用拒否の通知書を交付する
解雇予告通知をしなかった場合は、30日分の解雇予告手当を支払うことが必要になります。この場合は、本採用拒否の通知書を作成して、従業員に交付します。従業員が出勤しておらず、直接交付できない場合は、内容証明郵便等により送付することになります。
(3)退職手続きを行う
本採用拒否の後は、離職票の交付、社会保険の資格喪失手続き、従業員から求められた場合の解雇理由証明書の発行等の退職手続きが必要です。
▶参考情報:本採用用拒否の手続きについては、以下の記事で詳しく解説していますので併せてご参照ください。
8,本採用拒否ではなく退職勧奨で合意による退職を目指す
ここまでは本採用拒否が有効となる判断基準や、実際に本採用拒否でトラブルとなった裁判例、本採用拒否する場合の手続きについてご紹介しました。
ただし、会社が試用期間満了後に本採用を見送る判断をする場合は、十分な証拠保全や指導を実施していたとしても、まずは退職勧奨で合意による解決を目指すことが適切です。
本採用拒否のトラブルで訴訟になり、そして、会社が敗訴してしまうと、多額のバックペイの支払いや、雇用の継続を命じられることとなります。バックペイの金額が1000万円を超える例も少なくありません。こういったリスクを防ぐためにも、まずは退職勧奨を実施し、合意で退職してもらうことが大切です。
ただし、退職勧奨についても適切な方法で行わなければ合意は得られず、対象となる従業員との関係が悪化するだけの結果になってしまいます。退職勧奨についても弁護士に事前に相談のうえ、弁護士の支援を受けながら進めることが適切です。
▶参考情報:退職勧奨の適切な進め方については、以下の記事で詳しく解説していますので、ご参照ください。
・退職勧奨(退職勧告)とは?適法な進め方や言い方・注意点を弁護士が解説
また、退職勧奨について弁護士への相談が適切な理由について、以下の記事で解説していますのであわせてご参照ください。
9,実際に咲くやこの花法律事務所の弁護士が本採用拒否後のトラブルに対応した解決事例
つぎに、実際に咲くやこの花法律事務所の弁護士が本採用拒否後のトラブルに対応した事例をご紹介します。
(1)試用期間満了後に本採用せずに解雇した従業員から復職を求める労働審判を起こされたが退職による解決をした事例です。
有資格者として雇用した従業員が、有資格者として通常知っているべき知識を知らなかったり、当然行えるべき業務を満足にできなかったりするなどの問題がありました。そこで、会社が試用期間満了時に本採用拒否したところ、元従業員から本採用拒否は無効であるとして労働審判が申し立てられました。
咲くやこの花法律事務所の弁護士が会社から労働審判対応の依頼を受け、元従業員の本採用テストの結果や、指導記録票などの証拠を提出し、能力不足の事実や、会社が十分に指導を実施しても改善が見られなかったことを丁寧に主張して反論しました。
その結果、労働審判委員会には、会社が指導を丁寧に行っていたことを認めてもらったうえで、解雇が有効になる可能性もあるとの見解を示してもらえました。ただし、会社としても、解雇の有効性にこだわり労働審判を長引かせるよりも、早期に解決したいという希望があり、また、裁判官から労務管理について改善すべき点の指摘もあったため、最終的には一定の解決金を支払うことで雇用を終了させる調停を成立させました。
▶参考情報:この事例については下記の記事で詳しくご紹介していますのでご参照ください。
この事例は、本採用拒否をした後にトラブルになり、咲くやこの花法律事務所にご依頼いただいた事案です。しかし、本採用拒否の前段階から、咲くやこの花法律事務所にご相談のうえ、適切な対応をしていれば、上記のような労働審判に発展することも防げたと思われます。本採用拒否を裁判トラブルに発展させないためには、本採用拒否の検討段階のできるだけ早いタイミングから弁護士の支援を受け、適切な対応をすることが非常に重要です。
10,試用期間中の能力不足について相談するなら咲くやこの花法律事務所がおすすめな理由
ここまで見てきたように、能力不足という事情があっても、本採用拒否をすることは会社にとって大きなリスクを伴います。
本採用拒否を検討されている場合は、まずは咲くやこの花法律事務所にご相談ください。咲くやこの花法律事務所にご相談いただくことで、以下のメリットがあります。
(1)企業側の立場からの人事労務トラブルの解決に精通している
咲くやこの花法律事務所では、2026年6月現在650社以上の企業から顧問契約をいただいており、日々さまざまな労務問題や人事トラブルに対応しています。
企業ごとに規模や業種、組織体制は異なるため、能力不足の社員に対する対応方法も一律ではありません。事務所としてのこれまでの豊富な対応経験を踏まえ、各企業の実情に応じた柔軟な解決方針をご提案することが可能です。
それぞれの企業にあった方法で柔軟に解決することができることも、咲くやこの花法律事務所の強みの一つです。
咲くやこの花法律事務所では、事務所設立以来16年以上にわたり、人事労務分野を中心に企業の支援を行ってきました。その経験を踏まえ、人事労務分野に関する具体的な解決実績を企業法務の事件や裁判の「解決実績サイト」に40件以上掲載し、また、人事労務に関するお役立ち記事も「咲くや企業法務.NET」に300件以上公開しています。
(2)本採用拒否の前のご相談から、本採用拒否後の訴訟トラブルまで幅広く対応が可能
- 「能力不足を理由に本採用を見送りたいが、法的に問題ないか判断してほしい」
- 「社員から本採用拒否に納得できないとして内容証明郵便が届いた」
- 「すでに労働審判や訴訟を提起されてしまった」
このように、本採用拒否をめぐるトラブルはさまざまな段階で発生します。
咲くやこの花法律事務所では、本採用拒否を行う前に、本採用拒否をすることが適切かを判断し、そのうえで証拠資料の保全や、本人への対応の支援を行うことが可能です。また、労働審判や訴訟が申し立てられた場面では、その対応まで一貫してサポートすることが可能です。そして、状況によっては、退職勧奨や代理人を通じた訴訟外での交渉による円満な解決を目指すこともできます。
(3)相談予約が取りやすく、相談しやすい
咲くやこの花法律事務所には13名の弁護士が在籍しており、平日であれば比較的スムーズにご相談いただくことが可能です。
また、リモート相談にも対応しているため、必ずしも事務所までお越しいただく必要はなく、多忙な経営者や人事ご担当者の方でもお気軽にご相談いただけます。もちろん、実際に事務所にお越しいただいてご相談いただくことも可能です。
ご相談の受付段階からスタッフが丁寧にヒアリングを行い、ご相談までの流れをご案内しますので、本採用拒否の判断に迷われている場合は、自社で抱え込まず、まずは気軽にお問い合わせください。
(4)相談時の準備資料について
相談にご準備いただくと役立つ可能性がある資料として以下のものがあります。
- 対象の従業員を採用した際の募集要項・求人情報
- 履歴書・職務経歴書などの応募書類
- 雇用契約書や労働条件通知書
- 就業規則
- 指導記録、面談記録
- 日報
- 業務テスト結果
など
ただし、これらの資料の準備がなくてもご相談は可能です。
準備に時間がかかり、相談が遅れることはデメリットが大きいです。上記の中からすぐにご準備いただける資料のみご準備いただいたうえで、遅れずご相談いただくことを優先してください。
11,能力不足の社員の本採用拒否に関して弁護士に相談したい方はこちら

最後に、能力不足の社員の本採用拒否に関する咲くやこの花法律事務所のサポート内容をご紹介します。
- (1)能力不足の社員の本採用拒否に関するご相談
- (2)本採用拒否後の労使トラブルに関するご相談
- (3)顧問弁護士による本採用拒否のトラブル防止のサポート
順番に詳しく解説します。
(1)能力不足の社員の本採用拒否に関するご相談
咲くやこの花法律事務所では、能力不足の社員の本採用拒否のご相談をお受けしています。
試用期間満了の場面でも自由に本採用拒否ができるわけではありません。本採用拒否とする前に、まずは労働問題に詳しい企業側弁護士に相談をすることで、リスクの分析、証拠の確保、正しい対応の確認などを行うことが重要です。
事前に相談をすることで、労使トラブルに発展するリスクを最小限にとどめ、結果として労働審判トラブルや訴訟トラブルから会社を守ることが可能です。
咲くやこの花法律事務所では、弁護士が企業の立場に立って、ご相談、ご依頼をお受けします。
咲くやこの花法律事務所の弁護士へのご相談費用
- 初回相談料:30分5000円+税(顧問契約の場合は無料)
- 相談方法:来所相談のほかオンライン相談、電話相談が可能
(2)本採用拒否後の労使トラブルに関するご相談
- 「本採用拒否について解雇理由書の発行を求める書面が届いた」
- 「本採用を見送った元従業員に弁護士がついて内容証明郵便が届いた」
- 「本採用拒否が無効であるとして訴状が届いた」
など、突然書類が届き、企業の方からご相談をいただくことも少なくありません。
トラブルに発展してしまった後も、すぐに弁護士にご相談いただくことで、訴訟外の交渉段階で解決が出来たり、また訴訟で会社側の主張を十分に行うことが可能です。
咲くやこの花法律事務所では、事務所としての豊富な経験をもとに、交渉段階での解決や、訴訟トラブルへの対応に企業側の立場で尽力します。お困りの方は是非咲くやこの花法律事務所の弁護士にご相談ください。
咲くやこの花法律事務所の弁護士へのご相談費用
- 初回相談料:30分5000円+税(顧問契約の場合は無料)
- 相談方法:来所相談のほかオンライン相談、電話相談が可能
(3)顧問弁護士による本採用拒否のトラブル防止のサポート
咲くやこの花法律事務所では、顧問契約を通して長期的な企業向けのサポートを提供しています。
日頃から、就業規則や雇用契約書の整備、法改正への対応といった、予防法務をサポートすることで、法的なトラブルがそもそも起こりにくい体制を構築することが可能です。また、トラブルがあったときにいつでも弁護士に相談し、対応を依頼できる体制を作ることができます。
咲くやこの花法律事務所では、顧問契約について検討されている事業者様向けに、弁護士との面談を実施し、顧問契約について弁護士から直接ご案内しています。面談は無料ですので、気軽にお問い合わせください。
顧問契約に関する弁護士との面談方法
- 事務所にお越しいただいての面談
- オンライン面談
- 電話による弁護士からのご説明
▶参考情報:咲くやこの花法律事務所の顧問弁護士サービスの内容は以下をご参照ください。
(4)「咲くやこの花法律事務所」の弁護士に問い合わせる方法
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12,まとめ
この記事では、能力不足を理由とする、試用期間満了後の本採用拒否について解説しました。
試用期間は、採用時には十分に把握できなかった適性や能力を、実際の勤務状況などを通じて見極めるための期間です。
もっとも、試用期間中だからといって自由に本採用拒否ができるわけではありません。実際には、本採用拒否が無効と判断され、会社側が敗訴している裁判例も少なくなく、その有効性が認められるハードルは依然として高いといえます。
能力不足を理由とする本採用拒否が有効となるかは、次の2つの基準によって判断されています。
- (1)本人の能力不足について採用時に知ることができず、かつ、知ることが期待できなかったか
- (2)判明した能力不足を理由に、引き続き雇用しておくのが適当でないと判断することが、客観的に相当であると認められるか
まず、試用期間中の勤務状況や調査によって初めて判明した能力不足であることが必要です。採用前の面接や選考過程で容易に把握できた事項については、後から能力不足として本採用拒否の理由にすることはできません。そのため、会社は、採用時に面接や試験などを適切に実施し、必要な能力を十分確認しておくことが重要です。
また、「客観的に相当であるか」は、以下の事情を総合的に考慮して判断されます。
- 1,著しい能力不足があったか
- 2,会社が十分な指導を実施して改善を促しているか
- 3,今後、指導を続けても改善の余地が乏しいと認められるか
一度のミスや軽微な不注意では足りず、業務遂行に支障が生じる程度の能力不足が必要となります。また、会社は定期的な面談や研修(OFF-JT)、日報提出などを通じて指導を行い、それでも改善が見込めないことを示す必要があります。
さらに、本採用拒否に進む際には、能力不足や指導内容を裏付ける客観的な証拠を確保しておくことが不可欠です。業務日報や面談記録、注意指導書などを日頃から作成・保管しておくことで、万一紛争になった場合にも会社側の主張を裏付けることができます。
加えて、本採用拒否は法律上は解雇にあたり、判断を誤ると訴訟に発展し、多額のバックペイや雇用継続を命じられるリスクがあります。そのため、本採用拒否を検討する段階から労働問題に詳しい弁護士に相談し、証拠の整理や対応方針について助言を受けることが重要です。
咲くやこの花法律事務所でも、試用期間中の能力不足の従業員への対応について、企業側の立場でご相談をお受けしています。お困りの際はぜひご利用ください。
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記事作成日:2026年6月17日
記事作成弁護士:西川 暢春
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