環境省の調査によると、「騒音に関するクレームや苦情」が自治体に持ち込まれる件数は平成21年以降5年連続で増えており、平成25年度には全国で「1万6000件」以上にのぼっています。
その内訳をみると、多い順に以下のとおりです。
1,建設作業の騒音に関する苦情:
約36パーセント
2,工場や事業場の騒音に関する苦情:
約28パーセント
3,店舗等の営業の騒音に関する苦情:
約10パーセント
このような騒音は事業をする以上避けられない面がありますが、周辺住民からクレームを受け、事業者が対応を迫られるケースが増えています。
さらに、裁判例でも、工場の騒音について事業者に「130万円」の賠償を認めた事例や、解体工事の騒音について事業者に「90万円」の賠償を命じた事例があり、注意が必要です。
そこで、今回は、事業者が周辺住民から工場や工事の騒音についてクレームを受けたときの正しい対応の方法についてご説明したいと思います。
特に、「製造業・建設業・解体業」の事業者では多いトラブルですので、ぜひ確認しておいてください。
なお、クレーム対応の基礎知識については、以下の記事でわかりやすく解説していますのでご参照ください。
▶参考情報:騒音クレームに関する咲くやこの花法律事務所の解決実績は、こちらをご覧ください。
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今回の記事で書かれている要点(目次)
1,事業者が工場や工事の騒音のクレームを受けたときの正しい対応方法
事業者が周辺住民から工場や工事の騒音についてのクレームを受けたときの正しい対応方法をご説明するにあたって、まず、おさえておいていただく必要があるのが、「受忍限度論」という考え方です。
「受忍限度論」というのは、以下のような考え方です。
▶参考:「受忍限度論(じゅにんげんどろん)」とは?
『騒音や悪臭、振動などの生活環境にかかわる問題について、近隣に一切の迷惑をかけてはならないのではなく、近隣に与える不利益が「受忍限度を超える場合」に限り、慰謝料等の対象となる。』
例えば、騒音クレームに関する京都地方裁判所の判例(京都地方裁判所平成20年9月18日判決)では、「人が社会の中で生活を営む以上、他の者が発する騒音にさらされることは避けられないのであるから、その騒音の侵入が違法というためには、社会生活上、一般に受忍すべき限度を超えているといえることが必要である。」としています。
これが「受忍限度論」の考え方です。
このように、すべての騒音が慰謝料の対象になるわけではありませんので、「騒音が受忍限度を超えるかどうか」が重要な基準になります。
そして、「事業者が周辺住民から工場や工事の騒音のクレームを受けたときの正しい対応方法」も、以下の通り、騒音が受忍限度を超えるかどうかにより、対応方法が異なります。
事業者が周辺住民から工場や工事の騒音のクレームを受けたときの正しい対応方法
対応方法1:
騒音が受忍限度を超えている場合
『騒音が受忍限度を超えている場合は、防音対策を行って騒音のレベルを下げることが必要です。』
防音対策を行わなければ、裁判所でも慰謝料等の支払いを命じられることになりますので注意が必要です。
対応方法2:
騒音が受忍限度を超えていない場合
『騒音が受忍限度を超えていない場合でも、周辺住民への理解を得るためにできるかぎりの防音対策を行うことが望ましいです。』
ただし、法律上慰謝料は認められない可能性が高く、慰謝料等の支払いは必要ありません。近隣への迷惑を減らすようにできる限りの防音対策を行いつつ、金銭的な要求については断ることが正しい対応となります。
このように、「騒音が受忍限度を超えるかどうか」により、クレームに対する対応方法が異なることをまず押さえておきましょう。
2,工場や工事の騒音についての法律上の許容範囲の基準とは?
次に、法律上の許容範囲の基準についてご説明していきたいと思います。
「受忍限度論」でいう、「受忍限度」は、言い換えれば、「法律上の許容範囲」ともいえるでしょう。では、「騒音が法律上の許容範囲を超えるかどうか」はどのような基準で判断されるのでしょうか?
結論から言えば、「騒音規制法」の規制基準を超えているかどうかが、「騒音が法律上の許容範囲を超えているかどうか」の基準とされることが多いです。
事業活動や工事についての騒音は、この「騒音規制法」という法律で規制されています。
騒音規制法では、工場や事業場あるいは工事の騒音について、都道府県知事が、規制する地域や音量についての規制の基準を定めることになっています。
例えば、東京都では、騒音規制法による規制基準は以下の通りとなっています。「工場や事業所の騒音に関する規制基準」と「建築工事や解体工事の騒音に関する規制基準」にわけてご説明します。
東京都における騒音規制法による規制基準
1,工場や事業所の騒音に関する規制基準(東京都)
工場や事業所の騒音に関する規制基準は、その工場が所在する用途地域により異なります。
たとえば、「工業地域」に所在する工場の場合、東京都における騒音の規制基準は原則として以下の通りです。
●午前6時から午前8時まで:
60デシベル
●午前8時から午後8時まで:
70デシベル
●午後8時から午後11時まで:
60デシベル
●午後11時から翌日午前6時まで:
55デシベル
工場や事業所の敷地と隣地の境界線において計測した騒音の音量が上記の音量以内であることが規制基準となっています。
工場や事業所の騒音に関する規制基準の詳細は、以下を参照してください。
2,建築工事や解体工事の騒音に関する規制基準(東京都)
建築工事や解体工事については、作業内容に応じて、「80デシベル」から「85デシベル」以下であることが基準となっています。
建設工事や解体工事の騒音に関する規制基準の詳細は、以下を参照してください。
この「デシベル」という単位は音の大きさをあらわず単位で、値が大きければ大きいほど、大きな音をあらわします。
人間が静かだと感じるのは「45デシベル」以下が目安となるとされています。
建築工事の規制基準である「80デシベル」というのは、およそ「地下鉄の車内の騒音」くらいといわれており、かなりうるさい範囲まで法律上の許容範囲とされています。
そのかわり、建築工事では、1日における作業時間や、同じ場所における連続作業日数に制限が設けられています。
以上は東京都の例ですが、他の都道府県でも同様に工場の騒音、工事の騒音の規制基準が定められています。
そして、この規制基準を超える音量の場合は、「騒音が受忍限度を超えている」として近隣住民に対する慰謝料の支払いや防音対策を命じるのが裁判例の流れになっています。
3,【判例紹介】
事業による騒音が基準を超える場合の慰謝料の額について
では、最後に、事業による騒音が規制基準を超える場合の慰謝料の額について、実際の裁判例でどのように判断されているかをみておきましょう。
結論から言えば、裁判例では、以下のように「100万円~200万円」程度の慰謝料を認めるケースが多くなっています。
事例1:
製材工場の騒音に関する事例(平成5年12月20日仙台高等裁判所判決)
事案の概要:
製材工場の騒音について隣家に居住する住民らが慰謝料等を請求した事件です。
裁判所の判断:
裁判所は製材工場経営者に対して「130万円」の損害賠償の支払いを命じました。
事例2:
スーパー銭湯の回転式駐車場の騒音に関する事例(平成14年1月29日名古屋地方裁判所判決)
事案の概要:
スーパー銭湯の回転式駐車場の騒音について隣家に居住する住民らが慰謝料等を請求した事件です。
裁判所の判断:
裁判所は駐車場の経営者に対して、「221万円」の損害賠償の支払いを命じました。
事例3:
ビルの解体工事(工事期間約80日)の騒音に関する事例(平成19年7月26日東京地方裁判所判決)
事案の概要:
ビルの解体工事の騒音について隣家に居住する住民らが慰謝料等を請求した事件です。
裁判所の判断:
裁判所は解体業者に対して「90万円」の損害賠償の支払いを命じました。
事例4:
学校のエアコン室外機の騒音に関する事例(平成20年9月18日京都地方裁判所判決)
事案の概要:
私立高校のエアコン室外機の騒音について周辺住民が慰謝料等を請求した事件です。
裁判所の判断:
裁判所は私立高校を経営する学校法人に対して、周辺住民1人当たり「10万円」の損害賠償の支払いを命じました。
これらの裁判例では、いずれも、騒音のレベルが騒音規制法の基準を超えることが、裁判所が慰謝料の支払いを命じる理由とされています。
そして、慰謝料の額については、騒音のレベルだけでなく、実際に近隣住民に迷惑をかけた程度や、事業者側の防音対策の努力の有無も考慮して判断されています。
例えば、「事例3」では、騒音の期間が比較的短く、騒音発生中に住民が在宅していないことも多かったことが考慮されていますし、「事例4」では、学校側も相応の費用をかけて防音対策を行ってきたことを考慮して、慰謝料額が少額に判断されています。
また、「事例2」の「回転式駐車場」は、本来は、騒音規制法の規制対象業種ではありません。騒音規制法は規制の対象となる業種が多数指定されており、規制対象業種以外には適用されません。
しかし、騒音規制法の規制対象業種ではない回転式駐車場の騒音のケースでも、裁判所は騒音規制法の基準をもとに、慰謝料の支払いを命じるか否かが判断しています。
ここでは、裁判例のおおまかな慰謝料の目安をおさえておきましょう。
4,騒音クレームに関する咲くやこの花法律事務所の解決実績
咲くやこの花法律事務所では、騒音クレームに関して多くの企業からご相談を受け、弁護士が窓口となってクレームを解決してきました。
咲くやこの花法律事務所の実績の1つを以下でご紹介していますのでご参照ください。
5,咲くやこの花法律事務所の弁護士なら「こんなサポートができます!」
最後に、咲くやこの花法律事務所におけるクレーム対応に関するサポート内容をご紹介しておきたいと思います。
咲くやこの花法律事務所のにおけるサポート内容は以下の通りです。
- (1)工場や工事の騒音トラブルに関するクレーム対応のご相談
- (2)クレーム対応の相手方との弁護士による交渉
- (3)工場や工事の騒音関係のクレームに関する調停、裁判
以下で順番に見ていきましょう。
(1)工場や工事の騒音トラブルに関するクレーム対応のご相談
咲くやこの花法律事務所では、工場や工事の騒音のクレームにお悩みの企業から、クレーム対応に関するご相談を承っています。
今回ご紹介しましたように、すべての騒音が慰謝料の対象になるわけではありません。
工場や工事関係ならではの騒音のクレーム対応に精通した弁護士のアドバイスを受けることによって、クレームに対して自信をもって対応することが可能になります。
(2)クレーム対応の相手方との弁護士による交渉
咲くやこの花法律事務所では、現場での解決が困難なクレームについて、弁護士が苦情対応窓口となって直接解決にあたることも可能です。
また、事業者側に落ち度があり、騒音が法律上の許容範囲を超える場合など、慰謝料を支払わなければならないクレームについても弁護士が直接対応することが適切です。
ご依頼後は、クレームの解決経験が豊富な咲くやこの花法律事務所の弁護士がトラブルを迅速に解決します。弁護士に依頼することで、現場はクレーム対応から離れて本来の仕事に専念することが可能です。
製造業・建設業・解体業など、工場や工事における作業においては、騒音トラブルが発生しがちです。
これらの問題をこじらせずに早期に解決し、安定した業務進行のためには、顧問弁護士制度を活用することも有効です。
▶参考:クレーム対応に強い「咲くやこの花法律事務所」の顧問弁護士サービスについて
・【全国対応可】顧問弁護士サービス内容・顧問料・実績について詳しくはこちら
・大阪で顧問弁護士(法律顧問の顧問契約プラン)をお探しの方はこちら
(3)工場や工事の騒音関係のクレームに関する調停、裁判
咲くやこの花法律事務所では、騒音に関するトラブルの調停や裁判のご相談も承っています。
騒音のクレーム・トラブルが調停や裁判に移行してしまった場合、騒音のクレーム対応に強く、調停や訴訟経験が豊富な弁護士に相談することが重要です。
騒音のクレーム・トラブルでお悩みの経営者の方は、ぜひ咲くやこの花法律事務所にご相談ください。
6,「咲くやこの花法律事務所」の弁護士へのお問い合わせ方法
咲くやこの花法律事務所の騒音関係のクレーム対応や悪質クレーマ対応に強い弁護士のサポート内容は、クレーム対応に強い弁護士サービスページをご覧下さい。
また、今すぐのお問い合わせは以下の「電話番号(受付時間 9:00〜23:00)」にお電話いただくか、メールフォームによるお問い合わせも受付していますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
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8,まとめ
今回は、製造業や建設業、解体業で発生することが多い、周辺住民からの工場や工事の騒音についてのクレームに対する正しい対応方法をご説明しました。
騒音についての、「受忍限度論の考え方」、「騒音規制法の基準」、「裁判所が支払いを命じる慰謝料の額」について、おさえておきましょう。
冒頭でもご説明した通り、騒音についての苦情件数は年々増える傾向があり、以前は問題にならなかった程度の騒音でもクレームになるケースが増えています。
事業者側においてできる限り騒音を発生させないための努力は必要ですが、一方で一定程度の事業騒音は社会生活上許容されなければ社会が成り立ちません。執拗なクレームや悪質な金銭要求には毅然とした対応が必要です。
事業に関する騒音のクレームでお困りの方は、クレーム対応に特に強い「咲くやこの花法律事務所」に気軽にご相談ください。
記事作成弁護士:西川 暢春
記事更新日:2022年2月8日